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【8】造形美ってこういうのを言うんだなぁ。いやぁ~眼福です。

  全責任を負うなどと・・

  恐れを知らない上役のように、大口でのたまう青年に腹が立った。

  責任と向き合おうとせず、逃げ続けている自分とはあまりに対照的で・・

  青年の態度と言葉は、神罰の光が如く卑屈な自分の痛い所に突き刺さった。

  イライラする。

  でも、なんとか理性的であろうと自制した。

  「まずは上だけで良いからはよ脱げ」

  淡々とした口調で急かす。

  だが、楽し気に飲んでいた相手が急にへそを曲げたので「どうした?何か、気に障る事を言ったか?」と青年は心配そうに訊いた。

  「・・・脱がないってんなら、別にいい。じゃ、この話は無かったって事で」

  「おい待て!・・分かった、脱ぐ!ちゃんと脱ぐから!」

  目が座り、不機嫌を隠そうともしない頼子の態度に焦りながら続ける。

  「だ、だが、せめて理由を!素材ってなんだ?!!」

  そう問われ、頼子は無言で作業机に向かった。

  デスクトップのPCとリンクしているタブレットを手に取って、鏡台に戻る。

  同人原稿を開き、青年にカラーの表紙を見せながら言った。

  「これ、私の飯のタネ」

  「・・・なんだこれは」

  「同人誌っていう個人で制作した本。これを売って生計を立ててるってワケ」

  「・・・・何で男と男?が半裸のまま赤ら顔でくっついているんだ?」

  「男同士の恋愛物だからに決まってんでしょーが」

  「あぁ。衆道か」

  「なんだ。そっちにもあるなら話は早いね。じゃ、はよ脱げ」

  「いや、説明になってないだろうが!」

  「察しが悪いなぁ・・モデルになれって言ってんの」

  「あぁ。成程、理解した・・って。私の裸をその「どうじんし」とやらに反映させるつもりか?!」

  「何、当たり前の事を・・モデルなんだから当然でしょうに。いいじゃん。何千、何万って腐女子に見てもらえる機会だよ?」

  「万っ?!!婦女子だけで?!アヤの国の国民は少数では・・」

  「いんや?うちんトコは1億2千万くらいだね」

  「・・・・・・・は?」

  「だから、1億2千万。こっちの世界で11番目に多い国。ちな、世界の総人口は79憶5千万だって。ばーいグー〇ル先生」

  「・・ななじゅうきゅうおく・・・」

  八つ当たりで「脱げ!」と脅迫紛いの事を言ったわけだが・・

  金髪イケメンが「ぽかーん」とアホ面を晒しているのが面白くて毒気が抜かれた。

  溜飲が下がったとも言う。

  心底驚いて意識がどこか遠くに飛んでいる様子の青年。

  その視界に映るようにして、手を振ってみる・・・

  が、反応は無い。

  「おーい。戻って来―い!あれ?魂抜けちった?」

  今度はパンパン!と手を叩いてアピール。

  するとようやく虚ろだった目に光が戻って来た。

  「うちだって、大国なのに・・」

  「え?なんか言った?小さくって聞き取れなーい」

  「・・何でもない」

  「そ?じゃあ、服はもう脱がなくて良いから、ちょっとスケッチさせてね~」

  「・・・好きにしてくれ」

  「お?ありがとー!好きにするわ!!」

  頼子は早速、紙のスケッチブックを引っ張り出して線を引き始めた。

  すっかり機嫌は直っており、ご機嫌に「デジタルが駄目ならアナログじゃ~♪」と適当な歌を口ずさんでいる。

  一方、衝撃が抜けきれない青年はチビチビとおちょこを舐める様にして杯を重ねた。

  シャッシャとシャーペンを紙に走らせる音に重ね、時折青年がスナックを嚙み砕く音が交じる。

  「アド君の~お洋服は素っ敵だな~っと♪」

  タンブラーの中身を減らしながら線を引く頼子の適当な歌に、青年は誇らしそうに「だろう?」と胸を張った。

  「服飾の良し悪しは世界を跨いでも伝わるか」

