「なんの手がかりも見つからないな」
森の中で鎧を着た男が辺りを見回した。周りは鬱蒼とした木々が生い茂っている。日も沈みかけ、森の中はもう少しで闇に支配されそうだ。
「ライアン、今日はこの辺りで野宿にしない? 満月の夜だし、人狼が現れるかも」
ローブを着て、杖を持った女がライアンと呼ばれた男の背後から声をかけた。女はいかにも魔法使いといった格好で、夜の闇を閉じ込めたような黒い長髪が風になびいている。
ライアンは顎に手を当てて同意する。
「うーん、そうだな、フィオナ。今日はもうやめにしよう」
ライアンとローブを着た女――フィオナは野宿の準備を始めた。木の枝を集めてきて、フィオナが魔法で火をつける。
その頃には、森の中は既に闇に包まれていた。夜の森は静かで、風で葉が擦れる音と虫の鳴き声ぐらいしか聞こえてこない。
ライアンとフィオナが辺[[rb:鄙 > ぴ]]な山の中へやってきたのは、依頼のためだった。
この辺りで人狼の目撃情報があり、ギルドからの依頼で、人狼を討伐にしにやって来たのだ。
ライアンもフィオナも人狼を実際に見たことはないが、危険な存在だとは聞いている。人間を襲い、食べてしまうこともあるらしい。
[[rb:未 > いま]]だ人狼の手がかりは見つかっていないが、今晩は満月なので、何かが起こるかもしれない。人狼は満月の夜に変身するからだ。
そんな淡い期待を抱きつつ、少しずつ夜は[[rb:更 > ふ]]けていき、二人はいつしか森の中で唇を重ねていた。
「フィオナ……」
「ライアン……」
男女が真夜中に二人でいて、何も起こらないほうがおかしいのだ。
ライアンはフィオナのローブの下に手を入れ、柔らかな肌の上に優しく指を這わせる。
二人の舌が絡まり、水音が虫の鳴き声の中に混ざって音楽のようだ。
ライアンとフィオナは一緒に旅をしているし、身体の関係も持っている。だが、二人は恋人同士というわけではなかった。
ライアンが一線を引いているのだ。
ライアンはフィオナのことが好きだが、どうしてもフィオナと一緒になれないわけがあった。
ライアンは種無しなのだ。
昔、高熱を出したときに、生殖機能を失ってしまった。精液は一応は出るが、精子は全く含まれていない。
子供を作れないライアンは、誰とも結婚しないと決めていたのだ。
「キャーーッ!!」
突然、静かな森に女性の声が響き渡った。もちろん、フィオナの声ではない。
ライアンは急いでペニスをしまうと、剣を持って、声がしたほうへ走った。
木々の向こうでは二人の男女がコウモリ型の魔物であるキラーバットの群れに襲われていた。
助太刀しようとしたライアンだったが、男女に異変が起こり始めたのに気づき、足を止める。
暗くてよく見えないが、男女は身体が大きくなり、全身が獣毛で覆われていく。
「まさか、人狼……!?」
ライアンの目の前で、二人の男女は人狼へと姿を変えてしまった。
だが、二人は荷物を守りながら、キラーバットと戦っているようで、人狼になっても劣勢だ。
二人から他の人狼の情報を聞き出したいライアンは、死なれると困ると焦り、人狼を襲うキラーバットの群れへ駆け出した。
「助太刀しよう!」
人狼たちはライアンに気づいたようで、くぐもった声で、
「助かる!」
と感謝しつつ、爪でキラーバットを切り裂いていく。
ライアンも剣を振るい、キラーバットをなぎ倒す。力を失ったキラーバットは地面に墜落する。一匹一匹はさほど強くはないが、数がかなり多い。
遅れてやってきたフィオナも魔法で火の玉を放ち、キラーバットを焼き殺していく。
「ぐうっ」
ライアンは休憩中に小手を外していたため、手首をキラーバットに噛まれてしまう。
腕を振って、キラーバットを払い飛ばし、剣で突き刺してとどめを刺す。
だが、そこで視界が急に暗くなる。目眩がして、立っていられない。
「ライアン!?」
フィオナも地面に倒れ込んだライアンに気付くが、キラーバットの相手をするので精一杯のようだ。
ライアンは薄れゆく意識の中、つぶやく。
