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【21】手料理と説明。

  ※前話を投稿日ではない日に更新しています。

  前話を読まれているかどうか、確認の上お読みください。

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  鏡を覆う布の向こう側で、何やら動いている気配を感じながらじっと椅子に座り待つ。

  何度か声を掛けようと思ったが・・その度に昨夜の光景がちらついて声を発することが出来なかった。

  そうこうしている内にアヤが布を捲ってしまい、驚かせたようだ。

  バツが悪かったが、どういう態度を取ったら良いか解らず・・

  腕を組んで素っ気ない対応をしてしまった。

  アヤは私の様子がおかしいのを感じ取ったようで、心配して声をかけてくれた。

  更に、迷宮に潜って来た事を伝えると「強いんだね」と称賛の言葉まで。

  ・・気に掛けてくれた。褒めて、くれた。

  ただそれだけの事で簡単に浮つく己が酷く愚かに思え、居たたまれなくなって視線を逸らす。

  目を逸らしたまま回復薬について会話を続けていると、妙な使い方の質問をされた。

  思いもよらない目的について考え、私なりの考えを伝える。

  そんな風に彼女と話す内、自分の中からぎこちなさが消えて行くのを感じた。

  あまりこちら側に興味を示さない彼女だが、回復薬は気になるらしいと察して「融通しよう」と約束する。

  こちらの提案に喜んで、嬉しそうにはしゃぐ姿を見ていると『もういいじゃないか』と諦めの気持ちが胸中にじわりと広がった。

  元から、叶わぬ恋だった。

  世界からして違う、出会うはずの無い人だったのだ・・

  このまま、ただの友人としてあちらの世界の知識を得ながら交流する。

  それで十分ではないか。

  幸せそうな彼女を見守るだけで・・

  そう自分に言い聞かせ・・しかし、まだ顔を合わせるのは辛く、今日はもう下がらせてもらおうと声を掛けようとした時だ。

  「あ、ごめんね!?お昼直ぐに用意するよ!今日のは私作でっす!」

  なんと、彼女が料理を作ったというではないか。

  食べたいっ!アヤの手で作られた料理!!

  この機会を逃したら、二度と食べられないかもしれない・・

  そう思ったら、食べずに去るなどという選択は消え失せていた。

  足首まであるスカートを翻し、調理場に向かうアヤを見送る。

  ・・素足に目が行ってしまったのは申し訳ない。

  しかし、見つめずに視線を引き剥がしたので、どうか許して欲しい。

  小さな爪が可愛らしかった・・

  今更だが、アヤは部屋で履物を使わない。

  そういう文化なのか?足は汚れないのだろうか?

  異世界は不思議に溢れている・・

  アヤは手慣れた様子であっという間に食事の支度を終えると、縁がやや反り返った板に乗せて運んできた。

  これがアヤと食べる最後の食事になるかもしれない・・

  そう思ったら、自然と礼を伝えていた。

  受け取った皿を見ると、アヤが前に食べていた「こめ」と茶色くドロッとした食べ物にあるまじき状態の物が入っていた。

  上に乗っているのは「からあげ」と腸詰だ。

  黒い器にはこれまた茶色のスープ。

  小ぶりな皿には色鮮やかな野菜を刻んだ物。何か掛けられている様で、葉の表面に艶が見える。

  一番小さい器には真っ赤な野菜?の細切れが乗っていた。

  「からあげ」と腸詰、野菜以外はとても食べ物とは思えない見た目をしている。

  だが、香りは刺激的で何とも食欲をそそる、とても良い香りだ。

  以前「びーる」を酌み交わした時のカップを渡され「むぎちゃ」を注いでもらう。

  「先に食べて良い」と言われ、少し躊躇したが「むぎちゃ」を一口飲み、意を決してスプーンを握った。

  「むぎちゃ」は冷たいのに香ばしくて、とても飲みやすかった。

  このスプーンも、先に切れ込みが入っていて不思議な形だ。

  白と茶色の真ん中辺りを掬って、恐る恐る口に運ぶ・・

  そのたった一口で、私は「かれー」の虜となった。

  美味いっ!

  美味すぎる!

  何がどう美味いのか説明するのは難しいが、とても刺激的かつ複雑な味わいだ!

