狐になった男は人間社会で生きていけるか

  僕の名前は「奥田コウタ」、あだ名は「おっくん」。

  小柄でよく子供と間違えられるが一応大学生だ。

  昔から運動が苦手で引っ込み思案なところもあり目立つような生徒ではないが、大学でもなんとか友達を作ることができ楽しく学生生活を送っている。

  今日は友達の「貫多タケシ」と一緒に自習室で勉強をしていた。

  「おっくんさ、狼の噂しってる?」

  「狼?」

  「そう、最近町中で噂になってるんだけど、夜な夜な狼の遠吠えが聞こえるらしいんだ。」

  「日本に狼がいるわけないじゃん。野犬かなにかじゃないの?」

  「俺もそう思ってたんだけど、俺の知り合いが、家の屋根から屋根を走り抜ける狼みたいな大きな影を見たらしいんだ。しかもひとりじゃない。何人も目撃者がいる。」

  「大きいって、どのくらい?」

  「それが、軽自動車くらいの巨体らしくて、四つ足で壁とかもよじ登っていくらしいんだ。」

  「なにそれ、怖い…」

  「だろ」

  「もしかしたら野生の熊とかかも」

  「熊にしろ狼にしろ、夜中に出会ったら最悪だよな。おっくんは太ってるし走るの遅いからすぐ食べられちゃうな。ハハ」

  「はぁ~言ったな!俺だってやる時はやるんだ!タケシだって襲われるかもしれないだろ!」

  「へへ、俺はお前と違ってジムに通って鍛えてるから!ほら」

  タケシは自慢げに鍛えられた腹筋見せびらかした。

  キーンコーン

  自習室の19時を知らせるチャイムがなった。

  「あ、俺バイトだったわ!悪いおっくん先帰る!」

  「スーパーのバイトだっけ?」

  「バイトが1人休んでて、そのシフト代わりにでてるんだよ」

  「大変だね、じゃあ頑張って!」

  「おう!」

  タケシは急いで荷物をまとめると自習室を出ていった。

  「僕はもうちょっと勉強してから帰ろうかな」

  僕は部屋に誰もいないことを確認すると、鞄からお菓子の袋を出した。タケシがいると「お菓子なんか食べてると太るぞ」と叱られてしまうので、こっそり食べている。

  「頭使うとお腹すくもんねー、仕方ない仕方ない」

  そう自分に言い聞かせながらお菓子をむさぼった。

  タケシが帰ってから2時間が経ち、家に帰ることにした。

  その日は外に出ると大きな満月が空に浮かんでいた。

  帰り道、僕は家にお菓子のストックが無いことを思い出した。お菓子が無いのは大問題だ、僕は帰り道から逸れて近くのコンビニに向かった。

  コンビニでひとしきり買い物し、外に出ると町のどこかから動物の吠えるような声が聞こえた。

  「なんだろ」

  足を止めて耳を澄ましてみる。

  …オーン

  …アオーン

  「遠吠えだ…」

  その音はまさに狼の遠吠えだった。

  しかもその音は次第にこちらに近づいてくる。

  アオーン…

  アオーーン…

  音はすぐそこまで来ていた。

  「こ、怖い…逃げなきゃ」

  その時だった。僕の頭上を大きな大きな黒い影が駆け抜けていった。

  アオーン!!

