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犬獣人の耳と尻尾を触ったら本気の求愛行為だったから、毎日撫でて俺のものにした話

  雨の匂いに似た獣の体温を、俺はこの世界で最初に覚えた。

  目を開けたとき、空は見慣れた灰色のコンクリート天井じゃなく、枝と枝のあいだから覗く青だった。肺に入ってきた空気はやけに濃くて、土と草と、知らない花の甘さが混じっていた。頭は痛いし、全身はだるいし、スマホは圏外どころかただの黒い板になっている。仕事帰りにコンビニへ寄ったはずなのに、気づけば森のど真ん中。

  帰り道がわからないなら、とりあえず生きる。水を探す。人を探す。身体が動くうちに動く。もともとジム通いが趣味で、無駄に体力と筋力だけはある。パニックで座り込む柄でもない。立ち上がって、肩を回して、周囲を見回した。

  そこで茂みが揺れた。

  獣が出た、と思った次の瞬間には、俺は倒されていた。

  「……っ、うお!?」

  重い。とにかく重い。胸の上にのしかかってきた影は、狼か犬かと思うほど大きくて、けれど次の瞬間には人間の形をしていた。いや、人間“に近い”と言うべきか。太い腕。広い肩。日に焼けたみたいな褐色の肌。短く刈った焦げ茶色の髪の上には、ぴんと立った犬耳。そして腰のあたりには、太くて立派な尻尾。

  金色の目が、俺をじっと見下ろしていた。

  鼻先が触れそうな距離でそいつは俺の匂いを嗅いでいた。すん、と短く吸って、また吸う。あたたかい息が頬にかかるたび、こっちまで変に落ち着いてしまう。警戒すべき状況のはずなのに、相手の目にあるのが剥き出しの敵意じゃないとわかるからだろう。まっすぐで、子犬みたいに好奇心が強くて、それでいて身体つきだけは洒落にならないほどでかい。

  耳がぴくっと動いた。目の前でぴんと立った三角の耳が小さく震える。着ぐるみでもコスプレでもない。本物の毛並み、本物の筋肉の動きに合わせて、付け根から自然に動く耳と尻尾。

  異世界。そういう単語が、今度は本気の重みを持って頭に落ちた。

  「降りてくれないか。結構重い」

  「あ、悪い」

  そいつは慌てて俺の上から退いた。起き上がった瞬間、その体格の良さがよくわかった。俺も日本じゃかなり鍛えてるほうだが、こいつは骨格からしてひと回り大きい。肩幅も胸板も厚く、腕は丸太みたいだった。腹筋の上に斜めに走る傷跡まで見える。野生っぽいのに、立ち姿には妙な律儀さがあった。俺を押し倒したことを本気で悪いと思っているらしく、耳が少し寝ている。

  「おれ、リュカ」

  胸を拳で軽く叩いてから名乗る。その仕草まで犬っぽい。いや、犬獣人なんだから当たり前かもしれないが。

  「俺は——」

  一瞬、自分の名前を口にしていいのか考えて、それでも隠す意味もないと判断した。

  「直人」

  「ナオト」

  発音を確かめるみたいに、ゆっくり繰り返される。喉の奥が低く震えて耳に残った。

  リュカはもう一度、今度はさっきより遠慮なく俺の首筋に顔を寄せてきた。すん、すん、と鼻を鳴らし、眉を寄せる。

  「変な匂いする」

  「傷つく言い方だな」

  「嫌な匂いじゃない。知らない匂い」

  言い直しが素直で、思わず笑った。こういうところで敵意がないとわかると、だいぶ気が楽になる。

  「ここ、どこなんだ」

  「ベイルの森のはずれ。村はあっち」

  リュカが親指で後ろを示す。太い腕の筋肉が盛り上がる。

  「歩けるか」

  「歩ける」

  「じゃあ来い。ひとりだと死ぬ」

  ずいぶん率直だが、たぶん事実だ。俺はうなずいた。

  歩き出してすぐ、この世界がちゃんと“異世界”なんだと実感した。

  木はやたら高く、幹に青い苔が光る。鳥みたいな声で鳴くくせに、影は四枚羽に見えた。足元の草は踏むたびに薄く甘い香りを出す。日本の山に似た部分もあるが、ところどころ現実感がずれている。

  そして隣を歩くリュカの存在が、何よりそのずれを強くした。

  耳が動く。尻尾が揺れる。足取りが軽い。何か物音がするたび、首がそちらを向き、耳がぴんと立つ。全身が感覚器官みたいだ。

  でかい体なのに、しなやかだった。

  「おまえ、どこから来た」

  「たぶん、すごく遠いところ」

  「方角は」

  「そういう遠さじゃない」

  「?」

  首を傾げる。耳も一緒に傾く。その様子があまりにも無防備で、俺はつい手を伸ばしそうになった。

  犬を見たら頭を撫でたくなる、あれに近い衝動だ。だが初対面で耳を触るのはさすがに失礼かと思い、踏みとどまる。

  村に着いたとき、日がだいぶ傾いていた。

  木柵で囲まれた小さな集落で、家々は丸太と石でできている。煙突から白い煙が上がり、家畜らしい鳴き声も聞こえる。人間に近い見た目の者もいれば、耳や角、尻尾を持つ者もいる。みんな一瞬俺を見るが、リュカが一緒だとわかると、それ以上は何も言わなかった。

  「おれの家、空いてる。来い」

  「そんな簡単に他人を入れていいのか」

  「変なことしたらぶん殴る」

  真顔で言うからまた笑ってしまう。

  リュカの家は村はずれにあった。独り暮らしには広めで、土間と居間、寝床の部屋がある。狩り道具や干し肉が整然と並んでいて、意外なくらいきちんとしていた。

  獣くさい巣みたいな場所を想像していたわけじゃないが、ここまでちゃんとしているとは思わなかった。

  「手、洗え。水はこれ」

  木桶を示され、言われるままに泥を落とす。冷たい水が気持ちいい。

  そのあと出されたのは、根菜の煮込みと平たいパン、燻した肉だった。見た目は素朴だが腹が減っていたせいもあって、驚くほどうまい。

  俺が夢中で食っていると、向かいに座ったリュカがじっと見ていた。

  「……足りるか」

  「今のところは」

  「もっと食うか」

  「いや、大丈夫。助かった」

  礼を言うと、リュカの尻尾が一度だけ床を叩いた。たぶん機嫌がいい合図だ。

  それから数日は、とにかく生きるための知識を詰め込む時間だった。

  この土地は王都から離れた辺境で、村は狩りと畑で食っていること。文字と言葉は多少違うが、会話自体はなぜか不自由が少ないこと。異国人や流れ者もいないわけじゃないから、俺みたいな“よそ者”もひとまずはリュカの保護下なら許されること。

