呼び出しは師匠から(カメラマンの受難の始まり、か)アクセスは伸びている

  珍しい、あちらから呼ばれるなんて何の話だろうと思いながら村沢はスタジオを訪れた。

  ドアをノックして入ろうとしたとき、いきなり背後から声をかけられた、振り返ると、そこには呼びだした本人が立っていた、さっさと入れと言われて中に入る、そして、振り返ると何の用ですと尋ねた。

  

  「最近の若い子っていうのは」

  皆、同じ顔に見えるなあと言われて、村沢は目が悪くなりましたかと尋ねた。

  「最初に撮ったドラマ、話題になってます」

  「あれは運が良かった」

  すぐには返事ができない、それは謙遜か、それとも本気で思っているのだろうか。

  「男はナレーション、芝居もやってるが、声がメインだ、だが女は素人だ」

  驚いた、てっきりアイドル、最近の若い役者を使ったと思っていたのだ。

  何か射落としたが言葉が出てこない、そのとき、携帯の着信音のせいだ。

  

  「里奈、あんたドラマとか出ないの」

  同じくらいに入った同期と言ってもいいアイドルの言葉に、すぐには答えることができなかった。

  「写真集は売れてるみたいじゃない、いいなあ、村沢さんって怖い人、凄く厳しいって聞いたんだけど」

  「厳しい、ね」

  すぐに何も言えなかった。

  ダメ出し、こうしろ、ああしろという言葉はあまりなかった、視線を体の向きをという声はあった、だがそれ以外は困ったというより、当惑してしまった。

  迷いながらポーズをとって撮影に挑んだのだ。

  本当にこれでいいのかと思いながら、すると村沢は休憩と声をかけるのだ。

  もしかして、村沢は自分に呆れているのかもしれない、そんなことを思ってしまった。

  「ねえっ、どうして撮ってもらえたの、もしかして」

  言葉が、そこで途切れた、相手の表情から言いたいことが分かってしまった。

  もし、周りに誰もいなければ、いや、ここがスタジオの中でなかったら否定しただろう。

  「あるわけないでしょ、そんなこと」

  「ごめん、変なこと聞いたね、ただ、噂が気になって」

  噂、思わず聞き返した、そして自分の顔が、表情が張り付いたように堅くなるのがわかった。

  「村沢さんに写真集を撮ってもらうなんてコネだって、それとも色仕掛けでなんて」

  その言葉に里奈は呆れたと肩をすくめて笑いだした、馬鹿馬鹿しいといわんばかりに、だが、内心はどきりとした。

  コネという言葉が引っかかったからだ。

  もし、自分の父親が池上征二だとばれたら、周りに知られたらどうなるだろう。

  母親は、そのことに対してひどく厳しく、絶対にばれないようにと言っていた。

  だが、それは自分の現在の立場、周りの人間の目を気にしているからではと思っていた。

  

  沢木良子に、まさか、スタジオにいた人間は皆が驚いた。娘ですと紹介された女性に視線が集まったのも無理はない。

  美魔女といってもおかしくはない、美貌の持ち主の女性の娘は背は高い、だが、スタイルも顔立ちも普通だ。

  娘ですと紹介されても本当の親子とは思えないのだ。

  ところが、一人の男性が不思議そうに尋ねた。

  「もしかして、ドラマに出ていませんでしたか」

  

  TVではない、ネットで公開された、ほんの数分間だけの動画だと聞かされて沢木良子は驚いた。

  ナレーションはない、だが、二人の男女の台詞もなしだ。

  なのに、映像の閲覧数は伸びている、それだけではない、自作のセリフを入れてUPしているものもあり、アクセス数もかなり伸びている。

  「これ、本当に」

  「あっ、その突然、お願いしますって言われて、いけなかった」

  ほんの少しの沈黙の後、沢木良子は首を振った。

  「驚いたのよ、そうだ、服を買いに行かない、メイクも、そうしたら」

  最後まで言わず沢木良子は手を伸ばした。

  掴むことが、いや、触れることさえできなかった手、そして名前を呼ぶ。

  何故か、先程の映像を思い出しながらだ。