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【55】同じオタクだからね。気持ちはわかるっ!

  手の中の金貨を鏡台の引き出しに仕舞い、鏡にもタオルを掛けて片付けは終了。

  「さて・・」

  さっきから背後が少しバタバタと騒がしい。

  溜息を吐いて振り向くと、案の定。友人が薄い胸に私のスマホを抱きしめてくるくると回っていた。

  どうやら感謝の祈りは終えたらしい。

  今度は感動の舞といった所かな?

  「っは~!ヤバイよ~っ!ジャスパー君ステキ過ぎ!今度のコスの相方になって欲しい~っ!衣装作ったら着てくれないかな?!」

  「見ず知らずの他人をオタク趣味に巻き込むんじゃありません」

  呆れつつ、世間一般に嫌がられるであろうオタク発言を繰り返す親友の背中をパン!と叩いた。

  「あだっ?!」

  お?すんごい良い音。

  これで正気に戻ってくれたら良いのだけど。

  「アコ~痛いよ~?」

  「そんなモノより痛い発言かましてるヤツが言うなや。テンションリセット出来たでしょ?感謝してくれても良いんですよぉ?」

  腕を組み、ヤンキーみたいに「おん?おん?」と顎をそらして圧を掛けると、少し落ち着いたらしい友人はすっと床に正座して頭を下げた。

  「すみませんでした。ちょっと興奮し過ぎました」

  「わかれば宜しい。今度顔合わす事が出来たら謝りなよ?」

  「はーい・・」

  はい。おふざけはこれにて終了。

  阿吽の呼吸のショートコントでございました。

  他人が見ても面白いかは知らんけど。

  「そだ。苺のタルトケーキがあるんだけど食べる?」

  「もち食べる!甘い物は別腹よ~!!」

  「良かった。勢いで1ホール買っちゃってさ。手伝ってくれたら助かるよ~」

  と、そこまで言って思い出した。

  この友人、先日「痩せなきゃ」とか言って無かったか?

  「こっちから話振っといてなんだけど・・・ダイエットは?」

  そう問うと、ワクワクと期待に輝いていた表情がスンっと消えた。

  こちらに向いていた視線は逸らされ、床の隅に固定される。

  「・・無理はしない事にしました・・」

  「・・良いんじゃね?アキ元々細いんだし・・」

  この友人、食べる割には太りにくいという、全女性憧れの体質をしているのだ。

  くっそ羨ましい。

  私の腹肉を切り取ってこっそり移植してくれようか。

  「アコ優しい・・好き・・」

  「はいはい。飲み物は何にしますかー?」

  胸の前で両手を組み、キラキラした目でこちらを見て来る親友を軽くあしらって、お湯の準備をしようと食器棚へ足を向けた。

  「アキと同じで良いよ~?一緒の方が楽でしょ?」

  「んじゃ紅茶ね。飲み方どうする?」

  「今回はストレートでオナシャス!!」

  「はーい了解~」

  ケトルに水を入れ、スイッチを入れたら茶葉の準備だ。

  今日はどの茶葉にしようかな?

  手持ちにそんな種類がある訳では無いけど、一応の客人である友人に出すなら・・

  「そういやさ~」

  「ん~?」

  茶葉を選んでいると、友人はローテーブルに肘を付き、顎を支えたあまり行儀のよくない姿勢で問うてきた。

  「さっき聞こえたんだけど「助けてくれてありがとう」ってどういうコト?」

  「・・・え~と・・それは、ですね・・」

  ギギギと音が出るような動作で友人に振り向くと、すっと細められた視線に睨まれてガチリと固まった。

  「・・・何があったのか、ちゃんと説明してくれるよね?」

  「・・・ハイ・・」

  さっきとは形勢逆転。

  今度はこちらが言い募られるターンのようです。

  まだ心の準備が出来てないよぅ・・

  タスケテー。タスケテー。

  ほら、[[rb:日 > ひ]]の[[rb:本 > もと]]言葉で言ったよ?

  だから早く助けてくれぃ!

