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光が闇に堕ちるのなら闇もまた光に堕ちる。
光と闇は表裏一体、その二つを兼ね備える者こそが全てを守れる新たなる剣であり新たなる盾となる力である。
弱者は強者に次の世代へと未来を託されるのだ。
(引用:神狐の父親)
ここは神狐が住まいとし仕事場でもある狐巫女神社、いづな稲荷神社。または一年中ずっと桜が咲いていることから桜花稲荷神社とも呼ばれている。
安産祈願や商売繁盛、色んなご利益があるからか多くの人間(ニンゲン)や獣人(ヒト)の参拝客で賑わい、神狐目的でやってくる参拝者もいるため後が絶たない。
そんな毎日が続く中、巫女を務めている神狐は1人で縁側で涼んでいた。
「神狐様〜」
小さな子供のような声と共にとてとてと二本足でおぼつかない足取りでやってくる子狐、呼び声に神狐は顔を向ける。
「おや、どうした?」
雌雄問わず魅了してしまうその魅惑な身体付きに谷間に紋章として刻まれている陰陽がキラッと光沢を出す。
「神社の庭にこんなものが落ちていました!」
子狐が取り出したのは薄汚れたブローチ、それを優しく手に取った神狐は裾で軽く汚れを拭き取る。
「ほう……」
ビンテージスタイルのブローチを手に神狐は蓋を開けると中には写真があり、その写真には貴族のような見た目の格好をした2人が写っていた。
1人目は椅子に座った母親らしき人物とその隣には整った顔立ちで白い鱗肌の半ズボンに半袖のワイシャツにネクタイを付けた銀髪で金眼の子供獣人が立った状態で一緒に写った写真だった。
「神狐様はご存知ですか?」
「いや、知らんな」
子狐の質問に神狐は即答する。
「そうですか……あ、僕遊んできますね〜」
「ん、気をつけてな」
子狐を見送ったあと、神狐は写真を見つつそれをしまい込み立ち上がる。
「さて……参道の方は…と」
参拝者が一通り居なくなったのを確認しては、竹箒を片手に参道に出てきては掃除を始める。
「今日も今日とて凄い数じゃったな」
やれやれと呆れつつ神狐は掃き掃除をしていると、ふと背後に何かを感じた。
「?」
振り返るとそこには、こぶし大サイズの宝玉が宙に浮いていた。
「これは……」
その見た目は真っ黒で深淵の闇とも呼べそうなぐらいに黒ずんでいた。
なんの疑念も抱くこともなく神狐は触れるとその宝玉は勢いよく闇を放ち神社一帯をつつみこむ。
「ッ!?」
周りが真っ暗な闇に包まれる中、神狐は周りを見回す。
「な、何が起きたのじゃ」
妖術で狐火を出しては明るさと視野を確保しつつ、その場を進んでいった。
――――――――――――――――――――――――
「あの宝玉に触れたのは流石にまずかったかのぉ」
大きくため息を付きながら、歩いているとその場でしゃがんで膝を抱えている子供獣人がいた。
「子供……?何故こんなところに」
そっと近づいてはしゃがみこみ声をかける
「大丈夫かの?」
優しく子供獣人の頭を撫でるとそれに気づいた子供はゆっくりと顔を上げ、神狐の方を向くと神狐は思わず驚く。
「お主は────」
その正体はあのブローチの写真に写っていた子供だ。
「貴女は……誰?」
「妾は神狐──いや、イヅナじゃ」
「僕はシュオワン」
神狐を見つめるシュオワンに再び優しく撫で始める。
「よろしくのぉ、シュオワン」
静かに頷くシュオワンに神狐はゆっくりと立ち上がる。
「ここに居ても何も無いじゃろうし一緒に行かぬか?」
「行くって言ってもどこに?」
優しくシュオワンの手を取るとシュオワンは神狐を見つめて言った。
「さぁのぉ、じゃが進まんよりかはマシじゃ」
そういうと優しくシュオワンの手を握りながら歩き始める神狐。
「イヅナさんはどうしてここに?」
「別に呼び捨てで良い、それがのぉ」
状況を説明すると、よく分かっていないシュオワン。
頭の上には?が浮かび上がっていた。
「うーん…よく分からないけど、その宝玉ってのに触れて気づいたらここに居たの?」
「うむ、それで歩いていたらお主を見つけたのじゃ」
全く出口が見えてこず暗闇の光景が広がる中、神狐はシュオワンに尋ねる。
「お主腹は空いておるか?」
「ちょっとだけ」
そういうシュオワンに神狐は立ち止まると、腰に着けてい巾着袋の中を探ると中から経木に包まれたおむすびを取り出した。
「これは…?」
見たことの無い食べ物にシュオワンは首を傾げる。
「これはおむすびという食べ物じゃよ」
経木を取り、おむすびを見せるとシュオワンは手に取り、その場に座って食べようとすると神狐が止める。
「そこに座らんでもここに座ればよかろう」