  俺はそのままリュカの家に居候することになった。

  恩を返すため、薪割り、水汲み、畑仕事、家の修繕、何でも手伝った。鍛えていた体はこういう場面で役に立つ。最初は「おまえ、無理するな」と心配していたリュカも、三日もしないうちに黙った。

  むしろ、俺が斧を振るうたびに横で感心したように鼻を鳴らし、井戸から水桶を二つ同時に運べば、金の目を丸くするようになった。

  「ナオト、やっぱり弱くない」

  「最初からそう言ってるだろ」

  「でも、匂いは柔らかい」

  「褒めてるのか?」

  「褒めてる」

  真顔で言って、尻尾をぱた、と一度揺らす。

  その尻尾が、どうにも目につく。

  太くて、根元はしっかりしていて、先にいくほど毛がふわりと長い。焦げ茶の毛並みにはところどころ陽に透ける金が混じっていて、動くたびに艶が出る。忙しくしているときは大きく揺れ、警戒しているときはぴたりと止まり、飯の匂いがすると隠しきれずに床を叩く。

  耳も同じだ。言葉より正直で、感情が丸見えだった。

  つい見てしまうのは、しょうがないと思う。

  [newpage]

  ある日の夕方、薪を積み終えて家に入ると、リュカは床に片膝を立てて罠の手入れをしていた。汗をかいた背中が薄いシャツ越しに張っていて、肩甲骨が動くたび布がきしむ。俺は井戸水で手を洗いながら、その後ろ姿をぼんやり眺めた。

  すると、ちょうど目の前で尻尾がゆっくり揺れた。

  触りたい、と思った。

  本当にただ、それだけだった。

  犬とか猫とか、ふわふわしたものを見ると手が出る。昔からそうだ。相手がでかい男だろうと獣人だろうと、本物の耳と尻尾があるならなおさらだ。

  深く考えず、俺は通りすがりみたいな顔でその尻尾の先を摘んだ。

  ぴたり、とリュカの手が止まった。

  「あ」

  しまった、と思ったときには遅かった。

  金色の目が、ものすごくゆっくりこっちを向く。耳はぴんと立ち、尻尾は俺の手の中で固まったまま震えていた。

  「……ナオト」

  「悪い。つい」

  「つい、で触るのか」

  「犬っぽくて」

  「おれは犬だ」

  「いや、そうなんだけど」

  言い訳が雑になる。

  だが怒鳴られるかと思ったのに、リュカはなぜかそれ以上何も言わなかった。視線だけが妙に熱を持って、俺の顔と、尻尾を握る手を行ったり来たりする。

  俺は手を離すべきか一瞬迷って、でも毛並みの感触が良すぎて、つい親指で撫でた。

  しっとりして柔らかい。表面はさらさらなのに、奥に密な毛が詰まっていて、指が沈む。獣の体温がそのまま伝わってきて、思わずもう一度、根元へ向かって梳くように撫で上げる。

  リュカの喉が、ごくりと鳴った。

  「……気持ち、いい」

  「ん?」

  「いや、ちが……その」

  耳が赤い。

  褐色の肌でもわかるくらい、耳の内側が熱を持って染まっていた。

  「嫌ならやめる」

  そう言うと、リュカは数秒もたついてから、首を横に振った。

  「嫌じゃ、ない」

  「そっか」

  「でも……それ、軽くするな」

  「軽く?」

  「そんなふうに、誰にでもしないほうがいい」

  妙に真剣な声音だった。

  俺は首を傾げる。

  「なんで」

  「なんでって……」

  言葉に詰まる。そのあいだも尻尾は正直で、俺の手から逃げるどころか、むしろ自分から擦りついてくるみたいに微かに動いた。

  可愛いな、と思ってしまった。

  筋肉の塊みたいなでかい男に抱く感想じゃないのはわかっている。だが、感情が耳と尻尾に出すぎるせいで、どうしたってそう見える。

  「リュカ、耳も触っていい?」

  「……は?」

  「気になってた」

  「気になってた、って」

  「ダメか?」

  「……」

  答えるより先に、耳がぶるっと震えた。

  断りたいならもっとはっきり拒めるはずなのに、こいつは戸惑うばかりで、俺を止めない。

  だから、ゆっくり手を伸ばした。

  指先が耳の付け根に触れた瞬間、リュカの肩が跳ねた。

  熱い。思った以上に熱を持っている。短い毛の奥にある軟骨がぴくぴくと震え、付け根を軽く揉むと、リュカは息を詰めて固まった。

  「うわ、すごいな。ちゃんと動く」

  「ちゃんとって何だ」

  「本物って意味」

  「本物だ」

  「うん、知ってる」

  くす、と笑いながらもう片方の耳も包むように撫でる。

  根元を親指で押し、外側を指腹でなぞると、耳先がくたりと折れかけて、すぐまた立った。触れば触るほど反応が返ってくるのが面白い。手触りが良すぎる。獣の匂いと男の汗の匂いが混じって、妙に落ち着く。

