草の大陸、トレジャータウン。
街の入り口に敷かれたバリケードの周りには大量の雪が積もっており、その中心にはラプラスのノアの姿がある。セレビィのエミルと共に過去の世界でカフカと合流したノアは、得意技の絶対零度や吹雪、冷凍ビームを駆使して、バリケードに接近してくる暴徒や時の守護者を続々と返り討ちにしていった。
その威力は凄まじく、バリケードの周囲には多数の凍死体が転がっている。
バリケード内ではソルやグリム、ソフィやエレナの姿があり、彼らは焚き火を起こして暖を取っている。
「…まったく、凄い奴がいるもんだな…」
焚き火に当たりながらソルは呟く。彼の意見にグリムは首肯し、焚き火の熱を浴びながら口を開く。
「あぁ…世界は広いな…」
一時はジリ貧の戦いを強いられた彼らだが、ノアが合流した事で一気に形成逆転を果たした。また、エミルの放つ技も的確で、雪に脚を取られて逃げ遅れた者を確実に仕留めていった。
その光景を思い出したエレナは苦笑いを浮かべ、視線をノアに向ける。
「…敵にしない方が良いわね」
彼女の呟きにソフィは首肯し、視線をプクリンギルドの方向に向ける。
「…中は大丈夫かしら」
*
プクリンギルドの内部は多くの避難民で溢れており、誰もが外から聞こえる音や悲鳴に身を震わせている。避難民の多くはトレジャータウンの住民であり、互いに既知の仲である者が多く、励まし合っている姿も見られる。
避難民が集まるフロアの一角、そこにはマフォクシーのヘレンとヤミラミ達が設立した医療拠点があり、負傷者を処置している。もっとも、自力で歩ける負傷者ばかりであり、そのほとんどが切り傷や刺し傷など、外傷性のものばかりである。
「…よし、次だ」
ソーナンスの腕に包帯を巻いたヘレンがヤミラミ達に指示し、次の負傷者が誘導される。ヘレンは薬剤師だが、簡単な処置を行う技能もあるため、ニコルに代わり、負傷者の手当てをしている。
より酷い傷や動けない者はニコルのいる洋館で治療をしているが、そちらは暴徒に囲まれており、非常に危険な状況となっている。その事を知らないヘレンはひたすら負傷者を治療していき、余計な事を考えないようにしている。
崖に面した窓が開かれ、カラフルな鳥が入ってくる。
それはギルドのNo.2であるぺラップのノイズであり、上空から辺りを偵察していた彼は、フロア内で指示を出しているプクリンのヘンデルの側に行く。ヘンデルの腕の中には赤子のエリスの姿があり、清潔なタオルに包まれているエリスは穏やかな寝息をたてている。ヘンデルの姿を遠目で見たヘレンは、その声に意識を向けながら、次の負傷者の傷を洗浄し、清潔な包帯を巻いている。
ペラップは辺りを見渡し、声を殺しながら、ヘンデルに報告する。
「森の診療所が放火され、建物は全焼しています」
ヘレンの耳にノイズの報告が聞こえる。彼女の手は止まり、視線をノイズに向ける。
「診療所内の負傷者は逃げ出せず…ほぼ全滅かと思われます。診療所周囲の避難民も暴動や異端審問官に襲われ、多くの者が殺されました…」
「…ニコルとオズワルドは?」
ヘンデルが静かに尋ねる。
「オズワルドはレシラム教騎士団に保護されたと、コールマンとミストから報告がありました…ただ、ニコルは診療所の中にいたようで…」
ヘレンの耳にノイズの話が聞こえる。その話を聞き、動揺したヘレンの手から包帯が落下する。ヤミラミ達は慌てて包帯を拾い、清潔な包帯を傷口に巻き直す。ヘレンの口は微かに震え、小さく息を吐き出す。
ヘレンは息を吸い、また吐き出す。
視線を負傷者に向け、そのまま処置を続ける。ニコルの消息が不明だからといって、目の前の負傷者を蔑ろにするわけにはいかない。ヘレンは冷静に処置を続け、思考を眼前に集中させる。
一方、ヘンデルは腕の中のエリスが泣き出さないように声を抑え、ノイズに尋ねる。
