「クロ[[rb:兄 > にぃ]]! 待たせてごめんね! すぐご飯作るから!」
クリスマスイブの夜。今日は約束していたクロ[[rb:兄 > にぃ]]の家にお泊まりの日。
オレは念願叶ったような気分で、帰り道から尻尾振りっぱなしだった。
「今日はいつもよりだいぶ早いな。仕事お疲れ、[[rb:玄來 > げんき]]」
「今日は店長が早めに店閉めるって言ってさ。あ、お土産もあるんだよ」
オレはソファに座っていたクロ[[rb:兄 > にぃ]]の所へ行き、店長からもらったタッパーを2つソファの前のテーブルに置いた。
「店長がクリスマスだからって、チキン・・・というか手羽先と」
手羽先の竜田揚げがぎっしり詰まったタッパーを開けてクロ[[rb:兄 > にぃ]]に見せる。底の方にはキッチンペーパーも敷いてくれている。
「あとカニ!」
「カニ!?」
そして、もう1つのタッパーも開けてクロ[[rb:兄 > にぃ]]に見せた。
中にはおでんの出汁が少しと、カニの身が綺麗に盛られた手のひら半分サイズのカニの甲羅が2つ入っている。
「親ガニっていう卵持った雌のカニのおでんだよ。珍しいでしょ。今の時期しか食べれないから食っとけって」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はピンと立てた尻尾の先をピコピコ動かして、キラキラした目でカニを見ている。
「実は母さんの実家で親ガニの味噌汁を食べさせてもらったことがあってさ、それがめちゃくちゃ美味かったんだよ!」
こっち来て食えると思わなかったとクロ[[rb:兄 > にぃ]]はご機嫌みたいだ。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は昔から肉より魚介系の方が好きだから喜ぶと思ってたけど、予想よりずっと喜んでくれたみたいでオレも嬉しい。
「でも良かったのかな。これ、結構高いんじゃ・・・」
「手間がかかるから店で食べるとちょっと高いけど、親ガニは1杯500円もしないよ。たまにスーパーでも見かけるから、今度見かけたら味噌汁作ってみようか」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は返事の代わりのゴクリと生つばを飲んで固まっていた。
オレはその様子にちょっと笑いながら、タッパーを持ってキッチンへ向かった。
「あ、頼まれてた冷凍エビ、冷蔵庫で解凍してあるぞ」
「ありがと!」
オレは冷蔵庫を開けて市販の袋入りむきエビを取り出した。背わたも取ってあるやつで、すぐに調理ができる。
鍋に水を入れ強火にかける。
フライパンは手前に傾けて弱火にかけ、オリーブオイルと刻みニンニクを入れる。オイルに香りを移している間に、手早くエビの下処理に取り掛かる。
毛が入らないように使い捨ての手袋付け、ボウルの中でエビに塩と片栗粉をつけて揉み、水でサッと流して汚れを落とす。
水気を拭いたエビに塩コショウして粘るまで揉み、しっかり溶きほぐした卵白を少量加えて更に揉む。片栗粉を加えてまた揉んで、仕上げに少しオリーブオイルをまとわせる。
ニンニクの香りがしてきたフライパンに薄くスライスした玉ねぎを入れて、色づくまで炒める。
沸いた鍋には塩とパスタ。
ソース用にトマト缶、バター、生クリーム、コンソメ、ケチャップ、隠し味の塩麹を準備する。
今日のメニューはエビのトマトクリームパスタだ。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
「美味すぎたぁ〜・・・」
「へへへ、お粗末さまでした」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は目を細め、耳を下げ、とろけそうな表情で明日死んでもいいかもしれんなんて言っている。
特にパスタは狙い通りクロ[[rb:兄 > にぃ]]の好みにバッチリはまっていた。
余った卵で作ったチーズ入りのとろふわスクランブルエッグをパスタに添えたのも効いたらしい。
本人に自覚があるかは分からないけど、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は洋食の方が好きっぽい。
「クリスマスだし、デザートも用意してあるよ。仕上げて持ってくるから、ちょっと待ってて」
オレは一旦自分の部屋へ帰った。
そして、冷蔵庫に入れて置いたエンゼル型を取り出し、買っておいたイチゴと桃缶を持ってクロ[[rb:兄 > にぃ]]の部屋へ戻った。
キッチンで大きめの皿を準備し、崩れないよう慎重に型の中身を皿に移す。
「・・・よし!」
型を外すと、皿の上には上部分がスライスしたイチゴで飾られた綺麗なババロアが現れた。
時間的にケーキは作れなかったけど、こうして見るとこれだけでもドーナツ型のケーキみたいに見える。
オレは桃缶を開け、中央の穴に桃をトッピングした。
仕上げにイチゴとグラニュー糖、レモン汁をレンジで温め、イチゴソースを作って上からかけた。
「お待たせクロ[[rb:兄 > にぃ]]」
「何それケーキじゃん!! いや、プリン!?」
「ババロアだよ。ちょっとケーキっぽいでしょ!」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はスマホで写真を撮り始める。
いつもオレの料理は撮ってるけど、今回は角度を変えて何度も撮っている。
「じゃあ切り分けるね」
オレはババロアを4分の1切り分けて、慎重にクロ[[rb:兄 > にぃ]]の皿に乗せた。
そして、クロ[[rb:兄 > にぃ]]がいただきますとひと口食べて、再び顔が溶ける。
