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狼さんと頭巾を被った女の子

  ~女の子目線~[/title]

  コンコンと玄関のドアをノックする音がする。

  誰だろう…。

  『はい』

  私は玄関を開ける。

  「こんにちは!!はじめまして、お嬢さん!!

  あの...突然なんですが

  僕のお姫様になってくれませんか?」

  見覚えのある人が立っていた。

  「あ!!いきなりで驚かせちゃったよね。

  僕は、この森の奥にあるお城からやって来ました。

  その顔は......

  こいついきなり現れて何言ってんだって顔かな?

  ふふ。それもそうだね」

  しまった。つい感情が顔にでてしまった。

  『あ、あの…』

  「今日、僕が君のお家を訪ねた理由は、君をお迎えにあがりました!!」

  お迎え......?

  「あ、ひかないでひかないで!!

  僕、これでも怪しいやつじゃないから...!!」

  今のところ怪しいことしか言ってませんが。

  「実はこの間、森の中で君の姿を見かけて、とっても可愛らしくて一目惚れしちゃったんだ。

  それで、どうしてもまた会いたくなって君に会いに来ちゃいました!!ってところです。

  そして、あわよくば君を連れて帰ってしまおうかと...

  おっと、こんなこと言ったら警戒されちゃうよね」

  もっと上手い言い訳はできないのだろうか。

  「えっと...まずは僕のことを知ってもらえたらなと......

  ちなみに僕のこと覚えてたりは...」

  『覚えてます』

  「え!!覚えてる?

  僕のこと覚えてくれてるの?」

  『この間森の中でピアスを拾ってくれたお兄さんですよね?』

  「そう!!君が落としたピアスを拾った!!

  え、本当に?嬉しい!!

  君に覚えてもらえているなんて夢のようだよ!!

  でも、どうして...?あんな一瞬だったのに」

  『お兄さんのその青い目が、薄暗い森の中でガラス玉みたいに綺麗に光っていて印象的だったから』

  忘れるはずがない。

  木々の隙間から見えるあの澄んだ空のように真っ青な瞳。

  ずっと探していた瞳。

  「僕のこの青い目?

  そっか、僕の家系はみんなこの色の瞳なんだ。

  君に覚えてもらうきっかけになったのなら、ご先祖様に感謝しなきゃね。」

  さすが、青い目の家系。

  初めて会った時から思っていたけど、人間の姿に化けるのが上手ね。

  でも、ところどころに面影が残ってる。

  『あ、外寒くないですか?家の中どうぞ。』

  「え、お家の中入っていいの?

  外はたしかに寒いけど...いいのかな。」

  『大丈夫ですよ。どうぞ。』

  「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します。

  さっきは玄関開けてくれてありがとう。

  怪しい人だと思われて開けてもらえなかったらどうしようって思ってたから、凄く嬉しかった。

  お陰で君とこうやってゆっくり話すこともできたしね。」

  『せっかくなので、お茶でもどうぞ。』

  「僕が急に押し掛けたんだから本当お気遣いなく。

  でも、これは君が僕に初めてくれたものだね。嬉しいな。

  ありがとう。

  もったいないけど、いただきます。」

  『どうぞ。』

  「おいしい。温かくて身体も暖まるね。」

  『良かった。外寒そうだったから。』

  「君は予想通り気遣いのできる優しい子だね。」

  『いえ、そんな。』

  「優しいついでにさ、その身を僕に捧げ...

  あ、いやいや。なんでもないよ。」

  私はあなたが思っているような人間ではない。

  「ところで、この間はどうして一人で森の中を歩いていたの?」

  『ママにおつかいを頼まれたので。』

  「そうなんだ...。

  君のママは森の中の危険を知らないのかな。

  こんなに可愛い女の子、一人で森の中を歩かせるなんて。

  君も!!年頃の女の子があんなところを一人で歩いていたら危ないよ。

  警戒心が無さすぎる。誰かに襲われたりでもしたらどうするの?」

  『大丈夫です!!

  私には赤い頭巾があるので。

  “赤い頭巾が森の危険から守ってくれる”って私の家には代々伝わる言い伝えがあるんです。』

  「だから、あんな頭巾を被ってたんだ。逆に目立って危ないと思うけどな。」

  『私の頭巾はおばあちゃんが作ってくれたお守りなんです。』

  「それで本当に君の安全は守られるのかな。

  その言い伝え、あんまり説得力ない気がするんだけど...。」

  目立つことで安全を守る方法もあるんですよ。

  「そういえば、さっき出会った2人も赤い頭巾を被っていたような...。

  本当に人間は何も分かっていないみたいだ。愚かでどうしようもない。」

  今、赤い頭巾の2人って言った?

