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カクタスアメシスト

  窓から伸びる影が長くなって、廊下が静かになったらおれたちは次に演奏する曲も無いコトだしジャムセッションする。別に楽しかったら良いし上手く弾けなくてもそれはそれ。

  学園祭ライブが終わって、三年生たちは引退。たまに玲音先輩が遊びに来るケド煌星先輩がぶちょーになって、ほかのバンドはあんまり部活に来ないから『plantS net』が部の中心になっている気がする。

  「あ、また切れた」

  マイナーからメジャーに切り替えた途端、ピンッと切れる1弦。一番細い弦だから切れやすいのは仕方ないけど、最近多いのはなんでだろ。

  「葉介のギターってよく見たらクラックできてるし、もしかしてヴィンテージ?」

  「よくわかったな!寝虎。そう、ヴィンテージ。お父さんが昔ギターやってたらしくって、買って貰ったヤツ」

  おれ的にはフライングVとかファイヤーバードとか、変形型のもっとイカしたのが好きなんだけど。せっかく買うなら良い物をってお父さんに勧められて買った物。この子もピックで撫でるとあったかい音出るんだよな。

  「どうせ買うなら良い物を最初から買った方がイイ!ってお父さんに言われて」

  「それでヴィンテージ、ステッカー貼って良かったのか?」

  どうせキズがつくんだし、目立ってきたらステッカーでおれのだってマーキングするんだ。

  「葉介が貼りたかったのならいいよって言われてるんだ。表だけじゃさみしいから裏面も貼りたいな」

  「だったら楽器屋行こうか。丁度備品を買い足すつもりだったし、古い物はこまめにメンテナンス入れないと怖いから」

  スティックを片付けて入り込む煌星センパイ、じゃなくってぶちょーだった。煌星センパイがぶちょーで寝虎の家に遊びに行くと居るお兄さんもぶちょー?あれ、こんがらがってきた。

  「そうっすね、ぶちょーセンパイ」

  クスリ、笑い。ゴツゴツしたおっきな手で頭を撫でられる。

  「無理して部長なんて言わなくてもいいんだよ。今まで通り煌星先輩で」

  家族以外で一番撫でるのがうまい、同じ一人っ子のハズなのに次にうまいのはイチロウなのは・・・・・・わかんないからいいか。

  ギグバッグにギターをそっと入れて、部室を出る。いつもの楽器屋さんに行くんだったら一緒にあそこにも行きたいな。そして寝虎をからかってやろう。

  ***

  「しゃっせー」

  「すみませーん、この子のメンテナンスお願いします」

  ジーンズと黒いタンクトップのデボンレックス。ピアスの数は煌星センパイを超えてるんじゃないかな。

  「あー、いつものステッカーべたべたヴィンホロちゃんね。俺に任せて」

  ネコ科なんだけど話し好きなのはイヌ科っぽい、被毛の所々を紅く染めてるのはロックだ。おにーさんの名前は忘れちゃったけどかっこいい。

  「よーすけくん、この子はお色直しするから店内見てな」

  「うん!」

  入り口に振り返って吊されたサオ物の数々。チューナー、シールドと……ピックは消耗品だけどいくつあっても困らない。手のひらにいくつか乗せて見比べる。

  「トライアングルとティアドロップどっちが良いのかな」

  寝虎と煌星センパイが後ろでアクセサリーを見て回っているケド、おれ以外は普通に売ってるピック使う人居なかったや。

  「葉介の今使ってるのはティアドロップだったよな、トライアングルだと薄いし指のサイズ的にティアドロップで良いんじゃ無いか」

  指のサイズ?まぁ桜色のピックがなんかしっくりくるし予備もいくつか買ってたから、いいか。

  「そういう寝虎はいつもなんかの石を使ってるよね」

  「あれは部屋にあったから使ってたんだけど、ベースって弦太いじゃん。厚みのある方が握りやすくって剛性も高い方が弾かれにくくって、気づいたらあれしか使わなくなってた……ギターだってトレモロ奏法の始めは[[rb:硬貨のギザギザ > コインエッジ]]を使ってたって言うじゃん」

  普段の寝虎は寝虎なのに、機材や奏法となると早口になる。学園祭のちょっと前から独り言多くなって、アドバイスも増えたけど……何かあったのかな。

  「寝虎って楽器オタクだよね」

  「オタ……いや、俺はそれほどじゃないし!お兄ちゃ…兄貴に教えて貰っただけで別に機材弄りが得意なわけでも…」

  壁に掛かるギターとベース、楽器屋さんに来るとこれが楽しみなんだよね。

  「レスポとテレキャスモデル、こっちはなんだっけ」

  よくわからないけど6弦だからギター。その隣には7弦のヘッドが尖ったギター?

  「葉介もサブを探してるのか」

  「そうだけど」

  目を輝かせて尻尾振って。家にあれだけ機材が揃っていても見ていて飽きないんだろうなー、目線の先は5弦ベースと隣が……7弦!?ギターとどう違うんだ?

