Scape wolf 2-20「決意」

  「決意」

  

  翌日、ブラムは、リュバンの集落で目を覚ました。

  昨夜は、結局スヴェートに突き飛ばされ止む無く集落に戻ることにした。

  彼女は、大丈夫だろうか。

  ブラムは、気づくとそのことばかりを考えていた。

  剣の欠片は、去り際に回収したが、不安は拭えなかった。

  彼は、簡単に身支度を済ませると、川の方に向かうため外へ出た。

  その瞬間、不安は杞憂に終わった。

  スヴェートは、テントの出入り口の隅で落ち着かない様子で立っていた。

  「あ、おはよう…ございます…」

  彼女は、ブラムに気づくとぎこちない口調で言った。

  「う、うん…。おはよう…」

  気のきいた言葉がないかと思ったが、ブラムも結局ぎこちないあいさつを返すことしかできなかった。

  「あの…。昨夜は、失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした」

  スヴェートは、そう言うと頭を下げた。

  「気にしなくて良いよ。悪いのは、僕の方なんだから」

  ブラムは、そう言うと身支度を整えなおすためにテントに戻ろうとした。

  「でも…」

  「良いんだ。それよりも朝食にしよう。昨日から何も食べてないから倒れそうだよ」

  

  ※

  

  集落の外れに作られた霊安室用のテント。マリは、そこで一人遺体の顔を見つめていた。

  騎士団の二度目の襲撃に備えて集落を警備していた時に助けを求めてきた騎士団の青年だった。

  「また、救えなかった…」

  マリは、独りつぶやきながら青年の顔を撫でた。

  「マリさん…」

  突然、呼びかけられマリは思わず身構えた。

  声の主は、スヴェートだった。

  先の戦いでケガをしたとガルムから聞いていたが、思っていたほど重症と言う様子ではなかった。

  「少しよろしいでしょうか?」

  彼女は、そう言うと一礼をし外に出た。

  マリは、青年の顔を名残惜しそうに見つめると、妖精の後について行った。

  スヴェートは、霊安室から遠く離れた森の中でようやく立ち止まると、ゆっくりと話し始めた。

  「ブラムから聞きました。貴方がウールヴヘジンに復讐を誓っていることを」

  「そうか…」

  「聞いておきたいのですが、今でもその気持ちは変わっていませんか?」

  「当然だ」

  マリは腕を組みながら答えた。

  「ヤツらは、私の人生を奪い、父を殺した。簡単に心変わりできるわけがないことは、お前やブラムも、良く分かっているはずだ」

  「そうですね…」

  スヴェートは、小さく頷いた。

  「でも、私たちは、その先にあるモノも知ってしまいました」

  「…」

  「私は、貴方にこんな思いをしてほしくありません。

  だから、私は、貴方の復讐を止めたい。

  貴方のなかの復讐の火を消すために、私は貴方とともに旅がしたい」

  「それは、私が何を相手にしているのか分かっての言葉か?」

  「はい」

  「偽善だな」

  マリは、鼻で笑うように言った。

  「ちょっと違います」

  スヴェートは、口もとに笑みを浮かべながら言った。

  「これは、私のワガママです。

  私は、復讐を終えて生きがいを失ってしまいました。

  だから、今度は貴方にまとわりついて、貴方の復讐を止めることを生きがいにしたいんです」

  彼女は、自分では笑顔を作っているつもりなのだろう。

  だが、その表情は、どこかぎこちなかった。

  「少しの間で良いんです。私のワガママにつきあってくれませんか、マリ?」

  スヴェートは、そう言うとマリに向かって手を差し出し首を傾げた。

  マリは、断ろうと口を開きかけたが、彼女の目を見て思いとどまった。

  その目には、ワガママと言う言葉では形容できない強い決意の色があった。

  恐らくここで断っても、彼女は、勝手について行こうとするだろう。

  マリは、わざとらしくため息をついた。

  「勝手にしろ。どうせ、すぐに無理だと分かるさ」

  

  ※

  

  翌日太陽が南の空高く昇りはじめた頃、リュバンの国民たちは、新しい居住地に旅立つため各テントをたたみ始めていた。

  周辺の土地から逃げてきたヒトビトや生き残った騎士団たちは、すでにもといたところや新天地を求め集落を後にしていた。

  マリとブラム。そしてスヴェートの三人も、その集団に交じって出発していた。

  ゲリは、彼らが寝起きしていた二つの来客用のテントうち男たちが使っていた方を片付けていた。

  家具をあらかた退け最後にテーブルを片付けようとした時、彼女は、上にブリキの箱のようなモノが置かれているのを見つけた。

  誰かの忘れ物だろうか。拾い上げて箱に書かれた文字を見る。

  「ブラッドドロップ?誰のモノかしら?」

  と彼女が独り言をつぶやいた時だった。

  「ねえ、ゲリ」

  フレキが入り口から呼びかける声が聞こえた。

  見ると、彼女の手には、布に包まれた金属片のようなモノがあった。

  「これ、女の子用のテントにあったんだけど、誰のか分かる?」

  フレキは、そう言うと金属片をゲリに手渡した。

  ゲリは、金属片を覆う布をほどいて中身を見た。

  「見たところ、剣の先端みたいね…。丁寧に包まれているところを見ると、誰かが捨てたモノではないと思うけど…」

  「ゲリも、そう思う?やっぱりガルムに預けた方が良いかな?」

  「そうね。でも、その前にヴィヴィアンに色々鑑定してもらいましょう」