「…外の様子はどうなっているの?」
ヘンデルの問いにノイズは辺りを見回し、避難民の耳に入らないように声を抑えて話す。
「現状はバリケードはまだ保っています。レシラム教騎士団の部隊も展開しており、カフカとフランツが既に合流したようです…それで…」
ノイズの視線がフロアの奥にある階段に向けられる。ヘンデルもそちらに目を向けた。階段には白い装飾品をつけたレシラム教騎士団の団員であるコジョンドの姿があり、彼はヘンデルとノイズに対して姿勢を正す。
「パラムタウン駐屯地、遊撃隊所属のモローと申します。隊長が脳震盪で動けないため、代理で参りました。実は…ヘンデル氏に依頼したい事がありまして…」
「依頼?」
避難民で溢れる状況下、レシラム教騎士団の団員が依頼してくる内容を想像できず、ヘンデルは疑問の声を漏らす。コジョンド、いやモローは頷き、声を抑えてヘンデルとノイズに話す。
「我々が回収した死体の身元確認に立ち会い、こちらの電信機で騎士団本部に報告させてください。急ぎのため、報告の際にはヘンデル氏の名前で死体の身元を証言していただきたく…」
モローから依頼内容を聞いたヘンデルは思わず顔を顰める。だが、レシラム教騎士団が治安維持に貢献している以上、その要請を無碍にするわけにはいかない。ヘンデルは戸惑いの表情を一瞬だけみせるが、すぐに首肯する。
「依頼は引き受けるけど…流石にこの子を連れて行くわけにはいかないよね…」
ヘンデルは呟き、視線をエリスに向ける。穏やかに寝ている彼女を死体のある場所に連れて行けないと判断したヘンデルは、エリスを誰かに託そうとフロア内を見渡す。
頼みの綱であるノイズは、ヘンデルが不在の間に代理で指揮をとる必要がある。弟子達はあちこちに散らばり、それぞれの任務を全うしている。避難民の多くが疲れ切っており、不安げな顔をしている。
それらを見渡したヘンデルは小さな溜息をこぼす。
直後、堰を切ったようにエリスが泣き出し、ヘンデルは子守唄を歌う。しかし、エリスが泣き止む様子はなく、周りの避難民の注目を集める。
たとえ赤子の泣き声とはいえ、切羽詰まった現状ではストレスに感じる者もいる。
モローの依頼と泣き続けるエリス、指示を待つ人々、疲弊している避難民、それらを見渡したヘンデルの顔に困惑の色が滲み出る。
「あの…」
避難民をかき分けて、高身長の牝が姿を現す。その傍には低身長の牡も立っており、どちらもマントとフードを被り、フード内の顔はよく見えなかった。一見して避難民と思われる牝を見上げたヘンデルは、腕の中のエリスの泣き声が変わっている事に気がついた。
フードを被った牝が話す。
「もしかすると…お腹が空いているのかもしれません…よかったら、私がお乳をあげましょうか」
彼女はそう話し、ヘンデルの腕の中で泣くエリスの頭を撫でる。甲高い泣き声をあげるエリスだが、彼女が頭を撫でた事で機嫌を良くし、泣き声が弱まる。
フードを被る牝の提案を受け、ヘンデルは考え込む。
牡であるヘンデルでは空腹のエリスにお乳を与えることはできない。だからといって、お乳の出る牝を探そうにも、現状ではその余裕がない。加えて、エリスはフードを被った牝が頭を撫でた事で機嫌を良くしている。
明らかに、ヘンデルより彼女の方が赤子に慣れている。
その事を理解したヘンデルはフードを被る牝にエリスを手渡し、穏やかな声で話す。
「それじゃあ…お願いするね。この子はエリス、何かあったら、このノイズを頼ってね」
ヘンデルに名前を呼ばれたノイズが頷く。
フードを被った牝はヘンデルからエリスを受け取り、近くにある椅子に腰かける。彼女の顔はフードに隠れ、モローの視界に入らなかった。フードを被った牝は周りから見えないように背を見せ、マントの中にエリスを入れる。彼女はマント内で自身の乳房をエリスの口に咥えさせる。
