11話 イチ、ビキニアーマーを着る(4) よせあつめ外伝26
ビキニアーマーを装備したイチとイルハは自分たちを後から尾けていた変態紳士、カークとヌースを引きずり出す事に成功した。
変態紳士ふたりは遺跡の床に正座させられている。
目の前にはライフルを提げたイチが怖い表情をしていた。
その後ろにはイルハが恥ずかしそうに隠れている。
そしてシャネルがこの場の様子を楽しそうに眺めているという構図だ。
「どういうつもりだ。人の尻を追いかけまわして」
イチは気が付いていないがビキニアーマーのショーツ部分が食い込み、生尻が少し見えていた。
なので「尻を追いかけまわす」という表現は的を得ている。
「わ、我々はそんなつもりでは!」
「お尻などととんでもない!」
カークとヌースは目の前で両手をふって誤魔化しているがまるで説得力がない。鼻の下が伸びきっているからだ。
目の前に実においしそうに実っているイチの双丘が、そしてその奥に豊かに零れ落ちそうなイルハの双山があっては仕方のない話かもしれないが。
「イチさん、あの機械はなんでしょうか」
イチの後ろのイルハがカークの腹に抱えた四角い箱を指して言った。
好奇心より見知らぬものへの警戒が強い。
「武器にしては取り回しが悪いし、楽器かなにかにも見えるが。ううむ」
しかしイチもその箱が何に使うものか知らない。
が、ここでシャネルが興奮気味に口を挟む。
「カメラっすよ! 最新型じゃないっすか! いいなあすごいなあ!」
シャネルにはカメラの知識があったらしい。
「へえ、これがカメラか! 実物を見るのは始めてだ!」
イチは素直に感心した。
カメラというものがあり、風景や人物を写し取る装置があるとは知っていたが実物を見るのははじめてだった。
「なんだか僕、怖いです」
イルハも同様にカメラの知識がない。
姿を写し取るという装置に現実感がなく、魂を奪うような装置とでも思っているのかもしれない。
「それで、このカメラでどうするつもりなんだ?」
写真を撮るつもりなのだろうが、イチには写真を撮るという行為の実感がない。
発明に初めて触れた者はこんなものだろう。
「お嬢さんがたがあまりにもきれいなもんだから、写真が撮りたいな、なんて」
カークは誤魔化すような笑いを浮かべながら。シャッターを切った。
カシャッ、という乾いた音に思わずイチはライフル銃をあげた。
「な、なにしたんだ!? 今何をした!?」
「ひぃ! 銃を向けないでくだされ!」
カークにもヌースにも銃を向けられた経験はまるでないのだろう。イチにも攻撃の意志はないのだが、見慣れない機械に警戒心が拭えない。
「写真を撮ったんすよ! いいなあカメラ! うちも撮って欲しいっす!」
カークを庇ったわけではないが、シャネルの言葉は助け舟を出す形になった。
「もちろんですとも! ヌース氏! 行きますぞ~~~!」
「あいともですぞ!」
ヌースとカークのコンビネーションは見事である。
カークがシャッターを切る絶妙なタイミングでヌースは右手にマナを集中させ発光魔法によりストロボ役を務める。
これなら薄暗い遺跡の中でもちゃんと露出が取れるだろう。
「なんなんだ、これは」
「さあ………………僕にはよくわかりません」
シャネルがポーズを撮る度、シャッターが切られる。
カークがシャッターを切ればヌースが発光魔法でストロボを炊く。
そして新たな感光版をカークに渡す。
カメラでの撮影をはじめて見たイチとイルハにはその行動がさぞや奇妙に見えたのは間違いない。
「そうだ! イチさんとイルハさんも撮ってくださいっす! 写真ができたら宣伝に使うので!」
「「むほぅ!」」
カークとヌースは興奮の声を揃えた。
「お許しが出ましたぞ! ヌースさん!」
「光と感光版はお任せください!」
シャネルの許しを良いことに、カークはレンズをイチとイルハに向けるとシャッターを切り始めた。
「むほおおおおおおお!! この画角! この生感! たまりませんぞ~~~~~!!」
イチの健康的な胸、鍛えられたウェストが生み出したくびれ、魅惑を飾るふとももを。
イルハの豊潤な胸を、鍛え上げられ実戦的な縦筋を描く腹筋を、ゴムまりのようにしなやかなふとももを。
レンズに捉える度にカークはシャッターを切った。
「くおおおおおお! 感光版はまだありますかな!? くおおおおおおお!!」
