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雲の少ない秋晴れに照らされ、ふさふさのしっぽに桜の花びらみたいな模様が浮かびゴキゲンに大きめのしっぽも落ち着かない。大きく膨らむしっぽが身長を取り残して成長する、お父さんに成長するんだからって注文してもらったケドぶかぶかでメリットはしっぽを通しやすいと感じるくらい。
お昼休みは家から持ってきたお弁当食べて、屋上でひなたぼっこするかツレとふざけ合うか。今日は天気良いから寝虎のやつ屋上で寝てそうだしイタズラしよっかな、煌星先輩に止められなきゃだけど。
胸ポケットから手鏡出して見るおれの顔も困り眉がコンプレックス、もっとキリっとしたのが良かったな。痛いのヤだから先の方に通したステンレスのピアスがそんな子供っぽさを紛らわしてくれて、ちょっと得意気にもなる。
そういや寝虎が寝坊をよくするって噂をおれのイカした耳に入っていたんだっけ。クラスが違うから聞く相手が居ないな~そういえば碧海のやつが腐れ縁だとかなんとか。なんか怖いけど声かけてみるか、無表情で教室の隅でずっと本を読んでる“あの”狼に。
「よっす、碧海聞きたいことあるんだけど」
耳一つ動かさず、まさかこのおれに気付いてない?
「おーい聞いてる?」
「あぁ、僕に何か用。えっとどちら様」
開いたページの前に長めのマズルを突き入れて、やっと口を開いた!でもおれを知らないなんて、クラスメイトなのに興味ないのか。
「稲叢!稲叢葉介、おれは軽音楽部一年のホープ、『plantS net』ヴォーカルでリーダーなの」
ホントは煌星先輩がリーダー兼バンマスだけど、フロント=リーダーってのは常識だし。
「稲叢君ね、それってすごい事なのか」
「当たり前じゃん」
腰に手を当てて胸を張っても胸は薄いし、目の前の狼はおっきくて耳がぞわぞわする。
「僕にはそんなすごい人に目を掛けられる用なんて無いだろうから失礼するね」
音もなく読んでいた本を閉じ立ち上がる狼の裾を掴み上目遣いに見上げる。
「碧海様~寝虎のこと教えて下さいませ」
「君に寝虎の事教えて僕に何のメリットがあるの」
「部活での寝虎とか、恥ずかしい秘密とか」
「交渉成立だね」
あれ?拍子抜けするほどに簡単に話せそう。
「寝虎のやつ最近寝坊よくするって聞いているからさ、この前だってバンド練習遅れて来てたし昔からそうなのかとかちょっと気になってて」
「背伸びしたりして、寝坊したり一度躓くと中々抜け出せないタイプ。干渉しすぎると余計酷くなって長引くから距離を置いて見守ると良いよ」
じっとり湿っぽい眼は相変わらず怖いけど、緩んだ口の端を見れば印象が変わる。
「碧海~!もっと早く話していたら良かった」
本を持っていない左手でおれの頭を撫で「一狼でいいよ」と言われ、その手つきもなかなか悪くないし「じゃあ、おれも葉介でいい」と返す。
「それで、寝虎の恥ずかしい秘密ってなに」
好奇心が目に光を灯した瞬間おれは質問攻めに遭い、昼休みが終わるまで一狼に付き合う事になった。
そんな秋桜の咲く日。
***
頭が重くて机に突っ伏した木製の机には傷や穴が残っている。ワイワイ騒いで帰る友達たちがぼくを置いて教室から出て、頭を上げるとラグドールの先生が長く絡まった被毛を撫でつけ立っている。
「朱嶺くん、もう授業は終わってるよ」
「うみゃ。いつのまに」
慌ててランドセルに教科書やリコーダーを詰め込みプリントは角が少し曲がっているけど気にしない。
「それと最近休みがちの碧海くんにプリント届けてきてほしいんだけど、いいかな」
「でも……話したこと無い」
「大丈夫だよ!朱嶺くんなら」
話したことも無いあの狼の子に不安は湧いて来るけど先生困っていそうだし。
「うん」
「ありがとうこれがプリントと地図ね」
しぶしぶ紙袋を受け取って家からは離れた碧海くんの家か。お兄ちゃんから親切はするべきだって言ってたしちょっとくらい遠出して帰りが遅くなってもいいよね。
いつもと違う道、落ちていた長い木の枝を片手に紙袋を提げて歩く。辛うじて記憶が残っている頃、物心つく頃にはお母さんは居なくてお父さんも後ろ姿を見るだけ。お兄ちゃんが事ある毎に鼻キスして「仲良くしている証だよ」と教えてくれた。お兄ちゃんに付いていけば何でも教えてくれたし、ぼくも大好きだから青い尻尾を追って手を繋いでもらってた。
「地図だと、ここだけど碧海くん居るのかな」