「くそ、毒か……」
手首をキラーバットに噛まれた際に、毒にやられてしまったらしい。
だが、キラーバットは毒を持っていないはずだ。変種だろうか。
森の奥からさらにキラーバットの大群がやってくるのが見える。これはまずい。
「フィオナ……! お前だけでも逃げろ……!」
「何言ってるの! ライアンを置いてなんて行けない!」
フィオナは懸命に火炎魔法でキラーバットを焼き払う。
だが、キラーバットの数が多すぎる。
「しまった!」
ついにフィオナもキラーバットに噛みつかれてしまった。
「フィオナ……くそぉ……」
毒が完全に回り、ライアンの意識は暗転する。
目覚めると、ライアンは床に寝そべっていた。
どうも、どこかの民家らしい。家の中は薄暗く、窓の外は満月が昇っている。そんなに長い時間は経っていないようだ。誰かに助けられたのだろうか。
周りを見回すと、毛むくじゃらの大きな生き物が何匹もいる。
人狼だ。
どうやら、人狼に捕まってしまったらしい。
人狼は人間を食べると聞く。このままではライアンは人狼に食べられてしまうだろう。
幸運なことに捕縛はされておらず、身体は自由に動かせる。
ライアンは人狼たちの隙をついて、一目散に窓から外へと飛び出した。
そこは小さな村だった。
だが、村人はすべて人狼だ。ここは人狼の村だったのだ。
人狼たちがライアンに視線を向ける。
「嘘だろ!?」
驚いたライアンはその場から逃げ出した。やけに身体が軽く、ライアンは風のように走る。
だが、足元が突然に凍りつき、ライアンは滑って転倒する。誰かが氷魔法を使ったのだ。
「待って、ライアン!」
背後から聞こえてきた声はフィオナのものだった。
「フィオナ、良かった! 生きてたのか!」
ライアンは振り返ると、絶句する。
そこに立っていたのはフィオナではなく、人狼だったのだ。
「フィオナ……? お前、人狼だったのか……!?」
「落ち着いて、ライアン。自分の手を見てみて」
「手?」
満月に照らされたライアンの手のひらには肉球が形成されていた。
指先は鋭い爪が生えており、手の甲は獣毛で覆われている。
よく見れば、獣毛が生えているのは手だけではない。全身だ。
「な、なんだこれ!?」
「ライアン、私たちは人狼になってしまったみたい」
「そんな……! どうして……!?」
足音がしてライアンが顔をあげると、杖をついた人狼がゆっくりと歩み寄ってくる。
「そこからはワシが説明しよう」
現れたのは毛並みのくたびれた人狼だった。杖もついており、高齢なのだろう。
「あんたは一体……?」
「ワシはこの村の村長じゃよ」
村長を名乗る人狼はライアンたちに起こったあらましの説明を始めた。
キラーバットの毒にライアンたちがやられて気を失った直後、他の人狼たちが救援に来たのだという。
キラーバットの群れは一掃され、気を失ったライアンたちは村に運び込まれたが、毒が回って虫の息だった。
そこで、ライアンたちを助けるため、人狼たちは秘伝の薬を二人に使ったのだ。
そのおかげで、ライアンたちは解毒できたが、副作用で二人は人狼になってしまったのだという。
その話を聞いて、ライアンは複雑な気持ちだった。命を助けてくれたのは感謝しているが、自分が人狼になってしまったというのは受け入れがたい。
人狼は人間からは恐れられている存在で、他の人間に自分が人狼になったとバレてしまったら、捕まって殺されてしまうだろう。
村長はそんなライアンの気持ちを汲み取ったのか、
「色々思うところはあると思うが、とりあえず、今日はうちに泊まっていきなさい」
とライアンたちを村長の家へと案内してくれた。
人狼の家といっても、普通の人間の家と変わりはない。人狼は満月の夜以外は人間の姿をしているからだろう。
ただ、村長の家というだけあって、他の家よりは大きく、ライアンたちは客室を好きに使ってくれと、村長から告げられた。
村長が部屋から出ていった後、ライアンは頭を抱えた。
「ああ、俺たちが人狼になってしまうなんて……。これからどうすればいいんだろう」
