12/23
夏休み以来の水郷村。つまり帰ってきたのである。
こっち側の用事がなかなか終わらずにバスに乗るのが予定より遅くなった。深君から手紙が帰ってきたときは『バス停で待ってる』って返って来たもんだから申し訳ない。
田舎道を走るバスに揺られながら冬休みの間に深君となにをしようかを考える。ナニではない。
日が沈んだ頃にようやくバス停に着いた。辺りを見回すとほんのり光っている場所が2つある。言うまでもなく深君だ。
博行「わざわざ寒い中待たなくてもいいのに...」
深「...待つって言ったからには最後のバスまでだろうと待つ。」
深君は軽く腕を組んで少し冷たい声でそう言う。言い訳と言うか...誤った方がいいやつだねコレ
博行「...なんか...ごめんね?」
深「...別に。天木も待ってる。行こうか」
そういえばおばあちゃんとこが急用で泊まれなくなっちゃったから深君の家に泊まるんだった。
ゆらりゆらりと揺れる尻尾を追いかける感じで深君について行った。
夏に来た時は生い茂っていた夏草も今や見る影もないくらいに散って枝が露わになっている。これはこれで趣を感じる。
深君の隣をゆっくりと、一秒一秒をかみしめるように歩いて行った。
田舎だからなのか、それとも自分自身が寒さに弱いだけなのか。北風がすごく冷たい。鼻に入るたびに細胞が凍るような感覚がする。
深「寒くないかい?」
博行「寒くないって言ったらウソになるね。」
深「...じゃぁちょっとこっち来て」
博行「...ん? うん。」
言われるがままに深君の真横に行くとあろうことか俺の右手がもふもふしたなにかで包まれた。この感覚は知ってる。深君の手だ。夏休みの時に何度か触れたことがあるから間違えようがない。正直深君がそんな積極的なことするとは思わなかった。
博行「...深君ってこんなに積極的だったっけ?」
深「...二人きりの時は君付けじゃないほうがいいって言ったはずだけど」
博行「あ...そうだったね」
深君...深が俺の方を横目で見ながらボソッとつぶやく。俺は深君の手を握り返して歩く。
深「ただいま。」
博行「お邪魔します。」
天木「おかえり。西村君もいらっしゃい。ご飯できてるよ」
博行「いただきます。」
ひとしきり荷物も置いたところで席について晩御飯を食べる。いつも通り美味しい。『先生、とっても美味ぃです~』的なセリフがなにかしらのアニメであったような気がするけどほんとにそうだと思う。
博行「ふぅ...美味しかった...」
天木「ならよかった。お風呂沸かそうか?」
博行「あ、お願いします。」
深「なら沸くまで部屋で荷解きとかしておこうか。」
博行「そうだね。」
さっき荷物を置いた深君の部屋に向かう。さっきは少しの間だからしっかり入るのは本当に久しぶりだ。
部屋に入ると深君の太陽みたいな匂いがした。いつも通りだね。
...これじゃまるで自分が変態みたいじゃないか......いや事実か...
そんな事実に少し落胆しながらも荷解きを始めた。着替えに歯ブラシやら歯磨き粉やら色々。
そういえば布団どうしよ...
博行「ねぇ深」
深「どうかした?なにか忘れ物でもしたのかい?」
博行「うん。布団を」
深「よりにもよって大きいものを...でも布団って運んでこれるの?」
博行「...無理だね。」
深「う~ん...こっちにもないからどうしようか...」
そんな話をしているとふと夏休みの記憶を思い出す。そう、あ~んなことやこ~んなことをした夜のことを。これならワンチャン添い寝できるんじゃないか...?と邪な考えが脳裏をよぎる。
博行「...ねぇ深」
深「...なんとなく察した」
博行「.......まぁわかりやすいか...」
深「別に構わないよ。夏休みにあれだけのことしておいて添い寝はダメだなんてひどいだろう?」
博行「...なんか恥ずかしい...」
深「やめてよ僕だって口にしてすごく恥ずかしいんだから」
まぁそうだよね...勢いというか気分というか...そういう条件が色々揃ってないとやろうとは思わないよね、あんなこと。
しばらく互いに顔を赤くして硬直していた。
重い空気とも言い難い妙な空気感を破ったのは深君だ。
深「...お風呂、入ろうか...」
博行「...その言い方だと一緒に入りたいって感じに聞こえるけど」
深「別に今更だろう?いっそのこと開き直ろうかと...」
そんなこんなで一緒に脱衣所に来た。
ここで問題が発生する。俺の下半身が耐えられる気がしないのだ。無論、深君の裸を見たのがあの時だけってのが大きい。もう少し裸の付き合いしてれば違ったのかな...