  最初は甘いと感じ、咀嚼している内にスパイスと肉、野菜といった幾つもの味が舌を襲う。

  飲み込み、鼻から美味しいだけの香りが通り抜けると、舌に僅かな辛味を感じた。

  テーブルマナーを横に置き、夢中でスプーンを動かす。

  途中で「からあげ」を食べようとして、スプーンの切れ込みの意味を知った。

  この切れ込みのお蔭で、スプーンなのにフォークの役割も果たすのか!

  『成程!合理的だ!』と心底納得して「からあげ」を口にする。

  すると口の中に天上界が訪れた・・

  「かれー」と「こめ」と「からあげ」・・この組み合わせは最高だ!

  夢中で咀嚼して飲み込み、二個目の「からあげ」を食べようとしてはっ!と思い至った。

  『もしや、この腸詰も・・』

  スプーンの縁で腸詰の端をプツっ!と小気味よい音をさせて押し切ると「かれー」と共に口に運ぶ。

  再び、口内が祝福で満たされる・・

  今まで食べたどの腸詰より美味い・・

  噛む度に溢れる肉汁が「かれー」と混ざり、その美味さを更に上へと引き上げていく・・

  夢中で食べているとアヤも席に着いた。

  感動の勢いに任せ「凄く美味い!アヤは料理の天才か?!」と称賛を送った。

  だが、どうやら「かれー」はそこまで難しい料理ではないらしい。

  「るー」とやらの説明を受けつつ食事の手は止めない。止められない。

  しかし「るー」のみで味付けが可能という話に『そんな馬鹿な?!』と驚愕、動揺からスプーンを置いた。

  つまり「るー」があれば城、下町、野外、迷宮・・・煮炊きさえできれば、場所を問わず最高の食事が出来るという事・・

  そういえば、具材は色々と言っていた。

  ということは、入れる具材次第で何十、何百と「かれー」料理が作られるという事に他ならない。

  しかも、具材が無くとも水さえ用意できれば、スープとしても使用できるだろう・・

  それに「るー」は小さく、嵩張らない。どこにだって持って行ける。

  これは、本当に凄まじい物だ!!

  「素晴らしい・・」

  これは是非ともこっちで取り入れたい代物だ。

  何箱か融通してもらい、城の料理人たちに再現させてみよう。

  研究も必要やもしれぬな・・

  どうすれば「かれー」をこちらでも食べられるようになるか?

  と、考えを巡らせているとアヤが「お代わりはいるか?」と訊いてきた。

  咄嗟に「いるっ!」と返事をして、アヤが勧めるチーズ乗せにワクワクしながらいつの間にか空になっていた皿を渡した。

  新しく注いでもらっている間に、未だ手を付けていなかったスープへと手を伸ばす。

  切れ込みの入ったスプーンでは掬う事が出来なかったので、仕方なく器を持って口をつけた。

  うむ。

  初めて体験する味だが、何とも優しい。

  やや塩味が濃いように感じられるが、朝から体を動かした所為か、今の私には丁度良く感じられた。

  刻まれた野菜も一口・・これも美味い。

  野菜は生だと苦いのが当たり前だと思っていたが、この野菜からは苦みなど全く感じなかった。

  また掛けられている油?のような汁に酸味があってそれが美味い。

  幾らでも食べられそうだ!

  直ぐに戻って来たアヤから「かれー」を受け取り、嬉しさから自然と「ありがとう!」と礼の言葉を伝える。

  新しく注がれた「かれー」には成程、細く細々とした薄黄色のチーズが散っていた。

  小さな皿の赤い物体は「ふくじんづけ」と言うらしい。

  一緒に食べても美味いというので試してみる。

  これもまた美味い!

  見た目からは想像出来なかった不思議な甘しょっぱさと、カリコリとした食感が面白美味い!!

  気に入ったぞ「ふくじんづけ」!!