彼女の傍にはフードを被った牡が立ち、大きなタオルで目隠しを作る。
目隠し越しに彼女の歌う子守唄が聞こえ、エリスがお乳を飲む音が微かに聞こえる。フードを被った牝の手馴れた動きにヘンデルは感心しつつ、モローの依頼を果たすべく、脚を動かす。
一方、2人の姿を見たモローは、微かに眉根を寄せ、僅かに首を傾げる。だが、モローはすぐに視線をヘンデルに向け、「お願いします」と話す。モローとヘンデルはその場を離れ、ギルドの外に設けられた死体安置所へと向かう。
ギルド内から外に出たヘンデルとモローは、階段を降りてバリケードの内側にある死体安置所に向かう。安置所、とは名ばかりの区画には、簡易テントが置かれ、その下には大量の死体が並べてある。その周囲にはノアが作り出した氷の塊が置かれており、死体が腐るのを可能な限り遅らせている。
死体安置所には家族や友人知人を探す者の姿もあり、並べられた死体の顔を確認し、泣いている者もいる。地面に跪き、大声で泣く姿を横目に、ヘンデルとモローは奥へと進む。
死臭と臓物と血の臭いで満ちた空間をヘンデルとモローは歩き、やがてモローの脚が止まる。
「この死体です」
モローは冷静な声で言う。彼の眼前にある死体は死体袋に入れられており、側には騎士団の団員が警備している。それを見たヘンデルは怪訝そうな顔をみせるが、モローの依頼を終わらせるべく、死体袋の中を見た。
「2人とも崖下に転落し、片方は転落死したようです。もう1人は何者かに襲われ、暴行され、生きたまま首を斬られたようです」
モローの説明を聞いたヘンデルの視界には、盲目のライチュウ、ライラと異端審問官であるバシャーモのリラが映る。2人の顔と彼らの首から下げられた黒い装飾品と白い装飾品、そしてリラの着ている異端審問官の服と魔除けの五芒星、それらを見比べたヘンデルは、静かな声で話す。
「…間違いない、調査団のライラと異端審問官のリラだね」
眼前の死体がライラとリラである事を確認し、ヘンデルは口に出す。彼らの身体は冷たくなり、石のように硬い。ライラの死体は目隠しが取られており、かつて暴徒に潰された目が露出している。リラの首には深い傷があり、彼女の目は半開きになり、濁った瞳で空を見ている。
モローは自身の手で、リラの目を閉じさせる。
「彼らの死体は手を握り合うように並べられていたため、一応を考えて一緒に回収しました」
モローの説明を聞き、ヘンデルは「そう…」と小さな声で呟く。対してモローは事務的な口調で話す。
「では…『異端審問官リラの死亡を確認した』と言質をいただけますか?」
モローの問いにヘンデルはゆっくりと頷く。彼の返答を見たモローは満足そうに頷き、警備している団員達に「死体袋に氷を入れろ」と命ずる。
「…この後はどうするの?」
モローの命令を聞いたヘンデルは、静かな声で尋ねる。モローは死体袋を一瞥し、静かな声で応える。
「電信による仮報告と高速便を使い、死体を本部に送ります。そこで団長による死亡確認と正式な報告書を作り、リラ様の死を外部に発表します」
「…それって、必要な事なの?」
ヘンデルの問いにモローは「はい」と返す。
「…彼女は多くの恨みを買っている。故に…消息不明では納得しない者もいる…」
「だからこそ、リラの死を発表して、恨みを終わらせる…」
ヘンデルの返答にモローは首肯する。任務とはいえ、死体の身元確認は気持ちが良いものではない。モローは疲れた顔で死体袋を見下ろす。
「…彼女は死んだ…死んだ事で罪を償い、魂が穏やかな世界に行けることを祈ります」
モローはそう話し、ヘンデルと共に黙祷を捧げる。
上空から騎士団の要請で派遣されたカイリューの高速便の姿が見える。それを見上げたヘンデルは、太陽の光で目を細める。
「…偶然なのかな?」
ぽつりとヘンデルが呟いた。
