■エピローグ 蜂蜜色の花弁

  あの本が出版されてから、すべてが少しだけ騒がしくなった。

  第二版に続き瞬く間に第三版が決まった。気づけば波のように広がっていく。書店の注文、学者からの問い合わせ、図版の追加依頼。静かだった温室に、外の世界の音が流れ込んできた。

  ティオは、その中心にいるのに、どこかまだ実感が薄いままだった。馬車に揺られて、流れる景色を眺めながら呟く。

  「信じらんないな……本当に、俺、荷台に乗らなくて良いの?」

  その日も、彼は上質なスーツに身を包んでいた。

  以前の服とは違う、きちんと仕立てられた一揃い。肩の線は整い、靴は磨かれ、立っているだけで著者の助手として完璧な姿になっている。

  短く借り揃えた黒髪は、ロウと油でパリッと整っている。

  「大丈夫だ。むしろ、そんな格好で荷台の座っていたら、そのほうが困る」

  馬車の客室で、アルヴェインは隣に並んで座っていた。

  同じく上質なスーツに身を包み、淡く光るブロンド髪が、揺らぎなく一束に整えられている。

  出版社での会議が終わり、卸先の会合を周り、二人が屋敷に帰るのは、じつに七日ぶりになる。

  続く第三版には、付録に『ティオ教本』がつけられる予定だが、早くもそっちの反響も上々だった。

  今まで読み書きは徒弟制で教えられ、それぞれの職務で必要な文字だけを学ぶものだった。しかり、海が広がり世界が変わる時代、教育の文化も変わる潮目を迎えていた。

  誰でも基本的な語学が身につく、汎用的な教本に、世界中が着目していた。

  近々、『ティオ教本』単体での出版も企画されるとのことで、会合や宣伝パーティには、アルヴェインだけでなく、ティオも同行することになった。

  ……ちなみに、いきなり社交場に連れ出されることになり、ティオには付け焼き刃な礼儀作法を徹底的に叩き込まれた。それを一手に引き受けてくれたのが、おっちゃん、もといヴァルタザールさんだったのだが、彼の教育はメチャクチャに厳しかった。アルヴェイン曰く、昔はもっと厳しいヒトだったらしい。

  会合で知ったのだが、ルフラン本家のほうも、アルヴェインのおかげで大盛況だそうだ。

  『子供の教育に、正しく、価値のある剥製を』なんてキャッチコピーを大々的に打ち出し、アルヴェインの兄である立場を最大限に利用している。

  偽物の剥製については、「黎明期の混乱」と称して、しゃあしゃあと切り抜けている。

  こうなると、あの秘密の偽剥製部屋は、両家の間で爆弾に変わった。

  アルヴェインは正しい形に戻して市場に流すと約束しているが、本家としては過去の悪品を揃えられているのだから気が気でない。

  その結果、アルヴェイン邸とルフラン本家は微妙なパワーバランスで成り立つことになる。

  どちらにしても、この先、偽の剥製が増えることは無さそうだ。

  おっちゃんの言ってた、見事な勝利ってのは、このことだったんだ。

  ゆっくりと馬車が止まり、久しぶりの屋敷が見える。

  客室からティオが下り、大きく伸び上がる。

  「ヴァルタザールさん。ただいま戻りました」

  御者、ではなく家令のおっちゃんに、貴族らしい余裕を伺わせる態度で、例を言う。

  「お帰りなさいませ、ティオニドルス様。おっちゃん呼びは止めたのですかな?」

  おっちゃんが両手を軽く広げ、意地悪な返事を返す。

  「意地の悪いことを言わないでくれ、あなたに叩き込まれたんだ」

  「それは、骨を折ったかいがありましたな」

  これは、比喩じゃない。

  「やっぱり……まだ変?」

  「完璧なやりとりでしたな。とはいえ、ここはもう、アルヴェイン邸ではありますまいか」

  バリバリと頭をかいて、ティオは顔に丸い笑みを浮かべる。

  「ただいま。おっちゃん」

  「おかえり、坊ちゃん。アルヴェイン様」

  おっちゃんに迎えられ、二人は屋敷に入った。

  ほんの少し前、手錠の鎖を引っ張られて、この門戸をくぐったのに、今では貴族の立場になって敷居をまたぐ。

  屋敷に入るとき、おっちゃんから「坊ちゃんには女難の相が出ておりますな」と、謎のセリフを言われた。

  ティオを取り巻く環境は、色々と変わった。

  まずは仰々しい立派な偽名が付いた。書類上のティオの名前は、ティオニドルス・ルフラン。地方の遠縁の子を引き取り、学才があるため養子として迎え入れた。って話になっているらしい。

  これは、どちらかといえば本家が折れた形で、アルヴェインの要求を飲み、名実ともに弟して抜擢された。

  それから、本家とアルヴェイン邸は分家筋として分けられた。アルヴェインの名前が有名になりすぎたのと、ティオに継承権を移さないためだ。本家としては、準養子になるらしい。ややこしい……

  そうは言っても、両家断絶のようなことはなく、本家からの使用人も相変わらず派遣されて来る。アルヴェイン邸側としても、大いに助かっているが、仕事をこなしながら、例の秘密の部屋も探っているようだ。

  ある意味、win-winの関係とも言えるんだろうか……。

  それに、今日みたいに馬車も貸してくれる。しかも最近は、御者付きで。だがもちろん、馬車にも御者にも、仰々しくルフラン本家の家紋を乗せて、アルヴェインがルフランの筋だと宣伝しているようなものだ。とは言え、アルヴェイン邸には馬車が無いので、これもまた大いに助かっている。

  しかし、お互い都合の良いところで擦り寄って来て……貴族の世界って、ややこしい。

  ……ちなみにアルヴェイン自身、あまり外出をしないので、維持費の面からも馬車は屋敷に置かれてない。昔から必要があるときは、ヴァルタザールさんが本家から借りて来て運転していた。ティオが連れて来られた日も彼が運転していたので、ずっと御者のおっちゃんと呼んでいたが、実はずっと偉いヒトだったらしい。しかも、元は本家の執事だから、本家派遣の使用人にも指揮権を持ってる。本当に頭が上がらない。

