滅びの魔女に拾われたら愛が重かった 2 滅びの魔女マルディナ

  滅びの魔女マルディナ、それはシルビアにすら伝わる伝説の魔女、彼女はその気になれば世界を破滅させることができる破壊神アイテールと契約しており、かつて彼女により3つの国が地図から消えた

  シルビアが戦争に常勝する力を持つアルテミスという最強の部隊を手に入れてもマルディナに挑むことは避けた、なぜなら彼女の前では全てが無意味、戦うならば対となる神々と契約しなければならないが破壊神アイテールと同格の神もすでにマルディナにより滅ぼされており、今完全に彼女に勝てるものはこの世に存在しない

  そんな最強の存在である彼女にアルヴァンは一目惚れされ、さらにはふってしまえば世界が破滅するという、人生自爆スイッチと化してしまった

  だが死にかけ(厳密には死んだ)自分を蘇生させ、さらには世話も焼いてくれていたりと彼女は本気でアルヴァンに惚れているようである

  そんな健気な彼女にアルヴァンは複雑な気持ちを抱きながら今は彼女の家で過ごしていた

  「めちゃくちゃのどかだなぁ」

  周りを見渡せば自然がたくさん、川やら畑やらと森の中で自給自足しているようだった、周りには使い魔らしきものが草花の世話、川の水汲み、などマルディナの私生活を支えている、ちなみに当の本人は

  「いまあなたの義手義足を作ってるからしばらく車椅子で生活してもらうわ、大丈夫よ、私の使い魔はいい子だから♡」

  と使い魔が車椅子を押してくれており移動に不便せず生活できていた

  (…)

  静かだった、川のせせらぎ、森から吹く風、自然だけの空間…今まで縁がなかったものだった

  「お前らの隊など本来必要ない、使われるだけありがたく思え!」

  「スレイ様に近づくな!なぁにが幼なじみだ!アンタみたいなやつスレイ様に近づくことすらおこがましい!」

  「すまないアルヴァン、今夜はアルテミスの皆が祝勝会をしたいらしくてな、すぐ帰るから」

  「…」

  煩わしい罵倒や罵声が聞こえない、手足を失い1度死んでなにもかもから開放されたアルヴァンは周りの音に耳を傾けていた

  「…あぁ…いいな」

  もうなにもないならこうしてゆっくりしてもいいだろう、武器もない、存在も消えた…もう誰も自分を罵倒しないし求めてこない、なにより

  「アルヴァン」

  「…」

  いつからか声を聞きたくなくなったスレイももういない、一緒に暮らしていたはずなのに、気がつけばスレイが帰って来なくなり、自分は惨めになっていく…スレイが帰ってきても話す前に居なくなり、アルテミスの皆と楽しく話していて、彼女の不信ができたのはある時のこと

  「どうでしょうか」

  「素晴らしいよ…君の背は」

  クレイドル家長男の男を背中に乗せていた、背中に乗せるのは親愛、愛情がある相手だけである…アルヴァンはまだスレイが小さかったからと乗らず、平和になったら乗せるという約束をしていた…それが貴族の男に先を越され嬉しそうにしていたのを見てアルヴァンは絶望した、問ただそうとしてもその前にスレイはアルテミスやら貴族に呼ばれてるといいはぐらかされた、2人の家は1人になり、やがてスレイと話すことはなくなった…

  (今思えばもう愛想が尽きてたのかもしれない)

  未練がない訳では無い、ただ…自分は何のために生きて何のために戦ったのかわからなくなった、努力など意味がない…何かのために頑張るも意味がない…ならもうなにもしなくてもいい…スレイの事は忘れて生きようと目を瞑ると

  「随分憔悴してるな人の子よ」

  目を開けたら目の前にあのアイテールがいた、相変わらず形容しがたい姿をしており、目の前に現れるだけでびっくりする

  「びっくりさせないで欲しいな」

  「すまなかった、あの子が随分気にかけているから君と話がしたかった」

  「マルディナのことか?」

  「左様、あの子は産まれながら厄災として扱われていたからな」

  「厄災?」

  アイテールは周りを見渡す仕草をすると話し始めた

  「あの子は数百年前、ある街に生まれた娘だが黒い涙を流す厄災の娘と言われていたのだ、幼少の頃から虐められ、外を歩けなかった…しかし家族だけは彼女を愛してくれた…だがそれを世界は許さなかった、一家もろとも消されることになり、家族はみなその場で火炙りになる事になった…しかし彼女は直前、私と契約をし、その力を使いその国を滅ぼしたのだ」

  「死に際に?」

  「黒い涙を流す者は我の契約者たる資格を持つもの、故に彼女の願い、復讐と破壊衝動に応え我はマルディナと契約したのだ…たちまち彼女は周辺を全て滅ぼし人という人の命を奪い尽くした…そしてその辺をまるでなかったかのように全てを更地にしたあと彼女は世間から姿をくらませ今の彼女が生まれた、滅びの魔女として生き、数々の逆らうものや殺しに来たものを滅ぼし、彼女はいまや生ける厄災として生きている」

