誰が見ても正反対の二人だと思う。
虎の双子なのに毛の色は黒と白で反対だし、性格も片や熱血片や冷静だし、得意科目も文系と理系で分かれてるし。共通していることと言えば、どっちも文武両道なのと顔が一緒なのと……
「邪魔なんだよ白介…!ダイは俺と寝るんだよ…!!」
「黒也こそ何回僕の邪魔をすれば気が済むんだ…!ダイくんは今日僕と一緒に寝るって約束したんだよ!!ねえ!?」
「エー、ソウダッタカナー?」
何でかどちらもオレなんかを好いてくれていることだろうか。
最早日常と化した目の前で行われる醜い争いに、呆れを通り越して心を無にして棒読みでシロ兄ちゃんへと答える。その答えに膝から崩れ落ちて悲しそうな表情を浮かべるシロ兄ちゃんに対して、クロ兄ちゃんはほれ見ろとでも言わんばかりに勝ち誇った笑みを浮かべながらシロ兄ちゃんを見下している。オレ、クロ兄ちゃんと寝るなんて一言も言ってないんだけど。
「ぐへへへ…じゃあ俺と一緒にベッド行こうぜぇ……」
「いや、オレ一人で寝るから」
オレの言葉に、さっきまで耳をぴくぴくさせながら鼻息を荒くしていたクロ兄ちゃんは、頭に石がガンっと落ちてきた漫画の古典的な表現が見えてきそうなほど口をあんぐりと開けていた。しかもちょっと涙目になっている。
しかし、ここでちょっとでも優しくしようものならオレの身体が危ない。朝ごはんの支度もあるし、オレは朝早いのだ。
石化している二人に、聞こえているかわからないけれど「おやすみ」と声をかけてオレはそそくさと自分の部屋へと戻ってベッドへとダイブした。
◇
クロ兄ちゃん・シロ兄ちゃん─虎林 黒也・白介(こばやし くろや・しろすけ)とオレ─松島 大(まつしま だい)はいわゆる幼馴染だ。まぁ幼馴染と言っても八歳も離れているから、向こうからしたら隣の家のちびっこって感じだったかもしれないけれど、とにかくオレが赤ちゃんの頃からの付き合いだ。
元々両親たちの仲が良かったということもあったらしく、物心つく頃にはすでにこの白黒虎たちがいるのが当たり前になっていた。
ちなみに、当時の二人が赤ちゃんのオレを見たときに同時に放った一言
「「この子と結婚する!!」」
は、今でも両家の話のネタになっている。
そんな逸話があるくらいなので、その頃から二人はとにかくオレにべったりだったらしい。
そんな二人とオレは今、三人で暮らしている。
というのも、話は俺が志望大学に合格した頃にまで遡る。
オレが大学に進学する当時、すでに近くの有名私立高校で教師として働いていた二人は、オレの両親に自分たちとオレのルームシェアを持ちかけたらしい。しかも家賃タダという好条件で。
両親からしてみれば家賃は節約できるし、知ってる人の家で暮らすのであれば安心ということもあって二つ返事で快諾したという。
当のオレは、後からこのことを知らされて、まぁ一人暮らしもしてみたかったけど、クロ兄ちゃんとシロ兄ちゃんと一緒に住むなら楽しいかもなぁなんて考えて、来る大学生活に心を躍らせていた。それが良くなかった。というか、この時思い出すべきだったのだ。今でもネタにされているあの話を。
同居初日、指定された住所に行くとそこは去年分譲を開始したというマンションだった。何の間違いかと思ったけど、緑色のメッセージアプリで送られてきていた住所や建物名を何度見直したり地図アプリを開いて確認もしたけれど、やはり間違いなくこの高級そうなマンションを指し示している。
呆然とマンションを見上げていると、手に持っていたスマホが急に鳴り始める。表示された画面にはクロ兄ちゃんと表示されている。
『ようダイ!着いたか?』
『着いたけど…ホントにここ?どう見ても高級マンションだし、賃貸じゃなさそうだけど』
『そらそうだ、ここ俺とシロで買ったマンションだし』
『はぁ!?買ったぁ!!??』
クロ兄ちゃんの発言につい大声になってしまって、はっと周りを見ると、いろんな人たちがこちらを怪訝そうな顔をしてみている。
恥ずかしくなって逃げるように玄関ホールの方へと行くと、そこにクロ兄ちゃんとシロ兄ちゃんが待っていた。
『お、ダイくんよく来たね』
『シロ兄ちゃん!?買ったってどういうこと!?二人ともずっとここ住むの!!?』
『二人って言うかダイくんもずっとここに住むんだよ?』
『は?』
言っている意味が分からない。なんで?俺も?大学生の間だけじゃなくて?
