玄関の鍵を開け、冷たい金属のドアノブを回す。ただいま、と呟く声は、がらんとした部屋の空気に吸い込まれて消えた。
ネクタイを乱暴に引き抜き、ジャケットをその場に脱ぎ捨て、革靴を爪先で蹴飛ばすようにしてリビングへ向かう。そのまま、重い体をベッドに倒れ込ませると、軋んだマットレスが僕の無様な帰宅を静かに受け止めてくれた。
今日もまた、会社で同僚に心配そうな顔をされた。「犬島くん、最近顔色悪いよ。大丈夫?」と声をかけられたけど、うまく笑って返すことすらできなかった。部長からは、会議室で「集中力が足りない」と厳しい声で叱責された。
申し訳ない、という気持ちはもちろんある。
でも、どうしようもないのだ。
僕の世界から、マモルさんがいなくなったのだから。
たったそれだけのことで、世界からすべての色が抜け落ちてしまった。朝の光はただ眩しいだけで、街の喧騒は意味のない雑音にしか聞こえない。昼に食べたランチの味も、夜に見るテレビの画面も、何もかもが輪郭のぼやけた、灰色の塊のようだった。
マモルさんに会いたい。
あの大きくて分厚い胸に抱きしめられたい。
心の中で何度呼びかけても、返事はない。
世界は何も変わらずに回り続けているのに、僕だけが、色のない真空の中に置き去りにされている。会社で怒られるのも、同僚に心配されるのも、すべて当たり前だ。僕の魂は、もうずっとここにはないのだから。
目を閉じて、瞼の裏にマモルさんの顔を浮かべていると、スラックスのポケットに入れたスマホが短く震えた。スマホを手に取る。
画面に浮かび上がったのは、見慣れたマッチングアプリの通知アイコン。心臓が、喉の奥で大きく跳ねた。
まさか。
そんなはずはない。
ありえないと分かっているのに、僕の指は意思とは関係なく、素早く画面をタップしてアプリを開いていた。
新着メッセージの送り主は、やはりマモルさんではなかった。数日前に一度だけ会った、別の人からだった。
「この前はありがとう! 次はいつ会えるかな?」
ぼんやりと、数日前のことを思い出す。
このままじゃダメだ。新しい人を見つけて、前に進まないと。
そう思って、無理やり会ってみた相手だった。
ホテルのベッドで、優しく抱かれた。彼は何も悪くなかった。むしろ、僕のことをすごく気遣ってくれた。
でも、ダメだった。まったく、気持ちよくなんてなかった。
彼の肌の温もりも、甘い声も、僕の心を少しも満たしてはくれなかった。申し訳なさで、胸が張り裂けそうだった。
新しい誰かと身体を重ねれば、マモルさんのことを忘れられるかもしれないなんて、馬鹿な考えだった。中途半端に他の誰かの熱に触れたせいで、かえって僕の身体は、マモルさんの不在を、あの大きくて力強い腕の感触を、より鮮明に思い出してしまった。
僕は、吸い寄せられるように、マッチングアプリ上のマモルさんとのトーク履歴を見返す。もう何十回目だろう。そこに並ぶのは、短い、あまりに一方的な言葉の羅列。
『今から来い』『駅前のホテル』
その一つ一つに、僕は「はい!」「すぐ行きます!」と、尻尾を振る犬のように、喜び勇んで返信していた。あの頃は、その身勝手な命令の一つ一つが、僕だけに与えられた特別な褒美のように感じられて、胸が高鳴ったのだ。
指でなぞる、冷たい画面の上の、懐かしい言葉たち。
どうしようもないくらい、あなたが恋しい。虚しさと、寂しさと、どうしようもない渇望が、ごちゃ混ぜになって僕の胸を締め付ける。
すべては、あの優しいあなたが、変わってしまった日から始まったのかもしれない。
最初に出会った時、僕の理想の、優しいパパのような雰囲気だったマモルさん。僕は会ったその日に、一目惚れしてしまった。
でも、ある日を境にまるで別人のように変わってしまったのだ。低い声で「お前」と呼ばれ、一人称は「俺」に変わり、優しい手つきは、乱暴なものになった。
最初は、何が起きたのかわからなくて戸惑った。怖かった。でも、その恐怖はすぐに、ぞくぞくするような、背徳的な喜びに変わっていった。命令されるのが、支配されるのが、たまらなく気持ちよかった。荒々しいマモルさんも、僕は大好きだった。
それなのに、突然、連絡が取れなくなった。
そして、ニュースで見たのだ。
『元ヒーロー、公然わいせつ容疑で主犯格として全国に指名手配』
衝撃的な見出しと、一枚の顔写真。そこに写っていたのは、僕の知っているマモルさんの顔だった。
そこから必死で情報をかき集め、すべてが繋がった。「ヤマイヌ」というアカウント。「ヤマイヌ狂宴」と呼ばれた、大規模な乱交イベント。僕が知っていたのは、彼のほんの一部分でしかなかったのだ。
連絡が来なくなったのも、当たり前だ。マモルさんは、犯罪者になってしまったのだから。
僕との関係を清算して、どこか遠くへ逃げているに違いない。
元々僕のような、しがないサラリーマンとは、住む世界が違ったんだ。そう、自分に言い聞かせようとした。
何度も。
何度も。
でも、ダメだった。
頭では理解しようとしても、僕の心と身体は、頑としてそれを受け入れようとしない。夜になれば、彼の温もりを思い出して寂しさに震え、昼間は、彼の低い声を思い出して仕事が手につかなくなる。
もし……万が一、マモルさんから連絡が来たら、僕はどうするんだろう。僕が、マモルさんを匿ったりしたら、それも罪になる。通報するのが、正しいことなんだろう。
でも、できるのか? 大好きなマモルさんを、この手で警察に突き出すなんてことが……。
◇
風呂場の冷たいタイルに膝をつき、僕は大きく息を吸った。
湯気が立ち込める密室の中、床に固く吸着させた、あなたのものを模した大きな楔に、ゆっくりと自分の体を沈めていく。
「あっ……ぁ……」
切ない喘ぎが、唇から漏れた。
乳首のピアスを指で転がせば、背筋を駆け上がる痺れが、腰の動きを勝手に速めた。
でも、違う。足りない。
こんなものじゃないんだ。
