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「――じゃあ、金倉さんのことよろしくねー」
「襲うなよー」
同僚たちのそんな声に「はいよー」と適当な相槌を返して、肩を貸している後輩――金倉アイカのもふっとした腕を背負い直す。
週末の夜に開かれたいわゆる華金の飲み会は、大多数が二次会へと繰り出していくことを選んだ。一次会が終わった時点で帰るのは、酔いつぶれたアイカと、それを送っていく役目を引き受けたシラフの僕だけ。
「むにゃむにゃ……せんぱーい……」
わざとらしい寝言を耳元に聞きながら、わいわいと二次会へ向かう同僚を見送る。はしゃぐ酔っぱらいたちは時間をかけて次の飲み屋の方向へと歩いていくのがじれったい。ようやく彼らが通りの向こうへ消えたのを確認して、「ほら」とアイカを揺すった。
「みんな行ったから。もう寝たふりしなくていいよ」
「うーん……もうお腹いっぱい……」
そんなはっきり寝言を言う人などいない。立て続けにゆさゆさと揺すり続ければ、アイカは「うー」と恨みがましい声とともに、僕に肩を借りたまま、ぶら下げていたもう片腕を回して抱きついてきた。
犬系獣人であるアイカの体は、全身がふわふわした金色の毛皮に覆われている。着崩れたレディーススーツ越しでも分かるほどもふもふした感触は嫌いじゃないけれど、大柄な体で寄りかかられると重いし、繁華街の蒸し暑い夜に密着するのもちょっとつらい。
「せんぱぁーい……酔ってる人をそんなに揺らすのは、よくないですよぉ……」
「酔ってないでしょ」
そう言った僕も、自分の声が笑い混じりだったことは自覚していた。
ようやく観念したのか、アイカがのっそりした動きで僕から離れる。何がそんなに嬉しいのか、しばらく僕を見つめていたかと思えば「えへへぇ」と笑ったアイカに、不覚にもドキッとしてしまう。
大型犬系の獣人の中でも、アイカは特に大きい方だ。僕より頭ひとつは高い背丈は、そのてっぺんについたふわふわの垂れ耳もあって更に高く見える。楽しそうに左右に振れている尻尾も、ふさふさで長く太い。さっきまで僕を抱きしめていた腕も、もふもふした毛皮抜きでもだいぶ太い。
しかしアイカはそんな体格と裏腹に、まるで小さな子どもみたいに笑う。僕よりも年下で、社会人二年目で擦れていないというのを抜きにしても、明るくて純真な女性なのだろう。
「じゃあ、帰りましょうか、先輩」
「……うん」
大きな尻尾をふわっと振って、微塵も酔っていないしっかりした足取りで、アイカは駅に向かっていく。
今日の飲み会、僕みたいに烏龍茶しか飲んでいなかったわけではなくて、アイカはちゃんとビールを飲んでいた。だからみんなアイカの酔ったふりを信じたのだけれど、僕はこの後輩がとんでもないザルであることを知っている。ビールの一杯や二杯で寝ることなんかありえないし、「帰れないかもしれないから送ってあげて」なんて気を使ってあげる必要も無い。
それでも僕がアイカを送る役を引き受けた理由は単純。僕とアイカが、付き合っているからだ。
…………
「ただいまー」
「おじゃまします」
アイカのマンションは、僕のアパートから十分も経たず来られる場所にある。お互いの部屋に行き来するのは簡単だけれども、二人で過ごすときに選ぶのは決まってアイカの部屋。
言ってしまえば安アパートである僕の部屋は壁が薄い。それに比べて、アイカの部屋はお高い家賃相応にしっかりした作りで、隣近所の音などまったく聞こえない。
「せんぱーい。靴なんていいですから、ほら、はやくぅー」
「ちょ、ちょっと落ち着いて……」