  ぼそぼそ言ってて聞こえずらい。

  「今ってお家には君以外誰もいないの?」

  『パパとママはお仕事なので、一人でお留守番をしています。』

  「パパとママって

  あの暖炉の上に飾ってある写真の2人?」

  『そうです。』

  「さっき森の中で捕らえた赤い頭巾の2人か。」

  捕らえた?声が小さいな。

  でもたしかに、そう聞こえたような。

  「素敵な家族写真だね。

  いつか僕もあの中に...なんて。ふふ。」

  家族になるつもりなんてないでしょう。

  「あ、でも。

  そんな時に僕のことを家にあげちゃって本当に良かったの?」

  『どうしてですか?』

  「誰もいない時に知らない男を家の中に入れたなんて、ご両親にバレたら怒られない?」

  『2人は夕方まで帰ってこないので大丈夫です。』

  「そうなんだ。それならいいんだけど。」

  何の心配をしているんだろうか。

  「帰ってこないんだ。夕方まで...ねぇ......」

  声が小さくてはっきり聞こえないけれど、やっぱり2人に会ったのだろう。

  もう連れて行かれてしまったか…。

  「君はいつも一人でお留守番をしているの?」

  『はい。』

  「そっか、えらいね。毎日一人で寂しくない?」

  『お留守番は慣れてるから平気です。』

  「君は強いんだね。ますます気に入っちゃったな。

  ねぇ、やっぱり僕のお姫様になってくれない?

  そして、森の奥のお城で一緒に暮らそう。

  そうすれば、もう君が一人でお留守番をすることもなくなるし

  絶対寂しい想いなんてさせないよ。

  僕がずっと側にいる。」

  『え?』

  「実は僕、そのお城の王子なんだ。

  そして、君はお城のお姫様になるの。

  この意味ちゃんと伝わってるかな?」

  『意味はなんとなく......。』

  「え、そんな浮かない顔しないでよ。もしかして悩んでる?

  そうだよね。いきなりこんなこと言われて“はい。行きます”なんてすぐには言えないよね。」

  王子…。お城…。お姫様…。

  違う。あなたは青い目をした狼でしょう。

  容姿端麗、頭脳明晰、青い目を持つ狼の家系。

  この広い森に住む狼達の最高位の家系。

  ここでじっとしていても仕方ないか?

  『それは、パパとママに聞いてみないと…』

  「あーそのことなんだけど、パパとママはもうここには帰って来ないんじゃないかな。」

  『え?どうして?』

  「あ、いや...。実は君のパパとママはもうお城にいるんだ。

  さっき森の中で偶然会ってね。先にお城に行ってもらってるの。」

  やっぱり2人はもう…。

  「無事かどうかは分からないけど。」

  無事、ねぇ…。

  お兄さん小声ですけど、聞こえてますよ。

  「だから、これから僕と一緒にお城に行こう。

  パパとママも君が来るのを待ってると思うよ。」

  今更私が行っても、もう遅いだろうな。

  『分かりました。私もお城に連れて行って下さい。』

  きっとパパとママにやられてる。

  「え!!本当に?

  僕と一緒にお城に行ってくれるの?」

  もう私が行く必要もないのだけれど。

  「嬉しい!!ありがとう。

  じゃあ、さっそく準備をしよう。

  外は寒いから暖かくしてね。風邪なんてひいたら大変だから。」

  今頃、襲われていると思ってるやつらが生きていた時の驚いた顔も見たいし。

  「その赤い頭巾は被って行くの?」

  『はい。』

  せっかくだから縄張りまで連れて行ってもらおうかな。

  「そう...。大事なもの…なんだもんね。」

  『はい!!お守りです!!』

  きっと今頃、縄張りはめちゃめちゃ。

  「あ、それ。この間の耳飾り!!

  それ、やっぱり君にとっても似合ってるね。

  揺れる耳飾りが愛らしい君の顔を引き立てている。」

  揺れる耳飾りは狩猟本能を刺激する。

  そして…

  「それと気のせいかな?

  その耳飾りいい香りがするんだよね。

  君の匂いだと思っていたけど少し違う気がする…。なんの香りなんだろう。」

  狼たちを引き寄せる香りが仕込まれている。

  これらの罠にひっかからない狼はいない。

  「あ、必要なものはお城で何でも用意できるから、荷物は本当に大切なものだけで大丈夫だよ。」

  『はい。準備終わりました。』

  「忘れ物はない?」

  『大丈夫です。』

  「よし!!じゃあ、暗くなる前に出発しよう!!」

  『はい。』

  玄関のドアの開閉音は“いってらっしゃい”と言っているような気がした。

  いってきます。パパとママと3人ですぐ帰ってくるね。

  よく知る森の中。

  一歩一歩踏みしめる緑の音。

  私はこの音が好きだ。

  この音に集中していると、いつの間にか長い距離を歩いていたことに気が付くことがよくある。

  「お城までは結構距離があるんだ。疲れたり足が痛くなったりしたらいつでも言ってね。

  僕がおんぶしてあげる。」

  この森のことなら、私にだってだいたい分かる。

  小さい頃から散歩をしたり、遊んだりしながら森の構造を頭に叩き込まれる。

  さすがにお兄さんが言うお城…とやらは、私たちが簡単に足を踏み入れられる場所にはない。

  姿形を見たことはないが、それなりに距離があることは知っている。

  ここまで結構歩いた。私が知っている森はそろそろ終わる。

  きっともうすぐお城…とやらの姿が見えてくる頃だろう。

  そして、そろそろあれが効き始めてくる頃だろうか。

  「このペースなら陽が沈む前には着きそうだね。」

  『あの…お兄さんに聞きたいことがあるんですけど、いいですか?』

  このあたりで、正体は自分で明かしてもらおうか。

  「えーなになに?

