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【37】異世界人パネェ・・。

  そうして簡単に説明を受け、自分の状況を理解する。

  「つまり、回復薬を飲ませて命を助け・・しかも魔法で服と部屋の血を洗い流しておいてくれたと・・」

  「あぁ。濡れたままだと良くないと思ったのでな。だが、服の血は落としきれなかったのだ。すまない」

  「えっ?!いやいやいや!命救ってもらっただけでも十分だってのっ!そんなの気にしないでよ!あれでしょ?私が寒くないように温水で洗ってくれたんだよね?」

  多分そうだろうと思いながら訊くと青年はこくりと頷いた。

  「良くわかったな。その通りだ」

  血液汚れはねぇ・・お湯だと落ちにくくなるんだよね。

  まぁ穴も開いてる事だし、服は処分するけども。

  「んで、血塗れな部屋を見たら私が驚くと思って、周りも洗ってくれたと」

  「そうだな」

  素直に頷く青年に、頼子は『やっぱそうか』と思いながら、微笑んで言った。

  「・・ありがと。色々気遣ってくれて」

  「・・・いや、当然の事をしたまでだ」

  「うん。それでも。ありがとうアド君。君は命の恩人だ」

  感謝の気持ちを込め、じっと視線を合わせて言うと青年はふっと淡く笑って答える。

  「目の前に知り合いが倒れていて、救う手立てがあったから手を伸ばしただけだ・・あまり気にするな」

  「ははっ。それはちょい無理かな!でもそうだね。友達に全身全霊で感謝されまくったら困っちゃうよね!」

  「それでもやっぱり、お礼はしたいなぁ」と続けると、青年は自分を指差し「私が、友達?」ときょとんとしている。

  「え?そりゃ知り合って一週間くらいだけど、何度も一緒にご飯を食べた仲だし、知り合いというよりは友達に近いかなって・・」

  性的なアレコレも致しちゃってるので、純粋な友達とは違うかもだけど。

  「・・そうか。私たちは友人か」

  「うん。少なくとも、私はそう思ってるよ・・えと、迷惑・・だったかな?」

  どこか思い詰めたような、硬い表情の青年に恐る恐る問う。

  やはり一週間で友達とか、ちょっと図々しかっただろうか?

  視線を向けていると、青年はふいに肩を下げた。

  ふぅと小さな溜息を吐いて「いや。今はそれで良い」と曖昧な答えを返す。

  「―うん?じゃあ友達って事で・・これからもよろしくです?」

  「あぁ。よろしく」

  返された肯定の言葉に嬉しくなって、自然と笑顔が浮かぶ。

  本当ならここで握手と行きたいところだけど、この鏡めは何故だか肉体は通してくれないので、代わりとして台に肘をついて反対の腕を伸ばし、ぺたりとその表面に手の平を当てた。

  青年も、こちらに合わせて手の平を当てる。

  つるりとした感触越しに、冷えている手へじわり熱が伝わって来た。

  自分より、明らかに長い指、大きな手。

  男の人の手だ。

  ふとそんな感想が浮かんで、こちら側より一回り大きな手越しに微笑む青年の顔を見た瞬間。

  ぐわっと羞恥にも似た感覚がせり上がり、顔に熱が集まった。

  唐突な自分の変化に自分自身で驚いて、思わず当てていた手をバッと胸元に引き戻す。

  「どうした?」

  「いや、何か。急に変な感じがして・・」

  顔が熱い。心臓うるさい。なんか汗掻いてきた・・

  何ぞコレ?

  疑問符いっぱいで首を傾げると、青年は心配そうに言った。

  「回復薬で体の傷は修復されていると思うが、かなりの出血だったからな。まだ血が足りんのだろう。大人しく横になっておけ」

  「うん、そうする・・」

  青年の言葉に素直に従い、ぽよよんと元の位置に戻る。

  すると、壁の時計が目に入った。

  時刻は八時ちょっと過ぎを指していて、部屋の明るさから今は朝なのだと理解する。

  ・・私、カーテン開けてたっけ?

  「・・アド君。もしかして君、ずっと起きてたん?」

  「ん?あぁ。アヤがいつ起きるか解らなかったからな」

  「様子も見ておきたかったし」と、青年は寝不足を感じさせずにけろりとして言う。

  ・・・マジか。

  と、いう事は。メイク落としてないドロドロの寝顔をずっと見られてたんか・・

  なにそれ死ねる。

  「・・ちょっと顔洗ってくる・・」

  「動くなと言ったろうが。どうしたというのだ急に」

  顔を合わせる時いつもスッピンだったけど、それは別に恥ずかしくないのよ。

  元々大した顔してないんだし。

  でも崩れたメイクはアカン。普通にアカン。しかもコンタクト入ったままだわ。

  「・・お化粧落としたい・・あとコンタクトも外したい・・」

  「あぁ、いつもと雰囲気が違うと思っていたが、化粧のせいか・・「こんたくと」とは?」

  「眼鏡の代わりに視力を補強する、眼球に張り付けるレンズ?」

  「・・まて、レンズを目に?・・正気か?」

  ドン引きで僅かに体を反らす青年に「分かる~引くよね~」と笑う頼子。

  「まぁ慣れだよ。とりあえず顔洗って、後お手洗いにも行きたい、かな?」

  「・・仕方ない。我慢しろというのは酷だしな」

  渋々頷いた青年に「ありがと、それじゃ」と言って立ち上がろうとした瞬間。

  「待て」と短く呼び止められた。

  「やはり心配だ。洗面まで私が運ぼう」

  「・・・どゆ事?」

  「このまま運ぶだけだが?」

  「いや、どうやってさ?」

  「?。水を操作するだけだ」

  「いやいや。お手洗いあっちだよ?見えないじゃん」

  そう言ってクローゼットの向こう側にある通路を指差す。

  だが青年は平然と「問題ない」と答えた。

  「操作する水を通して、魔力による空間把握が可能だからな」

  「・・マジか。そんな事もできるんだ・・あ。だからカーテンも・・」

  「それもこれも、アヤに知識を教えてもらったお陰だ。持て余していた魔力を魔法で消費することで振り回されず、適切に運用出来るようになったからな」

  「索敵と空間把握はとても有用で助かっている」と感謝を述べる青年に「ほへー」とよく解っていない様子で返す頼子。

  あれか。エコーロケーションみたいに、直接視認しなくても把握出来ちゃう感じか・・

  魔力ってすげぇな。

  「・・異世界人パネェ・・」

  「まぁ、そんな訳だ。遠慮せず運ばれていろ」

  『確かに、さっきは立ち眩み酷かったしな』と納得して、頼子は頷いた。

  「・・じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

  「あぁ、任せろ」

  「早速行くか?」と訊かれて「うん」と頷く。

  「あっ!でもお手洗い中は覗かないでね!流石に恥ずかしいから!」

  「だ、誰がそんな非常識な事をするかっ!使用中は把握せんようにするわっ!」

  「ま、まぁ、中で倒れたりなどして動きがない時はその定かではないが・・」と気まずそうな顔をする青年に、頼子も「そりゃ緊急事態の時は別だわな」と理解を示す。

  「よーし。そうと決まれば・・行け!不定形魔法椅子!もにゅ太1号!」

  意味不明な掛け声に「なんだそれは・・」と呆れつつ、青年は指示通りに水を動かす。

  そうして、洗面の介助を一通り熟すのだった。

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