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【100】異世界に、もんすたー爆誕?

  美女は綺麗に平らげて空になった皿の隣にカップを置き、ほぅ・・と満足気な溜息を吐いて言った。

  「どれも素晴らしいお味でしたわ・・あの子ったら、いつもこんなに美味しい物を頂いているのですね・・なんて羨ましい」

  「本当にもぅ」と扇を広げて不服そうに口元を隠した美女だったが、ころりと態度を一変させ、今度は「うふふ」と楽しそうに笑う。

  その魅力溢れる美しさに、視線が引き寄せられた。

  「あの子、あたくしたちを気遣って、何を食べたかなど詳しい事は教えてくれませんの。でも、魔女さんと楽しく過ごしている事は聞いてましてよ?その事に、心からの感謝を」

  「感謝だなんて!友人である弟さんをもてなしたくて、勝手に色々出しただけですよ」

  「あの子の役得ですわね。それはそれとして、仲良くしてくださる事自体に感謝してますの・・本当にありがとうございます」

  「いえ。私も、アド君と飲んだり食べたりするのは楽しいので」

  「うふふ。良かった。あの子の事、[[rb:末 > ・]][[rb:永 > ・]][[rb:く > ・]]よろしくお願いしますわ」

  「?はい。勿論(友だちとして)仲良くしていくつもりです」

  扇で口元を隠しながら、にこにこと音が出そうな笑みを浮かべてご機嫌な様子の美女に内心首を傾げる・・

  なんか今、妙なニュアンスが含まれていた、ような?・・

  ・・気のせいかな?

  ちょっとした違和感を覚えつつ、手前にはみ出すように置いてあったトレイを持ち上げ「下げますね」と空いた食器を回収する。

  「それにしても、そちらには美味しい食べ物が数多くあるのですね!今頂いた焼き菓子も大変素晴らしいお味でしたわ・・この前の冷や菓子には負けますが」

  「まぁ、そうですね。あちらの方が少々高級品・・」

  そこまで言って、あ。と思い出し、改めて「遅くなりましたが、その節は助けて頂き、ありがとうございました」と刺された時に手助けしてもらった礼を伝えた。

  「あら、お気になさらないで?お礼はしっかりと受け取りましたもの。あの見た目も美しく、冷たいお菓子は本当に素晴らしくて・・どんな宝飾品より価値のある贈り物でしたわ」

  うわぁ・・にっこにこの美女の笑顔が眩しいぜ・・眼福眼福。

  何だか拝みたくなっちゃうね。

  よし。最高の笑顔が見れたお礼も兼ねて、お店の評価とレビューしとこう!

  「ありがとうございます。そこまで言って頂けて・・きっと菓子職人も喜ぶと思います」

  スマホを取り出し、出前アプリを立ち上げて、過去の履歴から詰め合わせの生菓子を買ったお店をタップする。

  「うふふ!機会があるのでしたらあの菓子を作った職人に是非「とても美味でした。特に艶のある黒い菓子が最高でしたわ」とお伝え頂けますか?」

  「はい。分かりました。伝えておきますね」

  ぽちぽちとレビューを打ち込んで送信したタイミングで、美女は目線を伏せながら少し恥ずかしそうに言った。

  「あの、菓子の取引についてなのですが、その黒い菓子を扱う事は可能でしょうか?」

  「あ~・・あれをそのままというのは難しいですね。基本、作ったその日に食べるものですし・・」

  「まぁ、そうなのですか?・・残念ですわ」

  しゅん、と気落ちする様子も麗しい・・

  黒い菓子、チョコレートケーキか。気に入ったのかな?

  あちら側から見られることなく一方的に観察出来る事で心理的余裕も生まれ、こうしてお茶をしながら会話していく内に最初に感じていた近寄りがたい印象も随分と薄れた。

  だからだろう。美女の狙い通りに会話を誘導されているのだろうなと理解しつつ、まぁそれでも構わないかと場の空気に流される形で提案する。

  「あの、黒い菓子と同じ素材を使った保存の効く物もありますが、そちらをお試ししてみますか?」

  「まぁ!そのような品があるのですか?!是非とも試させてくださいませ!」

  ぱぁ!と、正に花が咲いたような笑顔で喜びを表す美女さん・・

  『おぉぅ・・眩しい・・くすんだ魂が浄化されそう・・』

  白い肌を桃色に染め、潤んだ水色の瞳をキラキラさせて・・

  畳んだ扇を持ったまま、胸元で握る両手であざと可愛いポーズされてしまうと・・

  ね?ここまで美人、可愛い、綺麗だとマジ嫉妬すら沸かないですよ。

  唯々拝みたい衝動に駆られるわぁ・・

  実はこの人、美の女神だったりしないかな?

