突然、ご近所さんからキャンプに誘われた。
『保護者のうちの一人が急用で来れなくなってしまったから代理が欲しい』とのこと。
……要は数合わせということだろう。
自分に子供はいないし、そのご近所さんとも特別仲が良いというわけでもない。
さらに言えば子供を相手にするのは得意ではない。というか嫌いだ。
そういうわけで、初めは断ろうと思っていたのだが、話の成り行きで断り辛い雰囲気を作られてしまい、渋々了承することとなってしまった。
(はぁ……行きたくないなぁ)
そして、俺が行きたくない理由がもう一つ。
現在進行形で重度の便秘を抱えているのだ。
ただでさえ腹が重くてイライラしているというのに、子供の相手までしなくてはならないなんて。ただひたすらに最悪だった。
とはいえ、一度行くと言ってしまった以上は断るのも忍びない。嫌な気持ちを募らせながらも、俺はキャンプ当時を迎えることとなった。
そしてキャンプ当日。川遊びや虫取り、山の散策と色々な面倒ごと……もとい、レクリエーションがあったが、なんとか乗り切ることができた。
唯一良かったのは夕食のカレーが美味しかったこと。柄にもなくおかわりまでしてしまった。
ぼんやりとカレーの余韻に浸りつつ、焚き火に薪をくべていると声をかけられた。
「洗い物に行ってきますね。なるべく早く戻ります」
「その間は火の番と子供たちのことを頼んだよ」
「は、はい……」
そう言われると、他の大人たちは俺と子供たちを残して食器や鍋を洗うために炊事棟へと行ってしまった。
(なんでよりによって俺を残していくんだ……?)
子供たちの相手があまり得意でないことは事前に伝えておいたはずなのに。謙遜の意味として捉えられてしまったのだろうか?冗談じゃない。
「はぁ……」
テントの中でカードゲームをして大はしゃぎする子供たちを尻目に、特大のため息をつきつつ椅子に腰掛けた。
(ああ……早く帰りたい……)
今日一日を通して再確認した。やはり自分には子供を相手にするのは無理だと。
あの時はっきり断っておけば良かったと後悔しつつ、沈んだ気分を紛らわすべく本でも読もうと鞄に手をかけた時だった。
グルルル……グリュリュッ
「う……ッ!?」
突然、下腹部が轟音を上げたかと思うと、数秒遅れて凄まじい腹痛が襲ってきた。
……便秘腹にカレーのような刺激物は効いたのだろう。
キリキリと痛むこの感じ。皆が帰ってくるまで我慢するのはどう考えても無理と直感した。ならばすぐにでもトイレへと向かわなければならないのだが……
(子供と……焚き火が……)
そう。今の俺には子供たちのお守りと火の番という憎き使命が課されている。
トイレのある管理棟は徒歩でおよそ10分。とてもではないが行く勇気は起きなかった。
グリュッ……グロロロォ……
悩む俺とは裏腹に、腹痛はどんどん酷くなってゆく。このままでは本当にまずい。それなら、すべきことは?
(野糞……するしかないのか……?)