  リュカは完全に黙っていた。

  ただ、荒くなっていく呼吸だけが聞こえる。

  「おい」

  「ん?」

  「ナオト」

  「どうした」

  「……もう少し」

  「え?」

  「いや、なんでもない」

  「もう少ししてほしいって?」

  「っ、違う」

  「違わなさそうだけど」

  図星だったらしい。

  耳がさらに赤くなり、尻尾がばし、ばし、と床を打つ。

  俺はますます面白くなって、付け根をくりくりと揉んだ。

  その瞬間、リュカが低く喘いだ。

  「……っ、ぁ」

  「そんなにいいのか」

  「知らん……でも、そこ、響く」

  「へえ」

  でかくて男らしい身体をしたやつが、俺の手の中で耳と尻尾を震わせている。

  「リュカ。これ、何かまずかった?」

  そう聞くと、リュカはぎくりとした。

  「……まずい」

  「やっぱり」

  「かなり」

  「悪い。文化が違うのはわかってたのに」

  すぐ手を離しかけた俺の手首を、リュカが反射的に掴んだ。

  大きい手だった。

  狩りと労働でごつごつした掌が、俺の手首をすっぽり包む。そのまま数秒、リュカは自分が何をしたのかわからないような顔で固まっていたが、やがて低い声で言った。

  「……やめるな」

  「え?」

  「まずい。でも、やめるな」

  「どっちだよ」

  「どっちもだ」

  困ったように眉を寄せるくせに、尻尾は俺の膝に擦り寄ってくる。

  「じゃあ、続ける」

  「……うん」

  そう言って、俺は遠慮を捨てた。

  片手で耳の付け根を包み、もう片方で尻尾の根元から毛並みに沿ってゆっくり梳く。さっきまで面白半分だったのに、掌の下で震える熱を感じているうちに、だんだん別の気分に変わっていく。男の体温だ。でかくて、硬くて、でも正直に反応する。耳は揉まれるたびにぴくぴく跳ね、尻尾は我慢できないみたいに俺の腰へ擦りついてくる。

  「っ、ぅ……ナオト、そこ……」

  「付け根か?」

  「わ、わからん……でも、そこ、強い」

  言われた通り、親指で耳の根を軽く押し回してやる。するとリュカの喉から、もう言い訳のきかない甘い声が漏れた。低いのに、情けなく揺れる声だった。あんなにでかい体が、たったこれだけで崩れそうになっている。

  俺は立ったままじゃやりづらくて、床に腰を下ろし、こっちへ来いと顎で示した。リュカは一瞬迷った顔をしたが、逆らわない。素直に脚のあいだに座り込んで、背中を俺の胸に預けた。体格がいいせいで完全には収まらないが、それでも十分近い。汗と獣毛の匂いが鼻に入り、腹の奥がじわりと熱くなる。

  「こうするとやりやすいな」

  「……ナオト、平気か」

  「何が?」

  「その、こういうの」

  「俺は平気。おまえが嫌ならやめるけど」

  「嫌じゃない」

  答えが早い。耳も尻尾も、嬉しそうにぴくりと動いた。

  だから容赦なく、両耳を指で挟んでこねるみたいに揉み、時々爪を立てない程度に掻いてやる。尻尾は膝に乗せて、毛を逆立てるように撫で上げたあと、今度は整えるように何度も梳いた。密な毛の奥の芯を探るように握ると、リュカの背中がびくっと反る。

  「……っあ、ぁ……」

  「ほんとに敏感なんだな」

  「知らなかった……こんな、なる、の……」

  「今まで誰にも触られなかったのか」

  その問いに、リュカはぎくりと耳を立てた。少し黙ってから、低く答える。

  「家族は子どものころ、少し。……でも、大人になってからは、こういうふうには、普通もう触らせない」

  「へえ」

  「求める意味になるから」

  なるほど、と腑に落ちた。こっちじゃ耳や尻尾に触れるのは軽いスキンシップじゃない。もっとはっきりした、選ぶ行為だ。俺がさっきからしていることは、こいつにとってただの悪戯じゃなく、かなり直球のものらしい。

  そう理解した途端、むしろ気持ちは定まった。

  俺はゲイだし、リュカはもともと好みど真ん中の体つきをしている。高身長、筋肉質、男くさいのに懐っこい。ここ数日、一緒に暮らしていて目に入らなかったと言えば嘘になる。寝起きのぼさついた髪も、薪を割る腕の筋も、汗をかいた首筋も、何度か意識した。無視できる範囲だっただけだ。

  でも今、こいつは俺の腕の中で耳を赤くして、もっとしてほしいと身を預けている。

  だったら、遠慮する理由はない。

  「リュカ」

  「……ん」

  「これ、求愛なんだろ」

  その瞬間、尻尾がぶわっと膨らんだ。笑いそうになる。だが当の本人は笑えないらしく、息を呑んで固まっていた。

  「もしかして……意味、わかってて……?」

  「それは、今わかった」

  「じゃあ、やめるか」

  「なんでそうなる」

  「だって、おまえは知らなかったんだろ。知らずにしてたなら、違う」

  「今は知ってる」

  耳元でそう言うと、リュカの肩がまた大きく跳ねた。俺はそのまま、首筋へ鼻先を寄せる。汗と太陽と獣の匂いが濃くて、たまらなく男だ。唇が肌に触れるか触れないかのところで囁く。

  「知ったうえで、まだ触りたい。おまえがいい」

  「……っ」

  「これで十分か?」

  しばらく返事がなかった。代わりに、背中越しに心臓の速さが伝わる。犬耳はぴんと立ったまま震えて、尻尾は俺の腿に巻きつきそうな勢いで動いている。

  やがて、搾り出すような声が落ちた。

  「ずるい」

  「何が」

  「そんなふうに言われたら……断れない」

  「断る気あるのか?」

  「……ない」

  そこで俺は笑ってしまい、リュカのこめかみに軽く口づけた。獣毛の境目に触れると、また喉が鳴る。こいつ、ほんとにわかりやすい。

  [newpage]

  その日から、耳と尻尾を触るのは、もう隠しようのない習慣になった。

  朝、起き抜けのリュカがまだ眠そうにあくびをしているとき、背後から耳を撫でると、ぴくっとしてすぐに力が抜ける。朝食の前に尻尾を一本のブラシみたいに梳いてやると、機嫌よく台所を手伝う。狩りから帰ってきて汗だくの体を井戸端で拭っているとき、濡れた耳の付け根を指で揉んでやると、でかい体でうっかり膝を折りかける。

  最初の数日は、そのたびに「軽くするな」「そんな顔で見るな」「今は外だ」と口では文句を言っていた。だが本気で嫌がることは一度もなかった。むしろ、日に日に要求がわかりやすくなる。

