柴後輩とクロ兄ちゃん【新入生】

  ────────4月。

  風が運んだ春とともに、新たな自分をスタートさせる季節。

  黒井 [[rb:琉貴 > るき]]。どこにでも居る普通の紺色猫だ。

  俺も大学3年生になった。

  自分のこと、自分の進路、ちゃんと見つめて決めていかなくてはならない。

  IT方面に強くなっておけば選択肢も広がるだろうと工業大学を選んだけど、それだけだ。

  決めるべきことは多い。

  しかし、今は目の前のことに集中しよう。

  ・・・・・・例えるなら桜の花びらだろうか。

  風に吹かれて、同じ方向に流れるが、1枚1枚は不規則に飛び交う。数はあれど、掴むことは難しい。

  それでも、誰にも触れられていない無垢なそれを掴まずには居られない。

  ─────ここにいる誰もがそうなのだ。

  大学の別館の一室。限られた時間、限られたスペースで、この大学の全クラブ、全サークルがそれを奪い合う。

  「へぇーソフト部! オレ野球部だったんだよねー。ポジションは?」

  [[rb:金田 > かねだ]] [[rb:豹一 > ひょういち]]。Circle斥候部隊所属の豹。階級:3年生。

  その飄々とした態度で、敵地の偵察から遊撃までこなす切り込み隊長。

  通年彼女募集中。

  「ありがとうございますぅ! うさぎさんのお耳もとってもカワイイですね! お名前なんて言うんですか?」

  [[rb:辻 > つじ]] メアリ。Circle砲撃部隊所属の羊。階級:3年生。

  本作戦の紅一点。女子の少ない工業大学において、そのモコモコの羊毛と雰囲気で視覚的遠距離攻撃を担当する。

  下の名前で呼ばれるの恥ずかしい仲間だ。

  「宣材になりそうな写真が撮れたら早めに送ってください。投稿頻度と情報量はある程度欲しいですから」

  [[rb:河宇 > かわう]] [[rb:奏磨 > そうま]]。Circle航空部隊所属のカワウソ。階級:2年生。

  テーブルでパソコンを広げ、SNSなどを活用した空中戦を担当する。

  去年は俺が教育担当した真面目系眼鏡男子。

  ───そして俺、黒井 [[rb:琉貴 > るき]]。

  この[[rb:クラブ・サークル勧誘イベント > 新入生獲得戦争]]における─────

  「あーあ、行っちゃったよ。女の子ゲットのチャンスだったんだけどなぁ」

  「こっちも行っちゃいましたぁ・・・」

  Circle軍の指揮官である。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  まぁ指揮官とかは半分冗談だ。皆も自分の役割はある程度理解して立ち回っている。

  それに、この編成を組んだのはミケ先輩だ。

  “今年の争奪戦メンバーはもうこっちで決めてるから、早速発表しまーす! まず[[rb:金田 > かねだ]] [[rb:豹一 > ひょういち]]!”

  “オレェ!?”

  “あんたは斥候よ。チャラいんだから敵陣でもお構い無しで手当り次第絡みに行きなさい”

  “いや、俺結構真面目で誠実な・・・”

  “次! 辻 メアリ!”

  “はぁーい!”

  “ツジちゃんは客寄せパンダよ。工大で女子が居ればとりあえず雄は寄ってくるわ”

  “私羊ですよぉ!”

  “次! [[rb:河宇 > かわう]] [[rb:奏磨 > そうま]]!”

  “ボクですか”

  “[[rb:奏磨 > そうま]]くんは空中戦担当よ。争奪戦は2日間あるから、SNSでの発信、DMやリプがあれば対応してちょうだい。面と向かってだと億劫になる子もいるからね”

  “そんな人がウチでやっていけるのか疑問ですが、了解です”

  “という訳で、今年はこのメンバーで新人獲得よろしくね、クロくん”

  “はい! ・・・・はい!? 俺も!?”