  「わぁっ!?」

  僕は驚いて尻餅をつく。一瞬しか見えなかったがその大きな影は狼のような形をしていた。

  「…ほ、本当だったんだ…」

  しかもその影は僕の家の方へと向かっていった。

  「こ、怖い…なんなんだ…あの生き物…」

  家に逃げ帰りたいが、影が家の方向に向かっていっては怖くて帰れない。僕はしばらく考えて、タケシの家に向かうことにした。

  「あいつなら泊めてくれるはず…」

  僕は帰り道から外れ、タケシの家に向かった。

  スマホで地図を見ながら何となくタケシの家の方向に進んでいたが、気がつくと知らない道に入ってしまっていた。

  「あれ、ここどこだろ…」

  スマホで確認してもここがどこだかよくわからない。タケシに連絡をとってみるが、バイト中らしく連絡がつかない。

  「どうしよう…迷った…」

  僕はとりあえず進んでみることにした。しばらくまっすぐ進んでいると鳥居が見えた。

  「あれは…神社かな?目印になりそう」

  僕は鳥居の前に立ちマップを見ようとスマホの電源ボタンを押した。

  「あれ、つかない…」

  不運なことにスマホのバッテリーが切れてしまったようだ。

  「最悪だ…」

  何とかならないかと考え込んでいると、再びあの声が聞こえてきた。

  …オーン

  …アオーン

  あの影がこちらに向かってきていたのだ。

  「ど、どうしよう…隠れなきゃ!」

  僕は鳥居をくぐり神社の敷地に入ると木陰に隠れた。

  アオーン!

  アオーン!!

  影がどんどん近づいてくる。

  ドス…ドス…

  重たい足音がすぐ近くで聞こえる。僕は息を殺しうずくまった。

  (やばい…)

  スンスン…

  鼻を鳴らすような音が聞こえる。

  (もしかしてニオイでバレた?)

  パキッパキッ

  すぐ後ろで枝が折れる音が聞こえる。

  (もうダメだ…!)

  その時だった。

  「グルルルル…この辺だと思ったんだけどな…」

  獣の唸り声が突然人間の言葉を発した。

  「ニオイはするが…スンスン…くそ…見当たらねぇ!」

  獣は何かを探しているようだった。すると獣の声が突然別人の声のようになった。

  『スバルゥ…今日はもう諦めよう…もう…限界…』

  「わかってる!でも…早く見つけねぇと…グルル…非活性状態のスウツのニオイがこんなに薄いなんて…アオーン!!」

  『近くにあるはず、明日には見つかるよ!』

  「獣にならないと同族のニオイがわからないなんて…不便すぎるぜ…グルル…」

  まるで1人2役の芝居を見ているようだった。獣が大きく息を吐くと辺りが濃い獣臭に包まれた。

  『早く戻ろう…そろそろ…暴走しちゃう』

  「…グルル…ムラムラが抑えられなくなってきた…帰るぞ!」

  獣は大きく息を吐くと大きくジャンプし何処かへと走り去って行った。

  「た、助かった…」

  獣がいる間生きた心地がしなかった。僕は震える身体を何とか起こし立ち上がった。

  「あの獣…人間みたいだった。今の話…なにを探してるんだ?それに同族のニオイって…」

  「一旦帰ったほういいな…もと来た道はどこだっけ…」

  来た道に戻ろうと足を踏み出した時だった。暗くて足元が見えなかったからか、僕は木の根に足を引っ掻けて転んでしまった。しかも転んだ先は崖になっていて、僕の身体は2.3mしたの低木に落ちてしまった。

