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数日後。
講習もほとんどが済み、筆記の試験もなんとか無事終え…
あとは実習のみとなった。
しかし、たった数日の講習で…
あのアメリカ戦車を操縦できるようになるものなのだろうか。
話の内容が至って単純すぎて、逆に知らなくてはいけないことを見逃しているのではないかと心配になるほどだった。
そんな中桜田は…
「へへへ、菜崎ィ…♡」
「なんだ」
「今日はキマってンなァ…♡」
「なにがだ」
朝の支度を済ませた私を見て、いの1番にそう言い放った。
決まっている…? ほうけた顔で続けた。
「新しい戦闘服ですヨ!! 結構似合ってるじゃネーかァ…♡」
「あぁ、これのことか」
そう、今日の日に行われる実習を前に、
戦車兵用に試作された戦闘服を支給してもらったのだ。
…と言っても、戦時中我々の着ていた戦闘服と比べ、なにか特別なところがあるわけでもない。
強いて言える差といえば、洋風でツナギのような一張羅で、脚絆を巻かないことくらいだ。
「ピッカピカの黒長靴ッ! "ブーツ"って呼ぶらしいですゼ」
「ほう…履く手間が省けていいものだ」
「んふふふ…♡」
そして帽子と鉄兜、無線機も支給されている。
前者2つはわかるが、無線機は必要なのだろうか…?
「それで…この巻かれた紐は、無線機か」
「どうやら車内は相当な騒音がするようデ、
コイツがいねエと話もマトモにできねエそうなんでサ」
「ふむ…」
私の勘が要らないと言ったので、置いていこうか迷ったものの…
ひとまず指示通り、持っていくことにした。
「………」
「えへへへ…お似合いですゼェ〜…♡」
「ふんっ(ボコッ)」
「ひべッ」
…こいつのなんだか邪な視線にも慣れてきたものだが、
やはり1発殴っておかねば気が済まん。
にやついた顔を見るとどうにも…
「褒めただけじゃネーですかァ〜!! 素直になりなせエって〜…」
「…ぶつくさ言っていないで、行くぞ」
「うぅ…ヒデぇ…理不尽でサぁ…」
外に出て借用が許されたジープに乗り、場内を駆け巡る。
そして土煙が漂う演習場へと歩みを進めた。
そこにはどこか見覚えのある戦車と、我が隊の皆が揃っていた。
「よし、皆集まったな?」
「「「「ハイッ」」」」
あの後他の車輌に関しても講習を受け、ひと通りの操作方法や車輌の癖などを学んだ。
覚えるのに苦労した弾種も、日本語に置き換えることで…
なんとか恐らく覚えきった。そのはずだ。うむ。
「はいっ、教官!」
「先生でいいっ! なんだね?」
「教習車は…"ぱっとん"ではないのですか?」
声高に穏牧が教官を呼ぶと、そう質問した。
…確かに、思っていたより小ぶりな戦車が目の前にある。
車高が高く、砲の寸法も思ったより細く短い。
さらに足回りも妙にどこか見覚えがあるような…
"あれ"とどこか似た雰囲気がある、そんな戦車だ。
「ああ、日本に持ってきてもらえる確約が立ち消えしてしまったようでな…
実車はいまここにはない」
…がっくし。
「予定と違うではないですか」
落胆からか、思わず声が…
「まあ心配するな。点数には補正をかける」
「そういうことではなくてですね…!!」
「ンーまあまあ車長ォ…」
と諌める桜田。
くう…無念。
「じゃ、じゃあこの戦車は〜…?」
「"M4A3E8(イージーエイト)"。講習でも扱ったはずだ。今回はこいつを使う」
「いーじーえいとぉ…」
確かに名前も操作法も聞いた。
砲弾の種類もパットンより単純で覚えやすかった記憶がある。
…我々を危機に陥れた戦車。あのときは敵同士だったが、今回我々は繰ることに…
"昨日の敵は今日の友"、などとはよく言ったものだ。
「では準備が完了し次第、搭乗しろ」
「「「「ハイッ」」」」
(かたんっ)
「よし、皆乗ったか?」
「操縦手、準備できましたぁ〜!」
「無線手、バッチリです!」
「装填手、いつでもいいゾ〜」
「砲手…あ、私か」
そう、まず大前提として、この戦車は5人乗りなのだ。
アメリカの戦車は我々の繰っていたそれと比べ驚くほど大きく、
車長と砲手は別々になるという。
なので、私、桜田、穏牧、そしてカナキチの4人だけでは、ひとり空く。
そこで車長として代わりに、寺田教官が鎮座するというわけだ。
…目の前にある巨大な砲閉鎖器。M1戦車砲だ。
砲塔のカゴの横隅には、太く長い砲弾がずらっと縦に並んでいる。
圧巻だ。
「うむ。準備はいいな?
