[chapter:クリスマスカード(上)]
首都と呼ばれる場所の西口。普段は降り立たぬ駅前には場所に相応しいそうそうたる面構えで俺を出迎えた。長い長い電飾のアーチ。
舞う粉雪はこの地域ならば珍しいことでもない。
手に触れては消える。心地よい冷たさは……そう。戻らぬあの日を思い出す。
猥雑な日常と、刺激のあるアイツとの時間。今日は一人、同じ場所を思い返すために歩いてみよう。
俺が悪かったと思うつもりもないし、アイツが悪かったと思うつもりもない。
ただ境遇と、向かうべきレールの先が別な方向に向いていただけ。
それだけのはずだ。カップルだらけであろうと、特には気にならない。去年はいい年をした男二人で歩いていたのだから。それから比べれば遙かに今日のほうが、敷居が低いだろう。
この場所で何を話しただろう。ふと思い返すと、苦笑いを浮かべてしまう。
品のない会話を気にもせず楽しんでいたんだったな。
確かに、アイツに連れて行かれたホテルから見る景色は絶景ではあったし、
大きく窓がとられたトイレからはさらに理想的な方面の景色が見えた気がするが、ここでするべき話題ではなかった。
『ノースタワーのトイレって名物なんだぞ。すごいだろ』
一言目にこれかよ……。いや、確かに右側にそのホテルはみえるが……。
『はぁっ? ハッテンで使ったことでもあんのかよ? このヤリチンが!』
『いくら俺でもトイレでやっちまう勇気はねえよ。それに、今はお前にしか用がねえよ。思い切って予約しちまった。高かったんだからさ、やらせろよ』
『イルミネーションを見に来たんじゃねえのかよ。少しはイベントを楽しめよ』
『俺はお前が嬉しそうな顔をしてるのを見に来ただけだって』
……相変わらず口がうまいやつだった。それだけでコロっとホテルにすい寄せられたのを覚えている。アイツといると素面でいても常に酔わされてばっかりだった。
『冬本(とうもと) 、飯はどうするんだよ?』
『マックでいいだろ。もう予算オーバーなんだよ』
下半身以外の事には頭が回らない、いつものアイツに俺は嬉しくなった事を
今も覚えている。現在立っているのは俺一人だが……。
獣毛で覆われた俺にはパーカー一枚でも寒くないはずだ。それなのに、無遠慮につかむ太い腕の感触を首には感じず、物足りない。
『仕方ねえ。俺が払うからそのホテルで食おうぜ』
さすがにマックは嫌だったし、一方的に金を出させるのも嫌だった。
『なんだと。だったらルームサービスが頼めるホテルにするんだった。
肩がこるから嫌なんだよ』
『別に無理してこんなとこ予約しなきゃよかっただろ……』
ビルの上層部のみをホテル部分とすることで全ての場所から眺望が望める首都の駅前に位置するホテル。安いはずがなかった。俺よりは給料がいい事もしっていたが、厳しいだろう。今日は24日なのだから。
しかし、今から窘(たしな)めてもどうしようもないだろう。金が戻ってくるわけではないのだ。俺達は素直にエントランスに向かった。あまり食べると、苦しくなったり眠くなってしまうので、カフェレストランで簡単なセットメニューを食べたあと、小さい割には高いホテル価格のケーキショップでカットケーキを三つ買う。
サービスですと手渡された別添えのヒイラギのマジパン飾りが特別な夜を意識させてくれた。
男二人に対しても涼しい顔でこういったサービスを提案してくるのは首都
だからなのか、マニュアルなのか、この女のプロ意識か。俺よりも回りを気にしない冬本はケーキを受け取ったあと、皿を貸して欲しいと冬本は彼女につげカードキーを見せる。
ケーキを買おうと提案したのは確かに俺だが、勘弁してほしい。客室で食べるという事は、このままホテルで《せい》なる夜を過ごすのだと伝えたようなものになる。
『客室係に向かわせますね。ごゆっくりどうぞ』
しかし、彼女は全く動じる様子を見せないでくれたので、助かった。
逃げるようにケーキショップから離れる俺を、楽しそうに見ていた冬本にいらっとする。
カードキーを持っているという事はすでにチェックインを済ませてあるのだろう。
フロントを通り過ぎエレベーターに向かう。
白い小さな箱に入る甘い物。エレベーター内で二人の視線は当然そこに向かう。一人で二個食べてしまうところも好きだった。
……そこまでのことを思い返して、急に気がそがれる。その後訪れる快感や暖かさまでを思い出したくはなかったからだろう。
足は勝手に人の波に従って動いており、先に見えた記念撮影スポットには列が出来ている。ホテルは通り過ぎたのになぜ記憶があるのかと考えてみれば、あの日は逆側からイルミネーションを見始めたのだった。一人で特に用事のない今日だから、駅側から見始めたのであって、あの時は遊び歩いた後だった。
『亮二(りょうじ)。俺達もあの椅子の上でとっちまうか?』
『できるか、そんなもん』
男同士のカップルでは、当然奇異の目にさらされることが多い。
外でどこまでの事を気にせずできるかも、関係が続くかどうかの一要素なのかもしれない。冬本ほどに開き直れない俺をからかうように大胆な事を提案してくる。
恥かしいし、人の目が気になるのにも関わらず、時にそれが嬉しく感じることもある。彼の細い眉と少し怖い粗野な笑顔を今も鮮明に覚えている。
一年という時間は、この年になるとそう遠い出来事に感じられないのだ。
一人なのだから、今日こそマックがふさわしいかもしれない。
列をなす彼らとは反対側の道に向かうため、エスカレータが備わった歩道橋を通る。タイムズスクエアを通り越し、不景気な世を映しこむように、こんな日にも関わらず大賑わいのマックへと足を運ぶ。列を並んでいる間にメニューを考えていると、すぐにレジへと辿り着く。チキンのかわりにナゲットを注文すると、その数の多さのせいか、聞かれる前から両方のソースが付いていた。マズルで匂いを感じ取ると、久しく食べていなかったファーストフードの油の匂いが、ろくでもない食生活の俺の食欲を復活させる。あの日食べたのはホテルの中といえどカフェレストランだったのだから、一人で食べてもよかったのかもしれないが、さすがに辛いなと思った。俺にはここがお似合いだ。
隣の席にいる黒髪の、優等生にみえる高校生カップルの微笑ましさくらいが丁度いい。少し目をやると、二人はロクに会話もできず、会話はうまく続いてはいない。しかし、気不味い訳ではなく、初々しいだけなのだろう。思わず応援してしまいたくなってしまう位だった。この二人が実際のところ、大人しく帰るのかどうかまではわからないが。不意にコカ・コーラの甘さが胃にきて、思わずゲップが出そうになって飲むのをやめる。彼らのデートを台無しにはしたくない。
ナゲットを食べ終えると、飲み残したコーラを零し捨てる。氷がガラガラと音をたてて、吸い込まれていった。
折角商業ビルに入ったのだからと続いてハンズへと足を運んでみよう。
去年も見たかったのに、ホテルに引っ張っていくあいつの強引さに負けて
結局見れなかった。買うべきものの少ない、冷やかすために存在する雑貨群。一人である自由くらい、満喫すべきだろう。
[newpage]
[chapter:2]
クリスマスカード。
今の世には一々文字に表さなくても、伝える手段がいくらでもある。
しかし、こういった日にはあえて無駄な事に力を注ぐのもいいのかもしれない。
俺達はうまくいっていた。しかし、うまくいっていたからこそ、関係を終わらせたのだった。危うい関係を繋げてお互いを汚してしまう位ならば、その方がいいなと俺は思ったのだった。
ついつい思い出したくもない別れ際の静かな攻防を思い返してしまう。
クリスマスを終えて、春になる前。1月の半ばくらいの事だった。
『亮二。この地図のさ、端のほうにちょんと立ったとこがあるだろ? お前、何県だかわかるか?』
冬本の質問の意味がわからず、都道府県くらい覚えているとしれっと答えを
口にした。……しかし。アイツの言いたいことは違かった。
『来月から……配属になったんだ』
連休を前にした金曜の夜、コタツに入りながら、ビールを飲みながら鍋をつついていた俺は幸せの絶頂だというのに……。
その日は現実を受けいれる事ができずに、酒を頼りにロクに言葉を交わさずに寝てしまったが、翌日には酒も冷め……。みかんを食べながら、アイツと話し合った。どのくらいの時が経ったのかわからないが、やがて俺達……、いや。俺は結論を出した。
『遠距離でも、俺はお前との関係を続けたい。そう思っている。どうしても断る事ができなくてな。すまない』
冬本に頭をさげられた事なんて、初めてで……。しかし、決意は変わらなかった。
『冬本、俺さ、お前の事好きだよ。こんなに続いたのって初めてだしさ』
『亮二! お前なら……』
早とちりした言葉を遮り俺は首を横に振った。
『でもな、俺、そこまでは強くないんだ。お前が見知らぬ男と体を重ねたり、
そういった姿を見たくはない。それならいっそ……今ここで』
亮二の大きな手が俺の首根っこを掴み、にらまられる。怒りに伴う低く長い虎人の唸り声すらも好きな俺には、嫌な声だった。別れを突きつける彼を好きだと確認させられる、嫌な声だったのだ。