マモルさんの本物は、もっと熱くて、硬くて、僕の奥を抉るように乱暴で……。
『もっと鳴け』
『お前の身体は、俺だけのモンだろ』
脳裏に焼き付いたあなたの声が、僕を煽る。その言葉に応えるように、スクワットの要領で必死に腰を上下させた。
「あ……ん、ぅ……マモルさんっ……マモルさん……!」
湯気のこもったバスルームに、僕の甘く、虚しい喘ぎ声だけが響き渡る。
体は、馬鹿みたいに快感を拾い集めている。でも、心は、その熱とは裏腹にどんどん冷えていく。満たされない。あなたの温もりも、重みも、匂いも、ここには何もない。
最近は、毎日こうだ。
満たされないのは分かりきっているのに、夜になると体の火照りを抑えきれずに、この虚しい儀式を繰り返してしまう。そして、すべてが終わった後に残るのは、深い後悔と自己嫌悪だけ。でも、きっと明日も、僕はまた同じことをしてしまうんだろう。
この虚しい繰り返し。もう、どうしたらいいのかわからない。
あなたに会えない僕には、こんなことしかできない。
僕は、一生、こうしてあなたの幻を追い求め続けるしかないんだろうか。
「もっと……もっと……!」
僕は、無意識にそう呟きながら、さらに深く、速く腰を動かし続けた。快感の波が、何度も何度も身体を襲う。でも、その波は、岸壁にぶつかって砕けるだけで、僕が求める場所へは連れて行ってくれない。頂上が、その先にあるはずの絶頂が、どうしても見えてこない。
マモルさんの、あの大きな手で頭を撫でられながら、耳元で囁かれる卑猥な言葉がないと。僕の奥をえぐる、あの力強いストロークがないと。
僕は、もう、一人ではイくことすらできない身体になってしまったんだ。
だんだんと、熱に浮かされていた思考が冷静になっていく。必死に動かしていた腰の動きも、徐々に鈍くなっていく。あれだけ熱を帯びていた体の芯が、すうっと冷めていくのがわかった。
結局、僕に残されたのは、シリコンの冷たい感触と、虚しく喘いでいた惨めな自分だけだった。
ゆっくりと体を抜き、床に転がる楔を力なく見つめる。
なんて虚しいんだろう。
僕は立ち上がり、シャワーのノズルを捻った。熱いお湯が、頭から降り注ぎ、肌についた汗と涙を流していく。でも、体の奥深くにこびりついた、このどうしようもない虚しさだけは、いくら洗い流そうとしても、まったく消えてはくれなかった。
◇
シャワーを浴び終え、濡れた被毛をタオルで乱暴に拭きながらリビングへ向かう。冷蔵庫を開けると、ひんやりとした空気が火照った肌に心地よかった。手に取ったのは、あなたがいつも飲んでいた銘柄のビール。
プシュ、と小気味良い音を立てて缶を開け、ソファにどさりと腰を下ろす。一口流し込むと、苦い液体が喉を焼いていった。これも、あなたを思い出すための、虚しい儀式の一つだ。
何気なく、テーブルに置いたスマートフォンを手に取る。
画面には、マッチングアプリの通知と、母親からのメッセージ通知。マッチングアプリの方は先ほどの人のメッセージの続きか何かだろう。先に母親からのメッセージを確認する。
トーク画面には剣道の道着を着て、少し照れくさそうに賞状を持っている高校生の弟の写真が送られてきていた。
母さん: 『見て、拓也が今日の大会で優勝したのよ!』
母さん; 『アキちゃん、そっちはどう? ちゃんと食べてる?』
僕は、ふっと口元を緩ませながら返信を打つ。
アキト: 『すげー! 拓也に「おめでとう」って言っといて!』
アキト: 『こっちもちゃんと食べてるよ、心配しないで』
すぐに、既読がつく。
母さん:『ならいいけど。あんまり無理しないでね』
母さん: 『そういえば、いい人は見つかった?』
その、何気ない一言に、胸がちくりと痛んだ。僕がゲイだと打ち明けた時、少し驚いた顔をした後、「アキトが幸せなら、それでいいから」と笑ってくれた母の顔が浮かぶ。
「いい人」――僕にとっての、その唯一の存在は、今や世間から追われる犯罪者だ。
アキト: 『まだだよ。今は仕事が楽しいから、もうちょっと先かな』
我ながら、白々しい嘘だと思った。
すぐに、母からスタンプと共に短いメッセージが返ってくる。
母さん: 『そっか。いつでも帰っておいでね』
「いつでも帰っておいでね」
その言葉が、ずしりと重くのしかかる。僕には、帰る場所がある。愛してくれる家族がいる。拓也の成長を、側で見てやることもできる。
虚しい儀式を繰り返すだけの、こんな生活を捨てて、実家に帰ってしまうこともできるんだ。
一瞬、本気でそう考えた。
でも、脳裏をよぎるのは、マモルさんの、あの乱暴な手つきと、低い声。
……無理だ。
僕はスマートフォンの画面を閉じようとして、マッチングアプリの通知があったことを思い出す。先ほどの人のお誘いは、お断りしなきゃな……。何度繰り返しても、この誘いを断るという作業は、ひどく気が重い。
仕方なくアプリを立ち上げ、返事を書くためにトーク履歴を開く。
そして、僕は息を呑んだ。
一番上に、あるはずのない名前があった。
灰色に沈んで、二度と動くことはないと思っていた、あのアイコンが。
マモルさん。
心臓が、氷水で締め上げられたように凍りついた。指が震えて、スマートフォンを落としそうになる。夢か? 幻覚か? あまりのことに、頭が理解を拒否している。
ゆっくりと、震える指でそのトーク画面をタップする。
そこには、あまりにも短い、けれど僕にとっては世界のすべてを覆すほどの、一文が表示されていた。
『今から会えるか?』
「……え?」
声にならない声が、喉から漏れた。
何度も目を擦り、スマートフォンの画面を顔に近づける。間違いない。二ヶ月前、僕の前から姿を消した、あのマモルさんからのメッセージだ。
ありえない。
だって、あなたは指名手配犯で、世間から追われる身のはずだ。僕なんかに、連絡してくるはずがない。これは何かの間違いだ。何かの罠だ。
