執事戦士ボーパル、最後の戦い

  華やかな未来都市は格差社会であった。

  新鮮な空気と太陽光、そして文明の利器に囲まれた上層、

  そして淀みの底。

  太陽光すらあまり届かないゴミ溜めとなっている下層。

  この二つに分かれている。

  様々な苦難によって下層市民が市民権を手放し奴隷になるというのはよくあることだ。

  それどころか自ら身売りして奴隷になる者すらいる。

  自ら奴隷になるからには相応の理由がある。

  奴隷になるということは

  わずかながらにチャンスがあるということでもある。

  金持ちに気に入られれば大逆転!

  金持ちの愛玩用奴隷として上層での快適生活を手に入れられるわけだ。

  当然奴隷という所有物であるゆえに

  何をされるのかは分かったものではないのが難点だ。

  99%以上の奴隷はごく普通に労役奴隷などになり、

  死ぬまで働かされるだけである。

  割に合う賭けといえるかどうかは……。

  それでも容姿に自信のある下層市民は身売りして

  残された家族にわずかな金を残しつつそのチャンスを取りに行く。

  彼は幸運な奴隷ではなかった。

  彼は奴隷としての価値すらつかず、素材としてバラされてしまった。

  生物としてはその時点で死亡扱いとなり、

  もはや奴隷ですらなく、ただの生体パーツとして物品となる。

  その彼の生体パーツのうち、

  最も彼自身の本体と言える脳はアンドロイドの生体脳として使われた。

  アンドロイドとしてのシステムをインストールされ、

  ベースシステムを構築された。

  生まれ変わった彼には名前がまだない。

  製品番号ならあるが、特に意味のない数字の羅列でしかない。

  いまはボディの電源が入っていないが、

  生体脳を維持するシステムは常時稼働している。

  その脳の中で意識を思いめぐらすことだけができる。

  脳だけとなった彼はまだ空っぽの領域、

  コアシステムをインストールされる領域を感じ取った。

  彼自身は己の現状を幸運だと感じていた。

  これから目的に応じたコアシステムがインストールされ、

  必要に応じてサブシステムがエミュレーションされる。

  それによってこれから自身がどうなるのか。

  彼はそれを楽しみに待っている。

  人格を失ったわけではない。

  生前の記憶は依然としてあるし、

  残っている人格も生前と地続きにできている自覚はある。

  しかし生前のことそのものは遠い過去か、

  或いは別人の記憶のように他人事に感じるようになった。

  もはや過去のことなどどうでもいい、

  彼は生まれ変わった自分自身を気に入っていた。

  下層に住んでいた生前の記憶を読み込んでみるが、

  こんな前世よりもずっと楽しいことになるはずだと期待している。

  身なりのいい男性がノシノシと歩く。

  やや太り気味で不健康にも見える。

  ライオン獣人なのは見ればわかる。

  特徴的なタテガミがわさわさしている。

  しかし体型がライオンとは言い難い。

  ブタとしか言いようがない。

  そのブタライオンの後ろに付き従う人物がいる。

  赤くて鋭い目付きで長いまつげをしている白兎の獣人である。

  ライオンとは対照的なスラリとした体型が中性的で美しい。

  耳には緑色に光るピアスがつけられている。

  彼、いやこれはアンドロイドだ。

  耳や角、顔の横などにつけられる光るピアスがアンドロイドの証となっている。

  彼の名前はセバスチャン、略してセバス。

  執事をしているからと、

  主人につけられたあまりにも安直な名前ではあるが

  彼はそれを気に入っていた。

  そして彼がこの話の主役である。

  「ザリフ様、本日のタスクは終了いたしました。

  夜間のスケジュールは空いています。

  何かご希望はありますか?