  俺が薪を束ねていると、後ろを通るふりをして尻尾の先だけ手に触れさせてくる。昼寝をしていると、黙って隣に転がってきて、耳をこっちへ向けて寝る。夜、飯を食い終えると、無言で俺の近くに座り、視線だけで「今日はしないのか」と聞いてくる。

  「催促が雑だな」

  ある晩、そう言ってやると、リュカは少し眉を寄せた。

  「してない」

  「してる」

  「……そんなにわかるか」

  「尻尾がな」

  見れば、床に置かれた太い尻尾が、そわそわ左右に揺れていた。指摘すると止めようとするが、意志より先に体が出るのだろう。

  可愛い。

  そう思うたび、俺は気分がよくなって、存分に甘やかした。耳の内側を親指でなぞり、付け根を押し、毛並みを乱しては整える。尻尾は膝に乗せて、根元の硬い筋を探るように揉み、先に向かって何度も手櫛でほどいてやる。ときどき、あまりに気持ちよさそうだから、首や顎の下まで指を滑らせて撫でる。するとリュカは大型犬そのままの顔で目を細め、喉を鳴らす。

  こっちの文化でどれほど重い意味があるのか、村で暮らすうちに少しずつわかった。

  村の女たちが俺を見る目が、最初よりずっと意味ありげになったのはそのころだ。

  井戸端で水を汲んでいると、年かさの獣人の女が、俺の後ろを見てにやりとする。振り返れば、数歩離れたところにリュカが立っている。でかい体で腕を組み、いかにもただ待っているだけという顔をしているくせに、耳はこっちへ向きっぱなしだ。

  「随分、熱心だねえ」

  「何がです」

  「何が、じゃないだろ。あの子の耳、最近ずっとおまえさんの匂いがするよ」

  思わず笑ってしまった。

  そんなの、本人が聞いたら赤くなって固まるだろう。

  「悪いことしてるつもりはないですよ」

  「見りゃわかるさ。まっすぐ過ぎて眩しいくらいだ」

  女は桶を抱え直しながら、面白そうに続けた。

  「ただね、犬種は選ばれたと思ったら、身体も心も一直線だよ。中途半端は一番傷になる」

  中途半端にする気なんか、最初からなかった。

  だから俺は素直にうなずいた。

  「そのつもりはないです」

  それだけで伝わったらしい。女は満足そうに笑い、「ならいい」と去っていく。

  その会話を聞こえていたのかいないのか、リュカは俺が近づくと黙って桶を奪い取った。

  「何話してた」

  「おまえのこと」

  「……変なこと言われたか」

  「まあな」

  「なんて」

  「おまえは『一直線』だって」

  そう言うと、リュカはぴたりと足を止めた。耳が立ち、次いでじわじわと伏せる。

  図星らしい。

  「違う?」

  「……知らん」

  「じゃあ、俺のこと好きか」

  真正面から聞いてみると、リュカは完全に黙った。

  でかいくせに、こういうときだけ年下の犬みたいな顔になる。口元がわずかに強張り、金の目だけが忙しく揺れる。

  俺はその反応を見ながら、わざと歩みを止めた。

  村の外れ、誰もいない獣道の手前。木々の影が落ちて、日差しが柔らかくなる場所だ。

  「耳、貸せ」

  「なんだ急に」

  「いいから」

  桶を地面に置かせ、片手で顎を軽く持ち上げる。視線が合うと、それだけでもう耳の先が熱を持っていくのがわかった。

  俺はそのまま、立ったままのこいつの片耳を根元から包んだ。

  ぴくっ、と大きく震える。

  「好きか」

  「……っ」

  親指で付け根をぐり、と押す。途端に、喉の奥から低い喘ぎが漏れた。本当に弱い。

  「す、き……だ」

  「誰が」

  「おまえ、が」

  「うん」

  答えに満足して、耳の内側を指腹で撫でる。柔らかい毛の下で軟骨が細かく震え、尻尾が大きく一度揺れた。嬉しいのを隠せないのが可愛い。

  俺はもう片方の耳にも触れ、そのまま顔を寄せて額に軽く口づけた。

  「俺も好きだよ、リュカ」

  「……っ、ナオト」

  「あんまり嬉しそうな顔すんな。今すぐ押し倒したくなる」

  冗談半分のつもりで言ったのに、リュカは息を呑んで固まった。

  それから、信じられないほど素直な声で聞く。

  「……だめ、か」

  「何が」

  「押し倒すの」

  今度はこっちが黙る番だった。

  一月だ。異世界に来てから、大体そのくらい。暮らすには十分すぎる時間で、しかも相手はこんなにもわかりやすく懐いて、好きだと言って、触られればすぐ熱を持つ。

  俺が平気な顔をしていたのは、無理やり急がないようにしていただけで、欲がなかったわけじゃない。

  夜、隣の部屋から寝返りの音がするだけで何度も意識した。濡れた体で井戸端から戻ってくる背中を見て、抱きたいと思った。朝、まだ寝ぼけた耳を手の中でこねながら、そのまま押し倒してしまいたくなったことも一度や二度じゃない。

  その全部を、今こいつが自分から差し出してきている。

  「だめじゃない」

  低く答えると、リュカの耳がぴんと立った。

  「ただ、おまえ、わかって言ってるか?」

  「……交尾、だろ」

  思ったより直球だった。

  笑いそうになるのを堪える。こっちの言葉だとそのへんの表現が生々しい。

  「まあ、そうだな」

  「おれ、おまえになら、されたい」

  そこまで言ってから、顔が一気に赤くなる。褐色の肌の下に熱が走るのが見える。

  だが言い直しはしなかった。逃げもしない。金の目でまっすぐ俺を見る。

  「……したい」

  ぽつりと付け足されたその声で、俺の腹の奥が完全に決まった。

  「帰るぞ」

  「家、か」

  「そう。もう外じゃ無理だ」

  桶を持ち上げた俺の声が少し掠れていたらしい。リュカは何か察したのか、耳を伏せたまま無言で歩き出した。だが尻尾は隠しようもなく忙しい。落ち着かず左右に揺れ、時々俺の脚に触れてくる。

