別れの前に

  ●

  「ユウゴ」

  高校を卒業し、大学進学の為に一人暮らしの準備を終えた、その日。俺が夕食を食べ終えるのを待っていたように、じいちゃんは俺にこう言った。

  「引っ越す前に、じいちゃんと色んな所に出かけてみないか?」

  ユウゴとの時間を大切にしたいんだ。というじいちゃんの目は、どこか寂しそうで、どこか嬉しそうで、それを見て俺の胸には鷲掴みにされるような痛みが走っていた。

  「うん」

  涙が出そうになるのを抑え込もうとして数秒間押し黙った後、漸く俺は頷き返す事ができた。

  「俺も、じいちゃんと一緒にいたい」

  じいちゃんは、嬉しそうに柔らかく笑った。

  じいちゃんは狐の獣人だ。人間の俺とは血縁関係の無い、戸籍上の親類。6歳の頃、両親を事故で亡くしてから、身寄りのなかった俺を引き取って育ててくれたのが、じいちゃんだ。

  戸籍上では、父親。でも、じいちゃんは70歳、俺は18歳。親子という歳の差でもないから、俺は「じいちゃん」と呼んでいた。

  じいちゃんの後ろを歩いて、ゆったりと揺れるふんわりとした狐の尾を見るのが好きだった。いつしかじいちゃんよりも背が高くなって、じいちゃんは杖を突き始めた。

  ぽっちゃりとした体、おおきく蓄えた柔らかな髭。

  「じいちゃん、明日はどこ行こっか」

  「そうだな。水族館なんてどうだ? 最近新しく出来た所だよ」

  いいね、そうしよう。

  俺はそう返事しながら、一日が過ぎていくのが嫌になっていくのを感じていた。

  遊園地に行った。休暇時期の遊園地は人が多くて、人混みに酔い疲れ果てた俺とじいちゃんは帰った途端に眠くなった。次の日は二人して寝坊して、次の日は一日中ごろごろして過ごした。備蓄していたカップラーメンで腹を満たして、一緒の部屋で過ごす。それだけでもなんだか嬉しかった。

  映画館に行った。流行りの映画を見ようと映画館のオススメを調べずに見た。ラブストーリーの幸せなエンディングで何故か涙が出た。家に帰っても悲しさが拭いきれない俺を心配して、それから一緒にベッドで寝るようになった。小さい頃はよく一緒に寝ていたということを、じいちゃんの匂いを嗅いで思い出した。涙は止まっていた。

  公園へ散歩に行った。じいちゃんの歩幅に合わせてゆっくりと歩く。爽やかな風が吹く川辺のベンチで、今朝二人で作ったサンドウィッチを食べる。料理もじいちゃんに教わった。一人でもちゃんと食事を作って暮らしていけるな、と言われて、俺は料理なんて出来なければよかったのにと思った。

  水族館に行った。思ったより人は少なかった。それでも、じいちゃんは俺の手を取って水槽を面白そうに見て回っていた。じいちゃんが魚を見るのが好きだと初めて知った。俺は、子どものように無邪気な笑顔を向けているじいちゃんばかり見ていた。薄暗い深海魚のスペースでじいちゃんを抱きしめたいと思った。

  それから、それから。

  一日が過ぎていくのが嫌になっていた。もうすぐじいちゃんと一緒に暮らせなくなるから。

  気づいていた。俺は、じいちゃんが好きだ。家族として、親子として。そんな関係じゃない。恋愛対象として、男として、俺はじいちゃんが好きなんだと、この数日ではっきりと気付かされてしまった。

  ずっと、じいちゃんのことが好きだったんだ。

  ●

  「じいちゃん」

  俺は、あの時じいちゃんがそうしたように、じいちゃんが夕食を食べ終わるのを待って、そう話しかけた。

  「一緒にお風呂入りたいんだ、じいちゃんと」

  「じいちゃんとか?」

  不思議そうにしたじいちゃんは、それでも、俺が頷くと嬉しそうに笑ってくれた。

  そして、脱衣所で一緒にお風呂なんて何年ぶりだろうな、と話しながら、俺はじいちゃんが服を脱いでいく姿を横目でじっと見つめていた。

  特別な光景じゃなかったはずなのに、俺の胸をざわざわと騒がせる。シャツを脱いでその緩く垂れた胸とお腹が揺れる。ズボンとパンツを脱げば、少しお腹に埋もれた小ぶりな砲身と弾薬袋がブルンと震える。