  なければご夕食などの予定をこちらで組ませていただきます。」

  彼の中のバトラー.SYSが口を動かし、

  話すべきメッセージの文章を作り出していく。

  彼の発声はバトラー.SYSにより生成されるシステムになっている。

  「あーそうだな。

  じゃあそうだ。軽く荒らしてこい。見に行ってやる」

  荒らしてこいという命令は過去ログとの照会により、

  定型行動として自動的に登録されている。

  荒らしてくるというのは文字通り荒らしてくる。

  何をというのは"大会"をである。

  見に行くのだから席の確保も必要。

  今晩中に行われる大会を検索し、発見。

  席の予約情報を確認してVIP席を確保。

  こういった執務は全て一瞬で行われる。

  「了解いたしました。

  お席の予約を済ませました。」

  ザリフと呼ばれたブタライオンの指輪から

  ホログラムで浮かび上がる小さなセバスが出てきた。

  道案内及び、自動運転などの些事はこれだけで済ませられる。

  物理的な支援は不可能になるが、命令上両立は不可能。

  そこで警護アンドロイドや介護アンドロイドを呼びつけた。

  間もなく到着するだろう。

  「御用がありましたら、指輪に申しつけください。

  それでは失礼いたします。」

  うやうやしく頭を下げ、

  そして音もなく去っていく。

  今日は楽しい仕事になる。

  システムに抑制された感情の中で、

  彼の脳は愉悦に満たされた。

  アンドロイドというものは

  人権のない所有物としては奴隷と似ているが

  基本的な扱いとしては奴隷よりも下である。

  奴隷は所有物として扱われるが、愛玩動物程度の扱いでもあるため、

  むやみに傷つけることはできないとされる。

  死ぬまで労働させるなど"結果的に"そういう扱いもしているが、

  拷問して遊ぶといった非道は行えない。

  一方でアンドロイドは完全な物品として扱われる。

  他人に迷惑のかからない範囲であれば、

  それを好き勝手に破壊しても何のお咎めもないのである。

  例え生体脳をパーツとして使用していても同様である。

  セバスは主人のザリフの注文で作られている。

  なんと上から下までフルオーダーメイドのアンドロイドだ。

  違法な改造もちょっとある。ちょっとだけ。

  大事にされている彼は愛玩用奴隷よりもいい生活をしている。

  例えば車を所有している。

  アンドロイドであるセバスは

  いちいちデバイスを立ち上げる必要はない、

  システムから直接呼出し命令コマンドを送信する。

  建物から出て道路に近付くと、

  窓が一つもない黒い車両が目の前に止まる。

  車内に乗り込むと発進、大会へと向かう。

  この車もただの車ではなくセバスのためにちょっと改造してある。

  会場に辿り着くと車から降りたのは黒兎だ。

  ライダースーツを模した戦闘服を装着し、

  赤い瞳をゴーグルで覆ってしまえば黒一色。

  車両の中で簡単な改造が行われたのだ。

  全身の白いファースキンが剥がされ、機械や装甲が剝き出しになる。

  代わりに黒いファースキンが張り付けられる。

  こうしてあっという間に黒兎となったわけだ。

  黒兎のアンドロイドが受付へと向かう、

  その美しさには受付をしているアンドロイドすらも惚れるかもしれない。

  「私はボーパルと申します。

  会場まで案内していただけますか?」

  黒兎となった今の彼の名前はボーパル、

  この都市の闘技場にふらりと現れては無双する大会荒らしの一人だ。

  歴史になるほど昔では猛獣同士、或いは奴隷同士の戦いを楽しんでいたように、

  現在はアンドロイド同士の戦いを楽しむ文化がある。