その声はモローに届かず、すぐに消えた。
*
水の大陸、ワイワイタウンにて。
暴動が終結し、数日が経過した。街は落ち着きを取り戻し、市内と街の出入り口には騎士団が駐留し、保安官事務所と共に治安維持に勤めている。街の中でも一番大きな建物、レシラム教の教会には仮設の野外病院があるが、重傷者は減り、命の危機にある者はほとんどいない。医療スタッフも落ち着いて行動できており、先日の暴動が嘘のように思える光景である。
ベッドの合間を歩く牝のエースバーン、エリースは白衣に身を包み、患者の包帯を交換している。
牝のグラエナの前脚には傷があり、その痛みに彼女は悲鳴をあげる。ベッドの傍には彼女の子供が座っており、母親の傷を不安そうに見ている。
「はい、これで交換は終わりです。後ほど、医師の回診がありますからね」
エリースは努めて明るい声で話しかけ、子供の頭も撫でる。グラエナの親子はエリースに礼を述べ、母親はベッドに横になり、その脇に子供も横になる。
穏やかな光景にエリースは目を細め、次の負傷者の手当てに向かう。
オズボーンの死後、暫定的な後継者となったエリースは摂政の地位を継承し、レシラム教の最高権力者となった。しかし、当のエリース本人は以前と変わらぬ態度で医療班を率いて、負傷者の治療に当たっている。街の住民達もエリースやルールを慈善事業や医療活動で顔を知っているため、大きな抵抗や混乱もなく、穏やかに地位を継承できた。
なにより、騎士団団長にして親衛隊隊長のルドルフがエリースの支持を宣言した事で、エリースの支持基盤はより盤石となる。
ルドルフもまた、名高い武人であり、災害時や治安維持の際にも頻繁に現場で動く人物である。庶民からも慕われており、そんな彼がエリースの支持を宣言した以上、エリースの摂政への就任を反対する者はほとんどいなかった。
室内の負傷者を一通り回ったエリースは、侍女の差し出すグラスを受け取り、冷たい水を飲む。微かなレモンの香りが心地よく、エリースの疲れを癒す。
「…それでは、あとはお願いします」
自身が率いる医療班に要請し、エリースは部屋を後にする。その後ろには付き人のレオンの姿もあり、エリースと共に教会内を移動する。
野外病院を後にしたエリースとレオンは教会に併設された庭園へと脚を運ぶ。
外界と隔離された空間は、手入れされた花々と草木で溢れており、噴水の横にあるベンチに腰かけている人影がみえる。
影、牝のゼラオラの巫女は生まれたばかりの我が子の寝ている籠を見つめ、団扇で風を送っている。彼女の側には護衛を兼ねたルドルフの姿があり、身体の節々を覆う白い包帯には赤黒い血が滲んでいる。
噴水の周囲には虫除けの香が焚かれており、そこに脚を運んだエリースは丁寧にお辞儀をする。
「殿下、巫女様、お加減はいかがですか?」
摂政の地位に就いたとはいえ、エリースの振る舞いはいつも通りである。巫女はそんなエリースを見て、苦笑いをこぼす。
「赤子の世話がこれほど大変だとは思わなかったけど…楽しくやっているよ」
少し疲れた顔で巫女は話す。ルドルフは穏やかな眼差しで巫女と赤子を見つめ、エリースはくすくすと嬉しそうに笑いをこぼす。
巫女は団扇を仰ぎながら、話を続ける。
「流石に、ここ数日は特に疲れたが…カヌレさんがしっかりと支えてくれたからな。今は休むように言っているよ」
「…確かに、さすがの私も疲れましたね」
巫女の言葉にエリースは同意し、籠の中を覗き込む。白いゼラオラの赤子が穏やかな寝息をたてており、エリースの目尻が緩む。
「ところで…お名前は決まったのでしょうか」
顔を上げたエリースの問いに巫女は首を左右に振る。
「この子が産まれた翌日にオズボーンが死んじまったからなぁ…どうしたものか…」
巫女は小声で呟き、視線をルドルフに向ける。ルドルフは巫女の視線に気づき、「なにか?」と尋ねる。
