ヴォセク

  霧の大陸、ノエタウンの沖合を航行していた帆船『ヴォセク』は、既に遠洋に出ている。穏やかな追い風が吹き、『ヴォセク』は水面を掻き分けながら進む。帆は風を受け、船上には時の守護者の残党が巡回している。

  操舵室から甲板上の光景を見ている時の守護者にして船長を務める牡のニョロボンの姿がある。太い腕で舵輪を扱うニョロボンの傍には牝のウェーニバル、ティトレリが立っており、双眼鏡で船の進行方向を監視している。

  青空には雲が漂っており、穏やかな日が『ヴォセク』を照らす。ときおり吹く海風が船体を揺らすが、概ね安定した航海を送っている。

  平和な光景が広がっているが、操舵室の近くにある船室から異音が聞こえていた。その船室を使っているのは最高指揮官であるヴィレムであり、室内から水音と若い牝、ニコルの喘ぎ声が響いている。

  ニコルの声に耳を傾けるティトレリは微かに笑みを浮かべ、双眼鏡から視線を逸らす。彼女の目は船室ある方向を向いており、船室内で陵辱されるニコルの姿を想像し、口角を歪めた。

  ノエタウンにある教会が陥落し、カウフマンとグレーテが死亡してから2週間ほどが経過した。グレーテらが死亡した際にヴィレムとティトレリは自らの正体をニコルに露見させ、彼女を絶望へと突き落とした。

  その日以降、ニコルはますますヴィレムによる陵辱を受け入れ、彼の望むままに身体を提供した。ヴィレムが望めば彼の性器を口で咥え、彼の精液を喉の奥へと流し込んだ。ヴィレムが望めば尻穴や膣で彼の性器を咥え、彼の精液を自身の体内へと注ぎ込ませた。

  その間、ニコルは常に笑っていた。

  泣きながら笑い、感じながら笑い、ひたすら笑い続けている。

  ヴィレムから魂の情報を受け取るために、受け止めた魂の情報を新たな命として胎で育むために、ニコルはヴィレムに抱かれ続けた。

  彼女の声と物音を2週間近く聞きつけたティトレリは、時にニコルに暴行を加え、自身の憂さ晴らしに使っていた。ティトレリによる暴行をヴィレムは止めず、傍で鑑賞していた。

  ここ2週間に渡り、ニコルの心はボロボロに破壊され、ヴィレムとティトレリの暴力を受け止め続けていた。

  本日もニコルの首を絞め、息を止めかけたティトレリは、その光景を思い出し、恍惚とした表情を浮かべる。彼女の表情の変化を見た船長のニョロボンは、苦い表情でティトレリを見た。

  「…貴様はヴィレム様のお気に入りのようだが…航海士としての勤めは果たしてもらうぞ」

  船長に指摘されたティトレリは薄笑いを浮かべ、「もちろん」と返す。

  「グレーテが死に、ようやくグレーゴルを手中に納めた…仕事を忘れない範囲で楽しんでいますよ」

  ティトレリの発言を聞き、操舵室内にいる船長や他の守護者達は硬い表情で彼女を見る。彼女の正体を知らない船長や守護者にとって、ティトレリはヴィレムのお気に入りの牝と見なしていた。

  だが、実際は⚪︎⚪︎⚪︎と×××の愛憎劇に巻き込まれ、死亡した被験者達の怨みの感情の集合体であり、ヴィレムとティトレリは同じ魂を共有した存在である。

  それ故に、ヴィレムは被験者達の魂を再生する胎としてニコル、そしてティトレリを利用していた。元人間であるニコルの魂と同じ被験者達の魂を継ぐティトレリ、彼女らを孕ませる事で、被験者達の魂を再生させ、新たな命として誕生させる事が狙いであった。

  その事を十二分に理解しているティトレリは船長や他の守護者達に向かって笑みを見せる。彼女の笑みは狂気を帯びており、それを見た船長や守護者達は背筋を震わせる。

  ヴィレムとティトレリの目的を知らない船長達にとって、眼前の航海士は狂気の象徴である。

  「…船内の巡回に行ってきます」

  歩く狂気は操舵室にいる面々に声をかけ、廊下に出て行った。本来ならば船長であるニョロボンがティトレリを諭す言葉をかけるべきだが、彼女の纏う雰囲気がそれを許さない。

  元人間のグレーテは、×××という1人の人間の魂が転生した存在である。グレーテも不気味ではあったが、そこまでの圧を感じる存在ではなかった。

  しかし、ティトレリとヴィレムは50人以上の死亡した被験者達の魂が集合し、個の魂として転生した存在である。ヴィレムは粗暴な言動が目立つため、日頃から圧を感じる存在である。だが、眼前のティトレリは静かな言動の中に狂気を含んでおり、船長や他の守護者達は言葉に表せられない威圧感を覚えた。

  閉口した彼らを尻目にティトレリは操舵室を後にした。

  この『ヴォセク』は量産性を重視し設計されており、大量の物資や人員を搭載したとしても、相応の巡航速度を維持できるようになっている。船内も広く、操舵室を出たティトレリは通路を歩き、奥の方へと移動する。

