嫉妬と罪

  ──あれは、とある日の出来事でした。

  「ゴメン、でチュ。」

  「え……?」

  彼女の言葉にキョトンとする僕でしたが、すぐにこちらへ向き直ると目線を合わせず子ネヂミさんは僕の横を通り過ぎようとしました。

  突然の事に理解が出来ない僕は、彼女を呼び止めます。

  「子ネヂミ、さん!」

  彼女はいったん足を止めますが、僕の方を向かないまま何処か申し訳なさそうな声で。

  「やっぱり、キミとはつきあえないでチュ。だから、ゴメンでチュ!」

  「ちょっ、ちょっと待って!……あ……。」

  そう言い残すと、彼女は僕から逃げるように走り去ってしまいました。

  訳も分からずその場に置いてけぼりにされた僕。

  とりあえず、彼女にフラれたということだけはすぐに分かったものの、昨日までの夢のような日々は何だったのかと思う程に、この時は喪失感でいっぱいになりました。

  「子ネヂミ、さん……うぐっ……うっううっ……。」

  そして一人残された僕は、ただただその場に泣き崩れました。

  [newpage]

  ことの発端は、少し前の事ですかね。

  まだ季節は秋真っ只中の頃、僕が雪山にほど近い草原を訪れた時でした。

  「さて、着きましたね。」

  普段僕はジャングルで暮らしてますが、こうして時々森や雪山に近い草原を訪れてます。

  ヘビである僕にとっては、寧ろこっちの方が居心地良いですからね。

  そういえば、今年はまだアジラさんとお会いしてないどころか彼を見かけてすら居ませんが、どうやら何かあったそうですね。

  今日此処に来たのは、そんなアジラさんの様子が気になったからでしたが。

  「アジラさん、確かあの人の元で暮らしてるんでしたっけ……。それにしてはおかしいですね~。」

  かつて、あの場所では直接ご一緒した事はありませんでしたが、僕達以上にあの人の為にと頑張っていたようです。

  まぁ実際はその出番を、僕がほとんど奪ってしまっていた気がしますが。

  モグラーニャさん、でしたっけ。あのモグラの人が自分の子供や奥さんを助け出して去っていった後、しばらくの間はこうして草原に来ると不思議とお会いする事が多くて、マイペースな僕と仲良くしてくれましたっけ。

  なので、今回も此処で会えると思ったんですが。

  「まぁ、此処で待っていても仕方ありませんし、今日の所は帰りましょうか。……ん?」

  「だれかー!たすけてでチュー!!」

  と、僕が草原に背を向けてその場を後にしようした時、ふと誰かの叫び声が聞こえてきました。

  すぐに気づいた僕は、声のする草むらを掻き分けながら進んでいくと、何やら網の中でもがいてる人が居ました。

  「ん、あれ?子ネヂミさん?」

  その正体は僕より一回り小さいハリネズミの女の子である、子ネヂミさんでした。

  [newpage]