  「こら、あんまり見られると恥ずかしいだろ」

  「ご、ごめん……」

  「はは、冗談だ。ユウゴなら構わないさ、好きなだけ見ると良い」

  悪戯っけのある笑みを浮かべて、じいちゃんは先にお風呂に入っていった。その後を俺も追いかける。

  「先に俺がじいちゃんの体を洗ってあげるよ」

  「お、良いのか? じゃあ、そうしてもらおうか」

  ブラシで石鹸を泡立たせて俺が言うと、じいちゃんは背中を向けた。俺は、ごくりと喉を鳴らして、その背中をブラシで擦っていく。

  俺は若い男だ。大好きなじいちゃんの体に触っている。そう思っただけで、俺の抑えきれない欲望が膨らんで、じいちゃんにその銃口を向けていた。

  背中を洗い終わると、柔らかい尻尾をブラシしていく。それも終われば、俺はそのまま抱きつくように腕をじいちゃんの前面に持っていった。

  「ん……」

  柔らかい胸、その先端の硬い部分を優しく指先で洗えば、じいちゃんは小さく声を漏らす。

  きっとじいちゃんは俺の体がどうなっているか、気づいているだろう。尻尾の下、じいちゃんの柔らかい尻の谷間に沿って、俺の強張った牙が横たわっているのだから。

  それでも、じいちゃんは何も言わない。俺がしたいようにさせてくれている。時々気持ちよさそうに「ぉ、……はぁ……」と吐息を漏らすだけだ。

  それを知って俺はブラシを手放した。自分の手で直接、じいちゃんの大きなお腹を撫でる。豊かな髭を触って、耳をくすぐる。胸とお腹をじっくりと触れてから、その手を更に下へと下げていく。

  「じいちゃん……」

  「うん。どうした、ユウゴ」

  「俺、……じいちゃんが好きだ」

  「……ああ」

  じいちゃんが、俺の思いを否定しなかった。それが最後の決め手になった。

  緩やかなお腹の曲線が終わったそこ。

  じいちゃんも俺と同じオスである事を象徴するその塊を掬い上げる。丁寧に、痛くないようにその膨らみを揉んだあと、そこにある硬い感触を握りしめた。

  「ん、おぉ……」

  「じいちゃん、硬くなってる……」

  じいちゃんの欲望の熱だ。じいちゃんも、こんなに硬くなるんだと、胸が熱くなる。自分の心臓の音が煩い。きっと密着しているじいちゃんにも、この鼓動が伝わっているだろう。

  泡を纏った手でその火傷しそうな肉槍を扱くと、じいちゃんの口から聞いたことのない快感に濡れる声が漏れ出てくる。

  ぐちゅ、ぐちゅ……ッ。

  バスルームに淫猥な水音が響いていく。信じられない気持ちだった。じいちゃんが今、俺の手で気持ちよくなっている。逆側の手でじいちゃんの胸を弄れば、電流を流されたようにじいちゃんの体が跳ねる。

  「ユウ、ゴ……」

  「な……なに……?」

  唐突に名前を呼ばれて、俺は慌てて手を止めた。やりすぎてしまったんだろうか。もう、俺のことを家族としても見てもらえなくなるのだろうか。そんな思いが胸の中に渦巻いていく。

  だが、じいちゃんの言葉は、そんな予想とは全く違うものだった。

  「誰かと、仲良くなったことはあるのか?」

  「え?」

  話の意味が分からず、俺は問い返してしまっていた。すると、じいちゃんは手を、胸を触る俺の手に重ねて、ぎゅっと握ってくれる。

  「ああ、……つまり。……セックスをしたことはあるか?」

  少し躊躇いながら、じいちゃんは俺にそう問い掛けていた。

  「な……無いけど……なんで……?」

  素直に答えると、じいちゃんは少し肩を震わせて笑った。それは馬鹿にしたようなものではなく、心から嬉しいと思っている笑い方。

  「そうか……なら、じいちゃんが初めての相手だ」

  「……っ」

  そう言うやいなや、じいちゃんが俺の硬く張り詰めた牙を、ぐりぐりと柔らかな肉の谷間で刺激する。それだけで熱いマグマを噴火させてしまいそうになる俺は、必死にじいちゃんの言葉の意味を理解しようとした。