  船外では海風と波の音が広がっており、穏やかな雰囲気が広がる。しかし、通路の中にはヴィレムに陵辱されるニコルの喘ぎ声が響いており、それを聞きながらティトレリは脚を進める。

  扉にかかった鍵を解錠し、静かに開け、ティトレリは船室内を覗き込む。

  室内に置かれた寝台の上には四つ這いになったニコルの姿があり、彼女の臀部を後方から掴んでいるヴィレムは加虐的な笑み浮かべ、腰を振り続けている。ニコルの膣に出入りするヴィレムの性器が垣間見え、寝台のシーツの上に滴り落ちた性液が染みを作る。太く大きなヴィレムの性器の動きがニコルに性的な快楽を与え、彼女は喘ぎ声を上げ続けている。

  2週間前に比べて、ニコルの下腹部は異常な早さで大きくなっている。まるでヴィレムが注ぎ込む精液と共に、被験者達の集合体の魂がニコルの胎内に入り、胎に宿っているかのようである。

  下腹部が大きく膨らんだニコルを見て、ティトレリはほくそ笑んだ。

  扉の隙間から室内を見ているティトレリとニコルの視線が交差した。

  獣のように四つ這いになり、後ろから犯される自身の姿を他人に見られた事により、笑っていたニコルの顔は赤くなり、恥ずかしそうに顔を背ける。他人に見られたという事実が、よりニコルに興奮を与え、彼女は全身を細かく震わせ、絶頂を迎えた。

  寝台の上に崩れ落ちるニコルの姿を見たティトレリは、ゴミを見るような視線をニコルに送り、扉を閉めた。

  「…卑しい牝犬が…」

  小声で呟いたティトレリは通路の奥へと歩いていき、巡回を続ける。

  ティトレリは通路に面した別の船室に入り、扉に鍵をかけ、室内にある金庫を開ける。金庫の中にはカウフマンから盗んだ時の歯車とディアルガの秘宝が保管されており、それらを見たティトレリは微かに笑い、視線をヴィレムとニコルのいる船室の方へ向ける。

  「…時の歯車、ディアルガの秘宝、キールリンク…そしてニコルの胎…」

  ティトレリは薄ら笑いを浮かべ、目を細める。

  「…これで全て揃った」

  通路には再び陵辱されるニコルの喘ぎ声が響いており、それを聞きながらティトレリは甲高い笑い声をあげた。

  *

  ノエタウンの教会からトレジャータウンへと移動したオズワルドは、背中に刻まれた傷と火傷、そして手の傷の治療のために野外病院へ入院する事になった。当初はニコルを探すべく、オズワルドは入院に対して拒否的であったが、カフカとフランツの説得もあり、今は大人しく病室のベッドに横になっている。

  入院中は手の傷を縫合し、焼き潰れた背中の傷には軟膏を塗り、抗生剤を持続的に投与された。

  腕から伸びる点滴の針を眺めていたオズワルドは、本日2回目になる傷口のデブリドマンを受ける事になった。

  ベッドにうつ伏せになり、背中の傷を天井に向けた状態のオズワルドは、医師の手により局所麻酔を打たれ、続けて焼けた背中の肉を削ぐ治療を受けていた。背中を走る激痛にオズワルドは苦悶の声を漏らし、シーツは少しずつ赤く染まる。だが、オズワルドは懸命にそれを我慢し、デブリドマンが終わるのを待った。

  やがて、医師が「終わりましたよ」と言い、オズワルドの全身から力が抜けた。看護師が傷口に軟膏を塗り、新しい包帯を巻く。チクチクとした痛みが背中に広がるが、オズワルドはそれを我慢し、大人しく処置が完了するのを待った。

  全ての処置が終わり、オズワルドは大きく息を吐き出し、全身の力を抜いた。背中の傷がまだ新しいため、今のオズワルドはうつ伏せか横向きで休むしか方法がなく、治療で体力を消耗したオズワルドは眠気を覚えていた。

  本来ならば、トレジャータウンにはニコルが運営する診療所があったが、暴徒により診療所は焼かれ、ニコル自身もヴィレムに誘拐されている。そのため、トレジャータウンには暫定的な野外病院がレシラム教により設立され、オズワルドの他にも暴動の負傷者が入院している。テント内の空間には幾つものベッドが置かれており、あちこちで負傷者の呻き声が響いている。

  その光景を見渡したオズワルドは、少しずつ重たくなる瞼により、視界が暗くなってきた。

  だが、テント内に入ってくる人影に気づき、オズワルドの意識は再び覚醒した。

  テント内に入ってきたカフカとフランツ、セレビィのエミルはオズワルドが休むベッドに近づき、安心した表情で彼を見た。

  「良かった…元気そうですね」

  Kの正体がオズワルドと知らされたエミルであるが、彼女は他の者に接する時と変わらぬ様子でオズワルドに話しかける。かつて時の守護者Kとしてエミルと対峙した経験のあるオズワルドは、苦い表情でエミルに手を振り、無事を知らせる。

  彼の反応を見たカフカとフランツもまた、苦笑いを浮かべ、オズワルドが横になるベッドの脇にある椅子に座る。フランツは見舞いの品であるメロンを机に置き、カフカがナイフでそれを切断する。

