滅びの魔女に拾われたら愛が重かった3 宿敵との再会
「はーい頑張って♡頑張って♡」
「ぬっ…ぐぅぅぅっ!!」
義手義足をつけたリハビリの毎日、アルヴァンは唇を噛み締めながら杖をつき、ゆっくりマルディナの元へと歩いていく…ゆっくり、ゆっくり、1歩踏み出す度に汗が垂れていき地面を濡らす、たった3m歩くだけでも戦いよりも辛く苦しかった
「ぐぅっ…!ぶはぁっ!!」
そして彼女の体にのしかかるように倒れ込む、汗だくだというのにマルディナは嫌がる素振りをみせずに倒れ込んだアルヴァンを抱きしめた
「アルヴァン!3mあるけたわよ!歩けるようになってきてるわ!」
「き…キツイ」
「大丈夫、ゆっくりでいいのよ♡」
相変わらずマルディナはアルヴァンに激甘である、アルヴァンも慣れてきたのか彼女に抱き締められたままだ
彼女の愛の重さを重々理解している、世話を焼いてくれて四六時中一緒にいてくれる、魔女らしく研究もしているようだが気分が乗らない日やアルヴァンといたい日はアルヴァンから離れず、リハビリに付き合ったり車椅子を押して森を散歩したりなどしていた
一方的に好意を向けてきてるとはいえ、悪い気はしない、ぶっちゃけるとマルディナは褐色の麗人、普通にモテるだろうし引く手数多だろう、滅びの魔女という肩書きがなければだが
「少し休憩しましょう、特性ドリンクあるからもってくるわ♡」
しかも家事スキルも◎、嫁に出しても恥ずかしくない…そんな彼女が自分のためにこんな尽くしてくれるのはなんと言うかもったいない気がする、義手義足も作り3年間治療してくれて衣食住を提供してくれている、河原で死んでいただけの自分に一目惚れしただけだと言うのに…
「…なにかお返しがしたいな」
家に小走りで走っていく彼女を眺めながら車椅子に腰掛けた瞬間
「まさか、こんなところで貴様に会うとはな」
「!!」
背後から感じる威圧、それをアルヴァンは知っている、戦場で何度も刃を交え殺しあった存在
「久しぶりだなアルヴァン、死んだと聞いていたぞ」
「クロム…!!」
かつて敵対していた好敵手、魔将軍クロム、彼は影から鎌を取り出した、その鎌も神器の1つ、影鎌ヘイト
名前の通り影のように黒く、禍々しい鎌であり、所有者の影に潜む武器である、そして影がある限りこの鎌は無限に取り出せることができ、夜になればあらゆる場所から鎌が現れると言う物量で押し切るということもできる、クロムは戦争時自らの影から取り出し前線で戦い続けていたのだ
「色々と聞きたいことはあるが…貴様が生きていることが最大の問題だ」
(まずい!今クロムと戦うのは無理だ!確実に死ぬ!)
すぐさま離脱しようとするが、逃げられないことはアルヴァンがいちばん理解している
故に襲いかかるクロムに杖で受ける体勢に入った
「ぐぅ!!」
しかし右腕以外全く動かない、踏ん張りが効かないためそのまま切り飛ばされる
「ぐほっ!」
「どうやら義手義足は動かないようだな、以前の貴様ならば杖だろうが油断ならなかったが」
「お前は変わらないな…!腹立つ程に!」
「こんな形で貴様と決着となるのは不本意だが、貴様が地獄のそこにいればもはや問題ではない、さらばだ」
クロムが鎌を振り下ろした瞬間
ガキィン!
「!!」
ドゴォォオ!!
