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k.k 美月と琳太郎 過去話

  「琳ちゃんっ、ご飯食べよう」

  「……」

  その問いかけにボクは、コクリと頷く。

  声の主は、ツインテールの似合う、美月という長馴染みのクラスメート。

  美月の方を見るといつもの弁当箱をぶら下げていた。

  美月の料理は勿論美味しいが、その状況を考えると

  ボクは反射的に赤面してしまう。

  何故かというと……。

  

  1分後、美月は人目を気にせず

  スプーンの上に乗せた その弁当の一口をボクの口に運ぶ。

  嫌ではないが、恥ずかしい。何回もされてる光景だが、人前では、中々慣れない。

  最初は、冷やかすクラスメートもいたが、今では、今のクラスでも公認のカップルみたいで

  羨ましそうな眼差しと、同じ仲間(獣人達)から冷ややかな視線をボクは浴びる。

  

  

  ふと、無意識に、右腕の先に目が行く

  本来ならば、そこには、左腕と同じように翼の手があるのだが、ボクにはそれが無い……。

  

  

  

  

  それは小さい頃のことだ、多分小学3年生ぐらいの時だったと思う。

  

  

  

  [newpage]

  

  

  薄っぺらい付き合いの友人は沢山いた。

  でもそれは、ボクが美月のオマケだったからだ。

  

  何故、言葉というモノがあるのだろう

  言葉が無ければ、争いも減るのではないかと思う。

  

  気持ちのすれ違いが起きるのも、喧嘩が始まるのも言葉が原因になることが多い。

  

  だからこそ、人間とペットは、殆どが長く最後まで付き合えるのだ。

  

  殆ど…、自分で思った言葉なのに違和感を覚えた。

  

  そういえば、飼い主に恵まれなかった不幸せなペットもいるのか…。

  

  だとすると言葉は……。

  

  嗚呼…、えっと、

  

  話を戻して、言葉があるから、ボクは、皆とうまく打ち解けられなかった。

  

  ただ一人を除いては。

  

  今は帰りの会の最後の先生の話の終盤、今日も帰れる。

  

  今日は何をしよう?

  

  授業中に『帰った後の予定立てておけばよかったかな』っと少し後悔する。

  

  「……という訳だ、皆、横断する時は、左右確認をして、十分、車に気をつけるように、以上、日直」

  

  「起立」

  

  ガラガラと日直の指示の元皆が椅子から立ち上がる。

  

  「先生、さようなら、皆さんさようなら」

  

  その合図に続けて、皆がそれを復唱する、ボクも小声ながらそれをする。

  

  『先生、さようなら、皆さん、さようなら』

  

  「はい、さようなら」

  

  先生のその挨拶に、大半の生徒の顔が緩む。

  

  教室は、一気に賑やかになる。

  

  「んんーーっ、終わったぁー、今日お前んち行っていい?」

  

  「おぅ、来い、来い! 昨日の続きなぁー」

  

  「望むところ!」

  

  という男子のやりとりもあれば

  

  「一緒帰ろっ!」

  

  「あ、うん、お使い頼まれてるんだけど、付き合ってくれる?」

  

  「良いよー」

  

  と女子のやりとり

  

  (ボクも帰ろう)

  

  そう思いランドセルをからおうとする。

  

  そんな時、ボクに近づいてくる気配を感じた。

  

  「帰ろっ、琳ちゃん」

  

  「ぁ、うん」

  

  ボクと美月も合わせ5人で、ボク達は、寄り道をして、クラスメートと公園で遊んでいた。

  

  美月に付き合わされて、少し嫌々なのもあったが、楽しそうに遊ぶ美月を見て

  

  ボクはどこか、距離を感じていた。 美月とは親しい友達ではあるが

  

  ボクには、眩しい。 どちらかというと迷惑をかけてばっかり

  

  そんな感じだった。

  

  「じゃ、美月ちゃん、琳、また 明日ぁーーっ!!」

  

  「またねーっ! ……ほら、琳ちゃんも!」

  

  ポカッと頭を叩かれ、ボクも渋々あちら側に手を振る。

  

  「バッ、バイバイ」

  

  不器用に手を振るボクを見て、美月はにこっと笑う。

  

  「よしっ、合格! じゃ 帰ろっか」

  

  「……」

  

  他者から見れば上からモノを言われてるように感じるだろうか?

  

  でもボクは不快ではない。

  

  ボクにとって美月は、憧れの存在、誰にでも優しくて、誰にでも笑顔を振り撒くそんな子

  

  そんな美月は、ずっとボクと行動を共にしている。

  

  何故、美月はボクに付き合ってくれるのだろう。

  

  何故、美月はボクに合わせてくれるのだろう。

  

  「……んっ」

  

  いくら考えても分からなかった。

  

  「琳ちゃん、もしかして今日も退屈だった?」

  

  「っへっ!? そ、そんなことないよ、そろそろ日が沈むし疲れたから帰りたいなって……」

  

  苦し紛れの嘘、本当は苦痛でしょうがなかった。

  

  気のせいなら気のせいでいいが、あの遊び場の中でボクは、ボクだけは、少し離れた蚊帳の外にいるような気分だった。

  

  「……そっか、良かった、あ、そうだ、琳ちゃん家まで競争ね、よーいどん!」

  

  「へっ?…… あ、ちょ、待ってよ」

  

  間を入れず走り出す美月、ボクも慌てて走り出す。

  

  そして、時々顔を合わせ、たまに笑い合いながら、ボクの家まで駆けっこは続く。

  

  といっても、全力の半分ぐらい、マラソン向けの歩行速度だろうか?