『シロ、ダイが混乱してんだろ。ほら、説明もするからとりあえず部屋行くぞ』
『おっといけない。じゃあダイくん、こっちこっち』
クロ兄ちゃんが呆けているオレの手から荷物を取って、それについていくようにシロ兄ちゃんがニコニコしながらオレの背中を押していく。
五階にある部屋にたどり着くと、玄関の扉を開いたと思えばさぁさぁとリビングの方まで押されて机に座らされた。
ここがこれからオレが住む部屋かぁ。
『で、さっきの話なんだけど』
『あ、はい』
ようやく頭が現実を受け入れ始めたところで、正面に座っているシロ兄ちゃんから話が切り出される。
『ダイくんが赤ちゃんの頃、僕らがダイくんと結婚するって言ったって話覚えてる?』
『父さんたちが集まる度にネタにしてる話のこと?何回も聞かされたから覚えてるけど……』
その話とこのマンションでオレたちがずっと住むって話と何の関係が?
『そう、それ。僕らはどっちも本気なわけです』
『……はい?』
と言いますと?
『黒也も僕も、どっちもダイくんのことが好きってこと』
『……』
『おーい、ダイー?戻ってこーい』
遠くでクロ兄ちゃんの声がしている気がするが、オレの頭の中は大量の?マークで埋め尽くされて、正しくその声を認識してはくれなかった。
いや、だってそうだろう。どっちも文武両道、筋骨隆々で男子からも女子からもモテそうなイケ虎獣人二人に対して、いくら幼馴染とはいえ身長も顔も平均以下、平均以上なのは体重くらいな(言ってて悲しくなってきた)人間の男を好きという、小さい頃の戯言が本気だと思うだろうか。いや、思わない。これまでもそんな素振り無──
『まぁ驚くのも無理はないと思うよ?今までもアプローチしてたけどダイくん全然気づかないくらい鈍感だし』
『え?アプローチしてたの!?』
『してたよ。僕もクロもダイくんに抱き着いたりとかほっぺにキスしたりしてたでしょ』
あれアプローチだったのか……。確かにちょっと激しいスキンシップだと思ってたはいたけど、小さいころからそれが当たり前だったから全然気付かなかった。
『まぁそんな訳で、とにかくニブいお前に好きになってもらうためには一緒に暮らすのが良いだろうって結論づいたから一計案じたって訳だ!』
『いや、結論おかしくない!?』
『という訳で、これからよろしくね。ダイくん』
何がどういう訳なのか、ずっとここに暮らすという意味も結局分からなかったが、あまりにも予想外の話ばかりで脳がパンクしかけていたオレは最早ツッコむ気力も起きず、シロ兄ちゃんが差し出してきた手を力なく握って、この同居生活を始めたのであった。
◇
ピピピッと目覚まし時計の電子音が小さな部屋の静寂を切り裂いてオレの鼓膜を震わせ、闇の中を揺蕩っていた意識を現実へと浮かび上がらせる。
「ふぁあ…」
ゆっくりと身体を起こして、腕を天井へと伸ばすと寝てるときに凝り固まっていた筋肉がほぐされてぼんやりしていた意識をはっきりさせていってくれる。
まだ少しぼんやりする頭でベッドから立ち上がって洗面台へと歩を進めた。最近暖かくなってきたとはいえ、ひねった蛇口から出てくる水はまだ冷たくて、顔を洗うと一気に引き締まる。タオルで顔を拭きながらキッチンへと向かい、パンをトースターにセットしながら大きな弁当箱二つを取り出し、弁当箱の中身を作るために虎のワッペンが付いた黄色いエプロンを身に着けた。
この変な理由から始まった奇妙な同居生活も早八年。
どっちが一緒に寝るかの喧嘩をはじめ、風呂に入ってこようとしたりベッドに潜り込まれたりetc…。
そんなアプローチという名のセクハラを受け続けながら、この白黒虎たちとの平穏(?)な生活は大学を卒業してからも続いていて、意外と心地が良い。
ちなみに、オレは自営業という名の家政夫と化している。最初は普通に就職しようとしていたのだが、この二人の家事スキルが壊滅的ということと、二人にかなり要望されたこともあって、それまで十社ほど面接に落ちて凹んでいたオレは、二人のその提案に甘えるような形で引き受けた。
ただ、二人に甘え続けるだけになってしまうのは嫌だったので、家政夫以外にもフリーのライターとして仕事もしている。これが割と評判が良くて、今のところ仕事に困るということはありがたいことに無く、たまにちょっと贅沢出来る程度の収入があるくらいにはお声がけいただいている。
「ふあぁ……。おはよーさん」
