第四章 実験の開始 ―淡い青に潜む澱み― 4

  「……アニス。目を開けろ」

  ぐったりと顔をうつむかせていたアニスが顔を上げると、

  「……はい、ご主人様」

  その瞳にはカイルと同じ黒紫色の光が宿っていた。

  アニスの純粋さを写し取ったような、澄み切った青い瞳は、今や主人の意志を映し出すためだけのスクリーンと化していた。

  「どうだ? 生まれ変わった気分は」

  「……はい、ご主人様……とても気分が良いです」

  「くくく、そうか……アニス、質問に答えろ。お前は誰だ?」

  「……はい。私はご主人様の僕……ご主人様の目であり、耳であり、端末です」

  「お前の仕事は何だ?」

  「ご主人様の素晴らしさを、国内全土に広めることです」

  カイルの問いかけに淡々と答えるアニス。

  その機械的な様子に、カイルも満足そうに微笑む。

  (注ぎ込む魔力をコントロールすることで、リンドのように従順な犬にすることも、アニスのように心を持たぬ人形にすることもできる……なるほど)

  「アニス。これからお前に仕事を与える。与えられた仕事をしっかりとこなせ。俺に選ばれた、特別な存在であるお前にしかできない仕事だ」

  「はい……私はご主人様より与えられた仕事を完ぺきにこなします。これはご主人様が選らんだ特別な私にしかできない仕事です。リンド様でもこの仕事は不可能です。なぜなら私は、特別だから」

  抑揚のない声でそう告げるアニスに対し、カイルは不敵な笑みを浮かべる。

  「ふふ。随分と言うようになったじゃないか。素直なのは素晴らしいぞ……良い後輩ができて良かったなぁ、リンド」

  「……ふんっ!」

  不機嫌そうに鼻を鳴らすリンドに対しアニスは容赦なく。

  「リンド様がお怒りになるのも無理はありません。なぜなら私は特別な存在。リンド様とは違うのです」

  「っ!」

  「はははははっ! いいねぇ!」

  二人を楽しそうに見つめるカイルの右目には、怒りをあらわにするリンドの表情が写っていた。

  アニス……端末を介した視覚の共有、ならびに聴覚の共有に成功したカイルは、

  (これで各地の情報取集も可能になった……あとは)

  と、次の一手についての思案を巡らせていた。