滅びの魔女に拾われたら愛が重かった4 アルテミス

  「という訳だスレイ公爵…我が国は再びかの国、バリアルと戦うことになるだろう」

  「国王、しかしながら休戦協定がなされている今、我々が戦争することなどありませぬ」

  「スレイ公爵、君の気持ちはわかる、しかしバリアルは我々と長年敵対しているのだ、奴らがまた新たな魔導兵器等を備えているかもしれないのだ、それに休戦期間は3年と示したのだ」

  「ですが今なら和平交渉も」

  「それが出来れば我らが長きに渡り戦うことなどなかったのだ、我々は奴らと戦う運命にある、もはや血の連鎖を止めることなどできんのだ」

  「…」

  …

  1人のケンタウルスが会議室から出る、薄水色の美しい髪に高貴な鎧に身を包んだ彼女こそ、現アルテミス総指揮官、かつてのアルヴァンの恋人スレイだった

  彼女は大戦中、アルヴァンを失ったが、停戦まで戦い続けた、その最中にアルヴァンを失った悲しみにくれていた時に気にかけてくれており、前から交流があったクレイドル家の長男、ディーン・クレイドルと婚約し、停戦後一児をもうけた

  ディーンと婚姻し、晴れて貴族の仲間入りを果たし、戦争の戦果から公爵の地位を貰った、彼女はアルヴァンと違い平民上がりの貴族と文句を言わず、貴族として扱っていた

  当時アルヴァンは逆に目の敵にされていた、平民が神器に認められたことや戦果がいいことを妬んでいたが、アルテミスが台頭しスレイが活躍すれば彼女は文句を言われることはなかった…

  (アルヴァンのことは認めなかったのに…)

  彼を認めようとしなかった貴族は嫌いだった、しかし今は自分もその仲間だ…あの時アルヴァンが彼女を見ていた瞳は貴族に向けていた目と同じ目…自分がアルテミスを率いてから彼との溝が深まってしまったのを彼を失っ手から気づいた、アルヴァンを守るためのはずがアルヴァンを追い詰めていた己を呪いたかった

  「スレイ様」

  話しかけてきたケンタウルスの女性はスレイの右腕、マルクだった、アルヴァンからヴァンダルスを引き継ぎ、前線で全てを焼き払う豪炎の獅子と呼ばれ恐れられている

  「マルク、また戦争が始まるそうよ」

  「懲りない奴らですな、ですが今は我々がいます、スレイ様、我らアルテミスの力を次こそ見せましょう」

  マルクは好戦的だ、血の気が多く、アルヴァンを見る度に彼女は突っかかっていた記憶がある…水と油だ…

  「…マルク、アルテミスのみんなに伝えてちょうだい…私は少し行きたいとこがあるから」

  「またあの男の墓参りですか」

  マルクは渋い顔をする、無理もない、アルヴァンは国を売った大罪人として国から避難を受けた

  幸い、同じ隊にいたドゥーム隊のメンバー達はアルヴァンがそんなことしてるなど知らない上、アルヴァン自身の独断として知らしまめられた、結果彼の墓など建てる必要なし、むしろ唾を吐きかけられているのだった

  「スレイ様、おやめ下さい、またディーン様に怒られますよ」

  「いいの、だって私がこうして生きてるのは小さい頃にいじめられてた私を助けてくれたアルヴァンのおかげなのよ…だから…」

  「なりません、あの男がいくら貴方様の恩人だろうと大罪人、あまり墓参りなどされていてはスレイ様の尊厳に関わります」

  「でも…」

  「私達アルテミスも貴方様には今のままでいて欲しいのです…貴方様はあのような男といるべきではない、あなたは我々の希望なのですから」

  希望、それが今スレイにのしかかる重みだ、アルヴァンはこれに貴族や他の部隊からの圧力もあった、今ならば彼の苦悩がわかる…彼は…今の自分よりも遥かに辛い中、ずっと最前線にいたのだ…彼の強さ、逞しさを…故に最後に見たあの気力が消え失せている顔が何度も頭をよぎるのだった

  シルビアの帰属街からはなれたいわゆる平民街、そこにはこの国を支える民たちがおり、他の国比べたら騒がしく盛んだろう、そんな平民外の中にある、食事処にスレイは足を踏み入れた