  「ハァッ、ハァッ、た、たすかったでチュ~……。」

  「よいしょっと~……これで大丈夫ですよ。って、何してるんですか。」

  足が網に絡まっていたので、それを解いてあげると子ネヂミさんは自力で網から抜け出しほっと一息を吐く。

  ただ、何故子ネヂミさんがこんな所に居るんでしょうか。

  「っ!?べ、べつになんもしてないでチュっ。そもそもキミにたすけてなんていってないでチュ!」

  「いや、そのネヂミ捕りに引っかかってたじゃないですか~。」「うるさいでチュ!」

  プイッと僕から顔をそらす子ネヂミさん。

  あれ、僕なんか怒らせるような事言いましたっけ。

  「でも……ありがとでチュ。」

  「あ、いえいえ~。」

  ────

  その後はせっかくの縁ですしと、子ネヂミさんと過ごす事にしました。

  ヘビとハリネズミが一緒に居るというのは何だか不思議ですが、そんな事はどうでもいいでしょう。

  ただ、子ネヂミさんの顔が少しずつ赤くなっているのが気になりました。

  「ん?子ネヂミさん、熱でもあるんですか?」

  「チュっ!?べ、べつにそんなコトないでチュ!」

  子ネヂミさんの顔を少しからかうように、じーっと覗き込む僕。

  すると、僕から顔をそらすと真っ赤になりながら小声で。

  「ほんとですか~?」

  「っ……き、キミのせいでチュ……っ////」

  えっ……ぼ、僕のせい?って、何か言いましたっけ。

  何処か恥ずかしそうにする子ネヂミさんを見ていると、プイッとそっぽを向かれてしまいました。

  「フェイ、スネーク。」

  「はい?どうしました?」

  「その、えっと~……。」

  「子ネヂミ、さん?」

  しばらく、お互いに何も言えない状況が続いていましたが、こちらを向いてもらおうと子ネヂミさんに話しかけようとしました。

  そわそわする様子を見せる子ネヂミさんを不思議そうに見つつ、声を掛けようとした時。

  「あ、あたちでよかったら……チュきあうでチュ!////」

  「えっ……ええ!?」

  子ネヂミさんは突然、僕の顔を見ると予想もしていない事を口にしてきました。

  その時の彼女の顔は真っ赤なままでしたが、先程までとは違って真剣そのものという感じ。

  もちろんこの時の僕はいずれあんな事になるとは思わなかったので、素直に子ネヂミさんからの告白を受け入れ、僕は彼女と付き合う事になりました。

  [newpage]

  「フェイスネーク~、こっちこっちでチュ♪」

  「あ、は~い。」

  「これなんてキミににあうとおもうでチュっ。」

  「ええっ!?ちょ、僕男ですし似合いませんよ~っ。」

  「あたちのセンスをうたがうでチュか?だまってうけとるでチュっ。」

  「うっ……あ、ありがと~ございます(子ネヂミさん怖いな……)。」

  子ネヂミさんに突然の告白をされてから、毎日のように僕は子ネヂミさんと一緒に過ごしていました。

  ある時はほぼ一日ずっと一緒という日もありましたね。

  消極的な僕はほとんど彼女のペースに振り回されてばかりでしたが、こんな僕にとって初めての彼女という事もあってか幸せで一杯でした。

  「あっ!そろそろかえらないとでチュっ。」

  「あ、はい~。もうこんな時間ですからね。」

  「またねでチュ~!」

  「はい、子ネヂミさん♪」

  ただ、本当にこの時はこんな日々がずっと続くものだと思っていました。

  あの日が来るまでは──。

  [newpage]