巫女がにやりと笑う。
「どうせなら…パパに名前を決めてもらおうか、ゆくゆくは弟や妹もたくさんできるだろうから、長男の特権だな!」
巫女の言葉を聞き、ルドルフが大きく咽せ込む。死亡した主君の妻を娶るだけでも異例中の異例の事だが、その主君の実子の名付け親兼育ての親になる事は更に珍しい事である。だが、巫女を娶ると決めた以上、その責任を果たすべく、ルドルフは息を整え、籠の中の赤子を見る。
やがて、ルドルフは静かな声で話す。
「…ロア、ロアはどうだろうか」
ルドルフの命名を聞き、巫女は「ロア…」と呟く。
「知識を意味する古い言葉です。この子には、多くの知識を身につけ、皆を導いて欲しい…」
ルドルフは語尾に「オズボーン様のようにならないためにも」と付け加えそうになるが、それを抑えた。巫女は少し考え、人懐っこい笑みでルドルフを見上げる。
「ロア…良い名前じゃないか!決まりだな!」
唯一の血縁者である母親の巫女が同意した以上、否定する者は誰もいない。巫女はニコニコと笑みを浮かべ、「ロア」と名前を呼びながら団扇を仰いでいる。
妻と子の幸せそうな姿を見たルドルフは、小恥ずかしそうに頬を掻き、視線をエリース達から逸らす。
庭園に人影が現れる。
エリース達が視線を向けた先には、騎士団の副団長であるブリガロンのガロンと婚約者であるラウドボーンのルールの姿がある。身重のガロンを労るかのようにルールは荷物やガロンの装備を運んでおり、その姿を見たルドルフは苦笑する。
騎士にとって、剣は命であり誇りである。
特にガロンは自身が装備する剣を、他人に触れさせる事が一度もなかった。それはルドルフも例外ではなく、ガロンは自身の剣を自ら管理し、手入れしていた。
そのガロンがルールに剣を預けている姿を見て、ルドルフは彼女の変容を感じた。
ルドルフの心境を知らないガロンはいつも通りにルドルフに敬礼し、「報告です」と言い、紙面を彼に手渡す。
「草の大陸、トレジャータウンのプクリンのギルドより速報です。カピンタウン駐屯地の遊撃隊副長のモローより、『異端審問官リラと身元不明の全盲のライチュウの死体を収容した』との報告があります。死体の身元確認はヘンデル氏が行い、言質も取っているとのことです」
紙面に目を通し、報告に耳を傾けたルドルフがガロンに尋ねる。
「…死体はいつ届く?」
「数時間以内には届く予定です。報告書の確定のためにも、調査団団長殿にも死体の確認を依頼する予定です」
ガロンの報告を聞き、ルドルフは顎に手を当てる。ルドルフは考え込み、やがて視線をガロンに向ける。
「…カウフマンとヴィレム、フルトは見つかったか?」
ガロンは首を左右に振る。
「カウフマンとヴィレムは所在不明ですが…ノエタウンの教会の駐屯部隊が我々の暗号通信に引っかかったことを考えると…」
「ノエタウンにいる可能性がある、か…監視はしているか?」
「付近の駐屯地から偵察を出していますが…教会周囲を警備している兵士はレシラム教の者ではありません」
ルドルフの目が僅かに開く。
「装備は騎士団の物ですが…教会駐屯部隊の兵士の振りをしている可能性があります」
ガロンの報告を聞き、ルドルフは「ふむ」と呟く。
「装備を奪われたと仮定すると…部隊の兵士は殺されたかもしれないな…教会内の人質はいるのか?」
「最後に確認できた時点で、教会関係者や従者など…20人ほどが教会内にいたようです。旅人や来訪者も人質になったと仮定すると…30人ほどの人質がいるかと思われます」
「…情報が欲しいな」
ルドルフは小声で呟き、紙面を読み返す。敵の装備や目的がいまだに不明な以上、安易に部隊を送り込んだとしても、返り討ちや人質殺害などに至る可能性がある。現に、新兵器で武装した暴徒にルドルフを始めとした騎士団は致命傷を受け、多くの騎士が殉職した。