  「風の大陸から取り寄せた品だ、美味しいぞ」

  フランツにメロンを勧められ、オズワルドは横向きのまま、それに口をつける。少し食べにくさがあるが、それでもオズワルドはメロンを食べ、治療で疲れた身体にエネルギーを蓄える。

  その姿を見たカフカは苦笑いを浮かべたが、すぐに表情を変えた。

  「…ニコルとヴィレムの事だが、帆船が停泊できる規模の港には騎士団と自警団の監視が付いているそうだが…まだ見つかっていない」

  「…」

  カフカの報告を聞き、オズワルドは閉口する。グレーテが死亡し、ニコルが見つからないため、オズワルドの不安はますます増幅している。その事に気づいたカフカは明るい声を意識し、彼に説明する。

  「だ、だけど…エミルが世界中の時渡りの力が残っている箇所を調べてくれて、地図に書いてくれたよ…ヴィレム達はそこに向かう可能性があるから…」

  「…それで、何ヶ所ですか?」

  オズワルドに尋ねられたカフカの言葉が詰まる。

  「…25ヶ所です」

  カフカに代わり、エミルが応える。その数の多さにオズワルドは唖然としており、フランツとカフカは目を伏せる。

  エミルもまた、申し訳なさそうに目を伏せており、彼らは無力感に打ち拉がれる。やがて、オズワルドは震える声を絞り出した。

  「4%の確率で…ヴィレムの行き先を当てろと言うのですか…」

  あまりに低すぎる確率にオズワルドは絶望の言葉を漏らしてしまう。それはカフカ達も同じであり、彼らは何処を目指せば良いのかわからず、口を閉ざしていた。

  彼らの沈黙を破ったのは、聞き慣れた声であった。

  「傷の具合はどうですか?」

  それは攻城作戦を指揮した牡のコジョンド、モローの声である。彼が副隊長を務める遊撃隊とレシラム教騎士団は時の守護者に捕まっていた人質を保護し、ワイワイタウンやトレジャータウンなどの拠点にある医療機関へと搬送した。

  カピンタウンからトレジャータウンへと引き続き派遣されたモローは定期的にオズワルドの見舞いに来ていた。テント内に入ってきたモローはオズワルド達の傍に歩み寄り、彼らが落ち込んでいる事に気がついた。

  不思議そうに首を傾げる。

  「はて…何やら空気が重たいですが…帆船の行方が気になるのですか?」

  モローの直球な疑問を受け、フランツは弱々しい声で「候補地が多すぎるせいだ…」と言った。フランツの差し出した地図を受け取ったモローはそれに目を通し、近くにあるテーブルの上に広げた。

  モローの行動を見たオズワルド達は目を丸くさせ、彼を見た。彼らの視線に晒されたモローは涼しい表情のまま、地図を見渡し、口を開いた。

  「…これは参謀将校として軍事教育を受けた者の意見です」

  モローは静かな声で話し始めた。

  「…捕虜と人質の情報によると、ヴィレムは教会から帆船へ人員や食料、燃料、武器、財宝、そして人質を移したとの事です…グレーテやカウフマンに気づかれるリスクがあるのに、なぜでしょうか」

  「…それらがどうしても必要、だから?」

  モローの疑問の声に対して、カフカが当たり前の答えを返した。モローは頷き、話を続ける。

  「それらはヴィレムにとってどうしても必要な物…運ぶ必要がある物…しかし、それだけの量を運ぶには大量の馬車や荷車が必要になります。ですが…大規模な馬車や荷車の移動は人目につく…」

  「…人目につく陸路や港に近い箇所は除外できる、ということか」

  モローの話を聞き、フランツは納得したように呟いた。モローは頷き、地図上に記されたマークの内、陸路での移動が必要な箇所や港が近い箇所のマークに、赤鉛筆で斜線を引いた。

  「帆船を使う規模の量ならば、目立つ陸路は使えず…運搬量が限られる空路も使えない…更に言えば、ヴィレム達は港が監視されているのに帆船で移動している…港以外で乗船したまま接岸できる箇所…浅瀬の沖合や岸壁のある箇所が目的地と言えます」

  「ですが…物資や人員は囮であり…ヴィレムが人質を連れて、単身で陸路や空路を使う可能性はありませんか?」

  エミルの不安な声を聞き、モローは首を左右に振る。彼は冷静な口調で話を続ける。

  「仮にヴィレムが単身で移動し裏をかきたいのなら…わざわざ帆船を使わずに、最初から人質を連れて空路で移動するはずです。それこそ、我々が教会に攻め込む前に移動すれば…空路を使い、好きな目的地へ悠々と移動できるはずです」

  モローは話しながら赤鉛筆を動かし、地図上のマークに続々と斜線を引いていく。

  「陸路と港を騎士団が監視している事は、ヴィレム達も把握している筈です。そしてヴィレムが必要とする人員と物資は膨大な物なので…空路は使えない…奴らが取れる移動手段は海路のみです」

  「…それも、監視のある港や人目のある箇所は避けるはず…」

  モローの推測を聞いたオズワルドが小さな声で呟いた。モローは頷き、赤鉛筆で地図上の残りのマークを消していく。

  モローの手の動きが止まった。

  地図上のマークは3ヶ所まで減っている。それを見たオズワルド達の表情は明るくなり、モローの話の続きを待つ。

  モローは口を開いた。

  「…港が使えないのならば、岸壁に直接接岸するか…沖合に停泊してボートで接岸するかのどちらか…残りの3ヶ所の内、ここは波が強く、岩が多いため、直接の接岸とボートでの接岸は不可能…」