  「うわぁああ!?」

  低木がクッションになり怪我はなかったが、崖上を見るとかなりの高さがあり自力で上るのは難しい。辺りを見ても木々で覆われおり、人道らしいものはなかった。

  「ど、どうしよ!帰れないよ…!」

  焦りが募り始める。僕は満月の明かりを頼りに辺りを見回してみる。すると、月明かりに照らされてキラリと光る何かが目に留まった。

  「あれ、あれなんだろ」

  光る何かに近づいてみるとそれは動物の毛皮のようだった。

  「きれいな毛だなぁ…」

  僕は何となくその毛皮を手に取った。その毛皮を引っ張ると地面に埋もれていた部分が露になった。

  「これ、着ぐるみ?」

  それは着ぐるみだった。モフモフの毛皮で作られたそれは大きな尻尾がついていて、頭部には狐のかわいらしい被り物がついていた。

  「狐の着ぐるみ?なんでこんなものがここに…?」

  着ぐるみの背中にはファスナーらしきものがあり、開いてみると内側はゴムのような素材でできていた。

  「誰が捨てたんだろ…」

  僕がその着ぐるみの内側に触れたその瞬間だった。

  『ミツケタ…』

  確かに着ぐるみから声が聞こえた。

  「えっ…」

  『ドウカ…カイシ…』

  その瞬間、くたびれていた着ぐるみが突然生きた魚のようにビクンと動くと背中のファスナーが一気に開き、マントのように広がった。

  「なんだっ!?」

  すると広がった着ぐるみは僕に覆い被さるようにまとわりついてきた。

  「んんん!?」

  驚いた僕は必死に布を掴み引き剥がそうとする。しかし、着ぐるみは口を閉じるように俺にまとわりつくと、僕の身体を締め上げるように徐々に縮んでいった。

  (なんだこれ!息ができない!!)

  僕は顔の胸の毛皮を掴むと両手で引き裂くように引っ張った。しかし、毛皮はやわらかいゴムのように伸びるだけだった。

  (どんどん着ぐるみが密着していく!!)

  「んんんんん!!!」

  すると突然着ぐるみの中が粘性のある液体のようにドロドロになった。

  (服の中に染みてくる!冷たい!パンツの中にまで入ってきた!!)

  ドロドロが僕の身体に触れるとそこから身体の中にそのドロドロが染みてくるような感じがした。ドロドロが僕の体の中に侵入すると、身体がビリビリとした未知の感覚に支配された。

  (い、いやだ!!入ってくるな!!きもちわるい!んあああ!!)

  ビリビリで全身が強制的に快感を感じさせられていた。僕の身体は快感にブルブルと震えてしまう。

  「んんんんんんん!!!!」

  それでもドロドロの侵入は止まらない、僕の穴という穴にドロドロが意思をもって侵入してくる。

  口や鼻の穴、それだけでなく、耳やお尻、それからおしっこが出るからもドロドロは侵入してくる。

  (いやだ!もうビリビリしたくない!!やめろおおおおお!!イクゥウウウ!!)

  ビュルルルルル!!

  ものの数秒で僕の身体は着ぐるみの快感に敗北してしまった。着ぐるみの中に吐き出された精液は着ぐるみと溶け合い一体化していった。

  『ディーエヌエー…カイセキ……テキゴウ…』

  (なんなんだこの着ぐるみ!?だれか助けてぇ)