『そんな事するはずねえだろ? ふざけんな!』
彼の怒りを静かに受け流す。手をとると、掴まれた手を払う。息を整えて……。言葉を続けた。
『わかってる。でもよ、離れてたらどうしても浮かぶだろ。お前を信じていたって、無理なものは無理だろう? お前だってそうだと思うぞ』
『俺はお前を信じてる。頼む、冷てえことをいわねえでくれよ……亮二』
冬本の泣き顔をみるのは初めてだった。俺が泣かせたのだろう。
俺はアイツと同じ血が通ってはいないのだろうか。軽薄で冷徹て……。
『辛い思いをする位なら、綺麗なまま終わりたいんだ。お前が好きだからさ
。続くかどうかとか試すとか、嫌なんだよ。失敗する可能性があるのが嫌だ。
それに、今の俺にはまだ別れる余裕がある。これ以上お前と関係を続けると
それすら無理になってしまうだろ?』
俺にも俺の仕事がある。冬本とは比べ物にはならない程に、ちっぽけな職場だが、仕事が終わった時、寂しさを埋めてくれるのではなく、寂しさを増幅させる
存在へと冬本に変わってしまったら、自分だって、もしかしたら別の誰かを
求めてしまうかもしれない。そんな弱い自分なのだから、いっそ、今ここで……。
『なあ、キスしてもいいか?』
黙ったままの冬本の返事をまたず口付けを交わすと、俺は静かに部屋を立った。
暖かく柔らかな唇とくすぐったい髭。平静を保ちながら俺は最後にかみ締めた。
まだアイツの辞令は先の話なのだから、それまでは付き合ってもいいのかもしれない。しかしこれ以上好きにも、嫌いにもなりたくなかった。
『亮二。最後に一つだけ……いいか』
彼のぐずる声は後ろ髪をひかれる思いを俺にもたらすが、どうにか思いとどまる。振り返らず、『なんだよ?』とだけ答えた。
『俺を振るんだ。俺よりもいい男と付き合え。俺を好きでいたままじゃ結局
お前が辛いじゃねえか……ぐぅ』
『やめてくれ、俺がお前をふるのだから、心配されるいわれはないだろう?」
『駄目だ。約束してくれねえと、部屋からださねえぞ。俺は離れてもお前の幸せを願っているんだからな』
『……。わかった。遠くにいっちまう冷てえ男なんざ、すぐ忘れてやるよ』
『亮二。そうか……』
安堵する声が、嫌だった。こんな時くらい先ず冬本自身に悲しんでほしかった。薄情な俺にではなく。
『ごめん。冬本。俺……いくな』
靴を履き、扉を閉める。やがて、アイツとは違う別の住人にとってかわられる、俺には借りることのできない一人では広いマンション。
『ありがとな、冬本。ごめん……』
最後にいえなかった言葉を、俺は分厚い扉を隔てて、独り言のように言葉にした。ローマ字でかかれた表札を手でなぞると、ゆっくりと、エレベータで出口へと戻る。オートロックのゲートをくぐると、もう入ることのない建物を前にして、今更にして涙が……。そのまま俺にふさわしいぼろアパートへと尻尾を巻いて逃げ帰る。
開いたクリスマスカードからは、もう何週目かはわからないが、オルゴールのようなチャチなメロディが流れ続けていた。立体的にとびでるトナカイ達と、サンタ。アイツが共にいたなら、間違いなくカゴに入れていただろう。どちらが書くものかすら考えずに。そもそも、当日ではなく予め用意しておく類の物だ。しかし、そんな事なんて気にしない奴だった。
1200円。誰に送ることのないにしては高いクリスマスカードをレジへと持っていくと、さっと袋に入れてわたしてくれた。
すでに安売りされているツリーとか、雪だるまの形をした照明だとか。
あの日から他人事になってしまった行事を気楽な気持ちで、眺めていた。製菓用品売り場で、《手作りケーキでクリスマスを。心のこもる贈り物を》といった看板を目にすると、作るつもりもないのに、紙でできたケーキ型や、一度使ってみたかったケーキクーラーをも購入する。
完璧な無駄遣いだが、その無駄遣いがアイツがくれた一つの価値観なのだから、
悪くないなと思った。たとえ、使わずに粗大ゴミに出したとしても。
この店で唯一買った実用品の手帳には今年の春からと同じ、仕事に関する予定だけが書かれるのだろう。でも仕方ないなと思う。他の男に出会うことなど、まだ考えられないからな。
茶色く短めな体毛に覆われた体をやたらと設置されている店内の鏡に移す。予想通り、一人寂しく歩く、敗北者の表情を映していた。こんな俺でも本気で出会いをさがせば、全く売れないわけでもないだろう。しかし、今はそんな気力も労力も費やしたくなかった。余力は全て、アイツへの追憶に使いたかった。
[newpage]
[chapter:3]
無駄に買ったケーキ用品が重い。素直に、家に戻ればよかったのに……。
気づいたら、二度と降りる事のないと思っていた駅へと足が向いていた。
雪は降り続け、ついに積り始めていた。踏みしめた足跡の感触が小気味良い。
よく彼と並んでこの道を歩いたものだ。流石に家賃が高いらしく、駅からは離れていた。しかし、その15分の道のりが俺には好きだった。妙に盛り上がる
帰り道の話題。……好きだった。今も。
アイツが好きなパン屋。アイツが好きな――。店に立ち寄り無駄遣いをすればするほどに重くなる左手。袋から取り出しすでに割引になっていたクリームパンを齧ると、甘いカスタードとやわらかなパンが心を和らげた。
足は自然に目的地へと向かっており、やがて橋が見える。
《さくらばし》
とてもそんな名前に相応しくないちっぽけな橋から望む底も見えぬ淀んだ川。
アイツとならこんな景色でも楽しめたんだよな。
『こっから釣ったらワンチャン魚取れそうじゃね』
冬本は唸り声をあげながら、真剣に覗き込んでいる。
こんな排水路のような川に、いるわけがないだろう。思わず俺は背中を引っ叩く。驚きで冬本の尾がびくりと跳ね上がるが、結果的には大した衝撃は与えられず、反撃として組み付かれた。
『動けねえだろ。アホ!』
痛くはないが全く身動きがとれない。Tシャツごしにオヤジ臭いこいつの
匂いを感じ取ると、一気に体が熱くなる。
『なんだよ。元はといえば亮二がじっと覗き込んでいたんじゃねえか』
抜けだそうとしても無理だった。いざ諦めてみると、恥かしさを除いて
別に不快なわけではなかった。伝わる熱が心地よい。
『お前とさ、もっと綺麗な川を見てみたいなってふと思ったんだが、
仕方ないからこの川でも我慢してやろうかとか、そんな事考えてた』
『亮二。急にデレるのは無しな。オッサンをからかうなよ』
もうすぐ三十路の虎人である冬本は、厳つい顔のせいか、細い無骨な眉のせいか、年以上に老けてみえるらしく、同年代の奴らからもオッサンと呼ばれているらしい。しかし、中身は子供っぽいところも多い。そんな、あっけらかんとした所も好きだった。あの時、衝動に耐え切れずにアイツの手を外にもかかわらず握ってしまったんだったな。そして、アイツに思い切りキスをされた。
『ふっざけんなよ。人に見られたらどうするんだよ!』
キスをされたせいで一発ヤッてほしくなってしまった事についても抗議したかったが、調子にのられるだけなので、止めておいたのだった。
『別に見られてもいいじゃねえか。俺のモノだってわかれば怖くて誰も
お前に手をださねえよ』
『お、冬本。自分の顔が怖いって自覚してたんだな。でも俺は、かっこいい思うよ。お前の顔がさ。……正直、すげータイプだよ』
『……亮二……デレるんじゃねえっていっただろうが……』
今はただ、都会の片隅にある。なんてことのない小汚い橋にすぎない。
しかし、もう一度冬本との思い出を蘇らせることに成功できたのだから、感謝して通り過ぎる。
それからしばらく歩くとやっと目的のマンションへと俺は足を止めていた。
灰色のような青白いようなコンクリートで作られた、少しだけ古い
マンション。エントランスで暗証番号を入力すると、変わっていなかったのか
あっさりとそれは開いた。本来ならばとうに暗証番号を変更すべきだろう。俺のような不審者に、つけこまれてしまうのだから。
エレベーターで8Fへとあがると、アイツの部屋の目の前に辿り着いた。
何もかもあの頃と同じだった。変わっていなければいけないところも含めてだ。
『TOMOTO』
ドアの前には相変わらず冬本とローマ字で刻まれた表札が付けられていた。
何故だ。頭がこんがらがる。
アイツは南の先端の島。俺の届かぬ場所にいったはずで、退去して相当の時間が
過ぎている。ただ俺と別れるための口実にすぎない嘘だったのか。
しかし、そんな嘘を吐く奴だとは……思えない。
それからの事は覚えていないが、気づいたら自分の家に戻ってきていた。
冷静になると物事を分析、追及したくなる。
マンション名で検索をかけると、都合よく全てがふさがっていない賃貸マンションだったので、当然空室情報が引っかかる。アパート&マンションズなんてふざけた名前の大規模な不動産情報サイトだ。
しかし、空室があるのは2階と4階、家賃が跳ね上がる最上階だけだった。
803号室は……表示はされていない。
冬本……。お前は……。