  

  距離にして500m無いぐらい、だから、3、4分でこの時間は終わる。

  

  でも、ボクにとって、この時間が一番幸せな気がする。

  

  勝ち負けなんかどうでもいい、時々、顔を合わせて、互いに笑って。

  

  ボクと美月は友達なんだと実感できるから。

  

  「こらぁー、手抜くなぁー、男の子なんだから、私に勝ってよね」

  

  そう言いながら、2,3メートル先を駆ける美月。

  

  「……むぅ……」

  

  そう言われては、負ける訳にはいけない気がする。

  

  ボクは一瞬だけ、自分の足元を見て、再び正面を向き、駆けだす。

  

  そして、今度は、逆に美月の2,3メートル先を駆ける。

  

  「おっ、やっぱり琳ちゃんも男の子だね、早い……きゃっ!……」

  

  「っ!? 美月……?」

  

  美月の悲鳴に、反射的に急ブレーキをするかの様にボクは止まり

  

  美月の方を向く、そこには、転んで地面に手をついて座り込んでいる美月が居た。

  

  「い、いっ…………痛ぁぁああい………うわぁぁああん……」

  

  「だ、大丈夫……?」

  

  美月の膝小僧には、じわりじわりと血がにじみ出ていた。

  

  「ぅ……」

  

  「…………琳ちゃん……琳ちゃん……」

  

  ボクを連呼する美月、それは、子供が親に何かを強請るようにも聞こえた。

  

  「ぅん……?」

  

  「……ギュッ…って…ギュッ……って……」

  

  「…ぁ……うん」

  

  それは、こんな事態ではいつものことだった。

  

  『痛いの痛いの飛んで行け』とおまじないするのと似たようなもので

  

  ボクが、美月をギュッと抱きしめる。

  

  そうすると、30秒ぐらいすすり泣き、その後には、いつもの美月に戻っているのだ。

  

  そんな、いつものように、ボクが美月の傍に座り、

  

  体育座りをちょっと崩したような姿勢の美月をボクが抱きしめる。

  

  そんな抱きしめて間もなく

  

  「琳ちゃんの、琳ちゃんのせいだからねぇ……美月が転んだの……琳ちゃんの……」

  

  美月が自分の名前を呼んだ時、美月は、より一層ボクを抱きしめた。

  

  「……ごめんね、大丈夫?」

  

  そう尋ね返すと、恐らく頷いたのであろう、肩に美月の顎が少し当たる。

  

  「んぐっ……良いよ……でも、もうちょっとだけ……ギュッしてて……?」

  

  「うん、痛くなくなるまでね」

  

  そう言ってから、ボクも美月を強く抱きしめた。

  

  うまく言葉じゃ言えないけど、これがボクらの絆なんだろうなって思う。

  

  皆の前じゃ、暗い顔一つ見せない美月だけど、ボクは、美月の色んな顔を知っている。

  

  笑ったり、喜んだりは勿論、怒ったり、拗ねたり、そして、今見たいに泣いたり、甘えてきたり。

  

  「琳ちゃん……ありがと」

  

  「ぁ……うん、もう大丈夫? 肩貸すよ」

  

  ゆっくり離れる美月。

  

  そして、ボクが先に立ち上がり、手を伸ばし、肩を貸す。

  

  そして、駆けっこの勝負は……というと

  

  ボクらは顔を合わせて頷く

  

  「琳ちゃん、いくよぉー」

  

  「うん」

  

  「せーのぉー」

  

  その美月の掛け声に、ボクと美月は続ける。

  

  『ゴーールッ!』

  

  ボクの家の入口(敷地内)にほぼ同時にそれぞれの片足を付くのだった。

  

  「今日も一日楽しかったね、琳ちゃん」

  

  「う、うん」

  

  皆と遊ぶのは苦痛だ、でも美月と遊ぶのは、楽しかった。

  

  「あ、それとさ、琳ちゃん」

  

  「うん? 何?」

  

  「やっぱ、なんでもない、今は秘密ね、ひ・み・つ。 えへへ」

  

  「ん……気になるけど、話したくないなら別に良いや……」

  

  意地悪そうに笑う美月、何を言おうとしたんだろう、それは少し気になった。

  

  でも言いたいことを言うのは、個人の自由だ。そう思ってる間もなく

  

  美月は、優しい笑顔になり、ボクに問いかけてきた。

  

  「琳ちゃん」

  

  「うん?」

  

  「ずっと……友……あっ……えっと、 ずっと一緒だよ?」

  

  「う? うん、ずっと一緒ね」

  

  この時、友達と言いかけたのを、『ずっと一緒だよ』と言いなおした理由を知るのは

  

  まだ少し先の話しだった。

  

  [newpage]

  

  

  そして、それから 何日か経った頃だった。

  

  

  ボクは、クラスメートに呼び出されていた。

  

  そして、衝撃の内容を聞くこととなった。

  

  その内容はというと

  

  美月がボクと仲良くしていることによって、女子のクラスメートから美月が陰湿なイジメを受けているとのことだった。

  

