??の話

  みなさま、初めまして。私は龍神様に仕えている者にございます。どうぞ、「じぃ」とお呼びくだされ。

  何故ご挨拶したかと申しますと、今回はこのじぃがお話をするからでございます。ただのおいぼれの話だと思ってお聞きいただければ幸いです。(全く、今まで誰かが話していたというのに突然年寄りにこんな役目をさせるとは…。)

  さて、私が仕えておりますのは我ら龍の世界を統べる龍神様でございます。龍神様は人間の世界にも目を配られ、日々忙しい生活を送られておりますが、当人様は何食わぬ顔で業務をこなされる日々。笑うことも、悲しむことも、何もないのでございましたが、そんな龍神様の元に、(ようやく)春がやって参りました。

  龍神様のお相手というのは先祖代々、人間の世界からやってくる女性でありました。その女性、誰でも良いわけではございませぬ。龍神様と同じような白髪(「はくはつ」とお読みくだされ。別の読み方はございませんよ。)を持ち、桃色の愛らしい瞳をしておられる方でなければなりません。というのも、龍神様の番様の存在が必ずその髪と瞳を持った方なのです。

  龍神様は番様をそれはそれは大切になさいました。こちらにいらっしゃられた時から片時も目を離すことないほどで、じぃが見たことのない暖かな目で番様を見つめ、表情をころころと変えるのでございます。今まで感情の1つも表に出してこなかった龍神様が様々な顔を見せるようになったのは番様のおかげ。番様はいわば救いの女神でございました。(番様、ありがとうございます。)

  しかし、少々困ったことがございました。龍神様が番様のお傍を離れないのです。私共も初めのうちは何も申すことはなかったのでした。番という存在と会えたことは龍にとって至上の喜び。仲睦まじくいるべきだと思ったのです。しかし、いつまでもそうしていてはご政務が滞ったままなのです。このままでは家臣たちからの意見分もいつ返答なさるのか不明なままです。当のご本人様は番様と過ごされる時間が惜しいと返答なさるばかり。番様のお傍でご政務をなさるのはどうかと提案したところ、それは嫌だとおっしゃるのでどうすることもできません。(わがままなところは幼い時と変わりません。)

  なんとか勤めていただこうと毎日のように龍神様と話をして何日か経った頃でした。ずっと龍神様が抱きしめられておられた番様が龍神様におっしゃったのです。曰く、「仕事をして」と。(これにはじぃもびっくり致しました。)

  「あなたは龍のみんなをまとめているのでしょう?そのあなたが仕事をしないとみんな困ってしまうわ。私のことを気遣ってくれているのはわかったから、この世界に生きている人たちにも目を向けてあげて。」

  「だが…。」

  番様はお身体の弱い方でした。生まれつきだったそうで、我らにはどうすることもできなかったのです。龍神様と夫婦になられたことでお身体の調子が少し軽くなり、晴れやかな御顔をなさるようにはなりましたが、天候の変化によってすぐに体調を崩されるのでした。それゆえに龍神様がお傍に寄り添い続けるようになったのですが。(いつまでもこのままでは…。)

  渋る龍神様の頬を細い御手で挟んで番様はおっしゃいました。

  「心配しないで。私、そんなに柔じゃないわ。あなたの帰りを待つくらいできるわよ。」

  それから龍神様は今までの溜まった書類を片付け始めました。早く番様の元へ戻りたいのでしょう、目にも止まらぬ速さで全て終えてしまうとすぐさまお部屋へ戻られました。適当ではなかったのですよ。(ちゃんとお仕事をなさいました。)本当に、番様には頭が上がりません。

  そのように送っていた毎日も長くはなかったのでございました。番様はお世継ぎ様をお産みになられてまもなく、息を引き取りなさいました。

  龍神様の悲しみは底知れぬものだったでしょう。龍にとっては番というのは自分の体の分身とも、一部とも言えるような存在でした。片方がいなくなってしまえば生きる意味が無くなるも同然なのでした。龍神様は本来の龍の御姿になられて空をかき荒らされました。雷が幾重にもなって落ち、雨は洪水を引き起こし、連日の大嵐が続きました。が、遂には雷に打たれてその生涯を終えられました。龍は嵐を起こした際には雷に打たれて亡くなる運命なのでございます。