  僕は再び着ぐるみを引き剥がそうとする。すると着ぐるみに触れているはずなのに、肌を触っているような感覚が頭に流れ込んだ。

  「あれ!?なにこれ!?」

  構わず、僕はさっきの要領で着ぐるみを掴むと思いっきり引っ張る。僕の胸の毛皮がギチギチと音を立てて伸びるように引き裂かれた。

  「んんんん!?い、痛だだだ!!」

  引きちぎっていたのは着ぐるみだったはずなのに、痛みが全身に駆け抜けた。慌てて手を離すと、胸の毛皮は元の状態に戻った。

  すると、頭の中で声が聞こえた。

  『ジュウカ…カイシ』

  「だれだ…!?」

  その瞬間だった。身体の中に染み込んだ何かが、僕の身体を支配した。

  「…!?グアアアアア!!?」

  僕の身体がドクンと内側から膨らむと、全身に激痛が走った。

  「なん…だ…コレ…」

  全身から冷や汗が吹き出す。これがまずいことは本能的にわかった。

  「い、いやだ!いやだああああ!!」

  僕はこれから起きる恐ろしいことから逃げるために再び着ぐるみを掴むと必死に引きちぎろうとする。

  「脱げろ脱げろ!脱げろ!ヌゲロ!!」

  全身が熱を帯びてきた。それはもう始まろうとしていた。

  「破けろ!破けろ!い、いやだ!いやだ!!」

  両手を広げ必死に着ぐるみを引っ張ったが間に合わなかった。ドクンと大きく心臓が鼓動したかと思えば、全身に激痛が走った。

  「グ…グアアアアアアアア!!!」

  引き裂かれていた毛皮から見えていた僕の胸部がボコンと膨らんだかと思えば、胸の毛皮がビリビリと裂けていった。

  それを合図に連鎖的に僕の身体は変化を始める。背中からゴキゴキと骨が折れるような音がなると僕の上半身は伸び始めた。

  「イタイ!イタイヨオオ!!」

  痛みで口を開くと僕の口は動物のみたいに横に裂けて、前に伸びてしまった。

  「グアアアアアアアア!!オシリガ!!アツイ!!」

  着ぐるみの内側で僕のお尻が熱を帯びて僕の身体から飛び出そうとしているようだ。

  (ダメだ…これを出したら…僕が僕でなくなる…)

  身体の火照りと共に着ぐるみの内側が溶けだしてきた。僕の皮膚と着ぐるみが溶け合いと僕の体は着ぐるみの形に合うように内側から引っ張られていった。

  「イ、イタイ…顔ガァ!アツい!!トケル!!」

  狐の被り物の内側が僕の顔に溶け合うと、僕の顔は前に前に引っ張られた。その感覚は頭から徐々に首から下に伝わっていく。

  (止まらない…!全身が作り替えられていく…!)

  全身の皮膚が着ぐるみと合わさり、着ぐるみの皮になっていった。全身の骨格は着ぐるみに引っ張られるように引き伸ばしされていく。いつの間にか僕の太っていた胴は細長く引き締まっていた。手や足は獣の手のように鋭くなっていた。変化が全身に伝わり、僕の変化も最終段階を迎えたようだ。

  さっきから熱を帯びていたお尻が限界を迎えていた。一瞬でも気を緩めると爆発してしまいそうだった。

  僕は、前足と後ろ足で身体を支えると全身のエネルギーを解放するようにお尻を力んだ。

  (これを出したら…本当に…終わっちゃう…い、いやだ!出したくない!も、もう…でちゃうううう)

  「クゥッ…コ、コォオオーン!!」

  その瞬間、ズルズルっと勢いよく僕の身体から尻尾のようなものが生えてきた。尻尾は着ぐるみと一瞬にして同化し太く立派な尻尾を形成した。その刺激は想像を絶するもので、僕はなす術べなく咆哮した。

  (やばい!!イクッいくうううううう!!!)

  「コォーン!コンコォーン!!」

  ビュルルルルル!!

  人間としての最後の射精で、僕のちんちんは着ぐるみと同化するようにメリメリと前に伸び、赤みの濃いピンク色のチンチンへと変わってしまった。

  (頭が…気持ちよすぎて…おかしくなっちゃうううう!!)