  言っておくが、口下手で根暗に見えるボクがモテてる訳ではない。

  

  クラスメートが言うには、男女でこんなにどうどうとイチャイチャ(仲良し)してるのはオカシイ

  

  それにより、美月が女子から仲間はずれなどにもされている とのことだった。

  

  そんな話を聞きながら、冷静に考える。

  

  確かに、そんな理由でイジメがはじまりそうな気がする。

  

  だから、結論的に、もう美月と関わらない方が、美月のためにもなる とのことらしかった。

  

  それは、ボクにとっても辛かった。大好きな、憧れの存在でもある美月がそんなことになっていたなんて

  

  それから、クラスメートの助言を信じ、ボクは、ボクなりに美月と距離をとった。

  

  それは……胸が締め付けられるほど苦しい日々だった。

  

  手洗い場の鏡を見る。普段よりも暗い自分の顔に思わずため息が出た。

  

  「琳ちゃん、最近、元気無いけど 体の調子悪い……?」

  

  まただ……。普段通り関わろうとしてくる。

  

  正直、避ける素ぶりを見せるのは、辛い……。 たった一人のかけがえのない存在だから。

  

  「……ちょっとね……」

  

  「……もしかして、イジメられたりしてない?……美月、力になるよ」

  

  「そっ、そんな訳な、無いじゃん、ちょっとトイレ……」

  

  「ぁ……うん」

  

  元気のない美月の声を聴くのは本当に辛かった。

  

  だって、虐められてまでボクと付き合って……

  

  ボク、美月と一緒に居たいけど、美月が辛くなるなら、ボクは身を引くよ。

  

  そして、宣言した通り、トイレに行く、上履きのまま、スリッパを履き

  

  小便器の前で予定じゃなかったが、仕方なく用を足す。

  

  「……はぁ……」

  

  トイレは幸い一人だった。

  

  チャイムなるまでここに居れば良いかな?

  

  トイレの外には、誰かが待っている気がした。

  

  多分、美月だろう。

  

  そんな中数日前の会話がふと、耳の奥に響いた。

  

  『ずっと……友……あっ……えっと、 ずっと一緒だよ?』

  

  『う? うん、ずっと一緒ね』

  

  あの時、凄く幸せだった、ずっと昔から変わらない日常だけど

  

  ずっとずっとそんな風に大人になっていくんだろうなって思ったのに。

  

  『言いづらいけどさ、美月、オマエと仲良くしてるのが原因でイジメられてるみたいだぜ』

  

  『え……どういうこと……?』

  

  どうしよう……。

  

  美月が苦しい思いをしているとしたらそれはボクにとっても辛い……。

  

  辛い……

  

  辛い、辛い…。

  

  じゃ、美月と付き合わなければ良い?

  

  そしたら、放課後嫌に付き合わされることも……

  

  でもそうなると、美月と遊べない…。

  

  そんなの嫌だっ!嫌だっ!

  

  そう強く思い込むと同時に抑えきれない感情が言葉になる。

  

  それは、小声だけど、自分に言い聞かすには、十分だった。

  

  

  「ずっと、ずっと一緒な、なんだもん……てか、なんでそんなんで美月を虐める……? オ、オレ、虐めろよ…… 美月虐めるぐらいならさぁ…… オレ虐めろって!!」

  

  「知ってるか? 美月、気丈そうに見えて、意外に脆いんだぞ。 オレにだけ…… 色んな表情見せてくれるんだぞ。」

  

  誰に言うでもない、でももし、美月をいじめている奴がいたら、そいつに言いたい言葉

  それをずっと自分に言い聞かせていた。

  

  そして、柄にもなく、オレだと強がっていた。

  

  今すぐクラスに怒鳴り込んで、 言うか……。

  

  うん、そうしよう……。 オレが虐められればそれでいい。

  

  そう決意した時だった。

  

  『……もしかして、イジメられたりしてない?……美月、力になるよ』

  

  …………

  

  

  …………

  

  

  

  …………。

  

  

  

  ……。

  

  

  それじゃ……ダメなんだ……。

  

  オレ……いや、ボクが虐められてれば、美月に迷惑がかかる。

  

  じゃぁ、どうすれば良い?

  

  そう、クラスメートが親切にアドバイスしてくれたじゃないか。

  

  美月を避ければ良い。 美月を嫌いになれば良い。

  

  

  …………

  

  

  

  …………

  

  

  

  …………

  

  

  

  この時のボクは、冷静じゃなかったんだろう、思考が進んでるように見えて

  

  実は、最初に戻っていることに気付いていなかった。

  

  この時のボクには、それが一番だと思っていた。

  

  

  [newpage]

  

  

  

  そして、チャイムが鳴った。

  

  しかし、そのチャイムは、錯乱したボクに、チャイム=何?