脱いだ革靴を揃えていた僕の背中に、アイカがのしかかるように抱きついてくる。
重い。暑い。そして、柔らかい。
アイカは大きい。何がと言わず全てが。身長は僕より高いし、もともと毛皮で体が膨らんで見えがちな獣人の中でも目立つほど、胸とお尻は際立って大きい。体が大きい分、本人には言いづらいけれど体重もかなり重い。押し倒されたら僕では押し返せないくらいには。
「んー……ぺろっ」
突然、アイカの舌が僕の首に這わされた。悲鳴を上げた僕を面白がってか、アイカは長い舌で繰り返し繰り返し、首を舐めてくる。ザラザラした舌はたっぷりの唾液で濡れていて、感じられるのはくすぐったいのと気持ちいいのが半分くらいずつ。
「ほら、先輩……? 早くしないと、このまま食べちゃいますよー……?」
アイカの声が、熱っぽさを帯びている。もちろん物のたとえだけれども、大きな口でガブッとやられるのはそれが甘噛みだとしても恐ろしい。
「分かったから、離れてくれないと立てないよ……」
「……せんぱい」
急に、アイカはしおらしくつぶやいた。首を回して見れば、僕の顔を覗き込んでいるアイカの目は、すっかり潤んでしまっていた。
こういう目をしているときのアイカは、つまり、そういう状態だ。
「……我慢、できないです」
アイカの手が、玄関に座ったままの僕の股間に伸びてくる。もふっとした大きな手は、いつの間にやらすっかり大きくなってしまっていた僕のモノを、ズボンの上から撫でて確かめている。
「えへへ……先輩も、ですよね?」
「……うん」
胸を押し付けられて、首を舐められて、熱っぽくささやかれて。恋人にそこまでされて、何にも思わないはずがない。
アイカはゆっくりと僕から離れる。ようやく僕も立ち上がることができて、このままベッドへ……と思えば、アイカは僕に背を向けて、広い玄関の壁に手をついた。
「……せんぱい♡」
そしてその状態でお尻を突き出すと、期待の籠もった目で、振り返ってくる。
ただでさえキツそうなのに、尻尾穴を引っ張って揺れる尻尾のせいで、スーツのスカートははち切れるんじゃないかってくらいパツパツになっている。そこから伸びているふわふわの毛皮に覆われた太い脚は、かすかに震えている。
ベッドに行く間も惜しいくらい発情している恋人を諭せるほど、僕も冷静じゃない。
スカートのホックを外して脱がせてあげて、ふわふわの体に隠れた秘部を指で探る。おもらしでもしたみたいに、アイカは太ももの毛皮までぐちゃぐちゃに濡れてしまっていた。もう、前戯なんてアイカも求めてないだろう。
ベルトを外したスラックスを落として、痛いくらいに勃起しているモノをアイカのソコにあてがう。
「ふうっ……ふっ、ふー……♡」
アイカは鼻息を荒くして、急かすように腰をへこへこと動かす。でも、腰の位置が高い上に動かされてはこちらとしてはかえって挿れづらい。仕方なく尻尾を掴めば、「きゃんっ♡」と甲高い悲鳴とともに大人しくなった。
そのまま、あてがった先端からゆっくりと挿入をしていく。
「ゔっ……うぅ~~♡♡」
ペニスが奥へと入っていくにつれて、アイカの口から漏れ出る唸り声が大きくなっていく。
アイカの中は狭い上に膣壁がザラザラしている。しかも獣人は人間よりも体温が高い関係で、腟内も熱く感じられる。油断すればあっという間に射精してしまいそうで、僕も歯を食いしばってどうにかこらえないといけない。
暴発しないように、じっくり味わうように、窮屈な腟内をかき分けていき、ようやく一番奥までたどり着く。とんっ、と先端が奥にぶつかった拍子に、アイカは「わふ♡」と犬らしい鳴き声を上げて、ぷしゃっと潮を吹いた。
「……動かしても大丈夫?」
「わう……はふっ……♡」
