牛化牧場3

  「姉さぁ~ん、もう一本ドリンクどぉ? 俺、喉が渇いちゃったぁ~~」

  「んもう、金木(かねき)君は甘え上手なんだからぁ~、それじゃあ、もう1本お願いしようかしら」

  「ありがとう、姉さぁ~ん! ドンペリ1本追加ー!」

  「はい、ドンペリ1本追加ー!」

  ここは都会のホストクラブ。金持ちの女達がイケメンにちやほやされに来る魔性の空間。ここで働くホスト達は、日々客を楽しませ、客の注文を競い合っていた。その中でホスト指名ナンバー2として君臨していたのが、金木である。持ち前の童顔を活かした甘えキャラで、世のお金を持て余す女性から多くの収益を上げていた。

  「ドンペリお持ちしましたー!」

  「それじゃあ、金木君、一気に飲んでいいわよぉ~!」

  「ありがとうございます、姉さん。それじゃあ、お前ら、コールよろしくぅー!」

  「「「はぁー! 一気! 一気! 一気!」」」

  金木はドンペリのビンを逆さに持って、上を向き、口にジャブジャブ流し込む。高級なシャンパンが一気に消えていく。

  「――っはぁー! 美味い! 喉が一気に潤ったぜ。ありがとうございます、姉さん」

  「うふふ、金木君は飲みっぷりもいいわね。好きよぉ~」

  「ありがとうございます! 姉さん!」

  金木の活躍で、この日は100万円の売り上げがあった。

  夜のパラダイスが終わり、朝になった。ホストクラブは営業終了の時間である。

  「ふわあぁ~~、今日は飲み過ぎたなぁ」

  「よぉ、金木。今日も順調だったな!」

  「いやいや、俺なんてまだまだですよ、オーナー。ナンバー1は今夜だけで200万売り上げ出していますからね……」

  「アレは異常だ。お前もそのくらい頑張って欲しいところだが、アレのカリスマ性はたぶん他の奴らには真似できない。参考にはならないだろうな」

  「そうですね……嗚呼、それよりオーナー。俺、今日から1週間の有給取るの、聞いていますよね?」

  「嗚呼。正直言うと、一週間も空けて欲しくはないんだが……またアレか?」

  「察しがいい、そうです! クエストオンライン! 新たなレベル上限とシナリオが追加されちまったんで、またやり込まないといけないんですよ!」

  「まぁ、個人の趣味には口出すことはしないが……もうちょっとマシな趣味はないのか?」

  「いやぁ、学生時代からかれこれ10年近くやっているソシャゲなんで、最早生活の一部になっていますわ」

  「なるほど。それじゃあ、また1週間後に会おう。ちゃんと出勤しろよ。今日はお疲れ様」

  「オーナーもお疲れ様です!」

  ホストクラブのオーナーが去って行くと、今度は同僚の柚木がやって来た。

  「金木、有給取れたみたいだな」

  「おう、柚木、お前は?」

  「オレも取れたぜ。まぁ、オレはお前より遥か下のホストだから休みも取りやすいがな」

  「よっしゃ、それじゃあ、協力プレイできるな。柚木がいないとパーティー的に厳しくなりそうだからな」

  金木と柚木は学生時代からのソシャゲ仲間で、一緒にこの店に入ったのだった。店ではライバル的立場にあるが、柚木はそこそこの売り上げがあればいいと思うタイプだったので、二人は仲の良い関係を築けていた。

  「おう、任せておけ! オレもお前もレベルマックスだったからな」

  「頼もしい。SNS情報だと、レベル上限は+100らしい。1週間でマックスまでいけるか微妙なところだが、集中してやろうぜ!」

  「よっしゃ! あ、そうそう。この前さ、ネットの広告でイイ感じのデリバリーサービスを見付けたんでお前にも紹介しとくよ。返田(かえた)デリバリーってやつ」

  「ネットの広告なんて怪しいのばかりだろ? 見たことないぞ、そんなの」

  「最近始めたらしい。1回試してみたんだが、かなり良いぜ。朝昼夜、指定した時間に料亭で作った弁当持って来てくれるって。めちゃ美味い」

  「ほぉ、料理にうるさいお前がそう言うなら、美味いんだろうな」

  「そうそう。通常なら一食500円の弁当なんだが、一日三食で予約すると1200円って太っ腹。これもう家から出なくていいから、かなりゲームに打ち込める」

  「ふーん、なるほど……それじゃあ、やってみるか」

  「よし、じゃあ、予約サイトを今送るわ」

  柚木は慣れた手付きでスマホを操作し、すぐに金木のスマホに返田デリバリーの予約サイトのリンクを送った。

  「それじゃあ、ネットの中で落ち合おう」

  「了解! 一寝してからだから、今日の夕方頃からかな」

  「オレもそんな感じだと思う。それじゃあ!」

  柚木はそう言って先に店を出て行った。

  「それじゃあ、俺も上がるか」

  金木もパパっと片付けをして店を出た。もう金木の頭の中はソシャゲのことでいっぱいだった。

  「ふあぁぁ~~、よく寝た。今日は結構寝たなぁ。腹も減ったし……柚木に教えてもらったデリバリーを試しに使ってみるか」

  金木はスマホで予約サイトを立ち上げた。

  「へぇー、今時珍しい。弁当1種類しかないのか。しかも日替わりなんだ。弁当の写真あるけど、日替わりで載せている意味あるのか? マジで謎なデリバリーだな。本当に大丈夫か?」