  「なんだかんだ言って今の子が好きだから悩むんだよな。あと、コレ」

  弦の間に通された紙、数字が五桁で留まらずもう一桁ある。

  「やっぱ、学生にゃ高い!」

  「バイト始めようかな?」

  寝虎はともかく煌星センパイも忙しいし、自宅練習するなら部室に来なくても良いし。

  「いいよな、サオ物組は楽器の選択肢広くて」

  「ここ、ドラム用品少ないっすからね」

  うなずき、りょーしゅーしょ?を人差し指と中指の間に挟んで見せる。

  「ボクはまだ今のスティックが使えるし、さっきまで備品を買ってたんだ」

  「流石ぶちょー!」

  学ランの胸ポケットにそっとしまって。

  「それとよーすけくん呼んできてって言伝」

  レジ横の作業台に立ってるおにーさんに声掛けて、すぐに始まる解説。

  「このヴィンホロちゃんねペグが曲がってたんだ、それで弦が切れやすくなってたの。ネックも順反り気味だったから弦高上がってて指が疲れてたんじゃない?」

  「そうそう」

  お気に入りの店員さんが居ると楽で良いね。

  「俺のコレクションから年代が近くてよさげなペグつけて、ネックの矯正しといた。お代は二千円ね」

  「はーい」

  折りたたみ財布からすっと紙幣を二枚引き抜いて、手渡す。

  「レシートは」

  「要らない!」

  ギターバッグを肩に掛けて笑う。

  「だよね、大事にしてね」

  手を振って楽器屋さんから出ると、くぅ…というお腹からの気の抜けた中音域がおれのお腹から響く。

  「お腹空いた?」

  ハテナマークを語尾につけたら「何で疑問形なんだよ」と寝虎に笑われて。

  「はいはい、じゃあ軽くご飯行こうか」

  例のスマホを片手に指さして案内する煌星センパイについて行く。

  ***

  「楽器買いたくても買えなくて、貯金したくてもご飯は食べなきゃならないから貯まらないってね」

  駅前ファストフード。運動部じゃ無くってもお腹はすぐ空いて、夕飯有っても入るから。

  「あちぃっ」

  「猫舌なのはネコ科共通なの?」

  大口開けてかぶり付いた寝虎がハンバーガーをトレイに押しやり、ジュースを啜る。

  「いつもは兄貴が冷ましてから持ってきてくれるし」

  熱い方がおいしいんじゃ無いんだ、そして朱嶺兄弟の常識を知ってちょっと驚いた。まぁいいや図鑑やニュースでしか見たことの無いウシからとれる肉を挟んだハンバーガーは学生に優しいお値段で、オトナになると味が濃いとかパサパサするとか聞くけど別に美味しかったらそれでいいや。

  「煌星センパイはなにしてるの?」

  テーブルの隅でブラックコーヒーをストローで啜り、スマホを弄ってるセンパイに聞く。

  「秘密」

  長いまつげを揺らし口元に人差し指を当てて見せる。画面の割れたスマホを愛用するのもロックだ、煌星センパイをマネしたらおれもカッコ良くなってモテるのかな?一学期にはピアス開けてみたし次は何しよう。

  ちょっと前に一緒に歩いて帰ってる時、お兄ちゃんってフザケて呼んだらすごく嬉しそうな顔して頭をポンポンしてくれたっけ。

  「葉介……」

  いつの間にか食べ終わっていたらしい寝虎が、クリームパンのような手を手で握りもじもじしてる。おれはバーガーラップに残ったハンバーガーをソースと一緒に飲み込み次の言葉を待つ。

  「はっきり言いな」

  横からおっきな手が伸びておれの口周りをナフキンで拭ってみせる。

  「俺も…ベースにステッカー貼ってみたいなって思うんだけど」

  「まかせろ!」

  紙コップに入ってたコーラを一気に吸い上げて……

  「ごふぁっ!」

  「全く手間のかかる後輩だな」

  やれやれと背中を撫でるおっきな手。ケフケフ咳をして噎せても、また「飲み物は?」と聞かれたらコーラを選ぶんだ。コーラは喉に良いらしいから。

  ***

  「ここが!おれの行きつけステッカー屋さん」

  『g-side label』全国でも十数店舗しかないうちの一店舗。ロックなステッカーがずらり並んで、ついつい買い込んでしまうそんなお店。おれ、限定品とかに弱いんだよなー。

  「ふーん、単価は結構安くて学生にも優しい価格設定か」

  「煌星センパイも記念に何か買いましょうよ!」

  店舗限定はコンプリートしてあるから、この季節限定のコーナーは……あった。秋のモチーフに稲荷と無表情とおにぎりは買いだな。

  「……お客さん、初めての方ですか!!」

  「みゃっ!は、はい」

  「でしたらうちの商品説明をさせていただきたく。当店は複数人のクリエイターを抱え込んでオリジナルステッカーを制作、販売しているお店でして__」

  