でも、僕の心は、そんな理性的な考えを、歓喜の叫びでかき消していた。
神様。
僕を見捨ててはいなかったんですね。
絶望の底に垂らされた、一本の蜘蛛の糸。それがたとえ、地獄へ続くものだったとしても、今の僕には、天国からの救いの手にしか見えなかった。
震える手で、必死に返信を打ち込む。心臓が、耳元でドクドクと鳴り響いて止まらない。誤字をしないように、それだけを考えて、画面をタップする。
『会えます!』
送信した直後、いてもたってもいられなくなり、もう一度メッセージを送る。
『会いたいです!』
まるで、そうでもしないと、このメッセージが幻だったかのように消えてしまいそうで。
すぐに、返信があった。マモルさんからの言葉は、やはり短く、無機質だった。
『◯◯ホテル 417号室』
聞き慣れないホテルの名前だった。僕は急いで検索窓にその名前を打ち込む。表示されたのは、都心の一等地にそびえ立つ、きらびやかな高級ホテルの写真。僕の家から、電車を乗り継いでも三十分以上はかかる場所だ。
やっぱり、マモルさんはもう、僕の知っている街には住んでいないんだ。
遠い、手の届かない場所へ行ってしまったんだ。
でも、そんなことはどうでもよかった。
距離も、時間も、何も関係ない。あなたが、僕を呼んでくれている。その事実だけで、僕の世界は再び色を取り戻した。
『すぐ行きます!』
そう返信すると、僕はスマートフォンをソファに放り投げ、クローゼットへ駆け寄った。何を着ていけばいい? ううん、そんなこと、考えている暇はない。とにかく、一番早く着替えられる服を掴み、袖に腕を通す。
財布とスマートフォンだけをポケットに押し込み、玄関のドアに手をかける。
待っていてください、マモルさん。
今すぐあなたの元へ行きますから。
◇
ホテルの重厚な絨毯が、僕の足音を静かに吸い込んでいく。417号室。そのプレートの前で、僕は一度だけ、ごくりと唾を飲み込んだ。
本当に、この向こうにいるのだろうか。本当に、マモルさんなんだろうか。
震える手を持ち上げ、二度、ドアをノックする。
しん、と静まり返った廊下に、その音だけがやけに大きく響いた。しばらくの沈黙の後、部屋の中から、ずしり、と重たい足音が聞こえてくる。
ゆっくりと、扉が開いた。
そこに立っていたのは、見間違うはずのない、マモルさんだった。
でも、その姿は、僕の記憶にあるどの彼とも違っていた。顔には、表情を隠す大きなサングラス。首には、彼の太い首筋を締め付けるように、黒い革の首輪が巻かれている。上半身は、鍛え抜かれた肉体を誇示するような、光沢のある黒のタンクトップ。
そして、下半身は——何も、身につけていなかった。
彼の太く、重々しい男性器が、僕の目の前で無防備に剥き出しにされている。
ごくり、と喉が鳴った。
マモルさんは僕を一瞥すると、その唇の端を、かすかに吊り上げた。薄く、残酷な笑み。何も言わず、ただ顎で、部屋の中に入るようにと促す。
僕は、まるで操り人形のように、その後に続いた。
部屋は薄暗く、カーテンが閉め切られている。マモルさんは部屋の中央にある大きなベッドの縁にどかりと腰を下ろした。サングラスの奥の視線が、僕を射抜いているような気がする。心臓が、高鳴りすぎておかしくなりそうだ。
彼の視線は、きっとこう言っている。
「しゃぶれ」と。
僕は、迷うことなく、その足元に跪いた。
そして、熱を帯びた彼の先端に唇を寄せ、ゆっくりと口の中に迎え入れる。
[uploadedimage:21827365]
その瞬間、脳天を突き抜けるような幸福感に、目の前が白くなった。
これだ。これ。これ、これ、これこれこれなんだ。僕がずっと求めていたのは。この感触、この味、この匂い。
夢中で舌を這わせると、硬い金属の感触が舌先に触れた。驚いて目を見開くと、そこには、かつてはなかったはずの、銀色のピアスが埋め込まれている。鈴口から裏筋を貫くように。
この二ヶ月の間に、マモルさんは、また変わったんだ。
僕の知らないところで、さらに強く、雄々しく、支配者として進化していた。
僕は夢中で、マモルさんのすべてを味わうように舌を動かした。硬い金属のピアスが、舌の上で転がるたびに、痺れるような快感が脳を焼く。
奉仕をすればするほど、体の奥からじわりと熱が込み上げてくるのがわかる。指先が、足先が、ぴくぴくと細かく痙攣していた。自分のパンツの中が、かつてないほど硬く、熱く張り詰めているのがわかる。
僕は、奉仕を続けながら、くぐもった声で呟いた。
「どうして……いなくなっちゃったんですか……?」
涙が、ぽたぽたとあなたの太腿に落ちて、小さな染みを作っていく。
「寂しかった……すっごく、すっごく寂しかった……」
答えなんて、分かりきっていた。ニュースで見た、あの顔。世間が「ヤマイヌ」と呼ぶ、指名手配犯。
でも、それでも、万に一つの、ありえない可能性に、僕は祈るように問いかけていた。目の前のあなたが、僕の愛したマモルさんで、ニュースのあの男とは別人であってほしい、と。
僕の問いかけに、マモルさんはまるで子供をあやすかのように、嘲笑う声で答えた。
「……知ってんだろ? 俺は犯罪者だぜ?」
その言葉が、ナイフのように僕の理性に突き刺さる。
やっぱり、そうなんだ……。
頭のどこかで、警鐘が鳴り響いている。ここにいてはいけない。通報するべきだ。それが、善良な市民としての、正しい行いだ。
でも、僕の身体は、そんな理性の声を裏切るように、言うことを聞かなかった。目の前のあなたを求めて、熱く、疼いて、震えている。
僕がそんな葛藤の底で身動きできずにいると、大きな手が、僕の後頭部を鷲掴みにした。そして、抵抗する暇もなく、マモルさんのモノが喉の奥深くまで突き込まれる。
「おえっ……んぐぅ……っ♥」
息ができない。喉の奥を、あなたの硬いもので犯される。
ダメだ、ダメだ、ダメだ……!