  家までの道が、やけに長かった。

  戸を閉めた瞬間、俺はもう待たなかった。

  荷を下ろす間もなく壁際へ押しやり、でかい肩を両手で掴んでそのまま口づける。初めてのちゃんとしたキスだった。

  唇がぶつかるだけで、リュカの体がびくっと跳ねる。鼻先から熱い息が漏れ、喉が鳴った。犬っぽい湿った匂いと、男の汗の匂いが混じって、頭がくらくらする。

  「ん……、ぁ……」

  「口、開けろ」

  素直だった。

  舌先で唇を押せば、ためらいながらも開く。中は思ったより熱くて、ぬるりと湿っている。舌を差し込んで絡めると、リュカは低く唸るみたいな声を出して俺の腕を掴んだ。力が強い。けど押し返すためじゃない。立っているのがやっとで、支えを求めているだけだ。

  何度も深く吸って、舌を絡め、唾液を混ぜる。離れるたび糸を引いて、リュカはぼんやりした目で俺を見た。

  その顔がたまらなくいやらしい。

  「キスも初めてか」

  「こんな、のは、ない」

  「そうか」

  じゃあ最初から最後まで、俺が教える。

  その事実にぞくりとした。

  耳を撫でるときみたいに優しく、でも逃がさない力で首筋をなぞる。シャツの裾を指でたくし上げると、焼けた肌の上を走る筋肉がぴくりと震えた。腹筋の溝が息で上下し、その下、腰骨のきわに生えた獣毛がわずかに濃い。男そのものの体だ。厚い胸、広い肩、鍛えられた脇腹。触れるたびに反応するくせに、骨格の強さだけは隠しようがない。

  「脱がせるぞ」

  確認の意味で言うと、リュカはこくりと頷いた。耳はもう真っ赤で、尻尾が落ち着きなく床を叩いている。

  「……うん」

  「いい子だ」

  そう言ってやると、喉の奥が鳴った。

  たまらなくなる。

  シャツを頭から引き抜く。汗と外気を含んだ布が落ち、褐色の上半身がむき出しになる。胸毛は薄いが、乳首のまわりと下腹にかけて男っぽい毛が散っていて、いかにも雄だ。乳首はもう少し尖っている。見られているだけで感じてるのがわかる。

  俺はそこを親指で軽く弾いた。

  「っぁ……!」

  でかい体が跳ねる。

  その反応があまりに素直で、笑いながらもう一度つまむ。硬くなった先をこりこりと転がすと、リュカはたちまち壁に背中を押しつけ、肩で息をした。

  「耳と尻尾だけじゃないんだな」

  「……へん、だ。どこも、熱い」

  「男だしな。好きな相手にこうされりゃ熱くなる」

  そう言いながら、胸板に口づける。筋肉の上に柔らかく跡をつけ、乳首を舌先で舐め上げると、今度ははっきり腰が前に出た。分厚い腿が擦れ、布越しの股間が俺の脚に当たる。

  硬い。

  想像以上だ。

  俺と同じか、それ以上にしっかり勃っている。獣人だからってそこだけ獣とは限らないらしいが、押し当てられた熱の強さは人間のそれよりずっと野生じみていた。

  「立ってるな」

  「……ナオトの、せい」

  「知ってる」

  腰紐に指をかける。

  解けば、布が重く落ちた。

  現れたものに、思わず低く息が漏れる。

  太い。根元がしっかりしていて、張りつめた肉色の柱が腹に向かって反っていた。先端はすでに濡れて艶を持ち、竿の下には重い玉が二つ、毛深い袋に収まってぶら下がっている。人間の男の形に近いが、根元の毛は濃く、発情した獣みたいな匂いがむっと立った。

  雄臭い。

  最高だった。

  「すげえな、おまえ」

  「お、おれ……変か」

  「逆だ。めちゃくちゃ好み」

  そう言って根元から握ると、リュカがその場で声を上げた。

  「ぁっ、あ……っ!」

  「まだ握っただけだぞ」

  「つよ、い……」

  「これで強いなら、先どうなるんだ」

  からかい半分で言いながら、ゆっくり上下に擦る。熱い。皮膚が厚く、血の詰まった脈が掌の下でどくどく打っている。先走りを親指で塗り広げてやると、ぬるっと滑りが増して扱いやすい。

  リュカはもうまともに立っていられず、額を俺の肩へ押しつけてきた。犬耳が俺の頬に触れ、熱く震える。

  「ナオト……」

  「ん」

  「すごい、これ……」

  「初めて人に触られてんだもんな」

  「う、ぅ……」

  返事になっていない。

  けれど逆らう気は一切なく、むしろもっと寄ってくる。だから俺は片手で耳の付け根を揉みながら、もう片方で肉棒をしごいた。上下の刺激に挟まれて、リュカの喉から甘い呻きが漏れ続ける。

  「耳触りながらだと、余計くるか?」

  「っ、くる……っ、やばい……」

  「どっちが?」

  「ぜんぶ……」

  耳の内側を指先で撫でる。

  びくん、と腹筋が跳ねる。

  尻尾の根元を膝で軽く押す。

  それだけで、肉棒の先から透明な汁がとろりと垂れた。

  「ほんとに正直だな」

  「……隠せ、ない」

  「いいよ。隠さなくて」

  俺は壁際から引きはがし、寝床の上へ連れていった。座らせると、でかい体が素直に従う。脚を開かせれば開くし、顎を上げさせれば上げる。従順って言葉がこれほど似合うやつも珍しい。

  膝をついて股のあいだに入り、目の前でそそり立つ肉棒を舐めた。

  「っっ……!!」

  「静かに。近所に聞こえる」

  「む、り……」

  竿の裏筋を舌でなぞる。先端の割れ目に溜まった先走りを丁寧に吸い、裏の柔らかいところへ舌先を押しつけると、リュカは手の置き場に困ったみたいにシーツを掴んだ。耳はぶるぶる震え、尻尾が寝台をばしばし叩く。

  いい反応だ。

  口を深く開け、亀頭を半分ほど含む。熱と塩気と獣臭が舌に広がる。太さがあるぶん、喉奥まではまだ入らないが、それでも十分だった。唇をきつく締めて吸い上げ、根元を手で補いながら何度もしゃぶる。

