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祝福せよ小さなセカイ

  目覚ましのアラームが鳴り響く。

  シングルベッドの枕元で、一台のスマートフォンがリズミカルな振動とともに朝を知らせている。

  やがてベッドの膨らみがもぞもぞ動き始めた。

  布団の上端まで辿りついて顔を出したのは、一匹のオスのニャオニクス。

  まだ眠たそうに目を細めながらも、なんとか鳴動するスマートフォンに手を伸ばして画面をタップ、耳障りな音を止めた。

  そのまま緩慢な手つきで掛け布団をめくると、そこにはもう一匹、丸まって眠るメスのニャオニクスの姿が。

  「起きて、朝だよ」

  オスに揺すられて、メスが瞼を上げる。

  「ん……おはよう、サクラちゃん」

  「おはよう、コタローくん」

  窓から差し込む朝日の中、二匹は微笑み合った。

  「体調が良くない?」

  ダイニングへと入ってきたエーフィが聞き返す。

  「おれもサクラちゃんも、起きてからずっと熱っぽいっていうかだるいっていうか。ね」

  メスのニャオニクスが額に手を当てながら説明すると、オスのほうもこくこくと頷いた。

  「風邪かしら、困ったわね」

  エーフィは床からテーブルへ飛び乗ると、そこで食事している人間の男性に顔を向けた。

  『この子たち具合悪いってさ。どうする?』

  『ありゃりゃ。ボクは医療系じゃないんだよな……』

  『今日はここで休んでてもらう? どうせ研究所に連れてってもやることないでしょ』

  『ホントはいてもらった方が助かるけど……仕方ないか。それじゃあ看病してあげてね』

  『イヤよ』

  『ちょっ――』

  まだ話がある風の男性を尻目にテーブルを降り、エーフィはニャオニクスたちの方へ向き直る。

  「あんたたちは留守番。私も彼も仕事に行くけど、あんまり容体が悪くなったら電話してね」

  「はーい」

  ニャオニクスたちは寝室へと戻るなり揃ってベッドへ横たわる。

  「ふぅ……どうしちゃったんだろ、おれたち」

  「急にポケモンになっちゃったせいで、身体がびっくりしてるのかな」

  ぺたぺたと自分の身体を触ってみるサクラ、もといオスのニャオニクス。

  その容姿に不自然さは無く、元々人間だったなどと言っても信じてもらえる可能性は低いだろう。

  そしてそれはコタロー、もといメスのニャオニクスについても同じ。

  「うーん。でもそれだったら、変身してすぐ具合悪くなりそうじゃない?」

  「あ、そっか」

  彼らが今の姿になってから数日が経っているが、その間これといった体調不良は現れていなかった。

  新しい身体で活動するのに不都合が無かったわけではないが、それらは物理的に解決できる問題ばかりだった。

  「じゃあやっぱり風邪かな」

  「ふたり同時にってのも、絶対ないとはいえないけど、ちょっとヘンだよな」

  「言われてみれば」

  洋服を着なくなったとはいえ、彼らには豊富な体毛があり寒さとは縁遠い。

  加えて先程の人間とエーフィの世話になっているのもあり、環境はかなり快適だ。

  現在の体調にこれという心当たりがない二匹は、ただ唸るばかり。

  「まぁ、寝れば治るさ、きっと」

  「そうだといいね」

  どのみち安静にするよりほかにできることがない。

  朝起きた後で眠気が遠のいてしまっているが、身体を休めるため彼らは無理やりにでも目を閉じるのだった。

  [newpage]

  

  しばらくの間、静寂が続く。

  時折身体を動かしては布団が擦れる音と大人しい呼吸音だけが部屋に転がる。

  「……」

  サクラに背を向けるようにして寝ているコタローの両目は、ぱっちり開いていた。

  眠ろうと努めるコタローの身体は、その意思に反して妙に興奮している。

  まるで運動しているときのような全身の火照りと鼓動の高鳴り。加えて息も荒くなっている。

  ここまでなら風邪症状といえなくもなかったのだが。

  「……うー」

  条件の良い時以外は鎮まっていてほしい性欲が、この場違いなシチュエーションで異様に高まっている。

  導かれるように股間へと伸ばした手はしかし、探るような仕草をしてから、止まった。

  無い? ちんこが?