  結局は人間性といったものは昔から変わっていないのである。

  黒兎ボーパルの戦いはすでに始まっていた。

  相手は狼獣人型アンドロイド。

  データ表によると重量がそこそこある。

  おそらくはオールラウンダーといったところだろう。

  ただオールラウンダーというものは得てして半端なものである。

  惜しみなく銃撃を行う狼に対して、

  黒兎は回避に徹していた。

  疾走し、回り込み、接近戦を行うかのように見せかけ離脱。

  狼を翻弄していく。

  アンドロイド同士の戦いにおいては

  動きの演算とシミュレートが常に繰り返されるため、

  フェイントは無駄になりやすい。

  にも拘わらず翻弄しているということは、

  おそらくは生体脳の地の性能、センスの差がでているのだろう。

  ボーパルの耳がせわしなく動く、

  様々な音響データを測定しているという話だ。

  黒兎がブレたかのような動きを見せた、

  演算の癖を見抜き、その癖から逆算し、

  このわずかな動きからの狼獣人型アンドロイドはついに隙をみせた。

  1発の銃撃。

  軸足の関節を的確に捕らえたその一発は

  一瞬の隙を完全な無防備なバランス喪失へと拡大させた。

  狼からすると気づいたときには黒兎が目の前にいる、

  さらに次の瞬間は視界が宙に舞った。

  蹴りの一発で首を刎ね飛ばされた狼型アンドロイドは

  一撃で戦闘不能と判断され、

  ボーパルの勝利が宣言された。

  あまりにもあっけない。

  当然戦いはまだ終わらない。

  ボーパルはダブルアップを宣言。

  この闘技場では2回までのダブルアップが認められている。

  つまり最大で三連戦ができ、賞金をあげていくことができる。

  2戦目は圧倒的な巨体が相手、

  大型の重機を思わせるような熊獣人型のアンドロイドだった。

  キャタピラーのついた下半身は完全に戦車そのもの。

  その戦車に上半身が生えていた。

  相性があまりにも良くない、厳しい戦いになるだろう。

  ボーパルは体重から分類する場合は軽量級となる。

  軽量級となると積み込める武器や装甲も最低限となる。

  小回りや回避性能には優れているとしても、火力が低い。

  ここまでの超重量級が相手となると、

  装甲を破る手段自体が存在しないという可能性すらある。

  先の戦いのように関節部を狙うにしても限度がある。

  熊の上半身はまるでプレートアーマーのごとく装甲を隙間なく兼ね備え、

  ブレード一枚差し込む隙すらないだろう。

  試合が始まった。

  超重量級のボディに搭載された大型ガトリングが轟音と共に起動。

  すさまじい勢いで射出される弾幕による面制圧!

  この弾幕では最小限の回避というものは不可能。

  大きく迂回するような動きが強いられる。

  対するボーパルは銃撃で応じた。

  しかし彼の持つ小口径の銃で装甲に弾かれるのみで、貫くことは到底不可能であった。

  観客がこの状況をどう打開するのか固唾をのんで見守っている中、

  ボーパルが搭載している火器を惜しみなく使い打ち込み続けた。

  やがて観客の一人がその意図に気が付いた。

  同じ装甲ばかりを狙っていたのだ。

  装甲そのものは無事でも接続部はそうもいかなかった。

  微細な傷のせいでついに緩み始めた。

  ボーパルがそれを見逃すはずもなかった。

  鋭く低い動きで弾幕を潜り抜け、緩んだ装甲へと飛びつく。

  全身を駆動音が聞こえオーバーヒート前提の100%超えの出力を発揮することで、

  力ずくでその装甲を引っぺがした。

  ついに攻めに転じる。

  始まったのは殴打!殴打につぐ殴打!