  地図上に記された記号から地形を読み取り、モローは作業を続ける。

  オズワルド達の視線がモローの手元に集中する。

  「この箇所は波が穏やかで沖合に停泊すれば、ボートで接岸可能ですが…ノエタウンから1番遠い箇所で、帆船での移動では2ヶ月かかります…連中の目的は撤退なので、時間が命です…ここは除外できます」

  「…それじゃあ、残る1ヶ所が…」

  オズワルドの呟きを聞き、モローは頷いた。

  「港や陸路を使わずにアプローチできる、且つ人目に触れずに接岸できる岸壁があり、ノエタウンから最寄りの箇所…ここなら帆船を使い2週間で到達可能ですね」

  モローが指を差した箇所、そこには大洋の孤島が記されている。

  「…『キールリンク』」

  そこに記された地名を、カフカは無意識に読んだ。カフカに続き、フランツが口を開いた。

  「キールリンクは海洋上の小さな島だ…確か、昔は貿易と補給拠点として盛んだったが…新航路の開発と船舶の改善で不景気になったと聞く…」

  「貿易拠点…ということは、港の跡地がありますね」

  フランツに続き、モローが話す。

  彼らの声を聞いたエミルは地図に触れながら口を開く。

  「…地図によると、キールリンクの外れにウェストウェストと呼ばれる灯台があります。そこならば、ディアルガの秘宝と時の歯車を使い、時の波紋のゲートを開き、軍団規模の時渡りが可能です」

  彼らの話を聞いたオズワルドは、背中の痛みを堪えつつ、静かな声で話した。

  「…キールリンクのウェストウェスト灯台…そこにニコルが居ますね」

  彼らは互いの顔を見て、頷き合った。

  暴力に飢え、殺戮を好む罪人達の乗る船が行き着く流刑地が判明し、オズワルド達の次の行動が決まった。

  *

  大洋の孤島、キールリンク。

  かつては貿易港として発展していたキールリンクであるが、別の街に貿易港の役割を奪われ、住民が全て去り、廃墟と化している。街の中心には繁華街の跡があり、海に面した通りには港の跡地がある。

  街外れにはウェストウェスト灯台があり、かつての貿易港を見渡せる位置を陣取っている。

  街一番の高さを誇る灯台も無人と化しており、油と火を使い、強力な光を放っていた最上部は埃と煤に塗れている。

  上宮から降りてきたカイリューの高速便は灯台の麓に着陸し、ゴンドラから客を降ろす。

  「到着しましたよ」

  高速便のリーダーのカイリューがゴンドラに乗った逆に声をかける。ゴンドラ内には複数の人影があり、その中の1人から代金を受け取り、リーダーのカイリューはごきげんな表情をみせた。

  「毎度‼︎…それにしても、前回もここまで客を運んだが、こんな廃墟に何かあるのかい?」

  契約書のサインと代金を頂戴するリーダーの口から、何気ない言葉が出てきた。それを耳にした牡のライチュウ、ライラは驚きの顔を見せたが、「さぁ…」と誤魔化してみせた。

  リーダーのカイリューはそんなライラの反応を気にせず、最後の客が降りたゴンドラを吊り下げ、他のカイリュー達と共に飛び立つ。

  ライラと共に灯台の麓に降り立った人影、フードを被った牝のバシャーモ、リラは牝のヒトカゲの赤子、エリスを胸に抱き、先ほどのカイリューの言葉に疑問の表情を浮かべる。

  「…私達以外に、誰か居るの?」

  リラの問いにライラは首を傾げるが、彼はゴンドラから降ろした荷物を全て抱えて、灯台の扉を開ける。

  潮風により劣化し錆びた扉は非常に重たく、ライラは全身の力を込めて、ゆっくりと押し開く。

  ライラとリラの嗅覚は埃と潮の臭いを捉えた。

  灯台の内部には螺旋階段があり、頂上には燃料と火を使った発光設備がある。

  無人の灯台の内部を見上げたリラは感嘆の声を漏らし、ライラは扉を閉めた。荷物を置いたライラはリラとエリスの代わりに周囲を見て周り、安全を確認して戻ってきた。

  「見たところ…1階には誰も居ないよ」

  ライラの言葉を聞き、リラは安堵の溜息を漏らした。荷物を抱えたライラはリラとエリスを先導し、灯台内の上層へと移動する。

  ライラとリラの視線は螺旋階段の踏み板へと向けられた。螺旋階段の手すりには埃が溜まっているが、踏み板には埃が蓄積していない。

  それを見たライラとリラは無言で頷き合い、慎重に階段を登る。

  「ところで…」

  階段を登っているライラがリラに尋ねる。

  「…ヴィレム達の乗る船がこの辺を航行するのは、間違いないの?」

  ライラに尋ねられたリラはエリスの頭を撫でながら頷いた。

  「…カウフマンを追ってノエタウンの教会に向かった時…岬に『ヴォセク』級が停泊しているのを見かけたわ…」

  リラはライラの質問に応えながら階段を登る。

  「『ヴォセク』級はレシラム教が使用する量産型のオーソドックスな近距離用の帆船よ…最低乗員数は30人、最高で60人…航行可能な日数は4週間以内…」

  リラの口から出てくる情報に耳を傾けるライラは、目を丸くさせる。リラは続けて話す。

  「レシラム教騎士団の電信を盗聴したけど…『ヴォセク』は2週間前にノエタウンを出航している…各地の港を監視している騎士団が『ヴォセク』を把捉できていない事を考えると…航行速度と日数から概算して、このキールリンクを通過するはずよ」