「こうなったら、この村で生きていくしかないよね……。人狼は外の世界では化け物扱いだし」
フィオナは既に運命を受け入れているのか、落ち着いている。
そんなフィオナを見ていると、ライアンも諦めがついてくる。
「そうだな……。それしかないよな。命が助かったたけでも、幸運だったんだ」
「ねえ、ライアン。この村で暮らすなら、私たち、付き合いも長いじゃない。だから――」
フィオナはライアンの腕に手を伸ばすが、ライアンはそれを払いのける。
「言っただろ。俺は種無しなんだ。子供を作れないから、誰とも結婚するつもりはない」
「話は聞かせてもらったぞ」
突然、ガチャリと扉が開いて、村長が現れる。
「なっ!? 聞いてたんですか!?」
盗み聞きなんて趣味の悪い、とライアンは内心[[rb:憤 > いきどお]]る。
「言い忘れておったが、うちは壁が薄いんじゃ。大声だと嫌でも聞こえて来る」
「そ、そうなんですね……」
そんなに大声だったのかとライアンは恥ずかしくなる。
「それで、ライアン君、だったかの? 君は種無しなんじゃな?」
「そうですね。昔、高熱が出て、精子が作れない身体になったんです」
「それなら大丈夫じゃ。人狼は精子を作る能力が高い。ライアン君も精子が作れるようになっているはずじゃ」
「本当ですか!?」
「ああ、間違いない。人狼の姿でやれば、孕みやすいからの。子供もすぐできるじゃろ」
ライアンは自分に子供なんて一生できないと思っていた。だが、人狼になったことで、唐突にその問題は解決してしまった。喜ばしいのだが、上手くリアクションが取れない。
「さて、じゃあ、老いぼれは退散するわい。壁が薄いから、あまりハッスルはせんでくれよ」
村長が客室を出ていき、部屋にはライアンとフィオナだけとなった。ロウソクの炎が二人の姿を淡く照らしている。
子供ができないことで、フィオナと一緒にはならないと決めていたライアンだったが、生殖機能を取り戻した今、フィオナを拒否する理由はなくなった。
ライアンはフィオナを見つめる。
「フィオナ、さっきはあんなこと言ったけど、俺はお前のことが好きだ。俺と結婚してくれるか?」
フィオナは即答した。
「もちろん!」
ライアンとフィオナは人狼の村で暮らすことに決め、村人からも大いに歓迎された。
二人が結婚することが知れ渡ると、次の満月の日に盛大な宴が開かれた。
日中から飲めや歌えやの大騒ぎで、二人の結婚を皆が祝福してくれた。
宴は夕方になる頃には解散となった。満月の夜には、人狼は狼化してしまうからだ。
この村では、相手がいる者は満月の夜に人狼の姿でセックスすることが多い。人狼の姿のときのほうが孕みやすいし、それになにより気持ちが良いらしい。
子供が欲しかった二人は早速、結婚初夜に子作りをすることにした。
空き家を既に譲渡されていた二人は、自宅に帰ると、変身に備えて服を脱いだ。
日が沈み、東の[[rb:昏 > くら]]い空からは[[rb:真円 > しんえん]]の月が昇ってくる。
窓から差し込む月光を浴びて、フィオナの陶器のような白い肌が黒い獣毛で覆われていく。
指先の爪は鋭利になり、体格が一回り大きくなる。骨が軋む音が聞こえ、筋肉が爆発的に成長した。
「うぐぐぐぐ……」
フィオナは苦しそうなうめき声を漏らす。
「大丈夫か!?」
ライアンは心配になって、声をかける。ライアンは影になっている位置に立っていて、まだ変身が始まっていない。
「大丈夫……うっ……!」
フィオナの口元が伸びてマズルが形成される。歯は鋭く尖り、艶やかな黒髪が抜け落ちて、地面に散らばっていく。
耳たぶは三角形に盛り上がっていき、上方へと移動した。
フィオナの頭部は完全に狼化し、身体も強靭な獣人のようになっている。
遅れて月光を浴びたライアンも、身体が火照り、フィオナ同様に人狼へと変化していく。
人狼への変身は思ったほど苦痛はなく、むしろ解放感があった。
窓の外からはいくつもの遠吠えが聞こえてくる。他の村人も狼化しているのだろう。