  子ネヂミさんにフラれた僕は、しばらくの間彼女と付き合っていた時間のことを忘れようと思って元の住処で過ごすことにしました。

  何故急にあんな事を言われたのか分からないまま。

  「子ネヂミさ……いやいや!もうあんな人の事なんかどうでもいい。忘れろ、忘れるんだ……っ。」

  ふとした瞬間、忘れたいのに何度も浮かんでくる彼女の姿。

  確かに、僕は本気で子ネヂミさんの事を好きでいたつもりでした。しかし、当の彼女にとっては僕の事はそれほど好きではなかったのかもしれないですね。

  あの時、ただ謝るだけで何故断ったのかを話さなかった子ネヂミさん。

  「……まさか、僕の顔の事で……。」

  ふと一つの要因が頭に浮かんでくると、近くにあった水たまりの前へ行きそこで自分の顔を改めて見てみました。

  そこに映っているのはヘビらしく大きな口と、のんびりとしたような目。まぁ僕の顔です。

  「そういえば子ネヂミさん、あまり僕の事を見ようとしなかったよなぁ……。それもそうか。」

  子ネヂミさんと過ごした僅かな時間のことを振り返ると、ほとんど彼女が僕の顔を見る事はなかったように思います。

  でも、それなら何故僕なんかと付き合おうと思ったんでしょうか。やはり意味が解らない。

  「……ちょっと、散歩でもしに行きましょうかね。」

  考えても考えても仕方の無くなった僕は、このままで居ても仕方がないと思い、気分転換にと住処から出て森へ向かう事にしました。

  ただその行動によって、今の僕にとどめを差す出来事が起きるとも知らずに──。

  ────

  住処であるジャングルを抜け、森へとやってきた僕。

  その道中、もしかしたらアジラさんと会えるんじゃないかと思っていましたが、やはりそんな事はありませんでした。

  ひょっとしたら彼にも何かあったんですかね。まぁ、僕には関係ない事ですけど。

  「ここに来るのは久しぶりですね。」

  子ネヂミさんとのデート中にも一度だけ訪れた事はありますが、あの時はそれほど長居しなかったのでまともに来たのはかなり前になりますかね。

  僕自身ジャングルで育ってきた身ですからあまり縁がない場所ですが、あの人の元に仕えてた頃とあるモグラの事について教わる時、よく此処へ案内されてましたっけ。

  「もう、1年近く前になりますね。ん……?」

  ふとそんな過去の思い出にふけっていると、何処からか聞き覚えのある男の声と女の子の声がしてきました。

  どうやら此処からそう離れてない所からみたいですね。

  「何だろ……何かこの前会ったような感じのする声。」

  気になって、その声の主へと向かっていく僕。

  すると、森の入り口近くに居たのは、まさしくさっき頭に浮かんでいたサングラスをしたモグラと、僕達と共にあの人に従えていたはずのウサギの女の子、もといラビッピさんの姿でした。

  「え……。なんで、あのモグラと……?」

  当時の僕は、モグラもといモグラーニャさんに対してあまりいい印象を持っていませんでした。

  多分、子ネヂミさんと彼に対する気持ちだけは一緒だったのかもしれませんね。

  気になって仕方が無くなった僕は、二人の様子を探ろうと茂みの中からよく見える場所へと足を進めてみる。

  ただそこで見たのは、僕にとって信じられない二人の姿でした。

  [newpage]

  「あ、あの……モグラーニャさん……。」

  「なんだ?ラビッピ。」

  「その……わっ、わたしと付き合って下さいっ!////」

  偶然って言うのか、僕はタイミングを間違えたのかもしれない。

  どういう経緯でそうなったのか知る由もありませんが、まさかあのモグラに、あの子から告白するなんて……。

  「ぼっ、ぼぼ……僕の目の前で……っ。」

  その後のやり取りが全く耳に入ってこなかった僕は、その場に呆然と立ち尽くす。

  それと共にもう忘れたはずの、同じ女の子である子ネヂミさんにフラれた時の瞬間が頭に蘇り、すぐに僕は逃げるようにしてその場を去る事にしました。

  《やっぱり、キミとはつきあえないでチュ。だから、ゴメンでチュ!》

  《その……わっ、わたしと付き合って下さいっ!////》

  何故だ!何故、僕はこんな目に遭ったのにあの人は……。

  走っている間にも、僕の頭の中で子ネヂミさんとラビッピさんの放った言葉が交互に響き渡ります。

  「ハァッ、ハァッ……く、くそっ!!」

  恐らく僕にとって、初めて苛立ちを覚えた瞬間だったかもしれませんね。

  何せ、今までこんな経験をした事はなかったものですから。

  嗚呼なるほど、これが俗に言う『嫉妬』というものですか。

  感情が乏しいと思われている僕にも、そんなものがあったんですね。

  「……あんなモグラ如きに……。ん?そうだ、良い事を思いついた……よし。」

  僕は、その時に芽生えた嫉妬心からあの人を同じ男として許す事はできず、その為にラビッピさんを僕のものにして、あの人にも僕の受けた屈辱を味わわせてやりたいと思うようになりました。

  ────

  早速、翌日から僕は住処を森へと変え、あの[[rb:モグラ > ひと]]が来るのを待ち構える事に。

  でも、実際に来るのはラビッピさんだけであの[[rb:モグラ > ひと]]の気配は全く感じなかったので、数日経ったある日にはこれではダメだと諦めかけもしましたが、何か他にも気を紛らせる事はあるんじゃないかと思うものの、どれも僕の傷を癒せるものはなかった。