  四肢の稼動力は限界を超え続けていたが、

  そのまま攻め手を途切れさせるわけにはいかない。

  装甲をそのまま即席の武器として重量を頼りにした攻撃を行い続ける。

  戦車型の下半身から接近戦用の武器がでてくるも、

  今度はその装甲板を盾として扱った。

  重量で威力を補い、その装甲板を武器へ叩きつけ、

  そして隙ができれば首へと叩きつけ続けた。

  ボーパルが優勢になりだし会場が湧き出したその時、

  残念なことにタイムアウトとなってしまった。

  勝敗は判定という形になった。

  両アンドロイドが並んで立つ。

  ボーパルの全身からはオーバーヒートの熱気が上がっているが、その程度だ。

  大きな被弾はなくほぼ無傷。

  その一方で相手の熊型アンドロイドは半壊と言えた。

  武器の大半は破壊され、

  剝がされた装甲板で執拗に狙われた首は斜めに曲がってしまい、

  寝違えたどころじゃないくらいに変な方向を向いている。

  あと少し時間があれば首を刎ねられたかもしれない。

  こうしてこの2戦目でも私の勝利が宣言されたわけです。

  しかし、これは反省せねばならない結果でしょう。

  私が予約したVIP席を視界の端で捕らえ、拡大、解析を行ったところ、

  我が主人のザリフ様は面白くない、そう言いたげな顔をしております。

  確かに首も刎ねられなかった上に時間内で倒しきることすらできない情けない結末。

  これは"ボーパル"という名に恥じるべきつまらない勝利としか言いようがありません。

  損耗も大きく、ここで引くことも検討しておりましたが、

  私は2度目のダブルアップを宣言するほかありませんでした。

  ダブルアップでは装備の補給も修理も行われません。

  大きな被弾がなかったとはいえ、ほとんどの銃器は弾切れ、

  休憩とも言えないわずかな時間の後に、

  オーバーヒート気味の今の状態のまま3戦目へと挑むことになります。

  三戦目は、細身の鹿獣人型アンドロイドです。

  対戦相手のデータによると軽量級、

  そして、おそらくは完全な同タイプだろうという予測を立てます。

  戦闘はバトル.SYSに任せます。

  すぐさまにシミュレートを開始し、相手の行動を予測し始めてくれます。

  私の耳がせわしなく動き始め、データを収集を開始します。

  私のバトル.SYSは相手の情報を収集し、最適な動きを導き出す解析型。

  そしてこの耳全体は可動式収音アンテナであり、

  関節部のわずかな駆動音も拾い上げることが可能。

  この耳からの音声を中心にあらゆる情報を読み解きます。

  相手の鹿獣人を同タイプと判断したのは、

  飾りというにはあまりに複雑で重量のありそうな角からです。

  アンテナの一種であると予測は立てられますが、

  非稼動タイプであるため、何の情報を集めているのかは現段階では不明です。

  試合が始まりました。

  相手の鹿獣人型アンドロイドは迷うことなく撃ってきました。

  撃たれたらさすがに動かねばならないでしょう。

  小口径であろうと、私にはそれを受けられるような装甲はありません。

  動くたびに様々な情報が漏れ出ることになってしまいます。

  まずは反応速度と対応速度。

  サーモグラフィ程度は当たり前のように搭載しているはずです。

  そこから推測される内部熱量、オーバーヒートからくる性能の低下。

  ですが、当然ながらそれはお互い様です。

  残りわずかな弾薬の状況を加味してバトル.SYSが撃つと判断したようです。

  牽制の一発。

  この銃は最初から意図的に銃身を曲げてあります。

  曲がっているために銃口の向きから推測できる射線とは異なる

  想定外の弾道で銃弾が弾き出される。

  銃口の向きからの反応速度、

  そして想定と異なる方向へ出る弾に対応する2段階目の動き、

  1発でも得られる情報は数多くあります。

  牽制と割り切っていれば当たらずとも構わないし、

  曲がっている銃というものも使いどころです。

  得られた情報からやはりあの角で電波を拾い上げていると

  バトル.SYSは結論づけたようです。

  バトル.SYSは隠し玉を使うことにするようです。

  この耳はただのアンテナというだけではありません。

  強力なジャマーです。

  相手の主な情報源を割り出したうえで、強力な電磁波や音塊に波動を放つことができます。

  要するに対特殊センサー向けの目くらまし、ということです。

  このボーパルにとってはその一瞬で十分なのです!

  鹿獣人型アンドロイドも大体似たようなものであった。

  ただ、さらにその上を行く機構が備わっていた。

  それはハッキングだ。

  解析した時に強制停止コードに組み変わるように仕込んだ電波を放つ。

  それにより相手のバトル.SYS自体を停止させて致命的な隙を作るといった代物である。

  鹿獣人型アンドロイドの方が仕掛けが完成する方が早かった。

  ボーパルの耳からジャマー放たれるよりも先にハッキングによる強制停止が発動する。

  突如のことだった。俺の目の前が真っ赤になったという錯覚を覚えた。

  実際には視覚情報は続いているのだが、

  頭の中で一斉にエラーが表示されたことにより

  真っ赤になったように感じた。

  不明の理由によってバトル.SYSが停止した。

  突然のシステムシャットダウンにより、思わぬ隙を晒した。

  相手の鹿獣人が振動ブレードを腕から出しながら

  まっすぐに突っ込んでくるのが見えた。

  俺はどうする?そう、俺は……。

  急激に明晰にすべてが見えてきたように感じた。

  バトル.SYSは動かない、

  バトラー.SYSも連携が乱れてまともに動かない。

  天才的センスを持つ戦士のボーパルでもなく、

  瀟洒な口調のセバスでもない、

  何もエミュレートしていない俺自身のコアシステムが

  いきなり引きずりだされた。

  カーンと甲高い金属音が響いた。

  まっすぐに伸ばしてきたブレード付きの腕を

  マニュアル操作で、俺自身が、蹴り上げた。

  血の通わない金属のボディの中から、

  鹿獣人の驚愕といったものをわずかに感じ取った。

  驚いても仕方ないだろう。

  俺達はアンドロイドとはいえ、生体脳を使う以上感情というものがある。

  基本的に戦闘用アンドロイドはバトル.SYSをコアシステムに据える。

  だが俺はバトル.SYSをコアシステムにしなかった。

  だからやられても完全停止しなかった。

  バトラー.SYSもバトル.SYSもコアシステム上でエミュレートしていたにすぎない。

  この格闘はベースシステム、俺の自身の力だ!