  「は、ぁ……っ、ナオト、それ……」

  「口でするの、好きなんだ」

  「よすぎ、る……!」

  玉袋まで舌を這わせると、腿がびくっと閉じかけた。

  手で押し広げ、睾丸を軽く舐め上げる。袋の裏、股のきわをじっとり濡らしてやると、リュカはほとんど泣きそうな声を出した。

  「そこも弱いのか」

  「わから、ない……っ」

  「じゃあ教えてやる」

  袋の下から会陰にかけて舌で圧をかけ、ぬるぬると這わせる。その途中、尻穴の手前に柔らかい窪みがあり、そこを押すと腰が大きく浮いた。

  「ぁあっ!」

  「ここか」

  「な、に……そこ……」

  知らないらしい。

  俺は顔を上げ、リュカの足首を掴んだ。

  「仰向けになれ。脚、もっと開いて」

  「……うん」

  言われるまま寝転がり、膝を抱えるように脚を開く。分厚い腿の奥、玉袋の後ろに隠れていた穴が見えた。普段はきゅっと閉じているが、周囲の毛並みが汗で少し湿っていて、中心が呼吸に合わせて微かにひくついている。

  しかも、そのすぐ上に、犬獣人特有のもう一つの気配があった。

  尻尾の付け根の少し下、仙骨のあたりに小さなくぼみがあり、毛並みが渦を巻くように生えている。さっき膝で押しただけで反応した場所だ。

  「ああ、なるほど」

  「……なに」

  「おまえ、ここも感じるんだな」

  指先でそのくぼみを撫でると、リュカが飛び上がりそうに震えた。

  「ひぁっ!?」

  「やっぱり」

  「そ、そこ、だめ……っ」

  「だめじゃない顔してる」

  「ちが……っ、変になる……!」

  俺は笑って、くぼみの周りの毛をかき分けた。そこだけ皮膚が薄く、熱を持っている。犬系獣人の“腰の核”みたいなもので、ここを刺激されると本能に直接響くらしい――前に村で酔った猟師たちが下品に笑いながら話していたのを思い出す。半信半疑だったが、本当だった。

  親指で円を描く。

  中指で尻尾の根元を押す。

  もう片方の手で肉棒をゆっくりしごく。

  それだけで、リュカは寝台の上で腰を跳ねさせた。

  「っあ、あ、ぁ……っ、ナオト……!」

  「ここ、好きなんだな」

  「し、らない……でも、頭、おかしくなる……」

  「いいよ。おかしくなれ」

  くぼみに唇を寄せ、そこへ吸いつく。

  じゅっ、と湿った音と同時に、リュカが悲鳴みたいな声を漏らした。でかい体がのけぞり、尻尾がぶわっと膨らむ。

  「あ゛っ、ぁあっ!!」

  「うわ、すごいな」

  「そこ、そこやばい……っ、やめ、やめるな……っ!」

  必死で矛盾したことを言う。

  可愛くてたまらない。

  舌先でそのくぼみをちろちろ舐め、時々歯を当てるように甘噛みする。すると肉棒はますます硬さを増し、先端から液が糸を引いた。犬耳はぺたんと寝たり、急に立ったりを繰り返し、完全に余裕がない。

  「こんなに弱いと、いじめたくなる」

  「い、じめ……」

  「優しくいじめる」

  そう言って、今度は穴のほうへ舌を落とした。

  最初は表面だけ、皺をなぞるように舐める。じっとり湿っていく感触がわかると、そのまま先端で軽く押し込み、引く。何度か繰り返すうち、きゅっと閉じていた輪が少しずつ緩む。

  「っ、そこ……舐める、のか」

  「舐められたくない?」

  「……おまえ、なら」

  「ほんとに従順だな」

  「ナオト、には……」

  最後まで言えず、代わりに腰を小さく揺らす。

  催促だ。

  だからしっかり舌を差し込んだ。

  「ぁっ、あぁ……!」

  「ん、っ……」

  中は熱く、想像以上に締まる。舌を入れた程度でこれなら、指や肉棒を入れたら相当だ。ぐり、と押して内壁を舐め回し、穴の中で舌先を震わせる。時々離れてはまた仙骨のくぼみを吸い、そのたびにリュカの反応は一段階ずつ過激になった。

  「な、ナオト……おれ、もう……」

  「イきそうか?」

  「まだ、わから……でも、出る……っ」

  「だめ。まだ出すな」

  ぴたりと手を止めると、リュカは目を見開いた。

  残念そうに、懇願するように、金の目が潤む。

  「……なんで」

  「もっと気持ちいいのがあるから」

  「それ、はやく……」

  焦れて尻尾をばたつかせるのが、いかにも犬だ。

  俺は腰を上げ、自分の服も脱いだ。上着、シャツ、ズボン、下着。鍛えた体が夜気に晒され、勃起した肉棒が跳ね上がる。リュカの視線がそこへ吸い寄せられ、喉がごくりと鳴った。

  「おまえも……でかい」

  「入れるには十分だろ」

  「……うん」

  素直すぎて笑う。

  寝台脇の小瓶を取る。獣脂と薬草を混ぜた軟膏だ。村で傷薬として使っていたが、油分が多くて滑りもいい。こういう使い方もたぶん想定されてるんだろう。蓋を開けると、草っぽい匂いが立った。

  「指、入れるぞ」

  「……こわい」

  「痛くしない」

  膝をさらに抱えさせ、穴に軟膏を塗る。指先にもたっぷり馴染ませてから、まず一本、ゆっくり押し込んだ。

  「ぁ……っ、く……!」

  「力抜け。呼吸しろ」

  「ん、ぅ……」

  熱い粘膜がきつく絡みつく。少しずつ奥へ進め、入口をほぐすように回す。リュカは眉を寄せるが、逃げない。むしろ俺の腕を掴み、必死に耐えている。

  「いい子だ」

  「……っ、ほめ、るな」

  「なんで」

  「よけい、従いたく……なる」

  いいことじゃないか、と思いながら、指を第二関節まで入れて抜き差しした。馴染んできたところで二本目を足す。さすがに声が大きくなるが、耳の付け根を撫でてやると少し落ち着く。