「ふんにゃ〜・・・うまぁ〜い」
幸せそうなクロ[[rb:兄 > にぃ]]の表情を何度も見れて、オレも大満足の夕飯になった。
◆◆◇◇◆◆
「じゃあ、先にお風呂入るね」
「おう!」
浴室のドアはキッチンの後ろ側にある。
オレは洗い物をしてくれているクロ[[rb:兄 > にぃ]]の背中に声をかけて上着を脱いだ。浴室に毛皮用の乾燥機はあっても、一人暮らし用の部屋に脱衣所は基本無い。
「とっ・・・とりあえず、脱いだ服は横のカゴ入れとけ」
「うん」
自分の部屋に戻ってシャワーだけ浴びて戻れば良いと思っていたけど、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が冷えるから湯船につかれとお風呂を用意してくれていた。
こんな風に気にかけてもらえるのは、やっぱり嬉しい。
もう一度、クロ[[rb:兄 > にぃ]]を見ると、耳をピンと立てて、同じ皿を何度も入念に洗っている。
「・・・」
洗い物をするクロ[[rb:兄 > にぃ]]の背中を見ていると、何だか無性に抱きつきたいような気持ちになってくる。
──────“ならよし!”
あの時のクロ[[rb:兄 > にぃ]]の笑顔を見てから、ドキドキするような、ほっとするような気持ちになり、今も同じような感じだ。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は甘える練習が必要だって言ってくれたし、今甘えてみてもいいかな、なんて考えてしまう。
上着を脱いだまま、オレはそっとクロ[[rb:兄 > にぃ]]に近付き、肩に顎を乗せてきゅっと抱きついてみた。
「────っ!?!?」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は相当驚いたみたいで、体をビクリと震わせて、オレの股の間をくぐって尻尾をビンと立てた。
「げ・・・[[rb:玄來 > げんき]]・・・さん?」
「えへへ、ごめん。ちょっとまた甘える練習」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は完全に固まってしまった。さすがに驚かせすぎただろうか。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]?」
オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の肩に顎を乗せたまま話しかける。
「なっ・・・何?」
「尻尾下げてもらってもいいかな」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレの股の間で反り返った尻尾ごと固まっており、無理やり離れるのも悪い気がして声をかけた。
「あ、ああ! はい、すいません」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はたまに口調が変わる時がある。理由は分からない。
オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]から離れ、服を脱いで風呂に入った。
◆◆◇◇◆◆
「ふぅ・・・」
風呂から上がってスマホをいじっていると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]も風呂から上がってきた。
初めて知ったけど、今のクロ[[rb:兄 > にぃ]]は結構長風呂みたいだ。自分の倍以上の時間入っていたような気がする。
昔はゆっくり湯船に浸かるタイプじゃなかったのに。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]って結構長風呂なんだね」
「えっ! そ、そうかな!」
言われると思ってなかったのか、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は結構驚いている。
「あ、あーほら。今日寒いし、風呂気持ちいいし、飯うま過ぎたし、幸せーみたいな?」
「へへ、そっか」
つい嬉しくて尻尾が振れる。クロ[[rb:兄 > にぃ]]に喜んでもらえると、何度でも嬉しくなってしまう。
「お、遅くなったし、もう・・・その・・・そろそろ・・・」
「そうだね。寝よっか」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はおもちゃの兵隊みたいな歩き方でベッドに向かい、こちらに背を向けて布団を被った。
お風呂上がりだし、エアコンもつけてあるけど、今夜の冷え込みはクロ[[rb:兄 > にぃ]]にはこたえるのだろうか。
オレは電気を消して、クロ[[rb:兄 > にぃ]]のベッドに潜り込み、後ろから軽く抱きついた。
「大丈夫だよクロ[[rb:兄 > にぃ]]。オレと一緒に寝たらすぐ暖かくなるから」
まだ布団は冷えており、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はガチガチだ。
オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]に布団をかけ直し、姿勢を整えて眠りについた。
◆◆◇◇◆◆
────普段と違う感じがする天井とクロ[[rb:兄 > にぃ]]の匂い。
オレは真夜中にふと目が覚めた。
左腕に温もりを感じ、寝息が聞こえる。
顔を向けると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]がこちらを向いて、オレの腕にピトッとくっついていた。