  僕に興味を持ってくれたんだね!!嬉しいな。」

  どうしてこんなに嬉しそうなのだろうか…。

  『この間森の中で、一瞬会っただけの私の家がどうして分かったんですか?』

  「それは君の匂いを辿ったからだよ。

  この間拾った、その耳飾りの匂いを頼りにお家を探したんだ。」

  『匂いを?凄い!!

  お兄さんとっても鼻が効くんですね。』

  「そう、僕は鼻が利くんだ。」

  『どうしてそんなに鼻が利くんですか?』

  「それは君の匂いをかぎ分けるためだよ。匂いをかぎ分けて君の居場所を知るため。

  君の居場所が分かれば君が危険な目に遭っていても、すぐに飛んでいけるからね。

  でも、できれば僕の側を離れてほしくはないかな。」

  『どうしてお兄さんはそんなに耳が大きいんですか?』

  「それはー、君に近づく敵にいち早く気づくためだよ。

  森の中は自然の音に溢れているからね。

  敵の音を聞き分けるには、このくらいの大きさが便利なんだよ。

  だから、安心してずっと僕の側にいてよ。」

  『どうしてそんなにお口が大きいんですか?』

  「それはこの複雑な森の中で君とはぐれた時に、君に届くくらいの大きな声が出せるようにかな。

  もし、はぐれちゃったら君も大きい声で僕を呼んでね。

  この大きい耳で必ず見つけだすから。

  僕には嗅覚もあるし、絶対はぐれさせたりしないけどね」

  『どうしてそんなに手が大きいんですか?』

  「それは君を思いっきり抱きしめるためだよ。

  寒い時は君を暖めてあげられるし、痛いところがあれば撫でてもあげられる。

  いつでも僕に甘えていいんだよ。」

  さすが噂通り。頭の回転も早いようね。

  「僕はね、君を守りたいんだ。

  僕の全ては、こんな暗くて広い

  危険に溢れた森から君を守る為にあるんだよ。

  だから、ずっと側にいさせてくれたら嬉しいな。」

  どんな書物を読んだら、そんな台詞が浮かんでくるのか。

  『あ、お兄さん笑うと牙が見えるんですね。かっこいいです。』

  その笑顔でどれだけの人間を襲ってきたのだろうか。

  「ありがとう。

  実は僕には立派な牙があるんだ。よく気が付いたね。」

  『どうして牙があるんですか?』

  「これは君のその白い肌に

  “僕のもの”って印を刻むためにあるんだよ。なんてね。

  大事な君にそんな痛いこと絶対にしないよ。

  この牙は君に近付く敵に噛みつくためかな。

  君を絶対危険な目には遭わせたくないから。

  その赤い頭巾なんかより、僕の方が君のお守りになれると思うな。」

  お守りだなんて笑わせないで。

  「いずれバレることだし君にそこまで気付かれてしまったのなら、今言っておこうかな。

  実は僕、人の姿に化けた狼なんだ。」

  かかったな。

  この赤い頭巾は君たち狼どもを捕まえるハンターの証。

  そして、私はそれを生業としている家系に産まれたハンター。

  わざわざこんな目立つ色なのは君たちに私たちを見つけてもらうため。

  狼は赤い頭巾に誘(いざな)われるの。

  それが古(いにしえ)からの世の決まり。

  あの青い目には特に赤い頭巾がよく映える。

  良質な人間の肉を探し求め、私たちの罠に引っ掛かる。

  『え?』

  「びっくりさせちゃったかな?でも、君には僕の全てを受け入れてもらえると嬉しいな。

  僕はもう君の全てを受け入れる覚悟はできてるよ。」

  私はとっくに。

  あなたを初めて見たあの日から全てを知って…

  いや、全てを受け入れてここまでついてきたんだよ。

  でもね、残念ながら

  あなたはそろそろ話すことすら

  儘(まま)ならなくなる。

  きっと本人も違和感に気付き始めているんじゃないだろうか。

  「ねぇ、やっぱりこの森の中でその赤い頭巾は目立って仕方がないよ。

  そんな目立つ格好をしてたら誰かに襲われちゃう。

  とても心配だな。」

  私の心配をしている場合ではない。

  さっき君に飲ませた飲み物には狼には毒になる成分が入っている。じわじわと体内から侵されていくだろう。

  「あ、でももう大丈夫か。

  僕が近くにいるわけだし。

  それに...安心してね。

  君が誰かに襲われる前に、僕が君を襲ってあげるから。」

  あなたのお城とやらに着く頃にはきっと弱りきっている。

  さぁ、君たちの縄張りへ連れていっておくれ。

  『ねぇ、狼さん。

  私を見つけてくれてありがとう。

  でも、残念だけど......

  あなたに私は襲えない。』

  〈終〉

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