鎌が弾かれ、クロムが吹き飛ぶ、そして家の中からこれでもかという殺気が撒き散らされていた
「アルヴァンになにをしてるのかしらクロム将軍」
「マルディナ殿…!」
見たことないほどにブチ切れていた、ありえないくらいにブチ切れていた
「クロム将軍、いくら貴方と言えどアルヴァンに手を出すなら許さないわ、でもあなたとの付き合いもあるから弁明の余地はあげる、なんでアルヴァンを殺そうとしたのか理由を答えたなら腕一本で許してあげるわ」
「マルディナ殿、そやつは我が国の敵です、我が国と戦争をしていたシルビアの兵にございます」
「知っているわ、記憶を覗いたのも、貴方と戦ってる姿もみたわ…でも今は私のよ」
「私の…?」
「アルヴァンは私のものよ、勝手に手を出さないで欲しいわ」
「それはどういう」
「意味がわからないかしら?彼は私の夫よ」
夫と聞いたクロムは目を見開いた、アルヴァンすら見たことない驚愕の顔だ
クロムは素早くアルヴァンを見るがアルヴァンも夫発言に目をガン開き、なんと答えたらいいか分からずマルディナとクロムを交互に見る
ちなみにマルディナは夫発言できたことに満足そうにしていた
「…マルディナ殿、本気ですか、かつて敵であった男ですよ」
「そんなことは知らないし、私は戦争の事情などどうでもいい、ただ言えることはアルヴァンに手を出すなら死ぬ覚悟をすることよクロム将軍」
さすがのクロムもさっき全開のマルディナに戦いを挑む気はなく大人しく鎌を下ろした
「大丈夫?アルヴァン」
「助かった」
クロムはまだ納得いかないみたいな顔をしているがマルディナを怒らせると自分どころか国が危うい上黙るしかない
(しかしクロムがいるということはここは…まずいな…クロムが報告しても死ぬようなことはないかもだがいずらいぞ)
「それでクロム将軍、私になにか用かしら?国王サマの命令以外で私に尋ねることなんてあのおバカさんくらいだし、そのおバカさんじゃないってことはなにか重要な話でしょう?」
「はい、国王陛下より火急の知らせです、シルビアに軍の動きありと」
それを聞いたアルヴァンは顔を一変させた、シルビアがまた戦争を始めようとしているのだということに彼は驚きを隠せなかった
「マルディナ殿」
「なにかしら」
マルディナはアルヴァンを抱きしめたままその場から動こうとしない
「真面目な話をしようとしているのですが…」
「貴方がアルヴァンに手を出さない保証が無いもの」
「いや、絵面が悪いから勘弁して欲しいマルディナ」
アルヴァンが許しを乞うと彼女は残念そうに彼を離した
「それで?話って?」
「…シルビアに動きあり、マルディナ殿には至急王宮に参られたしとのこと」
「そこらの伝令やあのおバカさんじゃなくてあなたをよこすあたりよほどね」
「シルビアには我が部下を忍ばせていますが、どうやら軍事拡張の動きありとの事…アルテミスを含めた部隊の装備のために火事場が動き出してるようです」
「シルビアねぇ、3年前に互いに痛み分けで終わったけど諦めてなかったのね」
どうやらアルヴァンが殺されてから1度停戦していたようだがシルビアの国王はアルテミスを手に入れてから防衛から侵略へと舵を切り始めていたのは薄々感じてはいた
まさかまたおっぱじめるとはアルヴァンも思わなかったようだ
「マルディナ…君はどこまで3年前の戦争について詳しい?」
「そうね…たしか3年前、シルビアとの戦争中に国の方から私にアルテミス対抗のために大規模な術式と魔導具、魔法陣色々頼まれたの、でも数十年以上魔導具などを与えても戦況が良くならなかったの、でも3年前に急に停戦になったのだけどクロム将軍の方が詳しいはずよね」
「マルディナ殿の魔法陣が効果を発揮しシルビアの前線部隊に大打撃を与えました、その後のアルテミスは我々死神部隊が相手をし撃退、結果的に我々が勝利した形で停戦となりました」