  その事を伝えようとした時だ。

  アヤが「昨日来た友だちもそれ好きでさ!」と恋人の事を話しに上らせた。

  その瞬間。

  「かれー」の味も、楽しい気持ちも何もかも吹き飛んで、心が凪ぐ。

  『[[rb:あ > ・]][[rb:ん > ・]][[rb:な > ・]][[rb:事 > ・]]をしていたのに、友と言い張るのか・・』

  事実を捻じ曲げ、誤魔化し伝えて来る彼女に対し、言いようのない悲しみが溢れる。

  「アヤは・・」

  「ん?どした?」

  スプーンを持った手を止めて何気なく返された声に一瞬言い淀むも、苦しみを抑え絞り出すようにして言葉を紡ぐ。

  「彼、とは、長いのか?」

  「へ?彼って?」

  「何の事?」と首を傾げて見せるその動作が可愛らしく、また憎たらしい。

  「・・・昨夜・・二人に声を掛けようとしたの、だが・・」

  「え?」

  「取り込み中、だったのでな・・そのまま、部屋に戻った・・」

  「ん~?何かしてたっけ?・・てか彼?」

  まるで覚えがないというアヤの態度に悲しさを募らせながら、言いたくもない言葉を口にした。

  「床で・・睦み合っていたでは、ないか。アヤの・・恋人、なのだろう?」

  膝の上で拳を握る。

  手の平に爪を食い込ませ、目を合わせずに視線は皿へと固定した。

  『ああ、見ちゃったの?そうそう実は恋人なのー』

  そんなアヤからの回答を幻視しているところへ、現実の彼女の声が届く。

  「ああ!もしかしてアレか?!え?見てたん?う~わ。それは勘違いするわな」

  「紛らわしくってごめんねぇ~」と大して申し訳なく思っていないような感じで、彼女はやや乱暴に頭を掻いて謝った。

  ・・・・今、勘違いと言ったか?

  「何を馬鹿な事を。勘違いしようのない状況だったと思うが?」

  「いやいや、マジでアド君の思い違いだから!!アレは単なる友だち!」

  顔の前で手をパタパタと振って見せるアヤに、少々イラッとしながら言い返す。

  「・・友だとしてもだ。異性と部屋に二人きりというのはどうかと思うが?!」

  「ぶっ?!ははっ!そっか、ごめん。そだよね!異性なら駄目だよね!」

  アヤは笑いながら「でもね」と続けた。

  「昨日の友だち、アレ性別は女性!女の人です!!」

  「嘘を言うな!確かに体格は細身だったが、確かに男の声だったぞ?!」

  「ああ。それは声音を変えるアイツの得意技です。「男装こすぷれいやー」だしね」

  「男装・・何だって?」

  「「男装こすぷれいやー」女性が男性の「きゃらくたー」の格好をして「しゃしん」や「どうが」を撮って楽しむ人・・かな?」

  「変装、という事か?・・・何とも信じがたいが・・」

  昨日来ていたのは女性だと言い張るアヤを信用出来ずに、どうしても疑いの眼差しを向けてしまう・・

  そんな頑なな私の態度を見て、アヤは何時も手元に置いてある黒い板を取り出した。

  「はい、証拠~!これが昨日の友だち「アキ」の変身前ね~」

  そう言って、板に一人の女性の絵を出してこちらに見せる。

  確かに、そこには髪の短い女性が描かれていた・・

  だが、これが?本当に昨日の人物なのか?

  そう思っていると、アヤが人差し指で板をつーっとなぞった。

  すると絵がカクカクと動き出したではないか!

  どうやら、変装の行程を見せられているらしいと察して、絵の動きに集中する。

  板の表面で、髪を網のような物で纏めた女性は自身の顔に色々な道具を使って何やら施していく・・

  まず瞳の雰囲気が変わり、最初丸みを帯びていた輪郭は顎の形がはっきりとして、骨ばったように変化。

  化粧で肌を整えて色まで変わり、眉の形も凛々しく描かれた。

  最後にカツラを被り整えれば、板には見目麗しい男性の姿が・・

  「最初と全くの別人ではないか?!」

  余りに卓越した変装技術に動揺して立ち上がり、つい声を荒げてしまった。

  だが、アヤはそんな私の態度を気にする様子もなく、軽い調子で言う。

  「ね?私の友だち凄いっしょ?」

  にこにこと笑い、友人を自慢するアヤに呆気を取られる。

  事ここに至って自分の勘違いを思い知った私は、全身から力が抜けてしまい脱力して椅子にガクリと座り込んだ。

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