  なので、あの[[rb:モグラ > ひと]]の目の前でラビッピさんを自分のものにするまで諦める訳にはいかない。もう只管ラビッピさんの事を追い続けるしかない……。

  「よいしょっ……と。あともう少し欲しいですね……っ。」

  「僕には、もうあの子しか居ない!」

  僕はそう拳を握ると、目の前でせっせとキャビッジやキャロットを集めているラビッピさんの姿を、ただただじっと監視することにしました。

  ただ、いずれ彼女に見つかってしまう日が来るとも知らずに──。

  [newpage]

  ラビッピさんを監視しつつ、例のモグラが来るのを待ち続けて数日が経ったある日。

  僕はうっかり、彼女より先に泉の近くへ来るのを忘れてしまい、大慌てでその場所へと向かっていました。

  「ううっ、どうして今日に限って寝過ごしちゃったんだ……。」

  昨日は、たまたま遠く離れた雪原から遥々近くを訪れていたエンペラさんと出会った為にほぼ一日、森へ向かう事が出来ずに居ました。

  さすがにこの事を他人に知られる訳にはいかないと、敢えてこの場所を避けていたせいもありますかね。

  ただ、エンペラさんはさすがと言うべきか終始僕が何を考えてるのか怪しんでくる事がありました。まぁ何とかごまかせましたが。

  コウテイペンギンを敵に回したら、僕のようなヘビでも相手にならないですからね。

  と、そんな事を振り返っていると何とか森に着きました。

  そして僕は警戒するように辺りを見回すと、他に誰も居ない事を確認して泉へと近づきます。

  しかし泉が見えてきた共に、誰かがこちらへ向かって走ってくる足音がしたものの、この時の僕はそれに気づく事はなく、誰も居ないと思っていた泉の前に着いて一息を吐いて顔を上げると、目の前に居たのは、一番今の僕の存在に気づかれてはいけなかったラビッピさんの姿でした。

  「今日もたくさん集められるかな……っ、きゃぁっ!?」

  「あ……。」

  [newpage]

  「いたたっ……ふ、フェイスネークさん……?」

  「……アハハ、どうも。」

  同じく僕の存在に気づいていなかったのか、驚いてその場に尻もちを付いたラビッピさんの反応に、「しまった」と思った僕はすぐに苦笑いをし背を向けようとする。

  思えばいつも彼女がここに居るのは今くらいの時間でしたね、完全にこの時の僕はやらかしてしまいました。

  「どうしてここに……。」

  「え、えっと~……ちょっと気分転換にと思いまして。いやっ、まさか、あ、らっ、ラビッピさんこそ何してたんですか?」

  ラビッピさんの様子を察した僕は誤魔化す様にそう返し、何故此処に居るのか分かっていながらも質問を返す。

  「わ、わたしは……えっと……。ぁっ、忙しいのでごめんなさい……!」

  すると、ラビッピさんはそう言い残して森の外へと走っていきました。

  まるで僕を怪しんで、避けるかのように見えましたが。

  「ハァ……僕とした事がやっちゃいましたね。まぁいっか。」

  そう溜息を吐くと、一人残された僕はそのまま森を後にすることに。

  ただこのミスのせいで、いずれあんな事になるとはこの時の僕は想像もしていませんでした。

  ────

  その翌日の事。

  僕はいつも通りの時間に森へとやってきましたが、さすがにあんな事があってかラビッピさんの姿はありませんでした。

  やはり、昨日の件で彼女に警戒させてしまったかもしれませんね。

  「まぁ、待ってればそのうち来るでしょう。」

  ただ、僕は此処で諦める訳にはいかないと森の入り口でラビッピさんが来るのを待つ事にしました。

  そもそも彼女はあの子と違って優しそうですから。実際、子ネヂミさんと違ってちゃんと僕の顔を見て話してくれましたし、昨日はたまたま見つかったタイミングは悪かっただけでびっくりさせてしまっただけでしょうから……。

  と、そう思って待っては見るものの既にサンデスさんが真上に居る時間になり、やはり今日は来ないかと思って、諦めて自分の巣へと帰ろうと思った矢先。

  「今日は居ないみたいだし、帰ろうかな~。……って、あ、アジラさん!?」

  「……あぁ、おれだ。」

  いつの間にか、僕の目の前に睨みを利かせて立つアジラさんの姿がありました。というか、今まで何してt……ぐはっ!

