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狼ケモヒーローが堕ちてく話。 その5-Eルート

  自分一人で救出できるのだろうか。

  漆黒の毛並み。その左腕にはきらり、と光るブレスレット。

  鬱蒼とした森を走りながら狼―牙は頭によぎる不安を振り払う。

  まだ若いが、少年の時から戦い続けている彼にはベテランヒーローと同じような風格が漂い。

  そんな彼が何をしようとしているかというと…

  数週間前に姿を消した狼のヒーロー―ハウルの救出任務だ。

  他のヒーローを励まし、先陣を切る彼。今そんな彼を失うのはヒーロー団にとって大きな痛手である。

  本当なら多人数で一挙に乗り込み救出するべきなのだが、そうしてはばれてしまう可能性がある。

  ようやく掴んだ反応。それを逃してしまっては、彼を追う手段が本当になくなってしまう。

  「ハウルさん…!」

  呟く彼はいつの間にか身につけていたロケットペンダントを握りしめていた。

  それはハウルから渡されたもの。少年だった時代に渡された彼の私物。

  どんな劣勢でも力強く笑う彼。その表情を思い出す。

  失うわけには行かない。

  牙は一際強く頷き遠吠えをするとハウルの反応があった場所へと速度をあげて走り始める。

  

  薄暗い森の中には不釣合いである幾何学的な建物。その前に牙は立っていた。

  あまりにも静かで、警備もおらず、本当にここが敵の基地なのか、疑ってしまう。

  しかし、牙の中の何かが告げる。ここに、必ずハウルが居る。きっと、助けを待っているはずだ。

  「あの人は、きっと、大丈夫。強い。俺より、ずっと強いんだから。」

  幾度も戦場を共にしたことがある。

  何度も助けられた。何度も助けた。

  思い出すのは彼の笑顔。どんな苦境でも。

  ヒーローとしての力は牙に劣っていた。しかし。

  強い精神力を持つ彼。こんなことでは負けないはずだ。

  「…変身ッ!WAKE UP!」

  力強い言葉に、左腕につけていたブレスレットが一際強く光り輝いた。

  その光はどんどん強さを増していき、そして牙を包み込んだ。

  光が止んだ時。そこにいるのは牙であり、牙でない。

  漆黒のスーツ。黒いサングラス。首元には柔らかそうな―しかし弱点を守り、かつ動きやすい―毛皮のようなマント。

  仮面ビーストブラックDX。それが、今の彼だ。

  「行くぞ。」

  機械によって加工された音声。彼と相対すればそれは死神の声にも聴こえるだろう。そんな冷たさ。

  彼は静かに、軽やかに。だが力強く地を蹴った。

  正面突破。いや、そんな言葉も間違っている。

  牙はくるくると空中で回転し、そして足を突き出した。

  「おらぁぁぁぁぁぁ!!!」

  ドゴォォォォン!と凄まじい音と共に天井が砕け散る。

  瓦礫の中、牙は着地し吼えた。

  「ハウルさんを返してもらうぞ!!」

  うろたえる戦闘員達。しかしそれとは対照的に狐は肩をすくめた。

  「おやおや、随分と乱暴な侵入者さんだ。来る事は分かっていましたが…正面からくれば歓迎してさしあげたのに。」

  「てめぇか!おい!ハウルさんはどうした!?」

  「おぉ、怖い怖い。しかし…若くて、とても調教し甲斐がありそうだ。」

  吼える牙の言葉を受け流し、狐は舌なめずりをする。

  その瞳の奥に狂気を感じ、牙は思わず少し後ろに跳躍した。

  嫌な予感がする。なんだ。この予感は。

  「さて、このままでは私は貴方に殺されてしまいますね。それはさすがに私も嫌ですので…戦闘はこちらに任せましょう。」

  指をぱちり、と鳴らす。

  ウォォォォォン!

  遠吠え。その声には聞き覚えがある。

  「…まさか…!」

  そうだ、この声。勇壮な声。仲間を奮い立たせ、敵を震いあがらせる声。

  背後から感じた気配に牙は素早く横へとステップを踏む。

  直後、牙のいた空間に爪撃が走った。同時にひゅおん、と突風が吹き牙のマントを揺らす。

  牙の瞳に映ったものは。

  「ハウル…さん…!」

  それは救出対象であるはずの、ハウル。

  いつものマスク。しかしそれだけを身につけており、全裸状態である。

  全身は何か、白い液体に塗れておりどこか妖しい魅力を放っている。

  「どうです?私の新しい部下です。ねぇ、ヒーローさん?」

  狐の一言にハウル―いや、狼は膝をつく。

  「ひーろー?わかんないれすぅ…ごしゅじんさまぁ、はやくぅ、つぎのちんぽぉ…♪」

  その声は確かにハウルのもの。しかし、その色は正反対のものだ。

  いやらしく、媚びる様な声。

  狼は耳をぺたりと寝かせ尻尾をぶんぶんと振りながら膝立ちで狐の前に陣取る。

  立派な肉棒は硬く、天を突きびくん!と時々脈動している。

  「いいでしょう。でも、その前に。あのヒーローを捕まえなさい。それが出来たら、キメラに犯させてあげますよ。」

  「んへへへぇ…♪わかりましたぁ…♪」

  ぐしぐしと頭を撫でられると狼は淫靡に笑い、そして振り向き立ち上がった。

  「ハウルさ…!」

  言いかけ、牙は言葉を飲み込む。

  濁りきった狼の瞳。その奥には紅い光を宿し、もはや理性があるようには見えない。

  淫靡な笑いを浮かべながら舌なめずりをし…そして。

  「いたらきまぁす♪」

  牙に襲い掛かる。

  それはとても目で追えるような速度ではなかった。

  気がついたときには狼が目の前に迫り、その腕を振りかぶっていて。

  牙はだんっ!と足元の地面を蹴り付け瓦礫を撒き散らす。

  それに反応し、狼の動きが一瞬鈍くなった。

  牙はその隙を見逃さない。しかし。

  

  笑顔が、ちらつく。

  

  「ぐっ!」

  狼の体を殴る事は出来ず、牙はその腕を掴み受け流した。

  ぶん、と狼の体が宙に投げだされる。狼はすたっ、と着地した。

  狐は笑いながらぱち、ぱちと拍手をする。

  「いやぁ、美しいですね。敵に洗脳されても手を上げない。素晴らしい。そうですね、それがヒーローの在り方だ。」

  「うるせぇ!…ハウルさん!負けないでください!自分を、ヒーローの貴方を!取り戻して!」

  牙の言葉に狼は応えない。ただ壊れたように笑い、だらだらと唾液を零すだけ。

  そこにヒーローとしての姿は残っていない。もはや人としての尊厳すら残っているかどうか。

  しかし、牙は目を逸らさない。

  どんなことにも、目を逸らすな。

  彼はそう言っていたのだから。

  狐の笑い声が大きくなる。

  「あっはははは!本当に貴方達は最高だ!涙が出てきましたよ!美しくて!」

  「ハウルさん!」

  「…んへへへへへへぇ♪」

  牙の必死な問いかけにも。狐の笑い声にも。狼は答えない。

  ただ、笑う。

  そして。

  「アォォォォォン!」

  遠吠え。狼は牙に襲い掛かった。

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