  「こんにちは」

  「いらっしゃ…またアンタか」

  苦虫を噛み潰したようにスレイを睨みつけるはもとドゥーム隊副隊長エララだった

  「何の用だい、バアルテなら買い出しだよ、はい焦げ飯2丁!」

  「商売は繁盛しているようで良かったです」

  「ハッ、冷やかしなら帰んな、てか表の張り紙いい加減見ろって言ってんだろ、貴族様お断りって文字見えないのか」

  「…」

  彼女とはかつて同じドゥーム隊にいた時女性二人だけだった為、仲が良かったが、スレイがアルテミスに行き、ドゥーム隊の存在意義をなくし、居場所と仲間達を潰されてから、スレイの事を見るのも嫌気がさしていた、加えてスレイが結婚した際にも激怒、以前尋ねた時は開口一番フライパンで殴りかかられたのだ

  「…」

  彼女はゆっくり椅子に座る、貴族かつアルテミスの隊長が飯食いに来ただけで気前がいいエララの態度が最悪になり周りも萎縮していた

  「エララさん、あまりそう機嫌を悪くしないでください、他の方々が萎縮してます」

  「ならアンタが帰んな、なにしに来たか知らねぇけど、隊長を殺しといてどの面下げてきたんだ」

  「私もアルヴァンが裏切ったなんて信じられません」

  「はっ、どうだか、あの時アルヴァンを始末したのはアンタの右腕だろ、隊長はあの日最後の仕事があるっていって出たんだ、あの人はクソ真面目だ、国に不信があったとしても盗賊なんかに情報渡す理由なんざねぇよ、えっと、辛麺一丁!!」

  エララは話しながらも食事を提供していた、ドゥーム隊での飯係だったのもあるのか彼女は手際がよく、一人で何食も作りながら運んでいた

  その手腕を生かしドゥーム隊解散から彼女は同僚のバアルテと店を開いていた、今バアルテは買い出しに行ってるようで不在のようだ

  「相変わらず手際がいいですね」

  「世辞を言いに来たなら帰んな、アタシは忙しいんだ」

  「…ミートサンド頂けますか」

  「…チッ」

  スレイの注文をメモするとエララはまた調理に取り掛かった

  「エララさん…私が皆さんをドゥーム隊を追いやったのは間違いありません、ですが私はアルヴァンのことを想わなかった日は無いんです」

  「はっ、貴族様を背中に乗せてアルテミスのヤツらや貴族様と毎晩騒いで、隊長に冷飯食わせてたやつが言うか?たしかに隊長が戦争に行ってアンタを寂しい思いをさせたのは事実だ、でもあれは徴兵だった、アンタもわかるだろ、この国は戦争大国だ、戦争してなきゃ気が済まないような国だ、だから隊長は終わらせるためにってヴァンダルスを取りに行った、なのにあの神器はあっさり鞍替えしやがるわ隊長の努力は無駄にされるわ、挙句にアタシらは用済み、ハッ!アンタらがいれば勝てるって意味では徴兵制がなくなったのはよかったかもしれないがな」

  実際アルテミス後からは絶大であり、バリアル以外の国は和平を結び不可侵条約すら結んでいるくらいだ、だがバリアルだけは違う、あの国とシルビアはどちらかが敗北を認めない限り続くだろう

  「今度戦争またするらしいな、せいぜい生き延びるこっただね、アタシらはもうこのなんざどうなろうがしらん、隊長を見捨てた国なんざどうなろうと構わない、でも他国にいける訳でもない、アタシらが外に出るのを国は見張ってやがる、腐ってもドゥーム隊ってことかね」

  彼女達は今鳥かご生活のようだ、監視はされてないが国外に出ることが許されない、常に位置を把握されているらしく、飯屋をして生きてはいるものの居心地は悪いようだ

  「…」

  「幸いなことにアタシらが元ドゥーム隊だってわかっていてもこの辺の人らは受け入れてくれたよ、それに少なからず隊長の件は濡れ衣だって言ってくれる奴らもいるし、飯屋で食ってけてるから今の生活は悪くないよ、はいミートサンド」

