僕の名前は「奥田コウタ」。ある日、狐の着ぐるみのキューに取り憑かれて僕の身体は狐のバケモノになっちゃった。
自分の姿をヒトの姿に見せることができるフェロモンを使ってなんとか人として生活してるけど、これから僕はどうなっちゃうんだろ。
…
僕が変身して一週間が過ぎた。今日も朝から学校だ。
僕は布団から出ると洗面台に向かう。
鏡に移る狐の顔にはなかなか慣れることができなくて、顔を見るたびにドキッとしてしまう。
「うっ、僕の顔…戻ってるわけ無いか…」
顔を確認するように唇を指で引っ張って歯を見ると鋭い犬歯が生えていた。
僕はため息をついて水でパシャパシャと顔を洗うと、キューが目を覚ました。
『おはよう…コウタ』
「ん…おはよ」
僕は大きく口を開けてあくびをすると、動物用のブラシで全身の毛並みを整え始めた。バケモノになってからは朝のこの作業が一番大変だ。背中の方はブラッシングできないので諦めて、とりあえず尻尾の先までササッと整えた。
「ふぅ…やっと終わった、朝ごはん食べよっか」
『今日はパンの気分だ…パンがいい…』
「わかったわかった、パンねー」
トースターにパンをいれると、尻尾が勝手にブンブンと振ってまう。
「もうキュー我慢してよ、尻尾が色んなところに当たって危ないよ」
『す、すまない…だが、我慢できない…は、早く食べさせろ』
トースターがチンと鳴りパンの香ばしい香りが部屋中にする。
「今日はどうする?いちごジャム?それともバターかな?」
『む、むぅ…むずかしいな…』
僕の尻尾の揺れはこれまでにないほど揺れている。
「はやくしてよー、尻尾の毛が舞って部屋が汚れちゃう」
『むむぅ…』
「じゃあ、今日は両方トッピング!」
悩むキューを無視して僕はジャムとバターを両方乗せるとそのままかぶりついた。
『むぅ…』
尻尾の揺れは落ち着くどころか嬉しそうにブンブンと揺れる。
「おいしい?」
『うむ、うまい…!』
大学から独り暮らしをしていたが、やっぱり話し相手がいるのはうれしい。僕はパンを食べ終わると牛乳を飲み干した。
「食べ終わったし歯を磨いて大学いくよ」
『むっ、あの歯みがき粉とやらはやめてくれ…苦くてスースーしてたまらん…』
「だめだめ」
『た、頼む歯磨きだけは!歯磨きだけはやめてくれぇ~!!』
キューの断末魔を聞きながら僕は歯を磨いた。
「よし、ピカピカだね」
僕は口をイーッとして狐の鋭い歯を見る。ピカピカな歯を見ると気分も良くなる。
『も、もう勘弁してくれ…』
一方のキューは元気が無くなっていた。
「よし、忘れ物ないよね」
僕は通学用のリュックに大学で使うものを入れるとそれを背負うと、玄関ではなくトイレに向かった。
「じゃあ…アレ、やろっか…」
『わかった』
人間社会で僕のようなケモノがそのままの姿で外に出ればすぐに大騒ぎになってしまう。そのために外に出るときは、ヒトに姿を変えなければならない。その為に、人に化ける訳ではないが僕の持つフェロモンを使って、周りの人間に「僕が人間である」と暗示をかけなければならない。
しかし、その肝心のフェロモンをどうやって出すのか…それが問題なのだ。
『今日はオナニーか?それとも獣化でいくか?』
「うーん、時間もないし獣化しかないかな…」
『わかった』
フェロモンは僕のケモノの身体が性的興奮時にしか出ない。その為にどうにかして興奮しないといけないのだが、その方法がさっき話していた「オナニー」と「獣化」だ。
「オナニー」はみんながよく知るやつだ。チンチンをシゴいて勃起することでフェロモンを出す。しかしこの方法だと、気分が乗らないとなかなかフェロモンを出せないし、時間がかかってしまう。一方の「獣化」は、一旦人間の姿に変身し、その後ケモノ姿に戻ることで、変身時の強烈な快感を利用してフェロモンを出す方法だ。この方法は短時間で終わるし、フェロモンの持続時間も長いため基本的にこっちで行っている。しかし、、
「ふぅ…やだなぁ…」
『仕方ないだろう?』
「わかってるけどさ…」
僕は重い腰を上げると、獣化の準備に入った。
目を瞑り、人間だった頃の姿を思い浮かべると僕の身体はメキメキと縮むように人間に変わっていく。
「ふっ…ふぅ…」
『いいぞ…変身できたな』
「こ、こっちが…本当の姿だもん…!!」
人間に戻ると僕は息が上がりフラフラとしてしまう。
人間の姿に戻るのは何時でもできるが、とても疲れるため維持できるのはほんの数分だけだった。