  

  という状態になっていた。

  

  しかし、チャイムがなってる中、ドアが開いた。

  

  「琳ちゃん……? チャイムなったよ? 大丈夫?」

  

  その声は、聞きなれた声、 その声は、大好きな声。

  

  でも、今のボクには、その声は、苦しかった。

  

  ……。

  

  

  

  ……。

  

  

  「嗚呼……大丈夫、今行く。 待っててくれてありがとう」

  

  心配かけないように空元気でいつもの自分を演じた。

  

  嗚呼……死にたい……。 美月と一緒が良い……。

  

  

  

  学校の昼食が喉を通らなかった。ずっと悩んでいた。

  

  ボクはどうすれば良いのだろう。

  

  そして、放課後、そのことを、その情報をくれたクラスメートに相談すると

  

  一つの策を教えてくれた。

  

  それは、勇気のいる行動だった。

  

  しかし、そんなボクを勇気づけるかのように、

  

  「悪まで最終手段だから、他に良いアイデアないかオレの方も考えてみるよ」

  

  「……あ……うん。 ありがとう」

  

  「気にすんなって、友達だろ?」

  

  友達……。悪い言葉ではない。

  

  美月と遊べなくなっても、男友達と遊べばいいんだ。

  

  簡単なことだ。 気にする必要ない。

  

  そして、美月を避けるように 一人で下校。

  

  家に帰り、おやつを食べる。

  

  美月程じゃないけど、友達ができるのは良いな、って少し思った。

  

  そして、夜が来て、ボクはお風呂に入っていた。

  

  お風呂場の窓を開け。湯船につかりながら、僅かに見える夜空を見る。

  

  無数にちりばめられた星がきれいに光っている。

  

  種族の性かもしれないが、ボクは夜が好きだったりする。

  

  無論、鳥目なので、夜は余り目が良いわけではないがうまく言えないが、落ち着く。

  

  人によっては、夜は不安になる、寂しくなる人という人もいるらしいが。

  

  そして、ふと、美月のことが頭によぎった。

  

  しかし、それを考えたことによって、ボクは、初めて夜、寂しくなった。

  

  美月と話したい。 美月と一緒に居たい。 美月の力になりたい。

  

  美月をギュッとしたい。

  

  ふと視界がじんわりとぼやけてきた。

  

  そして、我に変わり、首を左右振って、下校前のことを思い出す。

  

  「……最終手段……」

  

  認めたくないから、口走ったのか、認めるためにただ呟いたのか

  

  それは、ボクには分からなかった。

  

  ただ、イジメで泣いてる美月を思うと、助けたい気持ちでいっぱいだった。

  

  そして、気を紛らわすため漫画を読んでいると、美月から電話が来たと親が子機を持ってきた。

  

  「ぁ……うん、ありがと」

  

  そう言って母から子機を受け取る。

  

  とはいったものの、何を言えば良いんだろう……。なんで電話してきたんだろう?

  

  「もしもし、 琳太郎です」

  

  『あ、琳ちゃん、具合大丈夫? お母さんに聞いたけど病気ではないと言ってたけど』

  

  いつもの美月の声、恐らく、親の次に一番多く聞いてきた声

  

  「……ぅ」

  

  それなのに、何故だろう、似たような言葉は今まで何度も聞いたのに

  

  美月の声が、心配してくれる気持ちが、苦しかった。

  

  電話は、ボクの気持ちを察してくれてるのか、直ぐ終わった。

  

  イジメられてる? と聞こうとしたが。

  

  話したくないから話さないんだという美月の気持ちを考えると

  

  聞けなかった。

  

  そして、複雑な気持ちのまま、ボクは寝床に就いた。

  

  

  いつも通りの登校。 とはいっても、美月は、先に行ってて、恐らく5分ぐらい遅れて

  自分が教室に入った。

  

  「……おはよ……」

  

  挨拶したくないけど、美月に言われて気が付けば習慣になってた。

  

  たいていは誰かが挨拶を返してくれる。

  

  そして、自分の席に座っている美月と目が合う。

  

  「ぁ……琳ちゃん おはよう」

  

  「う、うん、おはよう」

  

  そう返事を返す、しかし、美月の様子が少し変だった。

  

  「?……どうかした?」

  

  「え、い、いや……なんでも」

  

  どこかよそよそしい美月、しかし、その理由は数秒後に分かった。

  

  ふとした拍子に、美月の机の中から、筆箱が転げ落ちた。

  

  床に落ちた衝撃で筆箱は、蓋が開く、そして、目に入る。

  

  いびつな形になった消しゴム、折られた後のある鉛筆。(セロテープらしきもので繋ぎ留めてある)

  

  そして、物の扱いは丁寧なはずなのに、筆箱事態がボロボロだった。

  

  「ぇ……ぁ……美月?」

  

  「ごめん、琳ちゃんみ、見ないで……くれるかな?」

  

  「ぇ……えっと……」

  

  目のやり場に困ったボクだったが、虐められてるのは本当なんだと実感する。

  

  そして、美月は、慌てて少し飛び出た筆箱の中身を筆箱に戻し机に戻そうとするのだが、

  

  「ぁっ!……」

  

  ボクはその声に思わず美月の方を見た。

  

  美月は、手元を滑らせ、やがて、ノートと教科書の一部が筆箱同様床に落ちる。

  

  「……ぅ」

  

  それは、テレビで見たようないじめの光景だった。

  

  油性ペンで悪口の書かれた教科書やノート、そして、少しボロボロになっていた。

  

  「……な、なんでもないから、し、心配しなくていいからね、琳ちゃん、あはは……」

  

  ボクは、初めて見た美月がこんなに苦しそうに笑う姿を……。

  

  ボクには何が出来るのだろう、どうすれば、止めさせられるだろう。

  