連続で撮影するのに少なくとも30秒の感覚を要していたこの時代にカークとヌースのコンビネーションは世界を縮めていた。
カークがシャッターを切る、ヌースが感光版の交換を絶妙なタイミングで補助する。
「最新の薄型感光板をお舐めでないですぞおおおおお!!」
さらに最新の薄型感光版の恩恵を受けた謎テクニックで連続撮影3秒間隔という訳のわからない数字をたたき出していた。
感光版1枚の値段も洒落にならないので、これはもう執念が鬼と化し生み出す芸術なのかもしれない。
いや、芸術家に猛反発をくらうので訂正した方がよいか。
「くおおおおおおおお! この魅惑の三角地帯!! 後世に残すべき秘境!! むほほおおおおおおおおおおお!!」
そしてカークのカメコ魂は得体の知れない何かを憑依させ、そのでっぷりとした身体と重い蛇腹式カメラの重量を忘れたかのように膝を“くの字”に曲げ、超あおり画角でイチのビキニラインにレンズを向けシャッターを切った。
恐らく彼が史上初のローアングラーである
「バカ野郎!」
「むぎゅふう!?」
史上初のローアングラーは顔を真っ赤にしたイチに顔を踏みつけられるという制裁(人によってはご褒美)をくらい、頓珍漢な悲鳴をあげた。
「ひ、ひとの変な部分に、何か変な機械を向けるんじゃない!!」
さすがのイチもカークが猥褻な意図でレンズを向けていることくらいは理解したのだろう。
「その四角い板を、寄越せ」
イチは感光版を抱えたヌースに向き直ると手を出した。
その表情は冷たい。
「そ、そんなご無体ですぞ!」
「いいから、寄越せ」
「ひぃっ!」
ヌースも結局、イチの研ぎ澄まされたナイフのような眼光に怖気づき、持っている感光版を全て差し出さずにはいられなかった。
「イルハ」
「はい」
イチは無慈悲にも奪った薄型感光版をイルハに向けてフリスビーのように投げる。
1枚、2枚、3枚。
そしてイルハの神速の剣がクルクル回りながら飛来する感光版をすべて真っ二つにした。
「ぼひいいいいいいいいい!! か、感光版がああああああああああ!!」
「なんてことを!! なんてことを!! ぼひいいいいいいいい!!」
通常の感光版が1枚で大瓶の酒を買えるほど値段がした時代である。薄型はその倍以上の値段がする。
しかも絶世の美少女冒険者ふたりのあられもない姿を収めた感光版である。
カークとヌースの損失は計り知れず、血の涙を流すような叫び声がでるのは多少同情できてしまう。
「もうこの板は残ってないだろうな?」
しかしそんな悲しみの変態紳士達に同情するイチではない。
氷のような表情でカークとヌースにプレッシャーを与えるのである。
「ひいいいいい!! もう感光版は残ってませんから! せめてカメラ本体だけは!!」
下手に刺激してカメラそのものを破壊される恐れを感じたのだろう。
感光版を入れるためのホルダーと呼ばれる部分を開き、もう弾がないことを見せる。
降伏の姿勢を示したのだろう。
「………………もし嘘だったら、次はそのカメラに鉛弾をぶちこんでやるからな」
汚いものを見るような目でカークとヌースに釘を刺すような目線を投げると、イチはイルハとシャネルに「行くぞ」と声をかけて先を進むことにした。
「あーあ、せっかく宣伝写真になるかと思ったのにっす」
残念そうに唇を尖らせるシャネル。
「僕、こんな姿が残されたら騎士の威厳が………」
体を抱くようにして羞恥を見せるイルハ。
「さあ。さっさとスァンブルムを狩るぞ。帰って公衆浴場に行きたい」
恰好のせいで身体が冷えてきたらしいイチ。
各々が感じている事を口にし離れて行く背中をカークとヌースは消沈した目で追った。
しかし、その消沈の影の中にはまだ怪しい輝きが残っているのにイチ達は気づいていない。
「カーク氏、わかっていますな?」
「ええ、シャッターチャンスはあと1度切り。奇跡の1枚を収めぬままおめおめと帰るわけにはいきません!」
カークの最新型カメラには1枚だけ予備の感光版を収納するための隙間がホルダーの蓋につけられていた。
使い勝手がよいものではなく、一度予備の感光版を入れた切りほとんど存在を忘れていたようなものだが、それが今の彼らに希望を与えた。
「ええ! 歴史に残るような一枚さえ撮れれば命など惜しくはありませんぞ!」
こうして執念を燃やす変態ふたりはアーシバワル遺跡の薄闇の中、イチたちの尻をつけまわすのであった。