「おはよう、クロ兄ちゃん。新聞そこ置いてるよ」
「おーう」
大あくびをしながら挨拶をしてくるクロ兄ちゃんの方を見ると、まだ寒い日も続くこの時期に上はタンクトップ下はボクサーパンツ一枚という、人間のオレからしてみれば信じられない格好をしている。そしてそんな薄着をしている黒虎に問題が一つ。
赤いタンクトップは鍛え上げられた筋肉に内側から圧されて、伸びに伸ばされてピッチリとその魅力的なボディラインを浮かび上がらせていた。しかし、問題はそこじゃなくて。いや、その格好も十分オレにとっては目に毒なのだが、今問題なのはもっと下の方で。
「……クロ兄ちゃん」
「んあ?」
「“それ”収めてから出てきてくれませんかね」
オレが指し示している方、つまりは下腹部へとクロ兄ちゃんは素直に顔を向ける。そこにはクロ兄ちゃんの体格に見合った立派なサイズのモノが、男の子なら誰にでも訪れる朝の生理現象によって完全な臨戦態勢を取っており、緑色のボクサーパンツが悲鳴を上げそうなほど引き伸ばされていた。
「がははは!見慣れてんだろ朝勃ちくらい!」
「毎回目のやり場に困ってるよ!!」
隠すどころかむしろ見せつけてくるクロ兄ちゃんから視線をぷいっと外して、コンロの方へと身体を向き変える。そこには熱されたフライパンの中でジュージューと音を立てながら小さめのハンバーグが食欲をそそる匂いを漂わせていた。焼き色もちょうどいい感じについていて、見てるだけでも口の中に唾液が溢れてくる。我ながらいい出来だ。
「いい匂いしてんなぁ」
後ろからオレの腰に手を回して抱き着きながら、クロ兄ちゃんがフライパンを肩越しにのぞき込む。スンスンと鼻を鳴らしながらハンバーグの香りを堪能している。
「火を使ってるときは危ないって前に言わなかったっけ?あとさ……」
「ん~?」
「……当たってるんですけど」
腰のあたりに確かな熱量と硬度を持ったモノが押し付けられている。それどころか指摘してから腰に回された腕に力がこもってさらに押し付けてくるじゃないか。そのせいで形まではっきり感じ取れるほどになってしまい、顔が火照って耳まで赤くなってしまう。
「…お前が処理してくれれば収まるんだがなぁ」
耳元で囁いてくるクロ兄ちゃんの低い声に、また更に熱が上がっていく感覚に襲われる。
声の感じからして、絶対ニヤニヤしてるこれ。
セクハラ黒虎に対して多少の怒りを覚えながらも何も言えずに下を向いていていると、首筋にひやりとしたものが触れたと思ったらふわふわした毛皮が擦り付けられてくる。
「ちょ、くすぐったい…」
「あーもう、かわいいなぁお前」
そう言ったクロ兄ちゃんは、ずっと腰に回していた右手でオレの顎を掴んで自分の方を向かせる。そこにあったクロ兄ちゃんの緋色の目は完全に熱に浮かされていて、ゆっくりとその顔が近──
「くあぁあ…、おはよう」
突然かけられた後ろからの声に二人して身体をビクッと跳ねさせる。そこにはクロ兄ちゃんとほぼ同じ格好をしている、起きてきたシロ兄ちゃんがお腹を掻きながら欠伸をしていた。
「…何してんの?二人とも」
「ちっ…、なんでもねえよ」
「……」
いまだ寝ぼけまなこでこちらを見つめるシロ兄ちゃんに悪態をつきながら、クロ兄ちゃんは洗面台の方へと消えていった。
「僕なんかした?」
「気にしなくていいよ、それより朝ごはんできt…」
言いながら振り返ると、目の前に大きな胸板が現れて顔がその大胸筋に埋まる。そのまま背中に腕を回されて固定された。前後逆とはいえ何か既視感を感じる。
「クロの匂いがする…」
スンスンと黒い鼻を動かしてオレの匂いを嗅いで少し表情を曇らせたと思えば、この白虎は頭やらほっぺやら首筋やらに頬ずりをして匂いを上書きしようとしてくる。くすぐったいことこの上ない。あと
「シロ兄ちゃん」
「うん?」
「当たってる」
正面から抱きしめられてるせいで、オレのへそ辺りにクロ兄ちゃんと遜色ない大きさの熱いモノが、赤いトランクスに立派なテントを作りながら押し付けられていた。
それを見たシロ兄ちゃんはニヤリと口角を上げる。あ、これもなんか既視感。
「ダイくんが処理してくれれば…」
「い い か ら 二 人 と も 早 く 飯 を 食 え !!」
既視感通り同じことを言ってきたので、朝っぱらからキッチンの中心で怒りを叫ぶ羽目になった。こういうところで双子感を出してんじゃねえよ。
◇
「「行ってきまーす」」
