滅びの魔女に拾われたら愛が重たかった5 開戦

  「…」

  マルディナは神妙な面持ちで手紙を見ていた

  「マルディナ?」

  体が動くようになってからまた体を鍛えていた俺は部屋に戻るとその神妙なマルディナの背中が見えた、声をかけると彼女は慌ててこちらに振り向いた

  「あらアルヴァン…鍛錬は終わった?」

  「まだ軽めしかできない、軽い鍛錬にも関わらず汗だくだ」

  「ならシャワー浴びてらっしゃい、もうそろそろお昼だしお昼にしましょ」

  と彼女はなにかを隠そうとする、私は強引に彼女が見ていた手紙を覗きこむ、彼女は特に隠そうとはしなかったがその内容はあまり良いものではない

  『滅びの魔女マルディナ殿へ、シルビアに戦の動きあり』

  シルビアがまたバリアルとの戦争を起こそうとしていた、マルディナは我関せずという態度を取れるが、ここはバリアルの領土、もしシルビアが戦争をしかけ敗北すればマルディナを追い出しにかかるかもしれない

  「戦争か…数年前ならシルビアは戦争を自ら起こすなどしなかったのに」

  「アルテミス発足が原因ね、調子に乗ってるわ、いっそ吹き飛ばしてやろうかしら」

  「バリアルとしては滅ぼして欲しいかもだがリスクがありすぎるんだったか?」

  「そっ、私が滅ぼした場所って100年は草木が生えない場所になる、シルビアを吹き飛ばすのは簡単だけど吹き飛ばしたあとがね…あの土地って肥沃だしいい素材があるのよね…私としても滅ぼすには惜しいの」

  たしかにアルテミスの防具や武器にはかなり良質な鉄や魔法防護などが使われ、それは良い魔力が必要で、マルディナからしたらそこらに良質な魔力が転がっているようなものでそれを無くすのは惜しいとの事

  過去に国を滅ぼしたことはあるがそれは滅ぼした方がいい、滅ぼさざる負えなかったという話だ

  「…ならシルビアに正攻法か」

  「難しい話しよね…はぁ…とにかくバリアルで作戦会議あるみたいだし行ってくるわね、お留守番頼める?」

  彼女がバリアルに向かうと聞いた時私はある考えが頭によぎった、本来なら我関せずでよいのに、私はこれを実行せねばならないと感じていた

  「…マルディナ」

  「なに?」

  「その会議、私も参加させて欲しい」

  バリアル帝国

  そこはシルビアと同等の力を持つと言われている国であり、帝国の名前の通り、領土、武力、資源やその他まで潤沢にある

  尚且つ首都、城下町では商業も盛んであり傭兵業すらも見かける

  かなり栄えており、帝国とは言うが国の雰囲気は良い場所だった

  「アルヴァン、いい?あなたは今私の使い魔っことだからね?」

  「わかっている」

  今自分はマルディナに拾われた死体を蘇らせて使い魔にされた設定だ、バリアルでは私のことは有名だろうから生きていると知られたらスパイだのなんだのと疑われその場で殺されるかもしれないからだ…故に今はフードをかぶり顔を隠している

  マルディナは最初反対していたが、私がマルディナの為だと説得したら彼女は簡単に折れてくれた

  とは言え言った言葉に嘘はない、実際に彼女が私と平穏に暮らしたいと言うなら私はそのために今は動く、助けてもらった手前、恩を返せるならば返したいからだ

  「ついたわ、ここがその場所」

  会議が開かれるだろう城へと入っていく、バリアルははっきりいってシルビアよりフランクだった、なぜはらば城の中に平民、市民が普通にいるからだ

  「今年の収穫量が悪くなりそうでな」

  「ふむ…たしかにココ最近悪天候だったな…同じ報告はいくつか聞いている…話を通しておく」

  「3番街の家がこの間崩れたみたいで」

  「わかった、大工に話をつけよう」

  「随分と開放的な国だな」

  「あら、アルヴァンはバリアルに来るのは初めて?住み心地いいわよ〜色々あるし私たまに薬売りに来るくらいだし〜栄えてる国で税も軽い、シルビアとの因縁が捨てれない以外は本当にいい国なんだけど」

  「シルビアとの因縁?」

  「あら、知らない?ってそうだわ、アルヴァンが産まれる前の話だものね」

  私が産まれる前、今から約40年前にシルビアとバリアルは戦争を起こした、その原因はシルビア側がバリアル国の平民を殺したことから始まる、双方主張が対立をうみ、たった1人の殺害から長い長い戦争がはじまったのだ