神狐は胡坐をかきポンポンと手で自分の膝を叩く。
「え、でも────」
「良いから来い」
催促するとシュオワンは渋々、神狐の足の上に乗る。
「ふふふ、こう見るとお主可愛いのぉ」
クスクスと静かに笑う神狐、シュオワンはやや恥ずかしそうに赤面しながら経木を捲り中に入っている真っ白なおむすびを食べ始める。
「どうじゃ?妾の握り飯は」
「……美味しい!でもなんだか懐かしいような味がする…?」
一口齧ったシュオワン、おむすびを口にした瞬間その表情は悦びに満ちた満面の笑顔だった。
「おむすびというのはな、むすぶという言葉に因んで つなぐ、強い関係を作るという意味が込められておるのじゃよ。まぁその懐かしい味というのは母の味かもしれんなぁ」
と説明する神狐。
「イヅナってなんだか母親みたいだね」
その言葉に首を傾げる神狐。
「?妾がお主の母親ということか?」
首を横に振るシュオワン。
「うぅん、そうじゃなくてみんなの母親みたいな感じがするんだ」
「なるほどのぉ〜、まぁよくみんなに母上みたいだ〜って言われるのぉ」
そんなたわいの無い会話をするとついシュオワンと目が合った神狐は思わず笑ってしまい、シュオワンもつい笑を零し笑ってしまう。
「ははは」
「あはははは」
おむすびを食べ終えたシュオワンは神狐の膝から降りると頭を深々と下げる。
「ありがとう、ご馳走様でした」
「気に入って貰えてよかったのじゃ」
経木を巾着袋にしまい込むと、シュオワンの手を再び取り歩き始める。
「またイヅナのおむすび食べたいな」
「帰ったらまた作ってやるさ」
「約束だよ?」
「勿論じゃよ、それと……これはお守りじゃ」
そういうシュオワンに神狐は腰に着けていた小さな鈴を手に取ると、赤色と緑色の紐を鈴に括り付けるとそれをシュオワンの首に掛ける。鈴を鳴らすとチリンチリン…と心地よい音が鳴る。
「いい音がする、ありがとう」
笑顔を見せるシュオワンに神狐はその笑顔に尻尾を揺らす。
「さて、そろそろいい加減に着いても良い頃なんじゃが────」
「そこに居るのは誰かな?」
背後から野太い声が聞こえてきた。
「誰だ!?」
シュオワンを自分の後ろに隠れさせると同時に振り向く。
「お前は────」
その声の正体は、今後ろにいるシュオワンが成人した大人のシュオワンだ──顔の出で立ち、白い鱗肌、両腕から首筋にかけた刺青、銀髪、そして金眼。なによりもすぐに分かったのが大人のシュオワンから漂う気が幼いシュオワンとそっくりだからだ
「シュオ、ワン…?なのか?」
「どうして僕の名前を知っているのかな、それにここは僕しか居られない筈だけど?」
大人シュオワンの体は黒い霧を放ちながら細目で神狐を見つめる。すると腰につけている巾着袋に入った宝玉が怪しく光るとそれを見た大人シュオワンの表情が険しい表情へと変わった。
「その宝玉……一体どこで手に入れた?」
神狐は巾着袋に入っている宝玉の方に目を移すと確かに光っている。だがまず神狐が思ったことは、何故シュオワンが2人いるのか……ということである。
(どういうことじゃ…?シュオワンが2人…!?いや、どう見てもこのシュオワンは今一緒にいる子供のシュオワンとは何かが違う!まるで…何かを憎んでいるかのような…?だとしたらこっちの大人のシュオワンは────)
神狐の後ろに隠れていた幼き子供シュオワンはそっと神狐の影から覗き込む。
「アレは……僕?」
「ッ!?馬鹿!出るなッ!」
そのまま神狐の隣に出てきては、大人シュオワンを見た子供シュオワンは思わずその姿に茫然としていた。
「キミは……そうか──あの頃の僕か」
大人のシュオワンは幼きシュオワンを見て冷酷な目つきで言葉を放つ。
「今でも見ててムカつくね、弱くて情けない、そのクセ温情がある。いい子ぶってて反吐が出るよ」
「いきなりなにを!?貴様、自分の事だぞ!何をいって……」
大人のシュオワンに対して神狐は怒ろうとすると幼き子供シュオワンは質問を投げつける。
「ねぇ、どうしてそんな風になっちゃったの?どうして──」
その言葉が逆鱗に触れたのか凄まじい形相で子供シュオワンを睨みつける大人シュオワン。
「闭嘴,你这个胆小鬼(黙れ、臆病者が)」
大量の黒い霧を放ちながら殺気立った目つきで子供シュオワンを睨み続ける。
「イヅナッ……怖い…!」
大人シュオワンの睨みに思わず怯えた子供シュオワンは神狐の袴を掴みながら再び隠れてから覗き込んでいる。どうみても明らかに完全に怯えており震えていた。
「大丈夫じゃシュオワン、下がっておれここは妾に任せろ」
神狐はそういって子供シュオワンを後ろに隠しつつ策を練っていた。
(このままでは間違いなく2人とも殺られる…!