  [newpage]

  あれから訳も分からずアジラさんに連行され、その場に居るあの[[rb:モグラ > ひと]]ことモグラーニャさんとラビッピさんの前に放り出された僕。

  勢いでその場に倒れると、何故かそんな僕の元へラビッピさんが駆け寄ってきました。

  「フェイス……ネーク、さん……?」

  ラビッピさんが驚きと心配の様子を見せて僕の名前を言いながら、覗き込んできました。

  不意に視線をそらそうとしますが、そんな彼女の様子を察すると、次第にどこか申し訳ない気持ちが込み上げてきた僕は、観念したようにラビッピさんに頭を下げました。

  「……っぐ……ゴメン……。」

  「ご……ごめん、って……どうしてこんな事を……?」

  その後は正直に事の経緯を話し、その途中取り乱したモグラーニャさんに殴り掛かられそうになったりしましたが、僕が話し終えると彼は一言だけ諭して、ラビッピさんを連れて森の中へと向かっていきました。

  果たして許してもらえたのかは分かりませんが、その時の僕は子ネヂミさんにフラれた時のようにしばらく何も考えたくない気持ちで一杯に。

  しかし、同じく残されたアジラさんは。

  「……フェイスネーク。」

  「あ……さっきは悪かったな。まさかそんな事があったとは思わなかった。」

  僕を突き飛ばした事を謝ると共に、ふと何処か似たような境遇に置かれていた事を話し始めました。

  まさか、アジラさんにもそんな事があったとは……。だから、しばらく会いに行っても居なかったわけですか。

  「なるほど、それは辛いですね。」

  「まぁ、今となってはもはや如何でも良い事なんだがな。何分、アイツの事が頭から離れなくてさ。」

  アジラさんも普段は表情に乏しい方ですが、この時ばかりはそんな表情から何処か寂しさや憎しみを感じましたね。

  ただ、僕は単に子ネヂミさんにフラれたというだけですが、唯一信頼を寄せていた人に裏切られたアジラさんと比べるのは申し訳ない気もしましたが。

  「……アジラさんはもう一度、[[rb:じんべえ > あのひと]]を信じたいとは思ってます?」

  「それは……。」

  僕もまだ、子ネヂミさんを諦めた訳では無いですし、きっと彼にもまだあの人間への思いはあるんじゃないかと、浅はかな考えでそう訪ねてしまいました。

  しかし、彼の答えは当然ですが……NOでした。

  「……仲直りを期待してるなら、おれは残念だがそのつもりはない。だから……。」

  「お前も吹っ切れろ!」

  「いっ……!そ、そうですね!有難うございます、アジラさん!」

  「ああっ。頑張れよ。」

  

  その代わりに、アジラさんは滅多に見せない笑顔を見せて僕の背中を叩いてくれました。

  バシン!と恐竜らしい勢いだったので、しばらく手の跡が残っていたようですが。

  ただそうは言われたものの、やはり彼と違って僕の場合は吹っ切れる事はなかったですね。何と言うかまだその可能性は残されてるような気がしますから。

  その後は何故かその場で僕達のやり取りを聞いていたガジャさんと、僕達男3人でですがその日の晩まで話し込んでいました。

  まぁ、ほとんどガジャさんの一人語りでしたが。

  [newpage]