  「コォーーン!!」

  最後の咆哮で僕と着ぐるみは完全に同化し、僕の身体をバケモノ変わってしまった。

  『ジュウカ…カンリョウ…』

  僕の頭の中で誰がそう呟いた。

  「ぐ…はぁ…お前は…だれだ…」

  体力の限界を向かえてしまい、僕は意識を手放した。

  …

  『コウタ…』

  誰かが僕を読んでいる。

  「だれ…」

  目をゆっくりと開けるが、そこにはだれもいなかった。

  『私はキュー、強制獣化生態スウツ9号機だ。』

  「キュー?生態スウツ?」

  声はすぐ近くから聞こえるが姿が見えない。

  『私はここだよ』

  どうやら、喋っているのは僕自身のようだ。

  「どういうこと!?」

  『私は君の身体と同化し、君身体を借りて話している。』

  「ドウカ…?」

  『落ち着いて、自分の姿をみるんだ。』

  僕は視線を自分の身体に向ける。そこには黄金色のフワフワがあった。

  「なにこれ…」

  触ってみると想像以上にフワフワしていて気持ちがよかった。

  『君は私と同化して獣になったんだよ』

  「は?どういうこと…」

  『自分の手を見てごらん』

  僕は右手を視線の先に伸ばした。すると目の前にモフモフとした動物の前足が現れた。

  「あれ、これって…あー着ぐるみか!」

  僕は左手で右手の手袋を引っ張ろうとする。

  「あれ、脱げない。痛、あれ、おかしい」

  『当然だ、その手は君の手なんだから?』

  「意味わからないんだけど」

  『すぐそこに水場がある。顔を見てごらん』

  僕は声のいう通りに、水場に向かうと顔を覗き込んだ。

  すると水面に狐の顔が写りこんだ。

  「わっ!?狐!?え、これ僕の顔!?被り物!?」

  前足で狐の耳を掴んで上に引っ張る。

  「痛たた!?」

  僕は唖然とした。慌てて自分の身体を見てみると、金色の毛に包まれており、さらには大きく長い尻尾が嬉しそうに左右に揺れていた。

  「僕、きっ、狐になってるぅぅ!?」

  『君が眠っている間に、君の記憶から人間の言語や文化を学習させてもらった。これからよろしく頼むコウタ。』

  「僕が…狐?嘘…だろ…」

  『現実だ』

  「お、お前キューとかいったな!!僕を人間に戻せ!!」

  『それは不可能だ。生態スウツと同化し1時間以上が経過したニンゲンは、ニンゲンに戻ることは出来ない。』

  地面に落ちていた腕時計を見ると時計の針は0時を指していた。狐になって1時間以上経過してしまっていた。

  「う、うそでしょぉ…」

  僕は落胆し地面に座り込む。

  『君には感謝している。私は生命維持が困難な状態だった。君という適合者がいなければ生命活動が停止していた。』

  「うぅ…人間に戻してよ…」

  『さっきも言ったが、ニンゲンに戻ることは出来ない。』

  「うぅ…」

  『だが、君の遺伝子情報と記憶を元に、一時的に人の姿に変身することはできる。』

  「え!人に戻れるの!?」

  『勘違いするな。元のニンゲンに戻ることは不可能だ。あくまで姿形だけ人になるということだ。』

  「それでもいい、どうしたらいいんだ…?」

  『人間の時の姿を思い浮かべる。ただそれだけだ。』

  「人間の時の姿…やってみる」

  僕は目を閉じて人間だったころの姿を思い浮かべる。

  すると、僕の身体が縮みはじめ、みるみる人間の姿に変わっていった。

  「はぁ…はぁ…で、できた…」

  『感覚を掴むのが早いな。ここまでできる適合者はなかなかいない。』

  「これで人間に…もどっ…もうダメ限界」

  人に戻るのはとても疲れるようで、僕はひと休みしようと考えることを放棄した。

  『ダメだ!今思考を止めたら…』

  その瞬間、僕の身体はとんでもないスピードで獣化を始めてしまった。全身からゴキゴキと骨が鳴り始めた。

  「な、なにこれぇ!?ああっダメ出ちゃう!!コォオオーン!!」

  『あああ!!キモチイイイ!!』

  一度に全身の毛穴から黄金色の毛がブワッ生え、ムズムズしていたお尻からは皮膚を突き破るように、ズルリと尻尾が飛び出した。そして変身の刺激が全身を駆け抜けると僕もキューも鉄砲に撃たれたみたいに身体を震わせ、一気に射精してしまった。

  ビュルル!!ビュッビュルルル!!

  「ンアアアン!!」

  『ぐああああ!!』

  ひとしきり、射精し終えるとやっと身体が動くようになった。

  「…なに…これ…快感が…ヤバすぎる」

  『…この快感は人間が獣になる際には必ずこの快感が発生する。人の神経回路から獣の神経回路に変わる際に、脳に生じるバグだと博士は言っていた。』

  「なんてバグなんだ…。でも何で突然獣に戻ったの?」

  『9号機の私はヒトへの変身維持に必要な思考を補助するシステムが無い。』

  「つまり…どういうこと?」

  『思考負荷がコウタのみにかかるために、ヒトに戻れてもコウタが疲れてしまうと強制的に獣に戻ってしまう。』

  「そ、そんなぁ…」

  『大丈夫だ。私にもうひとつ策がある。』

  …

  次の日、今日は朝から講義があった。

  「おっくん!おはよー」

  タケシがやってきた。僕はモジモジしながらタケシに手を振った。

  「お、おはよ」

  「ん?なんかあったか…?」

  「い、いやなんでもないよ!ほらそろそろ講義始まるよ」

  (バレてないよな…?)