(仮に教会が拠点として使われている場合…重装備やトラップもあり得る…)
ルドルフは苦い表情で考え込む。そんな彼の眉間の皺を消すかのように巫女の指が当てられる。
「こらっ、ロアの前では怖い顔をするなよ」
巫女にそう指摘されたルドルフは恥ずかしそうに顔を緩め、籠の中のロアに目を向ける。ロアは寝息を立てて、穏やかな表情で寝ている。
大きな影が現れる。
影、騎士団の一員であるウインディはルドルフとガロンに向かい敬礼し、紙面を手渡す。
「速報です」
ウインディから紙面を受け取ったガロンは礼を述べ、それに目を通す。彼女の目が僅かに見開かれ、ルドルフは「なんだ?」と尋ねる。
ガロンは視線をルドルフと合わせ、声を殺して報告する。
「…牡のエンペルトの商人…フルトが見つかりました」
*
ニコルの目が開いた。
彼女が視線を左右に向け、辺りを観察する。ニコルの視界には白い空間が映り込み、ニコルの眼前には卓袱台が置かれている。卓袱台には白いポケモンとギラちゃんが座っており、彼らは横目でニコルを見る。
『やっほ〜』
『直接、顔を合わせるのはあの時以来だな』
白いポケモンとギラちゃんはニコルに向かって手を振り、マイペースに挨拶をする。自身をトラブルの渦中に放り込んだ2人を目の当たりにしたニコルは、満面の笑みで左手の中指を立てる。
「何の用だ、クソ野郎共が」
初手から挑発的な態度をみせるニコルに対して、白いポケモンは口角をあげ、ニヤリと笑う。
『そんなに怒んないでよ、せっかく状況が良くなっているから、追加アドバイスをしてあげようと思ったのに』
白いポケモンの話を聞いたニコルは、続けて右手の親指を下に向ける。彼女の目には怒りの色が滲み出ており、白いポケモンを睨みつける。
「レイプされる事が良い状況?舐めた口を聞くなら、アンタらの玉を潰すわよ」
ニコルの脳裏に、ヴィレムに強引に抱かれるシーンが過ぎる。ニコルは悔しそうに歯軋りするが、白いポケモンはケラケラと笑い、ニコルに目を向ける。
『何を勘違いしているのか知らないけど…僕は厄災を止める事について話しているんだよ。ヴィレムやグレーテが君に何をしたとしても…僕の与り知らぬ事だよ』
卓袱台越しに白いポケモンはケラケラと笑う。ギラちゃんは我関せずといった表情でお茶を飲み、ときおり横目で見る。
彼らの態度を目の当たりにしたニコルは、憎悪の目を彼らに向ける。
(あぁ…そうだった)
白いポケモンにとって、ニコルの人生は『ゲーム』なのである。ゲーム内のキャラクターが殺されようが犯されようが、プレイヤーは知らぬ存ぜぬを貫き通せる。現に白いポケモンはプレイヤーの立場でニコルを見ており、現状のニコルに関しても『ゲームのキャラクターが悲惨な目に遭うイベントシーン』としか捉えていない。
ニコルは握り拳を作り、卓袱台越しに白いポケモンに殴りかかる。
ニコルの握り拳は白いポケモンの手前で止まり、ニコルは見えない力で弾き飛ばされる。その姿を見た白いポケモンはゲラゲラと笑い声をあげ、目尻に涙を浮かべる。ギラちゃんは鼻で笑い、ニコルを見る。
『まさか…プレイヤーを襲うとは…メタなイベントだね』
白いポケモンは目を細めながら、ニコルを見る。その目はニコルを見下しており、ニコルは悔しそうに睨みつけている。
ギラちゃんはくすくすと笑い、ニコルを見る。
『良い事を教えてやろう…この方法ならカフカやエミル、ノア、フランツが消える未来を回避しつつ、星の停止を防ぐ事ができる』
ギラちゃんの言葉を聞き、ニコルの動きが止まる。
それは、ニコルの願望を果たしつつ目的を達成する事を意味する。まさに喉から手が出るほど欲しているものであり、ニコルはギラちゃんの顔を凝視する。
ギラちゃんは薄笑いを浮かべ、ニコルを見下ろす。