「いってらっしゃーい、気を付けて…」
仲良く出勤していく白黒虎たちを見送って、玄関で乱れた服を直していく。
あの後、どっちの匂いが付いてるだの消えただのと朝食を取りながら騒ぎまくった二人によって匂い付け合戦が始まり、ひたすら頬ずりされたり首筋舐められたりされ続けたおかげでボロボロだ。朝からだいぶ疲れた。
「さてと、こんなことで疲れてる暇はないぞっと!!」
いつもであればここまでされた後はそのままベッドに行って休憩という名の不貞寝をするところなのだが、今日に限ってはそんな暇は一切無い。
洗濯機のスイッチを入れてから、先ほどまで格闘していたキッチンへとまた舞い戻る。下の引き出しから取り出したのは丸い銀色のケーキ型、泡だて器、ボウル、ゴムべら、ふるい、そしてデジタルのはかり。
ここまでの道具ですでに察せると思うが、オレが今からしようとしていることはケーキ作りだ。
なぜそんなことをするかというと、実は今日はあの双子虎たちの誕生日なのである。
去年まではプレゼントとお店でケーキを買ってきてお祝いしていたんだけれど、まぁあの二人が片方はチョコレートケーキが好きで片方はイチゴのケーキがいいと言う。しかもあの体格だからか分からないが、ホールケーキじゃないと満足しない。しかも結構大きい奴。そうなると必然的にケーキのお金がかかってしまい、プレゼントにあまり予算を割けないという悩みがあった。そこで今年の誕生日のケーキは自分で作って、その分をプレゼントに充てようと前々から計画していたのだ。
まぁセクハラされたりはしているが、二人にはなにかと支えてもらっているのでその感謝を伝えるためにも手作りはなかなか良いアイデアだと思う。手作りと知った時のあの二人の驚く顔が目に浮かぶようで、今からニヤニヤが止まらない。
にやけながらそんなことを考えているうちに小麦粉をふるい終わっていたらしい。空いたボウルにまた小麦粉を測り、今度はそこに粉末ココアも加えて別のボウルにふるっていく。
あらかじめ冷蔵庫から取り出しておいたタマゴを黄身と白身に分けていく。先ほど小麦粉を測るために使っていたボウルをすすいで、布きんで水分を取ってから白身を流し込んで泡だて器でかき混ぜていく。ただの液体から段々泡立ってふんわりとしたメレンゲになっていく様子は、なによりもケーキ作りをしていると実感させてくれる気がして、柄にもなくワクワクしてしまう。
あまり経験は無いがうまく作れるだろうか、綺麗に膨らんでくれるだろうか。
なによりも二人は美味しいと言ってくれるだろうか、喜んでもらえるだろうか。
二人の反応を想像していると、脳内で勝手に喧嘩をし始めてついつい苦笑してしまう。
そんな期待と不安が入り混じった不思議な高揚感を感じながら作業を進めていった。
スポンジの生地が完成したので、型へと流し込んであらかじめ温めておいたオーブンに入れて焼き始めたところで、洗面所の方からビービーというけたたましい音が鳴り響いて洗濯が終わったことを知らせてくる。
そう、ケーキ作りだけではない。普段やっている家事もこなさなければいけないし、今日の晩御飯のための買い出しに調理に──。
「よし!がんばるぞー!!」
やることの多さに少し気が滅入りそうだったが、頬をパンパンと叩いて気合を入れ直した。
◇
「これで完成っと」
二度揚げした鶏のから揚げを、油切り用のバットからレタスを乗せた大皿に盛りつけてテーブルへと運んでいく。そこには既に作りあげた数々の料理が並べられていた。
今運んできた鶏のから揚げのほかにエビフライ、サーモンをたくさん使ったちらし寿司、シーザーサラダ、ローストビーフが所狭しと置かれている。全部クロ兄ちゃんとシロ兄ちゃんの好物だ。
そして、冷蔵庫には何とか作り上げた二つのホールケーキが出番をいまかいまかと待ち望んでいる。
正直作りすぎた感があるが、食べきれなかったら明日のご飯に回してもいいしあの大食漢たちならこれくらい余裕で食べきりそうな気がする。
時計の針は十九時を指していて、そろそろ主役たちが帰ってくる時間だなぁなんて少しわくわくしていた時だった。木琴を鳴らしたような街中でもよく聞こえてくる着信音が響き渡る。
慌てて机の上に置いていた自分のスマホを見ると、そこにはクロ兄ちゃんと着信の表示が大きく出ていた。
「もしもし?」
「おうダイか?わりぃ、俺もシロも先生たちに捕まって飲みに行くことになっちまってよ、今日帰り遅くなるわ」