  …

  キューのもうひとつの策。それは…

  「暗示…?」

  『君たちの言葉で言えばそういうことだ。9号機と10号機にのみ備わっている機能で、強い暗示作用のあるフェロモンを出すことができる。これを使えば人間の認識を変えることが可能だ。』

  「認識を変える…」

  『つまり、これを使えば獣の姿を人の姿として認識させることができるんだ。無理に人間に戻ろうとしなくても、獣のまま人間として生活できるということだ。』

  「まるで化狐みたいだ。それでそのフェロモンっていうのはどうすればだせるの?」

  『それは…』

  …

  「おーい?コウタ大丈夫か?」

  「…え?あ!なんでもないよ大丈夫だって!ちょっと寝不足なだけだよ」

  「そうか、無理すんなよ」

  (バレてない…よかった)

  『どうやらバレていないようだな』

  キューがタケシの前で勝手にしゃべり始めた。

  「おい!キュー、勝手ににしゃべるな!」

  「ん?どうしたコウタ?」

  「咳が出ただけだよ!ケホケホ」

  ごまかすように口元を前足で隠す。

  『…上手くフェロモンが効いているようだな…』

  キューはそう小声で話した。

  「…うん…でも恥ずかしいよぉ…」

  『…フェロモンを出すには仕方ないことだ。我慢しろ…』

  「…わかったよ…」

  暗示作用のあるフェロモンは、本来生物が繁殖相手に使用するものらしく、僕の身体は性的興奮時にしかフェロモンは出せないらしい。

  暗示作用のあるフェロモンを振り撒くために、服を脱ぎ常に勃起をさせること、これがキューの提案した獣のまま人間社会で過ごす方法だった。

  「うぅ…講義に集中できないよ…」

  いくら獣の姿であっても、今まで服を着て生きてきた分、裸で人前にいることはとても恥ずかしいことだった。ましてや人前でムラムラさせてるなんて、顔から火が出そうだった。

  『…フェロモンの量が減ってきた…そろそろ…』

  「…もう!?わかったよ…ゆっくりね…」

  フェロモンを維持し続けるのは不可能に近い。そのため、僕らは一時的に人間の姿になり、再び獣化することで、獣化の快感を利用しフェロモンを分泌させるという苦肉の策をとるしかなかった。

  「…いくよ…」

  『わかった…』

  僕は目を瞑り人に戻ると、フェロモンの効果が切れない内に再び獣化する。いくら待ち構えていたとしても、獣化の刺激には僕もキューも耐えることができない。

  覚悟を決めて、頭の中で獣の姿を想像すると、僕の身体はゆっくりと獣に戻っていく。

  僕は机をがっちりと掴み、快感を必死にこらえる。

  あっという間に毛が生え揃い、次は骨格の変化だ。

  骨格の変化は獣毛が生えるのとは違い身体の内側から快感が襲ってくる。

  メキメキッ…ゴキッ

  (んぐぅう…だめだ…我慢できない…でちゃう…イク…!)

  ビュルルル…!

  僕は右前足で精液が飛び散らないように蓋をすると、狐チンポで勢いよく射精した。

  (あと、もう少し…!)