チャイムは有っても届かないし表札は読めない。扉を叩いても反応が無いなら何しようか、肩を落とし木の枝が地面に叩きつけられてぽっきりと中ほどから折れた。
「愛剣ナンカナガイエダが、折れちゃった」
ああ、連れ添ってきた木の枝が折れたら手元に残る先端が鋭いだけの短い枝。辺りを見回して木のありそうなところは…あの山登ってみよう。
「ここ、どこ」
木漏れ日浴びて山道で新たな愛剣ナンダカナガイエダを探す道のり。道には迷うし並んだ木々は同じように見え、長い木の枝はあまり落ちてない。とにかく高いところに行けば何かわかるのかな。
「君、なぜここに」
振り返ると「碧海くん」探していた狼の子がそこに立っていた。
「理由は後で聞くけど、なぜ山道を短パンで登ったんだ。膝から血が出ているじゃないか僕の秘密基地で手当てしよう、付いてきて」
なんか痛痒いと思ったら切れていたんだ。「水がすぐに用意できないから」近づいてぼくの傷口を舐め取られ、お返しに左右へ揺れる大きな尻尾を掴むと少しムッとされた。
皆と作ったひみつきちとは比べ物にならないくらいに立派な秘密基地。小学三年生の体には大きなベッドで横になって、碧海くんが救急箱を傍にぼくの膝を見つめて唸っている。
「痛いのやだから早く終わらせて」
「ごめん、つい。ネコ科の体をこんな近くで見る事なかったから気になって」
ツンとする消毒薬を押し当て、白く柔らかい包帯を巻いて元々の縞模様に新しく模様が入ってかっこいい。
「これで手当てはお終いね。で、今日は何があったの」
「先生からプリント渡してって言われたんだけど。なくしちゃった」
この山のどこか、あれだけ迷ったのだから見つからないんだろうな。
「まぁいいか、きっと僕には用の無いものばかりだろうから。朱嶺くん、僕の為に来てくれてありがとう」
てっきり怒られると思っていたのに、くりくりした深い碧の目につるりと光る長い鼻。ぼくの小さく短い鼻を押し当てる。
「これは、鼻と鼻でキスするってどういう意味?」
「仲良しの証。ぼくもお兄ちゃんにもよくされるんだ!」
「じゃあ僕も寝虎くんともう仲良しだね。イヌ科はこうするんだ」
そう言って一狼くんはぼくをうつ伏せに、尻尾の根元を嗅いで腰をおしりに擦り付ける。
「くすぐったい」
「こうやってニオイを嗅いで僕のニオイも付けるんだ」
「一狼くんは何でも知ってるんだね、お兄ちゃんみたいだ」
今までの友達とは違うなにかトクベツなものを感じて目も輝く。起き上がって一狼くんを押し倒してペロペロ毛繕い。お気に入りの友達だもん太く長い毛の束でも種族の差がこんなに面白いものだったんだ。首の後ろを三角形の耳裏に擦り付け抱きしめる。
「寝虎くんには僕の好きな物も知ってほしいな!持ってくるから待ってて」
ベッドでお話ししていて、そうだ!と立ち上がる一狼くんを見送る
「これが、ぼくの好きな物。図鑑と石にこのCD」
「これって」
見覚えのあるジャケット、狼の覆面をしたロックバンド。
「ああ、WWAOっていうバンド。覆面してるけど虎とかいろんな種族が混じっていて、種族に囚われずにみんな仲良く出来ればいいのに。昔はライオンもメンバーに居たんだって」
ベースの縞尻尾、お父さんの模様。中々家に帰ってこなくてお兄ちゃんがたまに暗い顔するからフクザツで。
「どうしたの」
心配そうに覗いてきた一狼くんには知られたくないから何かごまかさなきゃ。右肘を腰に当て握りこぶしを蛍光灯に向けて伸ばす。
「ぼくのサオ‼」
「なんだそれ」
二人笑って学校の事とか話していたらいつの間にか寝ていたみたいで、目が覚めたころにはぼくの部屋で隣にはお兄ちゃんが寝ていて。
「お兄ちゃん、いつもありがと」
そっと鼻先を押し当てた。
***
目が覚めたなら登校時間を過ぎていて、外の空気は暖まり少しは動きやすくなっている。あーあ。変わろう、切り替えようって思うほどに失敗するし落ち込みが激しくなる。諦めの境地に立って通学鞄に教科書などを詰めていく。
手元のスマホ、鷲己からのメッセージに目を通してこんな俺にも気に掛ける腐れ縁が居て。他のクラスメイトには馬鹿にされるかもしれないけど「今起きた」虎のスタンプを送ってすぐに付く既読。そっか今休み時間か。
家を出て平坦じゃなくても誰かに迎えられて途は続く。
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