  「そんな理由で…」

  「そんな理由、そう、そんな理由よ…シルビアが謝罪したら済む話をプライドが許さなかった、そうして40年も戦争してる…バカバカしいわ、そして今バリアルとシルビアは敵同士という認識しかしてない、だから過去の理由なんて忘れて争ってるだけ」

  そんな馬鹿みたいな理由で自分は徴兵され身を粉にして働いて最後には裏切られた…仕えていた私はシルビアに失望したと同時に無力感に襲われた

  「アルヴァン」

  マルディナが落ち込んだのを見て励まそうとして彼女は私のフードをずらして唇にキスしてくる

  「ん…」

  「アルヴァン、私はあなたを見捨てないから…安心して」

  「…!」

  「ん!」

  私は思わずマルディナの腰に腕を回し彼女の唇を自分から奪った

  衝動だった、マルディナの唇を必至に奪い、彼女の酸素すら奪うほどに食いついてしまった

  「!!」

  我に返った私は慌てて口を離した

  「すまないマルディナ!私は…」

  「…」

  当のマルディナはというと顔が真っ赤であり、すこしヨダレが出てるのを手で隠しているが彼女は今にも爆発しそうだった

  「マルディナ…?」

  「だ…大丈夫、大丈夫よ…うん…嬉しいわ…アルヴァンからしてくれるなんて」

  「衝動でつい」

  「…アルヴァン…その」

  「お咎めならあとで聞く…から」

  「違うわ…その…いきなりされてびっくりしただけだから…でも嬉しい…貴方からキスされただけで…やっぱり使い魔じゃなくて私の婚約者として紹介しましょう、うんそれがいいわ!」

  「まてまてまてまて混乱するから!バリアルで問題が起きるから!」

  「大丈夫よ、むしろ私の婚約者って言えばいいだけだったわ!そうよ私は滅びの魔女よ!私に意見するやつがいたら消し飛ばせばいいのよ!そうよなにもビビることないじゃない!」

  となにかスイッチが入ったマルディナはテンション爆上がり状態になってしまった

  「やってしまったなアルヴァン」

  アイテールが姿を表しため息のようなものを吐かれた気がする、こればっかりは自分が悪いとアルヴァンも頭を抱えた

  「お久しぶりです麗しき我が姫君!」

  とマルディナのすぐ近くから声がした、するとキラキラした若者がマルディナに近づいてきた

  そしてマルディナは死ぬほど嫌な顔をしていた

  「なんの用ですか、エリオン殿」

  「釣れないな私の姫君、君が来ると聞いて待っていたのに」

  あんなに嫌そうな顔をするマルディナは初めて見た、見たところ貴族様だろうし話に割り込むのはまずいだろう、となれば尋ねる相手はアイテールしかいない

  「アイテール、あの人は誰だ?」

  「彼はエリオン・ダグラス、バリアルの権力者のひとりで現当主のエリオン・レギラスの息子だ、マルディナに惚れ込んでああして絡んでいるようだ」

  マルディナの態度からして鬱陶しそうだった

  「マルディナ殿、此度の会議の後お茶でも」

  「私は忙しいので」

  「貴方が望むなら私はあらゆるものを君にプレゼントしようじゃないか…なぜ私に振り向いてくれないのかな」

  「タイプじゃないので」

  (マルディナって私以外眼中にない…のか?)