  「あっ、申し訳ございません。はしたないところを見せしてしまいましたわ」

  無言の間で自身の失態に気付き、慌てて謝って来た美女さんは恥ずかしそうにしながらすぐに居住まいを正す。

  「いえ、全く、少しも気にしておりませんので、大丈夫ですよ。黒い菓子、直ぐに用意しますので、少々お待ちください」

  「ありがとう存じます」

  膝の上に手を重ね、軽く頭を下げた姿勢で見送られ思う。

  『全部演技なのかもしれない、けど・・うん。なんかこの人憎めないなぁ・・』

  何しろ美人なので。

  絵描きは大体、美形美人に弱いのだ。

  明確な悪意をぶつけられたらならともかく、好意を前面に押し出して距離を詰められると撥ね退けるのは難しい。

  どちらにしろ、あちらからの危害は一切届かないのだ。

  人見知りで疑い続けるのも申し訳ないし、こちらからも少し歩み寄ってみよう。

  冷蔵庫から真四角なプレート状のミルクチョコレートを数枚取り出し、包装紙に包まれたそのままの状態で皿に乗せた。

  それをまたトレイに乗せ、美女の元に運ぶ。

  「お待たせしました。こちらが「チョコレート」という菓子になります」

  声を掛け、トレイを向こう側に差し出した。

  「こちらが?何だか食べ物には見えませんわ・・」

  「一枚ずつ紙に包まれていますので、手に取って開いてみてください。指の体温で溶けてしまうので、素手で触らないようお気をつけて。汚れてしまいます」

  「成程、解りましたわ!・・こう、いうこと、ですわね!」

  美女は早速チョコレートを一つ手に取ると、慣れない手つきでどうにか包装紙を剥いて見せた。

  一角を摘まみ持ち、むふーっ!と誇らしそうにする様子がギャップ可愛い・・

  アカン。萌える。

  「はい、お上手です。どうぞそのままお召し上がりください」

  「分かりましたわ!ではっ・・」

  小さく開いた瑞々しい薔薇色の唇に、チョコレートの角が消える・・

  と、美女はうっとりと顔を蕩けさせ、ほぅ・・と艶めかしい溜息を零した。

  「あぁ・・これ、これですわぁ・・まるで高みに至るような・・何たる至福・・魂が祝福で満たされますわぁ・・」

  目を閉じ「美味、美味ですわぁ・・」と言いながら、その唇にどんどん消えていくチョコレート。

  数枚あった筈の茶色いプレートは、あっという間に消え果てる。

  皿に残る包装紙を見て、はっと気付いた美女はそれはもう悲しそうな顔をした。

  「あ・・もう無い・・これが絶望と言わずして、何と語ればよいのでしょう・・」

  この世の終わりみたいな感じで言ってますけど、ただチョコを完食しただけという・・

  面白いなこの人。

  「そんなに悲観しなくてもまだ幾つか手元にありますから。次は別の味にしてみますか?」

  そう告げた途端、うつむき気味だった顔をぐぃんっ!と上げ食いついてくる。

  「それは誠ですか?!あぁ、あたくしはなんと幸運なのでしょう!こんなに素晴らしい菓子をまた食すことが出来るなんて!魔女さんは渇望にもがき苦しむ者を救済するため「ちょこれいと」の神から遣わされし使徒様に違いありませんわ!」

  「どうぞあたくしめに祝福をお授けください!」と平伏しそうな勢いで椅子から降りる美女さんを慌てて止めた。

  「ちょ、何してるんですか!止めてください!そんな事しなくても、チョコはたくさんありますから!落ち着いてっ!!」

  「どうか、どうかあたくしめに「ちょこれいと」をっ!」

  背中を覆うロングストレートの金髪が、下座る美女の動きに合わせ背中を流れて床に散る・・

  ひぃっ!お願いマジやめて!

  友だちの家族から土下座されるとか、胃に穴が開いちゃうよっ!

  マジ勘弁!マジ勘弁っ!

  「い、今すぐお持ちしますので!お願いですからちゃんと椅子に座ってくださいっ!」

  「はいっ!わかりましたわっ!」

  ぴゃっ!と素早い動きで椅子に座り直した美女・・

  何でそんな動きしてんのに髪型乱れてないの?魔法なの?

  ・・ワクワクして体揺らすの可愛いデスネ。

  「・・そのまま、そのままで少々お待ちください」

  「わかりましたわっ!」

  大変良いお返事をした美女さんにどこか不安を抱きながら、視線を遠くに飛ばし思う。

  ワイ、異世界にとんでもないチョコレート[[rb:狂信者 > モンスター]]を生み出してしまったのかもしれん・・

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