今日は建国記念日ということで王城で宴が開かれた。招待された貴族の連中や昔の仲間、その中にはカルナの姿があった。
「久しいな。ヘルガ」
「少し老けたかしら。」
「お前は思いの外老けてないが、年増の雰囲気が出てきたな。」
「老けたってことじゃない。」
相変わらずのお調子者気質に笑みがこぼれる。
「ヘルガさん!あっちでケーキ配ってますよ!」
宴の席に合うような
「お?誰だ?このガキ。って獅子族じゃねぇか!こんなとこいていいのか!?」
驚いた様子でカルナはテオを見る。
「あんた世間知らずにも程があるんじゃないかい?」
「こっちで起きてたことなんて知らねぇよ」
「名前なんて言うんだ?」
「テオです。よろしくお願いしますカルナさん」
「なんで俺の名前知ってんだ」
「今この子にイヴのこと教えてやってるのさ。行こうかテオ。私の分のケーキも取り分けておくれ。」
白いテーブルクロスが敷かれた食卓を囲うように座り、ケーキを食べながらカルナに今までこちらであったことや出会った人たちを紹介した。そして話が一段落したところでイヴの話へと進んだ。
「お墓参り行かねぇとなー。テオ、後で一緒に行くか?」
「いいよ。私ともう行ったもの。」
「なんだよ。つまんねぇなー」
「また聞きたいかい?続き」
そう言ってまたヘルガは過去のことを淡々と話し始めた。
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拠点の調査が進み、あちらの軍勢はおよそ200という結果となった。戦略も上々。王国に軍の要請もした。軍が着き次第、拠点に攻め込むと隊長から通達された。もはやこちらの準備は万端であった。
しかし、本当に気掛かりなのは一切あちら側からアクションがここまでなかったことである。30人程度しかいないとバレればどんな精鋭部隊でも7倍近い軍勢には敵わない。本当に攻め込んでいいものかと隊長自身も不安に思っていた。だがつい先日白銀隊の任務について王国から急かすような内容の文書が届いたのである。そこから急ピッチで調査、要請を行い、今に至る。こんな広大な土地を監視しながら好機となったら攻め込めなど今考えればちゃんちゃらおかしな話である。だがもうやるしかない状況に一同焦りつつ軍の到着を今か今かと待っていた。
だが1ヶ月待っても軍は一向にこちらには来なかった。1つの伝書も寄越さず、我々は見捨てられたのだろうか。ここに来るまで2週間程のはずなのに。ただただ不安が募っていく。そして運命の日は訪れた。
突然の轟音に目を覚ます。地割れとは違う爆発音のような音。日も沈み、夕闇と吹雪で外は何も見えない。隊員は急いで戦闘服に着替え臨戦態勢で構える。だが問題は別だった。ミシミシと我々が拠点としている洞窟の地盤が悲鳴を上げている。
「全員、外に出ろぉぉ!!!!!」
隊長の怒号のような声が洞窟内に木霊する。危なかった。少し遅れていたら全員下敷きになっていただろう。
「全員いるか。取り残されたやつはいないよな。」
隊長が安否をとる。その時だった。夕闇の中に鮮血が飛び散り、隊員の1人が倒れ込む。全員が洞窟の下敷きにならずに済んだことに安堵していたのも束の間、闇の中から何かがこちらに殺意を向けている。
暗い。寒い。吹雪いて鼻もきかない。深夜の襲撃で頭も回らない。
崩れた洞窟を背に何かがにじり寄ってくる感覚。まだ暗闇に目が慣れない。
「あがっ...!」
どこからか肉が断ち切られ雪の上に人が倒れ込む音が聞こえてくる。不利すぎる。逃げるしかない。だが逃げ道もない。
「全隊員に告ぐ!散れぇ!」
目の覚めるような隊長の声が暗闇から聞こえた。従うしか無かった。この状況をどうにか出来るのであればとっくにやっている。ようやく慣れてきた目を凝らし、闇の中から襲ってくる無数の双眼を振り切り走るしか無かった。私だけ逃げ出したのでは無いかとか、後ろからかすかに聞こえる血飛沫が飛び散る音も考えてられない。生きる為だけに今は逃げる。どこに向かっているのか分からない。敵だってきっとホワイトアウトでまともに追って来れないはず。そうであってくれと氷点下の風が吹き抜ける中、何度も雪に足を取られても歩みを止めることはしなかった。
どれほど走っただろう。肺が痛い。指先が凍てつく。足の感覚もほとんど無い。運が良かった。洞穴がある。あとちょっとなのに。身体が動かない。
「あと...ちょっと...なの...に」
意識が遠のく。ああ、このまま私は凍傷で死ぬのか。
(温かい...死んだのか私は)
「ぉぃ...おい!!」
「良かったぁ。生きてる生きてる」
カルナの声?なんで私は雪の上に倒れ込んでそのまま...
