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タンブラーを傾けて、二人でゴクリとビールを飲み下す。
『やっぱ苦っ!』となりながら、頼子は放置していたおにぎりを一齧り。
青年はというと、一度も口を離すことなくゴクリ、ゴクリと喉を動かし一気に飲み切ってしまった。
「っは!これは美味いっ!!」
「お?気に入った?」
「あぁ。エールに似てる気もするが、味が段違いだ。震える程に冷やされているが、その冷たさが喉を通る感覚が面白い!」
「そりゃ何より」
「まだあるか?!」
「あるよー。ちょい待ち」
おにぎりを置いて、冷蔵庫へ。
一本取り出すついでに、冷凍室からたこ焼きを選び出しレンジにセット。
鏡台へと戻る。
「ほい、お待たせ。自分で開けてみる?」
「やるっ!」
勢いよく答えた青年は嬉しそうにビール缶を受け取った。
手元のチューハイで空ける様子を実演して見せる。
「平らなところに置いて、缶を支えてここの輪に指を掛けて引き上げて・・そのまま、また押し戻す」
「こう・・おっ?!開いたぞ!」
嬉しそうな青年に「上手い上手い!」と称賛を送る。
早速ビールをタンブラーに注ごうとする青年に「ゆっくり入れないと泡立って溢れるよ~」と注意を促しながら、頼子はおにぎりにパクついた。
ビールは後回し。
もう少し食べてからでないと、すぐにアルコールが回ってしまう。
「む。泡が消えたら半分くらいになってしまったぞ?」
「そんなもんだよ。内側に添わせて泡立たないように注いだら幾らかマシになりまっせ」
「なるほど」
その時、ピロリロり~とレンジから電子音がした。
頼子は直ぐに席を立ってレンジからたこ焼きを取り出す。
「アチチ!」と言いながら紙皿ごと別の皿にのせ、青年へと差し出した。
「はい、おつまみ。熱いから気を付けて」
「おい待て、待て待て待て。さっき入れた箱で調理したのか?どうやって?こんな僅かな時間でか?!」
「電子レンジの説明か・・・面倒くさっ!それまた今度じゃ駄目?」
「でんしれんじ、というのか?それ、どう考えても魔道具だろ?!」
「違いますー。人類の科学の結晶ですー」
「かがく?・・おのれ。気になることが多すぎるっ!」
沸き立つ好奇心を飲み込むように、青年はタンブラーを呷る。
「くっ・・美味いっ!!」
「ははっ!良い飲みっぷり!たこ焼きも一緒に食べてみなよ」
「そうだな。でんしれんじの事は気になるが、まずは頂こう。これはどんな食べ物なんだ?」
そう言って青年はたこ焼きを一つ、から揚げを取り分けた皿へとフォークで移動させ目の高さに持ち上げた。
湯気立つたこ焼きを興味津々で眺める様子を微笑ましく思いながら、頼子は答える。
「えっと。たこ焼きの「たこ」は海の生き物で八本足の軟体生物。ぷりぷりしてて美味い。で、小麦粉に魚介?で取った出汁や山芋、卵を混ぜて焼いた生地の中にその「たこ」の茹でたヤツが入ってんのよ」
「ふむ・・幾つか気になる言葉はあるが、とりあえず食べてみるとしよう」
そう宣言して、青年はフォークに刺したたこ焼きをパクッと一口でいった。
当然ながら、あまりの熱さに目を白黒させることとなり慌ててビールを流し込む。
「だから気を付けなって言ったのに~」
「―—っつい!だが美味いっ!!」
若干涙目になりつつ、そう言ってまたたこ焼きにフォークを伸ばす青年に、頼子は「割って冷ましながら食べな~」とアドバイスしてやり、タンブラーを傾ける。
「ん゛~苦いっ!!」
「なんだ、そちらから誘っておきながら。酒は苦手か?」
「や、酒ってかビールが苦手。普段はこっち」
そう言って、チューハイの缶を指さす頼子はまた、ちびりとビールを飲む。
「びーる、というのかこの酒は。しかし、苦手なくせに何故飲んでいる?」
「え~。最初は一緒のお酒を分けて飲むとこう、一体感?あって楽しめるかな~と思って」
タンブラーを掲げ「にっ」と歯を見せて笑う頼子に、青年は衝撃を感じて目を見開いた。
そんな青年の様子に微塵も気づかず、頼子は「でもやっぱ苦いわ!」と苦笑する。
「勿体ないけど、ちょっと捨てて来る―」
「・・・寄越せ」
「へ?」
「捨てるくらいなら私が飲む。寄越せ」
「飲み差しだよ?」
「構わん」
