今は乱世。
今日もどこかで戦が繰り広げられている。
「ぅあたたたたたたた!!!ほぅわたあ!!」
戦場の中では宇都宮広綱という男の姿があった。
「何でこんな時に織田がせめてくるんだッ!!」
だが、肝心な織田信長も、明智光秀さえもこの戦場にはいない。
ここでしきをとっているのは
ただの一般兵だった。
「何が目的なんだッ・・・・くそっこの宇都宮広綱をなめんなよ!」
なかば無我夢中で宇都宮は敵を蹴散らしていく・・・・
いつの間にか霧が晴れたことにも気がつかず、
ただ夢中で・・・・・・
その時だった。
「織田鉄砲隊!てぇーーッ!!」
何処からか、はるか宇都宮の後方からそんな声が聞こえた気がした。
パンパンパンッ!!
銃声が鳴り響く。
・・・・織田鉄砲隊だと・・・・・ッ!?宇都宮の叫びは銃声によりかき消された。
・・終わった・・・・俺はここで死ぬのか。
覚悟はしていたが、死ぬことがこんなに簡単だったとは・・・
だが・・・・背中に痛みはこない。
かわりに
獣のかすれた声が空に響いた。
振り向いた時に目に飛び込んだのは
真っ赤に染まった虎の姿だった・・・
「・・・・・・ッ!!!虎アァァアアァアッ!!」
宇都宮の叫び声が戦終了の合図となった・・・・・・・・・
「虎ッ!!虎アアァァアアァアアァアァ!!!!」
「宇都宮さん!!変です!織田軍がひいていきます!!」
「・・・・・・くそッ・・・最初から・・・・ッ」
それが目的かッ!!
俺の戦力をそぐこと。
それが目的かッ!!!!!
こんなことを考えるのはあいつしかいねえ・・・・
明智光秀!!!
俺は自分で殺したいってか・・・・?
その前に虎を殺して俺を苦しめたいってか・・・・・?
いろんな考えが頭をよぎるが、今はそれどころじゃなかった・・・
「虎・・・・・・ッ」
グルルッと虎はうめく。
「・・・・・・・・・・何で・・・・」
医学の知識なんぞなくても分かる。
助からないほどの重症だ。
「なんで俺なんか・・・・・」
この虎は小さい頃から共に過ごしてきた大切な友達だった。
「何で俺なんか守るんだよ・・・・・」
ポツリと静かに呟くと、そばにいた兵士が同じように呟いた。
「この虎は・・・宇都宮さんを守ることでこの場所を守ったんじゃないでしょうか・・・この虎には織田軍の狙いが分かってて飛び込んだんじゃ・・・・」
この虎は頭が良かったですから・・・・と名残惜しそうに呟き、軽く会釈すると兵士は戦の片付けをしにいってしまった。
お前・・・・・・・わかってたのか?
わかってて俺のところに来てくれたのか?
死ぬと分かってて飛び込むって・・・・・どんな気持ちなんだ?
宇都宮の頭にはぐるぐると言葉がまわっていた・・・・
生まれてから体の弱かった宇都宮はこの虎とよく遊んでいた。
どこぞの森からはぐれたのだろうか。
まだ赤ちゃんの虎を小さい宇都宮は拾ったのだった。
「・・・・考えればずっと守ってもらってばっかだったな。」
小さい頃体が弱くていじめられていた時も。
床に伏せていたときも。
寂しかった時も
ずっとこの虎は一緒にいてくれていた。
「・・・・・なんで・・・おれをおいていくんだ・・・・」
呟いても虎は目を閉じたままだ。
まだ生きている。
でも血に濡れた体はもう時間は長くない事を
何よりも物語っていた。
「・・・・・今・・お前を守ってやれていると思っていたんだけどな・・・・・」
そっとやさしく頭をなでる。
いつまでも守られているのは嫌だった。
守る者になりたかった。
俺は守りたかったんだ。
お前という
友達を。
「・・・・・・・逝くのか・・・」
他人事のように、でも
どこか自分のことのように
静かに呟いた。
「拳法とか意外と覚えるの大変だったんだけどなッ」
ハハハッと笑っても
笑えない。
笑った顔からは
涙しか出なかった。
「・・・・・・・ごめん・・・」
「・・・・・ごめんな・・・」
でてくるのは謝罪の言葉ばかり。
あふれる涙に比例して
謝罪の言葉は募っていった。
今までごめんな。
無理させてごめんな。
辛かったよなごめんな。
守れなくて・・・・
「ごめんな」
・・・・こんな俺で。弱い俺で。
お前を笑顔でおくってやる事すらできない。
本当にごめんな。
もう一度虎はグルルと喉を鳴らすと宇都宮の頬をゆっくりなめた。
「・・・・・・・ッ」
もう、泣くな。と言いたげに虎は強い瞳でにらんでいた。
「は・・・・ハハハッ」
なんて強いんだよ。どうしてそんなに強くなれるんだ。
虎はあきれたようにまた目を閉じる。
「・・・・・そう・・・・だな・・・!!もう泣かねえよ俺!!」
フンッと満足そうに虎は目を閉じたまま微笑んだ。
お前ががんばるなら・・・俺もがんばるから。
「お前が死んでも悲しくねえよ!!だって俺にはまだ守らないといけねえものがあるしな!!」
お前が守った
この場所を
「・・・・・・・大体お前の名前覚えてねえし。心置きなく逝ってくれて俺はかまわねーよ!!」
豪快に笑いながら虎の頭をなでる。
虎はもう一度目を開けて、
喉を鳴らし、笑って、
また目を閉じた。
きっとその目はもう二度と開かないのだろうと
宇都宮には分かってしまった。
「・・・・・・・・・・・俺・・・・笑顔だったよな?」
笑った顔からはまた涙があふれた。
「お前の名前覚えてないなんて嘘だ・・・・馬鹿・・・・・笑顔なんて残すんじゃねえよ・・・」
ちゃんと俺は笑えてたよな
いつもの俺だったよな
お前の最後に見たものは
笑顔の俺だったよな・・・・・・?
震えた手でなおも虎を静かになで続ける。
もう鳴かないと知っているのに。
もう一緒にいれないと分かっているのに。
それでも宇都宮はなで続けた。
どこかでまた、剣と剣のまじりあう音が鳴り響く。
また・・・・・・・・戦のようだ。
お前がこれからいないけど
俺はいつものとおり頑張るよ。
だから見ててな
「・・・・・ありがとな・・・楽しかった」
涙をふいて宇都宮は立ち上がると
空を見つめて静かに微笑んだ