  「…」

  「それ食ったら帰んな、アンタがいると貴族がうるせぇし顔も見たくない、二度と来るんじゃないよ」

  エララはそう吐き捨てるとまた調理にもどる、出されたミートサンドはしっかり作られており美味しそうだが、心が籠っていない抜け殻のようなものだった

  「エララさん、私はアルヴァンがいつも帰ってくるか不安でした…だから私もドゥーム隊に入ろうとして…彼の背中を守りたかったんです」

  「ならなんでアルテミス設立なんか受けたんだ」

  「その方がアルヴァンを護れるからと」

  「はっ、隊長をか?結果を見てみろ、今の有様だ、ドゥーム隊は解体されて隊長は死んだ…これが結果だ、もう覆りようがないんだよ」

  「でも…こんなこと」

  「お前考えなかったのか?お前は貴族に好かれてる、隊長は貴族に嫌われてんのに、お前と隊長が恋人なんて認めたくないなんてヤツらいるだろ、なら…隊長が目障りだ、殺すべきだと言うやつがいるんじゃないのか」

  「!!」

  エララのその言葉を聞いてスレイはハッとなる、アルヴァンとの婚約をたしかに良くないと言うやつはいた、だが次第に認めてくれるんじゃないかと淡い期待をしていた…もしアルヴァンの死には疑問があった…あれは謀殺だった可能性もあることに今更ながら気づいた、いや目を向けたが正しいだろう、なぜならばそれが本当ならばアルヴァンの謀殺はアルテミスと貴族、夫ディーンまでもが絡んでるかもしれないからだ

  「ただいま」

  買い出しにでかけたバアルテが帰ってきた、両手にはいっぱいの袋を下げて

  「あっおかえり、買い出しおつかれ」

  「いいものは手に入った、やはりアルテミスが終戦にまで持ち込んだからか」

  「はん、あいつらのおかげなんて考えたくないね、たしかに周辺国はアルテミスを恐れて戦争なんてしなくなったが…その後行ったことはアルテミス中心の軍事拡張、アタシら歩兵は一部を除き用済み、特にアタシらは隊長の隊だからってお払い箱だ、アタシらドゥーム隊含め何人が平和になって不幸になったのやら」

  「国の対応が悪かっただけだ…あいつらに生活出来る金と役職を与えてやればよかったが、端金の退職金、お払い箱同然の扱い…国のために戦ったヤツらにはひどい仕打ちだ」

  「…なぁ、バアルテ…アンタ、スレイをどうおもう」

  エララはメニュー表をひょいととり、そこにある当店の人気の焦げ飯という名前をみる

  「…隊長の恋人で…隊長を裏切ったやつ…か?」

  「アタシはね…アイツは隊長のことなんも知らないやつだっておもうよ、アイツ…焦げ飯だけは絶対食わないんだよ…」

  「また来たのか?」

  「あぁ、焦げ飯…これ隊長がアタシの料理に初めてつけた名前で隊長の好物なんだよ…アイツ…焦げ飯の意味すら知らねぇ、一緒にいた時あいつは焦げ飯の名前の由来すら知らなかった、アイツは隊長だけしか見ていなかった、隊長を護ることだけを見て隊長を戦場から追い出した、結果的に見りゃたしかに護ることに繋がるけどよ、なんで隊長が死ななきゃならなかったんだよ…アイツは…本当に隊長が大切だったのか?」