思い出の中に生きていたのは俺だけだったのだろうか。
寂しく。虚しい。しかし、彼の言葉の通り新しい男を真剣に探していたら。
法を突き破りあのマンションの中へと足を踏み入れなかったら……。
汚れることはなかったのだ。決して。
あの時別れたくないといってくれた事だけがひっかかるが、しばらくの間、遠距離恋愛のフリをして、自然消滅でも狙っていたのだろうか。あいつの最寄り駅は俺が使う路線でもないし、偶然会うことも無い。悪くない手だったのだろう。
手元に残るクリスマスカードも彼との思い出も……。
もう……。
翌日。
間に合わない上に恨み言を書き連ねたクリスマスカードを手にしていた。
その位の反撃を、俺はしてみたかったのだろう。
《うそつきは嫌いだ。俺もまだ、お前の約束を守れずにいるが》
それだけの言葉だけだったが、意味は十分に伝わるだろう。俺が知っていた冬本ならばの話だが。次いでまだ残る連絡先から詳細プロフィールを
表示させる。それを頼りに住所までも書き上げた。切手を貼って
かわいいシールで封をする。自分の名前までは書かなかったが
せめて筆跡くらいは、誰の言葉なのかくらいは覚えていて……くれるはずだ。
投函した後になって次の住人が防犯対策で表札をあのままにしているのかとも
考えたが、恐らくはアイツがすんでいるのだろうと、そう俺は決め付けた。
さよなら……冬本。
もし空室になっているなら表札くらい管理会社が外すだろう。
つまり、冬本はあの場所に住んでいるはずだ。
俺からの最悪のクリスマスプレゼント。
しかし、一年間の時間と引き換えに、その位は許してもらおうと思う。
雪ももう消えていた。
幻も理想も美化した思い出も。
それでも俺はアイツに感謝しようと思う。恨みならば先ほどの一文にすでに込めおえたのだから。
『亮二、次の休みはどこにいきたい? 仕方ねえからつれてってやるよ』
週末に次の俺とのデートの予定をたてるアイツの得意げな顔も、やがて、俺の記憶からかすれていくだろう。
思い出が、現実へと変わったのだから。
了
[newpage]
[chapter:クリスマスカード(下)]
1
給料が薄いかわりに残業代と休日はしっかりとくれる、派遣社員のメリットを
俺は満喫できずにいた。当然、起きたのは昼だった。
もう届いたのだろうか。かわいいカードには似つかわしくない俺からの呪いが。
アイツとの写真も、アイツが残したスウェットもまだ捨てられずにいる。
でも、まだいいじゃないか。大晦日にやれば……。
100均のプラスチックに納まる写真の中では、アイツだけじゃなく俺自身も輝いていた。今の生活の虚しさがそれをより引き立てる。
今頃、俺以外の奴を連れ込んでいるのだろうか……。俺では駄目だったのだろうか……。
俺は、アイツを忘れられるのだろうか。
手を伸ばせば大体の必要なものが届くほどに狭い部屋にちらばる、アイツを構成した残骸。数日前に、確かに現実へと変わったはずだ。
それなのに……。
ありあまる退屈と残骸に耐え切れず。部屋を出る。
カンカンと聞き慣れた金属音をたてる安っぽい階段をおり、駅へと向かった。
懲りずに吸い寄せられる首都の東口に降り立つ。
長期の休みなんて久しぶりなのだ。買いたいものだって、こなすべき用だって
無数にあるはずだった。
眠らない不夜城で人ごみに混ざり、定期的に寄る店の数々を巡っていた。
季節を塗り替える毎に必要なものは増えるし、使い続けてきたものもくたびれてくる。それなのに、あまりそれらに必要性を感じられない。少し高い靴も服も……。寂しさなんて知らなかった頃には、自分自身が楽しむために買っていたものだ。しかし、冬本と付き合い始めてからは、アイツに見て欲しい、アイツに感想をもらうために購入していたのだろう。そのせいか、少しでも高いとあと一歩のところで二の足を踏んで、結局棚に戻してしまう。
目的を失うと、密林の中に迷い込んだような途方もない気持ちに駆られる。
店という店に囲まれているせいで、ちょっと寄ってみようかと思うに至る店だったりとか、見ると思い出す欲しかった対象を見つけることが却って難しい。立ち止まるのすら困難な流れもまたそれを増強する。
人恋しさを感じて、昔なじみだった3丁目のバーに訪れようとした。
しかし、いつの間にか店は変わっていて……。
2万程をはたいて手に入れる短い夜の夢。しかし、金よりも無数の人に愛を
振りまく彼らに寂しさを埋めてもらうことに抵抗があり、やはり通り過ぎる。
結局、バラエティショップと嘯(うそぶ)くアダルトショップで購入していた月刊誌を久しぶりに購入しただけで、3丁目を後にする。
どんな場所にいたって、先ずは本人の気の持ちよう次第なのだろう。
こんな気分であれば、いくら金を費やそうが楽しむ事はできないだろうな。
年をとれば一年なんてあっという間。そう感じていたはずなのに、
それ以上に密度が濃かったのだろう。遠い、昔のようにも感じられる。
しかし、忘れようと思えば思うほどに鮮やかに蘇る、あの頃の俺達。
きっとそのせいだろう。スマートフォンにありえない人からの通知が表示されているのは。なにかの幻……。そのはずだった。
《約束を破った罰を受けに来い。俺の部屋にな》
そうでなければ、こんな偉そうな言葉、アイツに吐く資格など無いだろう。
人ごみの流れに乗りながら行動する事ができなくなって、誰かに何度かぶつかりながら、どうにか道の端に辿り着く。カラオケのキャッチセールスが何かを俺に訴えているが、当然俺の耳には何も届かなかった。
[newpage]
[chapter:2]
今日は別に暗証番号を入力しなくても、呼び出して開けてもらえばよかったはずだ。しかし、どう声をかけていいかをわからず、またもや関心できない方法で侵入した。クリスマスの日に買ったクリームパンだけをお土産にして。
俺は、あの日あいつを忘れるために、復讐するためにカードを送ったはずだった。なのに、なぜこの場所に立っているのだろう。
なぜ、こんなにも緊張しているのだろう。……期待をしているのだろう。
アイツに持っている感情は怒りや失望だけのはずだったというのに。
インターフォンを鳴らすと、すぐさまに扉が開かれる。
何か言葉をかけるつもりだったのに、それさえも許されなかった。
苦しいほどの抱擁に、ただただ息苦しかった。
「亮二……」
あの日みせた涙を、懲りずに流していた。情けねえ奴だと思う。
声も見た目ももう十分にオッサンな癖して……。
吸い込むと、馴染んだアイツの匂いを俺は感じ取る。
上半身はTシャツだけだったので、俺とは違う虎模様の毛皮までもが
目に入った。
「なんだよ……今更。俺はお前を忘れるつもりだったんだぞ」
「時間切れだ。俺との約束を守らなかったんだからな。たった今、俺を振った日の事は無効になった」
これが約束を守らなかった罰……。本当に馬鹿な奴だ。
「……なんで、今もここに住んでるんだよ。俺、クリスマスにな、何気なしにお前の部屋の前まできちまったんだ。そしたら、表札が……まだあったんだ。おかしいだろ? だから腹いせに怨念の手紙を送ってやったんだよ」
涙を隠しもせずに冬本は不器用に笑った。そして、俺にこれまでの事を話し始めた。
「一月程前に……帰ってきてたんだ。亮二、人には何事も向き不向きがあるだろう? 俺には適正がなかったんだろうな。離島といわれているが、それどころじゃねえ。俺には違う国の住人に感じた。そういった連中の上に立つという事が、向いてなかったんだろうな。そのせいか、根をあげてしまってな。運よく元の鞘に収まったわけだ。驚く事に人事の連中も鬼じゃなかったようで、本当に降格さえされずに元いた部署にもどれたんだよ」
「じゃあ、どうして俺に連絡してくれなかったんだよ? ずっと忘れられずにいたのに……お前の転勤は俺と別れるための嘘だったのかって決め付けて、お前と別れてまで守った全てを汚してしまったのに……」
「亮二……」
より強く腕で俺の体を締め付ける。恋しい感覚だった。
「俺を忘れろと告げた相手に、俺よりもいい奴をすぐ捕まえてやるなんていわれた奴に戻ってきたなんていえねえだろ? でもよ・・・」
「昨日になって遅いプレゼントが届いたんだ。お前は呪いのつもりだったんだろ。でも俺には最高だった。お前の心はまだ俺に向いたままなんだと思うと、呪いの強さすら嬉しかった。そして……今度こそ亮二を捕まえといてやろうと誓った」
「冬本……」
見上げると少しだけ痩せた……やつれたように見える。今まで仕事に関しての不満をあいつから聞いたことはなかった。今日は理由の一つとして話してくれたのだとしても、それでも体格の変化を起こす程には辛かったのだろう。俺はもっと怒りをぶつけたかったはずだ。それなのに嬉しくて、情けないアイツをどうにかしてやりたくて……。
「寒い。玄関にいても仕方ねえだろ。とっととお客様を案内しろよ」
だからいつものような言い方で、アイツに甘えてみた。
「そうだったな。ワリィ……」
少しだけ変わった気がするあいつの部屋。しかし、和室部分におかれたこたつはあの日のままだった。俺が買わないとみかんすら用意されていないところまでを含めて。