  ついでに裏拳も喰らえっ!

  金属がぶつかり合う鈍い音が響いた。

  鹿は完全に意表を突かれたという様子を見せていた、

  軽量級というのはワンミスが致命的なことになる。

  立て直される前に、思いつきでいいから立て続けに行動を行うべきだ。

  ならばと俺は脱いだ!ぴっちりとした戦闘服を破り脱ぎ、

  そしてその布を相手の角へと投げつけた。

  この戦闘服に物理的防御力はないが、熱や電波での攻撃を防ぐ。

  つまり相手の角に引っ掛ければ

  アンテナとしての機能を物理的に封じることができる。

  バトル.SYSはまだ再起動しないのか!

  それなら俺自身の戦いをするしかないよな!

  そのまま組み付け!そう、寝技!寝技しかない!

  バトル.SYSが絶対にしないような不条理な戦いをする。

  俺のコアシステムをフル稼働させた。

  俺のコアシステムはSEX.SYS!

  セックスアンドロイドシステム!

  寝技は十八番だ!

  どの寝技が戦いに使えるか一度考えたことがある。

  この際だから試してやる!

  この俺の最も強力な寝技を使う!立ち松葉!

  あの消耗したボーパルがどう勝つのか、

  軽量級同士だから手詰まりということはないにしろ。

  その戦いは注目されていた。

  そのボーパルが突然ガクガクと異常な駆動をして動きを止めた。

  おそらくは相手が何かを仕掛けたのだろうと観客は思った。

  あのボーパルはついに敗れるかと思ったその時だった。

  突然動き出し蹴り上げた、さらに殴ってカウンターを決めた。

  いままでの洗練された動きとは異なる乱暴さすら感じる格闘であった。

  そして、脱いだ!まさかの事態だった!

  客席からオーゥ、キャァといった声が響く。

  服を相手の角へと投げつける。

  着ている服すら武器にし、相手を封じた。

  確かに合理的な戦い方だと一部の人は思っただろう。

  だがちょっと違ったかもしれない。

  結果として合理的になっただけかもしれない。

  なんとボーパルは陰茎をつけていたのだ。

  バトルアンドロイドとしてはあり得ない装備であった。

  なぜそんなものを載せていたのか。その重量分の兵器を載せられたはずでは?

  必要最小限と思しきサイズの陰茎は小さかったが、まぎれもなく勃起していた。

  ボーパルは勃起していた!?

  会場が再びどよめく。

  ボーパルは倒れた相手に素早くも艶めかしく寄り添い、

  その両足をつかみ上げた。

  まさかとは思うがまさかかもしれない。

  いやちょっとまて。

  会場は奇妙な一体感に包まれた。

  そして最悪の事態が起こった。

  ボーパルはその勃起した陰茎を謎の体位で相手の臀部に突き刺したのだ。

  阿鼻叫喚の中でボーパルはその陰茎を何度も何度も執拗に突き刺し続けた。

  そもそもバトルアンドロイドのそんなところに穴など普通はない。

  近接武装並みの強度なのか、

  比較的やわらかいとはいえ軽金属装甲を突き刺して穴を作った。

  ガシャガシャと音を立てて攻撃?しているのがよくわかる。

  ひときわ大きく突き刺すと、

  シューという音を立てて蒸気が広がった。

  黄色い冷却液と思しき液体を内部に直接流し込まれてしまったらしく、

  全身から蒸気が漏れ始めた鹿獣人型アンドロイドは痙攣して機能を停止した。

  あのボーパルが見たこともないような甘美な笑顔を浮かべている。

  ボーパルの勝利であった。

  白兎の執事アンドロイドのセバスへと戻った私に待っていたのは

  この上なく厳しい叱責でありました。

  「お前はふざけているのか!