  しばらく混乱ののち、氷解。そういえばこの身体になったときに性別まで変わったんだっけ。だから今の自分はメス、つまり女なんだ。

  だとすると、もう射精という方法で性欲を発散させることができない。あれ、じゃあどうすればいいんだろう。

  人間の男としてこれまでを生きてきたコタローには、唐突かつ難解な問題だった。

  心の中で唸っていると、その背中に小さく震える声が投げかけられる。

  「コタローくん……起きてる?」

  寝返りを打って振り向くと、瞳を潤ませたサクラがコタローを見つめていた。

  「ど、どうしたの」

  「ごめんね。わたしの身体、なんだかおかしくって」

  互いに向き合う形のまま身を寄せてくるサクラ。その背に腕を回すと、かなり熱を持っているように感じられた。

  しかしそれよりも気になったのは、下腹部あたりに当たる固い感触。

  「何もヘンな事考えてないのに、ココがこんな風になっちゃって……うずうずするの」

  「そ、それは」

  コタローには覚えがあった。以前にもこうして正面から抱き合ったときに、こんな感じで当たったことがある。だからこの感触の正体に辿りつくのは難しくない。

  そう、彼女は勃起しているのである。

  オスのニャオニクスとなった今のサクラには当然起こりうる生理現象。

  しかしつい先日まで人間の女性だったのだから、その対処法など知る由もない。

  「助けて……コタローくん」

  消え入りそうな声で懇願するサクラ。

  胸に顔を埋められ、ひくつく雄を押し当てられて、コタローの理性はいとも簡単に吹き飛んだ。

  サクラの肩に手を置いて、ひと呼吸。

  「よく聞いて、サクラちゃん。それを治す方法はただひとつ」

  固唾を呑んで続きを待つサクラに、コタローは真剣な眼差しを向け、一拍おいたのち言い放つ。

  「いっぱい気持ちよくなって、射精することなんだ」

  ぴくーんっ、と押し当てられたそれが強度を増した。

  遅れてサクラが顔を上げ、頬を真っ赤に染める。

  「ほ……本当なの……?」

  混乱と羞恥で茹だってしまいそうなサクラの頭を撫でながら、コタローは続ける。

  「大丈夫だよ。どうすればいいか、もう知ってるでしょ」

  コタローはサクラの手を掴み、自分の両脚の間、疼くその部位へと導く。

  指が触れたとき、サクラの目が見開かれ。

  「あっ……」

  「実はおれも今、サクラちゃんが欲しくてたまらないんだ。一緒に気持ちよくなろうよ」

  そうささやいた瞬間、サクラの理性も遥か彼方へと消え去った。

  ベッドの上で四つん這いになるコタロー。

  その後ろからサクラが彼の尻尾をめくり上げると、濡れきった雌の部分が露わになる。

  「いつでもいいよ」

  「う、うん」

  そこへ興奮しきった雄が押し当てられ、ゆっくりと力が加わってゆく。

  挿入を待ち焦がれていた雌は、いとも簡単に雄を飲み込み始める。

  「はうう……」

  「やっぱり、おっきい……」

  腰を押し出していくと、やがてその全体が身体の中へと収まった。

  ぴったり吸い付くように絡み合い、互いの小さな動きを感じては快楽へ昇華してゆく。

  「き……気持ちいいよ、コタローくん」

  「へへへ、おれも。さあ、動いて」

  そーっと腰を引き、再び前へ。

  固さを持った雄が先端を残して引き抜かれ、もう一度挿し込まれる。

  また引いて、また押して。

  緩慢に繰り返される不慣れな動きの中で、偶然とある角度から入り込んだとき、コタローの背中がぴくっと跳ねた。

  「んっ……!」

  「あ! ご、ごめんね、痛かった?」

  「ち、違うんだ。むしろ……」

  入口から浅い場所、腹側のとある一点を押し上げるように突かれることで、言いようのない感覚がコタローを襲った。

  それは雌として内部を抉られる悦び。人間のコタローには知りえない快楽。

  コタローの様子に手応えを感じたサクラが、そのときの角度をなるべく再現するように腰を動かす。

  「んっ……う……あっ……」

  「こう、かな?」

  「や、やばい……あんっ……そこっ……!」

  その弱点を責めるたびに声を漏らすコタローが面白くて、何度も何度も突き込む。

  快楽は徐々に蓄積して膨れ上がり、コタローの頭をいっぱいにしてゆく。

  「コタローくん、おんなのこみたい」

  「だ、だって……やんっ……あっ……」

  その指摘に恥ずかしさを覚えるも、声を抑えることはできない。

  往復と嬌声とが交互に織り成すリズムに、二匹は身を委ねる。

  しばらくそれを続けていたが、あるときまた一番奥までぐいっと突き込まれた。

  その先端が、最奥部に当たる。

  「ひぅっ」

  「コタローくん……わたし、また……きちゃいそう……」

  サクラにとって忘れもしないその感覚。腰の奥がざわついて、切なく疼きだす。

  オスとしての限界が近づいているのである。

  それを小声で訴えるサクラの顔は今日一番赤い。