『だが…ただで教えるのは面白くない…それに反抗的なのはいただけないな』
『アイツらは素直だったのに…』と呟き、ギラちゃんは白いポケモンと目を合わせる。白いポケモンは愉快そうに笑い、ニコルを見下ろす。
『サービスして欲しかったら、素直な態度を見せる事も大事だよ。彼らは僕たちの忠告を素直に受け止めたから、サービスしておいたけど』
その言葉を聞き、ニコルは悔しそうに歯軋りする。白いポケモンとギラちゃんはニコルの態度を愉快そうな顔で見つめつつ、彼女に与える罰を考えている。
やがて、白いポケモンは前脚で卓袱台を叩く。
『賭けをしようか、僕とギラちゃんで』
白いポケモンが突然、提案する。ギラちゃんはその言葉を聞き、白いポケモンの意図を読めずにいる。だが、白いポケモンは前脚をニコルに向け、薄笑いを浮かべる。
その動きから意図を読み取ったギラちゃんは『あぁ…』と呟き、ニコルに目を向ける。
『ならば、ヒントを教えてやろう。お前は既にカフカ達を救える立ち位置にいる』
ギラちゃんの言葉を聞き、ニコルは驚きの表情を浮かべる。だが、ギラちゃんはそんなニコルにお構いなしに話を続け、視線を彼女に向ける。
『そもそも、星の停止を阻止した場合にカフカ達が消えるのは、【過去の世界で事前に星の停止を予防した時間軸】に至った場合だ。だが、【星の停止を過去の世界で起こし、かつ星の停止を止める】時間軸ならば、カフカ達の存在条件である【星の停止の発生】を満たす事ができる』
「…」
ギラちゃんの言葉を聞き、ニコルは驚きの顔を浮かべる。ギラちゃんは涼しげな表情で話を進める。
『カフカ達の消滅条件は、【過去の改変】であり、【過去の改変】を起こさずに【新たな未来】へと誘導した場合、カフカ達が未来の世界へ戻れなくなるが…存在は消えない』
「…じゃあ、既に星の停止は起きているという事?」
ニコルの質問に対して、ギラちゃんは頷く。ギラちゃんはお茶を飲み、話を続ける。
『星の停止は惑星の自転周期が変動した事で、時間の概念が崩壊した事に起因する。その一番の原因は過去の世界と未来の世界を多数の生命体が行き来する事だ』
『時の波紋を使う際、過去と未来の時間軸が一瞬だけ一致するが、そのために自転周期にごくごく僅かな影響を与える。その影響が積み重なり、やがて星の停止へと至るよ』
白いポケモンがギラちゃんの言葉を補足する。ニコルは彼らの話を聞き、やがて大きな目を見開く。
「まさか…未来から過去への軍団規模の移動が原因?」
ニコルの呟きを聞き、白いポケモンとギラちゃんが頷く。ディアルガの秘宝と時の歯車を使い、強引に時の波紋を開いた将校と時の守護者達、そして時間軸を超えた軍団規模の移動、それらが星の停止に繋がる原因であり、カフカ達が消える未来を既に回避したと言える。
だが、ニコルの表情は暗いままである。
カフカ達が消える未来を回避できた事は喜ばしい、だが既に星の停止が始まりつつある事を知り、ニコルはどう対処すべきか、わからずにいる。
そんなニコルを見下ろした白いポケモンとギラちゃんは薄ら笑いを浮かべる。
『大丈夫、星の停止の止め方を教えるよ』
白いポケモンはニコルを見ながら話す。
『先ほども言ったように、星の停止の原因は軍団規模の時間軸の移動だ。だが、まだ初期段階であり、これ以上の移動を阻止すれば、星停止は十分に阻止できる』
『わかりやすく言えば、感染初期での早期治療、だね』
ギラちゃんと白いポケモンの言葉を聞き、やがて何かを理解したニコルが彼らに尋ねる。
「…つまり、将校とグレーテから時の歯車とディアルガの秘宝を回収して、これ以上の時間軸の移動を防ぐ…」
ニコルの呟きを聞き、白いポケモンは『そのとおり』と返す。ギラちゃんも薄ら笑いと共にニコルを見下ろし、お茶を飲もうとする。
だが、湯呑みの中は冷え切っており、ギラちゃんの表情が曇る。