  瀟洒で華麗なワシのボーパルを返せ!」

  我が主人ザリフ様は大激怒でした。

  ブタライオン、おっと失敬。

  肥満体のライオンと言えど、

  激怒し歯を剝き出しにする怒り様は百獣の王としての貫禄があります。

  本能的に脳が震えてしまいます。

  私はザリフ様の趣味を満たす至高の存在となるために

  複数のシステムを同時に機能させる必要がありました。

  執事としてのバトラー.SYSと戦闘を行うバトル.SYS。

  相反するこの2つのシステム。

  それをあらゆる注文や体位に答えられ、

  感情表現豊かで柔軟性の高いSEX.SYSをコアシステムに据えることで、

  バトラー.SYSとバトル.SYSの両方を同時エミュレートさせ起動させることにやっと成功。

  さらに改造に改造を重ね、紳士的な戦士というザリフ様の好みど真ん中、

  やっとのことで理想の執事戦士となりました。

  ですが、いまはトップニュースにのるほどのエロ戦士とのことです。

  申し訳ないとは思います、

  ただあれしかなかったのだから反省はできないと私めは思っております。

  だって俺はセックスアンドロイドだもん。

  「申し訳ありませんザリフ様。

  あの場面ではバトル.SYSが強制シャットダウンされたことにより、

  戦闘手段が限られてしまいました。

  限定状況下での最適解としてあの行動をするほかありませんでした。」

  「バトラー.SYSがあっただろう!

  護身術くらいあるはずだ!」

  ザリフ様に胸倉を掴み上げられた。

  バトラー.SYSは戦闘向けシステムではないとはいえ、

  主人が撃たれる代わりに身を挺したり相手を抑える程度の能力なら確かにあります。

  「護身術は護身術程度ですので、

  バトラー.SYSによって行える戦闘行為は制圧がほとんどであり、

  短時間に撃破することは困難であると判断し……。」

  「つべこべ言うんじゃない!

  言い訳ばかりじゃないか!」

  ザリフ様が私の腕を掴んできました、おおこれはミシミシと……。

  「申し訳アッアアア!ア!」

  軽装甲合金ごと握りつぶされていっくうぅ!

  どこかの世界と最も違う点。

  それは彼ら獣人は肉体的に非常に強く、

  重量級アンドロイドでもなければ生身の獣人よりも弱い。

  「アッアヒッ!エッエラー出てます!お許しををを。」

  バトラー.SYSが謝罪に徹する一方で、

  SEX.SYSがコアシステムである俺は

  この暴力行為を主人からのサディスティックなプレイだと判断し、

  勝手に発情スイッチが入ってしまった。

  「アッアアッ!もっとぉ!」

  執事服の下で金属製のチンコが自動的に勃起して臨戦態勢に突入した。

  エラーの影響もあってバトラー.SYSがどっかへいってしまった。

  「この!ふざけているのか!?」

  今度は俺の顔めがけてその剛腕を振り上げられた。

  獣人の腕力で殴られたら軽装甲合金のボディなど一撃でひしゃげてしまう。

  ところが殴ったのは予測軌道を大きくそれた肩だった。

  それでもメギィと大きな音を立てて肩関節がイカれた。

  「ああっ!くそっこのっ!」

  今度は執拗な蹴りだった。

  胸倉を捕まれて吊るされたまま、何度も蹴られていく。

  脱落したパーツが音を立てて落ちた。

  「ああ、もっと!もっと罰を与えてくださいぃ!」

  SEX.SYSそのものである俺は興奮の中にいた。

  「んんっ!ひぃ!」

  プチュビュビュ!ビュビュ!