  ひとしきりの事務作業を終えると、その日は足早に使用人たちが下がった。とりあえず窮屈な服を脱ぎたくて、アルヴェインの寝室へ二人で廊下を歩く。

  「凱旋だ。ティオも流石に七日間も、堅苦しい服で疲れたろう。普段着が恋しいよ」

  「首周りはしんどいけど、手枷とか首輪と比べたらましだよ。アルヴェイン、つけてみる? 俺の手錠、捨ててないよね?」

  「酷い比べ方ようだな……。ヴァルタザールに言われて処分したよ。奴隷商人の刻印もついていたからな」

  「あっそ。良いけどさー。服とかより、挨拶周りのほうが大変だよ。口の筋肉がつりそう」

  「感謝。素晴らしい応対ぶりただったよ」

  「本当に! 役に立ってた?」

  「本当だ。僕では、到底できなかった」

  ティオは心の底から嬉し勝った。家令から超スパルタ教育を受けて、骨折り損にはならなかった。ほんとに、比喩じゃない。

  「アルヴェインに引っ張り出されたけど、外のこと色々見られて、俺も悪く無かったよ」

  「引っ張りだすとは……あれは、仕事だ」

  「アルヴェインのでしょ。作家になりたいのも、アルヴェインじゃん」

  当主は、珍しく面食らった顔をした。ブツブツと考え込み、しばらくして口を開く。

  「真っ当だ。謝礼の要求なら応えよう。何か欲しいものは?」

  「謝礼? 何それ、頼んでないけど?」

  「代価、あるいは代品。仕事を頼んだら、見合う金品を支払うものだ」

  「貰ったことない。あ、奴隷だったから?」

  「そうだ。代金でなくとも、何か欲しいものは、したいことはあるか?」

  「うーん……欲しいもの無いしなー」

  アルヴェインの役に立ちたい一心だったから、見返りなんて考えたことも無かった。少し唸ってから、ティオがいたずらっぽい笑みを浮かべた。

  「じゃあ、これは? 今度の七日はアルヴェインが俺に付き合う日。名付けて、ティオの七日間。どう?」

  「長いな。手伝いは助かったが、家業は家の者の義務だ」

  「ちえーっ、だめかー」

  「差し引き三日くらいでどうだ?」

  「三日もくれんの!」

  あっさりと引き下がったので、ティオの三日間で手を打った。

  部屋に入り、しゃなりと上等なスーツを着こなした二人が向き合う。

  「アルヴェイン様、お召し物を外しますね」

  「頼むよ。ティオニドルス君」

  わざと仰々しく言って、二人でふっと笑った。

  「脱がせるから、ピンと立ってて」

  「なんだい、ティオ、いつもの仕返しか?」

  アルヴェインの背中に周り、きらびやかなボタンで彩られたスーツを脱が、慎重に折り目を入れて棚にかける。これ一着で奴隷のティオより高い。

  ズボンも脱がせて、義兄な下着姿で立つ。すらりと伸びやかで、滑らかな蜂蜜色の毛皮が、夕日を弾く。

  ティオが見とれている隣で、彼はいそいそと部屋着に着替えた。

  「次はティオだ。ピンと立って」

  「はあい」

  スーツは互いに脱がせ合うことが習慣になった。

  無理に引っ張るとほつれるから、手をおろしたまま、誰が脱がせたほうが都合が良い。貴族と言えど、上質な仕立て服は高級品なのだ。

  本来なら従者や旅先ならホテルマンに依頼するものなのだが。いつも二人で移動しているし、ティオの秘密もあって、自然とこうなった。

  クシュ……

  ズボンを脱がせると、ティオの薄地のおむつがあらわになる。

  アルヴェイン邸では、お漏らしは公然の秘密だが、曲りなりにも社交の場に出る以上、隠さないわけにはいかない。

  「しーしーしてない?」

  「大丈夫だっての」

  ズボンでも比較的目立たない薄手のおむつを、義兄に引っ張られる。中を覗くと、相変わらず飾り毛の無いサラサラのおちんちんが、くったりと乾いた吸水部に包まれていた。

  「昼間はやらないって、言ったじゃん」

  「承諾した。僕の心配しすぎだな。次からはトレーニングパンツに戻そう」

  手が離されパチンと、腰ゴムがおへそにぶつかる。

  当主がティオのスーツを綺麗に畳んでいる間で、当人は下着におむつ姿で待った。

  「手を上げて」

  「うん」

  外面は良くなったものの、家では相変わらず、アルヴェインに着替えさせてもらっている。服も変わらず子供向けのものだ。

  「見るからに子供っぽくて、ちょっと恥ずかしいんだよな」

  「可愛くて、僕は好きだな」

  「そりゃあ……嬉しいけどさ」

  「できれば、嫌がらずに来てるれると助かる」

  ボヤきつつ、ティオは唇を尖らせた。

  厚手の綿で作られた丸い襟に膨らんだ袖のシャツ。ティオにピッタリのサイズで仕立てられた子供服。

  前面が大きなボタンで留められており、簡単に着替えられる。

  「あと、高かった。すごく」

  「分かった。着る」

  「寸法も直してもらったし」

  「げ。仕立て直してもらったの?」

  「君のサイズの子供服が、見当たらなくてな。本家からの請求書を見て、驚いた」

  「い、一生大事にする」

  二人でそろって、七日ぶりにいつもの夕食を食べる。

  家令も帰宅し、使用人たちも家に帰り、屋敷の中に二人きりになる。魔法式の加熱器を動かし、鍋のスープを二人で食べた。

  それから、揃って風呂に入る。

  いつものように、ティオはすっぽんぽんに脱がされ、アルヴェインは薄い腰巻き。椅子にすわって、体を洗ってもらう。

  石鹸の甘い香りの泡が広がり、胸からお腹にかけて洗ってもらいながら、ティオが口を開いた。