  涙に打ちひしがれる暇はございません。龍を統べるものがいなくなればその役目は新しい龍神様へと渡るのですから。私は龍神様ーもう先代様、とお呼びするのでしょうかねーの最期を拝見して頭を下げてから、近くにいた者に代替えの儀式に向けて準備を始めるように家臣たちに伝えるよう言伝を頼みました。それから1つのお部屋へ参りました。中には呆然となさっている幼い男の子がいらっしゃいましたが、その子はこちらゆっくりと見ました。私は跪いて頭を下げ、こう言いました。

  「これよりは貴方様が我らの主。龍神様、何なりとお申し付けください。」

  男の子は立ち上がって私に命じました。これよりは自分が龍神である、其方は自分のそばで支えるように、と。(これが御役目を引き継いだ際の言葉の交わし方にございます。)

  そこからでした、新しい龍神様が笑わなくなってしまったのは。番様がいらっしゃられなかった先代の龍神様と同じように、ただご政務をこなすだけの日々でした。昨日まで「じぃ、じぃ」と呼んでいらっしゃったのが嘘のようでした。(あんなに可愛らしかったのに…。)

  先代の龍神様が亡くなったことは言わなくてもわかるようでした。血が繋がっているからなのか、世継ぎだからなのか。わかった次の瞬間には威厳を持たれた姿になってしまわれて…。哀しいものです。

  現在、龍神様は番様を得て毎日が幸せのようで我らも嬉しい限りです。今度の番様は先代の番様とは違って体の丈夫な方でした。初めは我らを怯えた目で見ておりましたが、(事情があったようです。あの後番様と何やらお話しされた龍神様は人間の世界へと飛んでいきましたから。)今では暖かい目で接してくださいます。そこに龍神様が冷たい目をして入ってくるのは毎回のことですが。(なんとも心の狭いこと。)しかも御二方は名前をつけて呼び合っていらっしゃいます。仲睦まじくて何よりなのです。おっと、ご政務はしっかりと勤めていらっしゃいますよ。まぁ、番様にお会いしたいからと早く終わらせるところは変わりません。もちろん適当ではございませんよ。

  そうそう、仲睦まじいといえば、もうすぐ御二方の間にお子さまが誕生するのです。今回は双子のお子さまだそうです。早くお会いできるのが楽しみですが、人間は龍よりも弱い存在でございますから、番様にご負担が掛からなければよいのですが。安産でありますようお祈りしながら、小さなお子さま方が「じぃ、じぃ」と呼ぶのを想像しながらお待ちしましょうか。ただ待つだけではございませんよ。何が起こっても万事問題ないように構えておりますからね。

  *

  私がお話しするのは以上です。何かご質問はありますか?じぃが答えられることであればお答えしましょう。

  …ふむ、じぃは番はいないのか、と。そうですね、龍神様以外の龍の番は運命的なものではございません。自分で見極めて選ぶことになりますので、結婚願望がなければ独り身でいることになります。私は生涯龍神様に使える気ですので妻を持つ気はございません。が、龍神様と番様を見ていると羨ましく感じてしまうのは秘密ですぞ。この年で家族を持とうとは思いませぬな。(ほんのちょっと家族に憧れを持っていることは内緒ですぞ。)

  ほほぅ、歳、でございますか?それは秘密、としておきましょうか。じぃはいつまでも龍神様たちを見ていたいですからな。長生きする予定でございますよ。(まだまだ現役でお仕えいたしますよ。)

  いつから龍神様に仕えているかと?私は先々代の龍神様の時から仕えておりますよ。次の代の龍神様の時に当時私のように側近としていらっしゃった方がお歳を召されまして。私にその後を託してお亡くなりになられました。父親のような存在だったのですよ…。

  おっと、つい回想に浸りそうになってしまいました。いけませんね。他にご質問はありますか?

  なんと。じぃの昔話が聞きたいと?私の話などつまらぬものですが。…そうですね、機会がありましたらお話しできればと思います。

  そろそろお暇しなければなりません。番様がいつ産気づくかわからない状況でお傍を離れるわけには参りませんので。

  それではみなさま、失礼いたします。