  話を聞いてアルヴァンは口が開いていた、彼女は悲惨な過去から全てを滅ぼす魔女となり、今の今まで気に食わないやつを滅ぼし、逆らうものやは向かうものを滅ぼしてきた、もはや彼女は個人ではなく事象、神々に等しい存在だ

  「そんなあの子が君という存在にあれほど夢中になるのが私は嬉しくてね…どんな人か話したかった」

  「…私は大した人間じゃない…ただ利用されて捨てられた人間だ」

  見捨てられた、スレイが他の男に親愛を寄せ、家に帰らなくなった時点で彼女は自分を見捨てたんだろうと…アルヴァンは確信した…もはや彼女は幼なじみの恋人ではない、自分を捨てたケンタウルスでしかなくなっていた

  「君は…なぜ捨てられた」

  「用済みだからだ…生きていたら不都合だったからな」

  「マルディナと同じだ、生きていることを許されない…そんな…可哀想な」

  「同情はやめてくれ…もう私は…死んだのだから」

  「なら…今だけあの子に付き合ってるほしい」

  「なに?」

  「死んで居場所がないならば、ひとときでいい、あの子のそばに居てくれ…あれほどに楽しそうにしている姿は初めて見たからね」

  「…なぜ私に一目惚れしたんだ?」

  「さぁ、私は長くあの子といるが、今の彼女はよく分からない、あんな彼女ははじめてだからね」

  姿とは裏腹に父親みたいな発言をするアイテール、マルディナがいま楽しそうにしているのは本当に初めてらしく、アイテールは今だけは楽しそうにしているマルディナに付き合ってほしいと頼まれた

  「…すまない、私は裏切られた手前、誰かを信じるのはまだ難しい」

  「すぐに結論を出す必要はない、いずれ君の気持ちに整理も着く、今は休みたまえ」

  「アルヴァンー」

  家からマルディナの声がする、小走りで近づいてきたマルディナはアルヴァンに抱きつく

  「義手義足できたからつけて欲しいの」

  どうやら拾って命を助けて貰ったあとから作っていたらしく、ようやく完成したと彼女は喜んでいた、その仕草は乙女であり、好きな人といられるのな嬉しい少女のようにもみえた

  「どうかしら」

  黒い義手義足、それがアルヴァンの腕と足につけられていた、太さも完璧であり、寝ている間にどうやら義手接続のための下準備もしていたらしく、すんなり接続された

  「寝てる間に改造されてたことにびっくりだ」

  「ごめんなさい、あなたの足や腕を治すにはそうするしかなくて」

  とはいえ自分は死人だ、彼女にどう扱われようがもうどうでもいいことだ

  「とりあえず立てるかしら?」

  彼女に諭され立ち上がるが

  「うぉ!」

  久しぶりに立ち上がるし慣れない足と腕は上手く動かず立ち上がろうとしてその場で倒れ込んでしまった

  「大丈夫?!」

  マルディナが受け止めてくれたおかげで助かったが、アルヴァンは彼女に抱きしめられる形で受け止められていた

  「…」

  「アルヴァン?」

  暖かく、柔らかい…その感触は忘れていた温もりだった

  「アルヴァン」

  昔スレイとまだ二人で生きていた頃…家に帰ってアルヴァンはスレイに抱きしめられるのが日課だった、なにがあろうが必ず帰り、パーティや集会よりもスレイを優先した、必ず彼女の元に帰り、彼女とこのように抱擁を交わしていたことを、その温もりを思い出した