  「そういえば、俺たちって、一応対等な立場なんだろ?」

  「当然だが、唐突にどうした?」

  「こ、子供じゃねえか、一人で洗えるし……」

  泡がついた手で、おちんちんの周りを弄られる。

  「ひゃんっ」

  「効率の問題だ。ここ、暗褐色の毛並みが掠れている。尿による変色で、別の石鹸を使いたい。僕がやったほうが良い」

  「うう……分かったよぉ」

  「それとも、僕に触られるのは、嫌いか?」

  そんなことねーよ。むしろ、ちょっと嬉しいけど、俺だけ恥ずかしい格好ってのが……

  ティオはふとした思いつきを口にした。

  「俺だけだと、恥ずかしいからさ、アルヴェインも脱いでよ」

  「うえっ? 脱ぐって、裸だが?」

  「いいや、手ぬぐい。自分だけ、腰巻きつけてる」

  「理解。しかしだな、少し恥ずかしいのだけど……ティオが、そうして欲しいなら」

  「ティオの三日間。それくらいは良いでしょ」

  「今日からか……もちろん。そのくらいは……」

  おずおずと腰巻きを脱いで、アルヴェインも裸になった。

  滑らかな蜂蜜色の毛皮に、下腹部から伸びる、しっかりとした雄の象徴、ティオのそれと比べても二周りくらい大きい。背丈は同じくらいなのに、何でそんなに違うのだろう……

  「続き。あと、あまり、じろじろ見ないでくれ」

  「あ、うん。ごめん」

  少し赤い顔になった義兄は新しい石鹸を泡だて、いつものようにくにくにと、ティオのおちんちんを洗ってくれた。

  そして、今になってまずいことを思い出した。

  俺、アルヴェイン、オーケーでした。

  優しい感触が秘所を優しく擦る。

  目の前には、アルヴェインの一糸まとわぬ裸。

  蜂蜜色の毛皮がランプでゆらゆらと、オレンジの光を振りまいて、黒褐色のティオに跳ね返る。

  今さら逃げるわけにもいかず、ピンと体を突き出して耐える。

  泡の中で、優しく包まれるように、おちんちんをコロコロと転がされる。。

  「あ……あぁ……んっ」

  浴室の暖気と、恥ずかしさと、ちょっとの気持ちよさで、脳天まで茹であがりそうだ。

  「脱色してきた。痛くないか?」

  「あぅ……う、うん」

  おちんちんが、ひくんひくんと揺れている。洗い終わったのだから、慌てて両手で隠した。

  「お、俺。先に湯船、入ってて良い?」

  「当然だ。お湯で泡を流してから入りなさい」

  ザバリと桶でお湯をかけてくれた。兄が「良いぞ」と言うので、そそくさと湯船に逃げた。

  お湯の中でゆらゆらする、おちんちんは、波間とは別の血流によって、まだ上下に揺れていた。

  いつものように、アルヴェインから先に湯船を出て、「良いぞ」と呼ばれると、ティオも後に続く。

  先に出た蜂蜜色の犬獣人は律儀に素っ裸のまま待っていてくれて、暗褐色の黒豹の体を拭いてくれる。

  あ、や……やばいかも……

  見ないようにと努めながらも、しなやかな裸体に視線が吸い込まれてしまう。

  「ごろんして」

  「あ、あうぅ……」

  おむつ台に寝ころび、両手と両足を広げる。

  お腹から秘所、お尻まで丸見えの格好にされ、ティオの視線がぐるぐる回る。

  「軟膏だ。やはりかぶれていたな」

  「へ?」

  アルヴェインは小瓶から、白い油脂を取り出し、手の熱で溶かしながら広げる。

  「薄手のおむつは肌触りが良くないと聞くし、長らくホテル暮らしで、ちゃんと風呂に入るタイミングも無かったからな」

  てらてらと溶けた油を、まとった細い指が、ティオに近づいてくる。

  「それっ、ど、どこ……に?」

  「そのまま、腰を前に出して、じっとしてなさい」

  クニュ

  ヌルヌルとした感触と、爽やかなハーブの香りが、伝わる。

  「あっ……あっ……」

  滑らかな手付きで、竿の裏からタマタマまで、優しく撫で回される。

  ティオは律儀におむつ替えポーズこそ崩さなかったが、反射的に体がビクンビクンと跳ねる。

  「やっ……あっ……」

  下腹部に溜まった血液は、やがて真っ直ぐに、ティオの雄を反り立たせた。

  アルヴェインが手を離すと、完全に勃起したおちんちんが、ピンとお腹にくっつく。

  「あっ……やだぁ……」

  思わず両手で顔を覆う。

  「ああ。元気なのはいいことだ」

  硬くなった雄はピンと張ったまま、細い指先に弄ばれる。

  「本当に、固い。骨みたいだ……」

  「ご……ごめんなさい……」

  「何故?」

  アルヴェインは性的なアプローチに嫌がる様子もなく、むしろ興味深そうに眺めていた。

  「な、なんか、悪い気がして……」

  シュンと縮こまったティオを見て、慌てて手を離してくれる。

  「い、いや。私こそ。落ち着けば、収まるだろう。紅茶でも、淹れてこよう」

  屋敷の当主が去ってしまったので、ティオはピンと勃起したまま、脱衣所に横たわった。

  ひくひくとおちんちんは揺れているものの、ちょっとずつ頭が冷静になってきて、悶々と一人で考えを巡らせる。

  そりゃあ、七日間もタイミングが無かったんだし、これくらい、むしろ健康な証拠だよ。

  嫌われてない……と思うけ。どっちかといえば、自己嫌悪かも。

  奴隷じゃなくなったけど、対等な関係って、そういう意味じゃないよな。

  淫乱奴隷から、淫乱義弟にランクアップだ。

  アルヴェインって、結婚とか、彼女の話も聞かないし、自分で慰めたりしてるのかな?