アイカはまともに喋れないまま、頷きを繰り返す。それくらい興奮して悦んでくれている。こちらはそれが嬉しくて、もっと悦ばせたくなる。
激しくは動かさず、執拗に、アイカの弱いところ……一番深いところをかき回して、小突いてやる。
「お"っ♡ うぅっ♡ ふぅっ♡♡」
鈍い呻きのような喘ぎ声は、いつものかわいらしいアイカには似つかわしくない。一方でそれは、雄の興奮を煽り立てるのには最適の鳴き声ではある。
掴んでいた尻尾を軽く引っ張ってやって、膣奥をぐりぐりと押す。バックでやるときは、ちょっと痛いくらいの方が、アイカは悦ぶ。思惑通り、アイカは腟内をきゅんきゅんと締め付けてきたかと思えば、「お"ぉ~……♡♡」という低い声とともに、背中を反らして脚をガクつかせた。しばらくそのまま絶頂に鳴いていたかと思えば、今度はくたりと頭を下げ、開いた口から舌を出し、「へっ♡ へっ♡」と息をつく。こっちを向かせてやれば、アクメの余韻に浸るだらしない笑顔が見られるだろう。
でも、休ませてあげるつもりはない。
こっちはまだ満足していないんだと、片手では尻尾を掴んだまま、もう片手で腰を鷲掴みにして、ストロークを大きくして突き込む。
「きゃいんっ♡♡」
アイカの顔が跳ね上がって、マズルからは悲鳴が飛び出した。相当驚いたのか、垂れ耳もピンと立ってしまっている。
熱くて粘つく愛液が絡みついて、ピストンを繰り返すたびにぶちゅっ、ぶちゅっという濁った音が立つ。それすらかき消す勢いで、アイカは「きゃんっ♡ ひゃん♡」という鳴き声を上げ続ける。
ザラつく襞がカリ首や亀頭を擦り上げて、眼の前がチカチカするくらい気持ちいい。"つがい"の子種を搾り取ることしか考えていないような獣人の性器。そんなものを差し出されて、いつまでも堪えるのも無理な話だ。
アイカ、と名前を呼ぶ。悲鳴を上げていたのに、アイカはそれをちゃんと聞き取ってくれたらしい。耳をピンと立てたまま、「ひゃいっ♡」と返事だけは返してくれた。
また、アイカの中がきゅうっと締め付けを強める。元々キツいのに更に強く締め付けられて、一番深くまで挿れたまま、動くこともろくにできなくなる。そんな膣内で、思う存分、精液を放った。
――どぷっ びゅくんっ……!
塊みたいな精液が尿道を抜け出ていくのが分かる。射精の快感に歯の根が震えて、けだものみたいな吐息が漏れる。
それを受け止めるアイカも、膣内射精の快楽に悦んで「わうぅ~~~♡♡♡」と長々と鳴いている。
――びゅるっ どぷん……
射精はなかなか収まってくれない。抜こうと思って腰を引こうとすれば、その僅かな動きでまた精液が上ってくる。アイカの中もそれが分かっているかのように、きゅんきゅんと締め付けと蠕動を繰り返して、子種を搾ろうとしている。
もう空っぽになったんじゃないかと思うくらいの長い射精がやっと終わっても、まだ、動けない。体中が痺れたみたいで、油断すれば力が抜けてアイカの体にのしかかってしまいそうだった。
「はふっ……♡ わうぅ~……♡」
アイカの鳴き声だけを聞いていることしばらく。ようやく足元に感覚が戻ってきたところで、挿れっぱなしだったペニスを引き抜く。栓が抜けたことで、ぽっかりと空いたままのアイカのアソコからごぷりと白濁した精液も漏れ出てきた。
知らずしらずのうちに握りしめてしまっていた尻尾も手放して、どろどろべたべたになっているアイカのお尻を撫でる。それだけの刺激で、アイカは「きゃう♡」と可愛く鳴いた。
「……アイカ、大丈夫?」
「ひゃひ……♡ だいじょうぶ、れす……♡」
あんまり大丈夫そうではない滑舌で言いながら、アイカが振り向く。
「だから……つづき、しましょう……♡」