  金木はかなり怪しいと思ったが、柚木を信頼して、早速発注してみた。

  「まぁ、有給はたっぷりあるし、お菓子でも食いながら飯が来るのを待つかな」

  金木は早速パソコンに向かった。

  「あ、ゴミ捨てまだだった。さすがに溜め込み過ぎたな、近付くとちょっと臭う。また1週間、外に出ないかもしれないし、まずはゴミを捨てよう」

  金木はホストをやっているので、身なりはきれいだが、家では結構ズボラで、部屋の中は散らかっていた。職場ではちゃんとしているが、家ではちゃんとしていないタイプだ。

  金木はゴミ袋を持って家の外に出る。金木は彼女を作っていないものの、既に一軒家を購入していた。

  ゴミ出ししていると、見慣れない車が家の前に止まった。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました! 金木さんっすか?」

  いかにも配達業者という服を着た、若くてチャラい感じの男が迷うことなく一直線に金木に向かって来た。

  「お、俺ですけど……」

  「はい、これ弁当っす。じゃあ!」

  金木が気圧されていると、チャラい感じの男は素っ気なく金木に弁当を手渡し、すぐに車に乗って去って行った。

  「何だったんだ……」

  金木の手には弁当の袋。しかし、よく考えてみたらいろいろおかしい。まだ注文してから5分ほどしか経っていない。作り置きしていた可能性、近場だった可能性はあるが、普通に考えると届くのが早過ぎる。

  「うーむ、変なもんじゃないだろうなぁ……」

  金木はいろいろ不審な点を疑いながら家の中に戻った。

  チャラい感じの男から渡された弁当。金木はどうしようか考えあぐねていたが、袋から出してみると、結構美味しそうなニオイがした。蓋を取ってみる。

  「あ、意外に美味そう……」

  ハンバーグの弁当だった。弁当を見るとお腹が空いてきた。

  「金払ったのは俺だし、ちょっと食べてみるか」

  金木はハンバーグを少し食べてみた。

  「は? 何これ美味すぎないか?」

  一口目で分かった。この弁当は間違いなく美味い。金木は最初の一口で警戒心を解き、夢中になって弁当を平らげた。

  「これは……美味かったな。いいな、このデリバリー……」

  弁当の美味さに久々に感動し、改めてサイトを見てみた。

  「あれ? まとめ買いのボタンなんてさっきあったか?」

  さっきは流し見しかしていなかったので、うろ覚えだった。

  「まぁいいや。せっかくだし、1週間分まとめて頼むか。割引効いてそれなりに安くなっているし」

  金木は1週間分をまとめて注文した。これでお腹が空いたタイミングでデリバリーが届くので、家から出る必要がない。ソシャゲに打ち込めるということだ。

  「よーし、やるぞー!」

  金木はヘッドマウントディスプレイを頭に装着し、パソコンに向かい合った。

  『お、柚木はもうログインしていたか。おーい!』

  金木は先にゲームを始めていた柚木に呼び掛けた。ゲーム内では普通に口でしゃべって会話できる。二人ともキャラの名前を考えるのが面倒だったので、苗字でプレイしている。

  『あ! 金木か。どうだ? あのデリバリー弁当食ってみたか?』

  『今食ったよ。お前よくあんなの見付けたな。あれは当たりだぞ! めちゃ美味い』

  『だろ? オレもさっき食ったわ』

  『腹ごしらえは十分だな。それじゃあ、早速新しいクエストに行こうぜ』

  『おう!』

  二人はファンタジーな世界に没頭した。

  真夜中になり、お腹が空いてきた。

  「そろそろ腹が減ってきたな……」

  時刻はそろそろ夜中の12時になる。

  「そう言えば、12時に注文入れたけど、デリバリーはちゃんと来るかな? 24時間営業かどうかちゃんと確認していなかったな……」

  ピンポーン、ピンポーン。

  玄関のチャイムが鳴った。金木はゲームを一時離脱し、急いで玄関に行く。すると、チャラい感じの男が立っていた。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  「お、ちゃんと来た。ありがたい」

  チャラい感じの男は弁当を金木に渡すと、すぐに車に乗って走り去って行った。

  「相変わらず素気ないな……まぁいいや、今度の弁当は何かな?」

  開けてみると、寿司だった。

  「おお、なかなか良いチョイス! 早速食べよう」

  金木は弁当を食べ始めた。

  「うめぇ! なんだこの魚? マグロ? マグロの良い奴は今まで散々食ってきたが……その中でもこれは一二を争う美味さだぞ!!」

  金木は夢中になって弁当を食べた。

  「ふぅ……あのデリバリー、24時間営業なんだろうな。助かるわ。この時間だとスーパーとか開いてないし。日替わりでさらに三食変えてくれるなら飽きないな」

  金木はデリバリーに満足していた。

  「さて、続きを始めますか」

  金木はゲームの中に戻った。

  『よぅ、金木、デリバリー食ってただろ?』

  『は? 何で分かった?』

  『環境音聞こえてきたぞw あの配達員の声や口調は独特だからすぐ分かる』

  『なるほどな。その感じだと、柚木のところも同じ配達員が行っているのか?』

  『そうみたいだな』

  柚木の家は金木の家からそれなりに離れていたはずだ。あの配達員も大変だなと金木は思った。

  『そう言えば、まだレベルは2くらいしか上がってないな』

  『まあ、経験値は簡単に溜まるようにはなっていないからな』

  『根気よくモンスター狩っていくか!』

  『そうだな』

  金木は柚木と共に、レベル上げを続けた。

  「ん~~~! あ、朝日が昇って来た。もうそんな時間か……そろそろ朝飯がデリバリーで来る頃だな」

  ピンポーン、ピンポーン。

  「お、来た来た。こんな早朝に届けてくれるだなんて、やっぱり24時間営業のところなんだな」

  金木は玄関のドアを開けた。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  このフレーズ、夜にも聞いたな。金田はそう思ったが、チャラい感じの男は忙しいのか、金木に弁当を渡すとすぐに車に乗って去って行った。

