Scape wolf 1-7「奇妙な道づれ」

  「奇妙な道連れ」

  

  村を出発してから日暮れまで、マリは、無言で暗い森の中を歩き続けた。

  ブラムも、それを追って黙々と足を進めた。

  楽な道のりではなった。

  森の中は、悪路に次ぐ悪路。

  金属の武器に加えて、種々の旅用具と一週間分の食料が入った皮袋を背負っているので、余計に身体に負担がかかる。

  舗装された道と違い地面を蹴った時の反発が少ない事と木々が日差しを遮ってくれる事が数少ない救いだった。

  日除け用の帽子と防寒用の襟の立った黒いマント。

  それが、ブラムの旅姿だった。

  マントの下には、彼が持っていたモノの中で一番上等な服が隠れていた。

  だが、彼の前を歩くマリのコートの下の服は、それよりもずっと立派なモノだった。

  服に興味のないブラムでも、それらが一流の職人の手によって高価な材料から生み出されていることはすぐに分かった。

  出発前、ブラムが今の服を選んだ理由も、マリのこの服に張り合うためであったが、いざ彼女と並んでみるとやはり見劣りしてしまう。

  だが、それは、服のためばかりでもないだろう。

  ブラムは、密かにそんなことを思っていた。

  

  「今日は、ここで寝る」

  日が暮れてからしばらくして、マリは洞窟の前で立ち止まるとそう言った。

  「先客がいないと良いね」

  ブラムは、冗談交じりにそう言うと、洞窟の中に入った。

  生き物の気配はない。

  湿気は、それほど酷くなく、広さも充分にあった。野宿するには、ちょうど良い環境だ。

  マリが、後に続いて中に入る。

  「わずかだが、鹿の匂いがする。三日前ほどに、ここを離れたみたいだな」

  彼女は、洞窟の中を眺めまわしながら言った。

  「そんなことも分かるんだ」

  ブラムは、感心してつぶやいた。

  人狼は、魔物の中でも特に五感が鋭いと言われている。噂によれば、数メートル先の水の落ちる音を聞き分け、数キロ先にある一滴の血の匂いも嗅ぎ取ることもできるらしい。

  「新鮮な肉にありつけると思ったが、残念だな」

  マリは、そう言うと、その場に座り込み荷物袋の中を物色し始めた。

  ブラムも、彼女の前に腰かけ野営の準備を始めた。

  初日の野宿は、なかなか快適なモノだった。

  食事は、硬いビスケットと干し肉と味気ないモノだったが、とりあえず腹は充分に膨れた。

  食事が済むと、ブラムは焚火を熾して湯を沸かし、茶を淹れた。

  これで、身体も温まる。

  この間、二人の間に会話らしい会話は、なかった。

  ブラムは、早く打ち解けられるよう二言三言質問を投げたが、マリの返答は、素っ気のないモノだった。

  ―マリは、ストレイになって、どれくらいになるの?

  ―覚えてない。

  ―その服、素敵だね。どこで手に入れたの?

  ―お前には関係ない。

  こんな具合だった。

  その日、マリについて分かったことは、彼女が無愛想であるということくらいだった。

  茶の入ったヤカンが空になり夜もだいぶ更け始めた頃、マリは、荷物袋を枕にして横になった。

  やがて、彼女は、規則正しい寝息をたて始めた。

  眠っているが、意識の半分は目覚めている。

  村に来る以前、ブラムも野宿をする時はそう言う寝方を心がけていた。

  野獣や盗賊、時には魔物。森の中は常に危険に満ちている。

  そう言う場で、無防備でいることは、すなわち死を意味している。

  寝る時も、気を抜く訳にはいかないのだ。

  ブラムは、洞窟の壁に背を預けながら、外を見た。

  「懐かしいなあ」

  そう言いながら、彼は、目を閉じた。

  昔の旅のことを思い出しながら。