考えの収拾がつかない。目の前には焚き火と焼けた魚。視界が塞がっていく感覚の中、私は誰かに運ばれた...?
「カルナ...?」
「なんで私はここに」
「洞窟の前でぶっ倒れたろお前。実はよ、隊長の一声が掛かった時、俺も走り出そうと思ったんだ。位置的に俺はお前の後ろにいたろ?だからお前が逃げるの見えたんだよ。絶対にひとりじゃこの中で生きてけねぇと思ってよ。お前のこと追っかけてった。」
「そう...なの...。他のみんなは?」
「さぁな。散り散りだよ俺ら。きっと何が起こったのか分からず殺されたやつもいただろうよ。実際、洞窟の下敷きになったやつだっていた。全員切羽詰ってた。じゃなきゃ散れなんて隊長も指示しない。」
「イヴ...生きててよ」
そうつぶやき、自身の中指についた指輪を眺める。見つめているとどうしても胸の奥からキュッとこみあげてくるものがあった。
「おいおい泣くなよ。ほら食え魚」
そう言って焼き魚を私に差し出してきた。私はそれを無造作に受け取りかぶりついた。泣きじゃくって嗚咽が止まらない中、ただ腹を満たすために魚を口に運ぶ。味のしないガムを噛んでいる気分だったが頬を伝って流れてくる涙が口いっぱいに広がって塩味がした。
朝になり、洞穴から出てみる。吹雪のおかげでどうやら足跡も消え、逃げる中で負った傷から滴った血痕も雪で消えている。
「なんか変だな。俺らいっつも3人だったのにあいついねぇの。どうするこれから」
「みんなを探すしかないよ」
「そりゃそうだけどよ。誰が生きててどこにいてここがどこなのかもよくわかんねぇじゃねぇか。」
「いやどこなのかは分かる。私の偵察ルートで同じような景色を見た。記憶の通り行けば拠点に向かえる。」
「拠点向かうのか?あんなことがあったのに?」
「みんなの共通認識はあそこしかない。王国もあるけど生憎私のポーチには王国まで持つほどの食料は無い。さぁ向かうわよ」
カルナは頭を抱え、あぁ!と声を上げ、むしゃくしゃした様子だったが仕方なく付いてきている。
永遠に続く白い大地をただ歩いていくだけ、そうゆう旅路だ。さっきは見覚えがあると行ったけれど本当は確証がなかった。同じような山と木があって同じような平地に...少し違う気もするが迷ってる暇なんてない。とにかく前に進もう。
歩いては休憩してを繰り返し、見たような見たことないような景色が続く。早くつかなければ食料だって尽きる。今は自給自足で何とかしてるけれど他の連中ができるとは限らない。一晩走り続けた場所だ。きっとそんな遠くでは無いはず。そんなことを考えながら歩いていると見覚えのある山が目に入る。
「この峠の上よ。私たちの拠点」
「俺らもしかして凄いことしたのかもな。」
目の前には断崖絶壁があった。きっと逃げるのに夢中で知らぬうちにこの絶壁から飛び降りたんだろう。
「遠回りするしかないわね。」
そう言って絶壁に沿って歩いていく。緩やかに登る場所や傾斜が激しいところを越えやっとの思いで拠点があった場所にたどり着いた。登山の経験がここで活きるとは思わなかった。
「こいつはひでぇな」
完全に倒壊した洞窟を眺めるカルナ。物資は無いかと探してはみるがしっかり根こそぎ取られている。
「うぉなんだ。雪の中になんか埋まってるぞ。」
「うわ...」
予想は出来た。雪の中には仲間の遺体があり、雪豹族の遺体も中にはあった。どれも凍結し、血の気の一切も感じない。何人か掘り返してみたがその中にはイヴの姿はなかった。
「イヴはどうにか逃げ切ったみたいね」
「この場にいないだけだ。安心出来ねぇ」
「そうね。とりあえずイヴのこと探しましょう。」
生きているのは15人ほどだろうか。とりあえず自分たちが来た方向とは逆方向に歩みを進める。目に入った洞窟は全て目を通していくがその全てに仲間の姿は無かった。雪で埋もれて逃げる途中でやられた仲間の遺体もあったかもしれない。