  「今度の弁当は何だろうな」

  金木はすぐに家の中に入り、弁当の蓋を開けた。

  「お! ステーキか! いいねいいね!」

  早速ステーキを一口頂く。

  「嗚呼、ヤバい、めちゃ美味い……すごい柔らかい上に、しっかり効いたソースの味。最高だな。あと3時間くらいプレイしたら寝て、夕方に起きたらまた弁当が来る」

  返田デリバリーは金木の休暇の楽しみの一つになっていた。

  『柚木、朝はもう食べたか?』

  『おう、さっき食べたぜ。デリバリーはステーキだったな』

  『お、それじゃ俺んとこと同じメニューだな』

  『まあ、そうだろうな。人によって弁当の中身を変えていたら大変だろう?』

  『嗚呼、そうだな』

  柚木も金木と同じようなタイミングで朝ご飯を食べたらしい。柚木の家はそんなに近かったか?と一瞬思ったが、モンスターに攻撃されたので、金木は慌てて防御した。

  『それじゃあ、今日はこんくらいで落ちるわ』

  『おう。レベルも5上がれば十分だろう。オレも落ちるかな。それじゃあ、また明日……じゃなくて今日の夕方か』

  『そうだなw それじゃあ!』

  金木はゲームの世界からログアウトした。

  二日目。

  夕方になり、金木は起床した。

  「んあ~~~~っと、よく寝た。お、良いタイミングに目が覚めたなぁ。すぐに弁当が来そうだ」

  ピンポーン、ピンポーン。

  「お、来た来た」

  金田は玄関を開けた。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  チャラい感じの男は金木に弁当を渡し、今日もすぐに車に乗って去って行った。

  「よーし、一日の始まりはどんな弁当かな~?」

  金木はもうチャラい感じの男の態度についてはどうでもよくなっていた。すぐに家の中に戻り、ウキウキ気分で弁当の蓋を開けた。

  「あー、肉が減って野菜が増えたな。まあ、バランスよく食べないとな……」

  昨日、肉類が美味しかっただけに、野菜が増えて少しがっかりした。

  「ん? 変わった色のドレッシングだな」

  ドレッシングは緑色だった。早速、ドレッシングを掛けてサラダを食べてみる。

  「何だこのドレッシングの味? 草味が強い……あー、でも、不思議と食べているとクセになってくるな」

  そのドレッシングにミキサーした牧草が混じっていたことは、金木には分からなかった。

  「唐揚げもうめぇ! なんでここの弁当は安いのにこんな美味いんだ?」

  金木があっという間に弁当を平らげた。

  「それじゃあ、クエスト始めるかー!」

  金木はゲームの世界にログインした。

  『お、柚木、今日も早いな』

  『あ、やっと来たか、金木。遅いから先にレベル+2上げてしまったぜ。ははは』

  『あ、ずるいぞ、お前!』

  『ゲームも早く始めたもん勝ちだ』

  『くそぉー! まぁ、いいや。早速、新たなエリアの攻略に行こうぜ』

  『おうよ!』

  二人はモンスター狩りに夢中になった。

  『そろそろ腹減ったなぁ』

  『嗚呼、もうそんな時間か。ちょっと休憩するか』

  『そうだな。それじゃあ、1時間後くらいにまた再開しよう』

  『おう!』

  金木は休憩タイムを提案した。

  「あ、良いタイミングだな。あと10分ほどでデリバリーが来そうだ」

  金木はトイレに行ったり、スマホを見たりしてデリバリーが来るのを待った。

  ピンポーン、ピンポーン。

  「お、来た来た」

  どうもデリバリーの配達員は時間ぴったりに来るらしい。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  「どうも、ご苦労さん」