  ──そんな事件からまた月が経って。気づけば、季節は秋から冬へと変わっていました。

  あれ以来、ラビッピさんとは普通にお会いし話もするようになりましたが、やはり以前よりもお互いに一歩退いたような関係になってしまいましたね。

  本人はもう気にしてないそうですが、僕がヘビだからなんでしょうか。

  まぁ、思えばお互いそこまで積極的な性格ではないですから当然かもしれませんが。

  「もうすっかり冬になりましたね~。」

  ヘビとは言え、僕は冬眠はしないのでこうして普通に北風の吹き付ける森へとやってきます。

  そういえば、この時期になると雪山の方からハリネズミの一家が、度々森を訪れるようになるとか聞いた事がありますね。

  「ん……子ネヂミさん……。」

  ふと、そのハリネズミの一人である子ネヂミさんの姿が頭に浮かんできました。

  しかし僕にとってはすでにフラれた身、まだ完全に諦めた訳ではありませんが、どうせ僕の事は避けるでしょう。

  「っ……。やっぱり、帰りましょうか。ん?」

  子ネヂミさんとの思い出が頭に浮かび始めてきたので、僕はそれを忘れようとばかりにすぐに来た道を引き返そうとしました。

  と、その時突然何処からか僕を呼ぶ声が聴こえてきてその場に足を止めます。そして振り返るとそこに居たのは。

  「子ネヂミ、さん……?」

  「フェイスっ、ネークっ……やっと、あえたでチュっ。」

  今頭の中に思い浮かんできた、僕の[[rb:元彼女 > モトカノ]]である子ネヂミさんの姿でした。

  [newpage]

  「っ、い、今更僕に何の用ですか……?」

  別れを告げられてからかなりの時間が経っていますし、本当に何を今更といった感じですよ。

  会えたとか言ってますが、そもそも僕達もう付き合っていませんし。

  ──とそう思っていると、子ネヂミさんはどこか申し訳なさそうな顔をして。

  「その、……ゴメンなさいでチュ!」

  「えっ?」

  僕に向かって、小さな頭をぺこっと下げてきました。

  「あのときはいっぽーてきだったっておもってるでチュ。だから……。」

  「子ネヂミさん……。」

  そう謝ってきた子ネヂミさんを見ると、あれから今に至るまでの事が頭に浮かんできて、素直に許す気にはなれない僕。

  そもそも、別れるきっかけとなったのが何なのか分からない為にどういう反応をすればいいんでしょうか。

  「で、でもっ。別れたのは僕がこんな顔だからですよね?」

  「……チュ?」

  そこで子ネヂミさんが最後にとった仕草を思い出すと、そう凄んで子ネヂミさんを問い詰めます。

  僕には正直それ以外には思いつきませんでした。

  「とぼけないで下さい!言いたい事は……っ。」「あたちがいつそんなコトいったでチュ?」

  「……え……?」

  しかし、そう僕が言いかけた途端、彼女は不思議そうな顔をしてそう言いました。

  ────

  あれ、もしかして僕の気のせい?

  目の前で子ネヂミさんは不思議そうに僕を見つつ言います。

  「あれはごかいでチュ!あたちがキミとのおチュきあいをことわったのは、そんなりゆーじゃないでチュ。」

  「と、言う事は……?」

  「それは……あたちが、まだみじゅくだからでチュ……。」

  そう言って俯く子ネヂミさん。

  はぁ、あの時きちんと理由を聞いておくべきだったなと、そんな様子を見て後悔しました。

  もしそうしていれば、僕はああならなくて済んだかもしれないなと、ラビッピさんにしていた事が頭に蘇ってくる。

  「で、では、今は僕と付き合ってくれますよね?」

  ただ、その考えも今なら変わってるんじゃないかと思い、僕は子ネヂミさんを諦めきれず、復縁を申し込みました。

  ですが──。

  「……それは、ゴメンなさいでチュ。」

  「そ、そう……ですか……。」「でも……。」

  やはりと言うべきなんでしょうか、案の定断られてしまいました。

  ただ、子ネヂミさんは僕の方を向くと続けて。

  「あたちのお、おともだちになら……なってもあげてもいいでチュ、よ?」

  「えっ……? いてっ!」

  思ってもないような言葉を掛けられると、僕は一瞬これは夢なんじゃないかと思えてきて自分の鼻先を引っ張ってみました。

  しかし、夢じゃなく現実。

  「べっ、べつにムリにとはいわないでチュ!というかキミにはあたちが……。」「あ、ありがとうございます!」

  わざとらしくツンとする子ネヂミさんを遮って、嬉しくなった僕はそれを了承しました。すると……。

  