「フィオナ……」
「ライアン……」
ベッドへ移動し、マズルの先端同士を密着させ、ライアンはフィオナの口内へと舌を入れる。長い舌が絡み合い、お互いの唾液を混ぜ合わせる。
「んん……」
フィオナが甘い声を漏らす。ライアンがさらに奥へと舌を伸ばしたのだ。
フィオナの口の中の空間は狼化したことで以前より縦長に広がっているのがわかる。鋭利な牙がいくつも生えていて、ライアンはフィオナの歯茎を舌を這わせた。
ライアンは長めのキスを終えると、次はフィオナの三角の狼耳を舐めた。耳の端をなぞるように舐めてから、耳の内側に舌を入れて、わざと水音を立てる。
「んあ……っ!」
フィオナは身体をビクンと震わせる。フィオナは人間のときから、耳が弱かった。人狼になってもそれはかわらないようだ。
同時にライアンはフィオナの乳房へと手を伸ばす。
獣毛の下にある柔らかな脂肪をライアンは撫で回す。毛で見えないが、乳房の中央を指でなぞると、小さな突起があった。乳首だ。
ライアンが乳首を優しくつまむと、フィオナは、
「んあああっ……!」
と嬌声を上げる。
「もうだめ……! 我慢できない……!」
フィオナはライアンを掴んで、逆に馬乗りになる。
フィオナの股間は既に濡れていた。
なんだかフィオナはいつもよりも積極的だ。人狼になったことで、興奮しやすくなっているのかもしれない。
フィオナはライアンのいきり立った肉棒を鷲掴みにして、ねっとりと愛液を分泌する股間に当てがった。ずぶりと肉竿はフィオナの中に沈んでいく。
フィオナは腰を上下に振り、熱を帯びた肉襞がライアンに射精を促すように肉棒に絡みつく。
「うお、すご……っ!」
ライアンはつい呟いてしまう。
騎乗位なんてものをフィオナがやってくれるなんて思いもしなかった。
元々、華奢な身体つきのフィオナには騎乗位で腰を振るなんて体力が保たなかっただろう。それが人狼になったことで筋力が増強し、容易にこなせるようになったのだ。
ライアンがフィオナを見上げると、弾むように揺れるフィオナの乳房が目に入る。フィオナはマズルから舌がはみ出していて、恍惚の表情を浮かべている。
人狼の姿のほうが気持ちがいいというのは本当だったらしい。そういうライアンも、もはや我慢の限界に来ていた。少しでも気を抜くと発射してしまいそうだ。
ライアンの竿の根本が膨らんで、フィオナの秘所とライアンの肉棒が繋がってしまったかのように引き抜けなくなった。
人狼は狼などと同じように亀頭球といって、射精時には竿の根本が膨むのだ。射精が終わるまでは、ライアンとフィオナは繋がったままになってしまう。
「うっ、出そう……!」
「いいよ、出して!」
フィオナは腰を上下に振れなくなった代わりに、腰を前後左右に動かす。肉襞がペニスを擦り上げ、絶頂してしまったライアンの肉棒からは、堰を切ったように精液が溢れ出した。
ドクドクと脈動しながら、蜜壺に延々と精を注ぎ込む肉棒。終わるかと思ったオーガズムは、再び復活を繰り返し、射精は終わることなく続く。
人狼の射精は十分以上にも渡る。狼の射精時間は長いのだ。これなら子供ができやすいのも納得できる。
二人は熱烈に抱擁し、射精が終えるまで舌を絡ませ続けた。
ライアンたちが村にやってきてから半年以上が経った。
「よし。一旦、休憩にしよう!」
ライアンの号令で村の子供たちが、剣を下ろした。
ライアンは剣の堪能さを村人たちにかわれて、子どもたちに剣技を教えていた。人狼は爪での肉弾戦も強力なのだが、剣技が使えればさらに強くなることができるだろう。そうすれば、村が人間に襲われても、きっと対抗できる。
その様をフィオナが遠くから眺めていた。
ライアンはフィオナに手を振った。
フィオナは笑顔で手を振り返してくれる。その反対側の手は大きく膨らんだお腹にあてられている。フィオナはめでたく妊娠したのだ。
村の中を爽やかな風が吹き抜ける。
いつまでもこの平和が続くといいのにな、とライアンは心の中で願った。