  「いいよ、サクラちゃん。中に……」

  許しを得た雄が、今度は深いところをぐいぐいと押し上げる。

  短いストロークで何度も突き上げられる感触が、コタローの身体を雌だと言い聞かせる。

  「や、だめ、そこっ、おく、あたってっ」

  「こたろーくん、こたろーくんっ……!」

  雌としての急所を執拗に責められて急速に昇り詰める快感が、ほどなくして臨界点へと至った。

  「う、ああああっ……!!」

  コタローの全身が強張るとともに、体内を貫く雄を締め上げる。

  それによって一気に追いつめられたサクラが、コタローを抱きしめるように腰を押し当て。

  「あっ、もうだめっ、こたろーくんっ……きゃんっ!!」

  どくんっ。

  大きく脈打った雄の先端は子宮口に食い込みそうなほど突き当てられたまま。

  そこから放たれたものをしっかりと中へ注ぎ込んでゆく。

  「んんーっ……!」

  快楽の奔流に必死で耐えながら、なんとしても雌を孕ませようと体液を送り続ける。

  どくっ、どくっ、どくっ、どくんっ。

  「あ……ああ……」

  大量の熱を流し込まれて絶頂に押し留められ、震えながらその悦びに酔いしれる。

  長い時間をかけてありったけの精を吐き出したあと、緩やかに収まってゆく。

  雄を引き抜くと同時に倒れ込む二匹。

  「はぁ……はぁ……」

  「サクラちゃん……だいじょうぶ……?」

  「疲れたー。でも……なんだかすっきりしたよ」

  そう笑うサクラに、コタローはそっと背中に腕を回し、胸に顔を埋めた。

  [newpage]

  「はああああーっ!?」

  ダイニングにエーフィの怒声が響き渡る。

  テーブルの上から睨みつける視線の先には、申し訳なさそうに頭を下げるニャオニクス二匹。

  「あんたたち、人間に戻りたいって言ったわよねえ?」

  「い、言いました、ハイ」

  「でも《その身体でしかできないこと》をするとそれが難しくなる、って教えたわよねえ?」

  「教わりました……」

  「それが、こともあろうにタマゴですって!? あんたたち揃って――」

  『ちょっとちょっと、落ち着いて』

  テーブルをばんばん叩きながら責める様子を見かねた人間の男性が、エーフィの肩をやんわりと押さえる。

  しかしエーフィはそれが気に食わないとでもいうように男性を睨みつける。

  『あら。あんたでも落ち着いていられるかしらね? この連中に赤ちゃんができたと知っても』

  『なんだってーっ!?』

  今度は男性が飛び上がってしまった。

  「あ、あの。おれたち、やっぱりこのままでいいです」

  コタローの言葉に人間とエーフィが振り向く。

  「いろいろ考えたけど、こうしてサクラちゃんと一緒にいられるのが一番いいなって」

  「人間じゃなくなって大変な事も多いと思う……でもコタローくんがいてくれればきっと大丈夫って思えるんです」

  述べた後、互いを見て微笑み合う二匹。

  その様子にエーフィは溜め息をついて脱力した。

  「そう……。なら、もう言わないわ」

  『なんて言ってる?』

  『もうニャオニクスのままでいいそうよ』

  『こ、この子たちもかぁ~』

  『全くキリがないわね……』

  人間とエーフィが揃って項垂れ、気まずい空気が流れる。

  「……おれたち何かマズいこと言っちゃいました?」

  「違うわ、こっちの話。それよりも、決めなくちゃならないことがたくさんよ」

  二匹は顔を見合わせる。

  「ポケモンとして生きていくんでしょ? 人間社会には返してあげられないし、それ相応の生き方を選ばないとね」

  「そっか……そうだよね」

  「とはいえ、しばらくは面倒見てあげるわよ。ゆっくり考えればいいわ」

  ほっと胸を撫で下ろす二匹。今日から野生として生きろと言われたら困り果てていたところだ。

  ゆくゆくはそうなるのかもしれないが、エスパーパワーもろくに使えないニャオニクス初心者のままでは無茶が過ぎる。

  緩みきった雰囲気の二匹をよそに、エーフィは白衣と眼鏡を取り出して自身に装着する。

  「ただし、研究には協力してもらいます。貴重なサンプルさんたち?」

  眼光が妖しく二匹を捉える。

  人間のような衣服を着たエーフィという異様さとは別に、妙な凄みがあった。

  「え、でも人間に戻る研究はもう必要ないんじゃ」

  「他にも犠牲者がいるのよ。私とかね」

  「「ええーっ!?」」

  「改めまして、ようこそハギワラ研究所へ。そこにいる彼が所長のハギワラ博士、私が助手のユナです」

  「所長!? 助手!?」

  「ポケモン化変身工学の発展に、ぜひ力を貸してくださいね。サクラさん、コタローさん」

  想像をはるかに超えて大変なことに巻き込まれていたと、ようやく気付いた二匹であった。

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