「ミカンくらい買っておけよ」
「犬のくせにミカンが好きだよな。お前は」
無遠慮に触れられるデカイ手の感触が、くすぐったくて暖かい。
アイツのコーヒーはブラックなのに、俺の前におかれたコーヒーには砂糖もミルクも添えられている。まだ、覚えていてくれたのか。
「いい年してクリームパンばっかりかってるオッサンを思い出してさ、クリスマスにも買ったんだよ。イブに連れ回してくれた場所を巡った後に気づいたらお前がいたマンションに足が向いてさ。馬鹿にしてたのによ、いざ食べてみたら、凄ぇ旨かった」
夜遅くまでやっているパン屋とは大体がチェーン店であり、そこまで飛びぬけた味のものは用意されてないはずだと思っていたのに……。紙袋から取り出すと、二人そろってコーヒーと共に食べる。
「元はと思えば振られたのは俺のせいだろう? それでもよ、最後の日、亮二って冷たい奴だなくらいは思ったんだぞ。あっさりしたものだったしな」
確かに、涙もみせず、綺麗なまま別れることには成功した。少なくてもコイツの前でだけは。
「……。あの時の言葉は本気だった。別れるつもりだったし、忘れるつもりだった。ただ、それが出来なかっただけだ」
半分程食べ終えたクリームパンのさらに半分を毟り取られる。相変わらず勝手な奴だ。
「俺は体が大きいからよ、1個じゃたりねえんだよ」
「お土産だとはいえ、こっちは俺の分だ。相変わらずだな。冬本」
もっと、様々な事を話し合いたかったはずなのに、空白期間を問いただすつもりであったのに、本当に付き合いを再開すべきかをお互いで考えるべきなのに、すっかりと心地よい元の位置へと戻っている。不満がないわけではなかったが、冬本との関係がもう一度再開できたのだから、これから少しづつ聞いていけばいいのかもしれない。そう思えた。
今はただ、アイツの傍にいたい。俺が通える距離にアイツがもどってきたのだから。クリームパンを食べ終えたアイツの肩をつかみ少しだけ強引に口付ける。
「ぐおっ。亮二。この野郎」
猛は嬉しそうに口をゆがめると、乱暴に口を貪んできた。
俺からのキスもアイツからのキスも……。酷く懐かしく。そして無くては無いもののように感じられた。
「今年も泊まろうぜ。今、予約すませちまった」
予約成立画面を得意気に見せられる。……またか。
「は……?」
「イブじゃねえからか、安かった。それにこれ以上日がたつと今度は晦日と正月でボッタ値になるだろ?」
「今日かよ。俺はここでお前とのんびりしたんだが……」
「一人で巡ってたなんていわれたら、罪滅ぼし、したくなるだろ?」
「冬本……」
「俺もクリスマス、過ごしそびれたんだ。楽しもうぜ。冷てえ奴だとおもっていたのに、可愛いとこもあるんだよな。ついキュンとしちまった」
キュンとなんて言葉、こいつには似合わない。しかし、それが嬉しくなかったかと言えば別だった。
アイツは絵柄に似つかわしくない、俺の恨み言が書かれたカードを開いてみせる。追憶に夢中でロクに聞いていなかったメロディーが流れる。今聞くとなぜかチャチには感じられない、オルゴールに似た電子音。
目の前にいる馬鹿はメロディにあわせ、上手くもない鼻歌を枯れた音調で歌い始める。冬本は26の俺よりも4つ上……。めでたく三十路になったのか。それでもオッサンなのかガキなのかが相変わらずわからないが、大人しく俺は聞き続けた。脱ぎ捨てられたくたびれた灰色のスウェットを手にとると、大好きなコイツの匂いが染み付いていた。
「尻尾が揺れてるぞ。変態なんじゃねえか。亮二」
「うっせぇ……。お前のせいだ……。首のあたりがよれよれじゃねえか。いい加減買い換えろよ」
「クンクン嗅ぎながら、そんな事いわれてもよぉ」
やがて興奮を帯びた唸り声を耳元で聞かされると、馬鹿でかい体に包まれなおされる。こたつに入ったままだったから熱すぎるくらいだったのに、氷ついていた何かを溶かすには丁度いい位に感じた。
[newpage]
[chapter:3]
二人並んで駅へと向かう道のりは、相変わらず遠かった。しかし……。
駅へと大分近づいた頃、見慣れない店の前で冬本は足を止めた。
「戻ってきてたら、カレー屋ができたんだよ。亮二もきっとはまると思うぞ?」
クリームパンを食べたばかりの俺に、腹がへっているかの確認もせずにとっとと建物の中に入っていく。仕方ないので俺も後を追った。
中に入ってみるとカレー屋にはとても見えなかった。ウッディな店内には芳しいスパイスの香りが漂ってはいなくて、出されたメニュー表をみるとやはりカフェのようだった。
あまり腹が減っていないのでドリンクだけでいいかなと考えてる途中に冬本は手をあげて店員を呼び寄せる。
「ビーフカレー二つ。お前は何のむ?」
コイツの気に入らないところまでもすぐさま思い出した瞬間だったが、今日は二人で食べれるのだからと口論するのをあきらめてしまった。
「大盛りにできるみたいだぞ? いいのか?」
メニュー表を読むのが面倒くさいというのが、コイツの口癖だったから、まさかとは思ったが。やはりか。
「え゛! じゃ、是非それで」
「かしこまりました。セットのドリンクはいかがいたしますか?」
手書きの注文表でメモをとる、綺麗な猫人の店員に告げられ、俺はオレンジジュース、冬本はバナナジュースを注文した。
駅から少しだけ離れた場所がらか、そこまでは混んではいないし、都内の割には席も広かった。
店内部分ではないであろう2階へと続く階段には様々な小物が飾られており、
つい目を奪われてしまうと、視線を感じ、ついアイツに突っかかる。
「いい年してバナナジュースなんて頼んでんじゃねーよ」
「お前だってオレンジジュース頼んでんじゃねーか」
そう、俺だっていい年だった。しかし、コーヒーは飲んだばかりだったから、
仕方ないだろう。こんな下らない言い合いをずっとしていたのだったな。
やがてカレーが運ばれてくると、先ほどハーフサイズにしなかったことを後悔する。大盛りにできると知らなかったということは、普通のサイズにもそれなりに満足していたのだろう。なぜそこまで考え付かなかったのだろう。
トマトスープはカップだし、添えられたサラダは小洒落ているのに、盛られたカレーだけは豪快だった。100グラムはあるであろう、カットされた牛肉と揚げられた野菜が大きなオーバル皿の上にご飯と共に盛られている。
好みでいれてくださいと添えられたフライドガーリックをこれからの事を考えていれるかどうか悩んだ後に、結局かけずに口に運ぶ。
辛味の少ない、カフェらしい優しい味付けだった。しかし物足りないわけではなく、甘いスパイスの香りに食欲をそそられる。牛肉もかみ締めるほどに旨みが広がり、少しだけ堅いのが不思議と丁度よく感じた。
「やっぱ旨いところにきてもよ、お前がいないと、つまらなくてよ」
そういいながら、ガツガツとかき込むあいつの姿を見ていると、それだけで幸福感を感じる。やつれた頬が戻り、前のように腹をさすりながら、ズボンのサイズに心悩ますときまでは、「食いすぎなんだ、アホ」なんて言葉をかけずにおいてやろう。
頃合を見計らい運ばれてきた、細長いグラスに注がれたバナナジュースは見てるだけで胃液がこみ上げてきそうなほどに甘そうだったが、本格的なものなのだろう。俺の注文したオレンジジュースも濁っており、フレッシュジュースだった。絞りたてのジュースは当然美味しいものだった。
夜でもないのに高い店だなとメニュー表をみた時はおもったが、今になって納得する。勝手に決められる冬本の向かう足の先は、結果的には俺まで満足してしまう事が多い。適当な癖に……気に入らない。
会計を済まし、店を後にする。
暖かい店内になれてしまうと、先ほど感じなかった寒さが少しきつく感じた。
「寒い。早くホテルにいこうぜ。チェックインの時間にいかないと
もったいないだろ?」
だから、アイツの顔をみずに、足早に駅へと向かった。
「お前の分のガーリックチップもくっちまったからな、覚悟しておけよ」
……そんな声にも振り返らずにいると、掴まれた。痛い。
「すげぇ揺れてるぞ。覚悟なんていらないんだな。亮二は欲求不満なん……でっ!!!!」
靴を履いたままにもかかわらず冬本の脛を蹴ると、また俺は歩きだした。
[newpage]
[chapter:4(R)]
目的の場所へはすぐだった。待ってろよというアイツの言葉通りロビーの窓からの景色を大人しく眺める。眼前に広がる光景にいつまで経っても息をのんでしまうのは、田舎から上京したせいなのか……。
考えていると腕を小突かれた。部屋への案内などが省かれた合理的なホテルであり、ベルマンとのきまずいエレベーターでの時間を過ごさなくていいのだから、
俺にとってはかえってそれがありがたい。いくつかのエレベーターの一つには他に客が乗っていなかったので、足を踏み入れて、カードキーをかざす。
24Fに灯が灯ると、間もなく扉がしまり、密室になる。