「もしかしたら生きてる連中も合流してるかもな。」
「だったらいいけどそれも痕跡が無さすぎる。」
2日ほど歩いただろうか。生気を感じない。生活の片鱗も足跡も掻き消されてるだけなのか。雪豹族の姿も見えない。
カルナも途方もない旅路に疲弊しているようだ。
「王国戻った方がいいんじゃねぇか。ここまで食料とかは何とかなってるしよ。雪原さえ抜ければ食料はどうにかなると思うぜ。」
「だけどイヴが生きてるかもしれないし」
「こんな事言うのも酷だが、諦めて欲しい。」
「え?」
「安否も分からない存在を探すのはこの場所じゃ無理だ。さっき言ったように王国に戻ろう。軍を呼べば何とかなるかも。」
「...その軍は来なかったじゃない。」
「あ?」
「その軍は私たちは待っていたのに来なかったじゃない!帰りたいなら帰ればいい。私は1人でイヴを探すわ。」
「おい!待てって。来なかったのも理由があったかもしれないだろ。それにお前一人でここに置いてけねぇし。頼む」
カルナは真剣な面持ちで深深と頭を下げる。賢明な判断だとは思うが今の私は隊員の命よりイヴ一人の命が心配で心配でたまらないのだ。ここで折れたら私はイヴの命をここに置いていく形になってしまう気がして首を縦に振れなかった。もしかしたらイヴはもう他の仲間と合流して王国に戻っているかもしれない。今こうやってここに残って探しているのは私たちだけなのかも。色んな考えが頭の中を巡る。諦めたくない。絶対に行きていると信じたい。分かったと口に出すだけなのに言葉が喉につっかえて声に出せない。
「...分かったわ。」
やっとの思いで口に出す。王国にイヴはきっといるんだ。隊長たちと帰還したんだ。そう自分に言い聞かせ氷雪地帯を後にした。
馬車で2、3週間かかる道のりをただひたすらに歩く。王国に着く頃には毛は伸びきり、毛むくじゃらと言う言葉が似合う身なりになっていた。
街には隊長の姿やその他の面々がいたが、その中にイヴはいなかった。膝から崩れ落ち、地面に突っ伏すように泣き叫んだ。カルナや隊長、他の隊員も哀れむようにこちらを見つめている。その後遺体は無いけれど、亡くなったであろう隊員達の弔いをするが何も考えることが出来なかった。唯一の救いは遺体が見つかってないことである。僅かだが生きている可能性だってあるはず、そう信じるしか無かった。
襲撃は計画的なものだった。
王国軍がこちらに派遣されるのを阻止するためなのか、同時多発的に紛争が各地で起こり、派遣する予定だった兵を分散してしまったのだ。もちろんその事は文書にまとめて送ったが飛脚が道半ばで殺されていたと分かった。
猫族全体が結託してあの地を我がものにしようとしている。
王国は今回のことを重く受け止め、本格的に軍を派遣し戦争へと駒を進めるのだった。
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「こんなところかしら。」
今回は少し真剣な面持ちでヘルガは話の区切りをつけた。
「そんな凄惨なことが...」
「ここからは私が話しましょう。」
その声の主はネヴィアであった。
テオは頭にハテナを浮かべ、ネヴィアを見つめる。
「私たちは遭難した後、王国に戻ったけどイヴはそこにはいなかったって言っただろう?実はイヴはネヴィアに拾われて一緒に行動してたんだ。」
「あっ!この前言ってた事ですか?」
「そう。あの時は少し変な言い方したけれどちゃんと理由があったのよ。」
「さて、私が話すのはここからのイヴについてです。ここから戦争についても佳境になるのでヘルガと私でここからの顛末をお話しますね。」
そう言ってネヴィアはテオとヘルガのいるテーブル席に座り、ここまでのヘルガ視点の話からイヴと過ごしたネヴィア視点の話へと切り替わった。