上の手がオレの腕をやんわり掴み、顎がちょっとだけ肩に乗っている。
オレはなんとなく寝ているクロ[[rb:兄 > にぃ]]の頬に触った。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]の頬の毛は少し長く、撫でるとツヤツヤなのがよく分かる。毛はオレよりずっと柔らかい。
そのまま手を頬から肩に滑らせると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が少しだけ身をよじる。
一瞬起きるかと思ったが、その後で小さくゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえ始めた。
オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の肩に手を乗せたまま、ぼーっとクロ[[rb:兄 > にぃ]]の寝顔を見ていた。
「柔らかい・・・」
オレより華奢で、身体は柔らかい気がする。
猫の人は皆こんな感じなんだろう。[[rb:香澄 > かすみ]]も猫だったし、柔らかかった。
また抱きつきたいような気持ちが湧いてくる。
でも、起こしてしまうかもしれないし、この肩の温もりをそのままにしていたいような気もする。
そんなことを考えていると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は体勢を変えてオレから離れ、上を向いてしまった。
オレはそれを追うように上体を起こし、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の反対側に手をついて、上から寝顔を見つめた。
何を考えるでもなく、ただクロ[[rb:兄 > にぃ]]の寝顔を見つめる。ただ、すごく無防備だと感じる。今ならクロ[[rb:兄 > にぃ]]に何でもしていいような気分になってくる。
オレは慎重に、体重をかけることなく、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の胸に頬を乗せた。
暖かくて、柔軟剤の香りとクロ[[rb:兄 > にぃ]]の匂いがする。
耳を澄ますと、健やかな寝息の音に加えて、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の胸の鼓動が聞こえてくる。
すごく心が安らいで、このまま寝てしまいたくなる。
「・・・[[rb:玄來 > げんき]]」
突然呼ばれて、オレはまた上体を起こしてクロ[[rb:兄 > にぃ]]を見る。
「寝言・・・」
前にクロ[[rb:兄 > にぃ]]の寝顔を見ていた時は、オレの名前を呼んで泣いていた。
でも今回はそのままの寝顔で、小さくゴロゴロと喉を鳴らしていた。
──────カシャ
オレはいつの間にか枕元のスマホに手を伸ばし、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の寝顔を撮っていた。
その後、オレは魔法が解けたように深く溜息をつき、体勢を戻した。
上を向いてさっき撮ったクロ[[rb:兄 > にぃ]]の寝顔の写真を見る。暗いのに綺麗によく撮れている。最近のスマホはすごい。
冷静に考えて男の寝顔撮るってどうなんだろう。でも、見ていたいと思ってしまう。
こんなのいくらクロ[[rb:兄 > にぃ]]が好きでも普通じゃない。
これってもしかして、オレ─────
「・・・ブラコン・・・なのか?」
その瞬間、オレはスマホを落としてしまい、顔面に直撃を食らった。
◆◆◇◇◆◆
「おはよー[[rb:玄來 > げんき]]」
目玉焼きを作り始めた頃に、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が起きてきた。
「おはようクロ[[rb:兄 > にぃ]]。朝ごはんもう出来るよ」
やっぱり昨日の夜のことを隠しておくのは不味いだろうか。ただ、話すとさすがに引かれる気がする。写真も消せと言われそうな気もする。
でもやっぱり隠すのはマナー違反な気がする。フェアじゃない。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]」
「ん?」
ちゃんと話そう。
「実はオレ夜中に目が覚めて、その・・・」
話さないと・・・。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]の・・・」
写真・・・消したくない・・・。
「ごめん! やっぱりなんでもない!」
「はぁ!? そこまで言ってやめるのナシだろ!」
「ナシだけど許して! 内緒にさせて!」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレの服の裾をクイクイ引っ張って追求してくる。
でも話せない。ブラコンでごめん。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]の追求を内緒の一点張りで耐えながら、これからはやっぱり甘えも程々に自制しようと胸に誓った。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
[[rb:琉貴 > るき]]はなんで長風呂してたんだろうね。
気になるね。
いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。
蒼空ゆうぎ