  金木はチャラい感じの男に労いの言葉を掛けたが、いつものように弁当を渡すとすぐに車に戻って去って行った。

  「よし、今度は何が入っているかなぁ」

  金木はすぐに家の中に入った。

  「あ、野菜が増えてる。もしかして今日はこういうシリーズなのかな? また緑のドレッシング入っているし……」

  少し不満に思いつつも、金木は弁当を食べ始める。

  「あれ? さっき食べた時よりドレッシングが美味しく感じるな。気のせいか?」

  食欲が進み、あっという間に弁当を食べ終えた。

  「ふぅ……これも美味かった。ちょっと休憩した感あるし、ゲームに戻るか」

  金木はゲームの世界にログインした。

  『あっ! 柚木、先に始めていたな?』

  『お、戻ってきたか、金木。休憩ちょっとしたらすぐに戻ったわw』

  『抜け駆けは許さないぞ』

  『ふふふ。この世界ではプレイ時間が何よりも強さに匹敵するのだよ』

  『確かにそうだな……まぁいいや。さっきの攻略しかけのところの続きといこうか』

  『おうよ!』

  金木は柚木との協力プレイを再開した。

  ヴゥゥゥー、ヴゥゥゥー。

  ゲームのプレイ途中、金木のスマホが震えた。

  『ちょっとスマホが震えているから見るわ。お得意様かもしれないから』

  『分かった。こいつはオレが倒しておく』

  金木はゲームを中断してスマホを見た。メールの相手は、先日金木にドンペリを飲ませた女社長だった。

  〝今日は金木君、休みだったのね。てっきり出勤しているものと思って店に来ちゃったわ〟

  金木はすぐに返事を返した。

  〝誰かと思ったらミキさんじゃないですか! こんばんわ。そうなんですよ~。一週間休みをもらっているので、来週まで出勤しません〟

  金木が返事を返すと、ミキからすぐに返事が返ってきた。

  〝とても残念だわ~。それじゃあ、せめて元気な顔写真だけでも送ってよ。金木君の顔を見ないと、アタシ元気が出ないわ~〟

  スマホで個人的なやり取りをするのもホストで人気をキープする秘訣だ。過激でなければ、お客の要望に応えるも重要だ。金木はその場で自撮りし、ミキに写真を送った。

  〝まあ、本当にプライベートなのね! ゆるい服もいつもと違って新鮮だわ。ありがと~~!〟

  ミキは空気を読んだのか、それから返事は返って来なくなった。

  「大丈夫かな? それじゃあ、ゲームに戻るか」

  『ミキさんからだった』

  『嗚呼、ミキさんか。あの人は金木にお熱だなw』

  『おいおい、よしてくれよ。仕事だから相手をしているが、俺のタイプじゃない』

  『ほぉ、お前のタイプってどんなだ?』

  『それは……もっとぽっちゃりしている子かな』

  『おお、金木はぽちゃ専だったかww』

  『笑うな、笑うな。そういう柚木はどうなんだよ? お前もカノジョいないだろ?』

  『うっ、痛いとこ突くな。オレは……ぽっちゃりしている子かな』

  『なんだよ、お前もかよww』

  二人は恋バナに盛り上がり、モンスターを倒しながら、お互いの恋愛観を語り合った。

  『よっしゃー! レベルアップ! 次のエリアに行けそうだな』

  『順調順調! このペースだとアップデート分は休暇中にクリアできそうだな』

  ピンポーン、ピンポーン。

  『あ、チャイムが鳴った……ってもう朝か。カーテン閉めてたから日が昇ってたの気付かなかったわ』

  『どうせデリバリーだろ? 早く受け取ってやれよ』

  『嗚呼、そうだな。ちょっと席を外す』

  金木は急いで玄関に向かった。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  金木はチャラい感じの男から弁当を受け取った。チャラい感じの男はいつものように急いで車に戻っていったが、去り際に金木の体を見定めるようにチラッとこちらを見た。

  「? なんだったんだ今の目線? そんな変な格好はしていないはずだが……」

  金木はホストであるが故に、他人の行動の変化に敏感だが、配達員の行動の変化が何を意味していたのかまでは分からなかった。

  「まあいいや、飯飯~」

  金木はすぐに家の中に入った。

  『ちょっと飯食っていい?』

  『おう、それじゃあ、休憩にするか。オレのとこにももうすぐデリバリー来るだろうし』

  『よし、それじゃあ、30分後くらいに』

  『ラジャー!』

  金木はパソコンから離れ、弁当の蓋を取った。

  「おぉぅ、この緑のドレッシング、丸一日付いていたな。変わった味だけど、だんだんクセになる……マジで何の味だろう?」

  謎のドレッシングの味を不思議に思いつつも、サラダに掛けて食べる。

  「うん。美味い。このデリバリー、店先に呼んでもいいなぁ」

  金木は弁当をきれいに平らげた。

  「よし、眠たくなるまでゲームをするか!」

  金木はゲームの世界に戻った。

  「あ、柚木はまだ帰って来ていないな。それじゃあ、ちょっと自分のレベル上げておくか。アイツの方がちょっと高いし」

  柚木は適当にレベル上げを始めた。

  『おー、すまんすまん。オレも弁当届いたから食べてたわ』

  『今日の弁当、妙な味がする緑のドレッシング付いてなかったか?』

  『嗚呼、付いてたな。オレは割と好きな味だけど』

  『まあ、美味いっちゃ美味いんだけど、不思議な味じゃないか?』

  『確かに草味が強かったな』

  『何の味なんだろうな?』

  『さあ、分からん』

  二人で緑のドレッシングについて議論しながら、ゲームの攻略を進めた。

  『ふぁぁああ、眠くなってきたから、オレは先に落ちるわ』

  『了解ー』

  柚木が先にログアウトした。

  「俺はもうちょいやってから寝るかなぁ」

  金木は眠気がありつつも、レベル上げを頑張り、何とか柚木と同じレベルにまで追い付いた。

  「よし、上々だ。それじゃあ、俺も風呂入って寝るかな」

  金木はゲームの世界からログアウトした。

  三日目。

  ピンポーン、ピンポーン。

  「ん……?」

  ピンポーン、ピンポーン。

  チャイムの音で金木は目を覚ました。寝ぼけたまま時計で時間を確認する。デリバリーが来る時間を1時間も過ぎていた。

  「うおぉっ! やべぇっ!?」

  金木は急いで玄関に向かった。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  「すいません。寝てたもんで」