上り詰める間に何度かのキスを天上部に取り付けられたセキュリティカメラに気にせず交わす。あいつはもちろん、その存在には気づいていないのだろうが。
カードキーを通し客室への扉を開くと、以前とは違っていた部分があった。面してる部屋の向きが違うのだ。たった一つの要素なのにこのホテルにおいてはそれが何より重要だった。
「おおっ!! 去年は何も見えなかったからなあ!」
あの時眺望を望めると思ってばかりいた俺達であったが、実際逆側は住宅街に面しており、夜景など望めなかったのだ。
「2000円払って、副都心側指定にかえたんだよ」
「すごいな、やっぱり」
タイムズスクエアやまだ灯っていないイルミネーションをコイツとまた
見れる日がきているのだから、不思議な気分になる。しかも復縁したその日になんて。
「猛(たける)……」
「いきなり名前で呼ぶんじゃねえよ。誘ってんのか?」
ずっと別れる直前のように名前で呼びたかった。案外、口にだしてみると簡単だった。見上げると、俺を得意気に見下ろしている。でも俺はそんな気分ではなく……。
「な? 添い寝してくれよ」
あまり広くない部屋のベッドに適当に服を脱いで、あがりこむ。
年上の男に対する誘い方などわからないが、とりあえず近くに来て欲しかった。
「二人っきりになるとすぐこれだからな。可愛いやつだ」
こういった時ばかりかっこつけるところが気に入らない。
それがしっかりとサマになってるのが嫌なのだろう。適当な奴の癖に。
「お前の事をどれ程大事に思っていたかを、いなくなって初めてわかったんだ。
猛をふったのは俺なのによ」
目に付く部分だって多々あるのだが、それを含めて初めて猛になるのだろう。
どういった要素も俺には必要だった。猛よりも駄目なやつでも猛よりも出来すぎた奴でも駄目だった。
「亮二、大人しいお前を見るのは久しぶりだな。さっきまでは生意気だったからよぉ」
「ホテルなんて予約しなくてもよかっただろ? 俺はお前の部屋ですぐにこうしたかったんだ」
ブラインドが閉ざされた部屋では絶景などなく、暗闇に包まれていた。ルームライトのツマミをアイツがいじると、弱い光が部屋を照らす。がっちりしてるなりに
こけた頬が目に入って、そこをなぞる。
「くすぐってえよ……」
「少しはお前も寂しかったんだろ? 仕事だって辛かったみたいだしな」
「あっちは家賃もすげぇ安かったんだよ。だから住んでたマンションよりも広い部屋を選んだんだよ。しかしそのせいでますます亮二がいない事に物足りなさを感じてよ」
「大晦日に、俺の部屋にあるお前の全てを捨ててやろうともったんだよ。一年経っても使わないものは捨てるべきだってTVでいってたからな。
でもよ……どうせ捨てられなかったんだと思う。お前からのメールが来なくてもさ」
今は二人きりだ。男同士というしがらみも、この場所ならば、気にしなくてもいい。ただ、ずっと俺は寂しかった。それを素直に伝えたくなってしまった。
「また……転勤する事になるかもしれないのか? 俺、もう嫌だぞ」
「どうだろうな。ただ向いてねえって判断されたのかもしれねえし、しなくても
すむかもな。俺、独身だけどよ」
子供なんて俺達には作れない。だから引き裂かれる関係など考慮されないのだろう。しかし、元の部署に戻れたというのならば、もしかしたら、このまま……。
「もし転勤になったとしても、もしまたお前にフラレても、今度は許さねえぞ。
新しい男を作れない、もてねえ奴だから仕方ねえだろ?」
「もてないのかな。やっぱり?」
「……そんな事はねえと思うよ。でも俺がモテないで欲しいんだ。お前にはさ」
どうしてこんな奴に捕まってしまったのだろう。また遠く離れてしまうかもしれないのに。でも、もう手遅れなんだ。俺の心はとうに……。
「可愛いモードのおまえをもう少し見てていたいんだが、悪いがコレが
いう事を聞かなくてよ」
柔らかな布地のあいつの下着からは、もろにその感触が伝わってくる。
「猛……俺」
「寂しかったんだろ? コレがないとお前は駄目なんだよ。もうお前が何をしようがにがさねえけどな。知ってるか? 好意のある相手にストーカーされる分には合法ストーカーって言葉があるように許されるんだよ」
ふざけた猛の言葉を無視して手をつっこみアレを直接触れてみる。
「なんだ。そのもの欲しそうな顔は。亮二、最後に抜いたのはいつだ?」
「……一昨日」
「俺との一夜を思い出したんだろ?」
「うっさい……」
「ああ、もったいねえな。おっ?」
ベッドについた様々なボタンから猛が一つを押すとブラインドが広がっていく。
一気に昼間の光が差し込み、眩しかった。
「お前の体がよくみたくてよ。部屋もあったまったし、そろそろ布団からでようぜ」
「……このままやんのかよ」
あいつにもみえているのだろうか。布団からでた俺の尾が揺れているのを。
本当に嫌な習性だと思う。
「景色代がもったいねえだろうし、お前も見たいだろ俺の色んなトコロをよ」
壁側に寄り股を開いた格好のアイツの腹は前ほど膨らんでいなかったが、しまった肉の量はあいかわらずの様だった。いい体をしてると思う。俺なんか、太っているわけではないものの、身長も170を超えない程度で貧相で微妙な体系だ。アイツの好みであるならば、それでもかまわないと思うが。
「猛。いいか?」
「いいぞ。そんなに喜ばなくても逃げねえって」
腹を覆う白い体毛のあたりに、鼻を伸ばす。少し脂っこいような汗の匂いを感じる。一舐めしたあとに、より強く匂いと欲望を発する部分へと近づいていく。
しかしすんでのところで頭をとめられた。
「その前にお前のアレがどうなってるか俺にも見てみてえ。正座……してみろよ」
「なんだよ……」
裸体のまま立ち上がると、ぴんとその部分が立つ。言われたとおりに座りなおすと、当然第三の足が突き出た格好になる。ニヤニヤと下卑た顔で見るあいつの顔に羞恥心が湧き上がる。
「男のチ○ポにありつけると思ったら、すぐこうなるのな」
目をそらしてしまうと、足で無遠慮に俺のを動かしてくる。
弱く息を吐いてしまった後、アイツをついみてしまう。
「大分いつものお前になってきたな。昼間からこんな事して、変態だな
お前は」
罵られながら猛の足についた柔らかな部分が俺のアレの頭のあたりをなぞる。
「猛。もう俺……」
「コレが欲しくなったか。ちょっと苛めてやると、すぐ素直になるよな」
「猛……舐めさせろよ」
言いなれていた言葉なのに、やはり恥かしかった。こちらから望みを口にしないとありつけないせいで、こういった言葉を言わされてばかりだった。
「やっぱお前は可愛いな。仕方ねえな。はやくしろよ」
猛はみせつけるようにまた足を広げる。
その間に顔をよせて……。
「まずはいつものように鼻でかいでみろ。お犬様だから、言わなくてもそうするんだろうが」
鼻先にアレがあたるとどうしても舌をのばしたくなるが、言われたとおりにまずは匂いを堪能する。俺と出会う前から使い込んでいたのか少し黒ずんだそれは、手でひらいてやらないと、完璧には露出しない。皮から露出したわずかな部分にぴったりと鼻をよせて、思い切り吸い込む。痺れるような臭気と雄の匂いを夢中になって楽しむ。
「いつもこうなら、もっと可愛いのにな。亮二」
もう思うように反論ができない。そんな事よりも俺は……。
めくりあげてついに味を楽しむ。苦いようなしょっぱいような、そして熱くほどよい堅さ。皮をめくりあげながら何度も口で往復していると、やがて戻らなくなる。そこまで大きくなかったくせに、その頃にはすっかり、それなりのサイズになる。
夢中に味わっていると、猛の足が重力でたれさがった俺のあれをまた刺激してくる。
その手荒な快感と感触にたえながら、夢中で染み出てくる液を楽しむ。
「裏筋のとこ、頼むな」
頼まれたとおりに舌を這わすと、普段おさまってるせいなのかわからないが、より濃厚な味を感じ取る。
少しだけ体を離すと、今度はひざ立ちになったアイツから口へと突っ込まれる。
そして伸ばして手に尻尾を掴まれた。へなへなとなってしまいながら、迫力のある猛の声を聞き取る。
「もう逃がさねえぞ。他の男に貸すサービス期間は終了したからな」
掴まれた手を離されると、あいつの笑い声が聞こえる。
「嬉しくて仕方ないのか。亮二」
仕方ないだろう。大好物を前にしている上に、好きだったのに二度と逢えなかったはずの人物にこんな風にされてしまっては。
しばらく口にアレをつっこまれたあと、アイツの体にのっかるように体をひっぱられる。
「俺以外の男と何人やったんだ?」
「それどこじゃなかったよ。寂しくて他の奴をさがしてる余裕なんて……」
「亮二……一途な奴だったんだな」
アイツの頭をつかみ舌をのばしたままキスをする。
少しだけ気まずそうな顔をするあいつの真意がよくわからなかった。
「俺は何人かとやったなんていったら? 怒るか?」
「え?」
そうだ。当たり前のはずだった。今日まで想像してきた猛と夜を共にする
霞がかった人物。やはりいたのか。
「! おいっ悪かったって。 お前が俺をふるからいけねえんだろ?」
「別に猛は俺じゃなくてもいいんだな。俺は……」