  “クロくん入れとけば、とりあえず何とかなるイメージあるのよね。日本のカレールゥみたいな!”

  “オレらは人参、玉ねぎ、じゃがいもか”

  “人参好きですぅ!”

  “ボクは何ですか・・・?”

  “玉ねぎじゃね? 下手に絡むと目に染みそうな感じ”

  “・・・ッ! じゃあ[[rb:豹一 > ひょういち]]先輩はじゃがいもですね。泥臭い感じが元野球部っぽいです。毛皮も泥ついたじゃがいもみたいですし”

  “はぁ!? それ言い過ぎだろ!?”

  “そっちが先に言ったんじゃないですか!”

  “喧嘩はダメですよぉ!”

  “頼んだわよ☆カレールゥ”

  “・・・・・・・・・”

  断言する。ミケ先輩は絶対料理下手だ。断言する。ぜーーったい下手だ。

  「おい[[rb:奏磨 > そうま]]。そっちはなんか進捗ないのかよ」

  「初日で成果があるわけないじゃないですか。2日目に反応あればラッキーくらいのもんですよ」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]が[[rb:奏磨 > そうま]]に尋ねるが、進捗は無いらしい。

  まあ、SNSはあくまでもサブ。[[rb:奏磨 > そうま]]の言う通り成果を期待するようなものではない。

  「素通りの人も多いですねぇ・・・」

  「多いっつーかほとんどだろ。みんな[[rb:端 > はな]]から入りたいとこ決めて来てんだって」

  これは[[rb:豹一 > ひょういち]]の言う通りだ。新入生には最初のオリエンテーションでクラブ・サークルの一覧が配られている。みんなある程度目星を付けてきているだろう。

  そして何より・・・。

  「大体オレらのサークルって何サークルなのか分かり辛過ぎるんだって!」

  そうなんだよなぁ・・・。

  地域貢献を目的としたサークルではあるのだが、地域貢献と一口に言ってもやってることは多種多様だし、言われた側も話を聞かない限り何をしているかイメージし辛いだろう。

  たまに大学の雑務なども手伝ったりしているため、一部の職員からは何でも屋と呼ばれている。

  一応、ブースで活動写真は見れるのだが“・・・で?”って感じた。

  [[rb:優 > ゆう]]の所属するエンタメディア研究会なんかは対象的だ。

  タメ研は名前こそ分かり辛いが、アニメや漫画好きの集まりだと言ってしまえば簡単だ。

  ブースにもイラストや漫画などの創作物が展示してあり人目を引く。

  ちなみに[[rb:優 > ゆう]]は勧誘担当では無いのでこの場にはいない。

  「どーするクロっち。2日あるけど初日収穫ゼロだとミケ先輩にドヤされるぞ」

  「う〜ん・・・」

  「・・・ところで、皆さんはどうしてCircleに入ったんですか?」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]の言葉に頭を抱えていたところで、[[rb:奏磨 > そうま]]が口を開いた。

  「オレは適当にフラついてたらミケ先輩に捕まった感じだな」

  「[[rb:豹一 > ひょういち]]先輩っぽいですね」

  「どういう意味だよ!」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]みたいに決めてない人へのゴリ押しも手ではあるよな。しかし、今この場にはミケ先輩レベルのパワー系は居ない。

  「私は子供やおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に居るのが好きで、お話聞いて選びました!」

  ツジさんのパターンが1番オーソドックスっていうか、勧誘のあるべき姿だよな。

  ただウチの場合はその母数が圧倒的に少ないだろうというのがネックだ。

  「黒井先輩は?」

  「俺? 1番何やってるか分かんなかったから」

  「・・・」

  「いや! ちゃんと話は聞いて決めたんだぞ! ただ興味持ったキッカケみたいな。訳わかんないものの方がワクワクするだろ?」

  [[rb:奏磨 > そうま]]が変な人を見るような目で俺を見てきたので慌てて言葉を続けたが、依然としてその目は変わらない。

  「クロっち・・・普通は逆なんだよ。普通はな・・・」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]が俺の肩にポンッと手を置く。