  「そうそう。深呼吸」

  「っ、は……ぁ……」

  中を探る。

  前壁を指先でこすった瞬間、リュカの腰が勝手に跳ねた。

  「あ゛っ!」

  「ここだな」

  「そ、こ……やばい、そこ……!」

  わかりやすい。

  二本の指でぐりっと押し上げると、穴がきゅうっと締まり、先から先走りがぴゅっと飛んだ。

  「うわ、すご」

  「むり……っ、ナオト……っ」

  「まだ二本だぞ」

  そこへさらに、もう一方の手で仙骨のくぼみを揉む。

  前立腺と獣人の感覚核、両方を同時に責める形だ。案の定、リュカはもうまともな言葉を出せなくなった。

  「ぁ、あ、あ……っ、そこ、だめ、すご……っ」

  「気持ちいい?」

  「よすぎる……っ、なんだ、これ……」

  「おまえの体が、俺に開いてるってことだよ」

  三本目はまだ早い。代わりに指を大きく開いて入口を押し広げ、時間をかけて慣らしていく。中はどんどん熱を帯び、締め付けも快楽混じりに変わっていった。嫌がる様子はなく、むしろもっと欲しそうに尻を押しつけてくる。

  「入れてほしい?」

  「……ほしい」

  「何を」

  「ナオトの、ちんぽ……」

  「ちゃんと言えたな」

  「っ、いじわる……」

  俺は指を抜き、ぬるぬるになった穴の入口を広げて見た。薄く開いたそこは、すでに挿入を待つ顔をしている。自分の肉棒にも軟膏を塗り、先端でそこをぐりぐり押した。

  「入れる」

  「……うん」

  ぐっと腰を押す。

  「っぐ……ぅ、ぁ……!」

  先端が飲み込まれる。熱い。締まる。きつい。まるで生き物に吸い込まれていくみたいな感覚に、俺の背筋まで痺れた。ゆっくり、少しずつ進めるたび、リュカの穴が肉棒に合わせて広がり、きつく絡みついてくる。

  「は、ぁ……っ、ナオト……ふと、い……」

  「知ってる。おまえも締めすぎ」

  半分。まだ半分。

  そこで一度止まり、腹を撫でる。耳を揉む。キスを落とす。落ち着いたところで、また押し込む。

  ずぶ、っと鈍い感触とともに奥まで入った。

  「あ゛ああっ!!」

  「……っ、やべえ」

  「おく……っ、そこ、当た……っ」

  根元まで埋まりきる。

  リュカの脚が震え、尻尾が俺の腰に巻きつくみたいに持ち上がった。穴の奥が脈打って、肉棒を離すまいと締めつけてくる。たまらず俺も低く呻く。

  最高だ。

  「痛いか」

  「すこし……でも、きもちいい、が……強い」

  「ならいくぞ」

  まずは浅く。

  ゆっくり抜いて、また入れる。入口が馴染むたび水音が増し、肉同士が擦れる感触が濃くなる。二度、三度と繰り返すうち、リュカの表情から強ばりが抜け、代わりに快楽に蕩けた顔になっていく。

  「ん、ぁ……っ、あ……」

  「いいな、その顔」

  「見、るな……」

  「見たい。俺のちんぽで気持ちよくなってる顔」

  「っ……」

  照れて視線を逸らすくせに、穴はますます締まる。

  だから今度は少し深く、前立腺を狙って角度を変えて突いた。

  「ぁあっ!!」

  「ここだ」

  「そこ、そこっ、やば……っ!」

  わかりやすく腰が跳ねる。

  そこからは早かった。一定の速度で、奥を抉るように突く。ずちゅ、ずちゅ、と卑猥な音が寝床に響くたび、リュカの声も大きくなる。耳はへたれて、舌先が少し覗き、完全に感じている犬みたいな顔だ。

  たまらずその口に指を差し込む。

  「舐めろ」

  「ん、む……」

  素直に舌を絡め、ちゅぷ、と音を立てて吸う。

  そのまま腰を打ちつけると、リュカは目を潤ませて俺を見上げた。

  「いい子」

  「ん……っ」

  「もっと開いて。尻上げろ」

  「、ん……」

  言われるまま腰を浮かせる。

  その従順さに、ますます支配欲が煽られた。

  体位を変える。四つん這いにさせ、後ろから尻を割った。筋肉質な背中が張り、肩から腰へ流れる線が雄っぽくて美しい。尻穴はさっきまで俺を咥えていた名残で赤く開き、そこからとろりと軟膏と体液が垂れている。

  そして尻尾。

  太く立派なそれが、興奮で高く持ち上がっていた。

  「これ、使わせろ」

  「……しっぽ?」

  尻尾の根元を掴むと、リュカの背中がびくっと反った。

  「っあ……!」

  「やっぱりここ弱い」

  「それ、持つ、の……」

  「嫌か?」

  「……いや」

  なら遠慮しない。

  尻尾を持ち上げ、根元をぐっと掌で包み込んだまま、後ろから肉棒をあてがう。尻尾を掴まれていることで、リュカは自然と腰を高く突き出す形になる。まさに発情した犬そのものだ。

  「ほら、待て」

  「……っ」

  「待てるか」

  「ま、て……る」

  「偉い」

  褒めながら、尻尾の付け根を揉む。仙骨のくぼみまで親指が届き、そこを押しながら肉棒の先で入口をこする。入れないまま焦らすと、リュカはひくひくと穴を動かし、自分から咥えようとしてきた。

  「だめ。待てって言った」

  「ぅ……」

  ちゃんと止まる。

  偉すぎる。

  ご褒美みたいに、今度は一気に腰を押し込んだ。

  「ぁ゛っ!!」

  「よしよし、入った」

  尻尾を支配しながらの挿入は、さっきより反応が激しい。根元を握って少し揺らすたび、リュカの穴がきゅっと締まる。どうやら尾と腰の神経が繋がっているらしい。後ろからそれを感じ取りながら、俺は容赦なく突いた。