そう言ったアイカに、僕は頷く以外の選択肢は持っていなかった。
ベッドへ仰向けに倒れ込んだアイカが、「せんぱい♡」と両手を伸ばして誘ってくる。
服を全部脱ぎ捨てたアイカに覆いかぶされば、そのもふもふな毛並みの良さと、肉付きのいいふわふわな体の柔らかさで、極上の寝具にでも倒れ込んでいるような気分になる。実際、アイカに抱きついて寝るとそれは素晴らしい寝心地ではあるのだけれども、今は眠気なんて欠片も感じていない。
手のひらに収まらない大きな胸を掴んで、ふさふさの毛並みをかき分けて、隠れていた乳首を指先でもてあそぶ。ぷくっと膨らんだ乳首はかなり敏感なようで、ちょっと触るだけで、アイカはもじもじと太ももを擦り合わせて反応してくれる。
「んぅっ……♡♡ えへへ、せんぱい、おっぱい好きですよね……♡」
おっぱいが嫌いな男がいるだろうか。むにゅむにゅと柔らかい乳肉を手で堪能していると、不意に、アイカが「はーい、どうぞー♡」と僕の後頭部に両手を回した。
「ぎゅー……♡」
そして、おっぱいの谷間に僕の顔をうずめさせた。
ふわふわの毛並みに、ふかふかのおっぱい。安らぐのと興奮するのがいっぺんに来て、頭が混乱しそうになる。
さっきの立ちバックでの絶頂からすっかり立ち直ったのか、アイカは一度目の射精からすっかり回復したペニスにふとももをぐりぐり押し付けながら、「ふふー♡」と笑っている。
その余裕がちょっと悔しくて、おっぱいの中から顔を上げる。精一杯の虚勢でアイカの顔を見つめてみれば、アイカは玄関で見せた発情したケダモノの顔から打って変わって、慈愛すら感じられる優しい表情で見つめ返してきていた。
「……えへへ♡ どうぞ、せんぱい♡」
その表情のまま、僕のモノを手で支えて、自分の秘部に添えさせる。
誘われるように腰を押し進めて、アイカの中へもう一度入り込めば、相変わらずの熱と快感に迎えられた。違うのは、アイカが上げる声が「んっ♡」と控えめだったこと。
「せんぱい、ぎゅー♡って、してください……♡」
深く繋がったまま、言われたとおりにアイカを抱きしめる。首のあたりのふかふかの毛並みに鼻を押し付けて息をすると、むわっとした雌の匂いが脳を痺れさせるようだった。
「えへ、えへへぇ……♡♡」
大きなもふもふの手が、僕の頭を撫でる。玄関では散々に鳴かせてちょっと優越感もあったけれど、こうしてくっついていると、アイカのほうがずっと強くて大きい生き物であるということを実感させられる。
「せんぱい……すきです……♡ だーいすき……♡」
甘ったるい声で言われて、無意識に頷いてしまう。まっすぐな言葉に胸が高鳴る。きっと僕もだらしない笑顔になってしまっているはず。顔を見られていなくてよかった。
僕の頭を撫でながら、アイカは腰を揺する。僕が上に乗っている形なのに、主導権はアイカにあった。激しい動きじゃない、ぬち、ぬち、と小さく音を立てて、お互いの体をこすり合わせるだけの行為。目がくらむような快感よりも、頭がふわふわする幸福感が膨らんでいく。
「……せんぱい。私のこと、好きですか……?」
その質問にも、一も二もなく頷いた。恥ずかしいなんてことを考える間すらなかった。「好きだ」と毛皮に顔をうずめたまま漏らせば、また、「えへへ」という笑い声が聞こえてきた。
「わたしも……♡ だいだいだーいすきです……♡♡」
そう言ったアイカの中が、きゅうっと締め付けてくる。急に刺激が増して、反射的に腰を引こうとすれば、そこにアイカは「えいっ♡」とふかふかの太い脚でしがみついてきた。
太い腕と脚でがっしりと抱え込まれて、いよいよ僕は身動きが取れないまま、アイカにへばりついたような形になってしまう。