  「…その心は?」

  ライラに尋ねられたリラは、エリスの頭を撫でながら答える。

  「理由は単純よ。『ヴォセク』級がノエタウンから出航した場合、2週間以内にキールリンク以外の何処かの港に停泊しなかったら…次の港までまた2週間以上かかるわ」

  「…そうか、このキールリンクが『ヴォセク』級の補給拠点だったのか」

  ライラの呟きを聞き、リラが頷く。

  「昔は『ヴォセク』級の帆船しかなかったから…霧の大陸を行き来する帆船はキールリンクで補給するしかなかった…ここで補給しない場合は、キールリンクより陸地に近い港で補給して、元の港に戻るしかない…このキールリンクは霧の大陸の航路の中間点なの」

  リラの説明を聞き、ライラは納得したように頷く。

  「技術が進んでいるから、今はより大型の『プラハ』級が8週間から16週間の長距離の航海に使用されるわ。『プラハ』級が誕生した事で、キールリンクの補給拠点としての役割が失われた…だからこそ、ヴィレムが『ヴォセク』級に乗っているのなら…2週間で到着するキールリンクが『ヴォセク』級が辿り着ける最後の港なのよ」

  「…でも、『ヴォセク』級の最大航海日数が4週間なら、キールリンクを無視して突っ切る事はできないの?」

  ライラの疑問に対して、リラははっきりとした口調で答える。

  「出航した港からキールリンクを介して目的地までの港まで4週間と仮定した場合、計算上はギリギリ辿り着けると思うわ。でも、これは追い風の状況で計算されたカタログ上の数値だから、向かい風や嵐になれば、確実に最大航行可能日数を超えるわ。食料や燃料、医薬品の搭載量にも限界がある…乗員が餓死や病死するリスクに繋がるわ」

  「…なんでそんな事を知っているの?軍艦に関しては軍事機密でしょ」

  明らかに軍事機密とわかる情報を話すリラに向けて、ライラは呆れた視線をむける。彼の視線に晒されたリラは罰が悪そうに眉を寄せ、エリスの頭を撫でながら答える。

  「…オズボーンに抱かれた時、嬉しそうに雑学として話すから…」

  「…トップが軍事機密をペラペラ喋るのか…」

  リラの返事を聞き、ライラは呆れた口調で溜息をこぼした。美女を前にした牡が浮かれ、余計な事を話すというエピソードはしばしば耳にするが、まさかレシラム教のトップですら同じ事をしていたと知り、ライラは頭痛を覚えた。

  リラも苦笑しながら階段を登り、かつて灯台守が住んでいた生活スペースへと足を踏み入れた。リビングとして使われていたのであろうか、室内にはテーブルと椅子があり、ランタンやストーブなどの生活用品が置かれている。

  それらを見たライラとリラは互いの目を合わせた。

  清掃されたテーブルの上には、淹れたてのコーヒーの入ったカップが置いてあった。

  白いカップの中には湯気の立つコーヒーが入っており、深い香りが室内に広がっている。リビングの窓は開いており、外から潮風が入ってくる。床や椅子も清掃され、何者かが灯台内に居ることを暗に示している。

  荷物を下ろしたライラとエリスを抱えたリラは辺りの気配を探るが、何も感じられない。

  直後、リラの腕の中で眠るエリスが泣き出し、リラの意識がエリスに向けられる。その間、ライラは2人を守るように移動し、辺りの気配を探る。

  「やれやれ…隙だらけですよ、アンポンタン」

  「ぎゃあ‼︎」

  「うわっ‼︎」

  聞き慣れた声がリビングに広がった直後、ライラとリラは背筋を指先で撫でられ、揃って悲鳴をあげた。リラはエリスを抱えたまま振り返り、ライラは2人を守るように身体を動かした。