「だそうよ」
「…クロム、まさか」
アルヴァンはあることに気づいた、3年前に自分が死んでから起きた戦争、それを聞かれたクロムはその場でうなづいた
「あぁ、貴様がいなかった、貴様が居なくなったあとだろうヤツらへの魔法攻撃はアルテミス以外に有効だった」
「?それってどういうこと?」
「戦争時、マルディナ殿の魔法陣、魔導具、全てがこの男により無力化されていました、ヴァンダルスはこいつの手から離れましたが残り火を使い魔法陣、魔導具を焼き払い、尚且つ我々の陣形を崩しており撤退を余儀なくされていたのは紛れもないこの男が原因です」
マルディナはすぐさまアルヴァンを見た、目の前に自分のものを無力化した男がいる、多分にくいだろう、バカにされていると文句を言われるだろうと身構えていたがアルヴァンが目を向けたそこには
「きゅ〜〜〜ん♡」
「え」
乙女の顔して目の前の男に堕ちた女の子がいた
「あなただったのアルヴァン!!話は聞いていたわ!不死身のドゥーム隊と呼ばれていて私の魔法陣や魔導具を粉々にした挙句に私の魔法も打ち破る命知らずがいるって!私の魔法破るなんてどこの誰かって思ってたけどあなただったなんて!!ダメだわもう愛が爆発しちゃう」
とまさかのLove度増加しておりアルヴァンとクロムは同じ顔、目をかっぴらいて信じられないものを見る目だ
「貴様マルディナ殿になにした」
「なにもしてない、ここまでとは思わなかったが」
「アルヴァンやっぱり我慢できないわ!結婚しましょう!」
「早い早い早い早い!まてまてまてまて、私は君の国の敵だぞ、クロムや国王が許すはずないだろ」
「ならば国か私の結婚を天秤にかけさせてあげるわよ」
史上最悪の脅し文句を聞いたクロムは顔が青ざめた、嫌でも結婚を認めない場合国が一瞬で滅ぶのが確定するからだ
「大丈夫よ、あなたがその気になれば結婚できるから♡」
「クロム、お前らとんでもないやつ抱えてるな」
「まぁうちの高官のひとりがやらかして崩壊しかけた時に比べたらマシだ…」
どうやら過去にも問題があったらしく、クロムも苦労しているんだなと彼の肩を叩いた
「クロム、お前も大変なんだな」
「貴様に同情される日が来るとはな」
「アルヴァン♡」
そんな疲れきった顔をするクロムなど知らぬとマルディナはアルヴァンに抱きついていた
「ともかく、近いうちにまた王宮に来ていただきたい、奴らは以前の負けを取り返しに来るはずですから」
「最初から私に全て吹きとばせといえばいいのにね、従うかどうか話が別だけど、あの国を戦争で負かすなら間違いなく私が出ばる方が良くないかしら」
「そうはいきません、マルディナ殿が滅ぼせば確かに容易い、しかし滅んだあとはなにも残らず生命が生えるまでに50年以上と長い時がかかる、そうなれば戦争に勝っても土地はただの荒地になるだけです、我々は滅ぼしたい訳ではありません」
「まぁたしかにアルヴァンと歩く世界が荒地は嫌ね、まぁいいわ、考えておくわ」
「ではこれで」
「待ってくれクロム」
アルヴァンがクロムを呼び止めた
「この3年…シルビアになにがあったか教えてくれないか」
「…」
クロムは少し顎に手を当て考え始めた、この男は確かに知らないようだと確信したのか…クロムはマルディナに目配せする、彼女はアルヴァンが辛い現実を見ないかと心配していた
「マルディナ、大丈夫だ…辛い現実があるのは理解してる」
「でも」
「マルディナ殿、この男としてもかつての母国の有様を知りたいのでしょう…自分を裏切った国の今を知れば彼は我々の味方になるやもしれません、この男の強さは私がいちばん理解してますゆえ」
こちら側に入ればシルビア側の情報が手に入るかもしれないし軍事情もわかるはずだとクロムはいった、アルヴァンも知りたがっており、マルディナはクロムに話すよう許可した