  考えると、下腹部がきゅうっと熱くなる。

  石鹸で濡れた泡で光る蜂蜜色の毛皮と、男を強調するように、やや大きめな大人の股間。

  お茶を取りに行くって、そういうことだよね……

  今のうちにってこと……

  ティオは右手で固いモノを掴み、クチュクチュと上下に揺らす。サラサラの下腹部から、可愛らしく飛び出した茎を、優しく摘む。

  頭の中には、あの蜂蜜色の身体が過ぎっては消える。

  駄目だよ。

  ヌくくらいは良いけど、そんな妄想……良くない。

  必死に頭を振って、妄想を取り払い、ただ、性器の刺激にだけ、神経を集中する。

  いくら仲が良くなってきても、勝手に、そんな妄想……

  しちゃいけないよ。

  カタン

  脱衣所の扉が開き、あの蜂蜜色の毛皮が顔を見せる。

  「ハーブを使ったらお茶だ、少し、落ち着こう」

  素っ裸のアルヴェインが、銀のトレイを持って立っていた。

  慌てて、服を着てなかった? けっこう、おっちょこちょい? 寒くない?

  いくら視線を外しても、ついつい目の焦点が吸い込まれていく。

  ランプの光、銀の反射、オレンジの光を含んで跳ねた毛先。ふっくらとした雄。

  「あう……あっ、あーっ」

  ビュッ、ビューッ

  視界が明滅して、元気の良い白濁色の体液が、パタパタと床とおむつに落ちた。

  自己嫌悪だ。

  あまつさえ、当人の目の前で、射精するなんて。

  嫌われて当然だ。

  霞んだ視界で、ぐったりと倒れ込んだ。

  耳元で、優しい声が聞こえる。

  その優しさが、今は嫌になりそう。

  「うっ……うっ……」

  何も言えず、恥ずかしさで顔を手で覆ったまま、元奴隷は小さな嗚咽を漏らした

  全部を見ていた元主人は、「配慮が足りなかったな」といって、優しく撫でてくれた。

  乾いた布で、股間を綺麗に拭いてくれる。

  柔らかい感触、おむつを穿かせてくれた。

  頭を撫でて、「おちつくまで、ここに居よう」と隣に座ってくれる。

  嫌だ。

  いっそ、罵ってくれたら良かったかも。

  あるいは、恥ずかしがって、その場を去ってくれたら。

  もしくは、落胆して、「きもちわるい」くらい、言ってくれたら。

  彼が何も思ってくれなかったことを、どう受け取れば良いんだろう?