  だが、2人の視界に映り込んだ人影を見て、彼らは動きを止めた。

  彼らの前に立つ人物、団長の姿を見て、ライラとリラは唖然とした表情を浮かべた。

  「お久しぶりですね」

  対する団長はいつもと変わらぬ口調でライラとリラに話しかけ、笑顔をみせる。ライラとリラは動きを止めたが、やがてリラは目に涙を浮かべ、口から嗚咽を漏らした。

  「ご、ごべんなざい…」

  エリスを抱えたまま泣くリラに向かって、団長は閉口したまま肩を抱き、優しい口調で話しかけた。

  「過程はどうであれ…私はリラの味方ですよ…お帰りなさい」

  いつもと同じ優しい口調で団長は話し、見慣れた笑顔でリラを見つめる。リラは泣きながら団長の言葉を聞き、鼻を鳴らす。

  団長は続けて涙ぐむライラに目を向け、優しい口調で話す。

  「なにがあったのかは知りませんが…ライラの身体が元に戻り、何よりです」

  「…ご心配をおかけしました」

  ライラもまた、黙ってリラを救いに行った事を謝罪するが、団長はいつも通りの笑顔でライラを見る。続けて団長はリラの腕の中で泣くエリスに目を向け、穏やかな口調で話す。

  「あなたがリラの赤ちゃんですね…お名前はなんですか?」

  団長に尋ねられたリラは溢れる涙を堪えつつ、「エリスです」と応え、団長は視線をエリスに向ける。

  「初めまして、エリスちゃん。私は調査団の団長…世界で1番スタイリッシュな団長です。他のアンポンタンとは違いますからね?」

  いつもと同じ口調で話し、団長は指先でエリスの頭を撫でる。とぼけた口調で話す団長の姿にライラとリラは笑顔になり、エリスも泣き止んでいた。

  やがて、落ち着いたライラとリラは椅子に腰かけた。彼らの向かいの椅子に団長も腰かけ、団長は口を開いた。

  「さてと…まずは私から話しましょうか…」

  そう切り出した団長は視線をライラとリラに向け、説明を始めた。

  「私が違和感を抱いたのは、ヨマワル銀行の2人のの口座残高が0になったという知らせが届いた事…銀行口座から預金を引き出せるのは、口座番号を知っているあなた達だけですからね」

  「…」

  団長の話を聞き、ライラは黙ったまま頷く。ライラの反応を見た団長は満足そうに微笑み、話を続ける。

  「そしてプクリンのギルドのヘンデル氏から暴徒やディアルガ教徒について聞いていたので…ウルスラの研究資料を拝借して、世界地図から色々と推測してみました」

  そこまで話した団長は「これぞ、調査団団長によるスタイリッシュな調査です」と続けて話すが、ライラとリラが無反応なため、落ち込んだ様子で口を開いた。

  「…やれやれ、からかい甲斐のない団員ですね…」

  「話を続けてください、団長」

  呑気な口調で呟く団長に対して、ライラがぴしゃりと言い放つ。団長は肩を竦め、話を続けた。

  「…まぁ、私はこれでも調査団の団長です。地図や海図に関して言えば、そこらの船乗りや軍人よりも詳しいですよ」

  「…まさか、海流と風向きから判断したのですか?」

  リラに問われた団長は笑顔で頷く。

  「端的に言えば、ウルスラの資料から時渡りが可能で、かつ騎士団の監視網に引っかからないルート…それも『ヴォセク』級の航行可能な日数と速度…そして海流と偏西風から『ヴォセク』級が航行可能なルートを抽出し、全ての条件を満たすのは…」

  「…キールリンクだった」

  ライラの呟きを聞き、団長はニコリと微笑む。元々、団長は方向音痴ではあるが地図や海図の読解力や状況の分析能力が非常に高く、彼の分析力を改めて目の当たりにして、ライラとリラは感嘆した。

  団長はコーヒーを一口飲み、話を続けた。

  「…『ヴォセク』級の動きを調べる過程で、ついでにヨマワル銀行の口座からあなた達の預金が引き出された支店の場所を調べたところ…トレジャータウンの目と鼻の先だった…あとはヘンデル氏から『旅人の若い夫婦が保育所を手伝ってくれて助かった』という話を聞きまして…まぁ、私の直感が当たったという訳です」

  断片的な情報から状況を分析し、リラとライラが生き返った可能性を考慮する団長の能力を目の当たりにして、ライラとリラは舌を巻いた。

  ライラはコーヒーを飲み、リラはエリスの頭を撫で、口を開いた。

  「…では、団長はなぜ単身でここに来たのですか?」

  リラに尋ねられた団長は微笑み、静かに話し出す。

  「…ここは私以外、誰もいない無人の島です…リラとライラの性格を考えれば…ヴィレムが人質を連れて無人の島へ向かうと知れば…問答無用でヴィレムを殴りに行くだろうなぁ、と考えて…」

  そこまで話した団長はコーヒーを飲み、口を開く。

  「まぁ、あなた達に会いに来たついでに…人質を救助しリラを苦しめた連中の生き残りを殲滅しようと思いまして…」

  笑顔で話す団長だが、その目的を知り、ライラとリラは背筋を震わせた。オズボーンとカウフマン、グレーテが死亡し、リラに首輪を付けていた者達は全滅した。だが、団長の怒りは収まらず、カウフマンとグレーテの同志であるヴィレムすら殲滅の対象としており、膨大な金と時間をかけて、遠路遥々キールリンクまで来たのだ。

  団長の怒りの度合いと報復の意思の強さを実感し、当人であるリラと相棒のライラは恐怖した。

  団長はコーヒーを飲み干し、笑顔をみせた。

  「…さてと、次はライラとリラの番です。全て話してください」

  団長の怒りと意思の強さを目の当たりにしたライラとリラに拒否権はなく、彼らはどのように説明したら良いのか、慎重に言葉を選んだ。

  室内にエリスの楽しそうな笑い声が響いた。

  *

  洋上を航海中の『ヴォセク』船室。

  時刻は夜を迎え、船内は静まり返っている。船長は休憩し、ティトレリとは別の航海士が舵を取っている。マストの上部にある見張り台には船員が待機しており、周囲の海域を警戒している。