「どいつもこいつもすぐあきちまったよ。そんなにしょげるなって」
いつのまにか俺の下半身をつかみ、自分のアレとこすりつけてくる。
「な? 機嫌直せって……」
弱い声をあげてしまうと、段々とアイツの視線が鋭くなってくる。
「目をそらすな……」
湧き上がる嫉妬心とアイツの目線の強さにおかしくなってしまいそうだった。
「コレが欲しいんだろ? 亮二? でもそろそろ俺のお楽しみの時間だよな」
消えない嫉妬心のまま、アイツの強引さで、体が勝手に開かれていく。ついに自分の尻に……アイツの指が。
「こっちを広げたりはしてなかったのか?」
「あんまり……好きじゃねえもん」
「処女膜が再生してしまったんだな。2回目のヴァージンも俺が奪ってやるよ」
「そんなもん、女じゃねえから、ついてねえっていってるだろ? ……っぐ」
アイツの体にのりながら、何かを入れられる。遊びなれたあいつのよくわからないおもちゃの一つだろう。
「頑張れよ。亮二」
そこまで痛く無いと思っていたのだが、電子音を感じ取ったあと、段々と体の
内部を揺さぶられる。
「くアッ……!」
なんともいえない様々な傷みや何かを受け止めるように抱きしめてもらったまま
どうにか耐え続ける。
「いきなり入れてやるのは無理だよな、仕方ねえ」
今日は軽めにしとくしかねえよなといいながら一度俺のおもちゃの動きをとめると、口の目の前にアレを持ってくる。
「やっぱ、この程度のでも痛いだろ。でもよ、これおかずにして自分でいってみろよ」
スイッチを入れられると、同時にあいつのあれが俺の喉を犯してくる。
えづきそうでえづかないくらいの絶妙な加減と染み出る味に興奮が高まる。
「フェラさせるならお前に限るよな。ぐっ……ぅるるるるる」
頭上から響き渡る唸り声にまた俺はやられてしまいそうだ。
「手が遊んでるぞ。大好物をオカズにいっちまえよ」
どうにか手をやると、べとべとにこそなってはいたが、なえたままだった。
自分で扱いてみても思うようにはならない。
傷みは大分鈍くなってきたが、久しぶりすぎて、思うように快感を感じ取れないのだろう。慣れれば前のようになれるとは思うが。
内部を揺るがすなにかと、口内に広がるあいつの匂い。
それらに必死に耐え続けてもなぜか、アレは萎えたままだった。
ついに限界を感じて息苦しくなってアイツの体を叩いたあと、やっとあいつは
俺のなかにいれた異物を抜き取ってくれる。
「処女にいきなりは可哀相か。この位で許してやるよ」
「猛にしては……優しいな」
「そうか? さ、続きをしようぜ。舌で奉仕しろよ」
すっかりとぬめったアレをなめていると、ナカで邪魔していたものが
なくなったせいであっという間に、俺のも……。
「今度はいけるだろ。大好物だけだもんな」
口に飲み込んだままでアイツの言葉に辱められるだけだ。
そして俺も限界だった。
自分のを可愛がる。しかし……急に頭をどかされ、アイツはベッドから降りてしまった。
「さ、続きはこっちでしようぜ」
あと少しでイけそうだったのに……。
スリッパを履いた後、立ち止まっていたアイツに追いつくと抱きついた。
「猛……」
お互いのアレをつきつけながらもキスをする。
脇にいれられた手の感触と、触れ合うコイツの体。
「さあ、風呂に入ろうぜ」
嬉しそうに尾をあげたアイツの後についていくと、狭いが洗い場のついた
バスルームが姿を現す。
興奮したままの姿でシャワーをあびたままもう一度抱き合うと、心地よい湯の暖かさと流れでべとべとの体が少しは洗い流される。
「前みたいに洗ってやるよ」
猛にそうつげると、アイツはホテルにしては珍しい風呂の椅子に大人しく腰掛けた。ボディソープを広げ、アイツの体の一部分一部分を確かめるように様々なところを洗ってやった。首の辺りをこすってやるとくすぐったそうにしているので、ついつい怒られるまでつづけてしまった。そしついに椅子の前にたつ。
玉のやわらかな感触を楽しんだ後ぶくぶくとあわ立ててそれを扱く。
風呂嫌いな猛は俺とともにじゃなければ好んで入らない。今まではどうしていたのだろうか。やはり他の男ともたまに……。
シャワーでお湯を流すと、前のように最後は俺の口で。
むけきったそれをもう一度、口に入れる。
「相変わらずサービスがいいよな。今度こそいっちまえよ。俺も飲ませてやるからよ」
その言葉だけで先ほどまでの欲望が戻り、猛のアレの先走りまでもが出始めたときに限界を感じて吹き出してしまう。
「いっちまったか・・・少しだけまってやるよ」
少し息を整えたあと、もう一度アレを口に含む。
「くっ……相変わらずフェラテクだけは非処女だな」
気に入らない言葉をかけてくるあいつに喉まで使って奉仕する。
「ぐ・・・ぐぅるるるる・・・・」
先ほどまでの楽しげな目はなりをひそめ、少し苦しそうに快感に耐えている。
それを感じながら、口をすぼめて、より刺激を強める。
「亮二……ぐぁあっ!」
はじけた液を口に含んだまま離れ、アイツが見えるようにすわり直して
嚥下する。粘ついた雄の味に俺は満足した。
「金のかかる店よりも亮二のサービスの方がいいんだな。やっぱり」
褒めているつもりなのだろうが、俺にはそうとれなかった。
つい不機嫌になってしまい、やっと本調子の俺に戻る。
「猛。暑苦しいからとっととあがれ。狭いんだよ」
「あ~!! まずいこといっちまったな! そんないってねえよ。3回位しかいってねえって」
「……浮気物は出てけ!!!」
毒づいた俺を捕まえたアイツにさらに思い切り抱きしめられると、やがて追い出すのをあきらめた。バスタブのお湯がたまるまでの間、大人しくぬくもりを感じ続けた。
[newpage]
[chapter:5]
ホテルから外に出ると、吹き抜ける寒気に驚く。時間はまだ5時なのに、とうに空は暗くなっていた。2月位まで行われているイルミネーションはまだそのままで、数日前にみた光景を猛と共に見る。
「冬本は一年ぶりか?」
「いや、仕事で立ち寄った時に一度みちまった。勿論お前と歩いたときを
思い出してよ」
別に外でも猛って呼んでもいいんだぜという言葉を無視して、連なる
電飾を少しづつ見物していく。バッグなどは客室に置いてきたので、身軽なものだ。緑色に輝くツリーを模した頂点には黄色い星が輝く。俺の気分はまだクリスマスのままだった。
「猛、好きだよ」
カップルも気にせず二人その前にたつと、そっと、耳打ちするように言葉を伝える。珍しく効果があったらしく、猛が照れる。しかし、すぐに何かを思いついたように半笑いになる。嫌な予感がした。
「とりあえず、一枚取ろうぜ」
俺はいいよという言葉をつげるまえにパシャリとデジカメのフラッシュが俺を襲う。どうせちゃんと撮れていないと何度でも繰り返されるのだから、恥かしい時間を早くおえたくて、2枚目は素直にカメラを向いて、笑顔をみせた。
あの写真にも負けぬ笑顔が保存確認画面には表示されていて、恥かしいんだよと
照れ隠しをつげながらも、嬉しくなってしまう。
去年座れなかった椅子を今年もまたやり過ごすと、今度は街路樹全体を光でつつんだ散歩道が姿を現す。暗闇を照らす無数の光に歩みを止めていると、そっと
俺の頭を猛が撫でた。
「冬本。外では、やめてくれよ」
「知らねえな。俺がしたいと思ったときにさせてもらうだけだ。別に全裸で抱き合ってるわけじゃねえんだ。関係ないだろ?」
人ごみの中だから聞こえてはいないと思いたいが、もう少しだけ小声で言ってくれてもいいだろう。まだ見ていたかったのに、恥かしくなって俺は足を速める。
溜息とともに追いかけてくるあいつの姿は追い求めていた幻影ではなく、
紛れも無い実像だった。追いつかれたあいつに手を取られる。
吐く息の白さと暖かなアイツの手。俺だって繋いでいたいが……。
やがて見える道の果て。道の逆側へと渡り帰り道をも楽しもう。
ビルに垂れ下がった光の川や、乗り込めるようになっている、電車の模型。
早くも少し飽きてきたあいつにも気にせず、俺は年甲斐もなくそれらを
楽しむ。このイルミーネションの名称がきざまれた看板の前では後ろの何組かが迷惑そうにこちらを見ているのに気づくまで、その場に留まったほどだった。
「いつもおっさんのくせにガキ臭いとかいってくるくせによ、こういうのは
本当にすきな。亮二」
「……うっさい」
くしゃみをする三十路をこえて名実ともにオッサンになったアイツに、仕方ないから俺のマフラーを貸してやる。
「だから、置いてくるなっていっただろ? あほか」
タイムズスクエアに立ち寄ると、地下にある、少し高い、飲食店の群れを冷やかす。少しだけ背伸びしたワインと、チーズだけを買って、ハンズへと場所を移した。俺とは違うものに目をつけては、次々とカゴに放り込もうとする猛を窘めて
後悔しない程度の無駄遣いに留めておくのがいつもの俺の役割だった。
「このドライバー、かっこよくね。きっとネジも回しやすいとおもうぜ」
そう主張してはいるが、別に俺には普通のドライバーにしかみえなかった。
「お前が買って放置してた組み立て家具を完成させたのは誰なのか覚えてるか?