「あ、うん。分かった…」
「ん?なんか元気ねえな、大丈夫か?」
帰りが遅くなることに少し落胆してしまった気持ちが声に出てしまったらしい。
「全然大丈夫だよ!それよりシロ兄ちゃん下戸なんだから気にしてあげてね!」
「おい?俺のことは心配してくれねえのかよ」
「クロ兄ちゃんお酒強いじゃん……」
「がはは、違えねえな!ま、そんなわけだから先に寝といていいからな」
「了解、気を付けてね」
おう、と短い返事が返ってきてすぐにツーツーツーと通話が切れた音がする。
大丈夫。料理は今の時期なら明日明後日までは日持ちするし、ケーキも冷蔵庫に入れておけば明日には食べてくれるだろう。ただ、こんな事になるなら──
「朝のうちにおめでとうって、言っておけばよかったなぁ…」
別にその日のうちに言わなければいけないわけではない。分かってはいるのだけれど、少しだけ胸が痛い気がした。
◇
──誰かに揺すられてる気がする。ただ、瞼が重たくて目を開ける気になれない。
そのまま何も反応をしないでいると、数秒してから揺すられることはなくなった。なんて思っていると、今度は浮遊感と一緒に揺れと顔の片側に何か温もりを感じる。その温かさが心地よくて、懐かしいようないつも感じているような、どこか安心する匂いが鼻腔をくすぐってついそちらの方に顔を埋めた。すると、大きな振動が来たと思うと、口にふわりと柔らかいなにかが触れた。
そのなにかを確認するために目を開けると、クロ兄ちゃんの顔が目の前というか、超至近距離にあった。
「よ、よう…」
「…クロ兄ちゃん?おかえり」
「た、ただいま…」
何か気まずそうな表情をしているクロ兄ちゃんをよそに、オレは自分の置かれた状況を頭の中で整理する。
たしか料理にラップをした後、そのままテーブルで二人の帰りを待ってて、スマホで動画見たりしてて──
そこでやっと自分がクロ兄ちゃんに抱きかかえられてること、クロ兄ちゃんの部屋だということに気づいたが、それよりも重要なことに気付いた。
「あっ!!」
「おう!?」
「クロ兄ちゃん今何時!?」
「あ?えっと、二十三時五十分だな」
クロ兄ちゃんの手の中から降りて、時計を確認すると確かに日付はまだギリギリ変わっていない。
いまならまだ間に合う。
「シロ兄ちゃんは!?」
「白介なら飲まされてべろんべろんになったから、部屋に連れてって寝せたぞ。ありゃ昼まで寝てるかもな」
「あー…」
ならシロ兄ちゃんは明日にした方がいいか…。まぁクロ兄ちゃんに今日のうちに言えるだけ良しとしよう。
「クロ兄ちゃん」
「おう」
「誕生日おめでとう」
クロ兄ちゃんが大きく目を見開いたかと思うと、急に視界がぐるっと回転して背中にぼふっと柔らかい衝撃を感じた。どうやらベッドに寝かされたというか、押し倒されたような状態になってるようで、視界には天井とクロ兄ちゃんの顔が映る。
「あ、あの、クロ兄ちゃん?」
「なあダイ……、俺にプレゼントくれねえか?」
「え?あぁ、じゃあ部屋に取りに…」
「そうじゃなくてだな……、いや、それももちろん欲しいんだけどよ」
少し言いづらそうにしているクロ兄ちゃんの顔は上気していて、ともすれば泣き出してしまいそうな、そんな今まで見たことのない表情をしていた。
「朝まででいい…。お前のこと、俺にくれ……」
「──っ!!」
そんな顔で、そんなまっすぐな緋色の瞳で言われて、胸が高鳴ってしまうのを感じる。
だから──
「ダメ、か?」
「…いいよ」
まさかいいと言われると思ってなかったのだろう。黙ったまま目を丸くした状態で見つめてくる。そ、そんなに見つめられるとさすがに恥ずかしくなるから。
「……」
「ほ、ほら今日誕生日だしいつもお世話になってるしプレゼントもう一つくらいあってもいいかなぁなんて思ってたというかだから……っ」
沈黙と視線に耐えられなくなって、目を横に逸らしながら早口で理由というか言い訳をまくしたてていると、クロ兄ちゃんの顔が近づいてきて、クロ兄ちゃんのマズルとオレの唇の距離がゼロになる。
オレの口に当たるクロ兄ちゃんのマズルの毛がふわふわと当たって少しくすぐったい。
呆然としたままだったオレからクロ兄ちゃんの顔が離れていく。
「…今更無しとか言うなよ」
「……はい」