  ごめんね、 ごめんね、ボクなんかと仲良くしてたから……。

  悔しくて、視界がぼやける間もなく、椅子が倒れる音がして

  気が付けば、美月を抱きしめていた。

  「……琳ちゃん……?」

  

  「……ボクが守るから……ボクが美月を……守るから」

  

  「……う、うん……う、うっ……」

  

  気が付けばボクらは号泣していた。そして、ボクには決意が出来ていた。

  美月を守るために何かをしないと……。

  

  そして……。

  

  「うぁあああっん……うぅ……」

  

  目が覚めた。 どうやら夢だったらしい。

  どれだけ泣いたのだろう、枕はびっしょり濡れていた。

  

  そして、ボクは、美月を傷つけてしまうかもしれないが、最終手段をとることにした。

  

  ……。

  

  気が付けば……。

  

  美月が話しかけてきた。 そんなタイミングでボクは椅子から立ち上がり。

  「も、もう関わんないでよ! べ、別にオ、オレは美月のこと好きでもなんでもない」

  

  「へぇっ!? 琳ちゃん 何言ってるの?」

  心臓がバクバクしている、クラスメートの視線も浴びている。

  今しかない、言わなきゃ…… 言わなきゃ。

  

  「親が言ってるから仲良くしてるだけで、別にオ、オレは一度も、美月と遊んだことた、楽しいとお、思った」

  涙がじんわり溢れる。 言ってしまえばボクらの関係が終わる。

  しかし、それでイジメも終わるはずだ。 泣いてる美月を見たくない……。

  

  「琳ちゃん?……」

  

  「(楽しいと思った)こと無いからな、転んだ時なっ、慰めてるのだってい、いっ、嫌々やってるんだからな」

  

  「琳ちゃん……。ごめんね、遊びたくないなら無理に遊ばないでも良いし、嫌なら嫌って言ってくれれば」

  

  「兎に角」

  

  少し遅れて、美月の『ごめんね』が脳に届く。

  

  今までにない胸の締め付けがボクを襲う、

  

  「と、兎に角……ボクと美月は出来てないからカップルとかじゃないから」

  

  「んっ……琳ちゃんは 何を言おうとしてるの?」

  

  「嗚呼ぁ……もう!」

  

  ごめんね……。こんなこと言うつもりじゃなかったのに……。

  

  「そういう、鈍感な所とかが嫌いなの! もう一緒に遊ばないから、 もう親のためにとかな、つ、詰まらない理由とかで、美月とは遊ばないから!」

  ……。

  ……。

  「い……言えたかな……?」

  ふと、視界に入った、そのことを報告してくれた友人が『ニィ』っと笑っていた。

  それは、『お疲れ様』という意味なのかな?

  ボクは、半泣きの状態で笑い返した。

  (こ、これで……これで終わりかな……。)

  

  そう思い、安堵のため息が出た時だった。

  

  「……ご、ごめんね」

  

  「……」

  

  ……その声は、再びボクの胸を締め付けた。

  

  「……嫌ならもう遊ばなくても良いから、もう甘えないから……んっ……うぅ……」

  

  「……」

  

  そして、美月は、ようやく事態を飲み込めたのか、すすり泣きながら続けた。

  「んぐっ……美月ね……家族以外で、琳ちゃんが一番好き……。ずっと一緒に居れるかなって……んぐっ……」

  

  「最近、琳ちゃんが 私のこと避けてるような気がして、んぐっ……それが凄く苦しくて」

  

  「……」

  

  これは、本当に正しい選択だったのだろうか……?

  

  ボクは、美月を傍観することしかできなかった。

  

  美月は涙を拭い、懸命なつくり笑顔で笑ってくれた。

  

  「私ね、琳ちゃんが居ないと、楽しくないんだよ……」

  

  ……それは、ボクも同じ気持ちだった。

  美月が居なければ、クラスの輪に入ろうと思わない。

  

  「いっつも無理に付き合わせてる気がして、ちょっと悪いなって思って手、でもいつでも私に優しくて……」

  

  それは、美月だって一緒なはずだ、何よりもボクのことを最優先してくれている。

  

  「ごめんね、私、琳ちゃんに……琳太郎君に甘えてたよね」

  

  『琳太郎君』

  

  それは、ボクの名前ではある、悪口でもなんともない、でも、何故……こんなに苦しいんだろう。

  

  「琳ちゃ……琳太郎君には、迷惑かけました、本当にごめんなさい。 あはは、嫌がってたの分からなかったって本当私、鈍感だよね。 本当にごめんね、琳太郎君」

  

  美月は再び満面のつくり笑顔をした。

  美月に、『琳太郎君』と呼ばれる度に、胸が苦しい。

  呼ばれる度にどんどん距離が出来てる気がする。

  美月は凄く強がってる。 ボクが全部悪いのに。

  ボクと付き合ってるから美月はイジメられてるのに

  ボクのせいで美月はイジメられてるのに。

  

  「……美月……ご、ごめんね」

  

  小声で『ごめん』とそれだけのつもりだった。

  でも、湧き上がる感情は抑えられなかった。

  

  「(美月)ありがとう……」

  

  「へっ……」

  

  それは、この場では失言だったかもしれない

  ボクも、美月と一緒じゃないと嫌だ…。

  そんな気持ちでいっぱいだった。

  