頭の中で否定の声が叫ぶのに、身体は正直に反応してしまう。苦しいはずなのに、体の痙攣はさらに強くなり、背徳的な快感が全身を駆け巡った。
ああ、僕は、犯罪者であるあなたに使われている……。その事実が、僕をどうしようもなく喜ばせてしまっている。
僕の涙で濡れた顔を見下ろし、あなたはさらに嘲りを込めた声で告げる。
「お前は今、犯罪者のチンポ咥えて喜んでるわけだ」
その言葉は、僕の中にわずかに残っていた罪悪感の欠片すら、焼き尽くすためのガソリンのようだった。
僕は、この世で最も美味なものを味わっている。
あなたのものは、ただの肉の塊なんかじゃない。僕の乾ききった魂を潤す、神聖な蜜の味だった。このために僕は生きてきたんだ。そう確信できるほどの幸福が、全身の細胞の一つ一つに染み渡っていく。
パンツの中が、じっとりと濡れていくのを感じる。ああ、僕、イってるんだ。あなたを口に含んでいるだけで、身体が勝手に快感を貪って、メスイキしてしまっている。
もっと、もっと欲しい。あなたのすべてが。
欲望には、果てがなかった。身体の痙攣がどんどん激しくなって、思考が痺れていく。快感の波が、僕の脳を真っ白に塗り潰していく。
イク♡イ゛グ♡イクイクイクイク♡♡♡イk
そう思った、その瞬間だった。
突然、口の中が空っぽになった。
熱も、硬さも、味も、すべてが、何の余韻もなく奪い去られた。
「……ぇ?」
何が起きたのか、理解できなかった。絶頂の寸前で突き落とされた身体は、行き場のない快感の熱に焼かれて、ただただ震えることしかできない。目の前が、ちかちかと明滅する。
どうして。なんで。
涙がぼろぼろと溢れ出した。僕は、懇願するようにあなたを見上げる。
ください。
あなたのチンポを、もっとください。
僕の涙で歪んだ視界の中で、あなたは、僕の絶望を楽しんでいるかのように、その唇の端を吊り上げた。嘲りを含んだ低い声が、僕の鼓膜を震わせる。
「お前よ、俺のチンポがタダで貰えると思って来たのか?」
その言葉の意味を、僕はすぐには理解できなかった。
あなたは、僕の目の前に先程まで僕が夢中で貪っていたものを、見せつけるように突き出す。ヌメりと光沢を帯びたそれは、薄暗い部屋の中で禍々しいほどの存在感を放っていた。
欲しい。
欲しい。
これが、欲しい。
僕の思考は、その三つの言葉だけで埋め尽くされた。理性が焼き切れ、本能のままに、僕はもう一度それを咥えようと顔を近づける。
しかし、その動きは、あなたの大きな手によって無慈悲に制された。額に押し付けられた手のひらは、硬く、びくともしない。
なんで。どうして。ください。
声にならない心の叫びが、喉の奥で悲鳴を上げる。
あなたは、そんな僕の必死の抵抗を、まるで面白い見世物でも見るかのように見下ろしながら、続けた。
「かわいそうになぁ」
その声には、憐れみなんて一欠片も含まれていなかった。
「音信不通の俺に急に呼び出されても、チンポ欲しさに来ちまうんだもんな? いったい……誰のせいだ?」
くくっ、と喉の奥で鳴らす、低い嘲笑。
マモルさんは、僕の答えを待つこともなく、その熱く硬いもので僕の顔をなぶり始めた。
「俺は今、世間の奴らのせいですげぇ不便しててよ」
マモルさんのチンポの先端が、僕の鼻先にぐり、と押し付けられる。むせ返るような、濃密な雄の匂いが、脳を直接支配する。思考が、その匂いだけで溶かされていく。
「出かけるだけでも、クソどもの視線を気にしなきゃいけねぇ」
今度は、僕の頬にべったりとそれが擦り付けられた。ぬめりとした生温かい感触が、肌に張り付いて離れない。
「だからよ、俺の手足みてぇに動くやつが欲しいわけだ」
そして、先端はゆっくりと、僕の唇の上をなぞり始めた。すぐそこにあるのに、与えられない。この上ない焦らしに、僕はもう、気が狂いそうだった。
「俺の言ってる意味、わかるか?」
あなたは、僕の目の前で、それをゆっくりと上下させる。顔に触れたかと思えば、ふっと離れる。そのたびに、僕の身体はびくりと跳ね、もっと、とみっともなく喘いでしまう。
僕は、ただ、渇望に濡れた瞳で、あなたを見上げることしかできなかった。
そんな僕を、あなたは満足そうに見下ろしながら、最後の宣告を下した。
「俺のチンポ恵んでやるから、お前の人生よこせや」
何を、言って、いるんですか……?
あなたの言葉が、雷のように僕の頭を打ち抜いた。身体の火照りが、すっと冷めていくような感覚。目の前に突きつけられたのは、単なる性的な要求じゃない。僕という人間の、すべてを差し出せという、絶対的な支配の契約だ。
逃げないと。
頭の奥で、か細い理性の声が叫ぶ。
その声と一緒に、脳裏に浮かんだのは、ホテルに来る直前に見たスマートフォンの画面だった。
剣道の道着で、はにかむように笑う高校生の弟、拓也の顔。
『いつでも帰っておいでね』
僕を心配してくれる、母さんの優しいメッセージ。
あれが、僕の人生だ。僕が帰るべき、暖かくて、まっとうな世界。
なのに、僕は今、何をしようとしている? 指名手配犯の男に、すべてを差し出そうとしている。拓也が大人になるのを見届ける未来も、母さんの手料理を食べる温かい食卓も、全部捨てて?
そうだ、帰らないと。みんなが心配する。僕は、犯罪者なんかになっちゃいけないんだ。
そう思った瞬間、あなたは僕の逡巡を見透かしたように、その熱い先端を、僕の唇にぐり、と押し付けた。
「あっ……♡」
ダメだ。思考が、この感触に、この匂いに、上書きされていく。
帰る? どこへ? あの暖かい場所へ、この汚れた身体で、今さらどの面を下げて帰れるっていうんだ?
僕の瞳が、再び欲望の色に染まり始めたのを見て、あなたは満足そうに、くくっと喉を鳴らした。
「お前の人生って、そんなに価値があんのか?」
「俺がいなくて、楽しかったか?」
その言葉が、僕の心の傷口を抉る。
楽しかったか?
楽しかったはずがない。母さんの優しさも、弟の成長も、僕の心の中心にあるこの巨大な空洞を、ほんの少しも埋めてはくれなかったじゃないか。あの暖かい光は、僕のいる暗闇を、より深く、より孤独にするだけだった。
僕が必死に「まともな世界」への道筋を思い出そうとした、その時。あなたは、まるでそんな僕の思考を嘲笑うかのように、僕の目の前で、それをゆっくりと扱き始めた。
「あぁっ……!」
僕の喉から、みっともない喘ぎが漏れる。
あなたが指でなぞるたびに、先端から透明な蜜が溢れ、てらてらと光る。その一滴一滴が、僕の脳に焼き付いた家族の笑顔を、溶かしていく毒のように見えた。
母さん、ごめんなさい。拓也、ごめん。
でも、無理なんだ。母さんの優しさじゃ、僕はイけない。弟の笑顔じゃ、僕は満たされないんだ。
「お前の顔、正直だぜ? 欲しくてたまらないって顔してる」
あなたは、僕の唇に、その蜜を塗りつけるように先端を擦り付ける。
甘く、しょっぱい、あなたの味。
それを、僕は舌で受け止めることすら許されない。
母さんの手料理より、このチンポの蜜が欲しい……!