ギラちゃんの隣に新たな影が現れる。
影は卓袱台の上に新たな湯呑みを置き、冷えた湯呑みを回収する。ギラちゃんの身体でニコルからは死角になり、影の正体ははっきりと見えない。
ニコルの鼻にオレンの実の香りが広がる。
心地良い匂いとは裏腹に、白いポケモンとギラちゃんは冷たい笑いを浮かべる。
『さてと…賭けの内容だけど…』
白いポケモンが話をする途中で、ニコルの意識は戻る。
四つ這いにされたニコルの後方からヴィレムが覆い被さり、ヴィレムは腰を振っている。パンパンと湿った音が室内に広がり、ニコルの口からは喘ぎ声が漏れている。
「お、おぉ…」
ベッドに肘をつき、顔を枕に埋めたニコルの口から醜い声が漏れるが、ヴィレムは嬉しそうに笑みを浮かべ、ニコルを征服できた事への喜びをみせる。
「あぁ…気持ち良いぜ…」
恍惚とした表情でヴィレムは腰を振り、やがてニコルの身体を後方から抱え、彼女の身体を起こす。そのままヴィレムは胡座をかき、その上にニコルを座らせる。
ヴィレムの一物がニコルの膣により深く突き刺さり、ニコルの子宮口に達する。その衝撃でニコルの大きな瞳が見開く。
ニコルは大きく身体を仰け反らせ、四肢に力を入れて、やがて脱力する。ヴィレムもまた、ニコルの最奥で精液を放ち、満足した表情でニコルの膣から一物を引き抜く。
目尻から涙を垂らすニコルは、辺りを見回して思い出す。
(ここに連れて来られて…どれくらいが経過したのか…)
トレジャータウン近くの診療所から拉致されたニコルだったが、人質の存在もあり、自死も反抗もせず、グレーテとヴィレムに大人しく従う生活を送っていた。食事は部屋に運び込まれ、隣接するトイレで排泄し、それ以外の時間はヴィレムに犯され続けている。
しかし、ニコルにとっての恐怖はもう一つある。
「…さてと、次に行こうか」
ヴィレムの持つテクニックである。暴力的な牡であり、殺害や拷問も厭わないヴィレムであるが、性的なテクニックと一物の大きさは規格外であり、ニコルに対して性的な調教も行っている。
その技術は凄まじく、既にニコルはヴィレムの手技に陥落していた。
身体を開発され、調教され、未知の快感を教え込まれたニコルは、自分自身が別人になるかのような錯覚を覚え、恐怖している。だが、ヴィレムはお構いなしにニコルを調教し、自身の欲望を放っている。
ヴィレムはニコルの膣に一物を挿入し、愛撫を再開する。
その感覚にニコルは喘ぎ声を漏らしながら、心の中ではオズワルドやヘレン、トレジャータウンの事を考えている。
そして、白いポケモンが口に出した言葉を。
『ニコルの胎の子は、牡と牝…どっちかな?』
白いポケモンは話した。
既に星の停止の初期段階にあると。
それを止めるにはディアルガの秘宝と時の歯車をグレーテと将校から回収する必要があると。
だが、白いポケモンはそれすらもゲームとして楽しんでいる。ゲームのプレイアブルキャラクターであるニコルが悲惨な目に逢おうと、白いポケモンは微塵も気にしない。
その気になれば、白いポケモンとギラちゃんは星の停止を阻止することができる。そのやり方も知っている。だが、彼らは自分たちが阻止する気はない。
(…ゲームなのだから)
ヴィレムに犯されながら、ニコルは静かに考える。
白いポケモンにとって、ニコルの人生やこの世界はゲームである。そのため、世界の行く末やニコルの胎の子の性別をネタに、ゲームに興じている。
(あぁ…殴れなかった事が悔しい…)
ニコルは心の内で白いポケモンの顔を殴る想像をしつつも、ヴィレムの性技により、嬌声を上げ続ける。
ふと、ニコルは白いポケモンの言葉で、気がついた。
(胎の子…)
ニコルの視線が、己の下腹部に向けられる。
絶頂を迎えニコルはヴィレムに後ろから抱かれ、そのまま攻めを受け続ける。
室内にニコルの声が広がる。