  「…すまない、バランスが」

  「いいのよ、しばらくリハビリね、大丈夫、私も付き合うから♡」

  と彼女はアルヴァンを抱きしめて頭を撫で回した

  「アルヴァン♡」

  「…」

  彼女は本気で自分を好いてくれている…純粋に向けられてる好意の感情…だがまだアルヴァンは怖かった、それはいつか冷めてしまい、自分はまた見捨てられるんじゃないかと

  「義手義足の代金はどうしたらいい」

  「あら?いらないわよ?だってあなたのために作ったもの、私のエゴだから気にしないで」

  「だが」

  「それにこの素材は黒オリハルコンを使ってるの、あなたならどれぐらい価値があるかわかるかしら」

  「黒オリハルコン?!」

  黒オリハルコン、オリハルコンの中でも希少中の希少品でオリハルコンよりも硬く丈夫な素材であり防具に使えば傷すらつかない鉄壁の鎧ができる、それを義手義足に使ったのだ

  「なんでそんな貴重なものを!!君はわかってるのか!私がどんな人間かもわからず君はそんな」

  「あら、あなたのことはたしかに知らない、でも私にはわかるの、貴方が私の運命の人だってなんとなくだけど」

  「そんな宛にならないようなことを…」

  「あら、私の予言は当たるのよ、魔女だもの、ふふっ♡」

  彼女がなぜこんなにも信頼するかは分からない、しかし彼女がいま自分に向けてるものは全て嘘偽りないものなのは確かだった

  「ほーらいらっしゃいー♪」

  と手を広げて2m先で待っていた、その日からリハビリ開始となりアルヴァンはゆっくり立ち上がって歩こうとするが

  「ぐぅぬゥ!」

  久しぶりに動かす体はバキバキなんてものじゃない、岩である、動けない動かせない、動けば痛い

  当然そうなればどうなるか

  「うおっ!!」

  「アルヴァン!」

  マルディナが凄まじい勢いで抱きとめてくれた、魔女というだけあり加速も簡単なんだろう

  「大丈夫?アルヴァン」

  「あぁ…」

  しかしあることにこの時気づいた、自分は名前を教えていないはず、なのになぜアルヴァンの名を知っているのかと

  「…マルディナ、君に私は名前を教えたか?」

  「いや?あなたの記憶から調べたの」

  プライベートもへったくれもなかった、全部知られていたのだ…そして同時に嫌な予感がした

  「その記憶の中に…あなたのすぐ側に女がいたわね…ケンタウルスのたしか…スレイかしら」

  「ギクゥッ!」

  恐る恐る顔を見ると満面の笑みを浮かべたマルディナがいた、笑顔という恐怖の表情を浮かべた滅びの魔女がいた

  「あなたの幼なじみで恋人…同棲していて貴方は戦場に向かってる間町娘として人気だったけど貴方を守る為にと軍に入隊、結果あなたを追い出す形にしてしまってもなおアルテミスに固執する…アルヴァンは必ず帰っていたのに彼女は貴族とアルテミスばかり…あなたの努力を水の泡にして…どう殺してあげましょうか?」

  嫉妬ヤンデレモード起動、冗談抜きに本当に滅ぼせるためアルヴァンは急いで彼女にストップするよう呼びかけるが

  7割ぶち殺スイッチが起動しているため、このままだと本気で殺すだろう

  「待ったマルディナ、もう私は彼女とは縁がない、だから滅ぼさなくていい」

  「どうして?あなたを傷つけあなたをこんな目に合わせてあなたの全てを奪って、あなたの腕足人生内臓生命も奪っておいてなんで生かさなきゃ行けないのかしら?あの女は死んで当然よ、あなたと同じように内臓をぐちゃぐちゃにして体を全部焼き払わないと」

  「そんな事はしなくていい…!私は忘れたいんだ…もう…アイツは」

  忘れたい、そう忘れたいのだ、あの女によって自分の全てはなくなった…あの国で徴兵されてから必ず帰るためにと…鍛錬を積み必ず家に帰って…彼女と抱きしめあった日々ももうありはしない…彼女はもう、アルヴァンの恋人ではないからだ

  「…忘れたいの?」

  「…あぁ…だが記憶を消さないで欲しい…私は私のままでいたい…そうじゃなくなれば私は君を愛しきれるかわからなくなる」

  「なら…消さないでおくわ、でも…あなたが望むなら私はあの女をいつでも殺せるわ、無惨に残酷に惨たらしく…貴方の望む殺し方をしてあげる…貴方に害なすやつは許さない…生かして返さないわ」

  一瞬身震いした、彼女は本気だ…スレイに愛想は尽きたが、殺したいほどではない…彼女ならばスレイを殺すついでに国を吹き飛ばしかねない

  「ありがとう…」

  「それに今はあなたの方が大事よね、チュッ」

  ヤンデレモードが終わり額にキスしてきた、いつもの好き好きモードに戻って一安心した

  「さっ、もう一度よ」

  と彼女が離れようとしたがアルヴァンはなぜか手を離せないでいた

  「アルヴァン?」

  「…あぁ…すまない…」

  …

  「おかえりアルヴァン」

  …

  久しぶりの温もりだった、戦場で人肌恋しく帰る度にスレイに抱きついていた…あの温もりを忘れてしばらく…人肌の温もりがアルヴァンの手を離すのを許さない

  「…もしかして寂しかったかしら」

  寂しい、そうかもしれない…なにせ孤立し捨てられ、全てを失った今強くあらねばならなくなった、それなのに今目の前の女性は優しくしてくれる

  「大丈夫よ、今のあなたを否定する者はいないわ…気が済むまで抱きしめていいわ」

  「…すまない…」

  「謝らないで、甘えてくれるのは嬉しいもの♡」

  彼女は優しく抱き返してくれた…これでいいのか…これがいいのか分からなかったが…今はこうしているのがアルヴァンは居心地がよく、しばらく満足いくまでマルディナに抱きついたまま静かに目を閉じたのだった