  俺、嫌いになるかも……

  朝になっても、アルヴェインの様子は相変わらずだった。

  むしろ、元気のないティオを見て、心底心配そうな顔を見せる。

  それも含めて、相変わらずだった。

  朝のおむつを外され、昼間はトレーニングパンツに戻った。

  少しずつだが、おねしょの量も減ってきていた。

  「終わり。長らくおむつだったが、久しぶりのパンツだな。動きづらくはないか?」

  「……ん。大丈夫」

  アルヴェインがまた困った顔で、覗き込んでくる。

  昨日の一件、というよりは、それを引きずっているティオを見ている顔だ。

  「き、昨日の夜さ。さすがに、あれは、恥ずかしかったよ」

  「浅慮だった。その……元気でなによりだ」

  そのオカズが何だったのかは、言わないでおいた。

  恥ずかしい思いをしたのは、俺だけだったんだ。

  一緒になって、アルヴェインを落ち込ませる必要もない。

  「めったにあることじゃないから。共同生活してればさ……多少はね……」

  「そうなら良いが……」

  「あー、もう。やめ! やめ! 一緒になって落ち込むの禁止。ティオの三日間発動するよ」

  頭をぶんぶんと振って、伸びあがる。

  「疲れたし、色々溜まってたからさ、見られて恥ずかしかった。終わり」

  両手を差し出す。と、それを察して、当主が作業着のスモックを着せてくれる。

  「承諾。第三版に向けて、また来客の出入りが増える。手荒なことは無いと思うが、おかしなヒトが紛れ込んでいたら、すぐ私に言いなさい」

  「はあい」

  真鍮の大きな鍵を首から下げ、ブリキのじょうろを片手に、部屋を出る。

  温室の鉢を一つ一つ見て回り、土の具合、葉の様子、光の差しこみを眺めて、必要だと思うだけの水を与える。

  最近は、産地や近隣種から育成方針も予測できるようになってきた。

  おかげで、温室の中は緑でいっぱいになってきた。

  カタン

  ドアが開く音がして、振り向くと、一人の少女が立っていた。

  淡い桃色の猫獣人の女の子。使用人の服をしているから、迷い込んだのだろうか。

  「あの……」

  か細いソプラノ、凛とした鈴のような、まさに女らしい声だった。

  「えっ、そ、その……君、ここは屋敷のヒトしか入れないよ」

  じょうろを置いて、ティオは闖入者を温室から追い出す。

  「わあ、綺麗ですね」

  鈴を転がすような声を上げて、少女は温室に入ってきた。

  目を輝かせて、部屋の中をぐるりを見回す。

  「えっと……あ、ありがとう? でもここ、主人の……あ、いや、お兄ちゃんの許可が要るんだ」

  手を開いて、中に入れさせないよう、通路を遮った。

  「そんな……こんなに綺麗なのに……すこしだけ、見せてくださいませんか?」

  うるんだ瞳で、少女が懇願してくる。

  「えっ、い、いや……だめだけど……その」

  「お願いっ」

  さっと、ティオに抱き着いてくる。柔らかい肌と、髪の毛からふわっと甘い、良い香りがした。

  「えっ、ちょっと」

  「何も壊さないから、ちょっとだけ。ね?」

  止める間もなく少女は部屋へと歩きだす。

  「ほんとに、素敵な部屋ね」

  「それは、嬉しいけど……ちゃんと、許可を得てから来てよ」

  「真面目で素敵。でも、アンモラルだから、燃えることってあるじゃない?」

  「……何言ってんの?」

  にやにやと笑いながら、少女が毒草の一角に手を伸ばしてしまう。

  「だめっ」

  慌てて少女の肩を掴むと、するりと身をひるがえして、伸ばした手が、柔らかい肉に当たる。

  ムニュ……

  一瞬遅れて、彼女の胸を触っていることに気づいた。

  「んふふっ、結構大胆ね」

  「これは、その……」

  しっとりと柔らかく、官能的な感触に、頭がぼーっとしてくる。

  優しい花の香り、ぷんと鼻孔をくすぐる香水の匂い、視界がぼやけ、トレーニングパンツの中で、厚手の綿を押し出す雄の感触がした。

  「素敵な所にいるんだもの、私たちも、素敵なこと……したいと思わない?」

  するすると上着を脱いで、なめらかなピンク素肌があらわになる。

  ドキドキして、あたまがふわふわしてきた。

  トレーニングパンツの下で、股間がピンと立ち上がっている感触が伝わる。

  俺、女の子でも大丈夫なんだ。

  ちょっと、安心した。

  「ね、貴方の大事な所も、見せてほしいな」

  そういって、ピンクの指先がズボンに差しかかかったとき、反射的に身を引いてしまった。

  「あ……いや、だめ……」

  おしっこが漏れそうだから。

  いや違う。こんな子供みたいなパンツ、見られたくない。

  そんな見得なんて、あったかな? 一応、この屋敷以外には、おねしょは秘密だし……

  「ねえ、どうしたの?」

  少女は上着も脱いで、使用人のスカートも床に落とす。

  下着姿で近づいてきて、ティオのパンツの中は、痛いくらいに持ち上がってきた。

  それでも、今朝……何か言われた気がする。

  女難の相、変なヒト……、あ。

  「変なヒトだー!」

  目を見開いて叫ぶと、少女は面食らった顔をした。

  「と、とにかく。ここに入るなら、当主さまの許可をもらって」

  両手を広げて、とうせんぼしながら、少女を押し返す。

  「ねえ、ここって誰も居ないんでしょ……せっかくだし」

  「はい! 服! 着たら出てって!」

  なるべく見ないようにして、床に落ちた布を拾って渡す。

  「なに、あんた不能? それともお子様?」

  「どっちでも無いよ。俺は、屋敷の当主様が好きなの!」

  乱暴に手渡して、鼻を鳴らす。

  「出て行って!」

  少女はうるんだ瞳で一度だけ睨んで、服も着ないで出て行った。

  何だったんだ……?

  その日の夜。

  アルヴェインと一緒に食事をとっていると、ふと思いついたことが口からこぼれた。

  「俺、嫁さん、もらえるんだよな」

  当主の手から、持っていたフォークが落ちて、ガシャンと鳴った。

  「ちょっ、ちょっと、アルヴェイン!」

  「へ?」

  落としたフォークにすら気づいていないみたいだった。

  布巾を出して、飛び散ったソースをぬぐう。放心した当主に、もう一度フォークを握らせる。

  「昔の身分じゃ考えられなかったけど、今ならできるんだよね?」

  「と、当然」

  「もちろん、例えばの話だけど。相手さえいればさ……」

  アルヴェインは気もそぞろに、目を泳がせていた。

  「おーい……」

  彼の前で、ぶんぶんと手を振ってみる。

  「それは、嬉しいな……」

  「え?」

  「妄想。嬉しい想像が、止まらなかった」

  「えーっ」

  「そうなれば、ティオの嫁が来る。甥っ子か、姪っ子か……この家に、家族が増える」

  「ちょっと、気が早いって!」

  「早計。そうだな、そうだよな」

  大きく息をついて、お互い、水を一杯飲む。

  「反対とか、しないの?」

  「それは、相手による。誰か思い人でも居るのか?」

  「居ないよ。ただ、奴隷じゃできなかったことを、思いついただけ……」

  「そうか。もちろん、ゆっくり考えると良い」

  カチャカチャ食器の音とともに、食事を再開する。

  そもそも、この考えに至ったきっかけ、ティオが女でもイケると気づいたきっかけを思い出した。

  「そういや、居たよ。変なヒト」

  カタン

  当主が神妙な顔をしたので、今日の昼にあったことを、洗いざらい喋った。

  「計略。夢を壊して悪いが、その娘は、反対だ」

  「い、いいよ。そこまで好きじゃなかったし。でも、なんで?」

  「十中八九、本家の使用人だろうな」

  「服装から見ても、そうだと思うけど……?」

  「狙いは、ティオ。君の懐柔だ」

  「懐柔……えっと、仲間に引き込むってこと。女の子……あ! ハニートラップ!」

  「断言はできんがね。恋心が少しでもあるなら、早いうちに……」

  「いやいやいや、お断りしたから、当主様のほうが好きって」

  「……それは、光栄だな」

  当主様は、眠たそうな目をしながら、少し嬉しそうだった。

  「ええー。つまり、俺、狙われてるってこと? 女の子って怖い……」

  「ティオのことも良く知らないだろうが、吊り上げれば一攫千金の可能性があるからな」

  「なんでー。俺、そんなに器量良くないよー」

  「こっちは分家筋になったからな、私の継ぎ目が居なければ、順当にティオ。もしいればその子供……。しかも秘密の部屋の噂もある。本家はまだ半信半疑だろうが、ティオから部屋の場所を聞き出せれば、値千金」

  「じゃあ、俺じゃなくて、アルヴェインの遺産と、アルヴェインの秘密が目的ってこと……?」

  「本家の息がかかった女中から見れば、金貨袋が歩いているようなものだろうな」

  「怖えーよ……女の子。そんなこと考えて、ヒトのこと好きになってんの?」

  「処世術は様々だ。彼女らにも考えがあってのことだし、貴族にも色々ある」

  「貴族ってややこしい……」

  「女を好きになるのは止めないが、当面は、この点の輩が出入りするだろうな。我慢できるか?」

  「する。おっちゃんにも『女難の相』とか言われてたー」

  「明日、ヴァルタザールにも伝えておくよ。そうそう勝手は、できなくなるだろう」

  「ううー、ちょっと自信持ったじゃん……なくすなー」

  その日は、穏やかに過ぎて行った。

  夜になって、今日は風呂ではなく、お互いにお湯で体を拭く。

  アルヴェインは律儀に素っ裸になって、目の前で体を拭いてくれた。

  良くないとは思いつつ、やっぱり綺麗な肌から目が離せない。

  俺、アルヴェインとどうなりたいんだろ……?