  「っあ、あっ、あっ、ぁっ……!」

  「声でかい」

  「むり……っ、しっぽ、だめ、そこ、ひびく……!」

  「いいじゃん。犬みたいで可愛い」

  「おれ、犬、だ……っ」

  「うん。俺のな」

  その言葉に、リュカはぞくっと全身を震わせた。

  尻尾が俺の手の中で熱く脈打つ。

  「おれ、の……?」

  「違う。おまえが、俺の」

  「……っ!」

  完全に入った。

  そこからさらに尻尾の付け根を揉み込み、仙骨のくぼみを親指で擦りつぶすように責めながら、肉棒で前立腺を打ち抜く。前後、上下、内外。快楽の芯を何重にも挟み撃ちにされて、リュカの理性はどんどん飛んでいった。

  「ナオト、ナオト、ナオト……っ」

  「ん」

  「好き……っ、すき、だ……っ」

  「知ってる。可愛いな」

  「かわい、い……じゃ、ない……っ」

  「こんなに尻尾振ってるのに?」

  「っ、ぁ、ああ……っ!」

  言い返す余裕もない。

  後ろを振り向いた顔は涙目で、口が半開きだ。犬耳はへたりきり、尻尾だけは嬉しそうにびくびく動いている。

  俺は一度抜き、リュカを仰向けに転がした。

  脚を肩に担ぎ上げ、深く突ける角度を作る。そこへまた根元まで打ち込むと、腹の奥までずしんと沈んだ。

  「ぁあ゛っ!!」

  「今の、深かったな」

  「おなか、まで……くる……っ」

  片手で脚を押さえ、もう片手で肉棒をしごいてやる。挿れられながら自分のも扱われると、リュカはほとんど絶叫に近い声を漏らした。

  「や、ば……っ、でる、でる……っ」

  「まだ駄目」

  「なんでぇ……っ」

  「犬はちゃんと許可もらってからだろ」

  リュカは荒い息のまま、縋るように俺を見た。

  「……だして、いい?」

  「まだ」

  「ぅ……」

  可愛い。

  俺は唇を重ね、キスの合間に腰を深く打ち込む。ぐちゅ、ぐちゅ、と潤んだ音が混ざる。奥を何度も擦るうち、リュカの腹筋が細かく痙攣し始めた。限界が近い証拠だ。

  「じゃあ、言え」

  「な、に……」

  「欲しいって」

  「……ほし、い」

  「何が」

  「おまえの……ちんぽ、もっと……っ」

  「それだけ?」

  「おれ、を……っ、めちゃくちゃに、して……」

  最高だ。

  「よく言えた」

  褒めながら、仙骨のくぼみを中指でぐりぐり責める。

  同時に腰の速度を上げた。さっきまでの余裕あるストロークじゃない。腹の底から突き上げる、本気のピストンだ。筋肉同士がぶつかる音、濡れた穴が肉棒を飲み込む音、荒い息、喘ぎ、寝台の軋み――全部が混ざって部屋を満たす。

  「あ゛っ、あっ、あっ、あぁっ!!」

  「イけ」

  「っ、ぁ……だ、して、いい……!?」

  「いい。出せ」

  「ぁあああっ!!」

  その一言で、リュカの肉棒が跳ねた。

  白濁が腹に勢いよく飛び散る。どくどくと何度も射精しながら、穴の中はきつく痙攣し、俺の肉棒を締め上げる。前立腺を突かれた快感と、尻尾の根元を責められた本能的な発情が一気に爆ぜたんだろう。完全にトんだ顔で、口から涎まで垂らしていた。

  そのまま俺も堪えきれなくなる。

  「……出すぞ」

  「っ、なか……」

  「中でいいんだな」

  「うん……っ、ほしい……」

  腰を最奥まで押し込み、何度か大きく打ち込んでから、どろりと熱を注いだ。リュカの奥がびくびく痙攣し、そのたびに精液がさらに搾り取られる。獣じみた充足感が背骨を駆け上がり、思わず低く唸る。

  全部吐き出しても、しばらくは抜けなかった。

  快感の余韻で、二人とも荒い息を整えるだけで精一杯だった。

  やがてゆっくり脚を下ろしてやると、リュカはぐったりしながらも、俺の首に腕を回してきた。汗まみれの体がぴたりとくっつく。耳は力なく垂れているのに、尻尾だけはまだ微かに揺れていた。

  「……すごかった」

  「だろ」

  「最初で飛ばしすぎたか」

  「でも、もっとしたい」

  「回復してからな」

  そう言うと、リュカは少し黙ったあと、真剣な顔で俺を見た。

  「ナオト」

  「ん」

  「おれ、ほんとに、おまえのになった感じする」

  「感じじゃなくて、そうだよ」

  「……うん」

  それだけでまた尻尾が動く。

  ほんとにわかりやすい。

  俺は笑って額にキスし、それからまだ熱い尻尾の付け根をそっと撫でた。途端に、疲れ切っているはずの体がびくっと反応する。

  「っ……そこ、まだ……」

  「ん? まだ感じるのか」

  「感じる……」

  「じゃあ、もう少し遊べるな」

  「……え」

  驚いた顔をするくせに、期待で瞳が光る。

  この手の顔はもう見慣れた。

  俺は指先に残っていた精液をくぼみに塗り広げ、ゆっくり揉み込んだ。リュカはたちまち息を乱し、足を震わせる。

  「ま、待っ……」

  「待てるか?」

  「……むり」

  笑いながら、今度は横向きに寝かせ、背後から抱き込む。抜いたばかりの穴はまだゆるく熱く、尻尾は俺の腹に乗っていた。そこを撫で、耳元を噛み、尻の割れ目に指を滑らせる。

  「次はゆっくりやる」

  「うそつき」

  「でも好きだろ」

  「……好き」

  素直に認める声が、たまらなく愛しかった。

  外では雨の匂いを含んだ風が鳴っている。

  その夜、俺は何度もリュカの耳を撫で、尻尾を握り、獣人の体にだけある熱い急所を覚え込ませた。奥を突かれるたび、尻尾の根元をいじられるたび、こいつはますます俺に逆らえなくなっていった。いや、最初から逆らう気なんかなかったのかもしれない。

  ただ、選んだ相手に全部預ける。

  そういう生き物なんだろう。

  だったら、俺はその全部を受け取るだけだ。

  優しく、遠慮なく、男の欲のままに。

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