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「ごめん。聞き間違い?もう一回言ってくれる?」

  「・・一昨日、例のストーカーに刺されました」

  友人に同じ内容を繰り返し告げると、室内から音が消えたように静かになった。

  ガラス越しに、バイクのエンジン音がぶぃーんと響く。

  「・・嘘・・じゃ、ないんだね?」

  「うん。刺されて動けなくなった私に気付いたアド君がね、助けてくれたの。傷は、回復薬飲んだから残ってないけどね」

  シャツを捲って脇腹を見せ「刺されたのここ」と指し示す。

  「ね?何ともないでしょ?」

  「・・ごめん。疑う訳じゃないけど、簡単には信じるのも難しいや・・回復薬ってどんな怪我でも治るの?」

  「らしいよ?仕組みは知らんけど、魔力がどうとか言ってたような?あと病気とかには効かないらしい」

  「魔力、魔力ねぇ・・これぞ異世界ってか」

  背後の床に両手を付き、重心を預けて天井を仰ぎ見た友人は盛大に溜息を吐いた。

  そのまま数秒間上に視線を向け、姿勢を戻すと、テーブルの上にあった私の手を取り、両手で包み込む。

  じっと見つめてくる瞳が、少し潤んでいるのは気のせいでは無いのだろう。

  「アコが無事で、良かった。本当に・・」

  「・・うん。連絡しなくてゴメンね?ストーカーの件で何かあれば直ぐ伝えるって約束してたのに・・」

  「いいよ。異世界が絡むとか、想定外にも程があるし・・」

  手を放した友人は横を向き、手の甲で目元を拭って「今回は許す」とこちらの不手際

  を許してくれた。

  ストーカーの対応で散々世話になったのにね。

  これ以上の不義理は重ねないように注意しないと。

  「ありがと」

  「いいって。さ、紅茶が冷めちゃう。詳しい経緯とかは食べながら聴かせてよ」

  「了解」

  お互い横に避けていたケーキと紅茶を手元に寄せると、緩み始めた空気の中でおやつタイムとなった。

  うん。やっぱり誰かと一緒に食べると、より美味しく感じるね!

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  折角用意してもらったが、試す事の出来なかった魔道具を私室の装飾品が収められた棚に置く。

  王族として最低限の品しかないその場所に、魔道具の箱は随分と場所を取っているように見えた。

  「失礼ながら「異界の魔女」様はわたくしについて、何か仰っておられませんでしたか?」

  棚の扉を閉め、鍵を掛けた所で傍仕えに問われる。

  主の大事な人に嫌われるかと、流石のジャスも不安だったか。

  「あぁ。やはり見た目が若いので年齢については驚いていたな。だが、ハーフエルフだと知っても忌避感を抱いている様子は無かったぞ?」

  「それは、良うございました・・」

  ほっとした様子の傍仕えに、もう少し安心材料を与えてやらねばと以前教えてもらった異界の状況を説明する。

  「大丈夫だ。あちらには人しか居ないようだからな。異種族間に関する問題自体が存在せんのだろう」

  「なんと・・それは予想しておりませんでした」

  「しかし、エルフという種族名は口にしていたからな・・もしかしたらジャスの外見があちらの創作物に出てくる姿と似通っていたのかもしれん」

  おとぎ話や作り話などに魔力について書かれていたと言っていたからな。

  こちらに居る人以外の種族たちも、もしかしたら同じように書かれている可能性はあるだろう。

  「創作物・・ですか?」

  「あぁ。あちらの者たちは想像力豊からしい。書き物は勿論、絵や音楽、踊りなど、こちらより数多くあるようだ」

  「それは素晴らしいですね。陛下たちも気になっておいででは?」

  「そうだな」

  長兄は絵を眺めるのが趣味で、次兄は音楽を聴くのが。姉は観劇が趣味の人だ。

  まぁ、最近は皆忙しくて趣味に掛ける時間も儘ならない感じだが。

  ・・異世界の芸術に触れれば、少しは慰めになるだろうか?

  今度彼女に何か見繕ってもらうのも良いかもしれない。

  日頃世話になっている家族たちへ感謝の印として贈り物を用意するのは、とても良い事だと思えた。

  早速、明日にでも相談するとしよう。

  傍仕えの持つ「お詫び」の箱を視界に収めつつ、驚き喜んでくれるだろう家族を想像すると、とても心が弾んだ。

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