  「問題ないっす。それじゃっ!」

  チャラい感じの男は金木に確実に弁当を渡すと、すぐに車に乗って去って行った。

  「もしかして1時間もずっと待っていたのか……? それは申し訳なかったな……」

  チャラい感じの男は飄々としていたが、金木は申し訳ない気持ちになった。家の中に入り、弁当を開ける。

  「ん??? 肉がほとんどない。野菜だらけじゃないか……もしかして最初だけ美味いの食わせて後はぼったくり系の弁当屋か?」

  金木は申し訳ないと思った気持ちが一気に吹き飛んだ。お腹は空いているので、とりあえず食べる。

  「あれ? 野菜ってこんな美味かったっけ? あー、これならイケる。美味い美味い!」

  金木はもりもり食べた。

  「今日も緑のドレッシング入っていたが、昨日より草味が強くなったような……まあ美味いからいいけど」

  金木は夕食を食べた後、パソコンの椅子に座った。何故か椅子が窮屈に感じる。金木の体に脂肪が付き始めていた。

  「お、今日は柚木より先にログインしたな。それじゃあ、レベル上げに務めるか」

  金木は柚木を待つ間、レベル上げに勤しむことにした。

  20分後、柚木がログインしてきた。

  『あ、今日は金木の方が早かったか』

  『おう、先に始めていたぜ。おかげでお前よりレベルが上になったぞ』

  『うわあぁぁぁっ、マジか抜かされたかぁ……着れる服を探している間に…』

  『何? 柚木、太ったのか?』

  『嗚呼、ちょっと太ったみたいだ。美味いもん食ってゲームして寝てるだけの生活送ってるからな。あはは』

  『確かにな。俺もちょっと太ったみたいだ。オーナーに怒られちまうw』

  『全くだ。よし、今日も新エリアに行くぞ』

  『おう!』

  二人でゲームを進めていく……。

  ヴゥゥゥー、ヴゥゥゥー。

  ゲームに夢中になっていると、金木のスマホが振動した。

  『ちょっとスマホが鳴ってるからストップ』

  『おう、出てこい』

  金木はスマホを手に取った。ミキからメールが来ていた。

  〝今日も寂しくなって連絡しちゃった♡ 今日も金木君の顔を送ってくれないかしら〟

  これを返したら毎日催促される気がする。しかし、ミキはお店の太客なので、無下にはできない。金木はミキの要望通り、自撮りして写真を送った。これで満足してもらえるだろうと思った矢先、思ってもいなかったメールが返って来た。

  〝ちょっと、どうしたの金木君? この写真、冗談よね? 昨日から急激に太り過ぎじゃない? 顔が丸くなっているわよ〟

  まさかそんな太っていたとは。何となく椅子に座るのが窮屈だなとは思っていたが、他人に驚かれるほどとは……これは色んな意味でマズい気がする。

  〝あはは、冗談ですよ、ミキさん。最近流行りの加工アプリ使ったんです。太った姿もかわいいでしょ?〟

  金木はなんとか誤魔化そうとしたメールを返した。

  〝あら~、そうよね。こんなに一日で太るはずないものね。ビックリしちゃったわ。お茶目な金木君も好きよ。それじゃあ〟

  何とか誤魔化せたようだ。ミキはこのやり取りで満足してくれたようだった。

  金木は太ったことにショックを受けながらも、ゲームを再開するうちに、すっかり忘れてしまった。

  ピンポーン、ピンポーン。

  夜中にチャイムが鳴る。デリバリーの時間だ。

  金木はゲームを中断して、玄関に向かった。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  チャラい感じの男は金木に弁当を渡すと、毎回のようにすぐに車に乗って去って行った。

  「飯……どうしようかな」

  弁当を見て、ミキから太ったと言われたことを思い出した。1食くらい抜いてもいいかな……と思ったが、弁当を開けると急激に食べたくなり、あっという間に平らげてしまった。

  「まあ、人間食べないとやってらんないよな!」

  金木は前向きになって、ゲームを再開した。

  ピンポーン、ピンポーン。

  「あ、もうそんな時間か……」

  金木は玄関に向かった。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  いつものように弁当を受け取ると、チャラい感じの男はすぐに車に乗って去って行った。

  金木は家の中に戻り、弁当を開ける。

  「弁当を開けると急激に腹が減るな。ちゃちゃっと食うか」

  金木は野菜だらけの弁当をすぐに平らげた。弁当を食べるごとに体が大きくなっていることに気付いていない。

  ある程度ゲームをプレイした金木は、柚木より先にゲームを離脱して眠りに着いた。

  四日目。

  この日は雨だった。

  「ん……っはぁっ!」

  金木は早めに目覚めた。ぼんやりしつつパソコンに向かう。柚木はまだログインしていなかった。せっかくなので、レベル上げに勤しむ。しかし、何だかゲームが億劫に感じられた。

  ピンポーン、ピンポーン。

  だらだらとレベル上げをしていたら、デリバリーの時間が来た。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  チャラい感じの男はNPCのように毎回同言葉を言ってすぐに車に乗って去って行く。

  「飯食べるかぁ……」

  雨のせいかご飯を食べる気力もやや失せていた。

  袋の中を見ると、いつもの弁当に加え、豆や穀物が入った袋がプラスされていた。弁当の中身はすべて生野菜だった。そのニオイを嗅ぐと、急激に食欲が湧いて、金木はがむしゃらに食べた。