「俺の犬になれば、もう何も考えなくていい。ただ、俺に尽くして、毎日この美味いチンポをしゃぶってりゃ幸せになれるんだぜ?」
悪魔の囁き。
でも、それは、今の僕にとって、何よりも甘美な救いの言葉だった。
もう、考えたくない。苦しい葛藤も、色のない日常も、暖かくて居心地がいいはずなのに息が詰まりそうになるあの場所も、全部捨ててしまいたい。ただ、あなたのそばで、あなただけを感じて生きていきたい。
でも……。
最後の理性が、消えかかる声で抵抗する。
僕も、犯罪者になるんだ……。
「……俺は無理強いはしねぇ」
あなたは、ふ、と僕の顔からそれを離した。
突然の喪失感に、僕の心臓がひゅっと縮こまる。
「決めるのはお前だ。俺を忘れてつまんねぇ日常に帰るか……」
あなたは、もう一度、僕の口元に、それをゆっくりと近づける。僕の荒い息が、あなたの先端にかかって、てらてらと光っている。
「……それとも、俺の犬になるか」
世界が、ぐにゃりと歪む。
理性という薄いガラス一枚を隔てて、地獄のように甘美な選択が、僕に手招きをしていた。
僕は、震えながらも、もう一度、その地獄に手を伸ばそうとしていた。
ダメだ。犯罪者になる。僕の人生は、ここで本当に終わってしまう。
最後の理性が、消え入るような声で僕に警告する。
でも、その声はすぐに、別の思考にかき消された。
終わる? 何が? あの色のない毎日が? そんなもの、終わったって構わないじゃないか。
そうだ。僕の人生なんて、マモルさんがいなければ、ただのガラクタだ。
ガラクタよりも……ちんぽ。目の前の、この熱いチンポが欲しい。
僕を救ってくれるのは、僕を幸せにしてくれるのは、世界でたった一人。
目の前にいる、マモルさんだけ。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
心の中で誰にともなく謝りながら、僕の思考は、たった一つの言葉に収束していく。
ちんぽ、ちんぽ、ちんぽ、ちんぽ、ちんぽ、ちんぽ、ちんぽ……。
もう、何も考えられない。ちんぽが欲しい。何も、いらない。ちんぽが欲しい。
僕の瞳から、涙が溢れ出した。ちんぽが欲しい。でもそれはもう、葛藤の涙ではなかった。ちんぽが欲しいんだ。
すべてを捨てて、ただ一つの真実にたどり着いた、歓喜の涙だった。ちんぽ♡ちんぽ♡ちんぽちんぽちんぽちんぽ♡
僕は、恍惚とした表情で、僕の神様を見つめた。
そして、生涯で最も正直な本音を、その唇に乗せた。
だって♡
ちんぽが♡
欲しいから♡
「僕の人生……全部あげますから」
「だから……ください♡あなたのチンポ♡ください……♡」
あなたは、僕の言葉を聞いても、すぐには僕を許してくれなかった。サングラスの奥から、冷たい、値踏みするような視線が僕を射抜く。
「……あげますから?」
あなたが、気に食わなそうに僕の言葉を繰り返す。
違うだろ、と。その声色と態度が、僕の狂った頭に直接響いた。
「ま、間違い♥まちがい♥ました♥ぁっ♥」
ああ、違う。僕は、なんて愚かなことを言ってしまったんだろう。
対等な取引みたいに。僕の、価値のない人生なんかを差し出す代わりに、あなたのチンポを『ください』なんて。
僕の人生なんて、ガラクタなのに。あなたがいない世界で、ただ虚しく息をしてるだけの、ゴミみたいな時間なのに。それを、この、神様みたいなあなたのチンポと、引き換えにしようなんて。
なんて、傲慢で、不敬な考えだったんだろう。
「ぼ、僕の、僕の♥人生、ぜんぶ♥ぜんぶ♥ぜんぶぜんぶぜんぶ♥いらないです♥♥♥」
そうだ、いらない。捨ててしまえばいいんだ。
僕を縛り付けていた、つまらない常識も、ちっぽけなプライドも、どうでもいい人間関係も。
もう、僕は空っぽだ。空っぽの、ただの器だ。
でも、この空っぽの器は、あなたで満たされるのを待っている。僕の身体も、時間も、思考も、全部、あなたに使ってもらうためだけに存在する道具になれるんだ。
ああ、なんて素晴らしいんだろう。
僕の、このゴミみたいな人生に、あなたが意味を与えてくれる。僕という存在に、あなたが価値を与えてくれる。
それこそが、僕の、たったひとつの救いなんだ。
「もらってください♥♥♥マモルさん♥マモルの好きに♥使って♥使ってくださいぃ♥♥♥」
僕が言い終わるよりも早く、あなたの大きな手が、僕の顎を鷲掴みにして無理やりこじ開けた。
そして、そこに、乱暴に、あなたのすべてがねじ込まれる。まるで、教えるように。刻み込むように。
お前のちっぽけな人生は、俺のこのチンポに負けたんだ、と
「んんぐぅぁぁぅぁあぁうっ♥♥♥——————ッッ!!!!」
僕の口から漏れたのは、もはや喘ぎ声ではなかった。
痛みと、衝撃と、それを遥かに凌駕する至上の快感に、獣の咆哮のような絶叫がほとばしる。
視界が真っ白に弾け飛び、熱い痺れが背骨を駆け上がった、その時。
僕の太腿の付け根から、じゅわ、と熱い液体が溢れ出す感覚があった。
あまりの快感に、僕は、あなたの前で、すべてを失ってしまった。
僕の口の中で、あなたのものが容赦なく暴れ続ける。それはもう、快感を与えるための愛撫なんかじゃない。僕という存在を、根こそぎ作り変えるための、乱暴な刻印だった。
「どうだ? お前の人生捧げたちんぽの味はよ?」
あなたの嘲るような声が、頭に直接響く。僕は言葉を返すことなんてできず、ただ、獣のように喉を鳴らし続けた。
そうだ。これが、僕が人生と引き換えに手に入れた、至上の味だ。
「お前が選んだんだぜ? このチンポのために、全部捨てたんだ。後悔してねぇだろうな?」
後悔なんて、あるはずがない。
僕の身体は、その答えを叫ぶように、ちんぽに喉奥を突かれるたびにびくびくと痙攣し、快感の波に溺れていた。