  機械を破壊する音と喘ぎ声、

  俺がチンコから精液を模した液体を射出する音だけがしばらく響いた。

  ガシャンと投げ捨てることもできたはずなのに、

  ボロボロになった俺は

  とても大事なたからもののようにそっと置かれた。

  「くそっ、くそっ。それでも、顔がいい。好き。殴れない。」

  手足を完全に破壊された割に頭や胴は全くの無傷。

  そして項垂れるザリフ様がいた。

  結局のところ俺はザリフの理想のすべての最高傑作であって、

  どんなに怒っていてもそれを傷つけることはできない。

  ってところか、もっと解体してくれてもよかったのに。

  「ザリフさま~嫌なことはエッチなことして忘れちゃいましょうよ~。」

  完全にスイッチが入った俺はセックスアンドロイドとして使われることを求めていた。

  短小金属チンポが勃起している。

  胴体とわずかな金属パーツが残っているだけの手足を動かし、

  すでに人工精液でびちゃびちゃになった執事服の残骸を脱ぎ捨てた。

  そしてそういう目的のために使用する肛門がある尻を向けた。

  「……。」

  目つきはふざけているのかと言っていた。

  だが体からは興奮物質が発生したのをセンサーが感じ取った。

  「いつものようにはしないのだな……。」

  いつもはたっぷりとザリフ様をご奉仕をするところから始まる。

  その後も終始ご奉仕のように性欲処理をする。

  しかしこの手足ではどうにもならない。

  「ああ、申し訳ありませえん。

  この壊れかけのポンコツではご奉仕できません。

  お口の方でもお尻の方でもザリフ様が好きな方に使ってください。

  一生懸命やりますからぁ。」

  四肢の破壊によりメモリが半分エラーで埋まっている。

  残りの半分もSEX.SYSからのエロエロで満たされてしまう。

  もうどうしようもなくピンク色だ。

  壊れた四肢の残骸を動かして、

  少しでも腰を振ってアピールをした。

  ザリフ様の好みぴったりの短小チンポはめいいっぱい勃起して7cmくらいになっている。

  「う、うむ。」

  いままでずっと一方的にご奉仕してきたのもあり、

  ザリフ様はこの自分からどうするべきかに迷っているようでもあった。

  俺の尻穴はそういう用途専用の機械だから、

  いきなり突っ込んでも全然問題ないんだけど……。

  「こ、こうか?」

  俺を抱き起した後、短小メカチンポを摘み、口に含んだ。

  そっと刺激を与えるように舌を這わせていく。

  ああこれはいつも俺がやっていることの真似だな。

  ネコ科の舌特有のトゲがサリサリとメカチンポを擦る感触が

  電気信号となって伝わってくる。

  「あひっ!はいぃ!そうでございます!

  ザリフ様の舌は刺激的なので

  もう少しゆっくりとお!」

  感じているとばかりに拙い言語を話しつつぐっと背筋を反らせた。

  性感に関する機能と言語機能は別個だから普通に話すこともできる。

  ただセックスアンドロイドとしてそういう雰囲気作りは大事なのだ。

  「じゃあワシのも舐めろ。」

  「もちろんでございます。

  お近くに置いてくださいませ。」

  ザリフ様は俺を床に置いた。

  金属丸出しの手足の残骸で這い寄ってザリフ様のチンポへと向かう。

  それをザリフ様はじっと興味深げに見ていた。

  「そんな程度にしか動けないのか?」

  「申し訳ございません。

  四肢を欠いていてはこれが限界でございます。」

  「……。」

  ボソッと呟いた音声はこの耳が当然拾い上げている。

  悪くない。

  そう言っていた。

  満足してもらったという判断から、

  SEX.SYSとしての"歓び"が高まるのを感じた。

  ぴちゃぴちゃとこちらも舌を這わせてご奉仕していく。

  一般的に何をどうしたら感じるのか、

  ザリフ様個人としての感じ方はどうなのか。

  全てがインプットされた最適な舌使いを提供可能。

  もちろん、現状の損壊状況により、

  現状最適程度ではある。

  体を限界まで動かして、その現状最適な行動を実行する

  舌を這わせるようにして、体を伸ばしてストロークしていく。

  「うっ……。」

  もちろんどのくらいしたら達するのかもわかっている。

  直前で止めるのが最も良い。

  今回は制限状況下であるため、

  合わせられるかわからなかったが。

  「ザリフ様。あとはお願いしてもよろしいでしょうか。」

  本来ならここで俺がザリフ様に跨り、

  お尻を使ってご奉仕をすることになる。

  しかし、現在の状態だと不可能。

  ここはあえて丸投げで様子を見る。

  「おお、そうか。ワシが動かねばならないか。

  どうすればいい?」

  「そうですね。脇腹を掴んでオナホのようにしてしまうか、

  疲れてしまうならテーブルに乗せて腰を振ってくださいませ。」

  「やってみよう。」

  普段の行為は若干マンネリだったのかもしれない。

  年のわりにノリ気になっているザリフ様は、

  俺を拾い上げて抱えた。

  そして尻へとチンポを近づけていく。

  「お〝!」

  人工アナルに刺激を検知。

  潤滑液を分泌します。

  ああ!"歓び"に満たされていく!

  「自分で動くのも中々いい。」

  「んお!のおお!」

  セックスアンドロイドは性欲や性感が再現されているが、

  システムに管理されていて指示のない自慰行為では性感を得られない。

  抑圧されていた性的な飢えや、脳だけあっても生きているという実感に満たされる。

  「ああ、激しすぎる!

