愛しい、愛しい…

  「…ということがあったの。」

  ウテナはウィルに話をした。ウィルは顎に手を当てて考えるが、すぐにため息をついた。

  「わからぬな。それが何の意味を指しているのか。じぃなら知っているかもしれぬ。あやつは我が産まれる前からここにいたらしい。そうとなれば朝食だな。移動するぞ。」

  言うが早いか、ウィルはウテナを抱き上げ、部屋を出て歩き始めた。ウテナの妊娠がわかる前 ー彼女がウィルの元にきた時からだったがー 懐妊してからはさらに過保護になった夫はウテナを歩かせることはしない。自分が抱き抱えて移動するのがいつものことだ。

  食堂の間へくると、

  「おはようございます、龍神様、番様。」

  一同が迎えてくれた。朝はここから始まる。ウテナがいなかった時にはなかったことだ。

  「じぃはいるか。」

  「こちらに。」

  ウィルが声をかけると最初からいたかのように隣に立っていた。

  「食後に時間を取ってくれ。聞きたいことがある。」

  「承知いたしました。」

  朝食を終えて食器が片付くと、じぃは2人の側に来た。

  「龍神様、御用でしょうか。」

  「じぃ、ウテナが夢を見たのだ。」

  「夢、でございますか?」

  「はい。その夢は…。」

  ウテナは朝ウィルに話した夢の内容をじぃにも話した。じぃは最後まで聞いた後、顎に手を当てて少し考えた。が、頭を下げる。

  「申し訳ございません。私には聞いたことのない夢でございます。先代の番様がどうだったのかは不明でして…。」

  「わからないのか?」

  「はい。先代の番様は夫であった先代の龍神様に大切にされておりまして。龍神様は片時もお側を離れることなく。」

  だから側近であったじぃは愚か、他のものはほとんど番と話したことがないという。それほど龍神の愛が深く、また独占力の強さが伺える。加えて、とじぃは言った。

  「番様は体が弱い方でしたので外に出ることはほとんどなく、常にお部屋におりました。龍神様が手厚い看病をなさって…。」

  その夜、ウテナはまた草原にいた。上からは太陽が照りつける。今日は1人のようだ。誰も来る気配はなく、ただ静かだ。

  ふと、ウテナは引かれるように上を見た。そこには太陽があるだけ。その太陽が一際光ったと思うと、影が現れた。その影はだんだん大きくなり、気がついた時には自分に向かって飛んできていた。

  「龍…。」

  一度お汚れたことがないかのような白い龍はウテナの周りをくるくると周った。何周か周った後、龍はウテナに巻き付いた。しかし、ウテナには鱗の感触はなかった。あるのは暖かいもので包まれたかのような感触だけ。すると、ウテナの腹が光を帯び始めた。光は2つになって腹から離れ、彼女の前に並ぶ。と、その光はだんだん人型をとるようになった。そこに現れたのは、

  「あなたたち…!」

  昨日の夢に出てきた子どもたちだった。2人は不安そうな顔をしている。ウテナはハッとした。ずっと考えていた。ここに子どもがいるのはなぜか。ウテナは微笑んで2人を抱きしめた。

  「大丈夫。不安になることはないわ。どんな子でもいいの。私が、私たちが愛するわ。だから元気においで、愛しい、愛しい、」

  我が子たち…。

  「ウテナ」

  「…ウィル。」

  「また泣いているぞ。何があった?」

  ウィルが心配になって起こしてくれたようだ。ウテナは上体を起こしてウィルに寄りかかった。

  「何もないの。何もないのよ。ただ、嬉しかったの。」

  「嬉しい?」

  ウテナの言葉に首を傾げたウィルを可愛く思いながら彼女はコクンと頷いた。そして、自分のお腹に手を伸ばす。

  「大丈夫。あなたたちは私たちの大切な子。愛しい子だよ。」

  お腹が少し動いたことは触っていないウィルでもわかった。

  「ウテナ、今…!」

  「うん、そうだね。」

  2人はしばらく黙っていた。その姿を朝日が照らし出す。この子たちが産まれてくるのはもうすぐだ。