  エララはスレイを疑う、ドゥーム隊に入るまではいい、なぜそばではなくアルテミスにこだわるようになったか、それが分からなかった…

  スレイは豪邸の前にいた、その扉を当たり前のように扉を開け中に入ると

  「母上ー!」

  小さな子供がスレイに抱きついてきた、彼女の面影がある少女がそこにいた、それは紛れもない彼女の娘だった

  「おかえりなさい母上!」

  「…ただいま、アポロ」

  「おかえり、スレイ」

  旦那であるディーノ・クレイドルが彼女を出迎える、彼と結婚してからスレイは公爵の地位に付きアルテミスの地位は上がっている

  「どうしたの?浮かない顔だね」

  「いえ」

  「またあの男かな?死んでなお君の影に陰りをもたらすなど」

  彼もアルヴァンを嫌っている、昼間の謀殺の話を聞いたスレイは少し旦那のことが信用ならなかった

  「…あなた…少し聞いていいかしら」

  「なにかな?」

  「アルヴァンは…本当に…裏切っていたのかしら…」

  「スレイ」

  クレイドルはスレイを落ち着かせようと口付けをする、彼女のことを本気で愛しており愛おしげに見つめる

  「あの男は大罪人だ、君の右腕が現場を見たのだろう?」

  「…だけど、信じられないの…アルヴァンがあんなことするなんて」

  「スレイ、君の中にまだあの男がいるなら忘れさせてあげよう、あの男は君を裏切ったんだ…」

  「そう思いたくない…だってアルヴァンは」

  「スレイ、今日は休もう…私がそばに居るから」

  優しく抱擁されながら家に運び込まれる、彼女は真相を確かめることを恐れた…もし本当ならば自分はアルヴァンを裏切り、アルヴァンを殺した張本人と結婚したことになるからだ…

  一方、魔女の森

  「ふっ!はッ!」

  「凄いわアルヴァン♡」

  「いや君のおかげだ」

  すっかり五体満足に動けるようになったアルヴァン、以前のようにとは行かないが、機敏に動けるようになり、戦えるようになった、これだけ早く回復したのはマルディナの魔法により関節部の痛みや義手の入念な調整のおかげであり、アルヴァンは感謝しきれなかった

  「ありがとうマルディナ…また歩ける日が来るなんて」

  「よかった♡」

  「なにか礼がしたいな…君には世話になってばかりだからなにかお返しがしたい」

  そういうとマルディナは顔を赤くし、頬を抑える、きっと恥ずかしいことでも考えているのだろう

  「なんでもいい?」

  「私にできることなら、と言っても君に返すには私の人生を捧げる以外ないだろうが」

  「…いえ、こんなことで手に入れたくはないわ、やっぱりアルヴァンが私に振り向いてくれるまで待つわ、あなたが私のことを本気で好きになってくれる日を待ちたい…でも…そのね…アルヴァン…キス…して欲しいなって」

  「え」

  マルディナの好意はこの数カ月身に染みるほど理解している、だが彼女はアルヴァンからの好意を向けてくれるまで待つつもりでいるのだが、四六時中一緒にいては我慢ができないのだろう、キスを要求してきた

  「も…もちろん嫌なら」

  「…」

  アルヴァンはマルディナに近づくと彼女の額に優しくキスした

  「…」

  「…これで…どうだ?」

  キスしたことに喜んでくれるかと思いきや、マルディナの目からハイライトが消えていた

  「…手馴れてるのアルヴァン?まさかあの女とこんなことしていたの?」

  まさかの地雷を踏んだ、軽いスキンシップのキスは確かにスレイとしたこともあるし彼女ともキスだって何回もしたことある、自分から無言でするのが地雷と思わずどうするかを必死に考えた

  「いや、確かにそうだが慣れとかじゃなくて」

  「許せないあの女やはり八つ裂きにしてやるわ、第2の女なんて認めないわ」

  破滅モードがオンになる、アルヴァンは慌てて彼女を制止させようとする

  「ストップ!スレイのことは…まだあるが…今は君のことを考えている!どう接したらとか話とかするべきかとか…御礼だってしたいからなにが喜ぶかとかそう考えているから!」

  「本当?」

  「本当、というかスレイはもう婚姻したんだ、過去は私のほうさ…」

  「…アルヴァンごめんなさい、そんなつもりじゃ」

  「まぁそれに…裏切られた手前誰も信じれないけど…君の愛情は…今は信じられる…かな」

  「!」

  マルディナはアルヴァンに飛びついた、

  「ぐわっ!」

  「アルヴァン♡アルヴァン♡」

  嬉しそうに甘えてくるマルディナはまさに乙女だった、アルヴァンはゆっくりとマルディナを抱きしめ返すと彼女からキスしてきた、額とかではなく唇に

  「アルヴァン♡やっぱりあなたが好きよ♡アルヴァン」

  こんなに好意をぶつけてくるマルディナ、スレイとは硬派な付き合いだったがこうしてアタックアタックしてくるマルディナは今のアルヴァンにはなにものよりも信頼ができた

  彼女だけは自分を裏切らない…そう思えるくらいに

  「でもあの女はやっぱり消すべきね」

  「ステイステイ」

  ただし特大の爆弾だという事を覗いてだが