ふかふかふわふわ。自分より大きな彼女に包みこまれて、腰を振ることもろくにできない。でもアイカの膣内はきゅんきゅんと動いて、じわじわと性感を高めてくる。
「いつでも、いいですよ……♡♡ せんぱいの好きなときに、びゅっ♡びゅっ♡って……出してください……♡♡♡」
やっていることは交尾なのに、アイカは子どもを甘やかすように頭を撫でながらささやく。それに対する意地や反抗心は、ふさふさの毛並みに包みこまれてたちまち溶けてしまう。
うぅ、という意味もない声が口からこぼれて、あ、と気付いたときには、僕の射精欲は限界を迎えていた。
――どぷ、とぷん……
勢いのない射精が、びくつくペニスから放たれる。ほんの少しだけ湧いてきた屈辱感は、頭を撫でてくれるアイカの大きな手に拭い去られる。
「えへへ……♡ じょうずじょうず♡ せいえきおもらし、きもちいいですね……♡♡」
気持ちいいのと恥ずかしいのが混ざって、どうにか腰を振ろうとしても、アイカのもふもふな体に抱きしめられていることによる幸福感に塗りつぶされる。
結局は自分からアイカに抱きしめ返すことしかできないまま、力無い射精が続く。雄としてどうこうなんて何にも考えさせてもらえないまま、もふもふふさふさに溺れていく。
ぎゅーっとくっつけられたおっぱいが柔らかい。腰にしっかり絡みついた脚もふさふさでむにむにしている。なでなでと頭を撫で続けている手があったかい。アイカ、と意味もなくつぶやいてしまっても、「はい♡」と優しく返事をしてくれる。
「せんぱい♡ えへへぇ……♡♡」
時々、アイカは「んっ♡」「ふぅ……♡」と小さく鳴いて、体を震わせている。ほとんど動かずにただ繋がっているだけなのに、アイカもちゃんと気持ちよくなってくれているらしい。
射精が続いているのか、終わっているのかも分からない。このままくっついていたら、アイカの熱い体に溶けて混ざってしまいそうだった。
「……えへ。ぎゅー……」
アイカも、僕をぎゅーっと抱きしめてくれる。抱き返そうと思ったけれど、快感と幸福感で体はくたっと脱力してしまう。
いろんな気持ちいいが一緒くたになって、それに身を任せて目を閉じる。アイカのふかふかな首元で深呼吸をすると、なんだかお日様の匂いがした気がした。
…………
「だって、先輩凄い気持ちよさそうに寝てたんですよ。もう、かわいくって。そんなの起こせないじゃないですかぁ」
「いや、それでも起こしてほしかったかな……」
翌朝。
アイカとセックスをしてそのまま寝落ちしてしまったらしい僕は、朝イチで汗やらなんやらでベタベタだった体を洗い流した。
一晩中僕を抱きしめたまま寝ていたアイカもあちこち大変な有様で、特に下半身の毛は時間をかけてシャンプーをしなければいけないほどだった。
獣人のお風呂は長い。洗うのにも乾かすのにも時間がかかるから、面倒でシャワーを嫌う人も多いなんてことも聞く。
でも、アイカはお風呂好きだ。夜に電話をするとだいたい「お風呂中で取れませんでした」と後から折り返しが来るし、「毛並みをふわっふわにするには必要ですし」なんて笑ってもいた。
そして僕も、アイカとお風呂に入るのは嫌いじゃない。濡れていつもよりちっちゃく見えるアイカは面白いし、毛皮を泡だらけにするのも、流した後のドライヤーでどんどん毛並みがふわふわに膨らんでいくのも楽しい。
「……先輩、ドライヤー上手ですよね」
獣人用の高出力ドライヤーの音に混ざって、アイカがつぶやいた。まだ乾かしている途中で、上半身はふかふかなのに下半身はしゅっとした、ちょっと愉快な格好をしている。
「何回もやってたら、ちょっとは上手になるよ」