深「...脱がないのかい?」
博行「うん...脱ぐよ」
ハヤブサの如くささっと脱いでささっと腰にタオルを巻いた。もちろん深君も巻いている。
恥ずかしいのか深君の2本の特徴的なかわいらしいアホ毛は萎れていた。顔は朱色に染まっている。かわいい。どれくらい可愛いかって?文章が有り得ないほど途切れるくらいには可愛いよ。
博行「...広い」
この一言に尽きるくらいには広かった。二人でも狭いと思えないくらいに広い。のびのびと過ごせそうでありがたい。
そんなことは置いておいて、とりあえず体を洗う。視線が深君の方に向きがちなのは気にしない。だって体のラインが綺麗なんだもの、そりゃ釘付けにもなるよ。
深「...そんなに見られるとちょっと困るんだけど」
博行「ちょっとで済むんだね」
深「自分でそれを言うのか...まぁ...一回隅々まで見たり触られたりしたんだから今更気にすることでもないよ。」
博行「深君って素直になったって言うより開き直ってるよねそれ」
深「そうでもしないと博行に平手打ちしそうだもん」
博行「ひぇっ」
けどそれはそれで喰らってみたい、という俺の中のM的な部分が反応する。
深「てい」
博行「あひん」
深君の右手が俺の左頬にぽすっと当てられる。湿った獣毛がとても心地よい。
深「なんだい?その情けない声は...」
半ば呆れた様子で俺にそういった。
博行「急だったから...」
深「ほら、湯船浸かろ。風邪引いちゃう」
博行「はいよ。」
少し取れかかったタオルを巻きなおしながらゆっくりと深君が浸かって行った。改めて見てもそれどう巻いてるのかわかんない...
博行「ふと思ったけどそれどう巻いてるの?」
深「尻尾の付け根の上にタオルの真ん中辺りを乗せるでしょ?」
博行「...うん」
深「そこから2周巻いてるだけだよ。」
想像してたより簡単な巻き方だった...てっきりタオルに尻尾穴的なの空いてるもんかと...それにしても長いタオルだな...
そんなことを考えつつ深君の隣に座った。
博行「クリスマスに年越しに正月、色々イベントあるけどなにしたい?」
深「......博行と居れたらそれでいい。」
博行「...そっか。」
想定外の答えにちょっと戸惑った。てっきり『初詣行きたい』とか『クリスマスパーティしたい』とかだと思ってた...
俺はなんとなく深君の方に体を寄せる。
深「...」
すると深君は無言で俺の肩に頭を乗せた。その喉からは『ごろごろ』と可愛らしい音?声?が聞こえる。
そうしながら俺と深君はのぼせかけるまでそのまま過ごした。
深「ん~......のぼせた...」
博行「水飲みな。」
深「うん。」
ベッドに座って『う~』と項垂れる深君に水を差し出す。いつものワイシャツの前のボタンが止まってない上にシャツを着てないので前側が丸見えである。
...触りたい.........おっと危うく警察のお世話になるところだった
深「ふふん...さわりたいんでしょぉ?」
そう言われてドキッとした。ていうかのぼせてるというよりこれ、酔ってるみたいな感じじゃ...?
深「ねぇ博行」
博行「ん?」
やっぱりフリだったらしい。てことは多分深君が触ってほしかったんだと思う。
深「...眠いから寝ない...?」
深君の顔がぽっと赤く染まる。つまりは深君なりの『お誘い』というわけだ。これに乗らない手はない。
博行「まぁ寝よっか。明日はクリスマスイブだから忙しいだろうし。」
深「...うん。」
俺は深君の方に歩いて行った。一足早くベッドに潜り込んでいた深君の隣に寝転ぶ。
距離はほぼゼロに等しくてお互いの心臓の鼓動が聞こえそうな状態になっている。それが何の問題なの?俺はそんなの構わない。むしろ聞いてほしい。
俺は目の前に放り出されていた深君の右手を握り、指を絡める。それと同時に深君が少しむっとした。
深「今回こそは僕からやろうとしたのに...」
博行「ふふ、ごめんごめん」
深「むぅ...」
未だに開いていた前側から手を入れて深君の背中に手をまわしてこっちに引き寄せた。
深「んっ...」
博行「なんでそんなに寒そうな格好してるのさ」
深「だって...君が僕を暖めてくれるだろう?」
博行「また面と向かって恥ずかしげもなくそんなことを...」
ここに戻ってきてから毎回深君の言動には驚かされる。俺もそんな深君を越えるべく......なんで越えようとしてんだ?俺...
と り あ え ず !
俺は深君の右頬に左手を添えて深君に口づけをした。
まぁオシャレな言い方をしただけでロマンチックのカケラもない唐突なキスなだけなんだけどね。
深「ん...! ん.........これはただいまのキス、ってことでいいのかい?」
深君がニヨニヨしながら俺に問う。
博行「まぁそんなとこかな。って言いたいけどただいまのキスするならバスから降りた時にしてるっての。まぁ...それでいいよ。それで」
深「ふふ。なら僕はこういうべきかな? おかえり、博行。」
博行「......うん。 ただいま、深。」
今度はどちらからでもなく、同時に、ゆっくりとキスをした。