  もう学校行きたくない……。

  学校に居たくない……。

  ボクは、ゆっくりと教室の窓に向かった。

  さっきから、皆が何かを言ってるがうまく脳まで届かない。聞き取れない。

  

  そして、ボクは、窓から飛び降りた。

  無論、死ぬ勇気は無かった。

  だから数回羽ばたいた。飛び上がることは出来ないが、両翼を少し羽ばたかせれば、

  ある程度の高さまでなら何事もなく地面に着地できるのだ。

  そして、ボクは、行先も考えず学校を飛び出した。

  教室からボクの名を呼ぶ声が聞こえた。

  でもボクにはその声は届かない。

  

  

  

  ……。

  

  

  

  [newpage]

  

  

  気が付けば、人気のない橋の下に居た。

  

  そして、座り込み、あらためてこれからのことを考えようとした。

  

  自分が思っている以上にボクは美月が好きで、美月もボクが好きで……。

  でも、美月がイジメられないために距離をとらないといけない。

  それが辛かった。

  学校以外なら仲良くしても良いのかな?

  休日とかは一緒に居ても良いのかな?

  誰かと遊ぶんじゃなくて、美月とずっと二人で居たい。

  でも、あんなこと言っちゃった。

  『鈍感』って言ったこと気にしてないかな?

  そんな風に考える中、

  『琳太郎君』

  ……。

  もう、戻れないのかな……。

  『琳太郎君』

  あれ……どうしてだろう、

  『琳太郎君』

  ……聞こえないよ……。

  美月がいつもボクを呼んでくれた名が聞こえないよ……。

  

  『琳太郎君』

  

  「そっちじゃない! 『琳ちゃん』って……よ、呼んでよ……」

  

  「もう戻れないのかな……? 美月ぃ……」

  蹲ったままボクは泣いた。

  暫く泣いていたがそれは、ほんの数分だったみたいだ。

  

  他にいい方法は無かったか?

  いやいや、友達がいったアドバイスに従ったまでなんだ、きっとこれが最善なんだ。

  

  昔は、美月と遊んでる未来を想像できた。

  だから 今は、 その友達と遊んでる未来が想像出来るはずなのに。

  

  何故だろう……

  

  ……出来ない……。

  

  勿論、美月との未来も想像できない。

  

  

  ボクは独りぼっちになってしまったようだ。

  

  そして、ふと疑問に思うことがある。

  

  美月は本当にイジメられてたのだろうか……?

  

  すっごく今更だけど

  

  何故、一度も美月本人に聞かなかったんだろう。

  

  そりゃ、真実を答えるはずがないと思うが

  

  仮に嘘を付こうとしてたら、美月をよく知る、ボクならそれを見破れる。

  

  そして、冷静に考えると、美月は皆から好かれていた気がする。

  

  クラスの委員長では無いが、副委員長のような、

  

  委員長をサポートするような、そんな役柄だった気がする。

  

  そんな役柄の人が嫌われるだろうか……。

  

  「あ……」

  

  脳裏に、美月と話すその助言をくれた友人の光景が、何度も浮かび上がる。

  

  「も、もしかして……」

  

  気持ち悪いぐらい冷や汗を感じた、その代り、イジメが嘘かもしれない可能性を知りホッとした。

  

  ……全ては、"そういう"ことだったのかもしれない。

  

  ボクは、慌てて学校へ戻った。

  

  息を切らすほど走ってるのに、不思議と苦しくなかった。

  

  まだまだ、走れる、美月に謝るまでは、

  

  すると学校の敷地内付近で二人組のクラスメート(女子)にあった。

  

  「あ、琳太郎君、えっと……美月のこと嫌いだったの?」

  

  「……えっと、そのことなんだけど実は……」

  

  ボクは事情を話した。

  

  息が上がっていたが何とかはなせた。

  

  一部憶測があったのだが、それに対しては、

  

  「うわぁ……汚いなぁ、あいつ」

  

  「嗚呼……それ、絶対あるかも、ったく……あいつ本当最低」

  

  「そ、それより、美月は?」

  

  「あっ、実はさ、暫くして美月さんも教室出て行っちゃって」

  

  「うんうん、それで、クラスメート総出で美月さんと琳太郎君探してたのよ」

  

  「分かった。ボクも美月探す、美月に先に会ったら伝えておいてくれる?」

  

  「分かった。 じゃ、またあとでね。」

  

  ボクは、涙がこぼれそうになるのを堪え、美月の行きそうな場所の心当たりを考えつつ、さっきのクラスメートの死角まで走った。

  

  「……ああ……良かった……良かった、美月イジメられてなくて良かった……」

  

  ボクは顔を上げ、胸に手を当て、深呼吸をしていた。

  

  それは、ずっと美月と一緒に過ごしていいという事

  

  もうここ数日間のようなことには悩まされないということ。

  

  それだけのことだが、ボクには、何モノにも代え難い幸福だった。

  

  涙は、もっともっと溢れてきそうだった。でも、今は気持ちよく泣けなかった。

  

  そそのかされたとは言え、そそのかされた自分も悪い。

  

  兎に角、美月に……謝らなきゃ。

  

  美月はどこに行ったんだろう?

  

  これだけじゃ、当てもない問題過ぎる。

  

  じゃぁ、美月の目的は?