「まず3年前、貴様が死んだことだが、シルビアでは逆賊扱いだった、国の情報を盗賊に売りさばき国の利益損失に加担していたとな」
「…最悪だな」
「だが私の部下は長年シルビアで情報を掴んでいる、それが貴族の策略くらいすぐに分かった、現にそのあと直ぐにシルビアではあることが起きたからな」
「あること?」
「アルテミスの大隊長、スレイがクレイドル家と婚姻したんだ、舌の根も乾かぬうちにな」
「!!」
「アルヴァン!」
アルヴァンは椅子から転げ落ちた、スレイが婚姻したことに驚きを隠せない、しかも婚姻届したのが自分が死んだ直後…そして自分が殺された時のことを思い出す、あの時確実に嵌められたのは確かだ、だがその目的は彼を抹殺し、スレイの想い人である自分を消すのが本命だったのだ、となればあの計画の首謀者はアルテミスと国の偉い者、つまりクレイドル、へたしたら国王も絡んでいる可能性があった…国ぐるみの裏切り、そして愛していた幼なじみの婚姻はアルヴァンの精神を蝕むには十分だった
「スレイが…?婚姻?」
「アルヴァン!しっかりして!」
「…やはり貴様はあのアルテミスの隊長とはそういう仲だったようだな…これより先は貴様が全てを受け入れたあとにしよう…」
クロムは立ち上がりその場を去る、マルディナはクロムを問い詰めなかった、アルヴァンが知りたいことを話した彼には罪は無い…しかし非情な現実は彼の心を粉々に砕こうとしていた
「アルヴァン」
彼は車椅子に乗り空を見上げていた、無理もない、スレイが婚姻したという話は愛想が尽きていたとしても衝撃的だったのだから
「アルヴァン大丈夫?」
「…いや…」
意外とスレイも自分がどうでもよかったんだなと思え始めた、自分が死んだあと即婚姻などと言うことを知りアルヴァンは逆に今自分がどうでも良くなっていた
何のために戦い何のために生きていたのか…失った体を見てまた空を見あげた
「…私は…何のために生きてきて、戦争を終わらせようとしたんだ…なのに…裏切られて…なにもかも失って…なんで…なにをしてるんだ…何をしていたんだ私は…」
無意味な人生、なんのために生きてきたか分からなくなった、なぜ今生きているかも…その時視界が真っ暗になった
彼の視界を塞ぐのは彼女しかいない
「…マルディナ?」
「アルヴァン、あなたが喪失感に苛まれるのはわかるわ、全て無意味になったと知れば虚無に陥るのも頷ける…あなたの虚しさは理解できる、でもアルヴァン…いまを生きることをやめないで」
「…なら…なんのために生きたらいい」
「私のためじゃダメ?」
「…」
命を救い、義手を作り世話を焼いてくれている、今いちばん自分に近しい人物…無償で自分を助けてくれた…アルヴァンはゆっくりと頬に手を伸ばした
「…すまない、今は何も信じれない、君の無償の愛さえも」
「今はそうね、でも私はあなたのそばから離れない、辛かったら慰めるし、愛が欲しいならあげる…あなたが癒えるまでこうしてあげる」
「変だな、君は…私なんかに…」
「一目惚れって案外重たい物よ」
「スレイより重いな…」
「あの女よりあなたを愛してる証よ、大丈夫、外には出ないしずっと2人きりよ、誰も入らないし私は裏切らない」
後ろから抱きしめてくる、彼女が下を向きアルヴァンが上を向いて見つめ合う
「アルヴァン、私達はまだ知り合ったばかりだけど時間が傷を癒して愛が跡を薄くするわ…大丈夫よアルヴァン…私はあなたの味方よ」
「…本当に…君は変だ」
アルヴァンは体の力を抜いて車椅子にもたれかかった、マルディナは彼の首筋に顔を埋めて愛おしげに抱きしめた
「大丈夫よアルヴァン…あの女が来たなら…五体バラバラにしてあげるから…」
不穏な一言を残し、アルヴァンに首を擦り寄せたのだった…