  「袋を追加してくれるとはサービスいいな」

  金木は最早肉が入っていないことに不満は抱かなかった。

  ゲームを再開すると、柚木がログインしていた。

  『お、今日は遅かったじゃないか』

  『嗚呼、何だか気怠い感じだったんでな』

  『あはは。分かる。俺もだ。毎日同じようなゲームしているからかもしれない』

  『確かになぁ、もう4日目だからな』

  『まあ、これは仕事じゃないし、飽きたら止めて、またやる気になったらやろうぜ。今までも面白くなくなった時期が何回かあっただろ?』

  『嗚呼、そうだな』

  二人はゲームに少し飽きた感じがしていたが、とりあえずいつものようにゲームのシナリオを進めた。

  ピンポーン、ピンポーン。

  夜中になり、チャイムの音が鳴る。

  金木が玄関に向かうと、チャラい感じの男がいた。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  チャラい感じの男はいつものようにすぐに車に戻り去って行ったが、車がいつもと違い、トラックの荷台からウシのような鳴き声が聞こえていた。

  「こんなところにウシを連れて来るのか、大変だな」

  金木はなんとなくそう思った。家に戻り、袋から弁当を取り出す。夕食と全く同じメニューだったが、特に何も考えず全部食べ切った。

  『ふぅー、レベルも結構上がったかな?』

  『そうだな、50くらい上がったな。シナリオはまだ半分くらいだけど』

  『ボスが強過ぎるんだよな……アレを攻略しないと先のシナリオに進めない……何回も戦わされるとさすがに飽きてくるな』

  『掲示板見てもまだ効率的な倒し方は見付かっていないようだしな』

  『地道にやるしかないか』

  『そうだな』

  ボス戦で立ち止まっている二人だったが、その後もボスに挑み続けた。

  『よっしゃあああぁあぁー! ようやく倒せた……』

  『嗚呼、大分時間を費やしてしまったが、何とか倒せたな』

  ピンポーン、ピンポーン。

  ボスを倒した良いタイミングでデリバリーが来た。

  金木はすぐに玄関に受け取りに行った。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  玄関を開けると晴れていた。チャラい感じの男はいつもの車に乗り、すぐに去って行った。

  「脳が飯を欲してる。早速食べよう」

  金木は家の中に戻り、袋から弁当を出した。夕食と同じメニューだったが、特に気にならずに美味しく全部食べた。体が結構大きくなり、服が少しキツく感じるようになっていた。

  『それじゃあ、また明日、気分がノったら!』

  『おう、それでいこう!』

  二人は強敵のボスを倒したものの、ゲームをする気力が下がってしまったので、やる気があればプレイするという方針に変えた。

  金木は風呂に入った後、ベッドに入った。ベッドがミシっと悲鳴を上げ始めていたことに金木は気付いていなかった。

  五日目。

  起床した金木は何だか体が重い感じがしていた。

  ピンポーン、ピンポーン。

  いつもの時間に規則正しくデリバリーはやって来る。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  玄関で金木が弁当を受け取ると、チャラい感じの男はすぐに車に乗って去って行った。

  「昨日よりも量が増えているな。これはありがたい……」

  弁当の中身は生野菜。豆や穀物が入った袋に加え、牧草が入った袋も追加されていた。箸で食べるのが面倒臭くなり、金木は手づかみでご飯を食べた。食べていくうちに服がキツくなり、ズボンを脱いだ。Tシャツとトランクス一丁になったが、それでも体のキツさを感じる。今の金木は相撲取りと同じくらいの体形にまで太っていた。

  「はぁ……美味い。この草、あのドレッシングと似た味がするな」

  緑のドレッシングはもう付いていなかった。

  ご飯を食べ終え、パソコンに向かう。椅子に座ると、ミシミシ軋み音が鳴る。もう椅子自体に座ることができず、肘掛けの上に座った。

  『あっ、やっぱり柚木はログインしていないな……』

  昨日、やる気が薄れたと言っていたので、今日は来ないかもしれない。

  金木もやる気は低くなったものの、とりあえずレベル上げを続けてみる。

  「ンモォッ!?」

  すると、メスのウシ型モンスターが現れた。見慣れた敵のはずなのに、今日は異様に艶めかしく感じてしまう。

  「はぁ……はぁ……イイ……」

  メスのウシ型モンスターをじっくり見ていたら攻撃をたくさん受け、あっさり負けてしまった。

  「あー、しまった……魅入ってしまった」

  ゲームは一旦置いておいて、そのままウシの動画やイラストをネット検索してみる。

  「お、おおおっ!」

  彼女にしたいと思ったウシがたくさんいた。興奮した金木はイチモツが勃起した。しかし、その勃起はみるみる間に人間の範疇を超え、巨大化する。トランクスに亀裂が入った。

  「はぁはぁはぁ」

  『何荒い息してるんだよ』

  『柚木!?』

  『ゲーム付けたままだとお前の声、流れっぱなしだぞw』

  『マジか……でもそんなのいいや、お前もこの画像見ろよ』

  金木は柚木に画像を送った。

  『こ、これは!? イイメスウシじゃあねぇか!!』

  『だろ? 俺が今見付けた最高のメスウシだぜ!』

  『これはヤバいな。オレもネットサーフィンしようかな』

  『おう、やれやれ。イイのがあったら共有してくれ!』

  二人でゲームを付けたまま、ネットサーフィンしてメスウシの画像や動画を共有しまくる。

  『ンモォォォォ!!!』

  『ンモォォォォ!!!』

  興奮するとウシの鳴き声になることに二人は気付いていない。

  二人はゲームをほっぽり出して、メスウシの話題で盛り上がった。

  ピンポーン、ピンポーン。

  真夜中にチャイムが鳴る。ご飯の時間だ。

  金木は急いで玄関に向かった。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  チャラい感じの男は金木に弁当を渡すと、すぐに車に乗って去って行った。