  寝巻の上着に、下半身はおむつ姿。

  恥ずかしいけど、これが一番都合が良いと押し切られ、ティオの夜の定番の恰好になった。

  ベッドの上に座り、優しい声で、本を読み聞かせしてくれる。

  時計の砂が落ち、読み聞かせの時間が終わる。

  寝る前におむつをチェックされる。

  ゴム紐を引っ張られて、中を見ると、乾いた給水部に包まれたおちんちんが見える。

  あれ以来、変に意識してしまうせいか、おむつの中で、ひくんひくんと脈打っている。

  「問題ないな。寝ようか」

  そう言って、立ち上がろうとした義兄のシャツの裾を、ティオが引っ張った。

  「あのさ、質問」

  「どうした?」

  蜂蜜色の彼が、ベッドに座り、もう一度向き直ってくれる。

  「正直に答えて、ティオの三日間、発動」

  「分かった。できる限り、真摯に答えよう」

  「俺が、嫁さんもらうのは、反対しないんだよな?」

  「勿論」

  「アルヴェインは? お前が家族作るって……できたんじゃねえの?」

  「難儀。そうだな……不可能ではないと思う」

  「どういうこと……?」

  アルヴェインは少し顔を赤くして、おずおずと口を開く。

  「君、私の裸は、嫌いじゃないんだよな?」

  「当然だけど?」

  「むしろ、見たいなどと……」

  「うん。み、見たい。見せて。」

  大きく息を吐いて、アルヴェインが隣でパンツを脱ぐ。

  ふっくらと大きな彼の股間が見え、だめだと思っても目で追ってしまう。おむつの中で、またおちんちんが、ひくひく言い出した。

  「その、情けない話なんだが……」

  「どこが? 立派っていうか、俺は、き、綺麗だと思う……」

  アルヴェインは指先で軽く茎を摘まんで見せる。

  「うう……、やはり恥ずかしいな」

  「俺も恥ずかしいんだよ。ティオの三日間発動です」

  「わかった、わかったから」

  ひくん、ひくん、彼のどっしりとした雄が、脈打っているのが見える。ちょっとグロテスクだけど、不思議と嫌にならない。

  それでも、なんていうか……遅い?