クロ兄ちゃんの目に肉食獣のような光が灯り、再び互いのマズルと唇が重なる。先ほどの触れるだけだったものとは違い、少し開いたクロ兄ちゃんのマズルから、ざらついた厚い舌が開けと命令するようにオレの唇を舐める。口を半分開くと、すぐにオレの口腔内に侵入して舌を絡めてくる。
二回りくらい大きい身体が密着し互いの息が荒くなってきても離れることはなく、むしろ更に深く求めるように厚い舌がオレの口の中をゆっくりと舐めまわし唾液を混ぜ合わせ、犯していく。その舌遣いに頭が熱で浮かされていくのが分かる。目の前の虎から感じる体温も男らしい匂いもすべてを愛しく感じて、もっと欲しいとこちらからも舌を絡ませるとそれに応えるように抱きしめられて、さらに口の中を舐めまわしていく。
「脱がせていいか?」
長いキスが終わると、遠慮気味に聞いてくる黒虎に少し吹いてしまう。それが気に食わなかったのか、不貞腐れた顔をするクロ兄ちゃんのマズルに軽く唇を当てた。
それを肯定と捉えたクロ兄ちゃんにオレのTシャツがたくし上げらてそのまま剥ぎ取られると、すぐにズボンとパンツにも手をかけられ、一気にずり下ろされてベッドから投げ捨てられる。自分だけ生まれたままの姿にされて恥ずかしがっていると、また黒虎の丸太のような腕に抱きしめられた。
「柔らけえな」
「…どうせクロ兄ちゃん達と違って筋肉無いですよ」
身体をまさぐりながらそんなことを言ってくるから、拗ねた口調で返してやるとガハハといつものように笑われる。
「抱き心地最高だぞ」
「~~っ!わ、分かったからクロ兄ちゃんも脱いでよ、オレだけなの恥ずかしいんだから!」
「じゃあ、脱がしてくれよ」
赤くなってるオレの頭を撫でながら、クロ兄ちゃんは脱がしやすいように腕を上げてくれる。
タンクトップに手をかけて引き上げて脱がすと、鍛えられた肉体が露になった。大胸筋は自分とは違いパンパンに筋肉が詰まっていて、毛皮の上からでもその存在を誇示している。腹筋は脂肪がのっていて割れてこそいないものの、触るとすぐ奥にその存在を主張してくるほどだった。
「ちょっと緩くなってカッコ悪いだろ?」
「そんなこと…。オレはかっこいいと思うよ、クロ兄ちゃんのこと」
素直な感想を言っただけのつもりだったが、目の前の黒虎にとってはそれが引き金になったようで、大きなシミを作っているボクサーブリーフを乱暴に脱ぎ捨てるとまたマズルをこちらへ押し付けてベッドへと押し倒してきた。
口内を貪られ、自分のモノに自身よりももっと大きい熱の塊が擦り付けられる。おそらく興奮してくれてるのだろう、ぬめぬめとした先走りの感触がするな、なんて先ほどよりも冷静に考えているときだった。
クロ兄ちゃんの右手が胸の辺りを揉んだかと思えば、胸の突起を軽くつまんだ瞬間甘い電撃が身体を走る。
「んあっ!…んっ…ふっ…」
キスをされたまま為すすべなく喘ぐオレの姿にクロ兄ちゃんは目を細めて、口ではオレの舌を弄んで、右手でずっと乳頭をこねくり回してずっと刺激を与えてくる。
思考が快感に蕩けてくると、激しく動き回っていた舌が口内から離れていく。
「あっ…んぅ!」
首筋にざらっとした感触と先ほどまで口の中を暴れまわっていた生暖かさを感じたと思えば、乳首に強く吸い付かれる。
「くろ、にいちゃ…んっ」
強い刺激に、舐り責める黒虎の頭を掴もうとすると右手はすぐに左手で押さえつけられて自由を奪われ、左手だけで離すことが出来ないので身体をくねらせて快感から逃げようとすれば、空いている右手を背に回されて固定される。
「…やらしい顔しやがって」
「誰の、せいで…」
息も絶え絶えに文句を言うと、額についばむようなキスを落された。
「俺のも気持ちよくしてくれるか?」
目の前にクロ兄ちゃんの巨大な肉棒が突き出される。竿は五百ミリリットルの缶を彷彿とさせるような野太さがあり、そこにLサイズの鶏卵大の精巣が納まった陰嚢がぶら下がっていた。
ぱっくりと割れた鈴口から絶えず透明な液体が溢れている。その雄の匂いに引き寄せられるように、大きな幹に舌を這わせると上からくぐもった声が落ちてくる。そのまま肉棒を口に含めると、口の中いっぱいにしょっぱい味が広がる。
「はぁっ…んっ!ダイっ…!」
大きいので半分も咥えられないが、歯が当たらないように注意しながら舌で鈴口を押したり雁の部分をなぞったりすれば気持ちよさそうな低い声が聞こえてきて、優しく頭を撫でられた。それが嬉しくて、もっと気持ちよくなってほしくて更に舌を這わせて奉仕する。
「だ、ダイ、ストップ!出ちまう…」