その時だった。あなたが、ふと動きを止めた。
そして、僕の足元に、冷たい視線を落とす。そこには、僕が先程から垂れ流し続けている、みっともない水たまりが広がっていた。
「……おい、なんだこりゃ」
あなたの声に、あからさまな侮蔑の色が混じる。
「躾のなってねぇ犬だな」
その叱責の言葉が、僕にとっては新たな快感の引き金になった。
ごめんなさい、ごめんなさい。でも、止まらないんです。
そう心の中で謝罪する僕に、あなたは罰を与えるように、さらに激しく、深く、腰を突きつけ始めた。
「んぐっ! あがっ、ううううっ♥♥♥!!!」
喉が焼けるように痛い。顎が外れそうだ。
でも、その罰が、たまらなく気持ちいい。
激しくされるたびに、僕の身体の箍はさらに緩み、さっきよりも多くの熱い奔流が、太ももを伝って床を濡らしていく。
ああ、僕は、あなたの犬だ。
躾のなっていない、ダメな犬だ。
だから、もっと、もっとあなたの罰で、僕をめちゃくちゃにしてください。
しばらくの間、あなたは僕をめちゃくちゃに罰し続けた。やがて、僕が快感と失禁でぐずぐずになっているのを確認すると、あなたは満足したように、乱暴に僕の口からご自身のものを引き抜いた。
そして、ただ一言、冷たく告げる。
「ケツ」
僕は、そのたった一語の意味を、瞬時に理解した。
名残惜しさを感じながらも、愛おしいあなたのものから唇を離し、すぐさま四つん這いになって、あなたの方へと尻を突き出す。震える指で、自分の臀部を大きく広げ、その中心にある穴を、あなたによく見えるように晒した。
あなたは、僕のその姿を、またしても嘲笑った。
「おい、濡れてんぞ? メス犬じゃねぇか」
その言葉に、僕は恥ずかしさよりも、誇らしさを感じていた。
あなたのために、僕の身体は、いつでも準備万端なんですよ。
「い゛、家でぇ♥ケツマンオナニーしてたんです♥マモルさんをおもってぇ♥ケツmあっあああああああっぅあああああああ♥♥♥♥♥」
僕が、健気な努力を告白し終えるよりも早く。
背後から、何の予告も、愛撫もなく、あなたの熱い楔が、僕の奥深くまで一気に突き刺された。
「んんっぎぃぃぃいいいああああああああ———————ッッッ!!!!!」
内臓を直接えぐり貫かれるような、凄まじい衝撃。
あまりの快感に、僕の身体は激しく痙攣し、意識が真っ白に飛びそうになる。
気持ちいい。気持ち良すぎる。死んじゃう。
僕がずっと、ずっと夢見ていた、あなたの熱。
それが今、僕のすべてを、内側からめちゃくちゃに支配していた。
あなたのチンポは、僕の身体の中で、まるで魂そのものを汚し、作り変えるかのように、執拗に動き始めた。
一突き、また一突き。力強く、容赦のないストロークが、僕の奥の奥を抉るたびに、頭の中にあった「今までの僕」が、音を立てて死んでいくような感覚。
会社のデスク、上司の叱責、同僚の気遣う顔。
平凡だった日常の風景が、あなたのチンポによって、ガラス細工のように粉々に打ち砕かれていく。
「お前の身体は、もう俺のモンだ」
奥を突かれる衝撃と共に、あなたの低い声が、僕の脳に直接刻み込まれる。
「んっ、あっ……!は♥いぃ……っ♥♥」
「俺のために尽くすのが、お前の幸せだ」
ガツン、と、さらに深くえぐられる。
そうだ。そうです。この快感こそが、僕の幸せ。
「俺がいれば、他には何もいらねぇだろ?」
意識が、快感の熱で溶けて、混濁していく。
あなたの言葉だけが、絶対的な真実として、僕の中に染み込んでくる。
そうだ。いらない。何もいらない。会社も、友達も、家族も、僕の人生だったはずのすべてが、どうでもよくなっていく。
一突きごとに、言葉が頭の奥に染みこんでくる。
一突きごとに、古い僕が殺されて、新しい僕が生まれていく。
あなたの、あなただけの、都合のいい道具として。
あなたのものを受け入れるためだけに存在する、ただの器として。
「いい声で鳴けよ、アキト。俺の犬なら、もっと鳴けるだろ?」
「あ……ぁ、あ゛あ゛あ゛あああうッッ♥♥♥! わんっ! わんっ!!」
僕はもう、人間としての言葉さえ忘れかけていた。
ただ、あなたの突き上げるリズムに合わせて、獣のように喘ぎ、啼き、快感に身を捩る。
このまま、あなたの熱で、僕のすべてを焼き尽くしてほしい。
あなたの望む、新しい形に、僕をめちゃくちゃに作り変えてください。
「そうだ。もっと鳴け」
あなたの言葉が、僕の行動をすべて肯定してくれる。
僕は、もっと褒められたくて、もっとあなたに喜んでほしくて、ただただ喘ぎ、啼き続けた。
「お前は誰のモンだ?」
ガツン、と脳が揺れるほどの衝撃と共に、問いが投げかけられる。
「んぅっ♥……マモル♥ざぁん゛♥の♥でずぁっ♥」
「そうだ。俺がいなきゃ、お前はただのガラクタだ。わかるな?」
「うぅぅあぁ♥わ゛ん゛っ♥わ゛ん゛っ♥」
壊れていく。自分が、壊れていく。
頭の中が、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられて、もうまともなことなんて何も考えられない。でも、それが、たまらなく気持ちいい。
古い僕の、いらない思考が、あなたのチンポで全部破壊されていく。
「俺の名前だけ呼べ。他のモンは全部忘れろ」
「マモルさん♥マモルさんっ♥マモルさぁん♥……わんっ♥わんっ♥♥」
あなたの名前を呼ぶたびに、奥を突かれるたびに、僕の中の何かが消えて、代わりにあなたの色で満たされていく。
ああ、僕、壊れてよかったんだ。
つまらない常識も、くだらないプライドも、僕を縛り付けていただけのガラクタだったんだ。
全部、全部、あなたの手でめちゃくちゃに壊してもらって、僕は、やっと本当に自由になれた。