頼子は一瞬躊躇したが『まいっか、勿体ないし』と深く考えずに青年へタンブラーを手渡した。
受け取った青年はそのまま流れる様にして口を付け、一気に飲み切ってから頼子へタンブラーを返すと、親指でぐいと唇を拭い「ん、ふぅ。美味い」と満足そうに息を吐いた。
「ははっ!相当気に入ったんだねぇ。どうする?ビールの他にも何か試す?」
「そうだな・・もう少し酒精の強いものはあるか?」
「あるよ?友達が置いてったヤツだけど」
「それは手を付けても良い、のか?」
「良い良い。お薦め~って置いてったやつだから」
「ちょっと待ってね」と受け取ったタンブラーを手に、キッチンへ向かう頼子。
その背を眺め、目で追いながら鼻を覆うようにして両指を組んだ青年は深いため息を吐く。
「参ったな・・」
誰に聴かせるでもない呟きは、アルコールの香りに乗ってふわりと消えた。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
殆ど初対面での飲み会だが『何だか楽しいぞ?』とご機嫌で鼻歌を歌いつつ、自分のタンブラーを軽く水道で濯ぐ。
シンクの上で水を振り切って、横のスペースに置くと食品置き場の棚へと移動して中身を物色。
唯一の友人が中々な酒飲みで、気に入った銘柄を色々と置いて行くのだ。
自分はたまに飲む程度でそんなに強くは無いし、実はお酒にも詳しくない。
興味が薄いものには意識もなかなか向かないモノで、貰った酒は持て余し気味であった。
『アド君が飲んでくれるなら助かるってもんだぜぃ』
ホコリを被らせているよりは良いだろう。
適当に「これで良いか」と掴み出した瓶には日本酒と書いてある。
それと一緒にタンブラーを持ち鏡台へと戻った。
「それか?」
「うん、とりあえずね」
結露したチューハイの缶から、タンブラーへ中身を移してスマホをジャージのポケットから取り出す。
日本酒の飲み方を検索する為だ。
「え~。〔日本酒 飲み方〕っと・・なるなる」
「それは?何をしているんだ?」
「これ?このお酒の飲み方を調べてんの」
「そんな板でか?というか酒の飲み方なんぞ、そう幾つもあるか?」
「ビール、冷たくて美味しかったでしょ?ぬるいと不味いらしい。それと同じで、お酒にはそれぞれ美味しい温度や飲み方ってのがあるの。折角飲むなら美味しく飲んで欲しいからね。調べてるワケ」
「・・・板でか?」
「そう。これ超便利な板なんよ。お、ナイス!これ本醸造酒って書いてあるから常温でいけるわ」
「良き良き♪」と、から揚げの袋から楊枝に刺さった一個を口に放り込み、スマホを伏せて置いたらまた立ち上がって食器棚へ向かう。
立ったり座ったりと忙しないが、本人は至ってご機嫌だ。
どうせなら器もそれっぽいのが良いだろうと、いつだったか衝動買いしたガラス製のおちょこを手に取って席に戻る。
「ビールが終わったらね」と言ってコトリ、瓶の隣に置いた。
最後のから揚げを口に収めて、入っていた袋をしくゃりと丸め空になった缶と一緒にコンビニ袋に入れて足元に。
じゅわりと広がる鶏の油を堪能しながら咀嚼して飲み込み、タンブラーに口を付けた。
先に強い甘みが舌に広がり、次いでブドウの味とアルコールを感じる。
二度程、喉を鳴らして。口内に残った果肉を舌で押しつぶしながら呼吸をすれば、ブドウのさわやかな香りが鼻から抜けた。
「ふぃ~。美味しぃ~」
「甘い匂いだな」
「そそ。葡萄っていう果物のお酒だよ」
「そうか。良い香りだ」
「だよね~」と同意して、またタンブラーを傾ける。
「ん~。美味しぃ~。んでなんか楽しい~」
上機嫌で言うと、少し間延びした声が出た。
飲みの雰囲気に酔ったのか、何だかふわふわする。
ふと、何となく視線を感じて目線を上げた頼子は、淡く微笑む青年と目が合った。
「あぁ。そうだな」
「私も楽しい」と続けた青年はタンブラーを傾け、静かに喉を動かした。
『ん゛ん゛っ!!イケメンの微笑みアカーン!!腐りかけの魂が浄化されるっ!!』
何という精神攻撃性っ!これだからイケメンはっ!
『心臓がきゅっとなるわっ!』と心の内で毒づいて、頼子はそわつく感情を押さえ宥めた。
鏡越しの、世界を跨いだ飲み会はまだまだ続く。
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