焦ったような声と共に口から肉棒を引き抜かれる。クロ兄ちゃんの顔を見れば何かを我慢するように歯を食いしばっていた。
「出していいよ?」
「俺が嫌なんだよ。その、出すならお前の中に出してえ。なっ、いいだろ?」
照れたように顔を横に向けて目線を合わせないように言ってはいるが、その手はオレの尻を撫でまわしている。
コクリと一つ頷くと、クロ兄ちゃんはベッドの上に手を伸ばして何かのボトルを取り出した。ボトルの内容物を指に絡めてオレの尻の谷間へと指を滑り込ませていく。
ローションを丹念に尻穴の周りに滑らせ、そのまま指一本をオレの中へと侵入させる。
「うっ…ん…!」
中で指をぐりぐりと動かすのが分かり、異物感に顔をしかめていると、気を紛らわそうとしてくれたのか、また口をマズルで塞がれる。それに甘えるように黒虎に抱き着けば更に深くキスをされる。
キスに集中しているうちに、進入する指も二本、三本と増やされてグニグニと動かされて広げられて、排泄のための穴を雄を受け入れるための物へと変えられていく。
「そろそろ、いいよな」
「ぁう……」
指を一気に引き抜かれ、穴が何かを求めてヒクついてしまうのが分かる。クロ兄ちゃんの方へ尻穴を見せつけるような形で足を開かされると、太い肉棒があてがわれる。
「挿入れるぞ……」
初めてで緊張しながら、せめて入れやすいようにと力を抜いている穴にクロ兄ちゃんのモノが入って──
「あ、あれ?」
来ると思ったが、その肉棒はぬるっと滑って穴から外れた。
「この…!ふんっ…!」
「……」
何度か挿入を試みるものの、焦りからか何度も失敗してる。というか、段々やけくそになってる。
「クロ兄ちゃん、もしかして…」
オレが声をかけた瞬間、全身の毛が逆立ち、太い尻尾がピンッと伸びた。
「どうて─」
「そうだよ!この歳まで童貞だよ!!悪いか!!?」
「いや、悪いなんて言ってないから落ち着いて!?」
オレの疑問を食い気味にというか、ほぼキレて肯定してくるあたり実は気にしてたんだろう。すごい恥ずかしそうにウ~ッと唸っている。あ、めっちゃ涙目。
「まぁ、その、今までが慣れてるというか凄かったからとっくに経験済みなのかと思って意外だったというか…」
「……だよ」
「え?」
「初めてはダイとしたかったんだよ!」
なんだそのセリフは。三十代が言うようなやつじゃないだろ。思わずキュンとしたじゃないか。
なんて考えてると大きな影が上にのしかかってくる。
「ぐえっ!」
「こうなったら絶対お前に挿入れてやるからな…!覚悟しろよ…!」
まるで子供みたいに意地になっているのを、愛しく感じてマズルに口づけてやると少し驚いたような表情をしている。そういえばオレからしたのは今のが初めてだった。
「朝まではクロ兄ちゃんの、だから…」
「……お前ほんと、煽り上手だな」
また秘孔にクロ兄ちゃんのモノがあてがわれて、ゆっくり腰を前へと押し出してくる。今度は滑ることも無く、オレの中へと侵入を開始した。
「いっ…ハァっ…」
「大丈夫か?痛えならやめとくか?」
「大、丈夫…。ゆっくり、してくれたら」
さっきまで絶対挿入れるなんて息巻いていたのに、心配してくれるその優しい黒虎に応えたくて、そのまま押し進めてもらう。ただ、痛みも襲ってきているので厚い胸板に顔を埋めるように抱き着くとゆっくり背中をさすってくれた。
やがて尻にふわりとした毛の感触がして全部入ったことが分かる。中でビクビクと熱く太いものが脈打つ度に、圧迫感と弱い快感が襲ってくる。その時に締め付けてしまっているのか、頭の上からもくぐもった声と荒い息が聞こえてくる。
「なぁ、そろそろ…」
「うん、…動いて」
快楽に顔を歪めながら、ゆっくりと腰を引きまた差し込まれる。それだけでもどかしいような切ないような、そんなどう表したらいいのか分からない快感が襲ってくる。
それに身悶えしていると、顔の横に丸太のような腕が突き立てられる。
「悪い、加減できそうにねえ」
「え?…んぁあ!!」
急に謝られたと思うと、一気に突き上げられる。その瞬間目の前が白くなるほどの快楽の波に飲み込まれた。
「あっ、んぁ、あぅ」
「グルルルル…気持ちいいぞっ…!ダイっ…!」
クロ兄ちゃんが快感に舌をだらしなく出しながら腰を打ち付けるたび、奥を穿たれ前立腺をゴリゴリと押しつぶされて強い快感に身体が仰け反って逃げようとするが、抱きしめられて離れることが出来ない。