あんとき、お前の工具箱に何本ドライバーが入っていたと思う?」
「ケッ」
悪態をついても俺の前では無駄だ。
製菓コーナーに辿り着いたとき、買ったばかりのケーキ型を思い出す。
「そういえばよ、ケーキ型買ったんだ。なんだか、悔しくなってな。
一人でなんでこんな所きちまったんだって」
うまく言葉にできず意味のわからない事を口にしてしまった。それなのに……。
「悪かったな、亮二」
猛は意味をうまく汲み取ってくれて、そっと俺に目線を合わせてくれた。
「相変わらず年末年始の休みは俺、結構もらえたんだ。お前が仕事の日にでも
簡単な物をつくっておくよ。一緒に食べて……くれるよな」
「最近はケーキ屋ばっかで買ってたからな。どうしても見劣りしそうだが、いいぜ。お前の手作りだもんな」
「偉そうだな。冬本」
無駄だとわかっていても、ついついケーキ用の箱を手にとってしまう。
別にそのままアイツの家に持っていけばいいだろうし、俺の家で食べてもらったっていいはずだというのに。
「生クリームはとびきりいいやつを買わないとな」
「泡立てるのはお前だぞ? 俺はホットケーキミックスで作る手抜きケーキにするつもりだからな。ホイップなんて面倒くさいんだよ」
そんな事をいいながら、次の売り場へと……。
つい最近同じ場所を巡っていたはずだというのに、あいつと共にいると何もかもが、魅力的に見えた。くだらないものはそのくだらなさを、精巧なものには値段の高さと、その分の魅力を、俺とは違うコイツの視点で見て欲しい。
そしていつものように俺を振り回してほしい。
そう……思えた。
デパートで走り回るクソガキのように姿が見えなくなってしまった猛の姿を捜さなくてはいけない事になって、振り回して欲しいという言葉だけは撤回したくなった。
残っていたあれ以来一度もかける事のなかった電話番号にかけてみると、定額の証のコールが3度なったあと、アイツの声が聞こえた。
「亮二、どこいっちまったんだよ。すぐいなくなるんだから困っちまうぜ」
……それはこっちの台詞だと思った後に、その通りの言葉をアイツがしょげてしまうほどに繰り返した。
[newpage]
[chapter:6(R)]
ホテル内の中華レストランでちょっとしたコースを頼んで二人楽しんだ後、
客室に戻ってきた。先ほどこみあげていた欲望は大分解消されており、あらためて猛に向き合う。彼は確かに、俺の隣にいた。
「またおまえと付き合えるなんてな、猛」
俺の言葉を返すこともせずただ手を握り締めてくれた。
そのままダブルベッドに二人こしかけ、景色を見下ろす。
イルミネーションだけではなく、高くそびえるビル郡の光と
屋上の赤い点滅、電話会社のビルの上部にある大きな時計塔などが俺達の目を楽しませた。猛に少しの間バスルームにはいっていてもらうと、客室係に、ワイングラスと小皿とフォークを借りた。流石に男二人で出迎えるわけにはいかないから、仕方ない事だろう。小さなサイドテーブルを引き寄せ、ワインとチーズで乾杯する。
「猛といると暖かいからな」
だまっている猛を見ていると、珍しくそっぽを向かれる。
照れているのだろうか……?
TVもあるのだが、今はその耳障りな会話を聞いている気分ではない。
閉じられた空間で彼に心置きなく触れ合う。この感覚、つい一年前までにあった
当たり前の日常を、結局今まで望みつづけたのだ。自分から振った癖に。
「この年になるとよ、涙もろくなっちまって。しかも一人でいる事がこの上なく寂しいんだ。亮二……おっさんを一人にするんじゃねえよ」
すこし聞こえる鼻を啜る音と、重く大きなアイツの頭。
何人の男と寝たのかはわからないが、一度関係を解消したのだから、俺から振ったのだから、それを咎めるわけにはいかない。
だから、素直にお互いの心の空白を少しづつ埋めていく作業に没頭すべきだ。
「俺だって寂しかった。どんなビデオみてもすぐあきるのによ、お前をオカズにするのだけはいつまでたっても飽きなかった。虚しくなって抜く瞬間すら楽しめなくなって困っていた位だ。俺にいろんな事を教えすぎなんだよ。猛はさ」
「亮二ぃ……」
珍しく俺から抱き寄せると、情けないオッサンの声が俺の耳により届く。
仕方ない奴だなと、つい笑みが零れてしまう。
「もっとさ、付き合いを再開するにしてもいろんな事を話し合ってから
決めるべきだと思ってたんだ。それなのに、猛に抱きしめられただけで、
そんな事どうでもよくなってしまった。理屈なんていらないかなって
開きなおっちまったんだよ」
少し酒が聞いてきたのか、いつもより恥かしい言葉をたくさん猛にかけている気がする。2本目のロゼのスパークリングに突入していたのだから、仕方ない事なのかもしれない。顔を汚しながら、アイツもごくりごくりと喉を鳴らしてグラスを空にしている。キャンディのようにくるまれたチーズの包み紙を外してやらないと食べようとしないどうしようもない奴だからこそ、俺は好きなんだろうな。
肩によりかかるふりをして、アイツの少し強い脇の匂いを嗅ぐ。
本当はやる時に堂々と嗅いでみたいのだが、その勇気がでず、甘えるふりをしてそれを確かめていた。段々と若い女性が思わず顰めるような匂いかわっていくのかもしれない。でも俺は、それが楽しみなくらいだった。
「あんまりくっつくなよ。ムラムラしちまうだろ?」
散々以前は体で確かめ合ってきた仲だから、一日に何回も俺がやりたくないのを
知っているのだろう。そして、当然、ムラムラしてなくてもあれなら楽しめることをも。
「ムラムラしてるならさ、いいだろ? 猛」
「……しゃぁねえな」
「ベッドじゃなくて、椅子がいい。あっち座ってくれよ猛」
「はぁっ? 俺はいいけどよ。お前の膝がよごれちまうだろ?」
「だってその方が燃えるだろ?」
「……亮二は変態だからな」
いつもならば猛の部屋のなかだから椅子の前にしゃがみこんでも足は汚れない。しかし今日は土足で部屋内を歩くホテルだからそうはいかなかった。それでも幾度となく思い出していた瞬間を現実と重ね合わせたかった。
ボクサーパンツからにょきりとでたアレを椅子の間にもぐるように奉仕する。
頭をなでてもらいながらそれを味わう瞬間が、とても俺は好きだった。
「すげぇ揺れてるぞ。本当にチ○ポが好きなんだな」
俺が咥えきったあと、ロクに反論も出来ない状態で卑猥な言葉をかけられることすら好きだったのだから、わがままなコイツに奉仕してやると、この上ない満足感が得られた。それでいて、外にいるときの強引さや、何かがあった場合にのみ
みせる大人びた対応までも、しっかりと持ち合わせている。気に入らないが猛はそういう奴だった。
日が変わる頃、少し早めに床に着く。
「猛、前みたいにさ、好きなときにお前のマンションに上がりこんでもいいか?」
「いいに決まってるだろ? 別れたときにはよ、これで急に上がりこまれたり
することもなくてせいせいするとも思ったが……。勝手に上がりこんでくる驚きがなければ、とうに、毎日がつまらなくなっていたんだよな。確実に亮二がいないとわかっている部屋に帰るんじゃ楽しみなんてあるわけがなかった」
「眠りにくるだけでもいい、俺はもう年で寂しいんだよ。一人にしないでくれ
亮二。飯を作ってくれてもいいし、俺が作ったっていい、なんだっていいんだ」
着心地のよいナイトウェアにくるまれ、うすいデュペスタイルのベッドに
二人入る。少し頭をうごかせば、あたるアイツの体にこの上なく安らぎを
感じる。
まだ、復縁して一日がたったばかりなのに、もう離れられないんだなと
確信に近い何かを感じ取る。運命的な相手には稲妻が走る瞬間があるというが、もしかしたらマンションでアイツに抱きしめられた瞬間に走ったのかもしれない。
一度別れた、長く付き合っていた相手にもかかわらず。
二度目の瞬間に訪れるなんておかしい事なのか? しかし……。
しっくりときてしまったのだ。この人しかいない。そう単純に、思ってしまった。
[newpage]
[chapter:エピローグ(R)]
「あいっかわらず狭い部屋だよな」
猛の言葉に俺も何も言い返せなかった。
「でも今も俺の写真を飾ってくれてたなんてな。嬉しいぜ」
風呂嫌いのアイツを洗ってやれるほど俺の家の風呂は
広くはなかった。だから、大人しく部屋で遊ばせていると、
案の定部屋は荒れ果てていた。でも俺はそんな事よりも……。
「猛が抜くなっていうから、俺……」
「へっ。今日もたっぷり苛めてやるからな」
あまり聞かない空調のせいで寒い室内でアイツに導かれ、布団の上に倒される。
「言いつけは守っていたんだろ?」
「お前が五月蝿いから仕方なくやったよ」
この数週間、あいつに手渡された様々なグッズで自分のナカを拡張し続けてきていた。アイツといられる日、自分だけの日問わずに。
「俺がチェックしてやるから、自分でやってみろよ」
3日日前から抜いてなかった俺の体は、とっとと開放させろと俺に命令しつづけており、素直にあいつの言葉に従うほかなかった。ジェルをたらし……。
「うっ……」
「もうこんなのが入るようになっちまったんだな。変態が」
俺の目の前に猛が迫ると舌をからませた濃厚なキスを俺にけしかける。
2箇所以上を同時にせめられると、キスが途端に快感を伴うものになる。
「ちゃんと続けてろよ」
耳元でそう忠告され、また唇を貪りあった。
「さて、次はこっちか。急いで帰ったから、汗だらけだぞ。ご馳走でよかったな?