  「んだねぇ。白に銀糸の刺繡なんてマジ王子様みたい!」

  「っ!?そ、そうか?」

  「まぁ、本当に王子様とかだったら関わりたくないケドね!面倒だから!!」

  「―・・そ、そうか・・」

  「てか、アド君てさ。全体的に整ってるよね。良いとこのお嬢様方からキャーキャー言われてそうだ」

  「・・そんな事はないぞ?」

  「えぇ~うっそだぁ~!こぉ~んな顔も身体も良い男が?!」

  「在り得ねぇ~そっちの女子の目は節穴か」と零す頼子の言葉をスルーして、青年は「私はそんなに良い男か?」と首を傾げる。

  「え~?カッコイイじゃん?」

  「・・具体的に聞いても?」

  「ん~。まず顔が良い」

  頼子は青年を見もせず、手元に視線を落としたまま続けた。

  「目とか鼻、パーツの形も整ってるしバランスが良いよね。ずっと見てても飽き無さそう。それから色も良い。肌は白くて滑らかで健康的。しかもなんそのキラッキラの金髪は。触ったら柔らかそうで裏山けしからんっ!!瞳の色も綺麗だよね~夏の高い空の色で私好き~。んでまた身体が良いっ!手も指が長くてカッコイイよね~。爪の形がエロくて良き良き♪甲に浮き出た血管も男性的で素敵だし。それにさ~。脚が長いっ!!なんその腰の位置は!私の胸下くらいになりそうじゃね?そんでもって、一番は鍛えてる筋肉。良いよね~見せかけじゃなく、実用的なのがまた素敵でたまりませんなぁ。腹筋とかバキバキなのに全体的にゴツイって感じじゃないのがポイント高し。え?アド君ってハイスペ過ぎじゃね?これでモテないって無いわ~マジ無いわ~」

  「それにさ~」と早口のまま、更に続けようとする頼子を青年は慌てて止めた。

  「わ、分かった!十分、もう十分だから止めてくれっ!!」

  「え?まだまだイケるよ?オタクに好きを語らせたら止まりません。これ常識」

  「そっちの常識を持ち出すな!何だ「おたく」って!」

  「オタク・・それは業を背負いし、魂の宿命に縛られし者・・」

  目を閉じ、重々しく答える頼子に頬を染めていた青年は困惑して訊いた。

  「魂の?呪いかなんかか?」

  「呪いか~、言い得て妙だね。・・よし、こんな感じかな?」

  「もう描けたのか?見せてもらっても?」

  「良いよ~。はいどうぞ」

  「・・へぇ・・上手いものだな」

  スケッチブックを手渡した頼子はその言葉に照れつつ「これで食べてるからね」とタンブラーを傾ける。

  青年は感心しながら何気なくスケッチブックを捲り・・唐突にブッ!と噴き出した。

  「な、なんてモノを描いてるんだ!!と、年頃の女性が、こんな、破廉恥なっ!!」

  「え~?・・あぁ。練習だよ練習」

  「ナニを見て描いた?!」

  「ナニって。チン〇。そんな驚く?自分にも生えてる癖に」

  「ばっ!や、止めろ!はしたないっ!」

  「いやいや、今更じゃん」

  「ぐっ!それ、は。そう、だが・・」

  ケロリとした頼子とは対照的に、青年は動揺から顔を真っ赤に染め、薄っすら汗すら掻いている。

  その様子が何だが可笑しくて、頼子はちょっとイジワルをしてみたくなった。

  「そだ。描いてあげようか?君のチン〇。んで私の本に載せよう!」

  「は?!」

  「さっきも言ったけど、私の本に載ったら何千って人に見てもらえるよ?」

  「な、なに、を」

  「好きでしょ?見られるの」

  その言葉に、青年の肩がビクリと跳ね上がる。

  「分るよそれぐらい~あれだけ反応してたら、ね?」

  「それ、は」

  「それにさ、素敵じゃない?」

  顎に指を添えて、小首を傾げながら青年を背徳の縁へと誘う。

  「君の周りには絶対にバレない。隔絶したこちらの世界で、いろーんな人達に君の大事なトコロを見てもらえるなんて・・ねぇ?」

  目を細めて、楽しそうに言う頼子。

  青年は唇を震わせる代わりに、ゴクリと喉を鳴らした。

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