あなたの犬として、あなたのことだけを考えて、あなたの快感のためだけに存在する。
それが、僕の、新しい人生。
僕は、至上の幸福の中で、ただ、あなたのリズムに合わせて、壊れ続けた。
生まれ変わるために。あなたの、忠実な犬になるために。
「おらっオラオラオラっぶっ壊れろやっ!」
あなたのストロークが、さらに激しく、深く、僕のすべてを抉り続ける。
もう、痛みも、苦しさも、何も感じない。ただ、あなたのものが僕の中に在るという事実だけが、僕の世界のすべてだった。
やがて、あなたの腰の動きが、一段と大きく、重くなった。
奥の奥、僕の魂の核のような場所を、あなたがこじ開けようとしているのがわかる。
「犬、出すぞ」
あなたの、熱に浮かされたような低い声が、僕の耳元で囁く。
「俺の汚ねぇ種、全部お前の腹の中にぶち込んでやる。お前はもう、人間じゃなくなる。それでもいいんだな?」
その言葉は、僕にとって、世界で最も甘い、祝福の宣告だった。
僕は、あなたの犬になりたい。あなただけの、汚くて、忠実なメス犬に。
僕は、快感に涙でぐしゃぐしゃになった顔を必死にあなたに向け、歓喜の絶叫を上げた。
「はい゛ぃっ♥♥♥僕をぉ♥♥♥メス犬♥♥に゛っ♥あぁぁっ♥じでぐだざい゛♥♥♥僕の中、マモルざん゛のぉ種でぇ♥♥♥♥いっぱい♥♥♥♥♥♥にじでぐださいぃぃっ♥♥♥♥」
その、僕の堕落しきった誓いの言葉が、最後の引き金になった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!!♥♥♥♥♥♥♥♥」
あなたの咆哮と共に、僕の身体の奥深くで、熱い奔流がほとばしる。
一発、二発……数えきれないほどのあなたの生命が、僕の内壁を灼きながら、注ぎ込まれていく。
「んんっぎぃぃぃいいい♥♥♥♥♥♥♥♥ああああああああああああああ———————ッッッ!!!!!♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」
魂が、焼き切れた。
目の前が真っ白に弾け飛び、世界からすべての音が消える。全身が、今まで経験したことのないほど激しく痙攣し、身体の制御が完全に効かなくなる。
僕が今まで「人生」と呼んでいた、ちっぽけな記憶のすべてが、あなたの熱い種によって、完全に溶かされ、消滅していく。
あなたが、射精の余韻に喘ぐ僕の耳元に、最後の言葉を刻み込む。
「お前の人生、俺が正しく使ってやるよ」
意識が、遠のいていく。
薄れゆく視界の中で、僕を冷たく見下ろす、僕の神様の顔が見えた。
僕は、人生で最高の幸福に包まれながら、暗く、甘い、快感の底へと、ゆっくりと沈んでいった。
◇
「見かけない顔だね? よく来るの?」
隣にぬるりと腰を下ろした男から、不躾な視線と共に声がかけられた。でっぷりと太ったドーベルマンの男。仕立ては良いのだろうが、彼の肉体によって歪んだダークスーツの襟元は、脂汗でテカっている。混じり合った高級香水と汗の匂いが、僕の鼻をついた。
「あ、いえ……初めてで……。友達に、いい場所あるよって教えてもらって……」
「へぇ、そうなんだ。俺はスグル。君は?」
「アキト、です」
僕が名乗ると、スグルと名乗った男は「アキトくんかぁ」と皺の寄った顔で目を細めた。「可愛い名前だねぇ」と言いながら、その分厚い手がためらいもなく僕の太ももの上に置かれる。指が、内腿をゆっくりと撫で、僕はびくっと身体を強張らせた。
歓楽街のゲイバーは、金曜日夜の喧騒に満ちていて賑やかだ。スグルと名乗ったこの人のあからさまな行為も、その喧騒に紛れて誰も気に留めていない。
「アキトちゃん、気をつけて。スグルさん、あなたみたいな、細くて可愛い子が大好物なんだから」
カウンターの向こうから、艶やかな声が飛んできた。店のママらしい、筋肉質なオスの狐獣人が、少し高い声で、面白そうにこちらを見て笑っている。スグルは「トウゴさん、ひどいなぁ」と軽口を叩きながらも、僕の太ももを撫でる手は止めなかった。
「一人で来たのかい? アキトくん」
「はい……。友達は、仕事で来れなくなっちゃって……。せっかくだから、一人で来てみました」
僕は、少し寂しそうに俯いてみせる。スグルは「そりゃあ、いけない友達だねぇ。こんな可愛い子を一人にするなんて」と言いながら、新しいカクテルを僕の前に滑らせた。
「これ、俺のおごり。飲みなよ」
「え、でも、僕、あんまりお酒強くなくて……」
「大丈夫、大丈夫。俺がついてるからさ」
スグルの手が、僕の腰に回り、ぐっと引き寄せられる。僕は戸惑いながらも、勧められたカクテルを一口飲んだ。甘くて、アルコールが強い。
「美味しいかい?」
「……はい、美味しいです」
「はは、素直でいいねぇ。仕事は何してるの?」
「今は……カフェでアルバイトを。田舎から出てきたばかりで、まだ何も……」
「そうかそうか、大変だなぁ」
スグルは僕の境遇に同情するふりをしながら、自社の名前を挙げて自慢話を始めた。僕は「すごいですね!」「僕とは全然住む世界が違います……」と、目を輝かせながら相槌を打つ。男は気分を良くしたのか、さらに酒を注文し、「俺たちの出会いに」と乾杯を促してきた。僕たちはグラスを合わせる。その瞬間、スグルの手が僕の手に重なり、指を絡めとるように握られた。
それから二時間ほど、他愛のない、それでいてねっとりとした探るような会話が続いた。
スグルのセクハラはどんどんエスカレートし、僕の身体は彼の好きに触られていた。僕はといえば、すっかり酔いが回って呂律がおぼつかなくなり、彼の胸にぐったりと寄りかかる。酔って判断力の一切を失った若者を完璧に演じきる。
「ねぇ、アキトくん」
頃合いだと判断したのだろう。スグルが僕の耳元に、熱い息を吹きかけながら囁く。