せめてこの子だけでも────)
「ッ…一か八かじゃがこれを使ってみるか」
神狐は懐から札を取り出してはそれを子供シュオワンの足元に投げつけると五芒星が浮かび上がり子供シュオワンの周りに結界が張られる。
「…何の真似だ?」
大人シュオワンの鋭い目つきは神狐へと移される。
「悪いが、この子だけでもここから逃げさせるのじゃ」
「なら、そういう訳にはいかないな。その出来損ないはここに置いていってもらう!」
そういって大人シュオワンが勢いよく飛び込んでくると同時に拳が子供シュオワン目掛けて殴ろうとする。
「やらせるかッ!!」
その拳を何とかギリギリで片手で受け止める神狐。
(こやつの拳…!かなり重い!精々受け止めるだけで精一杯じゃ…!)
「イヅナッ!」
結界越しに叫ぶ子供シュオワン。
「シュオワン、大丈夫じゃ妾がお前を守る!その結界はお主を転送させる結界じゃ!何処に行くかは分からぬ!じゃが、何があっても妾がお前を守る!絶対にじゃ!だから…安心せい!」
「イヅナ────」
大人シュオワンの重い拳を片手で何とか防ぎながら子供シュオワンに対してそう言葉を投げた後、結界の中にいる子供シュオワンはそのまま光に包み込まれ消えていった。
「……行ったか、無事でいてくれシュオワン────ぐッ!?」
その瞬間神狐の首が締めあげられる、大人シュオワンの片手が首を掴んでおり神狐は苦悶の表情を浮かべながらも余裕そうに大人シュオワンを見る。
「ふふふ…これで2人っきりじゃなぁ……」
「貴様…よくもふざけたマネを…!!」
殺意に満ちた目つきでこちらを見るシュオワンに神狐は更に煽る。
「なにがお主をそんなふうに変えたかは知らぬが、あの子には指一本触れさせはせん…!!」
掴んでいるシュオワンの手を掴んでは力を振り絞り、少しずつ力で押していきながら離していく。
(この女狐…!一体何処にこんな力が──)
「ふんっ!!」
「うっ」
油断したシュオワンに勢いよく頭突きをかましてはシュオワンの手から完全に開放された神狐は咳き込む。
「ゲホッゲホッ」
「……本当に君は僕を怒らせるのが得意なようだね、その抵抗力といい反抗する気満々の顔…そそられるなぁ」
神狐の睨みつける形相にシュオワンは不気味な笑みを浮かべる。
「ふん、とんだ変態じゃな貴様」
神狐も笑みを浮かべながら異様な空気を放ちその空間だけが歪んでいるようにも見え、神狐は一手先に踏み込むと渾身の一発の蹴りを顎に命中させる。
(入った……!!)