ではまず操縦手、エンジンを始動しろ」
「はいーっ!」
M4A3E8。通称"イージーエイト"。
アメリカのフォネティックコードとやらの読み方から、この名がついたそうだ。
シャーマン戦車の究極進化型であり、様々なところに改良が施されている。
開発順に名前が連なっており、M4は“4式”、A3は“3番”、E8は“8号”を指しているという。
日本製の戦車と比べ容積も体積も大きく、大の大人3人が砲塔内に入っても、さほど狭いと感じないほどだ。
「えっと確か…まずバッテリー電源を入れて、
つまみを3つ目にひねって〜…」
エンジンはもともと、航空機用のコンチネンタル製星型9気筒"R975エンジン"を流用していたらしいが、
何分機構の進化や武装強化などによる重量増で馬力が不足したことと、
単純に整備性が向上するという理由から、
この等級から450馬力を発生するフォード製V型8気筒"GAAエンジン"が開発され、搭載され始めたのだという。
カナキチが左の計器上にあるつまみを"発動"の位置に合わせ、始動ボタンを押した。
(きゅんきゅんきゅるるるぐるるるるるる…)
(ぐぉろろろろん…ガラガラガラガラ…)
「おぉ〜っ! かかりました!!」
「よし」
凄まじい音だ。我が国の戦車からでは考えられない、けたたましい音。
我々が搭乗していた特2式内火艇カミ車のエンジンは、三菱製直列6気筒"A6120Deディーゼル"。
このシャーマン戦車より軽かったとはいえ、110馬力の音と比べれば、その力強さの差は歴然だ。
(ぐおぉぉん…ぐおおぉぉん…)
「すっごい音です…!!」
「ガソリンはえらい音がなって燃えやすい分、揮発性が高くて力も出しやすいからな。
…さて、発進してみろ」
「はいっ!!」
耳当て無線越しに聞こえる寺田の声。
…うむ、確かにこの騒音なら無線機は必須だな。
「確か、右を引けば右、左なら左…前に倒せば前進でしたね~」
(ぐぉんっ…ぐおぉぉぉぉ…)
声に出しておさらいを済ませると、車体が揺れ、すぐに動き出した。
「うわぁ…!! か、感動ですぅ~…!!」
「久々の操縦はやはりいいものかね?」
「はいーっ! なんだか、ウキウキワクワクですよぉ〜!!」
「楽しそうでなによりだ。では場内を道なりに走り続けなさい」
「んっ…はーいっ!」
この戦車の操縦は至って簡単で、私でもすぐに理解できた。
まずエンジン始動に使う電動機の主電源を入れ、電動機を回す。
するとそれだけでエンジンがかかる。
…これだけなら、カミ車も同じだ。
「右旋回っと…」
(ぐわああぁぁぁ…)
操縦するには2本の鉄棒を用いる。それぞれブレーキの役割を果たしており、
配置通り右は右履帯を止め、左は左履帯を止める。
そうすることによって片側の履帯のみが動き続けるため、回転数の差によって旋回が可能となる仕組みだ。
「ここは直線が続く。少し速めに走ってみろ」
「んう…頑張ります」
(ぐおぉぉぉっ…ぐんおおぉぉぉ…ぐぉっ…)
変速にはクラッチペダルとシフトレバーを使う。自動車免許を持つ方ならわかるだろうが、あの手順と全く同じものを戦車でも行うのだ。
…ただ先述の通り、この戦車の内容積は日本の戦車のそれとは比較にならない。
カナキチの小さな体躯を考えると…
「んーっ…すみませーん。操縦桿とペダルが遠いです〜…」
「それを見越してペダルには木片れを挟んであったんだが…。
椅子を倒しても厳しいか?」
「えっ倒せるんですかー!?」
「ああ、やってみろ」
(がちゃん)
「ほわぁ…!」
厳しいだろうと思ったが、さすがはアメリカ。
考慮が行き届いていた。
椅子横のレバーを引きながら体重をかけると、バネによってゆっくり下がる仕組みになっている。
上げたいときは体重をかけずにレバーを引くと勝手に上がる。
(ぐっ…ぐあおおぉぉぉぉぉん…)
変速できずに高い回転数で膠着し、高く苦しそうな音がしていたが、
椅子が下がって次速に入った途端、"気持ちがいい"とでも言いたげなくらい、
我慢していたものが放出されるような、力の湧き出る音に変わった。
「よし、1周。次は1回右折してから、コンクリートでできた壁のあるところに行こう」
「壁ですか?? それらしいものはぁ…」
「わかりづらいかもしれないが、他の車輌も射撃練習をしているはずだ。それを目安にしろ」
「は、はいっ」
場内を1周し、今度は射撃場に行くらしい。
私と恩田の出番か。
射撃場内に行くと我々の他に、見たことのないアメリカ製の戦車や、
小さな自走砲のようなものもいた。
無反動砲を備え付けた車輌のようだが…よくはわからなかった。
「そうしたら、左から5番目の囲いに停めるんだ」
「はーいっ」
この次は射撃訓練。上手くいくといいが…
続く。
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