  「飯だ飯だ」

  金木は家の中に入るや否や、手づかみで弁当類を食べた。ちょっと物足りなさを感じたが、概ね満足だった。

  ヴゥゥゥー、ヴゥゥゥー。

  ご飯を食べ終わった時、金木のスマホが震えた。

  〝金木君、昨日は急がしくて連絡できなかったけど、今日は少し余裕ができたからメールしてみたわ。今日も金木君の写真送ってくれない? 金木君の顔を見たら、アタシ頑張れるわ!〟

  ミキからのメールだった。面倒くさいと感じたものの、金木はそのまま自撮りし、ミキにメールを返した。

  〝な、ナニコレ!? こんなの金木君じゃない!! 加工アプリはもういいわよ。今の本当の金木君を見せて欲しいわ〟

  ミキから動揺したメールが返って来た。これを見て、金木は返事を返すのが億劫になり、そのまま放置することにした。

  『ふぅ……』

  『どうした、金木?』

  『ミキさんからのメールが来てた。太ってる俺は俺じゃないらしい』

  『あはは! 人間にはこの巨体さの魅力は簡単には伝わらないよ』

  『もういいや、人間には興味ないし』

  『そうだな』

  二人は引き続き、メスウシの画像や動画をネット検索して共有し合った。

  ピンポーン、ピンポーン。

  「嗚呼、もうそんな時間か」

  金木は弁当を受け取りに行った。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  チャラい感じの男は金木に弁当を渡すと、すぐに車に乗って去って行った。

  「飯、飯」

  金木は家に入るまで我慢が出来ず、手で弁当をつかんで食べながら家に入った。

  「うめぇ、うめぇ!」

  食べれば食べるほど体が太っていく。Tシャツを着ているのが苦しくなってきた。脱ごうとしたが、体が太くなり過ぎて上手く脱げず、イライラしながら服を引っ張っていると破れてしまった。もう着る服が無いので上半身裸のままで過ごすことにした。

  「ンモォ~~、風呂入って寝るか」

  声が低くなっていることに金木は気付いていなかった。

  六日目。

  ピンポーン、ピンポーン。

  チャイムの音で金木は起きた。玄関に行くと、チャラい感じの男が立っていた。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  チャラい感じの男は大量の牧草の袋を金木に渡すと、すぐに車に乗って去って行った。

  金木はトランクス一枚で玄関の外に出たが、全く気にならなかった。

  「飯、飯」

  むしゃくしゃ食いながら家の中に入る。家の中で袋を広げ、床に落ちた牧草を四つん這いになってもぐもぐ食べる。

  「うぇっぷ」

  一度に食べ切れないので、数回胃から口に戻し、口から胃に送りという反芻行動を行い、すべての牧草を食べ終えた。体がまた一回り大きくなり、下着まで破れて全裸になった。もう着れるものは何もない。

  「ンモォォー、熱い……」

  金木は体が熱くてたまらなかった。全身から白と黒のまだら模様の産毛が生えてきている。

  「ネット……」

  金木はパソコンの椅子に座ろうとしたが、重みで椅子が壊れてしまった。しかし、そのまま椅子の上に乗ったまま、メスウシの画像や動画を検索して時間を費やした。最早ゲームをやることさえしなくなった。

