とある都市に寂れた神社があった。塗装が剥げて風化した鳥居に崩れかけの本殿。近隣住民も何を祀っているかなど覚えておらず、参拝する者は誰一人としていない。
「お宝あるかなあ」
管理者不在、誰もおらず人目に付かない――ともくれば、近所の悪ガキに目を付けられるのはさもありなんといったところだろう。ゴンという名前のいたずらっ子は進入禁止の柵をひょいと飛び越え境内に侵入を果たすと、何か面白い物は無いかと『お宝探し』を始めた。
「うーん……何もないなあ。後は奥の建物だけかな」
かつては多数の参拝客が訪れた場所だったのだろう。境内には手水所や社務所まで配置されておりかなり広大だったが、どれも埃まみれで値打ち物は何一つ残されていなかった。ゴンはつまらないなあなどと思いながらも最後に残された建物――本殿へと足を踏み入れた。
前進する度にギギ――と木が軋む嫌な音が響く。今にも床が抜けてしまうのではないか、建物が崩れてしまうのではないか。ゴンはそう考えながらも歩みを止めることは無い。未だ何のお宝も見つけ出せていないという焦りと誰も見ていないとはいえ臆病なところを表に出したくない想いが絡み合い、歪ながらも彼に進む勇気を与えていたからだ。
「駄目だあ」
だが、本殿にもお宝は残されていなかった。残されていたのは原型を留めていない石像らしき物と朽ちた祭事道具だけであり、曰くつきのお面や刀剣の類といった物は何一つ無い。そういった物を発掘して友達に自慢するのが目的だったゴンは肩透かしを食らった気分で帰路へ着こうとした。
「……あれ?」
だが、彼が通ってきたはずの本殿入り口は扉によって固く閉ざされていた。押しても引いても力を込めてもビクともしない。入った時には開いてたはずなのにな、そう思いながらゴンは別の出口を探そうとして振り返った。
「えっ――!?」
振り返ったゴンの目には廃墟が映っているはずだった。だが彼の目には今、危うく踏み抜きそうになった床板も、ボロボロの石像も、朽ちた祭事道具も映し出されていない。映し出されていたのは陽光に照らされ神々しく佇む狐の石像と、新品同然となった内装。在りし日の神社が蘇ったかのような光景が広がっていたのだ。
(な、何が起きてるの?)
ゴンが戸惑い立ち止まっていると、突如として何者かから肩を叩かれる感触がした。この建物には自分しか居ないはず――ゴンはそう思いながら振り返ると見覚えの無い女性が顔を膨れさせているのが見えた。
「紺様! そんなところでボーっとしてないで早く神事を執り行いませんと!」
女性はゴンの背中を押して建物の中央である狐の石像前へと運ぼうとしているようだった。
(??? こん様? しんじ??)
ゴンは現状をさっぱり理解できなかった。響きは似ているが別の名前で呼ばれている点。神事を執り行うという言葉の意味。大人の女性と目線が合っていること。何もかもが彼の幼い思考では処理しきれない。
「どうしてそんなに気の抜けた顔をしているんですか!? 今日は巫女として狐神様に身体を捧げる大切な日。ほら、早くその衣も脱いで!」
抵抗する間も無くゴンは女性の手によって裸にひん剥かれてしまう。その瞬間、彼の胸がぶるんと大きく揺れて暖かな陽気に晒された。
「――はあ!?」
ゴンは慌てて胸に手を置いた。柔らかくハリのあるソレはスイカほどのサイズをしていて、呼吸をするだけでも微かに揺れているのが伝わってくる。先端についた桜色のボタンに手を触れればくすぐったさといけない事をしている気分で満たされ、恥ずかしい声が漏れ出る。ソレは、彼には付いていなかったはずの物――乳房だった。
「どうしちゃったんですか紺様? 変な顔をしたかと思えば胸を弄り回して」
ここでようやく、ゴンは自分が大人の女性になってしまったことに気がついた。女性と目線が合っていたのは身長が伸びたからだったし、女性が彼を紺と呼んでいるのもゴンでは無い別人になってしまったからだと。だが、気がついたところで何かが出来るわけでもない。結局彼は女性に言われるがまま、狐の石像前に置かれた座布団の上に正座させられることとなった。
「ああもう、ようやく始められますね。付き人虐めも程々にして貰わないと――じゃあはい、目を瞑って狐神様へ祈りを捧げましょう」
何も分からない以上従う他無い。ゴンは言われた通りに目を瞑り、狐神と呼ばれる存在へと祈りを捧げ始めた。
(うう、目を瞑っててもおっぱいが気になるよお)
目を瞑れば春の陽気で火照る身体が気になり集中力が削がれる。だが、付き人を名乗る女性はその様子を咎めるわけでもなく背後に立つだけだ。
「その調子です紺様。あっ――」
女性が驚く声を上げた瞬間、ゴンは自分の身体に何かが入り込むような感覚を覚えた。彼に入り込んだ何かは徐々に身体の中心へと移動していくと、腹部に宿って動かなくなった。