  いやもっとお願いします。

  ひいいい。」

  システム的に分割されたどこか冷静な部分で、

  支離滅裂だと感じた。

  「ははっ、悪くない。

  もっと激しくだな。」

  「んおおお!」

  ズン!ズン!大きく突き入れられ、

  尻の内側の性的用途専用のオナホ直腸を何度も突かれる。

  突かれながらも自動的に収縮し、使用者に対して適切な快楽を伝える。

  ついでに俺自身も"歓び"で満たされた。

  もうイキたい!

  しかしシステム的に抑圧されている。

  結合中は主人にあわせてしか射精できない。

  「久々に興奮している。

  ああ、完全無欠で瀟洒なお前がもう何もできないんだな!」

  「はいぃ!俺はポンコツですぅ!」

  主人の興奮の度合いを自動的に察知して、

  それに合わせて自動で背中を反らせた。

  「ああ、ああ!やっとイケる!」

  主人が射精したのを直腸で感じると同時に、

  ずっとシステムに我慢させられていた俺の射精も行われた。

  7cmの短小メカチンポから人工精液が勢いよく噴射されていく。

  「ああ~。」

  バトル.SYSもバトラー.SYSもいない。

  この時だけは自分らしくだらしない顔でいられる時間でもあった。

  「この後の空き時間でございますか。

  それならば午前中がすべて開いております。

  昼には会食の予定になりますが、

  それまでに3時間ほどの猶予が取れます。」

  「ああ。」

  ザリフ様の言葉をニュアンスで了承を受け取ります。

  当分の間はボーパルとしての活動はさせないという決定をされました。

  そうなると今の私は忠実は執事であるセバスとしての業務へ専念することになるのでしょう。

  ですが……。

  「ところでザリフ様、質問してもよろしいでしょうか?

  なぜ私はこのような状態なのでしょうか?」

  「自分で考えろ。」

  一番困るタイプの回答でございます。

  発声からの感情推測、発汗による生理状態の確認。

  いずれからしても怒気などといったネガティブ感情を持っていないと判断。

  自身の状況からの推測を開始します。

  ザリフ様が破壊してしまわれた手足は取り除かれ、

  新しい手足に換装されました。

  しかし手足といえるのかは些か疑問が残る性能です。

  長さはファースキンの毛足を含めず25cm、肘および膝関節なし。

  指に相当する作業のために必要なパーツなし。

  腕の先および足の先の素材がやわらか触感人工肉風ゴム肉、

  硬度不足により歩行能力は著しく低い。

  SEX.SYSからの情報参照を開始……。

  「ザリフ様、愚推とはなりますが、これは……。」

  ザリフ様はぬいぐるみのように抱きかかえていた私をそっと床に置きました。

  初めての状況になるため意図不明、命令待ちをします。

  「セバス、いやボーパル。こっちへ来い。」

  いまの体で最適な移動方法をシミュレート。

  やはり四つん這いしかないでしょう。

  短い手足を前にだし、胴体ごとひねって少しでも動きを大きくして、

  手足の先端が柔らかくて頼りない、

  よたよたとした動きにはなりますがザリフ様の元へ向かいます。

  「フフフ、良いな。良いぞ……。

  私の大事なセバスはボーパルとしての裏の顔を持っている、

  しかしついに傷つき倒れた……。

  一命を取り留めたが、

  もはや二度と戦うことも執務もできない体になった……、

  これからはペットとして余生を送る……!」

  ずっとボソボソと何か言っていますね。

  私の耳ならば一字一句逃さずに聞き取れてしまいます。

  ザリフ様が愛おしいものを見るような優しい目で私を見下しているのがわかります。

  ああなんてでしょうか。

  これから俺はもう二度と戦うことが許されず、

  四肢欠損オナホダルマペットアンドロイドとして

  扱われてしまうことになっちゃったりするのでしょうか。

  そんなの……。

  「ああ、あ、ああああ。

  ザリフ様。光栄でございます。」

  俺は頭を顎を撫でられた。

  この体にあわせて作られたらしい短パン仕様の執事服の下で、

  素早く勃起して臨戦態勢に入った。

  俺の性根となりうるコアシステムはSEX.SYS。

  どんな形、どんな性癖であれ、

  性的用途に用いられることこそが至高。

  生体脳がまたもピンク色に染まっていく。

  ああ、もっと可愛がってください。