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襲撃の日。
我々は夜闇から襲い来る襲撃者に対面した。いや対面も出来てない。見えやしない敵に怯え、周りから切り裂くような血の匂いが漂ってくるだけ。隊長の散れという一声とともに周りの隊員たちの匂いが遠さがっている感覚。無数の殺意がこちらに向いている感覚。そこからは覚えてない。自分は逃げたのか、刀を抜いて何人か切り伏せたような気もする。鮮明に思い出せるような、モヤがかかっているような...ヘルガは無事だろうか...
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ある日の猫族の王都にて
「どうだ。未来の世界では勝利の女神は我々猫族に微笑んでいるのかな?」
官僚であろうか。中年といったところの雄の豹が私が営む占星術の店に立ち寄ってきた。
私、ネヴィア・トゥービーンズは王都で占星術の店を営んでいた。豹族には占いや未来予知といったものが古くから文化として染み付いていたが、中でもトゥービーンズ一家は先祖代々腕利きの占星術師として国の未来や厄災などを予知し、数多の不幸から国を導いてきた。勿論、ネヴィアも占星術も用い予知をしてきたが、彼女だけ未来の【見え方】が違っていた。今までの術師は確定した未来の始まりが見えるものだったが、本来見えるはずのないその過程とその因果によって何が起こるかが見えていた。例えるならば「火災が起こる」という未来しか見えなかった今までの術師と「家で子供が転び、その面倒を見に行こうと料理の手を止め、火を消し忘れ火災が起こる。」というような違いである。だがこれは確実に起こる事象では無く、可能性の予知であり未然に防ごうとすれば例に挙げたような火災は起きない訳である。それ故に信頼性に欠けるなどとよく言われたものである。
「今は儀式中です。お静かに」
「王は君の占いをそれはそれは高〜く評価されている。君の占いの結果次第では褒美もやると言っていたぞ。」
調子が良さそうに雄豹はそう言うが、あまり声に出して言いたくない未来が見えていた。術師である以上、真実は伝えなければならないし、仮に嘘をついても詐欺師やら魔女やらと追放されるだろう。
「王の謁見の際、申し上げます。期待にそぐわない結果でもよろしいですか?」
「なんだ。吉報を待っていたのになぁ。まぁ良い。城へ行くぞ。」
殺されるだろうか。泥沼と化した戦争の結果など占いに頼らずとも見えているはずなのに。真実を伝えてももはや王は戦争を今後永遠と続けて行くつもりだろう。過去の禍根など消えてしまえばいいのに。
そんなことを考えながら歩きついに王の間へと足を進める。
「ネヴィア・トゥービーンズよ。ここへ訪れたということは術の結果が見えたということか。」
「はい。」
「では聞かせてもらおうか。この戦争の行く末を。」
王の顔には期待の色が見えた。軍も領土も今や犬族とは比べ物にならないほど広がり財政も安泰。そんな順風満帆なこの国に安堵しきったような振る舞い。真実を伝えた時、私はどうなるのか占っておけばよかっただろうか。
「真実を申し上げます。」
手の肉球にはじわりじわりと汗が滲む。
「この戦争は...犬族が勝利します。」
周りにいた側近や護衛の騎士達がざわめく。
「なんと申した。どちらの勝利だと?」
「この先戦争は10年と続き、互いに多くの犠牲や禍根を残し猫族は屈服する形で犬族に下ることになります。我々は戦いの最中、疫病や飢饉に見舞われ国力を徐々に失っていくことになります。」
王の全身の毛という毛が逆立ち、怒りに震えている。玉座の肘掛に爪が食い込む程、手に力が入っている。
側近が慌てて王を宥めようとしている。