あまりにもみっともない解決策だが、今の俺が助かる道はこれしかない。
不幸中の幸いと言うべきか、今俺たちがテントを構えているサイトのすぐ側に小川が流れているのを散策中に確認していたのだ。
そこからなら子供たちや火に何かあってもすぐに駆けつけられる。やはりこれしかないだろう。
(そうと決まれば……急がなければ)
グルグルと唸るお腹をさすりつつ、子供たちにバレないようにそっと小川の方へと向かった。
草むらと河原を小走りで突っ切り、流れるようにしゃがみ込むと、水辺へと尻を向ける。
(申し訳ない……本当に申し訳ない……)
大自然の綺麗な水を汚物で汚してしまうことを心の中で何度も謝罪しつつ、ズボンとパンツを下ろし、我慢を解こうとしたその時だった。
「おじさん、こんな所でなにしてるの?」
「え……えあぁっ!?」
まずい。誰かが来た。反射的に尻穴を閉め、ズボンとパンツを引き上げる。
誰かにこの痴態を見られてしまったかもしれない焦燥感と、排泄を邪魔された苛立ちを噛み殺しながら、恐る恐る声のした方に目をやると……見覚えのある顔が。
一緒にキャンプに来ている子供の一人だった。
「な、なんでここが……」
「後をつけてきたんだ」
「え、っ……それで、ど、どうしたんだい……?」
「おじさんもゲームしない?大人数でやった方が絶対おもしろいって思ってさ!」
「いや……その今は……」
「ほら、行こ行こ!」
無理矢理手を引かれ、俺は河原を後にすることとなった。
(そ、そんな……)
あと少しだったのに。そして、ゴロロロロォッ、と腹音が凄まじさを増してゆく。絶望が一歩、また一歩と近寄ってくる。
(このままだと本当に……)
子供たちの眼前で無様におもらし。一番避けなければいけない展開がすぐそこにまで迫ってきている。
しかし抜け出すこともできない。河原で野糞するという目論見は打ち砕かれてしまったし、管理棟のトイレに向かうこともできない。というか今更間に合わないだろう。
グリュリュッ……!
(ま、まずいっ……波が……)
だが我慢をできるほどの余力は無かった。一度排泄ができる寸前にまで漕ぎ着けてしまったせいか、もはや歯止めが効かない。脳が『排泄できる』と信じきってしまっているのだ。
(あ……っ)
下半身の力が抜け……ムスススシュュュュッ、という凄まじい勢いと共にガスが抜けた。
……幸いにもすかしっ屁だったが、リミットがすぐそこまで迫っていることは火を見るよりも明らかだ。
ふらつく足取りでテントへと戻ると、子供たちが総出で俺のことを出迎えていた。
「おじさんおかえりー!どこ行ってたの?」
「早くゲームしようよー」
冷や汗が噴き出し、シャツやパンツを湿らせる。もはや隠し通せる状況ではなかった。それならば……
「あの……その……おじさん……お腹が痛くって……その……ウンチしたくてっ……!もう……我慢が……っ!」
半泣きになりながらも、今の自分の状況を子供たちへと説明する。せめて。せめて野糞をさせてほしい。おもらしだけは避けなければ……!
腹の痛みと精神的な痛みの両方に悶え苦しんでいた時だった。
子供の一人がおもむろに切り出した。
「サイズが合わないかもしれないけど……良かったら僕のオムツ……使う?」
「え……」
「僕、おねしょしちゃうから……予備のやつをママから貰ってるんだけど、それで良いなら」
……大の大人が子供からオムツを借りる。はっきり言って異常事態だが、今の自分にとっては神のような提案だった。
「た、頼むッ!貸してくれ!お願いだ!」
大人として、いや人として何か大切なものをかなぐり捨てた瞬間だった。
ズボンとパンツを乱暴に脱ぎ捨て、その子が差し出してくれた恐竜柄のオムツを奪い取るように掴み、そして両脚を通す。そのすぐ後だった。
ブリュリュリュリュッ!!ブボボボッ!
気が緩んだのか、とてつもない勢いで汚泥が溢れ出してきた。ほぼ液状のソレはあっという間にオムツを埋め尽くし、脚周り、そして腰周りからはみ出しては地面へと叩きつけられ、汚れを広げてゆく。やはり大人のおもらしを受け止められるほどのキャパシティは子供用のオムツには無かったのだ。
だがそんなことなんてどうでも良い。我慢する必要が無くなった、排泄しても良いという事実だけがそこにあった。
「ふ……ンンンぐぅっ」
ビチビチビチャ……ムリュリュッ
みっともない息み声を上げながら、もはや機能を失ったオムツへと排便を続け、その快楽に身を震わせる。
そうしているうちに排泄物の重みに耐えられなくなったオムツが破れ……汚物がさらに広がり飛び散り……それと同時に排泄は終わった。
汚物まみれになったキャンプサイト、絶句する子供たち、洗い物を終え帰ってくる大人たち。
俺が排泄の快楽から自我を取り戻し、『待ち受ける絶望』を知るのにはもう少し時間がかかるだろう……