「じゃあ、いくよ?」
『了解した、ゆっくりだぞ』
「う、うん…」
僕は人間に戻るために張っていた集中力をゆっくりと解いていく。この瞬間が一番緊張する。もし、この集中をそのまま解いてしまうと、僕の身体は一気に獣化してしまう。そうなると、僕もキューも獣化の快感で頭が真っ白になり暴走状態になってしまう。
「くっ…ふぅ…くぁ…!」
『いいぞ、コウタ上手くなったな』
「も、もう少しで…始まる…」
メキッ…と背骨が鳴る。それは獣化が始まる合図だ。
僕は壁に両手を突き、身体を支えるとゆっくりとケモノに戻っていく。
「んん…くぅぅ…」
僕の背骨が伸び始め、脂肪のついたお腹が狐らしい細く締まった体つきに変わっていく。それと同時にお腹から全身に黄金色の毛が生えていった。
「くぅあぁん…!」
『よしよし、いい調子だ。そのまま身体を反らして』
キューの指示通り、僕は身体を大きく反らすと尾てい骨の辺りがムズムズしてきた。尻尾が伸びようとしているのだ。
『ゆっくり…ゆっくりだぞ』
「うん…くぅああ…」
尻尾の生える感覚はとてつもない快感が伴うため、少しでも力を緩めると簡単に暴走してしまう。お尻の上から尾てい骨がムクムクと伸び始めた。
快感を耐えるように歯を食いしばると、歯が鋭い犬歯に変わっていき、口が狐のような細長いマズルになっていった。
『いいぞ、もう少しだ』
「ぐぅ…も、もう限界ぃ!い、いくよぉお」
僕の後ろ足と前足はプルプルと震えていた。もういつ尻尾が伸びきってもおかしくない。
『わ、わかった…頼む』
キューの準備が整っていることを確認すると僕は変わり果てた前足で僕のチンポを便器に向ける。
「い、いくよ!イグゥウウウ!!」
全身に力を込めて獣化を解放すると、少し伸びていた尾てい骨がピンと立ち上がり、引っ張られるようにズルリと伸びた。
「グゥ…コォオーン!!」
『グアアア!!キモチイイ…!!』
狐の咆哮と共に僕のチンポは射精した。精液を吐き出す度に性器はズルリと剥けて、ピンク色のケモノの性器に変わってしまった。
「カハッ…グルル…ハァ…ハァ…」
乱れた息を整えるように伸びた舌を出すと、肩を上下に動かして大きく深呼吸をした。
『上手くいったな…』
僕の身体から濃いケモノ臭が出ているのを感じる。これが暗示作用のあるフェロモンだ。
「スンスン…あぁ…クサイ…」
『あんまり嗅いでいると、また興奮してしまうから気をつけて』
フェロモンには暗示作用だけでなく興奮作用もあるらしく、本人であっても嗅ぎすぎると興奮してしまう。
「わ、わかってるよ…スン…」
『ならいい、そろそろ学校に行く時間だろう?急がなくていいのか?』
「まだ時間ある…ってやば…のんびりしすぎた!」
獣化のせいで時間ギリギリになっていた。僕はあわてて鞄を背負うとケモノの姿で家を飛び出した。
…
俺の名前は馬場イツク、宅配のアルバイトをしている。
今日もスマホの地図を頼りに自転車を漕いで宅配をしていた。そんな僕だが最近気になることがある。
ピロリン♪
宅配の通知がきた。…例の住所からだ…。
「宅配内容は…ステーキハウス 肉無双の…200g牛レアステーキ15皿!?昨日よりも量が増えてる…」
それは5日前くらいのこと、真夜中に宅配をしていたときにその通知はきた。
ピロリン♪
「おっ依頼の通知だ…」
通知を開くとそこにはこう書かれていた。
「ステーキハウス肉無双、ミックスグリル300gを5皿…すごい量だな…この時間から晩御飯ってことは…学生さんが夜に集まって遊んでるとかかな?」
俺はお店からステーキを受け取るとその住所まで配達した。その住所にたどり着くと小さなマンションだった。
外観から配達先の部屋の窓を見るが電気がついていない。
「あれ…?静かだなぁ…もっとワイワイやってるのかと思ったけど…」
俺は不思議に思いつつもステーキを玄関のドアノブにかけた。
「注文忘れて寝ちゃったのかな?」
そんなことを思いながらその日の配達は終わった。
そして次の日、俺は今日も宅配をしていた。すると、またあの住所から宅配の依頼がきた。
「あ、またあの家だ。今日は…ステーキ…8皿。」
少し違和感を感じたが、俺はまたその住所にステーキを届けた。だが、昨日と同じで部屋電気はついていない。
「やっぱり静かだなぁ…人がいっぱいいるようには思えないけど…」
次の日、俺は今日も宅配をしていた。
「今日は疲れたなぁ、そろそろ帰ろうかな…」