  船内の一角、ヴィレムが監禁部屋として使っている部屋の中でニコルは目が覚めた。

  寝台の上で仰向けになっているニコルは、ぼんやりとした視界で天井を見ている。ノエタウンを出航してから、2週間近くが経過した。その間、ニコルは昼夜問わずヴィレムに犯され、睡眠時や清拭時もヴィレムが傍にいる環境であった。最近では排泄時もヴィレムが同行し、彼が見る前で排尿や排便を強いられている。

  屈辱的な時間を過ごしていたニコルだが、現在はヴィレムの姿がなく、寝台の上に1人で横になっている。

  ニコルは左右に伸ばした腕を動かそうと、力を入れた。だが、ニコルの腕は動かず、脚も動けない状態であった。

  「…えっ?」

  ニコルが頭を上げて辺りを見渡したところ、彼女の四肢はロープで固定されており、仰向けで両膝を曲げた姿勢を保っている。

  ニコルの視界に、大きく膨らんだ己の下腹部が映り込む。

  これまでの航海では、船室の扉に鍵がかけられていたが、直接的な拘束はされなかった。だが、現状は四肢をロープで拘束され、ニコルは動けずにいる。

  ニコルの口から不安そうな声が漏れる。

  その時、ニコルは寝台の隅が青白く輝いている事に気がついた。ニコルが視線を向けた先には青白く輝く物体が置かれており、それらはニコルの左右の脇の下と骨盤の横に置かれ、ニコルの身体を囲むように置かれている。

  見覚えのあるそれらは、ヴィレムがカバンに入れていたものである。

  「…時の歯車?」

  かつて、カウフマンが管理していた4つの時の歯車は拘束されたニコルを囲んでおり、怪しく輝いている。ふと、ニコルの目は自身の脚の間に置かれている物体に気がついた。

  それは時の歯車の光を吸収し、鈍く輝く宝石であった。

  「…ディアルガの秘宝…」

  それを見たニコルは、ヴィレムが所持していた筈のディアルガの秘宝が無造作に置かれている事に疑問を抱いた。

  時の歯車とディアルガの秘宝。

  それらがニコルを囲むように置かれ、ニコルは寝台に拘束されている。室内の光景を見渡したニコルは、人間だった頃に見た事がある映像を思い出した。

  神に捧げる生贄の様子を再現した映像を。

  それを思い出したニコルは不安そうに室内を見渡すが、直後、部屋の隅に座る人影の存在に、ニコルは気がついた。人影、いやヴィレムはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら椅子から立ち上がり、ニコルを見下ろした。

  「よぉ、ハニー…よく眠れたか?」

  ヴィレムに尋ねられたニコルは顔を背ける。

  彼の隣には白衣を着た船医、時の守護者が立っている。

  ヴィレムはニヤニヤと嫌らしい笑みのまま、寝台の脚下に立つ。ヴィレムに続き、船医も寝台の脚下に立ち、彼らの動きを見たニコルは疑問の前を向けるが、尋ねるより先にヴィレムが口を開き、唐突に話し始めた。

  「時の歯車はディアルガの秘宝の力を引き出すための触媒、という事は…お前も知っているよな?」

  ヴィレムに尋ねられたニコルは頷く。ニコルの返答を見たヴィレムは笑みのまま、ディアルガの秘宝を撫でている。

  「…ディアルガの秘宝は、時の神ディアルガの力を封印した物…異なる時間軸の世界を繋ぎ、時渡りを可能にする…だが、別の使い方もある」

  そこまで話したヴィレムは拘束されているニコルの下腹部を撫で、ニコルの顔を見ながら微笑む。

  「時の歯車で座標を指定した対象…その時間を進める事が可能だ」

  「…え?」

  ヴィレムの話を聞き、ニコルの視線は自身の左右の脇の下と骨盤の横に置かれている時の歯車と両脚の間に置かれているディアルガの秘宝に向けられた。

  それらの位置関係とヴィレムの話を理解したニコルは、時の歯車とディアルガの秘宝がニコルの子宮、いや胎児を囲んでいる事に気がついた。

  「…まさか」

  ニコルの顔は青ざめ、ヴィレムの顔を見上げる。ヴィレムは笑顔のままニコルを見つめ、はっきりとした口調で話した。

  「お前の胎内の子は、既に俺達の魂を受け継いでいる…後は出産すれば…魂の転生は完了だ」

  「…いや」

  ヴィレムの行動を理解したニコルの口から、微かな悲鳴が漏れる。しかし、ヴィレムはニコルの意志を無視し、ディアルガの秘宝に手を翳した。

  直後、ニコルの下腹部の周りに置かれた時の歯車が青く輝きだす。

  「…あっ」

  変化はすぐに訪れた。

  ニコルが下腹部の違和感を抱いた直後、内側から激しい圧迫感が生じた。その感覚により、ニコルは目を見開き、顔を仰け反らせる。

  「ぎゃっ…」

  ニコルの下腹部は少しずつ膨らみ出し、それに合わせて両脚に力が入る。ニコルの口は酸素を求め、陸に打ち上げられた魚のように口を開閉させる。

  ニコルの視界が明滅し、白黒に輝く。

  「…まだ終わらないぞ」

  ヴィレムは少しずつ膨らむニコルの下腹部を見つめ、口を開く。時の歯車は青く輝き続けて、4つの歯車に囲まれたニコルの下腹部を照らす。

  その光景を見た船医はヴィレムを止めずに、閉口したままである。

  ニコルは内臓が圧迫され、ミシミシと音を立てる感覚を覚えた。急成長する胎児に合わせて子宮が膨らみ、骨盤が内側から圧迫され、胃と腸が押し上げられ、空気が押し出される。ニコルの口から唾液が溢れ、口の端を伝う。