「いーや、最初から上手でした。もしかして、獣人の元カノとかいました……?」
「いないよ。なんなら、女の人と付き合ったのもアイカが初めてだよ」
「……つまり、私が先輩のはじめての人ってことですね?」
いきなり不機嫌そうな顔をしたかと思えば、勝手に機嫌良くなって「えへへ」と笑う。
ころころ表情の変わる恋人にあらためてかわいいなあと思いながら、乾かすついでにお腹を撫でる。
「わふっ……くすぐらないでくださいよぉ」
「乾かしてるだけだって」
アイカは小さく吠えながらも、抵抗らしい抵抗はせずに身を任せてくれた。
昨日みたいに発情しているときは別として、大抵の場合、アイカはちょっとしたボディタッチくらいは変に興奮もせずに受け入れてくれる。くっつかれるだけで簡単にその気になる人間としてはちょっと情けないところもあるけれど、こうして遊んでいるのも、それはそれで楽しい。
「……そういえば、先輩」
どんどんふかふかになっていくお腹の毛並みを堪能していると、ふとアイカが言った。
「私、再来月にお休み取りますね」
「えっ。何か用事?」
「用事といえば用事ですけど。あと、去年も取りました」
「……そうだったっけ」
去年のその時期、僕とアイカはまだ付き合ってなかった。可愛い子だなあ、と意識してはいたけれど、休みを取ったかどうかまでは覚えていない。
「理由、分かりませんか?」
「分からないなあ」
「……発情期ですよ」
唐突な告白に、ドライヤーを取り落としそうになる。
全員がそうではないけれど、一部の獣人には発情期がある。昨夜のような一時的な興奮ではなく、数日続き、メスであればその間に生殖行為をすればほぼ確実に妊娠するという期間。見境もなく異性を襲うようなことにはならないけれど、ある種の興奮状態にはなるため、その間は学校や会社を休む人が多い。
そしてその理由はだいたい「体調不良」で伏せられていて、発情期だとはっきり自分から明かす人は少ない。
「たぶん、お休みするの一日か二日くらいですけど……先輩は、"お見舞い"来てくれますよね……?」
発情期の間に、恋人を招き入れる。それが意味するところは人間でも分かる。
「……食べ物とか飲み物持って、お見舞い行くよ」
「えへへぇ、ありがとうございます」
お腹が乾いたところで、ドライヤーの出力をひとつ上げて、脚を乾かしていく。
やっぱりくすぐったかったのか「わうっ」と鳴いたアイカは無邪気だけれども、発情期の話をされた直後に恋人の体を撫で回していて、こちらとしては邪な気持ちが入らないわけがなく。
「あ、先輩……?」
「……ごめん」
僕もアイカもお風呂上がりで、タオルも巻いていない。当然、昨日あれだけやったのにもうガチガチに勃起してしまったモノを隠せるわけもなく、しっかり見られてしまった。
弱々しい謝罪で誤魔化して無心でドライヤーを続けようとすれば、その手にアイカの大きな手が重ねられる。そして、カチカチとスイッチをオフまで持っていかれた。
そのまま、アイカはもふっとした体で僕を抱きしめる。
「先輩は、年中発情期で大変ですね……♡」
「……うぅ」
「えへへ……そういうところも、かわいくて好きですよ♡」
「よしよし♡」とアイカの手が僕の頭を撫でる。ちょっとだけ優位に立てたとしても、結局はこうなってしまう。
ぺろ、と僕の耳を舐めたアイカが「えへへぇ♡」と笑う。その声も体も全部がやわらかくてふわふわ。抱き返して、乾かしたばかりの毛並みに鼻先をうずめれば、爽やかなシャンプーの香りの奥には、ほのかに甘ったるい雌の匂いが感じられた。
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