そのまま口の中に舌をねじ込まれ、口内も同時に犯される。その間も力強いピストンが止まることはなく、ずっと快楽を与えられ続ける。求められるままに貪られることに悦びを感じながら、こちらからも、もっと求めてほしいと求めて唇を押し付ける。
そのうち自身のモノから何かが込み上げてくるのを感じる。
「くろ、にいちゃ、オレ、もう…」
「あぁ…!俺のでイっちまえ!俺も、もう…!」
ラストスパートをかけるように腰を打ち付ける速さが上がっていく。その腰に中に出してほしいというように両脚を絡ませる。それに応えるようにクロ兄ちゃんの肉棒が深く深く差し込まれていく。
「あ、イ…くっ!んあああああ!」
「俺、も!あ、があああああああ!」
クロ兄ちゃんの腹の間でオレが果てて白濁とした液体で互いの身体を汚したのと同時に、オレの中でクロ兄ちゃんのモノが更に怒張し、熱いものが脈打つたびに注がれる。
射精している最中なのだが、本能なのか奥へ奥へと腰を押し出していく。そうして腹に熱を感じるたびに言い知れない感情が胸に宿るのを感じた。
長い射精を終えて、ハァハァと荒くなった息を整えながら互いに密着する。「重くないか?」なんて気を使ってくれてはいるけれど、離れる気はないようで背中に回された腕はそのままだった。
甘えるように首元に顔を埋めて太長い尻尾を撫でていると、未だに中に差し込まれていたものがまた大きくなってきたのを感じる。
「えっと、クロ兄ちゃん…?」
「悪い、ダイ。もっかい」
「はい!?んっ!…まっ、動か、あぁ!」
オレの返事を待たず、動き出した腰のストロークに強い快感の波が襲ってきて目の前の黒虎に抱き着く。それに気を良くしたクロ兄ちゃんはニヤッと口角を上げて艶めかしく腰を動かして、オレが快楽に身体をくねらせる様を楽しんでいる。
「…朝までダイは俺のなんだもんな」
耳元で低く囁いて、これが朝まで続くことを宣言してくる。それに抗議したくても、オレは与えられる快感に喘ぐことしかできない。
結局本当に朝まで泣かされ続け、終わったと同時に気を失うように闇の中へと意識を手放した。
◇
「いやー、昨日は呑まされて大変だったけど、ダイくんの手作りケーキを食べれるなんて嬉しいなぁ」
シロ兄ちゃんはニコニコしながらオレのことを膝に乗せて、チョコレートケーキをパクパクと食べ進めていく。喜んでもらえて嬉しい反面、昨日から今日にかけてのクロ兄ちゃんへの追加プレゼントのことを考えると、少しだけ罪悪感が顔を出して苦笑いになる。正面に座らなくて本当に良かった。
クロ兄ちゃんはクロ兄ちゃんで多少罪悪感があるのか、オレとシロ兄ちゃんが一緒に座っているのに、何の文句も言わずに正面でイチゴのケーキをおいしそうに食べてくれている。
あの後、眠ったオレを風呂に入れたり、後処理をしてくれたらしく、シロ兄ちゃんにクロ兄ちゃんとの情事はバレることはなかった。ただ、やっぱり匂いはついているらしく、起きてきたときにひと悶着あったことは言うまでもないが。
思い出して軽く冷や汗をかいていると、目の前にチョコケーキの一片が乗ったフォークが差し出される。
「はい、ダイくんも。あーん!」
上を向くと嬉しそうにオレを見つめるシロ兄ちゃんと目が合う。あ、これ絶対食べさせるって目してる。
素直に口を開いてフォークを口に含むと、チョコレートの香りとスポンジのふわふわとした食感が一噛みするたびに甘さと共に口の中に広がっていく。うん、我ながらおいしい。
それを見て満足そうな表情をしたシロ兄ちゃんは、また目の前のチョコレートケーキを食べ始めた。
「おい、ダイ。口にクリームついてんぞ」
「え?ど──」
どこに?と声を出す前にクロ兄ちゃんの顔が目の前に来て、口を覆うようにマズルが重なって唇を舐められる。
「うん、チョコも悪くねえな」
軽く舌なめずりした後、クロ兄ちゃんはいたずらに成功した子供のような無邪気な笑顔をしている。突然のことになにも出来ずただ呆然と目の前の黒虎を見続けた。
「く、く~ろ~や~~!!」
「なんだシロ。いらねえならそっちも俺が貰うぞ?」
怒りに震える白虎の声などどこ吹く風という感じで、黒虎は何も気にせず目の前のイチゴケーキを食べ続け、こちらにウインクなどしてくる。
オレの恋人の座を奪い合う白と黒の虎の双子。
オレの心を染めようとする、まるでリバーシのような二人の戦いは
「~~~~~~っ!!!!」
ちょっぴりクロが優勢だ。