「貴様!嘘を申すな!今の国を見てみろ!疫病?飢饉?無縁も無縁。やはり貴様は...!」
「嘘など申しておりません。もう戦争など止めて我々は手を取り合うべきです。もはや今戦う意味などないはずです。若い者は何故戦っているのか教科書でしか知らない上に、泥沼と化した現状は資源を戦争へと費やし、城下の街以外は貧困に瀕しています。もう見て見ぬ振りなど...」
「黙れ!!」
王の怒号が部屋に響き渡る。
「魔女の予言や意見など聞き入れるものかァ!!トゥービーンズ家には失望したぞ!」
牙を剥き出しにし、体を前に乗り出し私を罵る。
予知をせずとも見えていた結果だ。王は予言を受け入れることはなく私をこの国から追放すると伝え、私は騎士に連れられ謁見の間を後にした。
連れられる途中、騎士に誠かと聞かれたが私は魔女だからきっとあなたを惑わすとだけ伝え、城を出た後荷造りをさっさと済ませ国を後にした。
行き場所などない。もうどこかで隠居するしかないがその当てもない。とりあえず遠くへ行くしかない。和平の為の架け橋に私がなれたらなんて思ったりもしたがそんな未来は見えない。何かに導かれるがまま歩いていく。
随分歩いただろうか。吹き抜ける風が妙に涼しいと気づいた時には私は氷雪地帯の一歩手前だった。有り合わせの防寒具で雪の台地を進む。そういえばここは雪豹族が侵攻をしようとしてると聞いた。少しは安全だろうか。近くの洞窟で暖を取ろう。今はここで過ごすしかない。
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炭が傾き火の粉がパチパチと上がる音で目が覚めた。身体には知らない匂いが染み付いた毛布がかけられている。洞窟に逃げ込んだ記憶なんてない。誰かに助けられたか。
「起きましたか」
声の方に目を向けるとそこにはまだら模様の毛皮としなやかな関節、ぬらぬらと動く尻尾が目に入った。
「猫族...?なんで...」
「驚かせてしまい申し訳ございません。私はネヴィア・トゥービーンズ。豹族の占星術師です。」
「豹族ね...ハハ。嫌な縁だ。とりあえず助けてくれたんだな。ありがとう。ネヴィア。」
「雪豹族相手にこんな場所で戦うなんて狼族も無茶をしますね。」
「そうだな...精鋭揃いだからってタカをくくってたかも。」
「なんでネヴィアはこんな僻地に?」
「話せば長くなりますよ。」
「いいよ。どうせ話すしかやることないし。」
そう言って話をネヴィアにパスする。そうですねと少し微笑んだ後、ネヴィアはここまでの顛末を話し始めた。
「なんか良かったよ。ちゃんと和平とか考えてる人がいて。ここが初めての戦場だったけど決していいものじゃなかったよ。みんなとバラバラになっちゃったし。」
「こんな愚かな戦争止めなければいけないのに、真実というのは時に人を狂わせます。王には申し訳ないことをしてしまいました。」
「種族間の戦争なんてどちらかが引かなきゃ収まらないよ。過去の怨恨なんて関係無いってよく分かった。雪豹族の若い連中も戦いたくないなんて言ってたけど結局は目の色変えて俺らのことを殺しに来てた。」
「闘うんですか?これからも」
ネヴィアはイヴに問いかける。
「占ってみてくれない?多分このまま国に戻ったら狼族は報復をしにここに軍を率いて雪豹族を掃討すると思う。戻らなくてもそれは起こるかも。逆に国に戻らずどこか別の場所に行った時の俺の未来を。」
「未来とは扉のようなものです。私はその鍵穴を覗いているに過ぎません。鍵となる出来事が起きれば未来の扉は開かれ未来として進んでいきます。ここでの鍵を戻るか戻らないかとするならばそれを決めなければ、ここからの未来は見えないでしょう。」
「決めろってことか...」