  「……//// ま、まださいごまでいってないでチュ!」

  「あれ?顔赤いですよ?熱でもあ……いたぁ!!」

  「き、キミのせーでチュっ!そもそもキミがラビッピをいじめるからでチュ!!////」

  「えっ!?い、いじめてなんかうわぁ!!」

  「うるさいでチュ!アジラからぜんぶきいたでチュ!だからおしおきでチュ!////」

  「ご、ごめんなさ~い!!」

  頬の辺りが赤くなっている事を指摘すると、子ネヂミさんに小さな前足でポカポカと叩かれ、それと共に体のハリに刺される僕。

  というか、いつの間にアジラさんからそんな事を聞いたんでしょうか?

  まぁ、そんな事はさておき。お付き合いを始めた頃はこんな仕草を見せなかった子ネヂミさんでしたが、小さい割に心はもう僕達と変わらないんですね。

  ああ、子ネヂミさんやっぱり可愛いっ……。痛いですがそれも愛なんですね。

  そんなこんなで僕は復縁こそ果たせなかったものの、無事に子ネヂミさんと仲直りをすることができました。

  はぁ……僕とした事が、とんだ勘違いでしたね。

  [newpage]

  ──それから、数日が経ったある日。

  既に季節は冬から春へと変わろうとしていた頃の事。

  「今更ですが、ごめんなさい!」

  「ぇ、えっと、大丈夫ですよ……?わたしはもう、気にしてないので……っ。ぁ、そういえば、子ネヂミちゃんと仲直り出来たんですね……?」

  「はい!まぁお陰様でなんとか~。」

  子ネヂミさんに諭されて森へとやってきた僕は、ちょうどその場に居たラビッピさんを見つけるなり、以前は一言だけでしたが彼女を付け回していた事を改めて謝りました。

  かなりの時間が経ってしまったという事と、あの時は自分としてもちょっとおちゃらけていたと思い、さすがのラビッピさんでも許しては貰えないかなと不安になっていまさたが、そんな事はなく安心しました。

  「ただ、お付き合いに関しては断られちゃいましたが……アハハ。」

  「そ、そうなんですか……。で、でもきっと、フェイスネークさんにも好きな人、出来ると思います……!」

  「ホントですか!?」「は、はい……!多分……っ。」

  あれ、そういえばさっきからどうして僕と視線を合わせないんでしょう?まぁいいか。

  その後はラビッピさんから、かつてはモグラーニャさんに告白をしたものの、当時はまだ彼に奥さんと子供が居る事を知らなかったらしくお付き合いする事が出来なかったというような話を聞き、僕と似たような境遇に置かれていた事を知りましたね。

  ただ、僕は子ネヂミさんとお付き合いしてからフラれたので、少しの間でも幸せな時間を過ごせたという意味ではマシだったのかなぁと思いましたが。

  しかし、まさかとは思いましたが子ネヂミさんから聞いた通り、本当に今では彼の家族になっているそうですよ。

  ────

  さて、以前ならばあまりお話しする機会も、ましてや会う事もなかったラビッピさんとほぼ初めてまともに会話をしていたら、気づけばサンデスさんが真上に位置する時間になっていました。

  「ぁ、ごめんなさい……!つい話し込んじゃいました……っ。えっと、そろそろ行きますね……?」

  「あれ?もうそんな時間ですか~……って、僕もそろそろあの人を待たせてるので行きますかね。」

  「そうなんですね……っ。えっと、その、楽しんできてくださいね……?じゃぁ、またです……っ!」

  「あ、有難うございます~。ではでは。」

  

  お礼を言い森の中へと歩いて行ったラビッピさんを見送ると、僕はその人の元へと向かう事にしました。

  そう、僕の[[rb:元彼女 > モトカノ]]かつお友達である子ネヂミさんの元へ──。