「おめでとうございます紺様! 無事に狐神様に見初められて――私感激です!」
女性は感激の声を上げているが、ゴンはそれどころでは無かった。何かが腹部に宿って以降、内側から燃え上がるような熱に浮かされて意識が朦朧としていたのだ。
「あっ――そうですよね。まだ紺様の変化が終わっていないのですからお手伝いして差し上げないと」
失礼しますという言葉と共に、女性は衣を脱ぎ捨てると裸体を重ね合わせた。擦れ合う肌。女性の冷たい身体はゴンの熱を吸い上げ、ゴンの負担を減らしていく。
「う、ん――♡」
「気持ちいいですか紺様? 嗚呼、熱が私にも移って――」
手と手を絡み合わせ、互いに豊満な乳房を押し付け合う。乳首が擦れ合う度に嬌声が漏れ、股を濡らしていく。男女の性差すら知らないゴンにとってこれらは未知の快楽だった。
「そろそろ、ですかね」
熱と快楽に感情が支配され、身を委ね始めていた頃。ゴンは全身に熱とは違うゾワゾワとした感覚を感じていた。ふと視線を全身に向けてみれば、そこにあったのはこげ茶色の毛が一面に生えている姿。手を開けば肉球とそれに挟まれた硬い毛が。
「こちらも変わってきていますね」
女性が頭を撫でれば髪の毛とは違うふさふさとした毛が感じられ、頬を撫でれば大きく裂けた口と牙が感じられる。突き出した鼻の先には黒く湿った物体と黒い髭が鎮座し、動物的な特徴を強調させている。
ゴンの身体は人間と狐の中間、狐獣人へと姿形を変えていた。人間らしさを維持したまま狐の特徴を付与した見た目といったところだ。
「ふう、無事に終わりましたね。紺様、体調は大丈夫でしょうか」
女性はふわふわふさふさとした毛皮の感触を楽しみながらゴンの体調を伺っている。ゴンは暫くの間快楽で涎を垂らしていたが、ハッと我に返ると勢い良く立ち上がった。
「――私、どれくらいの時間だらしない顔を晒してた?」
『紺』は恥ずかしさで顔を赤らめながら脱ぎ捨てた巫女服を身に纏った。その所作は乙女のソレであり、男児らしさは欠片も無い。
「数十分ほどでしょうか。ああ、いつもの紺様に戻られて何よりで――」
「ちょっと、どういうことよっ!」
紺は付き人に対し腕を振り上げるが、快楽と変化で失った体力では満足な威力を振るえない。逆に反撃を喰らって抱きかかえられてしまうと、そのまま本殿から外へと連れ出されてしまった。
「おお、巫女様が狐神様の加護を得られたぞ!」
「これでこの町も安泰ですじゃ」
本殿の外に出ると、神事の成功を待ちわびた人々の歓声が巻き起こった。
――神使降誕の儀。清らかなる乙女を選定し、祈りを捧げることによって神の子を授かる儀式。子を授かった巫女とその子供は神の使いとしてその生涯を神のために捧げる。紺の一族はそうすることでこの地に神を定着させ、町に繁栄をもたらし続けてきた。[[rb:ということになっている > ・・・・・・・・・・・]]。
「ふふ、社に土足で入る罰当たりがおって助かったのう。お陰様で妾はこうして復活を果たすことが出来た」
本殿の屋根に腰掛ける小さな狐が一匹。この狐はかつてこの地に祀られた土地神の一種であったが、時代の流れによって忘れ去られ悪霊化した存在であった。
「しかしまあ牛のようなだらしない乳を弾ませ、ありもしない儀式を経て人を辞め――挙句の果てには妾の子を宿す! 何とも哀れで滑稽よのう!」
少年は狐によって捻じ曲げられたのだ。ゴンは紺に。男は女に。少年は女性に。狐にとって都合の良い、信仰を生み出す存在へと。その結果、世界は改変されてしまった。
「皆ありがとう! 私、頑張るからね!」
内も外も女性と化し、狐の力を宿してしまったゴンはその事実に気づくことなど無い。全ては狐の思うがまま。彼は疑問を抱くことなど出来ず、邪神の僕として尽くし続けるだろう。
「くっふっふ――」
邪神は嗤う。世界を望むままに捻じ曲げる企みを巡らせて。
[newpage]
[chapter:設定資料]
いつものイメージを膨らませる用。
・ゴン
小学生の悪ガキ。進入禁止は入っていいという意味と捉えているくらいには悪ガキ。
・紺
ゴンが狐によって捻じ曲げられた姿。お転婆娘。スイカ大の乳房と安産型のお尻を持つ巫女。見た目は狐の趣味(下品な姿にするのが面白いらしい)
・付き人
狐の分身体。ゴンの環境を捻じ曲げた結果生まれる世界の不具合を修正するため生み出された操り人形。独立した思考を持っているため本体とは多少趣味嗜好が違う。根本は同じ。
・狐
かつては真っ当な神であったが、信仰が失われて以降精神が歪んでしまった邪神。聖域を土足で汚すというゴンの罰当たりを切っ掛けとして彼に呪いを付与。世界が改変され信仰を取り戻すことに成功した。
・世界改変
①が変わると連鎖的に②も変わるといったイメージ。深く考えず雰囲気で読んでね。