  ピンポーン、ピンポーン。

  金木は玄関に向かった。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました!」

  チャラい感じの男は金木を上から下まで一瞥すると、車に乗って去って行った。

  「ンモォォー、飯、飯……」

  もらった大量の牧草を床にばらまき、四つん這いの姿勢でもぐもぐ食べる。体重はもう300kgを超え始めていた。

  ヴゥゥゥー、ヴゥゥゥー。

  金木のスマホが震える。ミキからのメールだった。

  〝昨日はごめんなさい。無視しないで。また写真見せてよ、金木君。寂しいわ〟

  ミキが写真を要求するので、金木は仕方なく自撮り写真を送ってあげた。

  〝ちょ、ちょっと。誰このデブ? しかも全裸とかありえないわ!! 一体どうしたの、金子君???〟

  「ンモォォォォ!! 何だよ、このオバさん!! 俺の写真送っただろ? 誰このデブ?じゃねぇよ!!!」

  金木はブチ切れてスマホを壁に向かって思い切り投げた。スマホは煙を吐いて壊れてしまった。

  「ンモォォォォ!! イライラする」

  金木は物に当たり始め、冷蔵庫、箪笥、電灯、机など、イライラを解消するために部屋をあちこち破壊していった。

  イライラが少し収まり、金木が壊れたパソコンの椅子に座ると、柚木が話し掛けて来た。

  『ンモ? どうした、金木?』

  『おお、柚木か。ンモォォ、イライラする。俺の写真が欲しいっていうから写真を送ったらミキの野郎、デブって返してきやがった!!』

  『あはは! 間違いねぇ。オレらはデブだ! しかし、この魅力は人間にはわからんさ。ンモォォォ、しょうがない。極秘動画を送ってやるからこれを見て抜いてろ』

  柚木から送られて来た動画は、メスウシがモォ―モォ―鳴きながら搾乳されている動画だった。

  「はぁはぁ……ンモォォォォ最高じゃねぇか!!!」

  金木のイチモツが一気に勃起し、さらに大きくなった。搾乳の動画がエッチ過ぎて、金木は何度も抜いてしまった。

  「はぁはぁはぁ……モォォダメ……」

  抜き疲れて金木はその場に倒れてしまった。

  ピンポーン、ピンポーン。

  気が付けば、朝ご飯の時間になっていた。

  玄関に向かうと、チャラい感じの男が大量の牧草を抱えて待っていた。

  「ちわーっす。返田デリバリーっす。弁当届けに来ました! ……イイ感じにできあがってきましたね、分かりました」

  「ンモ?」

  何が分かったのか、金木にはよく分からなかったが、チャラい感じの男はスマホでどこかに電話を掛け始めた。

  「返田さんっすか? はい、はい。最終フェーズ入ったんで、はい。牧草と回収の準備よろしくっす」

  電話を掛け終わると、すぐに車に乗り、去って行った。

  金木はもう家の中に入るのが面倒臭くなり、その場に牧草をぶちまけてもぐもぐと食べ始めた。すべて食べ終わると満足して眠たくなり、玄関の前で眠りに着いた。

  七日目。

  金木が目を覚ますと、玄関の周りに大量の牧草と飼料が置かれていた。お腹が空いていたので、必死に食べ始める。もう二足歩行はできず、四つん這い状態で、餌に顔を突っ込んで食べた。体はさらに大きくなり、体重は500kgを超えていた。

  「んま……ンモォ……オォォゥ……」

  金木の頭に角が生えていく。また、お尻の方からは、シッポが伸びていく。

  「もっ、もっ、もっ……げぷぅ……」

  ゲップを吐くと、鼻先と口が少し伸びた。

  すべて一気に食べてはいけないと思い、三分の一程度食べ終えたところで食べることを一旦やめ、眠りに着いた。

  夜中に目を覚ます。お腹が空いたのでまた三分の一、餌を食べた。

  「ンモォォォォー!」

  金木の理性が徐々に薄れていく。声がさらに低くなり、ウシの鳴き声に変わっていく。胴体がまた巨大化し、首が太く長く伸びた。異形の生物と化しているが、既に結界が張られているため、金木の家の前を一般人が通っても気にならない。

  「オッ、ンモォッ」

  金木のイチモツが長く伸び、ウシの形状に変化した。ムラムラした時に、ギリギリ自分の手で握って射精した。

  玄関のドアを体当たりで破壊して家の中に入ると、パソコンの向こうからウシの鳴き声が聞こえた。倒れた冷蔵庫からこぼれていたジュースやお茶で水分を補給した。

  ある程度時間が経ち、朝日が昇ると、またお腹が空き、玄関の周りにある牧草や飼料をすべて食べ尽くした。

  「ンモォ……ォォォー!」

  人としての意識が途切れ、体の変化より先に精神が完全にウシになってしまった。手足の骨格が変わり、指先が徐々に蹄に変わる。

  「ンモォォォォー! ンモォォォォー!」

  体が熱く、鳴き声を上げる。鼻と口先がさらに前方に伸び、完全なマズルとなった。目が正面から横に移動し、瞳が横長になった。髪の毛がはらはらと落ちていき、全身の獣毛が長く伸びた。耳がウシの形状に変わりながら、頭の方へと移動した。最後の急激な変化に金木は荒い呼吸を繰り返したが、しばらくすると落ち着いてきた。

  すると、トラックが家の前に止まった。

  「はーい。初めまして。私、返田牧場のオーナーです。って言っても、もうあなたには人間の言葉は理解できないでしょうけど。えーっと、金木さんですね。表札は……はい、合っていますね。んーっと、まだ人間の細胞が少し残っているようですが、まぁそれはトラックの中で牧草を食べてもらって消しちゃって下さい。

  全く、お客様からはいつも急に無茶ぶりされるので困りますよ。オスのウシ10匹が欲しいだなんて。急に言われても……ね。何に使うかは知りません。私はバイヤーなので。それにしても配達員さんに相談してみてよかったです。配達員さんがデリバリーサービスのアイデアを出し、餌を運んでくれたおかげで、私は牧場の管理や餌作りに専念できました! あ、お友達らしい柚木さんは既にトラックに乗られています。一緒に牧場に向かいましょうね。さあさ、トラックの荷台に入って下さい 」

  返田はそそくさと金木を回収し、結界を解いて、牧場へと向かって行った。

  

  「一体どうなっているんだ……金木はどこへ行った……? ミキ社長から金木の様子がおかしいと連絡が来たから家に向かってみたら……家が荒れ放題じゃないか……」

  昼になり、金木の家を訪れたホストクラブのオーナーは驚愕した。玄関のドアは壊れ、中に入るといろんなものが倒れて散乱していた。獣臭いニオイがあり、パソコンは付けっぱなし。ネットの履歴から、柚木と連絡を取っていたことが分かったが、柚木も行方不明。オーナーが警察に相談しに行こうとしたところで、返田デリバリーと名乗る男から弁当をもらい、それを食べるとどうでもよくなった。

  「ふぅー、危ないところでした。私の監視下以外は第三者が予期せぬ動きをすることがあるので、注意して下さいね」

  「ちぃーっす! 分かりやしたぁー!」