  なぜ自分が惚れられてるのか1回聞いてみたくもあるが今下手に口を出すのは良くないだろう…そんなマルディナを見ていると

  「なぜお前がここにいる」

  当然いるであろうクロムがそこにいた、フードを被っていようと彼には私の気配が手に取るようにわかるのだ、戦場であれほど斬り合えばすぐに分かるだろうが

  「…」

  「使い魔のフリはやめろ、貴様のことがわからぬ私ではない、それとも…無理やり聞き出す方がいいか」

  彼は影から鎌を取り出そうとする、私としても今戦うつもりは無いため大人しく手を上げる

  「クロム、私はお前とやり合うつもりできた訳じゃない」

  「なら何をしに来た」

  「戦争を終わらせに」

  「シルビア側に我々の情報を流すためか?ついにしっぽを出したか」

  「違う、私はマルディナの為にここにいる」

  「なに?」

  「アルヴァン!!」

  マルディナが間に入りクロムを睨みつける、先程話していたエリオンは吹き飛ばされており、慌ててこちらに来たのが見て取れる

  「クロム将軍、辞めて」

  「マルディナ殿、なぜこの男を庇うので」

  「彼は私の婚約者よ、私の目が黒いうちは彼を傷つけるのは決して許さないわ」

  「マルディナ、私が話する…」

  私はそういうとマルディナは殺されるというが、クロムに全てを話さねば彼はさっきを収める気はないだろう

  「クロム、私は本当に戦争を終わらせるために来た、私はもうシルビアには愛想をつかしている、私が盗賊に堕ちて死んだなんて話、お前なら信じるか?」

  「…たしかに盗賊になったやつが国になにかしようとはすまい…だがお前がマルディナ殿の為に動く理由はなんだ、それが分からねば貴様を信用などできん」

  「わかった、マルディナすまない」

  「え?」

  彼女の顔をこちらに向け再び唇を奪う、またいきなり奪われたマルディナは目を見開いてびっくりしていた、それだけじゃなく、クロム含めたその場にいた全員が目を見開いていた

  「ん…これでいいか」

  「…」

  あのクロムが鳩が豆鉄砲くらったような顔をしそして

  「貴様ァあああ!」

  案の定エリオンが噛み付いてきた

  「我がマルディナ殿になにを手を出してる!」

  「貴方のものになった覚えはないです」

  「…アルヴァン、貴様…本当にあのアルヴァンか?」

  「アルっ?!」

  私の名前を出すとエリオンは顔を青ざめた

  「貴様まさかマルディナ殿の魔法陣や魔導具をことごとく破壊しつくしてきたあの破壊兵アルヴァンか…?」

  「バリアルでは私は破壊兵なんて呼ばれてたのか」

  「あぁ、貴様と戦っていたのが私以外いなかっただろ、我が軍としてはアルテミスより真っ先に我が軍の設備を破壊しに来る貴様の方が厄介だったからな」

  「アルヴァン…また惚れなおしたわ」

  マルディナは顔を赤らめクロムはため息を吐く、エリオンはカタカタと震えながらも剣を私に構える

  「ふん、破壊兵がなんだ!貴様にマルディナ殿は渡さん!それに貴様はシルビアの人間!!内通者である可能性も捨てきれまい!今この場でさば」

  ドゴォン!

  剣を振り下ろそうとしたがマルディナがエリオンを殴り倒した、地面に叩きつけるマルディナの姿を見て私は目をかっぴ開いた

  「アルヴァンに手を出すならいくら貴族といえど容赦はしないわ、貴方の一族を滅ぼしてやろうかしら」

  「マルディナ殿…?」

  「アルヴァンは私の婚約者なの、手を出すなら私を殺してからにしなさい」

  ブチ切れたマルディナを見たのははじめてだった、クロムもそうらしく顔をこちらに向けて(お前なんつー存在だよ)という顔をしてきた

  「私は悪くない」

  「一目惚れというのは恐ろしいな」

  「アルヴァン?」

  「いや、君は頼もしいなと」

  「あなたほどじゃないわ」

  モジモジしており先程の圧はどこへやら、クロムとしても私がマルディナの機嫌を良くしてくれることはありがたかった

  「マルディナ様こやつがが来た理由を聞きたい」

  「シルビアとの戦争を終わらせに来たのは確かよ、私が保証するわ、この人を拾ってから私以外にはあなたしかアルヴァンは会ってないわ」

  「…信じましょう、アルヴァン、貴様がマルディナ殿の信頼を裏切るような真似はするなよ」

  「わかっている…それに…たとえ私がシルビアの間者だとしても…私はシルビアを裏切るだろうな…」

  マルディナの頬に手を這わせる、彼女の顔をみてシルビアでの出来事を頭に浮かべる…彼女は私を愛してくれた…たとえ間者だとしてバリアルの情報を持ち帰っても自分はあの時と変わらない扱いだろう、心が壊れかけていたのだ…スレイと彼女では愛情に違いがあった…スレイの愛情は確かに本物だった、しかし次第に薄れていった

  では彼女の愛情はなんだ、そう絡みつくように自分にくっつくような…木の根のように複雑に絡み合う愛があった…

  「私は…間者だとしても裏切ってきみと一緒にいただろうね」

  「アルヴァン…」

  「…わかった」

  クロムは納得した様子で歩き出した

  「会議はまもなくだ、アルヴァン、貴様がマルディナ殿といたいと言うならば話を聞くといい」

  「あぁ」

  「…アルヴァン」

  「マルディナ、帰ったら…すこし話がしたい…君なら…もしかしたらまた…私が信じることが出来るかもしれない」

  「わかったわ」

  マルディナの手を取り一緒に会議室へと歩いていく、彼女との平和な生活を取り戻すべく…私は会議室へと向かった