…が、効いていないのか大人シュオワンは視線を神狐に戻し、蹴った衝撃でズレた眼鏡を戻す。蹴られた際に唇を切ったからなのか唇から血が出るが、余裕の表情で舌で唇を舐める。
「いい蹴りだね」
不敵な笑みは更に狂気じみた笑みへと変化を遂げる。
「馬鹿な…!?確実に入ったはず────」
そしてその一瞬を突かれた神狐は大人シュオワンに首を掴まれそのまま勢いよく地面に叩きつけられる。
「ぐぁっ!!」
「だが無駄だ」
なんとか首を掴んでいる手を振りほどこうとするが、先程よりも締め付ける力と押さえつける力が増しているのが分かるのか離れることが出来ない。
「ほう、この身体は正しく雄を悦ばせる為にあるようなものだね」
大人シュオワンは片手で神狐を押さえ付けながら神狐の身体を観察し始め、いやらしい手つきで触り始める。
「グッ…離せ……!」
必死に抵抗する神狐に大人シュオワンは顔を近づけて薄ら笑みを浮かべながら神狐を見つめる。
「さて…どうしてくれようか」
「クッ………!!」
(ダメだ…もう、意識が────)
意識を失うその時だった。神狐が身につけている巾着袋の中にある宝玉が黒い光りを放つとその光に驚いたシュオワンは慌てて神狐から離れる。
「チィッ……!」
「はぁ…はぁ…な、なんじゃ?うわっ────」
その黒い光は神狐を包み込み一瞬にして消えた。
「チッ…逃したか……だがあの宝玉を持っているのなら話は早い、あの女狐を見つけ出してあの宝玉を手にすれば…僕は更に強くなれる……!」
そういうとシュオワンは自分のポケットから取り出したのは神狐と同じ宝玉、それを使うと宝玉から放たれる光にシュオワンも包まれその場から消えた。
――――――――――――――――――――――
暗い、暗い、闇の中……どうしてこんなにも暗いのだろう。
いつからだろう……こんなにも静かな闇の中に落ちていくのは…
子供の時、ふと何も無い空間へと落ちていく感じが凄く自分は嫌いだった。何も無い空間のなかで感じるはずのない落ちていく感覚、そして孤独を感じた。
誰も助けてくれない、誰も来てくれない、誰も守ってくれない。それならいっその事このまま闇に堕ちても────
「神狐様!!」
子狐の声が聞こえた。神狐は意識を取り戻し目を覚ますとそこはいつもの神社だった。身を起こすと参道は何故か桜の花びらがあちこちに飛び散っておりその中で横たわっていたということが分かると神狐は頭を抱える。
「大丈夫ですか?僕が見に行ったら倒れてたので」
「あぁ、大丈夫じゃ…すまんな」
子狐の頭を優しく撫でては頬笑みを浮かべ、立ち上がると袴に着いたホコリや砂などを振り払った。
「手間をかけたな、これは駄賃じゃ」
懐から小銭の入った小袋を子狐の手のひらに乗せると子狐嬉しそうにしながら神狐に感謝を述べる。
「わぁ〜!ありがとう神狐様!」
そういうと子狐は、尻尾を揺らしながら神狐の元を去っていった。
……あれは夢じゃったのか?
そう静かに心の中で呟く神狐、すると足元で何かが転がる。
「これは────」
それはあの時の宝玉だった。だが今は黒くは無くなっておらず真っ白な綺麗な色をしていた。
「……やはり夢ではなさそうじゃな」
『ちょっといいかな』
背後から声が聞こえた。この声には聞き覚えがある──冷酷で過去の自分に対して酷評した男の声────
「お主は──」
その声の主は、大人のシュオワンだった。
「?顔になにか付いてるかな?」
「あ、いや…なんでもないのじゃ」
すぐさま視線を逸らす神狐、シュオワンは首を傾げつつ神狐に質問をかける。
「この神社、見たことがなくてね。キミはここの巫女かな?」
「あぁ、ここの責任者でもあり狐巫女を務めている。妾の名は神狐じゃ」
「へぇ、まるで神の使いみたいな名前だね」
手を口元に持ってきては静かに不敵に笑うシュオワン。
「よく言われる、お主の名は?」
「僕はシュオワンだ。この近くの大学で心理教授をしているよ」
(シュオワン…何故お主はあんな風に堕ちてしまったのだ?理解が出来ぬ、あんなに可愛くて大人しくて物静かそうなお主がどうしてここまで────)
シュオワンの事をじっと見続ける神狐。
「僕のこと見つめてるけど、気になるのかい?」
ズイッと顔を近づけるシュオワン、思わず神狐は驚いてしまうながらも首を横に振る。
「いや、なんでもないぞ?ただちょっと考え事をしておっただけじゃ。お主は何故ここに?」
神狐は首を傾げながらシュオワンにそう尋ねる。
「まぁ、散歩がてらに歩いていたらたまたま見慣れない神社を見つけてね」
「そうか…ならゆっくりしていくと良い」
「そうさせてもらうとするよ、また暇があったら遊びに来させてもらうよ」
そう答えると神狐はシュオワンに背を向け、掃除を始める。それを見たシュオワンも神狐に背を向けて神社を後にした。
その瞬間二人の間に静かに桜の花びらが舞い上がる、まるで二人の出会いをこの先祝うかのように………
だが、二人は知る由もない。この先に待ち受けている運命が二人を、互いを蝕む程にまで関わることなど────
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