  以前にも諭されたことがあるのだが、俺の感覚は一般的なものと若干ズレているらしい。

  普通は学校の授業でも知ってる内容繰り返されると退屈するはずだ。だから目的がない限り分からないものの方が興味を持つと思うのだが・・・やっぱり違うのだろうか。

  「[[rb:奏磨 > そうま]]はなんつってたっけ。確か地域に貢献してどうのこうのだったっけか?」

  「ボクは・・・」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]の言葉に[[rb:奏磨 > そうま]]は少し俯いて黙ってしまった。

  何か他の理由でもあるんだろうか。

  「ルーキせーんぱいっ!」

  「ぬわっ!」

  突然背後からガバッと抱きしめられ、咄嗟に首を向けると、肩口に見覚えのある猿の顔があった。

  「ユズ!!」

  「えへへー」

  ユズの突然の登場に、他の3人はこちらを見て固まってしまっている。

  最初に口を開いたのは[[rb:豹一 > ひょういち]]だった。

  「えっとー・・・どちらさん? クロっちの知り合い?」

  「あー、こいつは・・・」

  「知り合いっていうかぁ、バレンタインの手作りチョコレートを受け取ってもらった関係っていうかぁ」

  「・・・は?」

  「ちょっ! おまっ!」

  俺は咄嗟にユズにヘッドロックをかました。が、依然としてこの猿は歯を見せてニシシと笑っている。

  「あー! バレンタインイベントの時の!」

  ツジさんが思い出して声を上げる。

  同じグループだったからツジさんは覚えていたようだ。

  [[rb:猿野 > さるの]] [[rb:禅孫 > ゆずひこ]]。Circle企画のバレンタインイベントで出会い、チョコを使って俺を罠にはめた猿。大学が同じになるということで、キャインでたまに連絡は取っていたのだが・・・。

  「・・・そういう関係?」

  「あ、分かっちゃいます?」

  「ちっがーーう!!」

  キャラ違い過ぎるだろ!? なんなんだコイツ!?