  何回か「まさか」と思い直してみる。その言葉はまるで、このままじいちゃんと体を繋げても良いのだ。と言っているようにしか思えない。

  「じいちゃん……」

  「……ユウゴ、分かっているな。どこに挿入するか」

  「う、うん……」

  俺は少し腰を引いて、もはや限界にまで張り詰めた剛直をじいちゃんの谷間へと垂直に向けた。じいちゃんは肉厚な肉の丘を両手で開いて、俺が狙いを定めるべき収束点を露にする。

  「……ッ」

  そんな淫靡な仕草に俺はゴクリと唾を呑み込んだ。まるで、じいちゃんが俺の熱鉄を求めているかのように、その入口はひくひくと拡縮を繰り返している。

  もう我慢なんて出来ない。

  俺はじいちゃんに、その切っ先を沈み込ませていく。

  「おおッ……は、……あ……大きくなったな、ユウゴ……っ」

  「ん……っ、じいちゃんの中……熱くて、蕩けて……絡みついてくる……ッ」

  徐々にゆっくりとじいちゃんの体内に俺の砲身を埋め込んでいく。じいちゃんの中は、俺が侵入していくのを歓迎するように、絶妙な力加減で俺の劣情を締め付ける。

  「ぁ……あ、あ……ユウ、ゴッ……もっと……奥まで入れて良いぞ……ぅあ……!」

  「じいちゃん……っ」

  「じいちゃんも、……ッ、ユウゴ……ぉっ」

  俺はじいちゃんの背中に覆い被さるように、根元まで一息に突き入れた。ばつん、と肌がぶつかる音がした瞬間、俺の脳裏に閃光が走り抜ける。

  「ん、おお……ッ! ユウゴが、……中に……ッ、本当に、大きく……ぁあっ」

  「ごめん、じいちゃん……俺、止めらんない……ッ」

  まるで全身で俺を抱きしめてくれるようなじいちゃんの中。初めてのセックス。その快感に動き出す腰を俺は止められなかった。だが、それをじいちゃんは受け入れてくれる。

  「ッ、ぁあ……ッ、我慢しなくていい……っじいちゃんも、気持ちよくさせてくれ……ッ」

  「うん……っ、うん……!!」

  ばちゅんばちゅんと肉を叩きつける音が響く。それに合わせてペチペチと小さな音がなっているのは、じいちゃんの屹立が揺さぶられて、お腹にぶつかっている音だ。

  もっと時間をかけてじいちゃんを気持ちよくさせたい。そう思いながらも、俺の限界は既に近く、頭の中が真っ白に染まっていく。

  「じいちゃん……っ、お、俺……もう……来る……ッ」

  「ああ……ッ、じいちゃんももう限界だ……ッ、そのまま出してくれ……、じいちゃんの中に……ッ」

  ラストスパートとばかりに強く腰を打ち付け、俺はじいちゃんの一番奥を貫いた。そして、そのまま。全身が燃え上がるような錯覚と共に、生まれて始めての快感を感じていた。じいちゃんの中に、この燃え上がる熱の一部分を濃縮して叩きつけていく。二度、三度、と脈打った俺の牙はその全てを吐き出し終わっていた。

  「はあ……っ、はあ……じいちゃん……、大好きだよ」

  「ああ、じいちゃんも、……愛しているよ、ユウゴ」

  バスルームの床に、じいちゃんが吐き出した白濁が散っていた。お尻と前と、どちらからも白い熱の余韻を滴らせるじいちゃんが、微笑む。そして、俺は初めて、じいちゃんとキスをした。

  ●

  もう一度、体を洗い直したその後、俺とじいちゃんは明日の為に早めに眠ることにした。

  「じいちゃん……」

  ベッドの隣で眠るじいちゃん。

  俺はそっとその手を握る。

  「……どうした、ユウゴ。眠れないのか?」

  目を覚ましたのか、それとも、起きていたのか。じいちゃんは、俺の手を握り返してくれる。

  そんなじいちゃんに、俺は強くハグをした。胸に顔を埋めて、滲む涙を誤魔化す。

  じいちゃんは、おれの頭を撫でてくれる。

  そっと息を吸えば、優しくて、大らかで……大好きな匂いがした。