「ここも悪くないけど、もっと静かなところに行かないかい?」
男の視線が、僕の身体を値踏みするように舐め回す。カウンターの下でスグルの手が僕の手を包む。
僕は、酔いで潤んだ瞳で彼を見上げ、「え……でも……」と、戸惑ったように唇を噛んだ。視線を泳がせ、どうしたらいいか分からない、という態度を必死に見せる。
戸惑っている僕の態度を楽しむように、僕の手を握ったままスグルの大きな手が、ぐいっと彼の足の間、スラックス越しの股間へと誘導してきた。
手のひら越しに、熱く、硬いものの脈動がはっきりと伝わる。
スグルは、試すような目つきでじっと僕を見つめた。まるで、僕の返事や反応を品定めしているように。
僕は俯いて、耳まで赤くしながら小さな声で答える。
「……はい……」
その返事を聞くと、彼は勝ち誇ったように笑い、僕の腰を馴れ馴れしく抱いて席を立った。
◇
店を出て、湿った夜の空気が肌を撫でる。スグルは、僕の手を固く握ったまま、満足そうに息を吐いた。その手は汗でじっとりと濡れていて、僕は内心の嫌悪感を押し殺す。
「どこに、行くんですか……?」
不安そうな声色を必死に作り、僕は彼を見上げた。スグルは僕の顔を覗き込み、下卑た笑みをその皺だらけの顔に浮かべる。
「イイところだよ。すぐにわかるさ」
彼はそう言うと、僕の手をぐいと引いて歩き出した。大通りから外れ、明らかに人気のない、暗い路地へと僕を誘導していく。やがて、古びた建物の裏手、ゴミ収集箱の悪臭が漂う場所にたどり着くと、スグルは僕を壁に乱暴に押し付けた。
「さて、と……」
もう、彼の目に先程までの愛想の良さは欠片も残っていなかった。剥き出しの性欲と征服欲にぎらつく瞳が、僕を頭の先からつま先まで舐め回す。
「や、やめてください……っ」
僕が身を捩って抵抗すると、スグルは「暴れるな。もっと可愛がってやる」と、その抵抗すらも興奮材料に変えて、僕の身体を押さえつけた。その分厚い手が、僕のズボンの上から股間を乱暴に鷲掴みにする。
「まずはここk……ん?」
スグルの動きが、不意に止まった。僕のものを確かめるように、何度か握りしめる。しかし、彼の指先に伝わるのは、柔らかな肉の感触ではなく、布越しでもわかるほどの、冷たく硬い金属の感触のはずだ。
「な、なんだ、こりゃ……?」
スグルは困惑の声を漏らし、僕の股間を凝視する。彼が、予期せぬ硬い異物に気を取られ、完全に無防備になった、その瞬間だった。
「がっ……!?」
僕を蹂躙しようとしていたスグルの身体が、突然硬直した。彼の喉から、蛙が潰れたような苦悶の声が漏れる。その視線の先、背後の闇の中から、音もなく一体の影が現れていた。
次の瞬間、スグルは首の後ろを掴まれ、いとも簡単に持ち上げられると、短い悲鳴と共に地面に叩きつけられた。分厚い身体が一度、二度痙攣し、ぴくりとも動かなくなる。
静寂の中、そこに立っていたのは、僕の神様だった。
全身を覆う、黒く艶めかしい強化スーツ。胸や肩を走る、血のように赤いライン。顔を隠す、無機質な赤いバイザー。鍛え抜かれた巨大な肉体を、一切の無駄なく包み込むその姿は、闇から現れた、絶対的な支配者そのものだった。
僕のヒーロー。
その圧倒的な存在感に、僕はうっとりと息を呑んだ。
恐怖に怯える小動物の演技は、もう必要ない。僕は、熱に浮かされた瞳で、恍惚とした表情を浮かべながら、愛しいその名を呟いた。
「[[rb:ご主人様 > マモルさん]]……♡」
僕の甘い呼びかけに、マモルさんは赤いバイザーの奥から、冷たい視線を僕に注いだ。
「出てくるのがおせぇ」
その叱責の言葉すら、僕の耳には心地よく響く。僕はうっとりとしたまま、その完璧なスーツ姿から目を離せずに謝罪した。
「ごめんなさ……い……♡」
「帰ったらお仕置きだ」
あなたはそう言い放つと、地面に転がっているスグルの身体を、まるでゴミ袋でも持ち上げるかのように軽々と肩に担いだ。そして、僕に背を向けて、闇の中へと帰ろうとする。
待って。
僕は、咄嗟にあなたの腕を掴んでいた。
あなたが、訝しげにこちらを振り返る。僕は、言葉の代わりに、潤んだ瞳で必死にあなたを見つめた。
僕、[[rb:ご主人様 > マモルさん]]の命令通り、ちゃんと頑張りました。
こんな臭くてキモい親父の隣で二時間も耐えておびき出しました。
だから、ご褒美♡ください♡
僕の視線からすべてを読み取ったあなたは、呆れたように、しかしどこか満足げに、短く息を吐いた。
「……しょうがねぇ犬だ」
あなたは担いでいたスグルの身体を、無造作に地面に投げ捨てる。そして、僕の目の前で、スーツの股間部分の変身をゆっくりと解除した。スーツの中から、熱を帯びたあなたのものが姿を現す。
僕は、その光景に歓喜の息を漏らし、すぐさまあなたの足元に跪いた。
僕の股間に着けられた貞操具の中で、使用用途のない僕のおちんぽが硬さを持とうとしてすぐに萎える。
そして、教えられた通りに[[rb:ご主人様 > マモルさん]]のおちんぽ様へのご奉仕を開始する。
誰よりも、卑しく、下品な音を立てて。
びちゃ、ぐちゃ、ぐぽっと、汚れた路地裏に、僕があなたに奉仕する音だけが響き渡る。
あなたに躾けられた、この作法。
[[rb:ご主人様 > マモルさん]]のおちんぽ様をいただく時は、感謝と敬意を込めて、徹底的にいやらしい音を立ててしゃぶること。
意識を失った男の横で、僕は、恍惚の表情で主人に尽くす。
ああ、僕は、この瞬間のために生きている。
狩りを成功させ、主人の役に立ち、そして誰よりも近くでご褒美をいただく。この、背徳に満ちたサイクルこそが、僕の人生のすべてであり、最高の幸福なのだ。
僕は、人生で最高の幸福を感じながら、ただ夢中で、僕のヒーローに奉仕し続けた。
(了)