麻衣は思わぬ形で恨みを買っていた。
高校生ながら動画配信で人気を集めていた彼女は、ある日、とある企業の不正を偶然暴いてしまったのだ。
その企業は表向きはバイオテクノロジー会社だったが、裏では違法な生体実験を行う組織だった。
ニュースで報じられ、会社は大打撃を受けた。
だが麻衣は知らなかった。
自分が彼らの標的になったことを。
ある夜。
塾から帰る途中だった。
背後に停車した黒いワゴン車。
異変に気付いた時には遅かった。
口元を押さえられ、視界が暗くなる。
麻衣の意識は闇へ沈んだ。
・・・
目を覚ます。
冷たい金属の感触。
身体が動かない。
両手両足が固定されていた。
薄暗い研究施設。
白衣を着た人影が何人も見える。
「目を覚ましたか」
中年の男が近づいてきた。
「あなたたちは誰!?」
麻衣は叫んだ。
男は無表情だった。
「君は我々の計画に多大な損害を与えた」
「何の話よ!」
「だから実験体になってもらう」
男が頷く。
研究員が大きな注射器を持ってきた。
中には灰色がかった液体が入っている。
「やめて!」
麻衣は暴れる。
だが拘束具は外れない。
注射針が腕へ突き刺さった。
冷たい液体が体内へ流れ込む。
数秒後。
異変が始まった。
全身が熱い。
骨の奥から何かが膨らむ。
筋肉が勝手に動く。
「うぐっ・・・!」
呼吸が苦しい。
腕が太くなる。
脚が重くなる。
拘束ベルトが軋み始めた。
研究員たちが興奮した声を上げる。
「成功だ!」
「変異反応が始まった!」
麻衣の皮膚が灰色へ変わっていく。
細かな皺が広がる。
耳が大きくなり、横へ広がった。
鼻先がむず痒い。
顔の中心が前へ押し出される。
短い突起だったものは、ゆっくりと長い鼻へ変化していった。
「いや・・・いやあああ!」
叫ぶ。
しかし声も変わり始めていた。
人間の声ではない。
低く響く鳴き声が混じる。
身体はさらに巨大化した。
拘束具が耐えきれず弾け飛ぶ。
研究室の機材が吹き飛んだ。
四肢は柱のように太くなる。
指は失われ、丸い足へ変化する。
背中が盛り上がる。
髪が抜け落ちる。
人間の面影が消えていく。
数十分後。
研究室の中央には巨大な雌象が立っていた。
麻衣だった存在。
研究員たちは歓声を上げた。
「完成だ」
「人間を大型動物へ変える薬剤・・・ついに成功した」
麻衣は震えた。
頭の中は人間のままなのに、身体は完全な象だった。
長い鼻。
巨大な耳。
重い体重。
言葉も話せない。
研究員へ突進しようとする。
だが施設は想定済みだった。
麻酔ガスが噴射される。
意識が遠のいていく。
最後に見えたのは、満足そうに笑う男の顔だった。
そして麻衣は知らない。
この先、自分が研究施設から動物園へ売却される運命にあることを。