  「なかなか、そう。君みたいに、固くならなくて……」

  「まさか、不能……」

  「違う」

  食い気味み否定された。

  「遅延。できないわけじゃない。ただ、少し労力がかかる。多分、一般的な感性と比べても、私は感情の起伏が弱いのだと思う」

  「そんなことないよ。心が偏ってるだけだと、俺は思う」

  少なくともティオは、アルヴェインの心を沢山受け取っていた。

  くたっとしたままの、蜂蜜色の茎をパンツにしまいこんだ。

  「前に、女奴隷の話をしていたな。そういう形で家族を作ることも、不可能ではないが、私には荷が重いんだ」

  ゆっくりとズボンを元に戻し、話を続ける。

  「無頓着。そんなことに興味を割く気概が湧かない。書物に、研究に、以前の剥製の真贋に関する論文だって、今なら書き直せる。他にもやりたいことだらけだ」

  「ごめん……俺だけ、女のことで、浮かれちゃってた」

  くしゃくしゃと頭を撫でられた。

  「気遣い無用だ。それに、僕がティオが好きな気持ちは変わらない」

  「うん……俺も。もし嫁さんもらっても、同じくらい、アルヴェインが好きだと思う」

  「それは」

  「光栄でしょ?」

  「勿論」

  お互いに、お休みを言い合って、それぞれの寝室に戻った。

  次の日、昼頃に、あのピンクの猫獣人の少女を見かけた。

  昨日の朝、温室に出入りしていた女の子だ。

  「あのっ、昨日の……」

  ティオが呼び止めると、女の子はしゃなりと振り向いて、うるんだ瞳でにっこりと微笑む。

  目がとろんと落ちるような、甘い花の匂い。

  「あら、どうなさいました?」

  オホンッと咳払いが来た方向を見ると、おっちゃんが彼女のすぐ隣に立っていた。

  朝からマークされていたみたいだ。

  ティオはおずおずと少女の前に歩み寄って、はっきりと口を開いて言う。

  「えっと、昨日は……俺、おっぱい触っちゃってごめん!」

  それから、まっすぐに頭を下げた。

  「えっ……えっと……その、あれは誤解で……」

  少女はしどろもどろな顔で、お茶を濁す。すぐ隣のおっちゃんが、本家からの少女に、にらみを利かせていた。

  「柔らかくて、気持ちよかった。でも、君は好きになれない」

  頭を下げたまま、精一杯の誠意を込めて言う。

  「おっぱい、揉ませてくれてありがとう。でも僕は、この屋敷が好き、この屋敷の主人が一番好き」

  一瞬、沈黙が流れた。

  それから、隣でおっちゃんが大爆笑した。

  「ここはハウスメイドで手が足りておりましてな、余計な人員は不要だと、本家にお伝えくだされ」

  腹をこらえながら、おっちゃんが少女に言い聞かせる。

  「それと……坊ちゃんは、御当主様以上に、堅物ですぞ」

  「それは失礼、日を改めますわ」

  ピンクの少女は、スカートをたくし上げて一礼し、去っていった。

  その背中に、おっちゃんの怒声が響く。

  「色ごと程度は大目にみますがな……もし坊ちゃんに手を出したら、貴様ども、分かっとんだろうな!」

  顔を真っ赤にして、本気の怒りだった。

  「本家にも、そう、お伝えくだされ」

  少女は返事もせずに帰っていった。

  その日の夜。

  いつものように読み聞かせの体制に入る。

  ティオは可愛らしい寝巻の上着に、下半身はおむつ一丁。

  アルヴェインが、上質な濃紺の寝巻で、ベッドに座る。

  あぐらをかくティオを、背中から抱き寄せてくれた。

  「落ち着く。さて、今日は、何が聞きたい?」

  ティオは神妙な顔で、背中を抱く主人を見上げて言った。

  「ティオの日、三日目。本じゃなくて、ちょっと聞いてほしいことがある」

  主人は真面目な顔で姿勢を正して、こっちを見てくれた。

  「分かった。聞かせてくれ」

  「今日、女の子を振ってきた」

  「承知。家令からも仔細は聞いている」

  「俺、女の子も好きだけど、アルヴェインも好き」

  「僕も、好きだが?」

  大きく息を吐いて、続きを喋る。

  「そうだけど、そうじゃなくて好き。この前、お、俺の自慰がさ……その、お前だった」

  「説明。分かってやれなくて、すまない」

  「お前の裸見て、興奮してた……俺」

  「女性を愛しながら男色を好むヒトも、珍しくないだろ?」

  「そうだけど……なんて言うか……」

  「助言。ただ、もし僕のことを引きずりながら、女性を愛したいと言うのなら、止めたほうが良いだろうな」

  「そうだな。それが、引っかかってたのかも」

  「覚えて。僕以上に好きになったヒトが現れたら、そのヒトにしなさい」

  「無理かも、同じくらいがせいぜいじゃない?」

  「未定だ。ヒトの行く末は分からないよ。それこそ、寝小便垂れてた奴隷が、貴族の弟になっちゃうくらいにね」

  「たしかにね……」

  くしゃりと、頭を抱き寄せてくれる。

  濃紺のシャツに、甘い石鹸の香り、顔をうずめると、ほんのりと温かい彼の体温が伝わる。

  「趣向は? 僕のことは、まだ好いていてくれる?」

  「好きだよ。一番好き。だ、だから……その、お、怒らないでほしい」

  「当然」

  「なるべくしないようにするけどさ、その、お風呂とか。嫌だったら、別々に入るから」

  「問題ない」

  「勃起しちゃったらごめん。気を付けるから、嫌いにならないで……」

  「当たり前だ」

  くしゃくしゃと、また頭をなでてくれた。

  「それに、都合が良い」

  「へ?」

  「ここ最近、自慰はしているか? 普段の頻度は? 一昨日からは?」

  「は? えっと……そんなの、い、言わないよっ」

  「じゃあ、3,4日に一度といったところか……」

  「んなっ!」

  だいたいそれくらいでムラムラくるけど、なんで……?

  普段は夢精しちゃって、朝とか……。あ、おむつに……。何も言われなかったけど、あれ、バ、バレてたの……

  「手を上げて」

  「うっぷっ……」

  上着が取り払われ、おむつ一丁のすっぽんぽんにされる。

  「綺麗な毛並みだ。寒くないか?」

  「大丈夫だけど、いったい何?」

  素肌に直接アルヴェインの指が触れ、お風呂とも違ったシチュエーションに、ちょっとドキドキしてきた。

  「僕の裸は? 見たい?」

  「どういうこと? み、見たいけど、嫌じゃねえの?」

  「問題ない。恥ずかしいが、ティオなら嫌じゃない」

  同じようなこと、俺も思った気がする。

  その時は求められてなかったけど、アルヴェインは、求められても良いってこと?