  出会った時は冷めた雰囲気の生意気キャラだったはずのユズが、馴れ馴れしい後輩キャラにジョブチェンジしている。

  なぜだ。何があった。何が目的だ。

  「ルキせんぱ〜い、もっと優しくしてくださいよぉ。おれぇルキ先輩に会うために大学まで来たんすよぉ?」

  「クロっちマジかよ!?」

  「んなわけないだろ!! 会う前から進学決まってたよコイツは! あとユズ、下の名前で呼ぶな!」

  「えー」

  「えー」じゃない。まったく。あと俺の尻尾に尻尾を絡めてくるな。そして、その絶妙にいやらしい手つきで身体を撫でるな。ホモかお前は。

  ・・・別に嫌じゃないけど。

  「あ、ってことはさ、お前もしかしてオレらのサークル・・・地域貢献とか興味あったり?」

  「あ、無いです。全く。1ミリも」

  それを聞いて[[rb:豹一 > ひょういち]]はガックリと項垂れる。

  「じゃあユズ、お前何しに来たんだよ」

  「だからぁ、ルキ先輩に会いに来たって言ったじゃないですかぁ」

  ユズはまるではぐらかすような猫なで声で答える。

  いよいよユズの目的が本格的に分からなくなってきた。

  ユズも立ち去る気配は無く、まだ俺にしがみついている。

  「何やってるの?」

  「[[rb:優 > ゆう]]!」

  ユズをどうしたものかと困っていると、この場に居ないはずの[[rb:優 > ゆう]]が現れ、声をかけてきた。

  「あ、カレシさんちーっす」

  「ん? カレシ?」

  「ばっ!! [[rb:優 > ゆう]]、気にすんな、なんでもないから! あとユズ、お前はちょっとだまれ!!」

  「きゃー」

  俺は再びユズにヘッドロックをかます。

  バレンタインイベントでハメられて、俺は[[rb:優 > ゆう]]とのツーショットをユズに送っている。

  バレると送った経緯まで話さなければならない。恥ずかしいので出来ればそれは避けたい。

  「[[rb:優 > ゆう]]は勧誘担当じゃないだろ? 何しに来たんだ?」

  「ちょっと様子見に来ただけ。その猿くんはサークルの新しい子?」

  「そッスよ。ユズでーす。よろしくお願いしまーす」

  「ん」

  ユズは新しいサークルメンバーの[[rb:体 > てい]]で勝手に自己紹介している。

  「お前入らないって言っだろ・・・」

  「え? 興味無いとは言ったけど、入らないとは言ってないし?」

  ─────は?

  「お、じゃあお前入ってくれんの?」

  「わー! 仲間が増えましたぁ!」

  「げ・・・まさかボクが教育担当ですか?」

  「ん? 教育担当?」

  ユズが頭に疑問符を浮かべてこちらを見てきたので、俺は説明した。

  「新規には1人につき1人ずつ2年生が教育担当として付くんだよ。そこの[[rb:奏磨 > そうま]]を含めて2年生は2人だから、どっちかがお前の教育担当だな」

  「ルキ先輩は?」

  「俺は3年生だからやるとしてもフォローぐらいだな。まあ、新規が多ければ3年生も付くことになるかも知れないけど」

  「ふーん・・・・・・つまり後2人か」

  「ん?」

  ユズは何か呟いたが、俺が尋ねる間も無くサッと離れ、ブースの活動写真をスマホで撮り始めた。

  「お、おい、何やってんだ?」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]の言葉も無視して、ユズは淡々と写真を撮り続ける。

  一通り撮り終わった後でサッと向きを変え、「一応入るってことでよろしく」と一言残し、講義室を出ていってしまった。

  俺もサークルメンバーも何を言うことも無く、ポカンと口を開けてユズを見送っていた。

  「で、カレシって?」

  「アイツの戯言だよ。気にすんな」

  [[rb:優 > ゆう]]の質問を適当にいなすと、[[rb:優 > ゆう]]もユズと同じ方向に向きを変えた。

  「あれ? 様子見に来たんじゃないのか?」

  「そうだよ」

  「タメ研のブースあっちだぞ?」

  「クロの様子見に来ただけ。そっちは興味無い」

  「興味無いってお前・・・」

  [[rb:優 > ゆう]]も「じゃ」と言って講義室を出ていってしまった。

  [[rb:優 > ゆう]]っぽいと言えばそれまでなのだが、自分のサークルに声くらいかけて行けよ思う。

  [[rb:優 > ゆう]]っぽいけど・・・。

  「なんか嵐みたいな新入生だったな。アイツ」

  「嵐というか荒らしにあった気分ですよ。勝手に写真パシャパシャ撮って」

  「でもクロくんのおかげで新入生1人ゲットです!」

  微妙な顔の[[rb:豹一 > ひょういち]]と[[rb:奏磨 > そうま]]をよそに、ツジさんは嬉しそうだ。

  新規が増えるに越したことはないのだが、本当に何しに来たんだユズのやつ。

  「ところで気になってたんだけどさクロっち」

  「うん?」

  「その手の絆創膏どうしたん?」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]が俺の手を見て尋ねる。

  俺の両手人差し指にはそれぞれ絆創膏が1枚貼られている。

  「ああ、家で作業しててちょっとな」

  「ほーん、制作課題かなんか? まあ気ぃつけろよ」

  「おう、ありがとな」

  俺たちは再びブースで勧誘活動を再開した。

  Circle軍、初日の戦果、1人(?)。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  ついに主要キャラが揃いました。

  これまで穏やかなクロ[[rb:兄 > にぃ]]ひとり占め状態だった[[rb:玄來 > げんき]]・・・。

  これからどうなるのでしょうか。(ゲス顔)

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  お暇な時に見て、物語の進行と共に楽しんで頂けると幸いです。

  いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