  

  そりゃ、勿論、琳太郎(ボク)を探して。

  

  じゃぁ、その琳太郎はどこにいる?

  

  そりゃ、ここに居る。でも、近くに美月の気配は無い。

  

  となると

  

  美月はどこに行ったんだろう、じゃなくて

  

  美月はどこにボクを探しに行ったんだろう?となる。

  

  それなら…なんとかなりそうな気がした。

  

  そして、少し考えた結果思い当たる場所は3か所あった。

  

  美月は恐らく、近くから探すだろう。

  

  だから、ボクは一番遠い場所から探せば、会えるはずだ。

  

  ボクは、辺りを時々見渡しながら、その場所へ走った。

  

  そして、その場所の近くに来た。

  

  その時だった。

  

  「琳ちゃぁーん、 琳ちゃぁーん」

  

  美月の声だった。

  

  ボクはその声の方を見ると同時に呼んだ。

  

  「美月、 美月ぃー…」

  

  「あっ、琳ちゃん、 見っけ!」

  

  「ぁ……美月……」

  

  姿を見て、また涙がこみ上げてきた。

  

  美月は、歩道の手すりを跨ぎ、此方の方に一目散にかけてくる。

  

  「美月……ごめn……ッ!!」

  

  が、こみ上げてきた涙は、一瞬で逆流した。

  

  そして、気が付けば、地面を蹴り、力の限り羽ばたいた。

  

  涙を逆流させた根源は、キィーッ!!っと擦れる音をたてた。

  

  しかし、その音が鳴るには、遅すぎた。

  

  例えるなら、燃え盛る豪華に手桶1杯の水をかける様な。

  

  そして、美月に手が触れる間もなく、庇う様に抱きしめた。

  

  美月を片腕で抱いたままでも、助走なしで2メートルぐらいなら飛べる。

  

  だが、美月の体温が腕に伝わり、1秒も経たない内にボクと美月は、

  

  ブレーキの轟音を立てた鉄の塊に突き飛ばされた。

  

  鈍痛が、襲う間もなく、何か太い柱に背中をぶつけ、残りの反動で頭をぶつけた。

  

  「うぐっ!!」

  

  「痛いっ……痛いよっ…琳ちゃん…」

  

  「…大丈夫だよっ、美月…」

  

  美月の背中を撫でようとした時だった。

  

  …撫でようとした片腕に激痛が走った。激痛で薄れる意識の中確認すると、

  歩行者と走行車を分ける柵に片腕が挟まり、

  

  「ガアアァァッッ!!」

  

  「っ!!」

  

  声をあげる間もなく

  

  …ザクッ

  

  …ブチッ

  

  鈍痛とは別の二つの激痛が、ボクを気を失わせた。

  

  「琳ちゃ…? いっ……いやあぁぁぁっ!!」

  

  

  

  

  ……

  

  [newpage]

  

  

  ボクが目を覚ましたのは、数日後で

  左翼を暖かい何かが掴んでいた。

  そして、左腹部に僅かな重さを感じた。

  でも、どちらも不快ではなかった。

  

  目を開けるとそこには、ボクの一番大事な彼女が居た。

  口を開き、名前を呼ぶ

  「……」

  …美月。

  

  あれ……声が出ない?

  右腕で喉仏辺りを触れようとしたが、何か寂しい感覚がした。

  「ッ……」

  右腕が無くなり、先端には、白い清潔そうな包帯がぐるぐると巻かれていた。

  

  ……突然のことに頭がパニックになった。

  

  夢?……

  

  そう思いながらも、左手で自分の喉仏を触った。

  羽毛の奥に、固い糸、釣り糸で使うようなモノの感触がした。

  そして、それが縫合された後であることと、リアルな感覚が夢ではないと理解した。

  「ぁ……ぁっ…」

  受け入れられるはずの無い現実。

  喉に痛みを感じながらも、微かな悲鳴をあげ、ボクは泣いた。

  

  やがて、美月が目を覚ました。

  

  「琳ちゃん……良かった、目を覚まさないから心配したんだよっ…んぐっ」

  

  美月は、ボクが泣いているのに気づいてないのか一目散に抱きついてきた。

  

  そして、美月も泣き出していた。でもそれは、ボクが泣いている意味とは違う意味だろう。

  

  暫くして、喋らないボクの気づいたのか美月が手を緩め、ボクの顔を見た。

  「琳ちゃん?…どうしたの?」

  「……」

  ボクは、不安でたまらない気持ちを紛らわすため左腕で美月を抱き寄せた。

  

  「……ぁ……っぁ」

  

  「……やだ……こ、声出ないの? 嫌だよぉーっ!」

  

  声が出ないのを美月は初めて知ったらしい。

  

  だから、泣いてくれた。

  

  ボクの分まで、わんわん泣いてくれた。

  

  それが嬉しくて、ボクは更に泣いた。

  

  声がかれても、美月は泣いてくれていた。

  

  それと同時に、ボクは抱き合う寸前の美月の体を思い出し

  大きな怪我が無かったのを理解し、怪我がボクで良かったと思えた。

  それから暫くして美月はボクを解放して、泣きながら

  「ごめんね」

  と言った。

  それに対しボクは、無意識に言葉を発そうとした。

  『美月が無事でよかった』

  口パクなのに、ボクが何をいったのか理解したのか

  美月は再び泣き出した。

  「ご、ごめんね、私のせいでこんなことなって」

  ……

  大丈夫だよ。 言葉が発せたならそう言ったんだろうか?

