幼い頃に一度会っただけの生まれが高貴な竜娘ちゃんに成人式の日にお屋敷へ連行され、お婿さんにされてしまう人間くんのお話

  今日は成人式。

  だが、あいにくと今日は風邪を引いてしまい、式には参列できない...という設定だ。

  誰がこの寒い中、わざわざ成人式などに行くものか。

  一生の思い出など知ったことではない。

  .....まあ、久々に会いたい友人もいるにはいるが、祝い事の節に馬鹿騒ぎするとかは性に合っていないのだ。

  今日も布団でぬくぬくしているのが一番良い。

  はー、幸せ.....

  ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

  .....? あれ、眠っていたか? 同い年の奴らがこぞって寒空の下震えながらピースしてるのかと思うと多幸感が溢れて仕方がなかったのだろうか。 非常に良い睡眠を取れていたのに。一体誰だ?

  布団の外に出るだけで億劫なのに。

  そう何度も鳴らさなくても...居留守は使うつもりもなくもなかったけど、イラっとくるからやめてほしい。

  渋々ドアを開ける。

  「はーい、どなたですかー?」

  そこには———

  “祝・成人!◯◯くんおめでとう!” とデカデカと書かれた横断幕の前に、仁王立ちする振袖姿の竜人がいるではないか。

  立派な角を二本生やし、大きな翼を目一杯広げているその竜人は、やけに自信に満ち溢れた顔でこちらを見据えている。

  夢か何かだろうか。

  まだ眠りから覚めていないのかもしれない。

  あまりのことに唖然としていると、思っていた反応ではなかったのだろうか、その竜人は困惑した顔で近づいてきて口を開く。

  「あのー◯◯くんだよね? ひょっとしてボクのこと、覚えてない?」

  ひょっとしても何も、自分に竜人の知り合いなどいない。

  生まれてこの方、そんな高貴な種族とは.....ん? “ボク”?

  「え.....もしかして、××会の?」

  「そう!よかった、覚えててくれたんだぁ♪」

  そうだ、思い出した。

  幼稚園ぐらいの頃、親父か親戚の伝手で頼まれたか何かで民間の種族交流会とかいうところに行かされて、竜人の子と一緒に遊んだような記憶がある。

  しかしあの子は確か男の子だったような...でも当時わざわざ確認したわけでもなかったし、何よりあの一人称、当時のままなのだとしたら確かに一致している。

  でも、その子が今になって何の用だ?

  なぜ自分のアパートの前にいて、よくわからない横断幕を使用人らしき竜人に持たせているんだ?

  状況が掴めず混乱していると、彼女は笑顔で話し始める。

  「それで、迎えに来たよ! 約束通り! やっとだね♪ 今日まで長かったけど、これからは毎日一緒だよ〜♪」

  何を言っているんだこいつ?

  約束ぅ? そんな覚えはないぞ?

  というか一旦何年前のことを言っているんだ?

  仮に約束をしたとしても普通は覚えていないし、覚えていてもまともに取り合わないだろ。

  「あの〜、すみません。 ちょっとよく分からないことがありまして...約束ってどれのことでしたっけ?」

  とりあえず嫌な予感がするので彼女を刺激しないように質問してみる。

  「え〜、やだなー笑 約束って言ったら一つでしょ〜。 もう、相変わらず天然なんだから〜笑 .....大人になったらずっと一緒にいようって約束っ!/// えへへ、改めて言うとなんだか恥ずかしいや///」

  .....残念なことに、微かに覚えがあるぞ。

  言ったっけ。 言ったな。 そんなようなことを言った気がする。

  いやでもそんな...いっそ完全に忘れていた方が楽だったのに...

  「あー、そのことなんだけどさ、実は」

  「なに? まさか嫌なんて言わないよね。 さっきからなんか変だよ? あんまり嬉しくなさそうっていうか。 キミが言ったんだよ? “大人になったら一緒に暮らそう。 お前とならずっと一緒でも楽しいに決まってる” って」

  「あー.....いやぜんぜん? ただほら一応、迎えに来た〜とか言ってたから。 どこに行くのかなーって。 ほら、俺今ちょっと風邪気味だし? 家にいた方がいいかもなーとかね?」

  「え、ほんと!? ...よし、じゃあこれからウチのお屋敷に連れて行くね。 ウチの先生すぐに呼ぶから! 早く診てもらわないとね! ほんとは成人式の後に行くつもりだったけど、フィアンセの体調にはかえられないからね〜」

  「ん? ふぃあ...あー、でもさ、急にご自宅にってのもよくないっていうか。 こんな体調だし迷惑が」

  「あー気にしないで! お父様とお母様にはもう言ってあるし、ちゃーんと認めさせたから笑 確かにウチの直属の領地に人間が来たことは一回もなかったはずだけど、偏見とかは全然ないよ! 私がイチから教え直したからね笑 それに人間より竜人の方がずっと身体が強いから風邪なんかもらわないし大丈夫! そりゃあその辺の汚らしい猿が来るって言うなら話は別だけど、なんてったって私のお婿さんだもの♪」

  「...姫様、準備が整いました」

  「わかった。...よし、そろそろ行こっか♪ 少しだけ体が浮くけど、安心してね。 人間でも大丈夫なように飛ぶから。 ゲートを通れば5分もすれば着くよ。 そ、それじゃあ抱っこするね.../// 痛かったらちゃんと言ってね!///」

  こうして、自分が知らないうちに裏で着々と準備が進んでいたことを数分間の会話で知り、既に抵抗など無駄で完全に詰んでいることを彼女の大きな体躯と空に開いている“ゲート”なる未知の何かを見て理解する人間くんと、人間族とは少し価値観が異なる竜人族でありながらも大好きな人間くんをお婿に迎えるため長年頑張ってきて、勉強の甲斐あって成人式なる催しの日に人間が成体だと認められると知り、来たるその日に合わせて全ての準備を済ませて、明日にでも結婚式を開く予定の竜娘ちゃんのお話。