  最後は尻尾だ。尻尾の生える感覚は変身中もっとも快感を伴うため、どうやっても声が漏れてしまう。

  (ゆっくり…ゆっくりだぞぉ…

  そう僕は自分自身に言い聞かせながら、全神経を尻尾に注ぎ、お尻にゆっくりと力を込めていく。

  メリメリッ…メキッ

  「グゥ…フゥ…」

  少しずつ尻尾が生えはじめると、絶え間ない絶頂が全身を支配し始めた。

  「…ンフゥ…フゥ…グルルル…」

  声が出ないように精液のついた両手で無理やりマズルを抑えると、身体を震わせて快感を感じていた。その間も尻尾は生え続ける。精液が飛び散らないように僕は机の下にチンポを擦り付け吐き出し続けた。

  「…グルルル…グッ…フゥ…フゥ…」

  やっと尻尾が生えきり、変身が終えると僕は疲れきって机に伏せた。下半身や床は精液でビチャビチャになっている。

  『…よくやったぞ…』

  「ふぅ…ふぅ…できたよ変身…」

  『全身からフェロモンがかなり出ている…これで1時間はバレないはずだ…』

  「こんなに頑張って1時間だけ…!?」

  『フェロモンは揮発性が高いんだ。仕方がないだろう…机にかけた精液にもフェロモンが含まれているから身体に塗りつけておけ…』

  「わかったよ……」

  僕は渋々吐き出した精液を手で掬うと肩や腹に擦り付けた。

  「うう…気持ち悪い…でもこれで勉強に集中できる…」

  『…一応いっておくが、人の目は騙せてもカメラとかは騙せないからな…気を付けるんだぞ…』

  「うん…」

  「おっくん?大丈夫?」

  僕がそわそわしているのを見て心配したのか、タケシが僕の肩に触れた。

  「だ、大丈夫だよ?」

  (やば、タケシの手に俺の精液が)

  「さっき唸ってたみたいだし、お腹でも痛いんじゃ…」

  「そ、そうそう昨日賞味期限切れのパン食べちゃって…はは…」

  「あんまり無理するなよ」

  「うん、ありがとう…」

  そういうとタケシは僕の肩から手を引いた。

  「ごめん…タケシ」

  『大丈夫だ…精液にはフェロモンが含まれている。暗示が働いているから気づくことはない…』

  タケシは僕の精液のついた手で頬杖をついていた。

  「うぅ…」

  獣になって初めての学校は生きた心地がしなかった。

  これからずっとこんな生活が続くのかと思うと気が滅入ってしまう。

  「なーおっくん、やっぱり何かあったか?」

  廊下でタケシがそう尋ねてきた。

  「なんでもないよ…」

  「うーん、あのさ、変なこというけど…おっくん、なんかかっこよくなった?」

  「えっ!?何も変わってないけど、どうして?」

  「なんでろう、何となくだけど…」

  タケシがそう言うと、キューが小声で話し始めた。

  『暗示に使っているフェロモンは暗示だけじゃなくて周囲の生物を魅了させる力がある。タケシはフェロモンの影響でお前に魅力を感じているんだ。』

  「…僕男だけど…!?」

  『フェロモンは男女関係無く作用するからな…仕方がない』

  すると頬を赤らめてタケシがこう言った。

  「あ、あのさ、この後お前んち行っていいか?」

  「いいけど、なんで?」

  「なんでもいいだろ!?」

  そういうとタケシは俺の前を早足で歩いていった。

  『今タケシの香りがしたが汗から発情時の臭いがした。コウタとツガイになりたいようだ。』

  「え!?ど、どうしよう…」

  突然始まったキューとの生活、この先どうなってしまうのだろうか…、僕は不安でいっぱいだ。

  …

  「グルルル…ウルフ…スウツのニオイがここで途切れてる…」

  昨日の夜、コウタが落ちた崖に一匹の狼がいた。

  『スバル…途切れてるんじゃない。ここでニオイが変わってるんだ!このニオイ…』

  「ま、まさか…スウツが同化したのか!?」

  『そうかも…一足遅かった…』

  「くそ、研究所の手がかりを見つけないと…俺は…」

  『大丈夫だよ…まだ時間はある…新しいニオイも覚えたし、今日は帰ろう。』

  「グルルル…アオーン!!」