  寝虎がアルパカの店員さんと話してるんだな~。おれが説明しなくても良くなったし、おれはおれで次擦り傷作った時用のステッカーを探そ。

  「紫外線と水にも強いのでバンバン外に持ち歩く物に貼っても大丈夫です!もし剥がれても保証がついているのでその時はご連絡ください。あとですね店舗毎に限定品が__」

  「はぁ、スゴイデスネ」

  こころなしか縞しっぽが下がって小刻みに揺れてる?まぁいっか。

  「お話遮ってすみません。ボク、このステッカーの色違いを探していて在庫を調べていただけませんか」

  「あぁ、この子ですね!少々お待ちくだーさい」

  店員さんが離れたと同時に寝虎の頭をポンポンする。そうだ、おれも一緒に選ばなきゃ。

  「にゃぁ…」

  「それで、寝虎はどんなのが欲しいの。ボクもお揃いの買おうかな」

  耳がピクンと立ってもじもじ見渡している。

  「ずるい!おれもお揃いの買うもん」

  「じゃ、バンドメンバーで合わせよっか」

  近くの絵柄を見ると。半裸のおじさんに、瓶詰めされた女の子。こんなの誰が買うんだろ?

  「ネコがベース持ってるから、俺はコレ買う」

  寝虎がネコにベースってアンチョクだなー。

  「ボクは……だめだな、ボクが欲しいって言うより弟にあげる事前提で考えちゃうや」

  「流石、煌星センパイ!」

  ペンギンに虎、柴犬とか狼とかのデフォルメされてどこかユルいステッカーを押しつけ合って。振り返るとさっきの店員さんが立っていた。

  「お待たせしました『トラウマですな。』です」

  競走馬っぽい馬にホワイトタイガーが乗ってる。面白いけど、煌星センパイはホントにコレを探してたの?

  「ありがとうございます」

  「俺、さっきの『トラウマです。』欲しい」

  寝虎まで……でも、リズム隊の二人が居なかったらおれもマダマダだし。丁度イイのかもな。

  「じゃ、お揃いはコレにする」

  三人並んでレジを打って貰って。

  「一度貼ると貼った物の塗装が剥がれるかもしれないので、貼る時は注意してくださいね!」

  いつものお話しに「はーい」と返事して。店員さんに見送られながら前を歩く二人に続いて、引っかかった。

  『馬並みですけど?』と馬とセットに書かれた一言。ウマナミ?煌星センパイに聞くのはなんかダメな気がする。

  日の暮れた夜道を並んで歩く。「じゃあまた学校で」って駅前で二人と別れたら、改札抜けて電車に駆け込む。空いていた席でギターを抱えて、窓から覗く月を眺めれば。

  「あ、月のステッカーまだ家にあったよね。一狼にあげたら喜ぶかな?誕生日過ぎてから聞いたし明日渡そう」

  おれって冴えてる!一人満足して、あと二駅の電車でパパに『今帰ってる』ってメッセージを打った。

  ***

  メンバーで放課後に遊ぶって青春っぽい!このベースもそろそろ俺好みにしなきゃって思ってたし、葉介のギター前から気になってたんだよな。

  ギグバッグのポケット。ピックにチューナーと一緒に入れていた紙袋、”一緒に”選んだステッカー。

  「おそろいの物、すごく陽キャっぽい。これで俺も……!」

  脱ぎ散らかした服や買ってそのままの機材に占領され、わずかに残った空白地帯にあぐらをかいて。ベースを膝に乗せていつでも見れるように背面の中心、狙いを定めて剥離紙を剥がす。

  「……」

  しん、と静まった部屋。生唾を飲み込んで髭が小刻みに揺れる。

  「寝虎、ごはん」

  「にゃぅ!おにいちゃん、部屋に入るときはノックしてって」

  膝から転がるベース、二日前の朝に脱いでそのままだった半袖パーカーを下敷きにヘッドがアンプにぶつかって止まる。

  「ノックはした。スマホにメッセージも送ったし呼ぶ前に火傷しないよう温度計で測定済みだからすぐ食べられる」

  「うぅ、すぐ降りるね」

  納得したのか部屋に踏み込まず、遠ざかる足音。良かったぁ、ぼくのコレクションを見られる事にならなくて……

  「みぎゃ」

  背面に貼り付いたステッカーはシワだらけ、『トラウマです。』の一言が胸に刺さり「一度貼ると貼った物の塗装が剥がれるかも」店員さんの言葉がリフレインする。

  「なんなんだよぅ」

  ギグバッグにベースを仕舞い。ベッドに立て掛ける。

  リビングに入るとお兄ちゃんが察したのか頭に手を乗せてよしよししてくれた。

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