  スルリッ

  アルヴェインは立ち上がると、月光の下で服を脱ぎ始めた。

  サラサラのブロンド髪が月明りを散らし、蜂蜜色の毛皮が、ふんわりと光を含んで煌めく

  曲線的なプロポーションに、均整の取れた肉体美は、そこらの女よりも綺麗だ。

  ふっくらと垂れ下がる彼の雄でさえ、優雅で美しいとさえ思えてしまう。

  「恥ずかしいな。こんなもので、いいのか?」

  ティオは乾いた喉で唾を飲み込む。

  「俺は……大好き」

  「光栄だ」

  トフッ

  彼は裸のまま隣に座り、重みでベッドが少し揺れた。

  裸のアルヴェインと、すっぽんぽんにおむつ一丁のティオが並ぶ。

  アンモラルなようにも見えるし、子供のように、じゃれあっているだけにも見える。

  クシュクシュ……

  細い指先が伸びて、おむつの上から、おちんちんを探る。

  わざわざ中を見るまでもない、ティオのそれは、おむつの上に張り出すほど、ピンと固く反り立っていた。

  「あっ……だ、だから……勃起しちゃうんだって……これ、不可抗力で……」

  「再度言う。それくらいで、僕は嫌いにならない」

  頭をなでられて、それから背中から抱いきよせられた。

  「あっ……あのっ……これ」

  素肌と素肌が密着し、呼吸が上ずる。

  背中に彼の骨ばった胸の感触。ほんのりとぬくい体温。

  肩に回してくれた手が胸を通って、上体を抱き上げてくれる。

  「痛かったら、言ってくれ」

  クシュクシュと、おむつの上からゆっくりと刺激を与えてくる。

  「あっ……あんっ……」

  大股開きになった太ももが、ビクンと跳ねる。

  抱かれたまま、ティオのほうも彼に近寄った。細い胸板に、顔をうずめると、いつもの石鹸と、ほんのり毛皮が乾く匂いがした。

  「安堵した。これで、気持ち良いみたいだな」

  裸のまま、彼の膝の上に乗せられ、広げたまたの間で、おむつの前部を優しくこすられる。

  肩から回した手が胸を抱き寄せてくれて、体中に彼の体温が伝わってくる。

  「んっ、あっ、こ、擦れて……だめっ、おれっ……」

  体中全部が好きな物に囲まれて、頭がおかしくなりそうだった。

  綺麗なアルヴェインの裸、優しく手ほどきしてくれる指先、恥ずかしいけど、クシュクシュと柔らかいおむつの刺激。

  「アルヴェイン……好き」

  「僕も好きだよ。ティオ」

  背中をながら、耳元で彼が繰り返しささやく。

  「しーしー、でるかな」

  「んっ、で、出るっ」

  ビュクッ、ビューッ……

  おむつの中にじわっと暖かい物が広がった。

  脈拍と一緒に、ビュッビュと飛び散る感触が来る。

  「あーっ、あっ、あっ」

  おむつをくしゃくしゃと揉まれる。握った手にも、射精した感触は伝わっているのだろう。

  「しーしー、しーしー、ちゃんと出たね」

  「あぁ……うぅ……」

  赤ちゃんのみたいに横抱きになって、アルヴェインの胸に顔をうずめる。

  気持ちよさと、恥ずかしさと、ちょっぴり、わけが分からない。

  「アルヴェイン……なんで、急に?」

  「急ではない。言っただろう、ティオになら、これくらいは気にならないって」

  「だ、だからって、俺の……無理に扱かなくても」

  「合理。無理ではない。それとも、僕の手でされるのは嫌いか?」

  唇を尖らせながら、本音をこぼす。

  「……大好き。あと、もっと、ぎゅっとして。ティオの日だから」

  「勿論」

  強く抱き寄せられ、背中から、腕から、アルヴェインの呼吸するリズムと、体温が伝わってくる。

  「これからも。ティオにお願いされなくても、やるよ?」

  「ティオの日じゃなくても?」

  「当然。溜まったら、定期的にやろう。ムラムラしてるよりは良い」

  温かく抱かれながら、温かい口調で言うが、どこか事務的な響きがあった。

  「ど、どちらかと言えば、嬉しいけど……」

  もう一度、ぎゅっと優しく抱き寄せてくれて、アルヴェインが口を開いた。

  「合理性の話。これから、色仕掛けは増えるだろうから、僕で扱けるなら、それが一番良い」

  一瞬待ってから、やっとティオが意味を飲み込んだ。

  あーっ

  なんか、こういう奴だったかも、最初から

  「合理的……。好きとかじゃなくて?」

  「好きだが?」

  「あーっ、そうだよ。なんか、お前ってそんな奴だった」

  「失礼だ。これでも少しなりとも成長している」

  「えっと、俺が下手なハニートラップに引っかからないように、性処理もやっちゃおうって話?」

  「概要をまとめると、そうだな」

  「お前、本当に俺のこと好きなの」

  「大好きだ」

  「そりゃ……光栄だけどさー」

  ううー。

  喜んでいいのかな? これ……

  「しーしー、まだ出ないか?」

  くしゃくしゃと、またおむつを刺激される。

  「ちょっ、あっ、さっき、イッたばっか……」

  クシュクシュと、まだ敏感なアソコが鷲掴みにされ、絞り出されるように上下に扱かれる。

  「うっ……あっ……やだっ……」

  細い指の動きに悶えるティオの耳元で、アルヴェインが囁く。

  「しーしー、しーしー、全部だそうな」

  ゴシゴシと強くおむつをこすられ、ガクンと腰が浮く。

  体がビクンビクンと震える。

  「あぁっ!あーっ!」

  ショロッ……ショロロロ……

  刺激に耐えかねて、お漏らしが漏れる。

  おむつの中に温かい感触が広がっていった。

  「あっ……あぁ……あぅ」

  膝の上で、おむつにお漏らしまで、させられてしまう。

  ティオの頭は茹で上がりそうなくらい真っ赤だった。

  「さっきのは、お漏らしかな?」

  アルヴェインが優しく頭をなでてくれる。

  「あっ……そ、そうなるの。い、イッた後は敏感だから、あんまり、触らないで」

  「それは……知らなかった」

  彼は少し申し訳なさそうに言った。

  ティオはアルヴェインの首元に抱き着いて、胸に顔を寄せて言う。

  「痛かったからね」

  「すまない」

  「許すから……落ち着くまで、ぎゅっとして」

  「勿論」

  二人で夜遅くまで抱き合って、その日の夜は更けていった。

  ある日の温室。

  「これは、太陽草だね」

  「俺も、そう思う」

  新種と目されていた、蜂蜜色の太陽草は、元気を取り戻したらしく、いまではすっかり鮮やかな橙色を見せていた。

  「えー、新種じゃねーの」

  ティオは相変わらず、スモック姿に、下半身はトレーニングパンツと短パン。たまに、おむつ。

  日中のお漏らしは減ってきたが、まだ完治したとは言い難い。

  「醍醐味。新種だと思えば既存種だったり、偽物だと思えば本物だったり、博物学は難しいな」

  アルヴェインは相変わらず、上質なシャツをしゃなりと着こなし、温室の様子を細かく記録していた。

  「ま、いっか。これも綺麗だし」

  「敷衍しよう。とても興味深い。土壌の栄養によって花の色が変わるなら、特徴的な種の役割にも影響があるのだろうか?」

  アルヴェインはぶつぶつと考えに耽っていた。

  ティオはじょうろを片手に、また次の鉢に水をやりに行く。

  彼らの温室は、もう花でいっぱいだ。

  あの太陽草が新種でなかったのは残念だが、あの花が綺麗だったことには変わりはない。

  この思い出は、なにがあっても変わらない。

  あの時に見た、蜂蜜色が、世界で一番きれいだった。

  おしまい