連日のアルバイトで疲れていた俺はここらで切り上げて帰宅しようか迷っていた。
ピロリン♪
「あ、通知来た…でも疲れたし断るかー、」
そう思ってスマホを開くとそこには例の住所が書かれていた。
「え、まじかよ…ステーキ…10皿!?」
それを見たときさすがの俺も気味が悪いと感じた。それと同時にこんな注文する人がどんな人間なのか…気になってしまった。
「い、行くか。宅配…」
お店に着き、大量のステーキを受け取ると例の住所に向かった。今日も電気はついていない。
俺は昨日と同じようにドアノブにステーキの入った袋をかけ、その場を後にしようとした。すると、扉の中から小さな音が聞こえた。
『グルル…』
それは動物が苦しそうに唸っている声のように聞こえた。
「なんの音だろ…」
俺は気になって聞き耳を立てようとすると、その音はパタリと止んでしまった。
そして、次の日…。
宅配の通知がきた。やはり例の住所からだった。
「今日は…宅配内容は…ステーキハウス 肉無双の…200g牛レアステーキ15皿!?昨日よりも量が増えてる…」
首の後ろをくすぐられるような、気味の悪さを感じた。少し怖かったが、依頼を受けることにした。
俺はステーキハウス肉無双で山盛りのステーキを受け取る。すると、店員が声をかけてきた。
「ははは、ここのところ毎日大変ですね!」
店員は笑いながらステーキが15皿も入った袋をカウンターに置いた。
「ほんとですよ~、毎日同じ人がステーキ注文してるっぽくて~」
客の情報を話すのは宅配業者としてどうかとも思ったが、その時は話さずにはいられなかった。
「え、まじすか?もしかして…あの人かな…」
「あの人?」
「いやねぇ、この前マスクをしてボウシを深く被った男性の方がひとりで来店されて、ステーキを5皿注文されたんです。そしたら大きな口を開けて、ものの5分くらいでペロリと平らげてしまって…、ホールのスタッフ全員びっくりしちゃいました。だって一枚200gのお肉を5枚ですよ~?」
「そんな肉食動物じゃあるまいし…あり得ないですよ」
「私だって最初は手品かなにかだと思いましたよ~でも次の日もその男はうちにきて、同じ量のお肉を食べて帰って行きましたよ。なんだか、落ち着かない様子で、食べ終わると走って帰って行きましたけど」
「そうなんですね…」
「あ、長話してごめんなさい…宅配お願いしますね」
「はい、では…」
俺は大量のステーキを自転車のカゴに入れると、例の住所に向かった。
「もしさっきの話が本当で、その男があの家に住んでいるのなら…ひとりでこれだけの量を食べてるってことか…」
例の住所につくと俺はドアノブの下に大量のステーキが入った袋を置いた。いつもなら置き配をしてすぐに帰るのだが、男の正体が気になってしまった。
「顔を見るだけ…」
俺はわざと扉が開いたときに扉の裏側に袋がくるように荷物を動かすと、階段の影から男が出てくるのを待った。
「さっき置き配の通知は送ったし、そろそろ出てくるはず…」
その時だった。電気のついていない部屋から、鍵が開く音が聞こえた。そしてゆっくりと扉が開く。
数十センチほど扉が開くとなぜかそれ以上扉は開かなかった。
「…あれ、なんで出てこないんだ…?」
不思議に思っていると、扉の内側の暗闇から何かがギラリと光った。俺は咄嗟に扉の影に隠れた。その光が俺の方を見つめているように感じたからだ。
(な、なんだ…あれ…もしかして…見てるがバレたか?)
その時、扉から何者かが出てくるのが音でわかった。
(まずい!こっちにくる!?)
俺は影に隠れ、息を止めた。
(くるな…!くるな!くるな!)
こちらに向かってくる足音は聞こえなかった。その代わりにステーキの袋を漁る音が聞こえた。
(ステーキを回収してる…?)
俺は急いで階段の影から顔を覗かせ、扉の方を見た。
すると扉を閉めようとする手が見えた。その手はなんと毛むくじゃらだった。
「…ヒッ!?」
びっくりした俺は思わず声を出してしまう。
(しまった!まだ扉は閉まってない…聞かれてしまった!)
毛むくじゃらの手の人物は俺の声に気づいたようで、動きを止めた。
(まずい!まずいまずいまずい!)
俺は回れ右をして勢い良く階段をかけ降りた。下に置いていた自転車に股がるとそのまま一心不乱に漕いだ。とにかく一刻も早くこの場から離れなければ…。
その日から夜の宅配を辞めた。
「あの毛むくじゃらの手は何だったんだろう…たしか表札はサイトウ…。いや、考えるのはよそう…」