  しかし、今のボクは言葉を発せ無い。

  だからボクは、美月をそっと抱き寄せ、抱き寄せた左腕で美月の背中をそっと撫でた。

  撫で終わった後、美月は、ボクの顔を見た。

  「……ずっと傍に居ていい?」

  「…!?」

  ボクは、ただならぬ雰囲気で言われたその言葉に何故かドキッとした。

  『……ボクで良いの?』

  こんな体のボクの傍で良いの? そういう意味で問いかけた。

  しかし、悪まで口パク状態のその言葉、美月に届いてるとは思わなかった。

  それなのに、また美月は泣き出した。

  「バカッ!」

  「…!」

  「琳ちゃんじゃなきゃ……琳ちゃんじゃなきゃ…やだ…」

  「…」

  どうしてボクの気持ちが届いて(聞こえて)るんだろう?

  

  そして、ボクらは、また泣き出し、抱き合った。気がつけば

  狭いベッドの上で二人横になり眠っていた。

  

  右腕も無い、声も出ない、そんな今だけど

  美月のことで思い悩んでいたあの時よりも幸せだった。

  

  

  それから…

  美月とは、殆ど一緒だった。

  美月とボクが教室に入ると、すぐさま駆けつけてきた。

  その主は、『美月が苛められてる』と嘘をついたクラスメートだった。

  「美月さん、琳太郎君……ごめんなさい」

  泣きながら謝ってきた。

  「お、オレ……こんなことになるなんて……ごめんなさい、ごめんなさい、うぅ…」

  泣かれたことでこちらにも罪悪感が湧き出てきた。

  確かに、発端はその子だが、このような惨事をその子は望んでいない。

  だから、ボクらの前で大泣きして許しを求めている。

  しかし、美月は、

  「な、泣けば済むと思ってるの!? あんたのせいで…あんたのせいでっ!」

  感情的になりながら手をあげようとしていた。

  ボクは、その手を掴んだ。

  「なんで庇うの!?」

  ビクッとした嘘をついたクラスメート、泣きながら怒りの表情の美月。

  『もういいじゃん、許そう? それに……』

  「…それに?」

  『ボクは、今が幸せだよ?』

  「う、うぅ、琳ちゃんっ、琳ちゃんっ…」

  そして、美月も泣き出した。ボクはそっと抱きしめた。

  「えっ、琳太郎君喋ってないよね?喋れないよね? ななな、なんで会話してるの?」

  そのやり取りをみていたクラス中がどよめく。

  確かに、ボクも最初は、口パク状態なのに、言いたいことを理解する美月に驚いた。

  だから、皆が驚くのも当然だろう。

  『……なんでっていわれても…』

  ボクは思わず口パクで返事をした。

  しかし、当然誰にも伝わらない。

  「なんでって、美月と琳ちゃんの仲だもん! あ、因みに美月達付き合ってるから、琳ちゃんは誰にもあげないからね!」

  『……うんうん…そうそ……えっ? い、今なんて?』

  目を開いて口をパクパクさせるボクに気づいて

  「え? ずっと傍に居るって言ったじゃん! 美月は、琳ちゃんのモノだからね?」

  『……』

  何もいえないんじゃなくて、完全に照れていた、嬉しい気持ちもあったけど、恥ずかしかった。

  数秒間沈黙だった教室はやがて

  「キャァァッ!! カップルおめでとう!!」

  そのクラスメートの一言に皆が続く

  『おめでとう!!』

  そして、口々ににぎわい始めるクラス。

  「琳太郎も男だなぁ…まさか、一番彼女出来なさそうなお前が一番だなんて」

  「ずっと一緒だったもんね! すっごくお似合いだよっ!」

  キャッキャ騒ぐクラスメート達

  そして、一人のクラスメートが声を上げる。

  「ねねっ、チューは? チューはした?」

  『…チュー!?』

  「…ぁ…してなかったね、大好きだよ、琳ちゃん」

  『…まま、待って、心の準備がっ!というか皆見てるし!!』

  想像したのは、ドラマでみたような1シーンで嘴と唇が重ねあう様子。

  口をパクパクしてあわてるボクに

  「えー、もう琳ちゃんの大胆っ! でも良いよっ!」

  「ヒューヒューッ!」

  『い、言ってない!』

  

  ボクは目を閉じようとした瞬間、意地悪そうに笑む美月の顔があった。

  そんな攻め気な美月に、少しドキッとするが、そのまま目を閉じ逃れるように横を向いた。

  

  

  やがて……

  

  フニッとやわっこい感触が頬を伝った。

  

  「キャーー素敵っ」

  「おめでとー!!」

  ……。

  

  唇と嘴のキスじゃなかったことにホッとするが

  状況を理解して、顔が火照った。

  

  おさまるのには少し時間が掛かった。

  

  

  実は、この話には続きがあるのだが

  それはまた、別の機会に。

  

  

  

  最後に、

  一部、または殆どにキャラの性格に違和感などがあり不快を感じた方が居ましたら申し訳ありません。

  最後までお付き合いいただきありがとうございました。

  

  

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