  圧迫は止まらない。

  子宮の急激な膨らみは膀胱も圧迫し、我慢できなかったニコルは失禁した。ニコルの股間から漏れ出した尿は太腿を伝い、シーツに染みを作る。

  「…ヴィレム様、そろそろです」

  ニコルが失禁した直後、船医が初めて声を発した。彼の声を聞いたヴィレムはディアルガの秘宝から手を離し、時の歯車の光が治った。ヴィレムは胎児の成長についていけずに息を切らしているニコルを見下ろした。

  ニコルの下腹部は先ほど以上に膨らんでおり、一目で臨月とわかる状態になっている。ニコルの乳房も大きくなり、乳輪から母乳が溢れている。骨盤の周りは脂肪が増えており、いつでも出産できる状態にさせられている。

  ニコルの姿を見たヴィレムは口角を歪めた。

  ヴィレムの目的は己自身の中にある魂の転生であり、魂を受け継ぐ器となる胎児をニコルが孕み、ある程度の成長を果たしてから、ニコルが堕胎できないように臨月まで時間を進めた。

  ニコルの乳房は大きく膨らみ、母乳を蓄えている。乳輪から母乳が溢れ出し、寝台のシーツを濡らしている。ニコルの骨盤周りには脂肪が増えており、大きく膨らんだ腹が胎児の存在をアピールしている。

  息が切れ、動けないニコルの傍に船医が歩み寄り、聴診器を使い、ニコルの腹の音を聞く。ニコルは抵抗しようとするが、体力を使い果たしており、なす術がない。

  やがて、医師は聴診器から耳を離し、ヴィレムに報告する。

  「計画通りです…おそらくキールリンク到着前後には産気づくと思いますよ」

  船医の報告を聞いたヴィレムはにやりと笑い、ニコルを見下ろした。息が切れたニコルは頭を持ち上げ、自身の腹を見た。

  大きく膨らんだ腹がニコルの視界に映り、それを見たニコルは乾いた笑みをこぼす。

  「…ふふ」

  度重なる陵辱と暴力、そして妊娠の強制、それらはニコルの心を壊していく。ヴィレムはニコルの手脚を拘束するロープを外し、乾いた笑いをこぼしたニコルは起きあがろうとした。

  だが、慣れない腹の大きさと重さにより、ニコルはバランスを崩した。ニコルはそのまま寝台の上で横座りになり、乾いた笑いをこぼし続けた。

  「あはは」

  虚な瞳のニコルは、大きく膨らむ自身の腹を見下ろし、重たくなった乳房を触る。乳房を握る事で乳輪から母乳が流れ、下腹部を濡らす。それを見たニコルは笑い声をあげ、指を自身の膣へと挿入する。

  「あははは」

  ニコルは笑いながら膣を解している。まるで赤子を産む準備をするかのように。

  ニコルの指は自身を慰め、乳房から母乳を垂れ流し続けている。

  その光景を見たヴィレムは狂気の笑みを浮かべ、「出て行け」と船医に銘ずる。船医はヴィレムの指示に素直に従い、船室を後にする。

  二人きりになったヴィレムは寝台に上がり、自身を慰めるニコルの乳房を口に含み、溢れ出す母乳を吸い始める。ニコルは笑い続け、母乳を吸うヴィレムを突き飛ばした。

  ヴィレムの身体は寝台の上で仰向けになり、ニコルの突然の行動に驚いたヴィレムは笑い続ける彼女の顔を見上げる。ニコルは仰向けになったヴィレムの性器を手に取り、それに跨り、膣へと挿入する。

  「あ、あぁ…」

  恐怖と圧迫により失禁したニコルの膣はヴィレムの性器をスムーズに咥え、ニコルは重たい腹を抱えたまま、腰を動かし始める。ニコルの体重に胎児の重さが加わり、ヴィレムの性器がより深くまで挿し込まれる。

  室内にニコルの嬌声と笑い声が響く。

  突然、交尾を始めたニコルを見つめ、ヴィレムは薄笑いを浮かべる。

  「…全てを忘れ、否定したいのか?」

  ヴィレムに尋ねられたニコルは笑いながら頷く。それを見たヴィレムはニコルを孕ませた張本人でありながら、彼女の要望に応えるべく、腰を振り始めた。ヴィレムの腰を振る勢いは強く、ニコルの大きな腹と乳房が激しく揺れる。辺りに母乳と尿、性液を撒き散らしながら、ニコルは笑う。

  船室内にニコルの笑い声が響いている。