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ルベル達の軌跡  第一章アマネとレイの出会い

  陽光が川面をキラキラと照らす、穏やかな昼下がり。

  アマネは一人、河原で水に足を浸し、自分の背中にあるハートマーク――あの日の事故で親を失ったときから背負っている呪縛のような傷痕を、ぼんやりと眺めていた。群れから離れて数日、慣れない旅の疲れだけでなく、「親を死なせた」と冷たく言い放たれた記憶と孤独が、風に乗って胸を締め付ける。

  「……あっちの石の上、何か光ってるかな」

  暗い思い出に沈みかけていたアマネが、ふと顔を上げたその時。川向こうからひょいっと飛び越えてきた影があった。

  淡い水色と星のような輝きを纏った、おおかみの男の子―。

  「やっほー! こんなところで何してるの? もしよかったら、僕と一緒に遊ばない?」

  驚いて目を丸くするアマネに、初めて会う子は全く警戒心を感じさせない無邪気な笑顔を向ける。そのあまりの自然さに、アマネの強張っていた心も、つられて少しだけ解けた。

  「……遊ぶ、の?」

  「そう! この川、水がすっごく綺麗なんだよ。競争しようよ!」

  そこからは、あっという間だった。レイのペースに巻き込まれるように、アマネは水しぶきを上げて走り回った。誰かに責められることも、避けられることもなく、ただ純粋に笑い合える。アマネにとって、今年は親を亡くして以来、何年ぶりかもわからないほどの「楽しい時間」だった。

  たっぷり遊んだあと、二人は大きな木の根元に腰を下ろした。レイが魔法のようにどこからか取り出した、美味しそうなおやつ。それを二人で分け合いながら、温かな空気に触れたことで、アマネは少しずつ心の蓋を開き、ポツリポツリと自分の過去を話し始めた。

  「ぼくね……昔、事故に遭って、ぼくを庇ってくれた親を亡くしたんだ。そのとき、周りのみんなから……『親を死なせた』って言われて、居場所がなくなっちゃって……」

  アマネの声は震え、小さな肩が小さく上下していた。けれど、レイは途中で遮ることなく、じっとアマネの瞳を見て話を聞いてくれた。孤独に耐えかねて群れを飛び出した痛みをすべて受け止めるように、レイは優しくうなずく。

  食べ終わる頃には、アマネの心にあった棘のような孤独は、レイの穏やかな空気に包まれて、少しずつ静まっていった。

  「……そっか。一人でずっと、そんな痛みを抱えて生きてきたんだね」

  レイは寂しげに、けれどどこまでも優しく微笑むと、アマネの小さな頭をぽふっと優しく撫でた。

  「ねえ、もし行き場がないならさ。僕と一緒に来る? 僕の家、意外と広いんだよ。これからは、僕がそばにいるからさ」

  美味しいおやつを完食し、心がすっかり軽くなったアマネは、ふと気になったことを尋ねてみた。

  「あのさ、レイ……。ぼくには色々あったけど、レイには両親とか、仲間がいた群れとかってないの?」

  アマネが恐る恐るそう聞くと、レイは少しだけ目を丸くしたあと、困ったように優しく微笑んだ。

  「うーん、両親や群れかぁ……。一応、名前だけの親ならいる気がするけど、育ててもらった記憶とかは特にないんだよね。気がついたら一人だったし、自分がどこで生まれたのかもよく分からないんだ」

  「えっ……そうだったの?」

  「うん。だから、寂しいって思ったこともあんまりないかな。こうやってみんなと一緒に遊ぶのが楽しいしね」

  どこかあっけらかんとしていながらも、どこか切なさを感じさせるレイの笑顔。

  アマネは、自分と同じように居場所を探していたのかもしれないその横顔を見つめながら、「じゃあ、これからはぼくがずっと一緒にいるんだ」と、胸の中でそっと誓うのだった。

  別の日

  それは、レイと一緒に暮らすようになってから、少し日数が経ったある日のことだった。

  アマネが一人で近くの道を散歩していると、見覚えのある制服を着た姿が視界に入った。かつて、群れの中で塞ぎ込んでいたアマネに「外の世界」や楽しい話を聞かせてくれた、あの配達員だった。

  「あっ、もしかして……!」

  アマネが駆け寄ると、配達員は懐かしそうに目を細めて笑った。

  [i:[[rb:テキスト > ふりがな]]]おや、アマネくんじゃないか。こんなところでどうしたんだい? その背中の羽、少し大きくなったみたいだな」

  「うん! ぼく、いまは素敵なところで暮らしてるんだよ」

  そう言って、アマネは今の現状――行き場がなかった自分をレイというおおかみの男の子が拾ってくれて、一緒に楽しく暮らしていることを嬉しそうに話した。すると、配達員は「レイ……?」と小さく呟き、ふっと表情を和らげた。

  「そうか、あいつのところに身を寄せているのか。……いやあ、奇遇だな。実はそのレイって名前、昔わたしがつけたんだよ」

  「えっ、やっぱりそうなんだ! この間レイも言ってたよ。名前をくれたのは出会った配達員のおじさんだって」

  「はは、そう言ってくれるなら嬉しいね。あいつ、元気にしているかい?」うん、すごく優しくしてくれて――と言いかけたところで、アマネはふと気になっていたことを思い出した。

  「あのさ……レイって、自分の生まれた場所とか親のこと、よく覚えてないみたいなんだ。名付け親のレイのこともしばらく忘れてたし……」

  それを聞いた配達員の表情が、少しだけ真剣なものに変わった。彼は周囲を軽く見回すと、アマネの近くに屈み込み、内緒話をするように声をひそめた。

  「……アマネくん、それは無理もないさ。あいつ、昔に一度大きな記憶喪失になっているからね」

  「きおくそうしつ……?」

  「ああ。詳しい経緯までは僕も知らないけど、過去の記憶をごっそり失くした状態でフラフラしていた時期があったんだ。だから、自分の過去や本当の家族のことを思い出せなくても無理はないのさ。……ま、あいつが今の暮らしを楽しくやっているなら、余計な詮索はしないほうがいいかもしれないな」

  「そうだったんだ……」

  レイの無邪気な笑顔の裏にあった、ぽっかりと空いた過去の空白。その秘密をこっそりと教えられたアマネは、驚きと少しの切なさを覚えながらも、これからは自分がその隣でたくさんの思い出を作っていこうと、胸の中でそっと誓うのだった。

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