亮二」
猛は少したちあがり、自分で被った皮をめくりあげた。一段と強い猛の匂いと、
より塩辛い猛の砲身をたっぷりと味わう。
「もっと奥まで動かさねえと駄目だろうが……」
自分で動かしていたおもちゃをアイツに代わりに動かされる。
予測もできない方向に動かされる度にどうにもよろけそうになってしまう。
「すっかり、なれたんだろ? お犬様は奉仕を続けていろ。幸せだろ? 俺に
前の口も後ろの口も可愛がってもらって、なあ?」
見上げると、ニヤニヤと俺の尻の方を眺めていた。それだけで湧き上がる気持ちを
抑え切れなくなりそうだった。
「もういいか、俺も抜いてねえんだよ」
「猛……」
俺の背面にたつ猛が何をしたいのかわかっていた。平均サイズといったところの猛のものでも怖いものは怖い。でもずっと待ち望んでいた事でもあった。
「かわいそうにな、また俺のせいで汚れてしまうだぞ」
「汚れなんて、そんな風にはおもわねえけど」
「責任はとってやるから、俺の好きなように汚させろよ。亮二」
責任……か。
「いいよ。覚悟はできたからよ」
尻におしつけられていたソレを入れて欲しいと思ってもいたが、いざ入り込んでくるとやはり傷みが強かった。それでも、十分に拡張してきたし、耐えられないほどではなかった。やがて、腿がぴったりと俺の尻に張り付く。完全にうけいれたのだろう。
「あーあ。入っちゃったな。逃げられないぞ、どこに逃げても、絶対に追い詰めてやるからな」
耳元で興奮した声を突きつけられ、傷みと恥かしさで息を吐くことしかできない。
そしてより奥に突き入れられたあと、腰を振られ始める。
「亮二。やっぱり痛いだろ? でも許さねえぞ。俺がイクまではな」
どんな傷みも、猛の獰猛な言葉と声を聞けるならば、我慢したくなってしまう。
猛の言う通り俺は変態なのかもしれない。
「聞こえるか、ぐちゅぐちゅいってるだろ? なぁっ?」
「ぐあっ……」
勢いよく突き入れられると、どうしても声をあげてしまう。
「嫌いにならないでくれよ。好きでしかたねえんだから、いいだろ? 痛いのはわかるけどよ。浮気はしねえからさ。な?」
たまに優しい猛に戻ってそんな言葉を吐かれると、もうたまらなかった。
痛くたっていい。一つになってナカでイッてくれるなら、どうだってよかった。
「猛に、好きなようにされてると、痛くたって幸せなんだ。変態かな……俺」
抉られる痛みと荒くなるあいつの唸り声、どんな卑猥な言葉ですら、正直に
うちあけたくなる。いつもこうだった。コイツにアレをつっこまれてしまうと。
「変態だな。だから俺しかみつからねえと思うぞ。だから、お前が寂しくないようにたっぷりとチ○ポをいれてやらねえとな」
「くっ……猛……ぐぁっ」
「お隣さんに聞こえちまうぞ? 仕方ないよな。俺にこんな風にされちゃあな。
ぐっ……くそっ」
どんな事をいわれても、どうにも言葉がでない、しかし嬉しがっている事は丸わかりなのだろうな。俺の体は勝手に感情を示すからだ。萎えている一部分の他のもう一つが。
猛の腕が俺のアレを包んでも、さすがに勃ってはいないようだった。しかし……。
「どんどん漏れてるぞ。亮二は変態だからな」
「あっ、そっちはやめろよ、猛、お願いだ……」
なにかがまずいと体がつげている方向に突かれて、ついそう頼んでしまう。
「駄目だ。やめろってのはな、もっとやってくれって事なんだよ。
あー、締まるな。きつ過ぎるから、緩めてやらねえと」
腸壁をこすられるたびに復活する傷みと、少しだけわきあがる違う感覚。
なにより……。
「猛のが熱いんだよ。駄目だって。ぐあっ……」
「あんなおもちゃとは違うんだ。当たり前だろ。俺がイクまではどんな事も
ゆるさねえぞ」
頭を抑えつけられ、へたり込んだ頭の上に猛が覆いかぶさってくる。
首筋を甘くかまれながら、俺のアレをも可愛がってくる。
「やべえな、抜くの我慢してたせいで、もうやべえんだよ」
……。痛くて仕方ないのだから、その方がいい。でも、もう少し猛の好きなようにされたいとどこかが望んでいて……。
「グォオっ。仕方ねえか今日のところはっ……。グァッ……でちまった。ぅっ…」
やがて注ぎ込まれる液体を吸い込み終わると、傷みは残ったままだがたまらなかった。
「やっぱ最高だった。すぐに慣らして、お前からチ○ポを入れてくださいってねだるようにさせてやるからな」
猛のされるがままにされていると、確かに心地よく、その時はすぐにきてしまうだろう。今はまだ、痛いままだが。
「これ、使えよ」
脱ぎ捨てられたボクサーパンツを渡される、股間がかさなっていた部分には先走りによるしみがたっぷりと付いていた。
「よく俺に見えるようにしこるんだぞ……。いいからとっととやれよ」
「猛ぅ……」
手荒なくせになんだかんだ俺の望みの通りにしてくれる。猛のそういったところが
気に入らない。ますます虜になってしまうだろう?
「そんなに俺のチ○ポの匂いが好きか。いいんだぞ。ほら、自分でいっちまえよ」
無言でその言葉に従う。強い猛の匂いがしみた下着を手にアイツの目の前で俺はがっついてる。それだけで、興奮してしまう。
「あー。変態みてると、俺まで興奮してきちまうな」
俺にもよくみえるように、猛までがオナニーを始めた。
締まった白い体躯と、口ひげを伴った、雄雄しい顔つきの虎人の痴態。
下着を鼻におしつけながら、そんな物をみていては刺激が強すぎた。
「大好きなしゃぶしゃぶは次のお楽しみだ。そろそろ、いきたいんだろ。
俺の前でいっちまえよ」
言葉の通り無遠慮に扱きたてると……。
「猛。いっちまう……俺……」
こみ上げる感覚を限界まで我慢したあと、凄まじい快感とともに液を吐き出した。
「パンツをオカズにいっちまう変態の相手も大変だな」
俺に目をそらさず段々と余裕がなくなっていくアイツの顔と、ぐちゅぐちゅとうなる俺の大好物を交互にみていると、やがて俺の顔をちかづけて、二度目の欲望を
ぬりつけてくる。
「飲ませてくれても……よかったのによ」
「本当にこういう時の亮二は変態だな。もっと、俺以外がドン引きするように
変えてやるよ。楽しみにしておけよ」
さすがにもう一度風呂に入りたかったのだが、それを許してはくれず、堅い体に
包まれて眠りにつく。明日からは、猛も年末年始の休みへと突入するのだから、
楽しみでしかたない。
「誰もが引くような変態になった亮二の事も俺だけは見放さないでやるよ。
明日はどんな事、してやろうかな」
「猛……。好きな様にしていいよ。俺はそれが嬉しいからよ」
「今はデレデレだな亮二。可愛いぞ」
「なあ、してみたかったことしてみていいか?」
「なんだ? もう俺も空っぽなんだぞ……」
アイツの上半身を嗅ぎながら待ち望んでいた茂みに辿り着く。
アレとは違う方向性で、一番匂いが強い場所なのかもしれない。
ついに舐めとると、強い匂いに恥じない濃厚な味がした。
「美味しいよ……猛」
「変態で可愛くて仕方ないなおまえは……。俺の方が逃げられなくなっちまうだろうが」
いつまでも嗅ぎ続けている俺に、「明日、バイブいれながら好きなだけ腋をなめさせてやるよ。もう寝るぞ」と中断させられてしまうと、仕方がないが、また翌日へと持ち越すことにした。
寝静まった後に、「亮二……」と寝言で俺を追い求めている姿をみて、
今度こそ俺もこいつを逃がさないと誓うまでに至った。
空白の一年も二人の遠い思い出話の一つになる位、気が遠くなるまで一緒にいてほしい。なぁ、いいだろ?
了