イヴは真剣な面持ちでしばらく考え込んでいたが、答えははっきりいって決まっていた。これからは他種族間で和平を取り持つ存在として己の歩みを進めよう。この何も生まない不毛な戦いは止めなければいけない。世界中にはネヴィアや俺と同じ考えを持つ人達がきっといるはず。
「決まっているんですね。」
考え込むイヴの顔色を伺い、決心がついたような雰囲気を読み取り、尋ねる。1人では何も出来なかったけれどもしかしたらこの人となら成し遂げれる気がする。そんな感覚に見舞われる。ただの思い込みでもいい。今はこの人が私を導く光なんだ。
「...占うのはやめましょう。希望を見ても絶望を見ても今の私たちには毒です。」
そう言い放ち、ネヴィアは儀式に使う杖を下ろし、イヴに語りかける。そして今後の動向について2人で話し合うことになった。
「鷲族と鯨族の国に行こう。狼族と友好的といってももう大昔に繋がれた条約だけ。貿易商以外は交流を持つこともない。猫族を取り囲む輪を作ってその輪に猫族も引き込む。」
「そうしましょう。今の我々にできることは行動あるのみです。」
そして2人は遠い北の高地にある鷲族の国へと歩み出すのであった。
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「ここで行先が別れたんですね。」
テオがここまでの話のことをかなりざっくりとまとめながらヘルガとネヴィアに聞く。
「もし、イヴが王国に戻っていたら戦争は今も続いてたかもね。些細なことで未来は大きく変わるのよね。ネヴィア」
「えぇ。幾重にも重なり、連なり時間は進んでいきます。テオ。あなたも戦争が続いていたらヘルガに助けられることもなく死んでいたかもしれないのですよ。」
遠くからカルナや若い衆の声が聞こえる。酒で酔っ払ったのか少し騒がしい。話を聞いていたらいつの間にか日も落ちていた。テオはヘルガに見送られながら宴の席を後にすることにした。
「今日はありがとうございました!また聞かせてくださいね!」
そう言ってテオは手を振りながらヘルガに別れを告げ、家路に着いたのであった。
「...」
「ヘルガ。ここから話すのはやめた方がいいのではないでしょうか。」
「私の暗黒期のこと?...そうね。テオにも話したつもりではあったけど詳しくは言ってなかったものね。もしかしたら傷つけてしまうかも。」
「テオの話ではありません。あなたにトラウマを思い出させるようで。」
確かに和平のために奔走しようとするイヴとは対象的にあの時の私は全てに絶望していた。遺体が見つかってないから死んでないなんて言いきれない。追悼として建てられた墓の前で毎晩泣きじゃくる私とそれを慰めようと背中をさするカルナの手は逆に私に諦めろと言っているようで心を抉る。そんな過去のことを考えると昔の私に戻ってしまうように感じる。
「辞めましょう、考えるのを。あなたは強いのですから」
見透かすようにネヴィアが私に話しかける。
「...ぇぇ、そうね。ネヴィア、今日はちょっと付き合ってもらうわよ。」
そう言って2人で頭の中が真っ白になるくらい酒を飲み交わした。ネヴィアはあまり飲まないようにしているらしいが今日はヘルガが酔いつぶれるまで一緒に飲んでいた。荘厳そうにしているネヴィアが耳を真っ赤にして、普段喋らないような口調で舌が回りに回っていて大笑いする。
口が軽くなっているようでイヴのことをどう思っていたか聞いてみたが、やっぱり好いていたようだ。それ聞いて少しだけ安心した。こんな賢者も1人の雌なんだなと。それに付随して今のことも聞いてみたが、いないの一点張りで答えようとしなかった。
あとは覚えてない。いつの間にか自分のベッドで寝ていた。床でネヴィアが毛布を被って寝ているが酔っている間に泊まってけとか言ったんだろうか。とりあえず二日酔いで頭が冴えないので水を1杯だけ飲んで二度寝しに、ベッドに向かうのだった。